説明

内燃機関用バタフライバルブ装置

【課題】バタフライ型バルブをなす弁体の上流側に位置する上流側半分領域のみに、弁体の表面積を稼ぎながら凝縮水を中央部分へ集めることができる溝を複数形成することにより、弁体の強度を低下させることなく、凝縮水による軸受の発錆を防止して、エンジンの安全運転に資することができる内燃機関用バタフライバルブ装置を提供する。
【解決手段】弁体32の上流側半分領域32Aにおいて表面32aおよび裏面32bのみに、下流側に向かって頂部を有するV字状の凝縮水排水用の溝35を、上流側から下流側へ複数配列している。これにより、酸性成分を含む凝縮水が弁体32に付着しても、溝35により弁体32の周縁部分から中央部分に集め、排水するため、凝縮水がシャフト33を支承する軸受8、9へ浸入することがなく、軸受8、9の発錆を防ぐことができる。また、弁体32の片側半分のみを活用するため、弁体32全体の強度を損なうことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のごとき車両に搭載される内燃機関(以下、エンジンという。)に賞用されているバタフライバルブ装置、特に、エンジンの燃焼室に吸入される空気量を直接制御等するための弁体としてバタフライ型バルブ(蝶形弁)が採用されているバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来の技術)
この種のバタフライバルブ装置としては、多種多様のものが実用に供されている。その代表例である吸気制御用スロットルバルブ装置を、図1に基づき概説する。図1は、エンジン1の吸・排気系を模式的に示すものであって、エンジン1の燃焼室1aに向けて燃焼用の空気を導く吸気通路2には、この吸気通路2の開閉あるいは開度調整を行なうスロットルバルブ装置3が設けられている。このスロットルバルブ装置3は、吸気ダクト4の一部をなすハウジング31と、板状のバタフライ型バルブをなす弁体32と、この弁体32を回動操作するシャフト33とからなり、エンジン1の運転条件に応じて吸気通路2の通路面積を増減して、矢印Aのごとく流れる吸入空気の量、即ちエンジン1の吸入空気量を制御するものである。
【0003】
そして、エンジン1は、運転条件によっては矢印Bのごとく吸気通路2の下流側(吸気下流側)から吸気通路2の上流側(吸気上流側)へ向かう火炎を伴う燃焼ガスの逆流、所謂バックファイアが発生し、このバックファイアによる高温高圧の燃焼ガスが吸気通路2内に充満する場合がある。
また、排気ガス浄化対策のために、排気ガスの一部を、排気管7から排気再循環路80を経由して、吸気通路2、とりわけスロットルバルブ装置3の下流側へ積極的に導入することにより再度燃焼させるEGR装置が装着される例も多くなっている。具体的には、排気再循環路80に排気再循環制御用バルブ装置90を配設するもので、かかるバルブ装置90にも、上記のスロットルバルブ装置3と同様に、ハウジング91、バタフライ型バルブをなす弁体92およびシャフト93からなるバタフライバルブ装置が用いられている。
かくして、バタフライバルブ装置の周辺には燃焼ガス(排気ガス)が常時存在し、弁体32、92が、かかるガスの雰囲気に晒されることになる。
【0004】
(従来技術の問題点)
しかしながら、上記構成のバタフライバルブ装置においては、燃焼ガス(排気ガス)中に例えば亜硫酸ガスのごとき酸性の成分(発錆を促進する成分)が含まれていることに起因して、シャフト33、93をハウジング31、91に対して支承している軸受が比較的短期間に発錆し、弁体32、92の回動不良を招くという問題が発生した。
つまり、金属、特に鉄系材からなる軸受は、水と空気の共存により発錆することが知られているが、エンジン1の停止後、各バルブ装置3、90の周りに滞留する空気が冷えるに従い凝縮水として弁体32、92の表面に付着し、この凝縮水がシャフト33、93を伝わり、かかるシャフト33、93とハウジング31、91との隙間を経由して、軸受の周りに集まる。この凝縮水には、上記の燃焼ガス(排気ガス)中の酸性成分が加わっているため、軸受の発錆が一層促進され、短期間で弁体32、92の回動不良を招くまでに発錆することが判明した。
