説明

内燃機関用潤滑油組成物

【課題】金属成分やリン成分の含有量を低いレベルに維持しながら、新油時の高い摩擦低減効果を長期間発揮できる内燃機関用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】基油と、(A)ポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物と、(B)モリブデンジチオカーバメートと、(C)ジアルキルジチオリン酸亜鉛とを含み、前記(A)成分が、(a)ポリアルケニル基で置換されたコハク酸またはその無水物と、(b)ポリアルキレンポリアミンとを反応させて得られる下記式(1)で示されるコハク酸イミド化合物のホウ素化物であるとともに、B/N比が0.5以上であり、該(A)成分の含有量が組成物全量基準においてホウ素量換算で0.01〜0.1質量%であり、


該(B)成分の含有量が組成物全量基準においてMo量換算で0.01〜0.08質量%であり、前記(C)成分の含有量が組成物全量基準においてリン量換算で0.01〜0.09質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等に使用される内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球規模での環境規制はますます厳しくなり、自動車を取り巻く状況も、燃費規制、排出ガス規制等厳しくなる一方である。この背景には地球温暖化等の環境問題と、石油資源の枯渇に対する懸念からの資源保護がある。以上の理由から自動車の省燃費化はますます進められると考えられる。
また、ディーゼルエンジンにおいては、パティキュレート・マター(PM)およびNOxなどの排出ガス成分による環境汚染を軽減するための対策が重要な課題となっている。その対策としては、自動車にパティキュレート・フィルターや排出ガス浄化触媒(酸化または還元触媒)などの排出ガス浄化装置を装着することが有力である。一方、そのような排出ガス浄化装置を装着した自動車に従来の内燃機関用潤滑油を用いた場合、パティキュレート・フィルターに付着した煤は酸化、燃焼により取り除かれるものの、燃焼により生成した金属酸化物や、リン酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩などによってフィルタが目詰まりするという問題が生じている。また、使用されたエンジン油の一部は燃焼し、排出ガスとして排出される。従って、潤滑油中の金属分や硫黄分もできるだけ少ない方が好ましい。さらに、触媒の劣化を防ぐためには、潤滑油中のリン分および硫黄分も減らすことも必要である。
このような状況下で、ディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF)における灰分詰まりを減少させると共に、DPFで捕集されるPMの燃焼性を向上させ、PMを低温で安定して燃焼させることができ、その除去効率を高め、かつDPFの長寿命化を図ることのできるDPF付きディーゼルエンジン用潤滑油組成物が開発されている。例えば、硫酸灰分が1.0重量%以下、硫黄分含有量が0.3重量%以下およびモリブデン含有量が100ppm以上であることを特徴とするディーゼル微粒子(ディーゼルスーツ)除去装置付きディーゼルエンジン用潤滑油組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、自動車の省燃費化を図るためには、自動車の軽量化、エンジンの改良等、自動車自体の改良と共にエンジンでの摩擦ロスを防ぐためのエンジン油の低粘度化、良好な摩擦調整剤の添加等、エンジン油の改善も重要となっている。
一方、エンジン油の低粘度化はエンジン各部での摩耗の増大を引き起こす原因ともなる。そこで、エンジン油の低粘度化に伴う摩擦損失の低減や摩耗防止の目的で摩擦調整剤、極圧剤等が添加されており、この極圧剤として、一般にリン含有化合物が用いられている。しかし、リン含有化合物は、前記したように排出ガスを浄化する触媒を劣化することが知られており、エンジン油中のリン含有化合物を極力低減することが望ましい。但し、その場合、長期間にわたりエンジンの摩耗防止性能を維持することが困難となる可能性があるので、摩耗防止性能を維持するための方法が要求されている。
一つの対策として、モリブデンを含有する摩擦調整剤や、アミンまたはエステル系の無灰型摩擦調整剤を添加することが多く行なわれている。ところが、これらの添加剤は摩擦低減効果は大きいが、組み合わせる添加剤、添加量によっては、酸化劣化により、消耗速度が大きくなることがあり、エンジン油の性能を長期間維持することが期待できない可能性がある。
かかる問題を解決するため、鉱油または合成油に、アルケニルコハク酸イミドホウ素化合物誘導体、有機モリブデン化合物、特定のアルキル化チアジアゾールおよび特定の脂肪酸エステルを配合したエンジン油組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、この特定のアルキル化チアジアゾールや特定の脂肪酸エステルの代わりに、ヒドロキシ安息香酸とアルキルフェノールとのアルカリ土類金属塩硫化混合物を特定の割合で配合したエンジン油組成物も提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0004】
これとは別に、金属系清浄剤のかわりにあるいは、金属系清浄剤と併用して、特定の構造を有するコハク酸イミドを無灰系分散剤として使用することが提案されてきた(例えば、特許文献4、5参照)。この種の無灰型分散剤は、燃焼時に生成するディーゼルスーツや、エンジン油が酸化劣化して生じるスラッジ等を細かく分散させて、それらがエンジン部品に付着することを防ぎ、ピストンの清浄性を向上させる効果がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−060776号公報
【特許文献2】特開平11−269476号公報
【特許文献3】特開平11−269477号公報
【特許文献4】特開2001−226381号公報
【特許文献5】特開2001−247623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜5に記載されたような従来の潤滑油では、金属成分やリン成分の含有量を低いレベルに維持しながら、実用上満足し得る摩擦低減能を長期間に渡って維持することは困難である。さらに、このような従来の潤滑油では、ディーゼルスーツ混入下において、充分な摩擦低減効果を発揮するに至っていないのが現状である。
そこで、本発明は、このような状況下で、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどの内燃機関に用いられ、金属成分やリン成分の含有量を低いレベルに維持しても、新油時の高い摩擦低減効果を長期間発揮でき、さらに、ディーゼルエンジンにおいて、ディーゼルスーツが混入してもこの効果を維持できる内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような内燃機関用潤滑油組成物を提供するものである。
