説明

内燃機関を制動する方法

本発明は、点火不能な液体を用いて内燃機関を制動する方法に関し、点火不能な液体を内燃機関の燃焼室内に噴射し、この噴射を燃焼チャンバ内の最高圧の時点頃に実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室と、点火不能な液体とを用いて内燃機関を制動する方法に関する。
【0002】
一般的な従来技術においては、例えば外部から適当なブレーキシステムにより内燃機関を制動する、内燃機関のためのブレーキシステムが公知である。
【0003】
内燃機関の制動は、機械的又は熱力学的な補助手段によって可能である。例えば、摩擦ブレーキがパワートレーンに配置され、内燃機関を摩擦ブレーキ装置内の発熱により、必要なときに制動することができる。択一的には、内燃機関を制動するためにやはり適した渦電流ブレーキが公知である。
【0004】
刊行物「DE102006059080A1」において、内燃機関を備える車両を制動する装置及び対応する方法が公知である。この場合、制動の制御は、特に走行ペダルによりなされる。走行ペダルの、所望の制動力につながる位置は、制動の強さを制御する。制動のために、単独の措置又はこれらの措置の組み合わせが提案される。これらの措置として、点火の停止、燃料調量装置の停止、給気圧の変更、弁及びフラップの制御、リターダの制御、又は内燃機関に接続されるその他の消費器の制御が挙げられる。特に、この種の措置の組み合わせにより、連続的な制動が可能である。
【0005】
さらに、「GB238942A」において、内燃機関に水を供給するための装置が公知である。制動のため、水を例えば冷却器から取り出し、内燃機関の吸気管内に供給する。水が吸気管内に供給される前又はその間、水の微細噴霧を行う。択一的には、やはり、例えば冷却回路から取り出される水蒸気が使用されてもよい。対応する装置を含むこの種の方法は、一方では、出力向上及び最適化を同時に図りつつ、内燃機関の燃焼室内のカーボンデポジットを除去するために役立つ。他方では、対応する装置を含むこの種の方法は、内燃機関を制動するために役立つ。内燃機関の制動は、この場合、スロットルバルブの閉鎖時になされ、水、水蒸気又は霧化された水が、内燃機関の吸気管内に供給される。
【0006】
刊行物「AT107194」には、4サイクルエンジンの吸気行程中あるいは2サイクルエンジンの吸気期間中に、水をシリンダ室内に供給する方法が記載されている。この場合、水は、特に燃料空気混合物の過熱及び予着火を回避するために役立つ。その結果、燃料空気混合物の圧縮度を高めることが可能である。さらに、作業行程中、熱がシリンダから逃げず、爆発の力を完全に利用可能であることを明らかにしている。これにより、全体としてより大きな出力が達成される。さらに、この装置では、外部への熱の移動を防止する断熱手段が設けられている。全体として、燃料空気混合物は、僅かな不純物で負荷されている。このことは、出力向上につながる。この出力向上は、燃料空気混合物のより完全かつより急速な爆発が生じることに起因している。
【0007】
さらに、刊行物「CH250466」において、作業媒体への水噴射により冷却を行うターボ圧縮機のための装置が公知である。この場合、圧縮すべき作業媒体の一部に冷却水が供給される。この供給は、噴霧による作業媒体への噴射によってなされる。この場合、水は、作業中かなりの温度に達するターボ圧縮機を冷却するために役立つ。
【0008】
刊行物「DE10062835A1」は、蒸気のシーケンシャル噴射を行うピストン型内燃機関を開示している。この場合、エンジンは、熱損失が減少すると同時に、機械の効率が向上するように改良されるべきである。このことは、エンジンの燃焼室壁が熱絶縁性にコーティングされることにより達成される。同時に、この絶縁性の層は、エネルギのための蓄熱器として役立つ。このエネルギは、周期的に噴射される水蒸気の圧力上昇のために使用される。特に、この刊行物には、複数のサイクルが水蒸気噴射とともに行われ、その間、機械が蒸気機関として作業する旨、記載されている。
【0009】
刊行物「DE69209636T2」において、水噴射を行うディーゼルエンジンが公知である。この刊行物は、燃焼室内への燃料水混合物の供給を開示している。燃料水混合物は、内燃機関内の窒素酸化物の減少に至る。さらに、この刊行物には、燃料と水とを一緒に供給可能な1つの共通の燃料噴射弁が記載されている。
【0010】
