説明

内燃機関停止装置

【課題】従来技術では、ピニオンギヤとリングギヤが噛み合う際のエンジン回転数及びピニオン回転数は成り行きとなる。また、慣性回転中のエンジン回転挙動は、常に同じ挙動を示すことはなく、運転者のブレーキ踏力や補機類の動作状態などの影響から、エンジン負荷は毎回異なる。当然のことながら、経時劣化に伴うエンジン回転挙動の変化もばらつき要因となることから、噛み合い時の騒音ばらつきが生じる。
【解決手段】本発明はアイドルストップ機能を有する車両の制御装置において、慣性回転中のエンジン回転挙動を記録するエンジン回転挙動記録装置と、エンジン回転挙動記録の情報に基づき将来のエンジン回転挙動を予測することができるエンジン回転予測装置とを備え、エンジン回転予測装置が予測した噛み込みまでの所要時間から、スタータモータの駆動タイミング及び停止タイミングとピニオンギヤの飛び込みタイミングを演算できることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギ資源の節約と環境保全に配慮した燃料消費節約型自動車に係る。
【背景技術】
【0002】
エネルギ資源の節約と環境保全のために、自動車を運転中にエンジンの一時停止が許容される所定条件が成立したとき、アイドルストップさせることが考えられ、また一部の自動車において実施されている。このアイドルストップに対応した自動車において、車両が停止する前の減速状態(以下、コースティング領域)から、アイドルストップを行えるシステムが存在する。このシステムでは、燃料カットを開始した時点から、エンジンが完全に停止するまでの間に、運転者の意思による再発進要求又は再始動要求があった場合、即座に始動させる必要があり、エンジン慣性回転期間中にスタータモータを調速通電し、スタータモータと同軸上に備わるピニオンギヤの回転速度がエンジンに備わるリングギヤの回転速度と同期した時点で、ピニオンギヤをリングギヤに噛み込ませ、スタータ駆動によるエンジンの再始動を行う技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
上述の技術における大きなシステム課題は、騒音低減と応答性確保が挙げられる。詳しくは、ピニオンギヤとリングギヤが噛み合う際に発生する衝撃に伴う騒音の低減、及びピニオンギヤとリングギヤが噛み合った以降、エンジンの回転脈動に伴い、スタータモータが連れ回される際に発生する騒音も商品性の観点から低減させる必要がある。また、エンジンが慣性回転中且つ燃料噴射の再開による再始動が困難となる極低回転領域において、運転者の意思により、再発進要求又は再始動要求が発生した場合、直ちにスタータ駆動を行い、エンジンの始動性、または、車両の発進性などの応答性を確保する必要があるが、この騒音低減と応答性の確保という課題は、一方の特性を改善させるともう一方の特性が悪化するという所謂、トレードオフの関係を持ち、また、双方の特性は、ピニオンギヤとリングギヤを噛み合わせる際の回転数の絶対値に依存した性質を持つ(噛み合わせ時のエンジン回転数が高ければ応答性は良くなるが騒音低減が難しく、低回転での噛み合わせは、騒音低減に効果はあるものの応答性の確保が難しい)。このため、ピニオンギヤとリングギヤを噛み合わせる際のエンジン回転数は、各々の車両に応じて適合した上で、決定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−106825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術では、燃料カット実行後、慣性回転となったエンジン回転数が所定の回転数以下となった場合、もしくは、燃料カット実行後所定の時間経過を待ってからスタータモータを通電し、その後、エンジン回転数とピニオン回転数の差回転数が所定の範囲内になった場合などの条件により、ピニオンギヤとリングギヤを噛み合せるシーケンスとなっていることが一般的であるため、ピニオンギヤとリングギヤが噛み合う際のエンジン回転数及びピニオン回転数は成り行きとなる。このため、実際にピニオンギヤとリングギヤが噛み合う際の回転数は、保障されない。
【0006】
また、慣性回転中のエンジン回転挙動は、常に同じ挙動を示すことはなく、運転者のブレーキ踏力や補機類の動作状態などの影響から、エンジン負荷は毎回異なる。当然のことながら、経時劣化に伴うエンジン回転挙動の変化もばらつき要因となる。
【0007】