[1]鉱油および/または合成油からなる基油と、(A)ポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物と、(B)モリブデンジチオカーバメートと、(C)ジアルキルジチオリン酸亜鉛とを含む内燃機関用潤滑油組成物であって、前記(A)成分が、(a)数平均分子量500〜5,000のポリアルケニル基で置換されたコハク酸またはその無水物と、(b)全体の5モル%以上が末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンとを反応させて得られる下記式(1)で示されるポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物であるとともに、ホウ素と窒素の質量比(B/N比)が0.5以上であり、該(A)成分の含有量が組成物全量基準においてホウ素量換算で0.01〜0.1質量%であり、
【0008】
【化1】

(式中、Rは数平均分子量500〜5,000のポリアルケニル基、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜3のアルキル基、qは2〜4の整数、nは0〜3の整数、rは2〜4の整数を示し、Aはアミノ基またはポリアルキレンポリアミンの末端と同じ環構造の基である。)
前記(B)成分が下記式(2)で示されるモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)であって、該(B)成分の含有量が組成物全量基準においてモリブデン量換算で0.01〜0.08質量%であり、
【0009】
【化2】

(式中、R6〜R9はそれぞれ独立に炭素数4〜22のヒドロカルビル基を表し、X〜X4は、各々硫黄原子または酸素原子を表す。)
前記(C)成分の含有量が組成物全量基準においてリン量換算で0.01〜0.09質量%であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【0010】
[2][1]に記載の内燃機関用潤滑油組成物において、硫黄分の含有量が組成物全量基準で0.3質量%以下であり、硫酸灰分が組成物全量基準で0.8質量%以下であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、特定構造のポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物と、モリブデンジチオカーバメートとを含んでいるので、金属成分やリン成分の含有量を低いレベルに維持しながら、新油としての摩擦低減効果に優れ、さらに、新油時の高い摩擦低減効果を長期間発揮でき、かつ、ディーゼルスーツが混入してもこの効果を維持できる。すなわち、低灰分、低リンであり、環境規制対応型の内燃機関用潤滑油組成物として、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどの内燃機関に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物(以下、単に「本組成物」ともいう。)は、基油と、(A)コハク酸イミド化合物のホウ素化物と、(B)モリブデンジチオカーバメート(以下、「MoDTC」ともいう。)と、(C)アルキルジチオリン酸亜鉛(以下、「ZnDTP」ともいう。)とを含んでいる。以下、これらの基油および各添加剤成分について詳細に説明する。
【0013】
〔基油〕
本組成物の基油としては、鉱油および/または合成油が用いられる。この鉱油や合成油の種類については特に制限はなく、従来、内燃機関用潤滑油の基油として使用されている鉱油や合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の1つ以上の処理を行って精製した鉱油、あるいはワックス、GTL WAXを異性化することによって製造される鉱油等が挙げられる。
また、合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオレフィン[α−オレフィン単独重合体や共重合体(例えばエチレン−α−オレフィン共重合体)など]、各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなど),各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど)、ポリグリコール、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。これらの合成油のうち、粘度特性、添加剤の溶解性およびシールゴムへの適合性の観点より特にポリオレフィン、ポリオールエステルが好ましい。
本発明においては、基油として、上記鉱油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、鉱油1種以上と合成油1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
基油の粘度については特に制限はなく、潤滑油組成物の用途に応じて異なるが、100℃の動粘度が2〜30mm/sであることが好ましく、より好ましくは3〜15mm/s、さらにより好ましくは4〜10mm/sである。100℃における動粘度が2mm/s以上であれば蒸発損失が少なく、一方30mm/s以下であれば、粘性抵抗による動力損失があまり大きくなることがなく、燃費改善効果が得られる。
【0014】
また、基油としては、環分析による%CAが3.0以下で硫黄分の含有量が50質量ppm以下のものが好ましく用いられる。ここで、環分析による%CAとは、環分析n−d−M法にて算出した芳香族分の割合(百分率)を示す。また、硫黄分は、JIS K 2541に準拠して測定した値である。
%CAが、3.0以下で、硫黄分が50質量ppm以下の基油は、良好な酸化安定性を有し、酸価の上昇やスラッジの生成を抑制し得ると共に、金属に対する腐食性の少ない潤滑油組成物を提供することができる。
より好ましい%CAは1.0以下、さらには、0.5以下であり、またより好ましい硫黄分は30質量ppm以下である。
さらに、基油の粘度指数は、70以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。この粘度指数が120以上の基油は、温度の変化による粘度変化が小さい。
【0015】
〔(A)成分〕
本発明で用いる(A)成分は、(a)数平均分子量500〜5,000のポリアルケニル基で置換されたコハク酸またはその無水物と、(b)全体の5モル%以上が末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンとを反応させて得られる下記式(1)で示されるポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物である。