さらに、従来技術において、反圧ブレーキ、例えばリッゲンバッハ・カウンタープレッシャーブレーキ(Riggenbach−Gegendruckbremse)が公知である。反圧ブレーキは、動的なブレーキとして蒸気機関車において作業し、蒸気機関車をその蒸気運転される駆動シリンダ内で制動し、こうして従来慣用のホイールブレーキ装置の摩耗及び過熱を防止し、永続的に高い制動力を可能とする。この場合、出力運転から制動運転への制御の切換時、開口が、より清浄な外気を吸い込むために開放され、かつ蒸気運転される駆動シリンダ内の吸気中への水の噴射と組み合わされる。水の供給は、蒸気運転される駆動シリンダを過熱から保護するために役立つ。さらに、制御弁が、水と混合された空気を蒸気運転される駆動シリンダに供給する際に発生する反圧を制御するために使用される。これは、蒸気運転される駆動シリンダの高い負荷に基づいて突然の爆発が起こり得るからである。
【0011】
蒸気運転される駆動シリンダ内でのピストン運動時、蒸気空気混合物が圧縮されると同時に加熱され、その後、圧縮され加熱された状態で、蒸気運転される駆動シリンダを後にする。このことは、急速な膨張を引き起こす。この膨張は、リッゲンバッハ・カウンタプレッシャブレーキでは消音器により補償される。全体として、蒸気機関は圧縮機として運転される。作業プロセス中、蒸気空気混合物は圧縮され、加熱され、続いて適当な排気弁によりシリンダ内室から放出される。エネルギの最大の部分は、この場合、蒸気空気混合物の圧縮により変換される。蒸気空気混合物内の噴射された水は、特に、蒸気運転される駆動シリンダ内の温度を制限するために役立つ。温度は、制動プロセス、すなわち空気の圧縮中、高温になる。これにより、特に潤滑用のオイルが燃焼する場合がある。
【0012】
これらの従来技術から出発して、外部からパワートレーン、例えばクランク軸又は駆動軸に対して影響を及ぼすことなく、さらには過負荷、例えば内燃機関の内室の付加的な圧力負荷による過負荷を諦めることなく、内燃機関を低摩耗で制動する解決策が希求される。
【0013】
本発明の課題は、内燃機関を内的に高効率に制動することを可能にして、最大の制動作用を内燃機関内に形成する方法を提供することである。
【0014】
この課題は、請求項1に係る方法、すなわち、点火不能な液体を燃焼室内に直接噴射する、燃焼室及び点火不能な液体を用いて内燃機関を制動する方法において、前記点火不能な液体を、内燃機関の出力運転時であれば燃料が供給されるかつ/又は点火される時点において噴射することにより解決される。好ましくは、前記内燃機関が、燃焼室を備えるガスタービンであり、前記点火不能な液体を前記ガスタービンの燃焼室内に噴射する。好ましくは、前記内燃機関が、燃焼室を備えるピストン機械であり、前記点火不能な液体を前記ピストン機械の燃焼室内に噴射する。好ましくは、前記ピストン機械がロータリピストン機械であり、ロータリピストンの回転運動中、上死点としての最狭小位置の直前において、最狭小位置において、かつ/又は最狭小位置の後において、前記点火不能な液体を前記燃焼室内に噴射する。好ましくは、前記ピストン機械が往復動ピストン機械であり、ピストンの線形運動中、上死点の直前において、上死点において、かつ/又は上死点の後において、前記点火不能な液体を前記燃焼室内に噴射する。好ましくは、上死点前5°、特に0.5°から、上死点後30°、特に15°の範囲で、有利には上死点において、前記点火不能な液体の噴射を開始する。好ましくは、前記点火不能な液体の噴射を下死点前に終了する。好ましくは、前記往復動ピストン機械が、2サイクルエンジンとして2つのサイクルを備え、作業行程を有する第1のサイクルが、上死点から下死点又は排気口の開放まで延びており、前記点火不能な液体を第1のサイクルの前、第1のサイクルの開始時かつ/又は第1のサイクル中に噴射する。好ましくは、前記ピストン機械が、4サイクルエンジンとして4つのサイクルを備え、第3のサイクルが、上死点から下死点又は排気口の開放まで作業行程を有して延びており、前記点火不能な液体を第3のサイクルの前、第3のサイクルの開始時かつ/又は第3のサイクル中に噴射する。好ましくは、前記点火不能な液体を噴射中霧化する。好ましくは、燃料噴射システムを備える内燃機関において、前記点火不能な液体を該燃料噴射システムを介して噴射する。好ましくは、燃料噴射システム及び第2の噴射システムを備える内燃機関において、前記点火不能な液体を該第2の噴射システムを介して噴射する。好ましくは、前記点火不能な液体として水を噴射する。