本発明は、燃料消費節約型自動車に於ける上記の課題に鑑み、この点に関し改良された燃料消費節約型自動車を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明はアイドルストップ機能を有する車両の制御装置において、所定のアイドルストップ条件が成立し、燃料カットを開始した時点から、エンジンが停止するまでのエンジン回転挙動を監視・記憶するエンジン回転挙動記録装置を備え、前記エンジン回転挙動記録装置が監視・記憶した過去のエンジン情報に基づき、スタータモータの駆動時期及びピニオンの飛び出し時期を可変にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両減速状態からアイドルストップを行うシステムにおいて、エンジン回転挙動に基づき、スタータモータの通電開始及び通電停止タイミングとピニオンギヤの飛び出しタイミングを可変とすることで、予め設定したエンジン回転数(ピニオン回転数)にて、ピニオンギヤとリングギヤの連結をさせることができ、外乱による制御ばらつきを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】アイドルストップシステムの機能構成図。
【図2】アイドルストップシステムの機能構成図2。
【図3】本発明における実施例のフローチャート。
【図4】エンジン回転挙動記録装置のタイミングチャート。
【図5】エンジン回転挙動記録装置のフローチャート。
【図6】エンジン回転予測装置における加速予測時のタイミングチャート。
【図7】エンジン回転予測装置における減速予測時のタイミングチャート。
【図8】エンジン回転予測装置のフローチャート。
【図9】スタータ制御シーケンスの説明図。
【図10】スタータ制御タイミング算出時のフローチャート。
【図11】スタータ制御のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、アイドルストップシステムの機能構成図である。
【0013】
スタータ本体(101)は、スタータモータ(101a)、マグネットスイッチ(101b)、シフトレバー(101c)、ピニオンクラッチ(101d)、ピニオンギヤ(101e)などにより構成されており、更にピニオンギヤの回転速度を検出するピニオン回転センサ(102)が備わる。
【0014】
スタータモータ(101a)、マグネットスイッチ(101b)は、ECU(Engine Control Unit)(103)から出力される信号に基づき、独立した電源リレー(スタータモータリレー104a、ピニオンリレー104b)を制御することでそれぞれ独立した駆動が可能となっている。スタータモータ(101a)とピニオンギヤ(101d)は減速機構(図示なし)を介して同軸上に連結されており、スタータモータ(101a)が回転するとピニオンギヤ(101d)も減速機構にて設定された減速比に応じた回転をする構成である。マグネットスイッチ(101b)に通電を行うとシフトレバー(101c)が押し出され、ピニオンギヤ(101e)がエンジンに備わるリングギヤ(106)と連結される構造となっている。また、始動時において、エンジンの燃焼が行われるとピニオン回転数よりエンジン回転数が高くなるため、ピニオンクラッチ(101d)にてエンジンからのトルクを遮断することで、スタータモータ(101a)の過回転を抑制する構造となっている。
【0015】
尚、本図では、バッテリーから、スタータモータリレー(104a)の間に、スタータモータ(104a)のトルクを2段階に変更できるトルク可変機能(104b)が備わっているが、本発明では、この機能(104b)が備わっていない一般的なスタータの構成においても、同様の効果が期待できる。
【0016】
ECU(103)は通常の燃料噴射制御(103c)、点火制御(図示なし)、空気制御(電子制御スロットル制御)(図示なし)に加え、ブレーキSW、車速センサ等の各種センサ情報より、アイドルストップ許可判定ブロック(103a)にて、アイドルストップ許可判定を実行し、燃料噴射制御(103c)を禁止することで、燃料カットを実行する。
【0017】