【0016】
【化3】

(式中、Rは数平均分子量500〜5,000のポリアルケニル基、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜3のアルキル基、qは2〜4の整数、nは0〜3の整数、rは2〜4の整数を示し、Aはアミノ基またはポリアルキレンポリアミンの末端と同じ環構造の基である。)
【0017】
(a)成分においてポリアルケニル基の数平均分子量が500未満であると式(1)のコハク酸イミド化合物のホウ素化物が潤滑油基油に十分に溶解しないおそれがある。一方、ポリアルケニル基の数平均分子量が5,000を超えると、ポリアルケニルコハク酸イミド化合物が高粘度になり、その取扱いが困難になることがある。それ故、ポリアルケニル基の数平均分子量は、好ましくは500〜5,000であり、より好ましくは800〜3,000である。
このような分子量を有するポリアルケニル基としては、通常、炭素数2〜16のモノオレフィンやジオレフィンの重合体または共重合体が使用される。モノオレフィンの具体例としては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、デセン、ドデセン、ヘキサデセンなどなどが挙げられる。これらのモノオレフィンの中で、本発明においては、高温におけるエンジン部品の清浄性を高め、かつ入手し易い点で、特にブテンが好ましく、その重合体であるポリブテニル基が好ましい。
ポリアルケニル基で置換されたコハク酸若しくはその無水物は、上記のポリアルケニル基の分子量に該当するポリブテンなどと無水マレイン酸などを公知の方法で反応させればよい。
【0018】
(b)成分のポリアルキレンポリアミンは、その全体が末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンであってもよく、末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンと、末端に環構造を持たないポリアルキレンポリアミンとの混合物であってもよい。ただし、末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンの割合が5モル%未満では、高温清浄性および酸化安定性が不十分になり、この割合が、10モル%以上、さらには20モル%以上であれば、さらに高温清浄性および酸化安定性が向上する。また、この末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンの割合の上限は、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下がより好ましい。この割合が95モル%を超えると、製造されるホウ素化コハク酸イミド系化合物が高粘度化して、この化合物の製造効率を低下させることがあり、また、この生成物の潤滑油基油に対する溶解性が低下することがあるからである。したがって、末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンの割合は、5〜95モル%がより好ましく、10〜90モル%がさらに好ましい。
また、末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンの末端の環構造については、下記式(1’)で示されるものが好ましい。
【0019】
【化4】

【0020】
ここで、上記式(1’)において、p1、p2は2〜4の整数を表す。中でも、p1、p2のいずれもが2であるもの、すなわち、ピペラジニル基が特に好ましい。末端が環構造を有するポリアルキレンポリアミンの代表例としては、例えば、アミノエチルピペラジン、アミノプロピルピペラジン、アミノブチルピペラジン、アミノ(ジエチレンジアミノ)ピペラジン、アミノ(ジプロピルジアミノ)ピペラジンなど末端にピペラジニル構造を有するアミノアルキルピペラジンが挙げられる。これらの中でも、アミノエチルピペラジンが、入手が容易である点で特に好ましい。
【0021】
一方、末端に環構造を有しないポリアルキレンポリアミンとしては、環構造を有しない非環構造のポリアルキレンポリアミンと末端以外に環構造を有するポリアルキレンポリアミンがある。
非環構造のポリアルキレンポリアミンの代表例としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどのポリエチレンポリアミン類や、プロピレンジアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレントリアミンなどが挙げられる。また、末端以外に環構造を有するポリアルキレンポリアミンの代表例としては、例えば、ジ(アミノエチル)ピペラジンなどのジ(アミノアルキル)ピペラジンなどが挙げられる。
【0022】
これら、環構造を含んでもよいポリアルキレンポリアミンの中で、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどのポリエチレンポリアミンとの混合物が、高温清浄性を高め、入手が容易である点で特に好ましい。
【0023】
本発明における(A)成分は、上記した(a)成分と(b)成分とから得られるポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物である。このホウ素化物は、(a)成分と(b)成分とから得られるポリアルケニルコハク酸イミド化合物に(c)成分としてホウ素化合物を反応させることで得ることができる。このホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸,ホウ酸無水物,ホウ酸エステル、酸化ホウ素,ハロゲン化ホウ素などが挙げられる。中でも、ホウ酸が特に好ましい。
【0024】
この反応方法は、特に制限は無く公知の方法で行えばよい。例えば、以下の方法で反応させて、目的物を得ることができる。まず、(a)成分と(b)成分を反応させ、次いでその反応生成物と(c)成分とを反応させる。(a)成分と(b)成分の反応における(a)と(b)の配合割合については、(a):(b)が0.1〜10:1(モル比)が好ましく、0.5〜2:1(モル比)がより好ましい。また、(a)成分と(b)成分の反応温度については、約80〜250℃が好ましく、約100〜200℃がより好ましい。反応を行うに際しては、原料の取扱上、または反応を調整するために必要に応じて溶剤、例えば炭化水素油等の有機溶剤を使用することもできる。
次いで、上記のようにして得られた(a)成分と(b)成分との反応生成物を、(c)成分と反応させる。この(c)成分であるホウ素化合物の配合割合は、ポリアルキレンポリアミンに対して、通常モル比で1:0.05〜10が好ましく、1:0.5〜5がより好ましい。また、反応温度については、好ましくは約50〜250℃、より好ましくは100〜200℃である。