そして、このような事態が惹起されると、弁体32、92による吸入空気量が制御不能となり、エンジン1の安全運転に突然支障を来たすという致命的欠陥を招きかねず、早急に解決策が望まれている。
【0005】
一方、この種のバタフライバルブ装置においては、凝縮水が氷結することにより弁体が回動不能になる事態を避けるための研究開発が重ねられており、この氷結を防止する手段として、種々の提案がなされている。比較的簡単な構造としては、例えば特許文献1に示されているように、弁体の表裏両面に凹部を形成して、水滴(凝縮水)が上半分側の領域から下半分側の領域へと流れるようにし、下半分側の領域のところに集まった水滴を溜める貯留壁を立設するものがある。
【0006】
したがって、このような氷結を防止する構造を、上記の軸受の発錆を防止する手段として適用することも考えられるが、次のような問題が想起されることから、実用に供することができないのが現状である。
(1)水滴(凝縮水)を貯留壁により弁体上に溜める発想であるため、この溜まった凝縮水がエンジン振動等により軸受のところへ浸入する恐れがある。
(2)弁体の表裏全体にわたって凹部を形成しているため、弁体の板厚が実質的に薄くなり、弁体自体の強度が心配される。
【0007】
以上、バタフライバルブ装置における発錆の問題点を、代表例である吸気制御用スロットルバルブ装置や排気再循環制御用バルブ装置を用いて詳述したが、最近のエンジンには、図1において、吸気ダクト4の各分岐管4aから各気筒の吸気ポート1bへの吸気流を、より好適な流れに変更するためのタンブルバルブ装置やスワールバルブ装置が設置される傾向にある。そして、これらのバルブ装置においても、弁体としてバタフライ型バルブを採用せざるを得ない場合には、酸性成分を含む凝縮水による軸受発錆の影響について、全く同様の問題を抱えている。
【0008】
本発明者らは、かかる問題を究明すべく、種々の実験・研究を重ねたところ、バタフライ型バルブをなす弁体の半分領域、とりわけ上流側に位置する半分領域を巧みに活用することにより、弁体の強度を低下させることなく、凝縮水を効果的に排水し得ることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−4893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の究明結果に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、バタフライ型バルブをなす弁体の上流側に位置する半分領域のみに、弁体の表面積を稼ぎながら凝縮水を中央部分へ集めることができる溝を複数形成することにより、弁体の強度を低下させることなく、凝縮水による軸受の発錆を防止して、エンジンの安全運転に資することができる内燃機関用バタフライバルブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[請求項1の手段]
請求項1に記載の発明によれば、弁体は、全体として、中央付近でシャフトに支持され、板厚方向の両側に表面および裏面を有する板状のバタフライ型バルブをなしており、弁体が吸気通路を開口したときに、シャフトに対して上流側に位置する上流側半分領域と、シャフトに対して下流側に位置する下流側半分領域とを有していることから、弁体には、上流側半分領域の表裏両面のみに、下流側に向かって頂部を有するV字状の凝縮水排水用の溝が、上流側から下流側へ複数配列されていることを特徴としている。
【0012】
このような構成にすることにより、弁体に付着した凝縮水は各列のV字状の溝に案内されてその頂部に向かいながら、つまり弁体の中央部分に集まりながら順次流下していくため、集水により自重落下効果が増長されることも相俟って、凝縮水を弁体の中央部分、換言すれば吸気通路の中心部分から良好に排水することができる。
また、複数の凝縮水排水用の溝は弁体の総表面積を実質的に増やし、凝縮水の捕捉量を増やすため、一層排水効果が助長される。