エンジン回転挙動記録装置(103e)は、アイドルストップ許可判定ブロック(103a)が所定の条件が成立し、燃料カット実行した後、エンジンが停止するまでのエンジン回転挙動に関する情報を記録し、エンジン回転予測装置(103d)は、エンジン回転挙動記録装置(103e)が記録したエンジン回転挙動に関する情報から、将来のエンジン回転挙動の予測と、予め設定されたピニオンギヤとリングギヤを噛み込ませる際のエンジン回転数(以下、目標噛み込み回転数)までの所要時間を演算する。この所要時間に基づき、スタータ制御に関する各タイミングを演算の上、スタータ制御ブロック(103b)にて、スタータモータ(101a)及びピニオンギア(101e)の飛び出しを行うマグネットスイッチ(101b)の通電を行う。
【0018】
次に、本発明の実施例について図2を用いて説明する。
【0019】
図2は、図1同様に本発明を実現できる機能構成図である。
【0020】
本図のスタータ本体(201)は、スタータモータ(201a)、マグネットスイッチ(201b)、シフトレバー(201c)、ピニオンクラッチ(201d)、ピニオンギヤ(201e)、半導体スイッチ機構(201f)などにより構成されている。まず、ECU(Engine Control Unit)(203)からスタータ駆動信号を半導体スイッチ機構(201f)へ出力する。スタータ駆動信号は、スタータモータ(201a)の通電機能とピニオンギヤ(201e)の飛び出し機能を制御するマグネットスイッチ(201b)の2系統を備え、それぞれが個別のDuty比により半導体スイッチ機構(201f)内のMOSFETを制御し、スタータモータ(201a)、マグネットスイッチ(201b)の駆動を行う。
【0021】
また、ECU(203)は通常の燃料噴射制御(203c)、点火制御(図示なし)、空気制御(電子制御スロットル)(図示なし)に加え、ブレーキSW、車速センサ等の各種センサ情報より、アイドルストップ許可判定ブロック(203a)にてアイドルストップ許可判定を実行し、燃料噴射(203c)を禁止することで、燃料カットを実行する。
【0022】
エンジン回転挙動記録装置(203e)は、アイドルストップ許可判定ブロック(203a)が所定の条件が成立した際、燃料噴射制御(203c)にて燃料カット実行した後、エンジンが停止するまでのエンジン回転挙動を記録し、更に、回転予測装置(203e)により、記録したエンジン回転挙動から、将来の回転挙動の予測と、予め設定された目標噛み込みエンジン回転数までの所要時間を演算する。この所要時間から、スタータモータ(201a)及びピニオンギア(201e)の飛び出しを行うマグネットスイッチ(201b)の駆動時期及び停止時期を演算の上、スタータ制御ブロック(203b)にて、実際のスタータ駆動を行う。
【0023】
次に図3を用いて、本発明の基本的な制御方法について説明する。
【0024】
図3は、本発明に関わるフローチャートである。本フローは定時間隔で実行(例えば10ms)される。まず、S301のステップにて、燃料カットを行うか否かの判定を行う。詳しくは、図1または、図2に記載のアイドルストップ判定機能(103a,203a)にて、各種センサ情報等よりアイドルストップの実行可否判定を行い、条件不成立の場合、本制御は終了となる。条件成立時は、S302へ進み、燃料噴射制御(図1の103c又は図2の203c)にて、燃料カット制御を実行する。これにより、慣性回転となったエンジン回転挙動は最終的に完全停止するが、S303では、エンジンが停止したか否かの判定を行う。ここでエンジン停止状態とは、例えば、エンジン回転数が所定の回転数以下となった場合や、所定の回転数以下となってから更に所定時間が経過した場合などと定義することができる。
【0025】
S303の条件が不成立時は、S309へ進み、条件成立時は、S304へ進む。S304では、エンジン回転挙動に関する情報の記録を行う。本ステップの詳細は後述するが、所定のクランク角間におけるエンジン回転挙動の加速度及び減速度を記録する。その後、S305へ進み、予め設定されたエンジン回転の予測タイミングか否かの判定を行う。このタイミングは、エンジン回転数が所定回転数以下になった場合や、所定のクランク角におけるエンジン回転数が所定回転数以下となった場合、さらに燃料カットを実行後、所定の時間経過からとしても良く、いずれかの条件を用いて判定を行い、その後、所定のクランク角となった場合などとすることが望ましい。本条件が不成立の場合、S308へ進み、条件成立時は、S306へ進む。S306では、S304にて記録したエンジン回転挙動の情報から、将来のエンジン回転挙動を予測し(予測方法については後述する)更に前記目標噛み込み回転数までの時間を予測する。その後、S307にて、前記目標噛み込み回転数までの所要時間から、スタータ制御タイミングを演算するが、この制御タイミングは、スタータモータの通電開始タイミングと通電停止タイミング、及びピニオンギヤがリングギヤへ飛び込みを行うタイミングが該当する。その後、S308へ進み、実際のスタータ駆動を行う。S309では、全てのスタータ駆動が終了したか否かの判定を行い、条件不成立時は、S303へ戻り、条件成立で本制御は終了となる。