また、反応を行うに際して、原料(a)と(b)の反応と同様に、取扱上および反応を調整するために、上記反応生成物を溶剤、例えば炭化水素油等の有機溶剤を使用することもできる。
【0025】
上述した反応により生成物として(A)成分である数平均分子量200〜5000のポリアルケニル基で置換されたコハク酸イミド化合物のホウ素化物が得られる。本発明においては、(A)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(A)成分としては、上述したように、式(1)の構造を有するポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物であるが、これにさらにホウ素を含まないポリアルケニルコハク酸イミド化合物を併用してもよい。また、その際に用いられるポリアルケニルコハク酸イミド化合物はモノイミド型でもビスイミド型でもよいが、金属材料への低腐食性、シールゴム適合性および酸化安定性向上の観点から、アルケニル基が数平均分子量1500〜3000のポリブテンである、ポリブテニルコハク酸ビスイミドが特に好ましい。
【0026】
本組成物における(A)成分の含有量は、組成物全量基準で、ホウ素(原子)換算で含有量が0.01〜0.1質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.05質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.03質量%である。(A)成分に含まれるホウ素が一定量以上存在することで、高温の内燃機関において高いピストン清浄性が得られる。ホウ素含有量が、0.01質量%未満では、十分な高温清浄性は得られない。また、ホウ素含有量が0.1質量%を超えても高温清浄性についてさらなる向上が図れず、実用性に乏しい。
また、(A)成分におけるホウ素(B)と窒素(N)の質量比(B/N)は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.8以上である。B/Nが0.5以上であると、高温下におけるエンジン部品の清浄性が大きく向上する。
なお、ホウ素化コハク酸イミド系化合物のホウ素化物は、上記のように原料(a)と(b)を反応し、次いでその反応生成物を原料(c)と反応させて得ることができるが、反応順序を変えて、まず原料(a)と(c)を反応させ、その後、その反応生成物と(b)を反応させても同様に目的とするポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物が得られる。
【0027】
〔(B)成分〕
本組成物を構成する(B)成分は、下記式(2)で示されるモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)である。
【0028】
【化5】

(式中、R6〜R9はそれぞれ独立に炭素数4〜22のヒドロカルビル基を表し、X〜X4は、各々硫黄原子または酸素原子を表す。)
【0029】
ここで、上記式(2)において、R〜Rは、好ましくは炭素数4〜22の炭化水素基であり、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等である。これらの中でも、R〜Rは炭素数4〜18の分枝鎖または直鎖のアルキル基またはアルケニル基が好ましく、炭素数8〜13のアルキル基がより好ましい。例えば、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基等が挙げられる。これは、あまりに炭素数が少ないと油溶性に乏しくなるためであり、あまりに炭素数が多くなると融点が高くなりハンドリングが悪くなるとともに活性が低くなるためである。また、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよいが、RおよびRと、RおよびRが異なるアルキル基であると、基油への溶解性、貯蔵安定性および摩擦低減能の持続性が向上する。
また、上記式(2)においては、X〜Xは各々硫黄原子または酸素原子であり、X〜Xの全てが硫黄原子あるいは酸素原子であってもよい。ここで、硫黄原子と酸素原子の比が、硫黄原子/酸素原子=1/3〜3/1、更には1.5/2.5〜3/1であることが耐腐食性の面や、基油に対する溶解性を向上させる上で好ましい。
【0030】
本発明においては当該(B)成分は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、潤滑油組成物中の当該(B)成分の含有量は、組成物全量基準においてモリブデン量換算で0.01〜0.08質量%であり、好ましくは0.03〜0.08質量%となるように調製される。0.01質量%を下回ると、十分な摩擦低減効果が得られず、0.08質量%を上回ると、基油への溶解性および耐腐食性が悪化する。
【0031】
〔(C)成分〕
本組成物においては、さらに、(C)成分として、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を含有する。ZnDTPとしては、例えば下記式(3)で示される構造のものを挙げることができる。
【0032】
【化6】

上記式(3)において、R10、R11、R12およびR13は炭素数3〜22の第1級または第2級のアルキル基または炭素数3〜18のアルキル基で置換されたアルキルアリール基から選ばれた置換基を表し、それらは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
本発明においては、これらのZnDTPは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、特に、第2級のアルキル基のジチオリン酸亜鉛を主成分とするものが、耐摩耗性を高めるため好ましい。
ZnDTPの具体例としては、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジイソペンチルジチオリン酸亜鉛、ジエチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジノニルジチオリン酸亜鉛、ジデシルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルメチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジノニルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0034】
本発明の潤滑油組成物においては、前記(C)成分であるZnDTPの含有量は、組成物全量基準においてリン量換算で0.01〜0.09質量%が好ましく、0.02〜0.08質量%がより好ましい。本組成物においては、リン量が0.01質量%未満では耐摩耗性が十分でなく、(B)成分のMoDTCによる摩擦低減効果も十分に発現されない。一方、リン量が0.09質量%を超えると、排出ガスの浄化触媒への被毒が著しくなって好ましくない。
