説明

内燃機関用のコンプレッションリング及び内燃機関用ピストン構造

【課題】シール性及び耐摩耗性に優れた内燃機関用のコンプレッションリング及び内燃機関用ピストン構造の提供を目的とする。
【解決手段】上記課題に対し、外側リングの内周側に同心円状に内側リングを重ねて配置したコンプレッションリングとし、当該内側リングは、その外径が当該外側リングの内径より大きく、内側リングの内径が当該外側リングの内径より小さく、且つ、内側リングの内周面と当該リング溝のリング溝底面とが接触可能なリング幅Aを有し、当該外側リングは、ピストン軸方向の一面側の内周側に、内側リングを載置可能な内周方向に沿った段差面であるピストン軸に対して径方向の幅Bのインナーカット部を備え、当該ピストン軸に対して径方向における外側リングと内側リングとの径方向重なり距離が、幅Bのインナーカット部に対し、内側リングのリング幅Aの(1/2)A以上を接触載置した内燃機関用のコンプレッションリングを採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、内燃機関用ピストンにおいて、ピストンのリング溝に装着するコンプレッションリング及び内燃機関用ピストン構造に関し、特に、リング溝へのコンプレッションリングの装着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用のピストンは、燃焼室とクランク室とを接続するシリンダ内部に取り付けられるものであり、ピストンがシリンダの内壁面を摺動可能に収納されている。図12は、一般的なピストン100の部分断面図であり、ピストン100がシリンダ200に挿入された状態を模式図として示す。図12に示すように、一般的に、ピストン外周には、3箇所のリング溝101〜103が形成され、当該リング溝101〜103に燃焼室側(図12の上方)から順に、ファーストコンプレッションリング300a、セカンドコンプレッションリング300b、オイルリング300cからなるピストンリングが装着される。このピストンリングは、燃焼室側に装着するコンプレッションリング300a,300bと、クランク室側(図12の下方)に配置されるオイルリング300cとに大別される。コンプレッションリング300a,300bは、燃焼室側の燃焼ガスがクランク室側へ流入するのを防ぐとともに、ピストンの熱をシリンダ内壁面201側に放出するものである。一方、オイルリング300cは、シリンダ内壁面にある余分なオイルをかき落としてオイル戻し穴400から戻すことにより、シリンダライナ内壁面201の油膜を適切な状態に保持するものである。
【0003】
次に、図13は、従来の一般的なコンプレッションリング(ファーストコンプレッションリング)の装着態様を示す図であり、ピストン100がシリンダライナ200に挿入された状態で、コンプレッションリング300aは、その外周摺動面301が、ピストンを収容するシリンダ200のシリンダライナ内壁面201に当接しており、内燃機関の動作時には、当該シリンダライナ内壁面201に対して摺動する。そのため、コンプレッションリング300aとシリンダライナ内壁面201とは、当接した状態を保時しなければならない。しかし、コンプレッションリング300aは、使用に伴い、シリンダライナ内壁面201との摺動面である外周摺動面301が摩耗することによって、燃焼ガス圧が、初期状態よりも増加し、更に摩耗を増長させてしまう。そのため、コンプレッションリング300aは、シリンダライナ内壁面201との摺動状態を好適な状態に保つことが重要である。
【0004】
ここで、コンプレッションリング300aが当該リング溝101に収容された際、リング溝101の底面101aとリング内周面302との間にバッククリアランス領域Sが形成される。このバッククリアランス領域Sに燃焼ガスが流入すると、その分、バッククリアランス領域Sの内圧が高くなり、コンプレッションリング300aを、シリンダライナ内壁面201側に押す圧力が高くなり、コンプレッションリング300aとシリンダライナ内壁面201との摩擦力が高まり、コンプレッションリング300a及びシリンダライナ内壁面201が摩耗しやすくなる。
【0005】
このような問題を解決するため、コンプレッションリングの他に、バッククリアランス領域を封鎖するためのリングを補助的に設けて、リング溝のバッククリアランス領域のシール性を強化する技術が検討されている。例えば、特許文献1には、ピストンの作業空間を封鎖するための外方偏倚ピストンリングの他に、内方偏倚封鎖リングをピストンリングの圧力側に配置し、ピストンリングの裏側に圧力媒体が流入するのを防ぐ技術が開示されている。
【0006】
また、コンプレッションリングの気体密封性を高めるために、例えば、特許文献2、特許文献3に開示されているように、主リングと補助リングとを組み合わせて用い、ピストンのリング溝に挿入する主リングよりも、リング溝の底部側に補助リングを配置する技術が考えられてきた。
【0007】
【特許文献1】特開昭54−64251号公報
【特許文献2】実開平6−25532号公報
【特許文献3】特開昭61−190154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示の技術では、内方偏倚封鎖リングの軸方向厚さが、外方偏倚ピストンリングの軸方向厚さに対して相対的に大きく、ピストンが駆動する際のピストンの上死点到達時に、ピストンリングがリング溝の上端面と当接しない構成となっている。このため、ピストンリング溝において、ピストンリングの燃焼室側に繋がるスペースが大きく生じる。その結果、ピストンの上死点到達時に、燃焼室側に露出する外方偏倚ピストンリングの軸方向の距離と合口隙間とにより求められる合口面積が大きくなるため、オイル消費量が多くなる。また、ピストンの摺動時に、内方偏倚封鎖リングと外方偏倚ピストンリングとの接触面部に隙間が生じやすい構成となっており、ガスシール性に欠ける。そのため、特許文献1では、更に、内方偏倚封鎖リングを外方偏倚ピストンリングに圧着させるために、内方偏倚封鎖リングの頂部表面の外方に環状くぼみを形成したり、内方偏倚封鎖リングの上方におけるピストンリング溝の間隙にばねリングを挿入して防止する例が開示されているが、構成が複雑とならざるを得ない。