【0026】
次に図3にて説明した制御方法の更に詳細な実施例について説明を行う。
【0027】
図4は、図3内におけるS304の前記エンジン回転挙動記録装置のタイミングチャートである。401は、燃料カット(図3内S302)を開始してからのエンジン回転挙動を示したものである。燃料カット制御が実行されると、燃料カット制御が実行された気筒から燃焼が発生しないため、エンジン回転数は下降し始める。本図では、このタイミングをT402からとしている。その後、エンジン回転挙動(401)は、脈動と伴いながら、やがて完全に停止する。この挙動を更に詳しく説明すると、まず、燃料カットを実行した気筒の膨張行程から、エンジン回転挙動(401)は、減速しながら(403)、最初の気筒における圧縮TDC(404)に差し掛かる。この圧縮TDC(404)を乗り越えると、燃焼室内に充填された空気の反発力により、一旦加速する方向へ変化する(405)。その後、次気筒の圧縮仕事が増えることから、エンジンのフリクションが増大し、燃焼室内に充填された空気の反発力よりエンジンフリクションが大きくなる点(図内406)から、エンジン回転挙動は、次気筒の圧縮TDC(408)まで、減速を行う(407)。その後、同動作を繰り返し、やがてエンジンは停止に至る。この中で、エンジン回転挙動(401)が、減速方向から加速方向へ変化するクランク角(404,408)は、一般的なエンジンであれば、エンジン仕様に関わらず、圧縮上死点近傍となる一方で、加速方向から減速方向へ変化するクランク角(406,409)は、エンジンの気筒数(厳密には気筒間の位相差)や排気弁の開弁タイミングなどにより異なる性質を持つ。
【0028】
これを踏まえ、前記エンジン回転挙動記録装置は、この加速度(405,410)及び減速度(403,407)の変化点となるそれぞれのクランク角(404,406,408,409)にて、加速度(405,410)と減速度(403,407)のそれぞれ記録する(実際に記録する情報は図5を用いた実施例にて説明する)。
【0029】
これを制御フローで説明すると、図5の様な実施例となる。図5は、ある1点における加速度(405,410)もしくは減速度(403,407)を記録する際の制御フローである。まず、S501にて、第1の所定クランク角となったか否かを判定する。これは、例えば、図4内の404に達したか否かということに該当する。条件不成立時は、S504へ進み、条件成立時は、S502で、この時点のエンジン回転数を記録する。その後、S503へ進み、タイマカウンタのインクリメントを開始する。S504では、第2の所定クランク角に達したか否かの判定となるが、これを例えるならば、図4内の406に達したか否かという判定となる。条件不成立時は、S501へ戻り、条件成立時は、S505へ進み、この時点のエンジン回転数を記録し、S506で、S503にてインクリメントしているタイマカウントを停止し、このタイマカウンタ値を記録する(つまり404から406の所要時間を記録したことになる)。これより、加速度(図4内405)の加速度(傾き)に関する情報が記録されたこととなる。本フローはここで終了となるが、実際は、図4内406からの減速度(407)を同様に記載する。つまり、再び、S501からの制御が実行され、S501における第1クランク角を図4内406とし、S504の第2クランク角を図4内408に置き換え、これをエンジンが停止するまでの間、繰り返し、各々の情報を記録する。
【0030】
また、上述の第1所定クランク角及び第2クランク角を用いた実施例は、本発明を実現する1つの手段であり、当然、この当該区間(当該気筒の圧縮TDC(404)から次気筒の圧縮TDC間(408))における加速度及び減速度を更に細分化した上でこれらの情報(詳細なクランク角間の傾き)を記録し、後に説明する回転予測の精度向上ができることは言うまでもない。
【0031】
次に図3内S306に関する詳細説明を行う。
【0032】
まず、図6及び図7は、図3内S304にて記録したエンジン回転挙動の情報に基づき、将来のエンジン回転予測を行い、前記目標噛み込み回転数までの所要時間を予測するエンジン回転予測装置のタイミングチャートである。本図を用いて、実際の予測手順に沿った形で説明をする。