【0035】
本組成物においては、さらに、フェノール系酸化防止剤および/またはアミン系酸化防止剤を添加することが好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert―ブチルー4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール);2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2,6−ジ−t−アミル−p−クレゾール;2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール);4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド;n−オクチル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;2,2’−チオ[ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。これらの中で、特にビスフェノール系およびエステル基含有フェノール系のものが好適である。
【0036】
また、アミン系酸化防止剤としては、例えばモノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジペンチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン;テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、およびナフチルアミン系のもの、具体的にはα−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン;さらにはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中で、ナフチルアミン系よりジフェニルアミン系の方が、酸化防止効果の点から好ましい。
【0037】
また、本発明においては、他の酸化防止剤としてモリブデンアミン系酸化防止剤をさらに添加してもよい。モリブデンアミン系酸化防止剤としては、6価のモリブデン化合物、具体的には三酸化モリブデンおよび/またはモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるもの、例えば特開2003−252887号公報に記載の製造方法で得られる化合物を用いることができる。6価のモリブデン化合物と反応させるアミン化合物としては特に制限されないが、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミンおよびアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、およびオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、およびブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基またはアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。また、特公平3−22438号公報および特開2004−2866公報に記載されているコハク酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体等が例示できる。
上述した酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で、0.3質量%以上が好ましく0.5質量%以上であることがより好ましい。一方、2質量%を越えると、潤滑油基油に不溶となるおそれがある。従って、酸化防止剤の配合量は、組成物全量基準で0.3〜2質量%の範囲が好ましい。
【0038】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてさらに他の添加剤、例えば粘度指数向上剤、金属系清浄剤、無灰系摩擦低減剤(摩擦調整剤)、流動点降下剤、防錆剤、金属不活性化剤、界面活性剤、および消泡剤等を配合してもよい。
【0039】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。これら粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.5〜15質量%程度であり、好ましくは1〜10質量%である。
【0040】
金属系清浄剤としては、潤滑油に用いられる任意のアルカリ土類金属系清浄剤が使用可能であり、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートおよびこれらの中から選ばれる2種類以上の混合物等が挙げられる。アルカリ土類金属スルフォネートとしては、分子量300〜1,500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が特に好ましく用いられる。アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。前記アルカリ土類金属系清浄剤を構成するアルキル基としては、炭素数4〜30のものが好ましく、より好ましくは6〜18の直鎖または分枝アルキル基であり、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基または3級アルキル基でもよい。また、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネートおよびアルカリ土類金属サリシレートとしては、前記のアルキル芳香族スルフォン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アルキルサリチル酸等を直接、マグネシウムおよび/またはカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、または一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネートおよび中性アルカリ土類金属サリシレートだけでなく、中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネートおよび中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、塩基性アルカリ土類金属フェネートおよび塩基性アルカリ土類金属サリシレートや、炭酸ガスの存在下で中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネートおよび中性アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属の炭酸塩またはホウ酸塩を反応させることにより得られる過塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、過塩基性アルカリ土類金属フェネートおよび過塩基性アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
