説明

内燃機関の燃焼騒音計測システムおよび燃焼騒音計測装置

【課題】
本発明は、内燃機関の燃焼騒音計測システムおよび燃焼騒音計測装置に関し、精度が高く、かつリアルタイム性が高い燃焼騒音計測を行なう。
【解決手段】
圧力センサによる圧力測定値が一定時間間隔でサンプリングされた時間サンプリングデータを生成する時間サンプリング部と、時間サンプリング部で得られた時間サンプリングデータに基づいて内燃機関内の圧力をオクターブ分析するオクターブ分析部と、オクターブ分析部で得られたオクターブ分析結果を、内燃機関が、同期パルス生成器により生成された同期パルスに基づいて検出された所定の回転角度に達するごとに順次に記憶する記憶部とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室の燃焼騒音を計測する燃焼騒音計測システムおよび燃焼騒音計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より内燃機関、例えば自動車用エンジンの内圧を計測することが行なわれている。通常、自動車用エンジンの出力軸にはリングギアが直結されており(例えば特許文献1参照)、そのリングギアに磁気センサを近接させ出力軸の回転に伴って回転するリングギアの歯数を計数すると出力軸の回転角度を検出することができる。そこで、従来は例えばこのリングギアを利用し、またエンジンに内圧計測用の圧力センサを設置し、リングギアに近接させた磁気センサにより生成されるパルスに同期させて圧力センサによる測定値をサンプリングすることで、回転角度に応じた圧力データを得ることが行なわれている。この圧力データを分析すると、例えばエンジンのある回転条件下で着火ミスが多いことなど、エンジンの様々な振る舞いを知ることができる。
【0003】
図1はベンチ上での実験装置の一例を示した図である。
【0004】
この図1には、ガソリンを燃料とするエンジン10が示されており、このエンジン10は、出力軸20を介してモータ30に接続されている。このモータ30は、エンジン10側に動力を与えるだけでなく、エンジン10側からの動力で発電するダイナモの役割りも兼ねており、エンジン10の負荷としても作用する。
【0005】
この出力軸20には、上述のリングギア11が直結されている。このリングギア11には、一周に193個の歯が形成されており、磁気センサ(図示せず)を近接させてこの歯の通過を検出すると、出力軸20が1回転するごとに193個のパルス信号(193[P/R])を得ることができる。
【0006】
また、更に高い角度分解能を得るために、スリット円盤12を取り付けることもある。このスリット円盤12は、一回転につき720パルスの信号と回転角度の原点を知るための一回転につき1パルスの信号を出力するものである。このスリット円盤12からの信号(720[P/R]のパルス信号)に同期した圧力データを生成すると、リングギア11を用いたときよりも高い角度分解能の圧力データを得ることができ、それだけ高精度の分析が可能となる。
【0007】
さらに、自動車用エンジンには、さらに欠け歯プレート(あるいはクランクシャフトタイミングローター)13と呼ばれる、出力軸に直結された部品が存在する。
【0008】
図2は欠け歯プレートの一例を示した図である。
【0009】
この欠け歯プレート13は、一周を36等分した各角度位置に1つずつの歯を持ち、ただし、2つだけ歯が欠けた形状をした円盤である。
【0010】
図1に戻って説明を続ける。
【0011】
この欠け歯プレート13の歯をピックアップした信号はECU(Engine Control Unit)14に入力される。
【0012】
このECU14は、エンジンの運転を総合的に電子制御するマイクロコントローラであり、その欠け歯プレート13からの信号は、例えば燃料噴射のタイミングや着火のタイミング等の制御に使われる。欠け歯プレート13が歯が欠けた形状をしているのは、回転角度の原点を知るためである。
【0013】
エンジン10から圧力データを得ようとしたとき、リングギア11やスリット円盤12に代えて、この欠け歯プレート13を利用してもよい。すなわち、この欠け歯プレート13からECU14に向かう信号配線からそのパルス信号を分岐させることで、回転角度に同期したパルス信号を得ることができる。
【0014】