【0033】
本図における現在の時刻は、T603であり、T603より図内左側は過去を示し、右側は将来となる。601の実線は、過去のエンジン回転挙動を示しており、601の実践上に記載の丸印(604,605,606,607,608)上に示すそれぞれのエンジン回転数及びクランク間の時間は図3内のS304ステップにて記録されている。602の破線は、図3内S304にて記録したエンジン回転挙動の情報に基づき予測すべき回転挙動となる。T603を図3内S305とした場合、まず、加速挙動の予測を行うが、本制御の基本的な考え方として、図内に示した加速度αn(612)は、前回の加速度αn−1(611)や前々回の加速度αn−2(610)と一定の相関関係があるということに基づく。先に記述したが、加速上限点(605,607,609)に到達する際のクランク角は、エンジン仕様により異なる特性を持つが、同エンジンであれば、加速上限点(605,607,609)に到達する際のクランク角は、その気筒が異なる場合においても、ほぼ同じクランク角となる。このため、加速開始点(608)時点のエンジン回転数と過去の加速度(610,611)が分かれば、当該気筒の加速上限点(609)のエンジン回転数や加速開始点(608)から加速上限点(609)までの所要時間は一次方程式などから容易に予測できる。尚、この予測する加速度αn(612)は、前回の加速度αn−1(611)と前々回の加速度αn−2(610)から二次関数などを用いることで、ある程度の精度で算出可能であるが、特にエンジン回転数が低くなる領域では、充填率の変化が発生するため、加速度(610,611,612)に影響を与えることがあるため、これを補正することが望ましい。また、エンジンフリクションとなる補機類(オルタネータなど)の動作状態及びブレーキ圧などからの補正を行うことで、更に予測精度を向上できることは言うまでもない。
【0034】
これにより図6にて当該気筒の加速上限点(609)までを予測したが、次の減速領域の予測方法を図7を用いて説明する。図7内701の実線は、燃料カットにより慣性回転中のエンジン回転挙動を示したものであり、702の破線は、図3内S304にて記録したエンジン回転挙動に基づき予測すべき回転挙動となる。
【0035】
また、701の実線上に記載の丸印(704,705,706,707)は、該述のエンジン回転挙動を記録する際の所定クランク角を示しており、この丸印上(704,705,706,707)に示すそれぞれのエンジン回転数及びクランク間(704−705間,705−706間,706−707間)の時間は図3内のS304ステップにて記録されている。また、時間軸における現在点をT703とし、これより図内左側は過去を示し、右側は将来となる。
【0036】
減速開始点(708)のエンジン回転数及びこの点に至るまでの時間は、図6を用いた説明により既に予測された点であることから、加速度の予測同様に、過去の減速度(712,713)が分かれば、次の減速下限点(709)のエンジン回転数や減速開始点(708)から減速下限点(709)までの所要時間は容易に予測できる。この加速度及び減速度の予測を繰り返し、次気筒以降の加速上限点710を予測し、最終的に予測したエンジン回転数が所定の値(例えば0rpmを下回った場合など)となった時点(図内711)をエンジン停止状態と予測する。
【0037】
次に、予測したエンジン回転挙動に基づき、前記目標噛み込み回転数(716)となる時刻T717を算出し、現在の時刻T703からT717までの所要時間(718)を予測するが、図7内の最終的な減速度βn+1(715)及び始点(710)と終点(711)のエンジン回転数は予測していることから、一次方程式を用いて716までの時間を求めることができる。尚、本予測は、1度だけ行うのではなく、予測タイミングを複数設けた上で、上述の予測から所定の時間経過があった場合、次の予測タイミングとなり(例えば、図内T719)、この時点で得た最新のエンジン挙動情報に基づき、同様の予測を繰り返し行う。
【0038】