【0041】
本発明において金属系清浄剤としては、上記の中性塩、塩基性塩、過塩基性塩およびこれらの混合物等を用いることができ、特に過塩基性サリチレート、過塩基性フェネート、過塩基性スルフォネートの1種以上と中性スルフォネートとの混合がエンジン内部の清浄性、耐摩耗性において好ましい。
金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0042】
本発明において、金属系清浄剤の全塩基価は、通常10〜500mgKOH/g、好ましくは15〜450mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種または2種以上併用することができる。なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品および潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)による全塩基価を意味する。
【0043】
また、本発明の金属系清浄剤としては、その金属比に特に制限はなく、通常20以下のものを1種または2種以上混合して使用できるが、好ましくは、金属比が3以下、より好ましく1.5以下、特に好ましくは1.2以下の金属系清浄剤を必須成分とすることが、酸化安定性や塩基価維持性および高温清浄性等により優れるため特に好ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とはカルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルフォン酸基、フェノール基およびサリチル酸基等を意味する。
【0044】
本発明において、金属系清浄剤の含有量は、組成物全量基準において、金属元素換算量で1質量%以下であり、0.5質量%以下であることが好ましく、さらに組成物の硫酸灰分を0.8質量%以下に低減するためには、0.2質量%以下とするのが好ましい。また、金属系清浄剤の含有量は、金属元素換算量で0.005質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上であり、酸化安定性や塩基価維持性、高温清浄性をより高めるために、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、特に0.08質量%以上とすることでより長期間塩基価および高温清浄性を維持できる組成物を得ることができるため、特に好ましい。なお、ここでいう硫酸灰分とは、JIS K 2272の5.「硫酸灰分試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
【0045】
無灰系摩擦低減剤としては、潤滑油用の無灰系摩擦低減剤として通常用いられている任意の化合物が使用可能であり、例えば炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、脂肪族アミンおよび脂肪族アミド等が挙げられる。
これら無灰系摩擦低減剤の添加量としては、金属材料に対する腐食防止効果および摩擦低減効果の点から好ましくは0.2〜1.0質量%、より好ましくは0.25〜0.8質量%、さらに好ましくは0.3〜0.6質量%である。0.2質量%を下回ると摩擦低減効果が十分得られず、1.0質量%を上回ってもそれに見合う効果は得られない。
【0046】
流動点降下剤としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、例えば、質量平均分子量が5,000〜50,000程度のポリメタクリレートが好ましく用いられる。これらは、組成物全量基準で、0.1〜5質量%程度の割合で使用される。
防錆剤としては、石油スルフォネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.01〜1質量%程度であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0047】
金属不活性化剤(銅腐食防止剤)としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系およびピリミジン系化合物等が挙げられる。この中でベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。金属不活性化剤を配合することでエンジン部品の金属腐食および酸化劣化を抑制することができる。これら金属不活性化剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、好ましくは0.01〜0.1質量%、より好ましくは0.03〜0.05質量%である。
消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油およびフルオロアルキルエーテル等が挙げられ、消泡効果および経済性のバランスなどの点から、組成物全量に基づき、0.005〜0.1質量%程度含有させることが好ましい。
【0048】
本発明の潤滑油組成物においては、硫黄含有量が組成物全量基準で0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以下である。硫黄含有量が0.3質量%以下であると、排出ガスの浄化触媒の性能低下を効果的に抑えることができる。
また、本発明の潤滑油組成物においては、硫酸灰分は0.8質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以下であるとより好ましい。硫酸灰分が0.8質量%以下であると、ディーゼルエンジンにおいて、DPFのフィルタに堆積する灰分量が少なく、該フィルタの灰分詰まりが抑制され、DPFの寿命が長くなる。なお、この硫酸灰分とは、試料を燃やして生じた炭化残留物に硫酸を加えて加熱し、恒量にした灰分をいい、通常潤滑油組成物中の金属系添加剤の大略の量を知るために用いられる。具体的には、JIS K 2272の「5.硫酸灰分試験方法」に規定される方法により測定される。
【0049】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、新油時の高い摩擦低減効果を長期間に渡って発揮できるので、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどの内燃機関に好適に用いることができる。さらに、ディーゼルスーツが混入してもこの効果を維持できるので、特にディーゼルエンジンに好適である。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1、2、比較例1〜4〕
