説明

内燃機関用の点火コイル

【課題】点火コイルを取り付け固定するフランジに備えられたGND端子を介して取り付け用ボルトから電気的ノイズを除去する点火コイルでは、GND端子からは電気的ノイズの他に、点火コイルの動作時に発生する熱も伝達され、動作時の点火コイルはコイル部及びイグナイタ共に高温になり、動作保証温度の限界値を超えると点火コイルに要求されている性能を発揮できなくなる。
【解決手段】GND端子は、ブッシュと接続するブッシュ接続部と、鉄芯と電気的に接続する鉄芯接続部と、を有し、GND端子は、フランジに対してブッシュの軸方向下端部に位置する面に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火コイルに関し、特にGND接続端子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関用の点火コイルにおいて、鉄芯及び1次コイルからのノイズを除去するための点火コイルのコネクタ内にグランド用端子を備える構造とするものがある。しかし、コネクタ内にグランド用の端子を備えると、コネクタ内に備えられた点火信号の端子がノイズの影響を受けてしまう問題が生じた。
【0003】
このような問題を解決するために、点火コイルを取り付け固定するフランジに備えられたグランド端子を介して取り付け用ボルトからグランド電位が確保されている。また、このような点火コイルにはグランド端子をケースの取り付けフランジ内にインサートし、グランド端子の変形及び破損を防ぐことを目標としていくつかの構成が提案されている。この代表的な例として、例えば特開2007−198193号公報(以下「特許文献1」)が知られている。
【0004】
上記特許文献1においては、内燃機関用点火コイルは、一次コイル及び二次コイルと、その二つのコイルを磁気的に結合させる鉄心と、これらを収納する絶縁ケースとを備え、絶縁ケースのフランジ部を取り付けボルトでエンジンに固定することにより当該ボルト或いはブッシュを介してエンジンと接地する接地端子をフランジ部に有するものであって、接地端子をフランジ部に内蔵するととともに、フランジ部に形成したボルト孔近傍に設置したブッシュを介してエンジンと導通させる。
【0005】
また、接地端子はフランジ部の厚さ方向のほぼ中央に設置されており、ボルト孔の位置で上下から挿入された導電性を有するブッシュによって狭持されている。ブッシュは、ボルト孔の内周に挿通されており、取り付けボルトを締め付けることにより、接地端子と電気的導通が生じる。さらに、2個のブッシュと接地端子との厚さの総計は、フランジ部の厚さよりやや厚く構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−198193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記従来の点火コイルでは次のような問題が生じている。即ち、特許文献1の点火コイルでは、前記接地端子を前記フランジ部に内蔵するとともに、フランジ部に形成したボルト孔近傍に設置したブッシュを介して接地端子とエンジンとを導通させる。これにより接地端子と取り付けボルトが直接接触することがなく、変形や破断されることを防いでいる。
【0008】
しかし、GND端子からは電気的ノイズの他に、点火コイルの動作時に発生する熱も伝達されている。また、動作時の点火コイルはコイル部及びイグナイタ共に高温になり、動作保証温度の限界値を超えると点火コイルに要求されている性能を発揮できなくなる。このことから、GND端子には変形及び破損の防止やノイズの低減以外に放熱性を向上させる必要が生じる。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、点火コイルの動作時に発生する鉄芯の熱に対する放熱性能を向上させ、点火コイルに要求されている性能を発揮することができる内燃機関用の点火コイルを提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は次のような構成とする。即ち、中心鉄芯と外周鉄芯とからなる鉄芯及び1次ボビンに1次巻線を巻き回した1次コイル及び2次ボビンに2次巻線を巻き回した2次コイルを収容するケースと、当該ケースに形成した略円筒形状の導電性ブッシュを有したフランジと、当該ケース内にインサートした導電性を有したGND端子と、からなる内燃機関用の点火コイルにおいて、当該GND端子は、前記ブッシュと接続するブッシュ接続部と、前記鉄芯と電気的に接続する鉄芯接続部と、を有し、前記GND端子は、前記フランジの外周面に露出して配置されることを特徴とする内燃機関用の点火コイルとする。