図8は、上述のエンジン回転予測装置(図3内のS306ステップの詳細)のフローチャートである。まず、S801にて、予測気筒カウンタnの初期化を行う。その後、S802にて加速度予測を行うか否かの判定を行うが、本判定は、予測タイミング時のクランク角から、加速予測及び減速予測の実施判定を行う。例えば、現在の時刻が、図6内T603である場合、まず、加速予測を行い、その後減速予測を行う。条件不成立時は、S806へ進み、条件成立時は、S803へ進む。S803では、過去に記録した加速度と予測開始点のエンジン回転数から、当該気筒の加速度演算を行う。その後、S804へ進み、S803にて演算した加速度から加速上限点(図6内609)時点のエンジン回転数を予測し、S805にて、加速開始点(608)から加速上限点(609)までの時間を予測する。次にS806へ進み、減速予測を行うか否かの判定を行う。条件不成立時は、S810へ進み、条件成立時は、S807にて、当該気筒の減速予測を行う(加速予測同様、過去に記録した加速度と予測開始点のエンジン回転数から予測を行う)。その後、S808へ進み、S807にて演算した減速度から減速下限点(図7内709)時点のエンジン回転数を予測し、S809にて、減速開始点(708)から減速下限点(709)までの時間を予測する。その後、S810へ進み、予測したエンジン回転数からエンジンが停止するまでの予測が終わったか否かの判定を行う。条件不成立時は、S811にて、予測気筒カウンタnのインクリメントを行い、その後、S810の条件が成立するまで、S802からの制御を繰り返す。
【0039】
次に、前記目標噛み込み回転数までの所要時間から、スタータの各作動タイミングを算出する方法について説明を行う。図9は、図6から図8の説明により予測した前記目標噛み込み回転数までの所要時間からスタータ制御の各タイミングを算出するタイミングチャートである。901はエンジン回転挙動を示しており、T904が現在の時刻となる。つまり、T904より左側のエンジン回転挙動(901)は、図3内S304にて記録された情報であるのに対し、T904から右側は、図3内S306にて予測した回転挙動となる。902は、ピニオン回転挙動を示しており、902aはスタータモータ(101a,201a)を通電することから上昇し、その後、スタータモータ(101a,201a)の通電を停止し、慣性回転となることから減速挙動となる(802b)。907は、前記目標噛み込み回転数を示し、903は、前記目標噛み込み回転数の予測ポイントとなる(制御上、このポイントは演算または予測することはない。)。また、T905は、現時点(T904)で予測したピニオンギヤ(101e,201e)とリングギヤ(106,206)を噛み込ませる時刻であり、906は、現時刻から噛み込みまでの所要時間である。
【0040】
ここで、ピニオン回転挙動(802)において、スタータモータ(101a,201a)の通電を停止した後の減速度(802b)は、スタータ仕様(特にスタータモータ(101a,201a)の慣性力)に依存し、スタータモータ(101a,201a)の通電を停止した直後には、ピニオン回転数(902)のオーバーシュートなどが発生するため、安定した減速度(902b)となるまでにはある程度の時間経過を待つ必要がある。ここでは、この時間を913にて表記しており、逆に言えば、この時間経過を待てば、ピニオン回転挙動の減速度(802b)は、一定の傾きとなることが保障される。
【0041】
これにより、T910を求めることができ、更に前記目標噛み込み回転数(907)とピニオン減速度(902b)から、一次方程式により、目標ピニオン回転数(908)も求めることができる。目標ピニオン回転数(908)が求まれば、スタータモータ(101a,201a)の応答性(言い換えると、902aの加速度)から、スタータモータ(101a,201a)の通電開始タイミング(T909)も容易に求めることができる。補足すると、スタータモータ(101a,201a)の加速度902aは、スタータモータ(101a,201a)に通電する際の電流に依存するため、図2の構成であれば、スタータモータへ通電する駆動Duty比毎に、目標ピニオン回転数(908)となるまでの所要時間(911)は予め設定することができる。尚、図1の構成であれば、駆動電流は一定となるため、一点の定数設定でこの所要時間(911)は表現することができる。
【0042】
次にピニオンギヤ(101e,201e)の飛び出しタイミングについて説明すると、実際にピニオンギヤ(101e,201e)をリングギヤ(106,206)へ噛み込ませるために、マグネットスイッチ(101b,201b)に通電を開始してから、実際に噛み込みが行われるまでに所定時間(914)を必要とする。これに要する時間(914)は、マグネットスイッチ(101b,201b)の抵抗とマグネットスイッチ(101b,201b)に流れる電流に依存するため、これらを把握することで、マグネットスイッチ(101b,201b)の応答時間(914)も、事前に設定することができる。