【0015】
点火不能な液体を燃焼室内に直接噴射し、この噴射を燃焼チャンバ内の圧力が最高である時点頃に行うことにより、内燃機関内の内的な制動作用が、エネルギ伝達により形成される。作動中の、しかし、もはや適当な燃料供給を伴う出力運転で動作していない内燃機関からのエネルギが、点火不能な液体の液状の凝集状態からガス状の凝集状態への相転移のために変換される。特に、噴射は直接燃焼チャンバ内になされる。その結果、供給と、引き続いての凝集状態の変化とは、最高に効率的に、正確なタイミングで、かつ正しい時点において実施される。点火不能な液体を燃焼室内に直接噴射するために工面されなければならない圧力は、燃焼室内を支配する圧力より高くなければならない。その結果、点火不能な液体は、燃焼室内に直接供給可能である。
【0016】
内燃機関は、点火不能な液体を供給する前、燃料で運転され、適当に熱エネルギ、つまり、燃料空気混合物の燃焼の熱エネルギから、内燃機関の出力運転中、機械的なエネルギを発生している。
【0017】
燃料の代わりに点火不能な液体を供給することにより、燃焼室内の圧縮後の、燃焼室内を支配する高い温度に基づいて、液状の凝集状態からガス状の凝集状態への点火不能な液体の相転移がなされる。液状からガス状へのこの相転移のためにエネルギが必要であり、このエネルギは、内燃機関内の系から、熱導出の形態で奪われる。これには、燃焼室内のガス混合物の温度低下が伴い、この温度低下は、ガス混合物の排気の際、エネルギの導出に至る。これにより、内燃機関は制動される。
【0018】
点火不能な液体の不点火性は、周囲及び状態に関する。例えば、自己着火不能な燃料が、点火の使用なしに、蒸発のために必要な相応のエネルギを内燃機関の系から奪うために使用されてもよい。内燃機関内のガス中に存在する、こうして蒸発させられた点火不能な液体は、内燃機関のガス交換あるいはガス切換の際に内燃機関の内部から除去され、これにより、蒸発プロセスのために必要なエネルギは、内燃機関の系から奪われる。
【0019】
液体は気化中温度上昇を被らないので、混合物全体の温度、ひいては圧力は低下する。これは、このいわば静的なプロセスの間、内燃機関の内室容積が不変であるか、変化しても僅かにすぎないからである。温度低下及び圧力低下は、その際、付加的なマス、つまり供給される点火不能な液体の供給により惹起される小さな圧力上昇を凌駕する。内燃機関内の圧力レベルの低下は、先行の圧縮時の体積変化作業に比べて小さな、膨張時の体積変化作業を惹起する。
【0020】
これにより、内燃機関の総収支は、内燃機関の全作業プロセスにわたってマイナスである。これは、機械的な仕事が熱的な仕事(気化熱)に変換され、熱的な仕事が、内燃機関内に存在するガスの交換により周囲に導出されるからである。
【0021】
点火不能な液体をほぼ、内燃機関の出力運転時に燃料が供給される(内的な混合物形成を行う機械、例えばディーゼルエンジン又はディーゼルガスタービンの場合)かつ/又は点火される(外的な混合物形成を行う機械、例えばオットーエンジンの場合)時点において噴射すると、点火不能な液体の噴射のための最適な時点が選択される。内燃機関は、燃料が正確に規定された時点で供給されるかつ/又は点火されるとき、最適に出力運転において作業する。この時点は、有利には、点火不能な液体の供給のためにも選択される。このことは、最適なエネルギ吸収が、一方では、液状の状態からガス状の状態への相転移中のエネルギ吸収によりなされ、他方では、温度上昇の形態の、ガス状の状態で存在する点火不能な液体によるエネルギ吸収によりなされることを保証する。
【0022】
内燃機関が、燃焼室を備えるガスタービンであり、点火不能な液体をガスタービンの燃焼室内に噴射することにより、ガスタービンは、点火不能な液体の適当な噴射により制動可能である。この態様では、エネルギが、ガスタービンの燃焼室内の圧縮された作業媒体から、液状の状態からガス状の状態への相転移のために使用されて、タービンから全体的にエネルギが奪われる。これは、この態様でも、今やガス状の点火不能な液体が、系全体からガス交換中に抜かれるからである。
【0023】
内燃機関が、燃焼室を備えるピストン機械であり、点火不能な液体をピストン機械の燃焼室内に噴射すると、ピストン機械は、点火不能な液体の噴射により、相応に省資源かつ低摩擦に制動可能である。ピストン機械の場合、特に、少なくとも排気口を又は付加的に吸気口も制御する弁が設けられている。