【0009】
また、特許文献2に開示の発明の場合、クリアランス部を覆うために、補助リングを挿入するための挿入溝を形成し、この挿入溝の下面部と、圧縮リングの上面部に有する段部の上面部とのそれぞれに面接触させて補助リングを跨設する構成となっている。そのため、挿入溝の下面部と、圧縮リングの段部の上面部とを面一にさせなければならないが、両者を面一に製造することは加工精度を考えると、量産が困難と言える。また、補助リングを挿入溝に挿入配置することも難しく、組み立てが困難で実用性に欠ける。
【0010】
特許文献3に開示の発明の場合、内側の補助密封リングが、環状ピストンリング溝の軸方向に伸びる壁と常時接触しているが偏向可能とすることにより、ピストンの運動時も圧縮リングの溝と、補助密封リングとを、常に当接させられるようにしている。すなわち、補助密封リングを偏向可能とするために、補助密封リングの環状ピストンリング溝側の端部を丸い端とし、補助密封リングが弾性的に圧縮リング側に片寄せられて接触させる構成としている。したがって、補助密封リングと主リングとの接触は線接触となっており、接触面積が不十分である上に、シール性は、補助密封リングの偏向性に依存しているので、リングのねじれや、ピストンの往復運動に伴って生じる振動等により、補助密封リングと主リングとの間に隙間が生じやすく、シール安定性に欠ける。更に、燃料圧が圧縮リングの内周面側に加わる為、リングの外周摺動面の摩耗及びシリンダライナ側の摩耗が増加し、リングの合口部や当たり幅の拡大を引き起こし、ブローバイガスの発生やオイル消費量に影響を与えるおそれがある。
【0011】
以上のことから、シール性に優れ、且つ、耐摩耗性に優れるコンプレッションリングが求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者等は、以下に示す内燃機関用のコンプレッションリング及び内燃機関用ピストン構造を採用することで、上記課題を達成できることに想到した。
【0013】
本件発明に係るコンプレッションリング: 本件発明に係るコンプレッションリングは、内燃機関に用いられるピストンの外周に形成されたリング溝内に装着する内燃機関用のコンプレッションリングであって、当該コンプレッションリングは、外側リングの内周側に同心円状に内側リングを重ねて配置したものであり、当該内側リングは、その外径が当該外側リングの内径より大きく、内側リングの内径が当該外側リングの内径より小さく、且つ、内側リングの内周面(以下、単に「内側リング内周面」と記す。)と当該リング溝のリング溝底面とが接触可能なリング幅Aを有し、当該外側リングは、ピストン軸方向の一面側の内周側に、内側リングを載置可能な内周方向に沿った段差面であるピストン軸に対して径方向の幅Bのインナーカット部を備え、当該ピストン軸に対して径方向における外側リングと内側リングとの径方向重なり距離が、幅Bのインナーカット部に対し、内側リングのリング幅Aの(1/2)A以上を接触載置したことを特徴とする。
【0014】
また、本件発明に係るコンプレッションリングでは、前記外側リングのインナーカット部の段差のピストン軸方向の高さをCとし、内側リングのピストン軸方向の厚さをDとしたとき、C>Dの関係を満たすものであることがより好ましい。
【0015】
本件発明に係る内燃機関用ピストン構造: 本件発明に係る内燃機関用ピストン構造は、ピストンの外周に形成されたリング溝内に上述の内燃機関用のコンプレッションリングを装着した内燃機関用ピストン構造であって、ピストンの外周に形成されたリング溝内に、当該コンプレッションリングの外側リングの内周側に同心円状に内側リングを重ねて配置したとき、外側リングの内周面(以下、単に「外側リング内周面」と記す。)とリング溝との間にバッククリアランス領域を備え、且つ、内側リングの内周面と当該リング溝のリング溝底面とが接触して、燃焼室内の燃焼ガスのバッククリアランス領域への流入制御を行うことを特徴とする。
【0016】
本件発明に係る内燃機関用ピストン構造では、前記リング溝底面のクランク室側には、前記外側リングが拡大する方向に受ける圧力を調整するために、前記バッククリアランス領域の容積を調節するための調整溝部を更に形成したものであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本件発明に係るコンプレッションリングは、リング溝へ装着した場合に、リング溝内におけるバッククリアランス領域のシール性を高く維持させることができ、バッククリアランス領域に燃焼ガスが流入することを防ぐことができる。そして、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造は、リング溝において、コンプレッションリングの内周面側に形成されるバッククリアランス領域に燃焼ガスが流入することを防ぐことができるので、バッククリアランスから、コンプレッションリングの内周面側に加わる圧力が必要以上に増大することを防ぎ、コンプレッションリングの外周側への過度な拡張を抑え、コンプレッションリングの外周摺動面と、このコンプレッションリングの外周摺動面と接触するシリンダライナ内壁面との摩耗を抑制することができる。その結果、コンプレッションリングとシリンダライナ内壁との摺動面の摺動状態を好適な状態に保持可能な構造となり、耐摩耗性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本件発明に係るコンプレッションリングと、内燃機関用ピストン構造のそれぞれの形態に関して説明する。