したがって、凝縮水が軸受側へ浸入するのを防ぐことができる。
加えて、凝縮水排水用の溝を設ける領域は弁体の半分のみであり、溝自体の形状も下流側に頂部を有するV字状をなしているため、弁体自体の強度についても高強度を維持することができる。
【0013】
[請求項2の手段]
請求項2に記載の発明によれば、複数の凝縮水排水用の溝には、隣り合う溝の頂部を互いに連通するための連絡路が設けられていることを特徴としている。
このような構成にすることにより、各溝に付着した凝縮水を上流側から下流側へと順次円滑に流下させることができ、凝縮水の集水・排水効果を一層助長することができる。
【0014】
[請求項3の手段]
請求項3に記載の発明によれば、シャフトは、弁体の上流側半分領域側の外周面に、凝縮水排水用の溝とも連通する凝縮水案内用のV字状凹面を有しており、このV字状凹面は、シャフトの軸線に沿って延展するとともにシャフトの中央部に向かって軸心側へ傾斜するV字状をなしていることを特徴としている。
かかる構成にすることにより、弁体の上流側半分領域に付着した凝縮水を、確実にシャフトの中央部に集め、排水することができる。
【0015】
[請求項4の手段]
請求項4に記載の発明によれば、シャフトには、弁体の上流側半分領域と下流側半分領域との表面同士および裏面同士をそれぞれ連通する流通路が設けられていることを特徴としている。
かかる構成により、弁体の上流側半分領域に付着した凝縮水を、流通路を介して弁体の下流側半分領域へ確実に流下させ、排水することができる。したがって、凝縮水が弁体上で滞留することがない。
【0016】
[請求項5の手段]
請求項5に記載の発明によれば、弁体には、上流側半分領域における板厚方向の周面のみに、周方向に伸びる凝縮水排水用の半環状溝が設けられていることを特徴としている。
このような構成にすることにより、弁体の板厚方向の周面に付着した凝縮水も、集水・排水することができる。したがって、弁体の周面を伝う凝縮水が軸受側へ浸入するのを防ぐことができる。
【0017】
[請求項6の手段]
請求項6に記載の発明によれば、弁体には、凝縮水排水用の半環状溝の両端部を、下流側半分領域における板厚方向の周面にそれぞれ開口させるための貫通孔が設けられていることを特徴としている。
このような構成にすることにより、弁体の上流側半分領域の板厚方向の周面に付着した凝縮水を、弁体の下流側半分領域へ確実に流下させ、排水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のバタフライバルブ装置を適用するためのエンジンとして、吸気装置および排気装置を備えた一般的なエンジンを一部縦断面にして示す模式図である。
【図2】本発明の実施例1のバタフライバルブ装置の主要部を一部断面にして示す模式的横断面図である。
【図3】図2に示すバタフライバルブ装置の弁体に配列したV字状の溝の形態説明に供するもので、(a)、(b)は図2のX−X線に沿う拡大断面図である。
【図4】図2に示すバタフライバルブ装置のシャフトおよび軸受部の詳細説明に供する縦断面図である。
【図5】図2に示すバタフライバルブ装置の弁体の周縁部の形態説明に供する一部断面拡大図である。
【図6】本発明の実施例2のバタフライバルブ装置の主要部を一部断面にして示す模式的横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態は、弁体の強度を低下させることなく、凝縮水を効果的に排水するという目的を、バタフライ型バルブをなす弁体の特質を活用して、弁体の上流側半分領域の表裏両面のみに、下流側に向かって頂部を有するV字状の凝縮水排水用の溝を、上流側から下流側へ複数配列させることで実現した。
【実施例】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
[実施例1]