【0024】
ピストン機械がロータリピストン機械であり、ロータリピストンの回転運動中、上死点としての最狭小位置の直前において、最狭小位置において、かつ/又は有利には最狭小位置の直後において、点火不能な液体を燃焼室内に噴射することにより、点火不能な液体の供給の時点は、ピストン機械の制動が、供給の自由に選択可能な時点に比べて、ロータリピストン機械の摩耗及び長寿命に関して最適化されるように制限される。
【0025】
ピストン機械が往復動ピストン機械であり、ピストンの線形運動あるいは直線運動中、上死点の直前において、上死点において、かつ/又は上死点の後において、点火不能な液体を燃焼室内に噴射すると、噴射の時点はさらに制限される。このことは、点火不能な液体の噴射による制動の効果を最適化する。
【0026】
点火不能な液体の噴射は、ピストン機械の場合、高圧又は最高圧の領域において、少なくとも十分に膨張の領域にかかるようになされ、圧縮の領域ではなされない。全体として、点火不能な液体の噴射は、付加的なモーメントが加えられるのではなく、存在するガス力、及びこのガス力から生じるモーメントが減じられるので、負荷を軽減するように作用する。
【0027】
点火不能な液体の噴射の時点をさらに最適化するために、上死点前5°、特に0.5°から、上死点後30°、特に15°の範囲で、有利には上死点において、供給を開始する。これにより、この範囲が最適かつ最大のエネルギ吸収を保証し、内燃機関を付加的なモーメントで負荷するどころか、負荷を軽減するので、制動の最大値が保証される。
【0028】
ガス状の状態に移行した点火不能な液体の液化を阻止するために、点火不能な液体の噴射を下死点前に終了する。過飽和は、点火不能な液体の噴射が下死点の十分手前で終了して、点火不能な液体をガス状の状態にエネルギの吸収下で変換させるために十分な時間があるとき、回避される。
【0029】
往復動ピストン機械が、2サイクルエンジンとして2つのサイクルを備え、作業行程を有する第1のサイクルが、上死点から下死点又は排気弁の開放まで延びており、点火不能な液体を第1のサイクルの前、第1のサイクルの開始時かつ/又は第1のサイクル中に噴射することにより、最も簡単に、2サイクルエンジンとして構成されている往復動ピストン機械が制動される。相応に、噴射プロセスは、正確に計画可能かつ制御可能である。
【0030】
相応に、ピストン機械が、4サイクルエンジンとして4つのサイクルを備え、第3のサイクルが、上死点から下死点まで作業行程を有して延びており、点火不能な液体を第3のサイクルの前、第3のサイクルの開始時かつ/又は第3のサイクル中に噴射すると、点火不能な液体を燃焼室内に噴射することにより4サイクルエンジンを制動する可能性が提供される。
【0031】
点火不能な液体を霧化することにより、凝集状態を液状からガス状に変化させるために、適当なエネルギをより急速に吸収可能な可及的大きな表面が形成される。これにより、単位時間当たりより多くのエネルギを伝達可能である。これにより、気化プロセス、及びこれに由来するエネルギ伝達は、より急速に進行する。
【0032】
燃料噴射システムを備える内燃機関において、点火不能な液体を燃料噴射システムを介して噴射する場合、既存の燃料噴射システムが、点火不能な液体を噴射するために使用される。この場合、燃料と点火不能な液体とは、唯一のシステムを介して、相前後して、出力運転及び制動運転に応じて噴射可能である。燃料と点火不能な液体とは、同じ時点で供給されず、選択的にのみ内燃機関のそれぞれ異なる運転形態において供給される。その結果、必要に応じて、内燃機関により駆動力が発生されるか、又は内燃機関の制動が実施される。
【0033】
燃料噴射システム及び第2の噴射システムを備える内燃機関において、点火不能な液体を第2の噴射システムを介して噴射することにより、一方では、内燃機関を速やかに出力運転から制動に切り換える可能性が提供され、他方では、点火不能な液体が燃料噴射システムに悪影響を及ぼすことが回避される。特に、点火不能な液体は、燃料とは異なる材料特性を有しており、共用される噴射システムを損傷する場合がある。このような損傷は、2つの独立した噴射系を使用することにより回避される。
【0034】