【0019】
本件発明に係るコンプレッションリングの形態: 本件発明に係るコンプレッションリングは、内燃機関用ピストンの外周に形成されたリング溝内に装着するものであり、内側リングと外側リングとからなる。そして、主要なリングである外側リングの内周側に同心円状に内側リングを重ねて配置した状態で組み合わせて用いるものである。まず、図1を用いて、外側リング及び内側リングについて説明する。図1は、本件発明に係るコンプレッションリングの第1実施形態におけるリング溝内の状態を示す部分断面図である。
【0020】
外側リング3は、ピストンリング本来の役割を担うものであり、その外径は、シリンダライナ5の内周径と略等しく、外側リング3が有する張力によって、外側リング3の外周摺動面31がシリンダライナ内壁面51と当接する。ここで、ピストンの往復時は、ピストン6とシリンダライナ内壁面51との間隙が変動する。そのため、リング溝2には、外側リング内周面32とリング溝底面21との間に、バッククリアランス領域Sが予め形成されている。したがって、外側リング3の径方向の幅は、リング溝2の径方向幅より小さい。そして、燃焼室側にあるピストン軸方向の一面側33の内周側に、内側リングを載置可能な内周方向に沿った段差面であり、ピストン軸に対して径方向の幅Bを有するインナーカット部を備える。
【0021】
インナーカット部9は、図1に示すように、外周側におけるピストン軸方向の厚さW1より、内周側におけるピストン軸方向の厚さW2の方が小さくなるような高さCを有する断面略L字形状の段差として、外側リング3の燃焼室側のピストン軸方向の一面側33に形成される。このインナーカット部9は、外側リング3の外周側のピストン軸方向の一面側33に対して略垂直に形成された壁部91と、後述する内側リング4を載置可能な内周方向に沿った段差面であり、ピストン軸に対して径方向の幅Bを有する平面部92とにより段差が形成される。インナーカット部9の平面部92は、内側リング4との当接面となるので、少なくともピストン6の軸に対して垂直な平面となる。
【0022】
一方、壁部91は、前記外側リングのインナーカット部の段差のピストン軸方向の高さをCとし、内側リングのピストン軸方向の厚さをDとしたとき、C>Dの関係を満たすように形成されれば良く、その断面形状は特に限定しない。例えば、図1に示す例では、外側リング3の外周側のピストン軸方向の一面側33に対して略垂直であり、その角部が面取りされているが、壁部91は、後述する内側リング4のピストン軸方向の厚さDに応じて、C>Dとなる高さCがあれば良い。
【0023】
このように、外側リング3には、インナーカット部9が形成されるので、外側リング3のピストン軸方向の厚さW1は、外周側と内周側とで異なる。外周側のピストン軸方向の厚さW1は、リング溝2の開口幅W3よりやや小さく、リング溝2内に収容された状態で、当該外側リング3が摺動可能であり、且つ、外側リング3の燃焼室側のピストン軸方向の一面側33とリング溝の燃焼室側の側壁22との隙間を極力抑えた厚さとする。
【0024】
外側リング3の外周側のピストン軸方向の厚さW1は、リング溝2の開口幅W3の94%〜99.5%であることが好ましい。外側リング3の外周側のピストン軸方向の厚さW1が、リング溝2の開口幅W3の99.5%を超えると、リング溝2内における外側リング3の円滑な摺動が不可能となる。一方、外側リング3の外周側のピストン軸方向の厚さW1が、リング溝2の開口幅W3の94%未満であると、リング溝2の側壁22と、外側リング3のピストン軸方向の一面側33との空隙が大きくなり、燃焼ガスにより内側リング4に負荷される圧力が大きくなる上に、ピストンの運動に伴う外側リング3の軸方向への移動領域が大きくなる為、シール性の維持が困難となる。
【0025】
一方、外側リング3の内周側のピストン軸方向の厚さW2は、外周側のピストン軸方向の厚さW1から、インナーカット部9の段差の高さCの分だけ小さくなる。インナーカット部9の段差の高さCは、上述の通り、内側リングのピストン軸方向の厚さをDとしたとき、C>Dの関係を満たすように形成される。ここで、インナーカット部9の段差の高さCを必要以上に大きくすると、外側リング3全体の強度に影響する。したがって、インナーカット部9の段差の高さCは、内側リング4のピストン軸方向の厚さDに対して僅かに大きいものとすることが好ましい。また、インナーカット部9の段差の高さCと、内側リング4のピストン軸方向の厚さDとの差が大きすぎると、ピストン6の往復時における内側リング4の可動範囲が大きくなり、安定したガスシール性が得られない。
【0026】
そして、インナーカット部9を除く部分の外側リング3の基本的な形状は、レクタンギュラ型、キーストン型、ハーフキーストン型等の断面形状のものを採用することができる。また、外側リング3の外周摺動面31の形状は、バレルフェース型、偏心バレルフェース型、テーパ型等を設計に応じて適宜選定可能である。
【0027】