図1ないし図5は、本発明の実施例1を説明するためのもので、まず、図1に基づいてバタフライバルブ装置が吸気制御用スロットルバルブ装置として適用されている一般的なエンジンの基本的構成を概説したのち、図2ないし図5に基づいて実施例1のバタフライバルブ装置について詳説する。
【0022】
(適用されるエンジン1の説明)
エンジン1は、自動車のごとき車両に搭載されるものであり、エンジン1の燃焼室1aに向けて燃焼用の空気を導く吸気通路2には、バタフライバルブ装置として、吸気通路2の開閉あるいは開度調整を行なうスロットルバルブ装置3が設けられている。このスロットルバルブ装置3は、基本的には吸気ダクト4に介装されるもので、外郭を呈するハウジング31と、このハウジング31に収容され、吸気通路2の上流側と下流側とを区画するように配置される弁体32と、この弁体32を回動操作するシャフト33とからなり、エンジン1の運転条件に応じて吸気通路2の流路面積を増減して、矢印Aのごとき吸入空気の流れ(エンジン1の吸入空気量)を制御するものである。
【0023】
エンジン1は、通常多気筒で構成されており、各気筒の燃焼室1aが吸気ポート1bを介して吸気ダクト4の各分岐管4aに接続されている。この吸気ダクト4の空気取入口4bにはエアフィルタ5が備えられていて、このエアフィルタ5で清浄にされた空気が矢印Aのごとく流れ、燃焼室1aに導かれる。この吸気ダクト4の空気取入口4bから吸気ポート1bに至る通路が前述の吸気通路2をなしている。
【0024】
吸気ダクト4の各分岐管4aには燃料噴射弁6が設けられていて、この燃料噴射弁6から噴射される燃料と空気との混合気が吸気バルブ1cを介して燃焼室1aに導入され、点火プラグ1dにより点火されて燃焼したガスは排気バルブ1eを介して排気ポート1fから排気管7へと排出される。
【0025】
エンジン1には、排気ガス浄化対策のために、排気管7から排気再循環路80を経由して、排気ガスの一部を吸気通路2、とりわけスロットルバルブ装置3の下流側に積極的に導入し再度燃焼させるEGR装置が装着される傾向にある。具体的には、吸気通路2におけるスロットルバルブ装置3の下流側と排気管7とが、排気再循環路80によって接続され、この排気再循環路80に排気再循環制御用バルブ装置90が介装される。
【0026】
かかる排気再循環制御用バルブ装置90も、バタフライバルブ装置をなしており、スロットルバルブ装置3と同様の基本構造、即ち排気再循環路80の一部をなすハウジング91と、このハウジング91に収容され、バタフライ型バルブとして排気再循環路80の開閉あるいは開度調整を行なう板状の弁体92と、この弁体92を回動操作するシャフト93との3部材からなる基本構造を有している。このように、エンジン1にEGR装置が装着される場合には、排気再循環路80も、排気ガスとはいえエンジン1への吸気を司るため、エンジン1に対する吸気通路を構成することになる。
【0027】
(スロットルバルブ装置3の詳細な説明)
スロットルバルブ装置3は、前述のごとく吸気通路2を形成する吸気ダクト4に配設されるもので、図2に示すごとく、吸気ダクト4の一部を構成する円筒状のハウジング31と、吸気通路2の内部に配置され、吸気通路2の開閉あるいは開度調整を行なう樹脂製の弁体32と、ハウジング31に回動自在に支承され、弁体32を吸気通路2の内部で回動操作する金属製のシャフト33とを、基本構成として具備している。
【0028】
弁体32は、全体として吸気通路2の横断面形状に応じた円板状を呈し、板厚方向の両側に表面32aおよび裏面32bを有しており、吸気通路2の上流側と下流側とを区画するように、中央付近でシャフト33に支持され、バタフライ式バルブを構成している。本実施例では、弁体32とシャフト33との固定は、シャフト33の軸心に径方向に貫通して形成されたスリット33a(図4参照)に、弁体32を、図2の上方から挿しこみ、弁体32の表面32aに突出形成した位置決め用突起32cがシャフト33に突き当たるまで挿入し、取付ネジ34によって締付固定されている。
【0029】