点火不能な液体として水を噴射することにより、上述の方法のために最良に適した液体が使用される。水は、観察される圧力領域及び温度領域において、極めて高い蒸発エンタルピーを有する。さらに、水は、処理、取扱及び技術的なプロセスにおける使用において十分に知られており、非毒性であり、環境を危険に曝す恐れがなく、かつ加圧されたプロセスにおける水噴射において実証されている。脱塩水の使用が有利であり、脱塩水の使用によって、析出は回避される。
【0035】
以下に、船、例えば世界で使用される商船の約95%に設けられている2サイクルディーゼルエンジンを備える大型の貨物船を例に、制動の制御方法を可能な方法経過として説明する。
【0036】
この船は、低速機関として構成され大きな行程容積を備える2サイクルディーゼルエンジンを備える。この船は、運転状態にあって、航行運転中にある。すなわち、2サイクルディーゼルエンジンは、出力運転で運転されている。
【0037】
この船を今、そのフルの巡航速度から停止状態にもたらすものとする。このためには長い停止距離が必要である。この長い停止距離は、世界の海上の、増加の一途をたどる交通量に基づいて、かなりの安全上のリスクとなっている。長い停止距離は、相応の積荷及び高い巡航速度を有する船舶の大きな質量に起因する。これにより、フルの航行時の船の高い運動エネルギが生じる。減速は、専ら水中の船体及びプロペラの抵抗によってなされる。
【0038】
そこで、燃料の代わりに点火不能の液体を供給することによって船を制動するために、2サイクルディーゼルエンジンを、燃料としての船舶用ディーゼル燃料の適当な供給を伴う出力運転の運転形態から、水の適当な供給を伴う制動運転の状態に切り換える。今や、船舶用ディーゼル燃料の代わりに、水が燃焼室の領域内に、例えばそれぞれのシリンダの上死点において供給される。その結果、水は、高い燃焼室温度に基づいてガス状の状態に移行して、排気時にこの系からエネルギを奪う。
【0039】
船のプロペラが駆動軸を介して直接2サイクルディーゼルエンジンのクランク軸に結合されているので、後流により本来さらに駆動されるプロペラは、今や、個々のピストンの制動によりやはり制動される。これにより、後流による比較的高い回転数でのプロペラの連れ回りは防止され、むしろ、プロペラは、後流内で船全体の制動のために利用される。
【0040】
元々は、エンジンの駆動機構の内部摩擦のみが、プロペラの高い回転数に反作用していたにすぎず、特に、軸案内部の軸受内の摩擦が、小さな、取るに足らない制動を提供していたにすぎない。
【0041】
シリンダ室内のピストンの上側に供給される燃焼不能かつ/又は点火不能な液体は、燃焼室内の高い温度に基づいて気化する。このとき、圧の高まった空気から熱エネルギが奪われる。この熱エネルギは、噴射された液体の、液状と蒸気状との間での相転移のために使用される。特に、この制御方法では、燃焼不能かつ/又は点火不能な液体を上死点においてかつ/又は上死点の直後においてシリンダ室内に供給することが必要である。ピストンの直線運動のこの位相、すなわち上死点における転向点において、圧力レベルは最高である。この極めて高い圧力レベルで熱を燃料空気混合物の燃焼という形で供給する代わりに、この位置で、燃焼不能かつ/又は点火不能な液体を、高い圧力レベルにある空気体積からエネルギを奪うために噴射する。
【0042】
全体として、上死点通過後の空気の膨張プロセス(作業サイクル)におけるエネルギの抜き取りにより、熱が奪われる。この熱は、液状の状態からガス状の状態への相転移の際の、点火不能な液体の衝撃的な気化のために使用される。膨張位相中、空気からガス相において吸収されたエネルギは、圧力レベルの低下を生じ、排気により、ピストン機械内の機械的かつ熱的なエネルギの減少を生じる。特に、気化プロセス中、混合物全体の温度は低下し、この温度低下の結果、混合物全体の圧力は低下する。吸収され熱エネルギに転換された機械的な仕事は、続いて、ガス交換によりシリンダから排ガス系に導出される。これにより、このエネルギは、系全体から奪われ、全体として、エネルギ転換による2サイクルディーゼルエンジン内の制動作用を達成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火不能な液体を燃焼室内に直接噴射する、燃焼室及び点火不能な液体を用いて内燃機関を制動する方法において、前記点火不能な液体を、内燃機関の出力運転時であれば燃料が供給されるかつ/又は点火される時点において噴射することを特徴とする、燃焼室及び点火不能な液体を用いて内燃機関を制動する方法。
【請求項2】