ベンチ上に設置した実験装置の場合は、リングギア11を利用したりスリット円盤12を取り付けたりすることが可能であるが、エンジン10が実際の車に搭載された状態のまま圧力データを得ようとすると、エンジンルームにはエンジンを含む様々なパーツがエンジンルームを埋めつくすように密に配置されており、また出力軸が覆われていてボンネットを開いても出力軸に触れることができない事も多い。この場合、実際の車に搭載された状態のエンジンから圧力データを得ようとしても、リングギアを利用することやスリット円盤を取り付けることは不可能な場合も多い。
【0015】
この場合には、上記の欠け歯プレート13からECU14に向かう信号配線からそのパルス信号を分岐させることで、回転角度に同期したパルス信号を得ることができる。
【0016】
ここで、上記の通り、エンジンの圧力計測にあたっては、回転角度に同期した圧力データを得ることが必須である。回転角度に同期した圧力データを得るということは、低速回転ではゆっくりとサンプリングし、高速回転では高速にサンプリングし、加速や減速のときはそれに合わせてサンプリング間隔を徐々に変えていくことを意味している。
【0017】
ところで、圧力データから求められるエンジン特性の計測項目の1つに燃焼騒音がある(例えば特許文献2参照)。この燃焼騒音は、音に関する項目なので、回転角度に同期した圧力データをそのときの回転速度に基づいて時間的に等間隔でサンプリングされた圧力データに変換し、その時間的に等間隔の圧力データに基づいて燃焼騒音計測が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平9−317550号公報
【特許文献2】実開平5−8444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、回転角度に同期した圧力データを時間的に等間隔の圧力データに変換するには時間がかかるため燃焼騒音計測のリアルタイム性が損なわれ、また、圧力データの変換にあたり誤差が増えるため、燃焼騒音計測の精度も低下する。
【0020】
本発明は、上記事情に鑑み、精度が高く、かつリアルタイム性が高い燃焼騒音計測を行なうことが可能な、内燃機関の燃焼騒音計測システムおよび燃焼騒音計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成する本発明の内燃機関の燃焼騒音計測システムは、
内燃機関内の圧力を測定する圧力センサ、
内燃機関の回転角度に同期した同期パルスを生成する同期パルス生成器、および
圧力センサによる圧力測定値が一定時間間隔でサンプリングされた時間サンプリングデータを生成する時間サンプリング部と、その時間サンプリング部で得られた時間サンプリングデータに基づいて内燃機関内の圧力をオクターブ分析するオクターブ分析部と、オクターブ分析部で得られたオクターブ分析結果を、内燃機関が、前記同期パルス生成器により生成された同期パルスに基づいて検出された所定の回転角度に達するごとに順次に記憶する記憶部とを備えた燃焼騒音計測装置を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の内燃機関の燃焼騒音計測装置は、内燃機関内の圧力を測定する圧力センサによる圧力測定値を一定時間間隔でサンプリングすることで時間サンプリングデータを生成する時間サンプリング部と、その時間サンプリング部で得られた時間サンプリングデータに基づいて内燃機関内の圧力をオクターブ分析するオクターブ分析部と、オクターブ分析部で得られたオクターブ分析結果を、内燃機関が、内燃機関の回転角度に同期した同期パルスを生成する同期パルス生成器により生成された同期パルスに基づいて検出された所定の回転角度に達するごとに順次に記憶する記憶部とを備えたことを特徴とする。
【0023】
ここで本発明の内燃機関の燃焼騒音計測装置において、同期パルス生成器で生成された同期パルスに基づいて、圧力センサによる圧力測定値が内燃機関の一定回転角度間隔でサンプリングされた角度サンプリングデータを生成する角度サンプリング部をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、圧力データが一定時間間隔でサンプリングされた時間サンプリングデータを生成するものであるため、回転角度に同期した圧力データから一定時間間隔の圧力データに変換する必要がなく、高精度かつリアルタイム性の高い燃焼騒音計測が行なわれる。また、本発明は、圧力データに基づいてオクターブ分析を行ない、そのオクターブ分析の結果を、回転角度に同期した同期パルスに基づいて検出された所定の回転角度に達するごとに記憶するようにしたため、回転に同期したオクターブ分析結果が得られ、エンジンの回転条件と燃焼騒音との関係を詳細に調べることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ベンチ上での実験装置の一例を示した図である。