もっとも、弁体32およびシャフト33の両者を一体化する手段としては、例えばインサート成形技術により容易に製作(一体形成)可能である。この際、シャフト33のスリット33a内周面に、梨地加工等により凹凸面を形成しておくことにより、樹脂製の弁体32を金属製のシャフト33に強固に固着することができる。なお、弁体32の樹脂材料としては、例えばPPSのごとき熱硬化性樹脂が用いられる。
【0030】
弁体32は、吸気通路2を開口(閉弁状態から開弁状態へ移行)したときに、シャフト33に対して上流側に位置する上流側半分領域32Aと、シャフト33に対して下流側に位置する下流側半分領域32Bとを有している。そして、弁体32の上流側半分領域32Aのみに、表面32aおよび裏面32bの両面にわたって、凝縮水排水用の溝35が設けられている。この溝35は、下流側に頂部を有するV字状をなしており、弁体32の上流側半分領域32Aにおいて、上流側から下流側へ5列並設されている。なお、5列の溝35のうち、上流側2列の溝35a、35bは完全なV字状をなしているのに対し、残り3列の溝35c、35d、35eは、逆ハの字形をなしており、厳密にはV字状でなく頂部を有していないが、本実施例ではこのような逆ハの字形も一種の下流側に頂部を有するV字状溝として取扱うこととする。
【0031】
凝縮水排水用の溝35において、各溝35a〜35eの横断面(流れ方向に直角な断面)形状は、円滑に排水が行なわれるように適宜選定されるもので、図3(a)に示すように、半円形状に凹んだ逆かまぼこ型、図3(b)に示すように、下流側が深い溝に形成された鋸歯型の何れでも良い。いずれにしても、複数の凝縮水排水用の溝35は、弁体32の総表面積を実質的に増やし、凝縮水の捕捉量を増やすのに効果的である。
【0032】
さらに、弁体32には、上流側半分領域32Aにおける板厚方向の周面のみに、周方向に伸びる凝縮水排水用の半環状溝36が設けられている。そして、この半環状溝36の両端部を、下流側半分領域32Bにおける板厚方向の周面にそれぞれ開口させる貫通孔37が、弁体32に設けられている。貫通孔37は、図5に示すように、入口37aが上流側半分領域32Aに開口し、出口37bが下流側半分領域32Bに開口している。
【0033】
シャフト33は、弁体32の上流側半分領域32A側に位置する外周面が、一部分軸方向に面取りされている。この面取り部分が、シャフト33の軸線に沿って延展するとともにシャフト33の中央部に向かって軸心側へ傾斜する凝縮水案内用のV字状凹面38を形成している。
また、シャフト33の中央部には、弁体32の上流側半分領域32Aと下流側半分領域32Bとの表面32a同士および裏面32b同士をそれぞれ連通する流通路39が設けられている。
この流通路39は、弁体32およびシャフト33を、インサート成形技術により一体化する場合にも、治具を用いて容易に設けることができる。
【0034】
本実施例では、スリット33aおよびV字状凹面38を有する金属製のシャフト33が、円柱状の金属棒(例えばステンレス鋼材や耐熱鋼材)から削り出し加工によって形成されている。もっとも、シャフト33を、弁体32と同様に樹脂製にすることができる。また、弁体32は、溝35、半環状溝36および貫通孔37を有し、比較的複雑な形状を呈しているが、金属板からプレス加工、削り出し加工などによって製作可能で、金属製にすることもできる。
【0035】
なお、シャフト33の両端部33b、33cは、それぞれ軸受8、9を介してハウジング31の膨出部31a、31bに回動自在に支承されており、一方の端部33bが駆動源10に連結される。この駆動源10は、周知のごとく、図示しない電子制御装置からエンジン1の運転状態に応じた制御信号を受け、シャフト33を所定位置まで回動操作するもので、モータ等で構成される。
軸受8にはボールベアリング、軸受9にはプレーンベアリングがそれぞれ採用されているが、これらの軸受8、9は、いずれもステンレスのごとき鉄系材が用いられる。
【0036】
また、シャフト33の他方の端部33cを支承するハウジング31の膨出部31bには、気密性を保つためにシールキャップ11が嵌め込まれている。
【0037】
(排気再循環制御用バルブ装置90の説明)