次に、内側リング4は、断面形状がレクタンギュラ型のリングである。内側リング4は、その外径が当該外側リング3の内径より大きく、内側リング4の内径が当該外側リング3の内径より小さく、且つ、内側リング内周面41と当該リング溝底面21とが接触可能なリング幅Aを有するサイズである。このような内側リング4とした結果、内側リング4は、その内側リング内周面41がリング溝底面21と接触するので、インナーカット部9と内側リング4とが当接していない内側リング4の部分が、外側リング内周面32と、リング溝底面21とで形成されたバッククリアランス領域Sを覆うこととなる。そして、当該ピストン軸に対して径方向における外側リング3と内側リング4との径方向重なり距離が、幅Bのインナーカット部に対し、内側リングのリング幅Aの(1/2)A以上が接触するように載置される。ここで、説明上、内側リング4のクランク室側側面42のうち、インナーカット部9と面接触する部分を「インナーカット接触部42a」と称し、バッククリアランス領域Sを覆う内周側の部分を「バッククリアランスシール部42b」と称することとする。すなわち、内側リング4は、インナーカット接触部42aよりバッククリアランスシール部42bの方が短くなるように配置されるのである。
【0028】
本件発明に係るコンプレッションリング1は、内側リング4と、外側リング3とを上述の配置とする。かかる場合、ピストン軸に対して径方向における外側リング3と内側リング4との径方向重なり距離(インナーカット接触部42a)が、バッククリアランス領域Sの径方向の長さと略等しくなるバッククリアランスシール部42bの長さより、長くなることになる。本件発明者は、検討の結果、内側リング4と外側リング3とを上述の配置とすることにより、バッククリアランスのシール性を高められることに想到したのである。
【0029】
なお、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造の位置関係は、ピストンに外側リング及び内側リングを装着した状態における基本状態で示したものである。
【0030】
続いて、内側リング4のピストン軸方向の厚さDは、外側リング3のインナーカット部9における段差Cより小さい。すなわち、内側リング4をインナーカット部9に配置した状態でも、内側リング4の燃焼室側の側面43が、外側リング3の燃焼室側における外周側のピストン軸方向の一面33より低い位置となる厚さである。ここで、外側リング3の外周側のピストン軸方向の一面33より内側リング4の燃焼室側の側面43の方を高くすると、その分、リング溝2と外側リング3のピストン軸方向の一面33との間の空隙が大きくなり、燃焼ガスから受ける圧力が大きくなる。内側リング4が燃焼ガスにより受ける圧力を抑えるためには、内側リング4のピストン軸方向の厚さDは、インナーカット部9の段差の高さCより薄くする方が良いのである。
【0031】
そして、内側リング4のピストン軸方向の厚さDは、0.4mm〜2.5mmであることが好ましい。内側リング4のピストン軸方向の厚さDが0.4mm未満であると、リング自体の強度が不足して耐久性が得られない。また、上述の通り、内側リング4のピストン軸方向の厚さDに応じて、インナーカット部9の段差の高さも大きくする必要が生じるので、内側リング4のピストン軸方向の厚さDが2.5mmを上まわると、外側リング3の強度が十分に得られない。
【0032】
なお、内側リング内周面41の形状は、例えば、図2(a)〜(c)に示すような形状とするとリング溝底面21との当接状態を安定させることができ、且つ、リング溝の燃焼室側の側壁22とリング溝底面21とで形成される角部25と干渉することを避けることができる。例えば、図2(a)は、内側リング内周面41の全体をR形状とした例である。図2(b)は、内側リング内周面41において、リング溝2の角部25側に位置する面41a(図2における上方の面)をR形状に面取りし、クリアランス領域S側に位置する面41bをストレート形状とした例である。図2(c)は、内側リング内周面41において、リング溝2の角部25側に位置する面41aをR形状に面取りし、クリアランス領域S側に位置する面41bをテーパ型とした例である。このように、内側リング内周面41において、少なくとも、リング溝2の角部25側に位置する面41aをR面取り形状、C面取り形状とすると、ピストン往復時に、リング溝2の角部25と、内側リング内周面41とが干渉することがなく、摩耗を防ぐとともに、リング溝2との当接状態を安定させることができる。そして、内側リング内周面41のクリアランス領域S側の面41bの形状は、R面取り形状、C面取り形状、テーパ型、ストレート型等とすれば良い。一方、内側リング4の外周面形状は、バレルフェース型、テーパ型等適宜選定可能である。
【0033】
内燃機関用ピストン構造: 次に本件発明に係る内燃機関用ピストン構造について説明する。本件発明に係る内燃機関用ピストン構造は、内燃機関に用いられるピストンの外周に形成されたリング溝内に上述の外側リングと内側リングとからなるコンプレッションリングを装着する内燃機関用ピストン構造である。図1を参照して説明する。
【0034】
外側リング3は、燃焼室側のピストン軸方向の一面側33の内周側において、外周部側よりリング幅が小さい段差となるインナーカット部9が形成されている。そして、内側リング4は、その内径が、前記外側リング3の内径より小さく、且つ、内側リング内周面41とリング溝底面21とが接触する大きさである。そして、内側リング内周面41がリング溝2に接触するとともに、内側リング4のリング幅Aにおいて、その外周部側から(1/2)A以上の幅の内側リングの側面42が前記インナーカット部9の平面部92と面接触するように配置されることにより、外側リング内周面32とリング溝2との間に形成されるバッククリアランス領域Sを覆う。すなわち、当該ピストン軸に対する径方向における、外側リング3と内側リング4との径方向重なり距離が、幅Bのインナーカット部に対し、内側リングのリング幅Aの(1/2)A以上を接触載置することにより、インナーカット部9と内側リング4との接触面積を十分に確保する。その結果、ピストン往復時の外側リング3の移動によっても、内側リング4の面接触を保ち、バッククリアランス領域Sのガス圧を減少させることができる。また、ピストンが上死点に到達した際、内側リング4の燃焼室側の側面43側からの圧力を受けるが、インナーカット接触部42aの面積が十分に確保されることによって、バッククリアランス領域Sのシール性を高めることができるのである。なお、ピストンリング1を構成する外側リング3及び内側リング4の詳細については、上述の通りである。