【図2】欠け歯プレートの一例を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態としての燃焼騒音計測装置を含む、本発明の一実施形態としての燃焼騒音計測システムを示すブロック図である。
【図4】オクターブ分析部の概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態としての燃焼騒音計測装置を含む、本発明の一実施形態としての燃焼騒音計測システムを示すブロック図である。
【0028】
この図3に示す燃焼騒音計測システム100は、圧力センサ200と、スリット円盤300と、燃焼騒音計測装置400とから構成されている。圧力センサ200は、自動車用のエンジン10(図1参照)のシリンダ内の圧力を検出するセンサである。この種の圧力センサとして、エンジン10の点火プラグに組み込まれたタイプの圧力センサも存在する。また、エンジンに穴を開け、圧力センサを、その検出面がシリンダ内壁と同一面を成すように挿入して固定することも行なわれている。ここでは、この圧力センサ200は、その具体的な形状等を問うものではなく、シリンダ内の圧力を必要な応答速度で検出することができる圧力センサであればよい。
【0029】
また、スリット円盤300は、本発明にいう同期パルス生成器の一例に相当し、エンジン10の出力軸1回転あたり720パルス(720[P/R])の同期パルス信号を出力する。
【0030】
この燃焼騒音計測システムを構成する燃焼騒音計測装置400は、圧力センサ200で得られるエンジン10の内部の圧力測定値をデジタルの圧力データに変換する2つのA/D変換器410,420を有する。
【0031】
そのうちの一方のA/D変換器410は、本発明にいう時間サンプリング部の一例に相当し、圧力センサ200で得られた圧力測定値がクロック生成部430で生成されたクロックに同期した、一定時間間隔の各サンプリングタイミングでサンプリングされて、圧力データが生成される。ここでは、この圧力データを、一定時間間隔でサンプリングされた圧力データであることをあらわすため、時間サンプリングデータと称する。この時間サンプリングデータは後述するオクターブ分析部440に入力される。
【0032】
また、もう一方のA/D変換器420は、本発明にいう角度サンプリング部の一例に相当し、スリット円盤300から出力されてきた、エンジン10の出力軸の回転角度を表わす同期パルスに基づいて、一定回転角度ごと(ここでは0.5度ごと)の各サンプリングタイミングでサンプリングされて、圧力データが生成される。ここでは、この圧力データを、一定回転角度ごとにサンプリングされた圧力データであることをあらわすため、角度サンプリングデータと称する。このA/D変換器420で生成された角度サンプリングデータは第2のメモリ450に格納される。
【0033】
図4は、オクターブ分析部440の概要を示すブロック図である。
【0034】
このオクターブ分析部440は、複数の1/3オクターブバンドパスフィルタ440a,440b,440c,・・・,440nを有する。これらの複数の1/3オクターブバンドパスフィルタ440a,440b,440c,・・・,440nは、入力されてきた時間サンプリングデータに基づいて、圧力測定値の、順次隣接する1/3オクターブ帯域の周波数成分を抽出するバンドパスフィルタである。このオクターブ分析部440では、これら複数の1/3オクターブバンドパスフィルタ440a,440b,440c,・・・,440nにより、本発明にいうオクターブ分析結果の一例としての、圧力測定値の可聴周波数帯域内であって1/3オクターブごとの離散値からなる周波数分布が求められる。
【0035】
尚、ここでは、1/3オクターブバンドパスフィルタ440a,440b,440c,・・・,440nにより1/3オクターブごとの周波数成分が算出されるが、必要とされる精度等に応じて、1/3オクターブバンドパスフィルタに代えて、1/Nオクターブバンドパスフィルタ(Nは任意の正の整数)を採用してもよい。
【0036】
図3に戻って説明を続ける。
【0037】