【0011】
上記構成においては、前記GND端子は、前記フランジに対して前記ブッシュの軸方向下端部に位置する面に配置させてもよいし、前記GND端子は、前記フランジに対して前記ブッシュの前記軸方向下端部に位置する面の全面に配置させてもよい。また、前記GND端子は、前記鉄芯接続部のみ前記ケースに埋没させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
上記の通り、ケースに形成した略円筒形状の導電性ブッシュを有したフランジと、ケース内にインサートした導電性を有したGND端子と、からなる内燃機関用の点火コイルにおいて、GND端子は、ブッシュと接続するブッシュ接続部と、鉄芯と電気的に接続する鉄芯接続部と、を有し、GND端子は、フランジに対してブッシュの軸方向下端部に位置する面に配置されることで、点火コイルに発生したノイズを除去すると共に、点火コイルの動作時に発生する鉄芯の熱に対する放熱性能を向上させ、点火コイルに要求されている性能を発揮することができる内燃機関用の点火コイルが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施例とする内燃機関用の点火コイルの部分断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例とするブッシュ及びGND端子、鉄芯の接続状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施例とする内燃機関用の点火コイルの斜視図である。
【図4】図3の矢印(A)方向から見たB−B断面図である。
【図5】図4の(C)部拡大図である。
【図6】第1の実施例の変形例とする内燃機関用の点火コイルの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施例の形態を示す実施例を図1乃至図6に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の第1の実施例とする内燃機関用の点火コイルの部分断面図を図1に、ブッシュ及びGND端子、鉄芯の接続状態を示す斜視図を図2に、内燃機関用の点火コイルの斜視図を図3に、図3の矢印(A)方向から見たB−B断面図を図4に、図4の(C)部拡大図を図5に、第1の実施例の変形例とする内燃機関用の点火コイルの部分断面図を図6にそれぞれ示す。
【0016】
図1乃至図6において、点火コイル80の外形を形成するケース40は、絶縁性の樹脂からなる鉛直方向上面に開口面を有した箱型の一体成形で形成されている。また、当該ケース40には当該点火コイル80をエンジンブロック74に取り付け固定するための略三角柱状のフランジ46を形成している。さらに、当該フランジ46の先端部46a付近には当該エンジンブロック74に固定するためのボルトを通すための略円筒状の導電性を有したブッシュ54がインサート成形によって固定されている。
【0017】
また、前記ケース40の側面にはバッテリからの1次電圧及びECUからの点火信号を受け取るためのコネクタ端子60を有したコネクタ44が形成されている。さらに、前記点火コイル80の外側側面には2次電圧を点火プラグに供給するための高圧端子58を備える高圧タワー42はエンジン上部に形成されたプラグホール内に向かって突出するように形成されている。
【0018】
また、前記ケース40の外側底面は前記高圧タワー42方向へ向かってすり鉢状に形成されている。さらに、前記高圧タワー42には前記高圧端子58と前記点火プラグを電気的に接続するためのスプリングを有したプロテクタ76を備えている。
【0019】
また、前記点火コイル80は、珪素鋼板から構成された薄板を複数枚積層して形成したI字型の中心鉄芯20とコの字型の外周鉄芯22とからなる鉄芯と、当該中心鉄芯20の外周に樹脂で成形された1次ボビン10の外周に1次巻線12を100ターン程度巻き回した1次コイルと、当該1次コイルの外周に樹脂で成形された2次ボビン14の外周に2次巻線16を8000〜15000ターン程度巻き回した2次コイルのコイル部から構成されている。
【0020】
また、前記外周鉄芯22は前記鉄芯の磁路が前記ケース40の開口面と垂直方向になるように配置されている。さらに、前記中心鉄芯20と前記外周鉄芯22の接続面の一方には前記1次コイルにより発生した磁束と反対方向の磁束を磁路中に発生させるためのマグネット26を備えている。
【0021】