なお、本実施例では、排気再循環制御用バルブ装置90の詳細構造を省略しているが、上記したスロットルバルブ装置3と同様の詳細構造を有している。
即ち、上流側半分領域92Aおよび下流側半分領域92Bを有する弁体92は、上流側半分領域92Aのみに、表裏両面にわたって、下流側に向かって頂部を有するV字状の凝縮水排水用の溝(溝35に相当する)が、上流側から下流側へ5列(溝35a〜35eに相当する)設けられている。また、弁体92には、溝35、半環状溝36および貫通孔37に相当するものが、シャフト93にはスリット33aおよびV字状凹面38に相当するものが、それぞれ設けられている。そして、シャフト93は、鉄系材からなる軸受(軸受8、9に相当する)によりハウジング91に支承されている。
【0038】
上記構成において、本発明の特筆すべき作用・効果を以下に説明する。
(実施例1の背景)
エンジン1は、運転条件によってバックファイアが生じる。このバックファイアは、エンジン1の例えば吸気バルブ1cの開閉タイミングのズレや、点火プラグ1dによる点火時期のズレなどにより、不完全燃焼ガスが爆発燃焼する現象で、高温高圧の燃焼ガスや火炎が吸気ポート1b付近ばかりでなく、吸気通路2を逆流(図1の矢印B方向)し、エアフィルタ5付近まで到達することさえある。
よって、吸気通路2に配設されたスロットルバルブ装置3、特に弁体32は、高温高圧の燃焼ガスに晒されることになる。
なお、エンジン1の通常運転時においても、吸気ポート1bから漏れる燃焼ガスに弁体32が晒されることは勿論である。
【0039】
また、排気ガス浄化対策のためにEGR装置が装着されている場合には、排気管7から排気再循環路80を経由して、排気ガスの一部を吸気通路2のスロットルバルブ装置3の下流側に積極的に導入するため、排気再循環制御用バルブ装置90、特に弁体92も、高温高圧の燃焼ガス(排気ガス)に晒されることになる。
【0040】
かくして、スロットルバルブ装置3および排気再循環制御用バルブ装置90の周辺には燃焼ガス(排気ガス)が存在することになり、エンジン1の停止後、各バルブ装置3、90の周りに滞留する空気が冷えるに従いバタフライ型バルブをなす弁体32、92の表面に凝縮水として付着する。
この凝縮水が各弁体32、92を支承する軸受の発錆を招くこと、および本発明によりその発錆が防止されることについては、両バルブ装置3、90を代表してスロットルバルブ装置3を例として詳述する。
【0041】
軸受8、9は、鉄系材製であるため、水と空気の共存により発錆することが知られている。また、シャフト33の両端部33b、33cとハウジング31との間は、軸受8、9の収容部分を区画すべく、実際には図4に示すように、できるだけ微小な隙間Eとするように工夫されているものの、弁体32の表面32aおよび裏面32bに付着した凝縮水が、シャフト33の外周面を伝わり、シャフト33とハウジング31との上記隙間Eを経由して、軸受8、9の周りに侵入する。この凝縮水には、燃焼ガス(排気ガス)中の酸性成分が加わっているため、軸受8、9の発錆が促進され、短期間で発錆という結果を惹起することになる。
【0042】
(実施例1の特徴と効果)
上記の不具合を解決するために、実施例1のスロットルバルブ装置3では、次のような技術が採用されている。
凝縮水が付着する弁体32には、上流側半分領域32Aにおいて、表面32aおよび裏面32bの両面に、下流に向かって5列の溝35が並んで設けられている。しかも、この各溝35は下流側を頂部とするV字状に形成されている。よって、凝縮水は、各列の溝35に案内されて矢印Cの如く溝35の頂部に向かいながら流下する、つまり弁体32の中央部分に集まりながら順次流下していく。
一方、シャフト33には、上流側半分領域32Aに面する外周面に、V字状凹面38が設けられているため、端の方に位置する溝35d、35eを流下した凝縮水も、V字状凹面38に沿って弁体32の中央部分に集まる。
【0043】