表1に示す配合組成を有する潤滑油組成物を調製し、新油の状態と、いわゆるNOx劣化させた後の状態との双方における摩擦係数を測定した。その結果より、本組成物の内燃機関用潤滑油としての性能を評価した。
なお、基油、添加剤および各組成物(試料油)の特性・性状は以下のようにして測定した。
(1)基油および潤滑油組成物の動粘度:
JIS K 2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(2)基油の粘度指数:
JIS K 2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(3)基油および潤滑油組成物の硫黄含有量:
JIS K 2541に準拠して測定した。
(4)基油の%CA:
環分析n−d−M法にて芳香族成分の割合(百分率)を算出した。
(5)基油のNOACK蒸発量:
JPI−5S−41−2004に準拠して測定した。
【0052】
(5)ホウ素含有量:
JPI−5S−38−92に準拠して測定した。
(6)窒素含有量:
JIS K2609に準拠して測定した。
(7)モリブデンおよびリン含有量:
JPI−5S−38−92に準拠して測定した。
(8)硫酸灰分:
JIS K2272に準拠して測定した。
【0053】
(9)NOx劣化試験:
ISOT試験(JIS K2514)の試験機を用い、試料油に銅および鉄触媒の存在下、NO含有量が8000容量ppmの窒素ガスを100mL/分、空気を100mL/分の流量で吹き込み、NOx劣化試験を行った。試験温度は140℃、試験時間は24時間である。
(10)摩擦係数(SRV、80℃):
以下の4種類の試料油を調製して摩擦係数を測定した。
[1]新油(表1の配合組成を有する各組成物)
[2]新油を用いてNOx劣化試験を行った後の組成物
[3]新油にカーボンブラックを0.5質量%添加した組成物
[4][2]にカーボンブラックを0.5質量%添加した組成物
なお、摩擦係数は、SRV試験機(Optimol社製)を用い、下記の条件にて測定した。
テストピース:(a)ディスク:SUJ−2材、(b)シリンダー:SUJ−2材
振幅:1.5mm
周波数:50Hz
荷重:400N
温度:80℃
【0054】
また、潤滑油組成物の調製に用いた各成分の種類は、次のとおりである。
(1)基油:水素化精製基油、40℃動粘度21mm/s、100℃動粘度4.5mm/s、粘度指数127、%CA0.1以下、硫黄含有量20質量ppm未満、NOACK蒸発量13.3質量%
【0055】
(2)ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物A:ポリブテニル基の数平均分子量980、窒素含有量1.76質量%、ホウ素含有量2.1質量%、B/N比1.19、塩素含有量、0.01質量%以下
なお、このポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Aは、以下のようにして製造した。
1Lオートクレーブ中に、ポリブテン(Mn:980)550g、臭化セチル1.5g(0.005モル)、無水マレイン酸59g(0.6モル)を入れ、窒素置換し、240℃で5時間反応させた。215℃に降温し,未反応の無水マレイン酸と臭化セチルを減圧留去し、140℃に降温して濾過した。得られたポリブテニルコハク酸無水物の収量は550g、ケン化価は86mgKOH/gであった。1Lセパラブルフラスコ中に、得られたポリブテニルコハク酸無水物500g、アミノエチルピペラジン(AEP)17.4g(0.135モル)、ジエチレントリアミン(DETA)10.3g(0.10モル)、トリエチレンテトラミン(TETA)14.6g(0.10モル)、鉱油250gを入れ、窒素気流下150℃で2時間反応させた。200℃に昇温し未反応のAEP、DETA、TETAと生成水を減圧留去した。得られたポリブテニルコハク酸イミドの収量は750g、塩基価(過塩素酸法)は51mgKOH/gであった。500mLのセパラブルフラスコ中に、得られたポリブテニルコハク酸イミド150gとホウ酸20gを入れ、窒素気流下150℃で4時間反応させた。150℃で生成水を減圧留去し、140℃に降温して濾過した。生成したポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Aの収量は165g、ホウ素含有量は2.1質量%であった。また末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンは、ポリアルキレンポリアミン全体の40モル%であった。
【0056】
(3)ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物B:ポリブテニル基の数平均分子量980、窒素含有量1.90質量%、ホウ素含有量0.8質量%、B/N比0.42、
塩素含有量0.01質量%以下
このポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Bは、ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Aの製造法において、ホウ酸の添加量を13gとした以外は、同様に反応を行って製造した。生成したポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Bの収量は161gであった。また末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンは、ポリアルキレンポリアミン全体の40モル%であった。
【0057】
(4)ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物C:ポリブテニル基の数平均分子量980、窒素含有量2.30質量%、ホウ素含有量1.90質量%、B/N比0.83、塩素含有量0.01質量%以下
このポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Cは、ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Aの製造法において、アミノエチルピペラジン(AEP)を使用せず、ジエチレントリアミン(DETA)18g(0.17モル)およびトリエチレンテトラミン(TETA)25g(0.17モル)を使用した以外は、同様に反応を行って製造した。生成したポリブテニルコハク酸イミドホウ素化物Cの収量は165gであった。なお末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンは含有しない。
【0058】
(5)ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物D:ポリブテニル基の数平均分子量980、窒素含有量1.95質量%、ホウ素含有量0.67質量%、B/N比0.34、塩素含有量0.01質量%以下
このポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Dは、ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Aの製造法において、アミノエチルピペラジン(AEP)を使用せず、ジエチレントリアミン(DETA)18g(0.17モル)およびトリエチレンテトラミン(TETA)25g(0.17モル)を使用し、ホウ酸の添加量を13gとした以外は同様に反応を行って製造した。生成したポリブテニルコハク酸イミドホウ素化物Dの収量は161gであった。なお末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンは含有しない。
【0059】
(6)モリブデンジチオカーバメート(MoDTC):サクラルーブ515(株式会社ADEKA製)、Mo含有量10.0質量%、硫黄含有量11.5質量%
(7)フェノール系酸化防止剤:オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
(8)アミン系酸化防止剤:ジアルキルジフェニルアミン、窒素含有量4.6質量%
(9)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP):Zn含有量9.0質量%、リン含有量8.2質量%、硫黄含有量17.1質量%、アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物
(10)粘度指数向上剤:スチレン−イソブチレン共重合体、質量平均分子量584,000、樹脂量10質量%
(11)金属系清浄剤A:過塩基性カルシウムフェネート、塩基価(過塩素酸法)255mgKOH/g、カルシウム含有量9.3質量%、硫黄含有量3.0質量%
(12)金属系清浄剤B:カルシウムスルホネート、塩基価(過塩素酸法)17mgKOH/g、カルシウム含有量2.4質量%、硫黄含有量2.8質量%
(13)ポリブテニルコハク酸ビスイミド:(ポリブテニル基の数平均分子量2000、窒素含有量2.10質量%、塩素含有量0.01質量%以下
(14)モリブデン系酸化防止剤:サクラルーブS−710(株式会社ADEKA製)モリブデン含有量10質量%
(15)エステル系摩擦調整剤:グリセリンモノオレート
(16)その他の添加剤:金属不活性化剤、流動点降下剤、消泡剤
【0060】
【表1】

【0061】
〔評価結果〕
表1の結果からわかるように、本発明の潤滑油組成物を用いた実施例1、2では、リン量および硫酸灰分が少ないにも関わらず、新油、NOx劣化試験後油およびカーボンブラック添加油のいずれにおいても、SRV摩擦係数が低く摩擦低減効果に優れている。
一方、比較例1の試料油には、ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Bが配合されているが、この化合物は、B/N比が0.42と低いため、NOx劣化試験後油にカーボンブラックを添加した際にSRV摩擦係数が高くなる。比較例2の試料油には、ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Cが配合されているが、この化合物は、末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンを含有しないため、NOx劣化試験後油およびNOx劣化試験後油にカーボンブラックを添加した試料油のSRV摩擦係数が高くなる。比較例3の試料油には、ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物Dが配合されているが、この化合物は、末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンを含有せず、さらにB/N比も0.34と低いため、NOx劣化試験後油、カーボンブラックを添加した試料油およびNOx劣化試験後油にカーボンブラックを添加した試料油のSRV摩擦係数が極めて高くなる。比較例4では、MoDTCを配合していないため、SRV摩擦係数が高く、摩擦低減効果が認められない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関に好適に用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油および/または合成油からなる基油と、(A)ポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物と、(B)モリブデンジチオカーバメートと、(C)ジアルキルジチオリン酸亜鉛とを含む内燃機関用潤滑油組成物であって、
前記(A)成分が、(a)数平均分子量500〜5,000のポリアルケニル基で置換されたコハク酸またはその無水物と、(b)全体の5モル%以上が末端に環構造を有するポリアルキレンポリアミンとを反応させて得られる下記式(1)で示されるポリアルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素化物であるとともに、ホウ素と窒素の質量比(B/N比)が0.5以上であり、該(A)成分の含有量が組成物全量基準においてホウ素量換算で0.01〜0.1質量%であり、
【化1】

(式中、Rは数平均分子量500〜5,000のポリアルケニル基、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜3のアルキル基、qは2〜4の整数、nは0〜3の整数、rは2〜4の整数を示し、Aはアミノ基またはポリアルキレンポリアミンの末端と同じ環構造の基である。)
前記(B)成分が下記式(2)で示されるモリブデンジチオカーバメートであって、該(B)成分の含有量が組成物全量基準においてモリブデン量換算で0.01〜0.08質量%であり、
【化2】

(式中、R6〜R9はそれぞれ独立に炭素数4〜22のヒドロカルビル基を表し、X〜X4は、各々硫黄原子または酸素原子を表す。)
前記(C)成分の含有量が組成物全量基準においてリン量換算で0.01〜0.09質量%であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物において、
硫黄分の含有量が組成物全量基準で0.3質量%以下であり、硫酸灰分が組成物全量基準で0.8質量%以下であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2009−292998(P2009−292998A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150903(P2008−150903)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】