また、前記2次ボビン14の一端には前記高圧端子58に2次電圧を供給するための2次高圧端子62が備えられている。さらに、前記2次ボビン14の他端には前記1次コイルからの1次電圧を受け取るための2次低圧端子(図示しない)が備えられている。
【0022】
また、前記ケース40内には前記1次コイルへ点火信号を供給するスイッチング素子及びリードフレームを絶縁樹脂モールドしたものからなるイグナイタ30が備えられている。さらに、当該リードフレームは当該スイッチング素子のベース及びコレクタ、エミッタのそれぞれが外部と接続するためのイグナイタ端子32としての機能を有している。
【0023】
また、前記コネクタ端子60は前記バッテリから前記1次コイル及び前記2次コイルの低圧側とを結ぶ端子と、前記ECUから前記イグナイタ30のベース側に配置された前記イグナイタ端子32を結ぶ端子と、前記イグナイタ端子32のエミッタ側に配置された前記イグナイタ端子32からグランドを結ぶ端子の合計3本の端子から構成されている。
【0024】
また、前記イグナイタ端子32及び前記コネクタ端子60は略平板状の金属端子を有し、前記イグナイタ端子32及び前記コネクタ端子60は前記ケース40開口面と垂直方向に導出され、前記コネクタ端子60は前記ケース40に形成された前記コネクタ44と同一面の前記ケース40の内壁に這って配置されている。さらに、前記イグナイタ端子32及び前記コネクタ端子58のうち2個を同方向に導出させると共に、それぞれの間で電気的に導通を実現する如く溶接を用いて接続されている。
【0025】
また、前記ケース40に形成された前記フランジ46に備えられた前記ブッシュ54の軸方向下端部54aに、前記ブッシュ54から前記中心鉄芯20を結ぶ平板状のステンレスで成形したGND端子50をインサート成形で備える。さらに、当該GND端子50は前記フランジ46に備えられた前記ブッシュ54の当該軸方向下端部54aと対向する面を外部に露出して配置されている。
【0026】
また、前記GND端子50は前記ブッシュ54と接続するブッシュ接続部51aと前記中心鉄芯20と接続する鉄芯接続部51bとを形成している。さらに、前記GND端子50の当該ブッシュ接続部51aは前記ボルトを通すための略円形のボルト孔53を形成している。
【0027】
また、前記GND端子50は前記ブッシュ接続部51aと前記鉄芯接続部51bとの間に曲部52を形成し、当該曲部52周辺を前記ケース40にインサートすることで前記GND端子50の固定を行っている。さらに、前記GND端子50の前記ブッシュ接続部51aは前記ブッシュ54の前記軸方向下端部54aと面接触で接続されている。
【0028】
また、前記GND端子50の前記鉄芯接続部51bは前記ケース40内に導出すると前記中心鉄芯20の前記ケース40底面側に沿って引き出されている。さらに、前記GND端子50は前記中心鉄芯20の前記ケース40底面側に形成されたへこみ部21に挿入され接続されている。
【0029】
また、前記GND端子50は治具で固定されて前記ケース40にインサート成形している。さらに、前記外周鉄芯22は前記中心鉄芯20及び前記マグネット26との接続面を除いた周囲をポリブチレンテレフタレートで成形された鉄芯カバー24で覆われている。
【0030】
また、前記ケース40内には前記点火コイル80の電気的絶縁及び各部材の物理的固定を実現するモールド樹脂70が充填されている。さらに、当該モールド樹脂70が前記ケース40の前記開口面付近まで充填され、前記鉄芯及び前記1次コイル、前記2次コイルは前記ケース40の前記開口面付近に形成される樹脂面72より低い位置に備えられている。
【0031】
また、前記ブッシュ54及び前記GND端子50の前記ボルト孔53に対して図4に示す上端から下端の方向に向かって前記ボルトを挿入し、前記GND端子50と前記エンジンブロック74を当接させて前記鉄芯からのノイズと熱を前記エンジンブロック74に放出している。
【0032】
上記構成により、前記ケース40に形成された前記フランジ46に備えられた前記ブッシュ54の前記軸方向下端部54aに、前記GND端子50をインサート成形で備える。また、前記GND端子50は前記フランジ46に備えられた前記ブッシュ54の前記軸方向下端部54aと対向する面を外部に露出して配置されている。このことから、前記鉄芯に発生したノイズを除去すると共に、前記点火コイル80の動作時に発生する前記鉄芯の熱は図5の矢印に示すように、前記GND端子50を介して前記エンジンブロック74等の外部に放出される。
【0033】
また、前記GND端子50は前記エンジンブロック74と面接触することで、従来の前記ブッシュ54から前記エンジンブロック74と面接触する構造より接触面積が広くなり、前記鉄芯の放熱性能が向上され、点火コイルに要求されている性能を発揮することができる。