かくして、弁体32の中央部分に集まった凝縮水は、集水により自重落下効果が増長されることも相俟って、シャフト33の流通路39を通って矢印Dごとく弁体32の下流側半分領域32Bへと確実に流下する。そして、吸気通路2を通過する吸気と共にエンジン1に吸入される。このように、凝縮水を中央部分に集めることにより、凝縮水がシャフト33とハウジング31との隙間Eに侵入するのを防いで、吸気通路2の中心部分からエンジン1側へと良好に排水することができる。
また、複数の凝縮水排水用の溝35は弁体32の総表面積を実質的に増やし、凝縮水の捕捉量を増やすため、一層排水効果が助長される。
さらに、弁体32の上流側半分領域32Aには、周面にも半環状溝36が設けられ、この半環状溝36に貫通孔37が接続されているため、弁体32の周面に付着する凝縮水も、半環状溝36に案内されて流下し、貫通孔37を介して、弁体32の下流側半分領域32Bへと排水される。したがって、弁体32の周面に伝わる凝縮水も、シャフト33とハウジング31との隙間Eに浸入しない。
以上により、凝縮水が軸受8、9側へ浸入するのを確実に防ぐことができる。
【0044】
なお、凝縮水排水用の溝35を設ける領域は弁体32の半分のみであり、溝35自体の形状も下流側に頂部を有するV字状をなしているため、弁体32自体の強度についても高強度を維持することができる。
【0045】
[実施例2]
図6は、本発明の実施例2を説明するためのもので、図2に示す実施例1のスロットルバルブ装置3と基本的には同じ構造であるが、弁体32に形成する溝5の構造を変更したものである。
本実施例においては、V字状の溝35のうち、上流側の3列の溝35a〜35cに対し、隣り合う溝35の頂部を互いに連通するための連絡路40を設けている。
【0046】
本実施例によれば、V字状の溝35のうち、上流側の3列の溝35a〜35cを流下する凝縮水は、連絡路40を経由して、上流側から下流側へと順次円滑に流下させることができる。したがって、上述の実施例1に比して、弁体32に付着した凝縮水の集水・排水効果を一層助長することができる。
【0047】
[変形例]
以上、2つの実施例について詳述したが、本発明の趣意は、弁体32(92)の上流側半分領域32A(92A)のみを活用し、凝縮水を弁体32(92)の周縁部分から中央部分に集めて排水することであって、例えば、弁体32に設ける凝縮水排水用のV字状の溝35の具体的な頂部構造および横断面形状やその配列数、また半環状溝36および連絡路40の横断面形状、さらには、シャフト33に設けるV字状凹面38および流通路39の構造は、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々変更することができるものであり、その変更例を以下に例示する。
【0048】
(1)V字状の溝35の各溝35a〜35eは、上流側から下流側に向けて連続的に配列したが、各列の相互間の間隔を空けるようにしても良い。
(2)各溝35a〜35eの深さは、頂部に向かって換言すれば弁体32の周縁部分から中央部分に向かって徐々に深くなるようにしても良い。
(3)V字状の溝35は、各溝の溝幅に応じて配列数を適宜選択することができる。また、図2において、各溝35a〜35eの左半分と右半分とを若干上下にずらして千鳥状にしても良い。
(4)弁体32は、溝35、半環状溝36および貫通孔37を有しており、しかもそれらの形状のバリエーションを考慮すると全体として比較的複雑な構造になるため、上記実施例のごとく樹脂製にすれば、複雑な構造のものも容易に製作することができる。
(5)弁体32とシャフト33を共に樹脂製にする場合には、弁体32とシャフト33とを共通の樹脂材料により一体形成することができる。
(6)凝縮水案内用のV字状凹面38をシャフト33に設けるにあたり、上記実施例では面取り型式にて形成したが、凝縮水案内用のV字状凹面38を積極的に掘設する溝型式にて形成しても良い。
【0049】
また、上述の例では、スロットルバルブ装置3や排気再循環制御用バルブ装置90への適用例について詳述したが、図1において、吸気ダクト4の各分岐管4aから各気筒の吸気ポート1bへの吸気流を、より好適な流れに変更するために設置されるタンブルバルブやスワールバルブにも、弁体32の構造が、シャフト33を中央に備えるバタフライ型バルブである限りにおいては同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン(内燃機関)