【0043】
更に付け加えると、マグネットスイッチ(101b,201b)の抵抗は、マグネットスイッチ(101b,201b)の温度と相関を持ち、マグネットスイッチ(101b,201b)に流れる電流は、駆動Duty比やマグネットスイッチ(101b,201b)の駆動段における抵抗にて代用することができる。これにより、914を求めることができるため、ピニオンギヤの飛び出しタイミング(T911)も算出することができる。
【0044】
この流れを制御フローチャートにすると、図10の様になる。図10は、図3内S307の詳細フローチャートである。まず、S1001にて、前記目標噛み込み回転数の時刻から、ピニオンギヤ(101e,201e)を動作させるマグネットスイッチ(101b,201b)の応答性に応じた所要時間(913)を減算することで、ピニオンギヤ(101e,201e)の飛び込みタイミングを演算する。次に、S1002にて、前記目標噛み込み回転数の時刻から、ピニオン減速度(902b)が一定となるまでに必要な時間(912)を減算することでスタータモータ(101a,201a)の通電停止タイミング(T909)を演算する。S1003では、前記目標噛み込み回転数とピニオン減速度(902b)と、ピニオン減速度(902b)が一定となるまでに必要な時間(912)から、目標ピニオン回転数(907)を演算する。その後、S1004では、S1003にて求めた目標ピニオン回転数(907)と、スタータモータ(101a,201a)への通電電流などから求めた応答時間から、スタータモータ(101a,201a)の通電開始タイミングを求める。
【0045】
次に、図3内S308のスタータ制御について説明を行う。
【0046】
図11は、図3内S308の詳細を示したフローチャートである。まず、S1101にて、スタータモータ(101a,201a)の通電タイミングか否かの判定を行う。条件不成立時は、S1105へ進み、条件成立時は、S1102へ進み、スタータモータ(101a,201a)への通電を行う。その後、S1103にて、ピニオン回転数が、目標ピニオン回転数に至ったか否の判定を行い、条件不成立時は、S1102へ戻り、以後、S1103の条件が成立するまで、スタータモータ(101a,201a)への通電を行う。S1103の条件が成立すると、S1104へ進み、スタータモータ(101a,201a)への通電を停止する。S1105では、ピニオン飛込みタイミングか否かの判定を行い、条件不成立時は、S1107へ進み、条件成立時は、マグネットスイッチ(101b,201b)へ通電を行い、ピニオンギヤ(101e,201e)をリングギヤ(106,206)へ噛み込ませる。その後、S1107にて、スタータ制御が全て終了したか否かの判定を行い、条件不成立時は、S1101へ戻り、条件成立時は、終了となる。
【0047】
尚、当然のことながら、本制御を実施中においても、予測制御(S306)及びスタータ駆動タイミングの演算(S307)は、エンジンが停止するまでの間、継続して行っているため、スタータ制御の各タイミングは、その時点で予測された最新の値にて行うこととなる。
【0048】
具体的には、図9内T908のスタータモータ通電開始タイミングは、これより前の最新値(T904)にて予測・演算された値に基づき制御され、T910のピニオン飛込みタイミングは、この直前に予測された値にて、制御されることになる。
【符号の説明】
【0049】
901 エンジン回転挙動
902 ピニオン回転挙動
902a ピニオン回転挙動(通電時の加速度)
902b ピニオン回転挙動(慣性回転時の減速度)
903 目標噛み込みポイント
906 目標噛み込み回転数
907 目標ピニオン回転数
908 スタータモータ通電開始タイミング
909 スタータモータ通電停止タイミング
911 スタータモータ通電開始時間
912 ピニオン減速度安定保証最低時間
913 マグネットスイッチ応答時間
T904 現時刻(予測実行時刻)
T905 噛み合い時刻