【0034】
また、前記GND端子50は前記ブッシュ接続部51aと前記鉄芯接続部51bとの間に前記曲部52を形成し、前記曲部52周辺を前記ケース40にインサートすることで前記GND端子50の固定を行っている。このことから、前記ケース40内に前記モールド樹脂70を充填した際に前記GND端子50が脱落することを防ぐことができる。
【0035】
上記実施例1の変形例として、前記ケース40に形成される前記フランジ46の形状はエンジン側の設計事情に合わせて任意の形状に変更してもよい。また、前記ブッシュ54の形状は設計事情によって任意の形状に変更してもよいし、前記ブッシュ54をインサートする位置は前記フランジ46の前記先端部46a以外の位置に変更してもよい。さらに、前記GND端子50はステンレス以外の導電性を有した材質から成形してもよい。
【0036】
また、前記GND端子50は図6に示すような前記フランジ46に対して前記ブッシュ54の前記軸方向下端部54aに位置する面の全面に配置する構造として、前記ブッシュ接続部51aを拡径して前記鉄芯の放熱性をさらに向上させてもよいし、前記GND端子50を前記フランジ46の外周面に露出する面積が増大する形状に変更して前記鉄芯の放熱性をさらに向上させてもよい。さらに、前記GND端子50の前記曲部52の形状は前記ケース40内に前記モールド樹脂70を充填した際に前記GND端子50が脱落しなければ任意の形状に変更してもよい。
【0037】
また、前記GND端子50は前記中心鉄芯20及び前記外周鉄芯22と電気的に接続する形状にしてもよいし、前記GND端子50の前記鉄芯接続部51bと前記中心鉄芯20の接続構成は上記の構成に限らず適宜に変更してもよい。さらに、前記GND端子50は前記鉄芯以外にも、前記1次コイル又は前記2次コイル、前記イグナイタ30の接地を行う構成としてもよい。
【0038】
また、前記フランジ46は前記エンジンブロック74に取り付け固定したが、前記点火コイル80の取り付けはエンジンの仕様によって適宜変更可能である。さらに、前記点火コイル80の取り付け位置が変更されても前記GND端子50を前記フランジ46と前記点火コイル80の取り付け部の間に配置すれば本発明の効果を満たすことができる。
【符号の説明】
【0039】
10:1次ボビン
12:1次巻線
14:2次ボビン
16:2次巻線
20:中心鉄芯
21:へこみ部
22:外周鉄芯
24:鉄芯カバー
26:マグネット
30:イグナイタ
32:イグナイタ端子
40:ケース
42:高圧タワー
44:コネクタ
46:フランジ
46a:先端部
50:GND端子
51a:ブッシュ接続部
51b:鉄芯接続部
52:曲部
53:ボルト孔
54:ブッシュ
54a:軸方向下端部
56:接続端子
58:高圧端子
60:コネクタ端子
62:2次高圧端子
70:モールド樹脂
72:樹脂面
74:エンジンブロック
76:プロテクタ
80:点火コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心鉄芯と外周鉄芯とからなる鉄芯及び1次ボビンに1次巻線を巻き回した1次コイル及び2次ボビンに2次巻線を巻き回した2次コイルを収容するケースと、当該ケースに形成した略円筒形状の導電性ブッシュを有したフランジと、当該ケース内にインサートした導電性を有したGND端子と、からなる内燃機関用の点火コイルにおいて、
当該GND端子は、前記ブッシュと接続するブッシュ接続部と、前記鉄芯と電気的に接続する鉄芯接続部と、を有し、
前記GND端子は、前記フランジの外周面に露出して配置されることを特徴とする内燃機関用の点火コイル。
【請求項2】
前記GND端子は、前記フランジに対して前記ブッシュの軸方向下端部に位置する面に配置されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項3】
前記GND端子は、前記フランジに対して前記ブッシュの前記軸方向下端部に位置する面の全面に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項4】
前記GND端子は、前記鉄芯接続部のみ前記ケースに埋没させていることを特徴とすることを特徴とする請求項1乃至3に記載の内燃機関用の点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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