【0035】
ここで、インナーカット部9は、内側リング4の外周側端部44とインナーカット部9の壁部91とが離間配置可能となるように形成することが好ましい。インナーカット部9の壁部9と内側リング4の外周側端部44とを離間配置することにより、両者の接触を避け、インナーカット部9の摩耗や、内側リング4の変形を防ぐことができるからである。この離間距離は、少なくとも、ピストン往復時に内側リング4の外周側端部44と接触しないようにすれば良く、外側リング3の形状安定性等を考慮して、適宜設定すれば良い。
【0036】
さらに、図3に示すように、リング溝底面21のクランク室側には、前記外側リング3の張力を調整するために、バッククリアランス領域Sの容積を調節するための調整溝部24を更に形成することもできる。本件発明に係る内燃機関用ピストン構造を用いれば、リング溝2は、図1に示す形態のように、単純な形状であってもシール性に優れる。しかし、リング溝2に更に調整溝部24を設けることによって、バッククリアランス領域Sの容積Tを調節し、外側リング3の張力をより好適な状態に調整することも可能となるのである。すなわち、本件発明に係るコンプレッションリングは、バッククリアランス領域Sのシール性に優れるからこそ、当該バッククリアランス領域Sの容積T1を調整溝部24で調整することによって、より高精度にバッククリアランスの内圧をコントロール可能となり、外側リングが、外径方向に過度に押し出されることが無く、シリンダライナ内壁との摩擦力を好適な範囲に保つことができるのである。
【0037】
この調整溝部24により形成される拡張バッククリアランス部Sαの容積T2は、外側リング3に負荷される圧力、バッククリアランス領域Sの容積T1等を考慮して適宜設定できる。ただし、ピストンの内径、厚さ、リング溝の大きさ等、ピストンの耐久性や強度等は考慮すべきであることは言うまでもない。
【0038】
なお、図3に示すように、調整溝部24は、内側リング内周面41とリング溝底面21とが当接する部分より、クランク室側に形成する。なぜなら、本件発明では、当該ピストン軸に対して径方向における外側リングと内側リングとの径方向重なり距離を、内側リングのリング幅Aの(1/2)A以上として、バッククリアランスシール部42bより、インナーカット接触部42aを大きくすることにより、高いシール性を得ている。そのため、リング溝底面21を一律に拡張すると、内側リング4の径方向の幅が大きくなり、インナーカット部9の大きさ等に影響することになるからである。したがって、調整溝部24の開口幅W4は、外側リング3の内周側のピストン軸方向の厚さW2より小さいものとなる。
【0039】
次に、図1を用いて、圧縮工程時のリング溝2とコンプレッションリング3との位置を説明する。図1に示すように、圧縮工程において、ピストン6が上死点に到達した際、外側リング3のクランク室側のピストン軸方向の一面34が、リング溝2のクランク室側の側面23に当接する。この際、内側リング4は、その外周側及び側面側から負荷される圧力によって、インナーカット部9との面接触状態を保ちながら、バッククリアランス領域Sを確実にシールする。
【0040】
以下、本件発明に用いる外側リングと内側リングの好ましい材質について説明する。従来、ピストンリングとシリンダ内壁の材質を改良しながら、摩耗を抑制する技術が検討されてきた。そこで、公知の耐摩耗性に優れた材質と、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造とを組み合わせることにより、より一層、耐摩耗性を向上させることができる。
【0041】
内側リングは、シリンダライナ内壁との摺動面を窒化処理したマルテンサイト系ステンレス鋼製リング、シリンダライナ内壁との摺動面にクロムめっきを施したSWOSC−V鋼リング等が使用できる。そして、側面側であるリング溝との摺動面や、内側リングとの摺動面には、窒化処理、マンガン系リン酸浴、クロムめっき、物理蒸着(PVD)、溶射、クロムめっき、複合クロムめっき、複合めっき、化学蒸着(CVD)、等の手法を用いて、窒化層、クロムめっき層、ダイアモンド ライク カーボン層(以下、単に「DLC層」と記す。)等を形成する表面処理を施すことも好ましい。
【0042】
外側リングは、マルテンサイト系ステンレス鋼、ばね鋼からなるもの、例えば、SUS201材、SUS440材、SUS410材、SWOSC−V材、8Cr鋼、10Cr鋼等が使用できる。そして、その全周表面を窒化処理すると、インナーカット部との摺動面における耐摩耗性に優れる。窒化処理は、ガス窒化、イオン窒化、塩浴窒化、浸硫窒化等のあらゆる窒化処理を使用することが可能である。また、物理蒸着(PVD)、溶射、クロムめっき、複合クロムめっき、複合めっき、化学蒸着(CVD)、等の手法を用いて、窒化層、クロムめっき層、DLC層等を形成する表面処理を施すことも好ましい。
【0043】
ピストンは、例えば、鋳鉄製、スチール製、アルミ製等のものが考えられ、リング溝部及び外周表面に表面処理が施されたものが使用できる。表面処理としては、鋳鉄材にリン酸浴で表面処理を施したもの、スチール材にリン酸浴やレーザー焼き入れ、高周波焼き入れ等の表面処理を施したもの、アルミ材にニレジストで表面処理層を形成したもの等が挙げられる。