T910 噛み込み開始タイミング(マグネットスイッチONタイミング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイドルストップ機能を有する自動車の制御装置において、アイドルストップ条件が成立し、燃料カットが実行された後、エンジンが慣性回転を行っている際に、スタータに備わるピニオンギヤをエンジンに備わるリングギヤに噛み込ませることができる自動車の制御装置において、所定のアイドルストップ条件が成立することで燃料カットを開始してから、エンジンが停止するまでのエンジン回転挙動に関する情報を記憶するエンジン回転挙動記録装置を備え、前記エンジン回転挙動記録装置が記憶した過去のエンジン回転挙動の情報に基づき、スタータモータの通電開始及び通電停止タイミング及びスタータのピニオン飛び出しタイミングを可変にすることを特徴とする自動車の制御装置及びその方法。
【請求項2】
前記請求項1の制御装置及び方法において、事前に設定された前記ピニオンギヤを前記リングギヤに噛み込ませる際の目標噛み込みエンジン回転数(以下、目標噛み込み回転数)を記憶する装置を備え、慣性回転中のエンジン減速度が異なる場合においても、前記目標噛み込み回転数にて、ピニオンギヤをリングギヤに連結させることを特徴とする自動車の制御装置及びその方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2の制御装置及び方法において、前記エンジン回転挙動記録装置が記録するエンジン回転挙動の情報は、慣性回転中における所定クランク角間の減速度及び所定クランク角間の加速度であることを特徴とする自動車の制御装置及びその方法。
【請求項4】
前記請求項3の制御装置及び方法において、慣性回転中における所定クランク角間の減速度及び所定クランク角間の加速度は、事前に複数設定された2点のクランク角間の経過時間と、該所定クランク間の始点及び終点のエンジン回転数から算出されることを特徴とする自動車の制御装置及びその方法。
【請求項5】
前記請求項4の制御装置及び方法において、前記エンジン回転挙動記録装置が記録するエンジン回転挙動の情報に基づき、将来のエンジン回転挙動を予測することができるエンジン回転予測装置を備え、前記エンジン回転予測装置は、前記エンジン回転挙動記録装置が記録した当該気筒以前における2点の所定クランク角間の経過時間と、所定クランク角の始点及び終点のエンジン回転数とに基づき、当該気筒以降の同クランク角間の加速度もしくは減速度及び、所定クランク角間の終点のエンジン回転数を予測し、更に予測した所定クランク角間の加速度もしくは減速度及び、所定クランク角間の終点となる時刻のエンジン回転数と、前記目標噛み込み回転数に基づき、予測した時点から、ピニオンギヤとリングギヤを噛み込ませるまでの所要時間を予測することを特徴とする自動車の制御装置及びその方法。
【請求項6】
前記請求項5の制御装置及び方法において、スタータモータを所定期間通電した後、スタータモータを停止した際、慣性回転となったピニオン減速度の傾きと、スタータモータの通電を停止してから安定したピニオン回転の減速度を得るまでに必要となる最低所要時間とを用いて、ピニオンギヤとリングギヤを噛み込ませるまでの所要時間から、スタータモータの通電を停止させるタイミングを逆算し、更に前記目標噛み込み回転数と慣性回転となったピニオン減速度の傾きから、ピニオンギヤの目標予回転数を算出することができることを特徴とする自動車の制御装置及びその方法。
【請求項7】
前記請求項6の制御装置及び方法において、慣性回転となるピニオン回転の減速度の傾きとスタータモータの通電を停止してから安定したピニオン回転の減速度を得るまでに必要となる最低所要時間を学習することを特徴とする自動車の制御装置及びその方法。
【請求項8】
前記請求項6又は7の制御装置及び方法において、ピニオンギヤの目標予回転数とスタータモータへ通電する際の電流又はスタータモータの駆動Duty比毎に、スタータモータの通電時間を算出することができるスタータモータ通電時間算出機能を備える制御装置及び方法において、スタータモータの停止タイミングから前記スタータモータ通電時間算出機能が算出したスタータモータ通電時間を減算することで、スタータモータの通電開始タイミングを算出することを特徴とする自動車の制御装置及びその方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−100749(P2013−100749A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244081(P2011−244081)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)