オクターブ分析部440では、一定時間幅の時間窓が順次更新されながら、その時間窓内の時間サンプリングデータに基づく周波数分布が繰り返し算出される。この周波数分布は、角度検出部470で検出される、ある一定回転角度(例えば0度)ごとに、第1のメモリ460に格納される。
【0038】
ここで、この角度検出部470は、スリット円盤300からのパルス信号に基づいて、エンジン10の出力軸の現在の回転角度を検出する役割りを担っている。
【0039】
第1のメモリ460に格納された周波数分布、および第2のメモリ450に格納された角度サンプリングデータは、演算部480に入力され、エンジン10の挙動に関する様々な解析、例えば、エンジンの回転速度や加減速と周波数分布との関係の解析、角度サンプリングデータに基づく着火ミスの解析やIMEP(平均有効圧)の解析、着火ミスやIMEPと周波数分布との関係の解析などが行なわれる。
【0040】
本実施形態では、以上のようにして、圧力センサ200で得られた圧力測定値をA/D変換器410で一定時間ごとにサンプリングして時間サンプリングデータを生成しているため、A/D変換器420で得られた角度サンプリングデータからの演算により時間サンプリングデータを算出する場合と比べ、高速処理が可能であり、リアルタイム性が向上する。また、角度サンプリングデータから時間サンプリングデータを算出する際の演算に伴う誤差の発生も回避され、高精度の分析が可能である。さらに、本実施形態では、オクターブ分析部440で得られた周波数分布を、エンジン10のある一定回転角度ごとに第1のメモリ460に格納して演算部480での解析に供するようにしたため、回転速度や加減速と燃焼騒音との関係を詳細に解析することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 エンジン
11 リングギア
12,300 スリット円盤
13 欠け歯プレート
14 ECU
20 出力軸
30 モータ
100 燃焼騒音計測システム
200 圧力センサ
400 燃焼騒音計測装置
410,420 A/D変換器
430 クロック生成部
440 オクターブ分析部
440a,440b,440c,440n 1/3オクターブバンドパスフィルタ
450 第2のメモリ
460 第1のメモリ
470 角度検出部
480 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関内の圧力を測定する圧力センサ、
前記内燃機関の回転角度に同期した同期パルスを生成する同期パルス生成器、および
前記圧力センサによる圧力測定値が一定時間間隔でサンプリングされた時間サンプリングデータを生成する時間サンプリング部と、前記時間サンプリング部で得られた時間サンプリングデータに基づいて前記内燃機関内の圧力をオクターブ分析するオクターブ分析部と、前記オクターブ分析部で得られたオクターブ分析結果を、前記内燃機関が、前記同期パルス生成器により生成された同期パルスに基づいて検出された所定の回転角度に達するごとに順次に記憶する記憶部とを備えた燃焼騒音計測装置を有することを特徴とする内燃機関の燃焼騒音計測システム。
【請求項2】
内燃機関内の圧力を測定する圧力センサによる圧力測定値を一定時間間隔でサンプリングすることで時間サンプリングデータを生成する時間サンプリング部と、前記時間サンプリング部で得られた時間サンプリングデータに基づいて前記内燃機関内の圧力をオクターブ分析するオクターブ分析部と、前記オクターブ分析部で得られたオクターブ分析結果を、前記内燃機関が、該内燃機関の回転角度に同期した同期パルスを生成する同期パルス生成器により生成された同期パルスに基づいて検出された所定の回転角度に達するごとに順次に記憶する記憶部とを備えたことを特徴とする内燃機関の燃焼騒音計測装置。
【請求項3】
前記同期パルス生成器で生成された同期パルスに基づいて、前記圧力センサによる圧力測定値が前記内燃機関の一定回転角度間隔でサンプリングされた角度サンプリングデータを生成する角度サンプリング部をさらに備えたことを特徴とする請求項2記載の内燃機関の燃焼騒音計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−92455(P2013−92455A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235029(P2011−235029)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】