【0044】
次に、図1を用いて、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造の具体的な形態を示す。図1に例示する外側リング3は、基本形状がレクタンギュラ型であり、外周摺動面の形状はバレルフェース型である。そして、外側リング3の燃焼室側の側面33には、内周側にインナーカット部9が形成されている。この外側リング3の寸法は、径方向の幅が4.5mm、ピストン軸方向の厚さは、外周側端部においてW1=3mm、内周側端部がW2=2.1mmであり、内径が128mmである。インナーカット部9は、段差の高さCが0.9mm、平面部92の径方向の長さBが2.85mmに形成されている。そして、内側リング4は、径方向の幅Aが2.85mm、ピストン軸方向の厚さDが0.8mmのレクタンギュラ型のリングであり、内外周面はR面取りされている。そして、内側リング4は、その外径が、外側リング3の内径より大きく、且つ、内側リング4の内径は外側リング3の内径より小さい。この内側リング4がインナーカット部9に配置された状態で、ピストン軸に対して径方向における外側リングと内側リングとの径方向重なり距離が1.85mm、バッククリアランスシール部42bが1.0mmである。また、インナーカット部9の壁部91と、内側リング4の外周側端部44とは、1.0mm離間している。
【0045】
次に、図3を用いて、調整溝部24を形成した形態を示す。この図3では、図1の形態に調整溝部24を形成したものである。したがって、調整溝部24についてのみ述べる。この調整溝部24は、開口幅がW4=1.9mm、溝の深さが内側リング4のバッククリアランスシール部42bの長さの1/2(径方向幅0.5mm)とし、拡張バッククリアランス部Sαの容積T2は、当該拡張バッククリアランス部Sαを除いたバッククリアランス部Sの容積T1の50%とした例である。なお、図1及び図3を用いて示した寸法は、例示に過ぎず、限定されるものではない。
【0046】
以上に説明した通り、本件発明に係るコンプレッションリングは、外側リングのインナーカット部に内側リングを配置するという簡単な構成でありながら、高いガスシール性を得ることができる。そして、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造は、リング溝の形状も一般的な形状であり、ピストンリングのリング溝への収納が容易であるという簡易な構造でありながらも、ピストンのリング溝への取付作業性にも優れる。
【0047】
次に、本件発明に係るコンプレッションリングを用いた内燃機関用ピストン構造について実施例を示して説明する。なお、本件発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。また、上述の本実施の形態ならびに以下に示す実施例では、主に、本件発明に係るコンプレッションリングをファーストコンプレッションリングに適用する例を示したが、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造は、セカンドコンプレッションリングにも適用可能である。
【実施例1】
【0048】
実施例1の内燃機関用ピストン構造を図4に示す。実施例1のコンプレッションリングを構成する外側リングは、基本的な断面形状がフルキーストン形状(傾斜角度7.5°)で、燃焼室側の側面の内周側に断面略L字形のステップ状のインナーカット部9が形成されている。そして、外側リング3の燃焼室側のピストン軸方向の一面33には、内周側にインナーカット部9が形成されている。この外側リング3の寸法は、径方向の幅が4.5mm、ピストン軸方向の厚さは、外周側端部においてW1=2.88mm、内周側端部がW2=1.15mmであり、内径が128mmである。インナーカット部9は、段差の高さCが0.98mm、平面部92の径方向の長さBが2.85mmとなるように形成した。
【0049】
そして、内側リング4は、軸方向の厚さがD=0.8mm、径方向の幅Aが2.85mmのレクタンギュラ型のリングであり、内外周面は面取りされている。そして、内側リング4は、その外径が当該外側リング3の内径より大きく、且つ、内側リング4の内径が当該外側リング3の内径より小さい。この内側リング4がインナーカット部9に配置された状態で、ピストン軸に対して、径方向における外側リングと内側リングとの径方向重なり距離が1.85mm、バッククリアランスシール部42bが1.0mmとした。
【0050】
また、リング溝2の開口幅はW3=3.0mmである。更に、インナーカット部9の壁部91と、内側リング4の外周側端部44とは、1.0mm離間している。
【0051】
内側リングは、JIS規格に表されるSWOSC−V材からなり、マンガン系リン酸皮膜により表面処理を施した。
【0052】
外側リングは、JIS規格に表されるSUS410JI材からなり、表面処理として、ガス窒化法にて全周に窒化処理層を形成し、更に、外周側の当該窒化処理層の表面には、Cr−B−N系合金を物理蒸着させた表面処理を施したものを用いた。
【0053】
実施例1に示した内燃機関用ピストン構造を採用したファーストコンプレッションリングと、既存のセカンドコンプレッションリングと、2ピース構成のオイルリングとをピストンに装着したピストンを用いて、テストエンジンに組み込み、作動後のコンプレッションリングとシリンダライナ内壁面の摩耗量をそれぞれ測定した。以下に、セカンドコンプレッションリング及びオイルリングの構成を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