前記内燃機関が、燃焼室を備えるガスタービンであり、前記点火不能な液体を前記ガスタービンの燃焼室内に噴射する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記内燃機関が、燃焼室を備えるピストン機械であり、前記点火不能な液体を前記ピストン機械の燃焼室内に噴射する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ピストン機械がロータリピストン機械であり、ロータリピストンの回転運動中、上死点としての最狭小位置の直前において、最狭小位置において、かつ/又は最狭小位置の後において、前記点火不能な液体を前記燃焼室内に噴射する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ピストン機械が往復動ピストン機械であり、ピストンの線形運動中、上死点の直前において、上死点において、かつ/又は上死点の後において、前記点火不能な液体を前記燃焼室内に噴射する、請求項3記載の方法。
【請求項6】
上死点前5°、特に0.5°から、上死点後30°、特に15°の範囲で、有利には上死点において、前記点火不能な液体の噴射を開始する、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
前記点火不能な液体の噴射を下死点前に終了する、請求項4から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記往復動ピストン機械が、2サイクルエンジンとして2つのサイクルを備え、作業行程を有する第1のサイクルが、上死点から下死点又は排気口の開放まで延びており、前記点火不能な液体を第1のサイクルの前、第1のサイクルの開始時かつ/又は第1のサイクル中に噴射する、請求項5から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ピストン機械が、4サイクルエンジンとして4つのサイクルを備え、第3のサイクルが、上死点から下死点又は排気口の開放まで作業行程を有して延びており、前記点火不能な液体を第3のサイクルの前、第3のサイクルの開始時かつ/又は第3のサイクル中に噴射する、請求項4から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記点火不能な液体を噴射中霧化する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
燃料噴射システムを備える内燃機関において、前記点火不能な液体を該燃料噴射システムを介して噴射する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
燃料噴射システム及び第2の噴射システムを備える内燃機関において、前記点火不能な液体を該第2の噴射システムを介して噴射する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記点火不能な液体として水を噴射する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2011−525581(P2011−525581A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515106(P2011−515106)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【国際出願番号】PCT/DE2009/075029
【国際公開番号】WO2009/155914
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(510339588)トゥーテック イノヴェイション ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】TuTech Innovation GmbH
【住所又は居所原語表記】Harburger Schlossstrasse 6−12, D−21079 Hamburg, Germany
【出願人】(510339599)
【氏名又は名称原語表記】Technische Universitaet Hamburg−Harburg
【住所又は居所原語表記】Schwarzenbergstrasse 95, D−21073 Hamburg, Germany
【Fターム(参考)】