1a 燃焼室
2 吸気通路
3 スロットルバルブ装置(バタフライバルブ装置)
8、9 軸受
31 ハウジング
32 弁体(板状のバタフライ型バルブ)
32A 上流側半分領域
32B 下流側半分領域
32a 表面
32b 裏面
33 シャフト
35 凝縮水排水用の溝
36 半環状溝
37 貫通孔
38 V字状凹面
39 流通路
40 連絡路
80 排気再循環路(吸気通路)
90 排気再循環制御用バルブ装置(バタフライバルブ装置)
91 ハウジング
92 弁体(板状のバタフライ型バルブ)
93 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室に連通する吸気通路を形成するハウジングと、
前記吸気通路の内部に当該吸気通路の上流側と下流側とを区画するように配置され、前記吸気通路の開度調整を行なう弁体と、
前記ハウジングに軸受を介して支承され、前記弁体を前記吸気通路の内部で回動操作するシャフトと、を備えており、
前記弁体は、全体として、中央付近で前記シャフトに支持され、板厚方向の両側に表面および裏面を有する板状のバタフライ型バルブをなし、前記弁体が前記吸気通路を開口したときに、前記シャフトに対して上流側に位置する上流側半分領域と、前記シャフトに対して下流側に位置する下流側半分領域とを有するものであって、
前記弁体には、前記上流側半分領域の前記表面および裏面のみに、下流側に向かって頂部を有するV字状の凝縮水排水用の溝が、上流側から下流側へ複数配列されていることを特徴とする内燃機関用バタフライバルブ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用バタフライバルブ装置において、
複数の前記溝には、隣り合う前記溝の頂部を互いに連通するための連絡路が設けられていることを特徴とする内燃機関用バタフライバルブ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の内燃機関用バタフライバルブ装置において、
前記シャフトは、前記弁体の上流側半分領域側の外周面に、前記シャフトの軸線に沿って延展するとともに前記シャフトの中央部に向かって軸心側へ傾斜する凝縮水案内用のV字状凹面を有していることを特徴とする内燃機関用バタフライバルブ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載の内燃機関用バタフライバルブ装置において、
前記シャフトには、前記弁体の上流側半分領域と下流側半分領域との表面同士および裏面同士をそれぞれ連通する流通路が設けられていることを特徴とする内燃機関用バタフライバルブ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載の内燃機関用バタフライバルブ装置において、
前記弁体には、前記上流側半分領域における板厚方向の周面のみに、周方向に伸びる凝縮水排水用の半環状溝が設けられていることを特徴とする内燃機関用バタフライバルブ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関用バタフライバルブ装置において、
前記弁体には、前記半環状溝の両端部を、前記下流側半分領域における板厚方向の周面にそれぞれ開口する貫通孔が設けられていることを特徴とする内燃機関用バタフライバルブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29082(P2013−29082A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166570(P2011−166570)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】