テストエンジンは、シリンダボア径が137mm、ストロークが146mmの直列6気筒の水冷4サイクルディーゼルエンジンを用いた。この際、期間回転数は1800rpm、100時間、水温90℃で行った。コンプレッションリングの摩耗量の測定結果について、図10に、後述する比較例4の上死点付近の摩耗量を1とし、実施例1〜実施例3の摩耗量比を対比したグラフを示す。
【実施例2】
【0056】
実施例2は、図5に示すように、実施例1のリング溝2に、更に調整溝部24を設けた例である。すなわち、リング溝底面21のクランク室側には、開口幅がW4=1.06mm、溝の深さ(ピストン径方向の長さ)が0.5mmの調整溝部24を形成した。この調整溝部24の深さは、内側リング4のバッククリアランスシール部42bの長さの1/2とした。したがって、拡張バッククリアランス領域Sαの容積T2は、当該拡張バッククリアランス領域Sαを除いたバッククリアランス領域Sの容積T1の50%とした。その他の部分は実施例1と同一であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0057】
実施例3は、図6に示すように、実施例2の調整溝部24より更に広い調整溝部24を形成した例である。実施例3の調整溝部24は、開口幅がW4=1.06mm、溝の深さ(ピストン径方向の長さ)を1.0mmに形成した。すなわち、この調整溝部24の深さは、内側リング4のバッククリアランスシール部42bと同じ長さとし、拡張バッククリアランス領域Sαの容積T2は、当該拡張バッククリアランス領域Sαを除いたバッククリアランス領域Sの容積T1の100%とした。その他の部分は実施例1と同一であるので説明を省略する。
【比較例】
【0058】
[比較例1]
比較例1は、図7に示すように、実施例2の内燃機関用ピストン構造と比べて、内側リング60の径方向の幅が、本件発明に規定の範囲を超えて小さい例である。すなわち、比較例1は、外側リング3及びリング溝2の構成は実施例2と同様であるが、内側リング60は、径方向の幅が1.5mm、ピストン軸方向の厚さが0.8mmとした。図7から明らかであるように、内側リング60は、当該ピストン軸に対して径方向における外側リング3と内側リング4との径方向重なり距離が小さく、比較例1の内側リング60は、インナーカット配置部60aより、バッククリアランスシール部60bの方を大きくした。なお、バッククリアランス領域Sの容積T1は、実施例2と同じである。
【0059】
比較例1の内燃機関用ピストン構造を用いて、実施例1と同じ条件のテストエンジンで試験し、ファーストリングの摩耗量と、シリンダライナ内壁面の摩耗量を測定した。比較例1におけるライナ摺動面のプロフィールを図11のグラフに示す。
【0060】
[比較例2]
比較例2では、図8に示すように、特許文献2に開示の発明を適用した例であり、リング溝2に内側リングを挿入するための挿入溝71を形成し、この挿入溝71の下面部と、インナーカット部9とのそれぞれに内側リング70を面接触させて跨設する構成とした例を示す。すなわち、リング溝2に、内側リング70を挿入配置する挿入溝71を、開口幅がW5=0.9mm、溝の深さ(ピストン径方向の長さ)が0.5mmの寸法で形成した。外側リング3は実施例1と同じものを使用し、内側リング70は、ピストン軸方向の厚さが0.8mm、径方向の幅が3.35mmのレクタンギュラ型リングを使用した。また、内側リング70は、外径が131.7mmのものを用い、ピストン軸に対して、径方向における外側リングと内側リングとの径方向重なり距離が1.85mm、バッククリアランスシール部70bが1.0mm、挿入溝への挿入部分70cが0.5mmとなるように配置した。なお、バッククリアランス領域Sの容積T1は、実施例1と同じである。
【0061】
比較例2のコンプレッションリングをファーストコンプレッションリングとして、実施例1と同じ条件のテストエンジンで試験し、コンプレッションリングの摩耗量及びシリンダライナ内壁面の摩耗量を測定した。
【0062】
[比較例3]
比較例3は、図9に示すように、リング溝2に形成する内側リング70の挿入溝72の溝の深さ(ピストン径方向の長さ)を1.0mmと、比較例2に比べて大きな溝とし、内側リング70を挿入溝72内により深く挿入配置した例である。外側リング3は実施例1と同じものを使用し、内側リング70は比較例2と同じものを使用した。そして、内側リング70は、外径が131.3mmのものを使用した。インナーカット配置部70aが1.31mm、バッククリアランスシール部70bが1.0mm、挿入溝72への挿入部分70cが1.0mmとして配置した。なお、バッククリアランス領域Sの容積T1は、実施例1と同じである。
【0063】
比較例3のコンプレッションリングをファーストリングとして、実施例1と同じ条件のテストエンジンで試験した。この際、コンプレッションリングの摩耗量及びシリンダライナ内壁面の摩耗量を測定した。
【0064】
[比較例4]
比較例4は、従来例のコンプレッションリングである。すなわち、図13に示すように、レクタンギュラ型リングのみからなるものであり、寸法は、ピストン軸方向の幅を2.88mm、径方向の幅を4.5mmとし、材質は実施例1の外側リングと同じ条件とした。
【0065】
<実施例と比較例との対比>
図10に、従来例である比較例4の上死点付近の摩耗量を1とした場合の実施例及び比較例の摩耗量比を対比した結果をグラフに示す。一般的に、シリンダライナは、ピストンの上死点付近が最も摩耗しやすい箇所であり、当該箇所の摩耗量を比較対比することによって、ピストンの耐摩耗性を図ることができるのである。図10を見ると、比較例4の摩耗量を1とした場合に、比較例1〜比較例3は同じ摩耗量であるのに対し、実施例1は0.90、実施例2は0.80、実施例3は0.85と、大幅に摩耗量を低減出来たことが示された。特に、実施例2は、耐摩耗性が大きく向上している。
【0066】
次に、図11に、実施例1及び比較例1について、テストエンジンを用いた試験後のシリンダライナの摺動面の摩耗量のプロフィールを示す。図11では、グラフ上方が上死点付近である。このグラフより、比較例1の最大摩耗量は10μmであったのに対し、実施例1の最大摩耗量は7μmと、摩耗量を顕著に低減出来たことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本件発明に係る内燃機関用ピストン構造は、リング溝内のコンプレッションリングの内周面側におけるバッククリアランス領域のシール性が高く、燃焼ガスの漏洩を減少させるとともに、バッククリアランス領域の内圧を過剰に高くすることを防ぐことができる。この結果、バッククリアランス領域からの荷重によって、コンプレッションリングとシリンダライナ内壁面の間の耐摩耗性に優れたコンプレッションリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本件発明に係る内燃機関用ピストン構造を用いたピストンの部分断面図である。
【図2】本件発明に係るコンプレッションリングの内側リングの内周面形状を説明するための部分断面図である。
【図3】本件発明に係る内燃機関用ピストン構造を示すピストンの部分断面図である。
【図4】実施例1の内燃機関用ピストン構造を示すピストンの部分断面図である。
【図5】実施例2の内燃機関用ピストン構造を示すピストンの部分断面図である。
【図6】実施例3の内燃機関用ピストン構造を示すピストンの部分断面図である。
【図7】比較例1の内燃機関用ピストン構造を示すピストンの部分断面図である。
【図8】比較例2の内燃機関用ピストン構造を示すピストンの部分断面図である。
【図9】比較例3の内燃機関用ピストン構造を示すピストンの部分断面図である。
【図10】実施例及び比較例におけるシリンダライナの摺動面の摩耗量比を示すグラフである。
【図11】実施例1及び比較例1におけるシリンダライナの摺動面のプロフィールを示すグラフである。
【図12】一般的な内燃機関用ピストンをシリンダライナに収容した状態を示す部分断面図である。
【図13】従来のコンプレッションリングの装着構造を示すピストンの部分断面図である。
【符号の説明】
【0069】
2・・・リング溝
3・・・外側リング
4・・・内側リング
6・・・ピストン
9・・・インナーカット部
21・・リング溝底面
31・・外周摺動面
32・・外側リング内周面
33・・外側リングの側面
41・・内側リング内周面
51・・シリンダライナ内壁面
91・・壁部
92・・平面部
S・・・バッククリアランス領域
A・・・内側リングの径方向幅
B・・・外側リングのインナーカット部の径方向幅
C・・・外側リングのインナーカット部の段差の高さ
D・・・内側リングのピストン軸方向の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に用いられるピストンの外周に形成されたリング溝内に装着する内燃機関用のコンプレッションリングであって、
当該コンプレッションリングは、外側リングの内周側に同心円状に内側リングを重ねて配置したものであり、
当該内側リングは、その外径が当該外側リングの内径より大きく、内側リングの内径が当該外側リングの内径より小さく、且つ、内側リングの内周面と当該リング溝のリング溝底面とが接触可能なリング幅Aを有し、
当該外側リングは、ピストン軸方向の一面側の内周側に、内側リングを載置可能な内周方向に沿った段差面であるピストン軸に対して径方向の幅Bのインナーカット部を備え、
当該ピストン軸に対して径方向における外側リングと内側リングとの径方向重なり距離が、幅Bのインナーカット部に対し、内側リングのリング幅Aの(1/2)A以上を接触載置したことを特徴とする内燃機関用のコンプレッションリング。
【請求項2】
前記外側リングのインナーカット部の段差のピストン軸方向の高さをCとし、内側リングのピストン軸方向の厚さをDとしたとき、C>Dの関係を満たすものである請求項1に記載の内燃機関用のコンプレッションリング。
【請求項3】
ピストンの外周に形成されたリング溝内に請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用のコンプレッションリングを装着した内燃機関用ピストン構造であって、
ピストンの外周に形成されたリング溝内に、当該コンプレッションリングの外側リングの内周側に同心円状に内側リングを重ねて配置したとき、
外側リングの内周面とリング溝との間にバッククリアランス領域を備え、
且つ、内側リングの内周面と当該リング溝のリング溝底面とが接触して、燃焼室内の燃焼ガスのバッククリアランス領域への流入制御を行うことを特徴とした内燃機関用ピストン構造。
【請求項4】
前記リング溝底面のクランク室側には、前記外側リングが拡大する方向に受ける圧力を調整するために、前記バッククリアランス領域の容積を調節するための調整溝部を更に形成した請求項3に記載の内燃機関用ピストン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−84654(P2010−84654A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255053(P2008−255053)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】