説明

内燃機関用潤滑油組成物

【課題】内燃機関における省燃費性を実現し、特に、ターボチャージャーを装着した内燃機関における、省燃費性とターボチャージャーにおけるコーキング低減性とを両立させることのできる内燃機関用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、100℃における動粘度3.5〜4.0mm2/s、粘度指数130以上、芳香族分1.0質量%未満の鉱油系基油に、(A)100℃の動粘度が30〜60mm2/sのポリ−α−オレフィン、(B)エステル化合物、(C)有機モリブデン化合物をモリブデン含量で0.03〜0.12質量%、(D)塩基価250〜500mgKOH/gの金属系清浄剤、(E)ホウ素を含有しないコハク酸イミド、および(F)ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン含量で0.05〜0.08質量%を含有することを特徴する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関における省燃費性を実現し、特に、ターボチャージャーを装着した内燃機関における、省燃費性とターボチャージャーコーキング性能とを両立させた内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に対して、エンジンの小型高出力化、省燃費化、排ガス規制対応など、様々な要求がなされているが、これらに対応するための1つの手段として、過給機、特にターボチャージャーをエンジンに装着することが多くなってきた。
一方近年の環境問題、特に二酸化炭素の排出量削減の観点から、自動車の省燃費化は重要課題の1つであり、そのために自動車の軽量化、燃焼の改善及びエンジンの低摩擦化、駆動系装置の開発・改良等が検討されている。例えば、エンジンの低摩擦化では、可変動弁系機構等の動弁系構造の改良、ピストンリングの本数低減、摺動部材の表面粗さ低減等の材料面からの改良とともに、希薄燃焼エンジンや燃料直接噴射エンジンの開発、ターボチャージャーの装着、省燃費エンジン油の適用が進められている。
【0003】
ターボチャージャーを装着することで効率よく出力を上げることが可能になるが、反面、ターボチャージャーは高温余熱にさらされることから、油劣化、特にターボチャージャー内での油のコーキングによるデポジットの生成を引きおこす危険が生ずる。特に、高速、高負荷でターボチャージャー装着エンジンを運転した後にエンジンを急停止した時、すなわちターボチャージャーのヒートソークバック時には、タービン側壁温度は300℃以上にもなるため、ターボチャージャー内でエンジン油のコーキングが起こりやすい。その結果、油の流路が閉塞し、フローティングメタルが焼き付いたり、コーキングによるデポジットがフローティングメタルとシャフトの間に入り込んでフローティングメタルの動きを異常ならしめたり、またフローティングメタルを摩耗せしめ、タービン翼やコンプレッサー翼がケーシングと接触して破損したりするなどのトラブルを生ずる。
したがって、ターボチャージャー装着エンジンに使用されるエンジン油としては、熱・酸化安定性に優れるとともに、300℃以上の高温においてもコーキングしにくいものが求められる。
【0004】
コーキングを大幅に抑制しうるエンジン油としては、例えば特許文献1に、100℃における動粘度が16〜45cStの基油等の特定の高粘度基油を配合したマルチグレードエンジン油が開示されている。しかし、特定の高粘度基油を配合しない場合にはコーキングが顕著であり、これを抑制することは極めて困難であった。また、ターボチャージャー装着エンジンに好適な潤滑油としては、特許文献2において、有機酸エステル、アルキルジフェニルエーテルから選ばれた少なくとも1種の基油に、リン系摩耗防止剤、及びベンゾトリアゾール又はベンゾトリアゾール誘導体を特定割合で配合した耐摩耗性に優れる潤滑油組成物が開示されている。しかし、コーキング抑制については検討されていない。特許文献3には、潤滑油基油に特定のチオリン酸エステル若しくはリン酸エステルの金属塩、特定のジチオリン酸エステルの金属塩又はアミン塩、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤等を添加した、塩基価維持性や高温清浄性に優れる内燃機関用潤滑油組成物が記載されている。しかし、この文献にも、ターボチャージャー装着エンジンのコーキング防止性に関する開示や示唆はない。
【0005】
エンジン油の省燃費性を向上させるには、粘性抵抗を減らすための基油の低粘度化と、境界潤滑下の摩擦を低減するモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の摩擦低減剤を配合することが有効とされる。摩擦低減剤の中ではMoDTCが最も効果的な添加剤であり、MoDTCを配合したエンジン油は高い省燃費性を持つことが知られている。
しかし、MoDTCを高濃度で配合すると、高温におけるデポジット量が著しく増加することが報告されている(非特許文献1)。従って、ターボチャージャー装着エンジンの潤滑油組成物として、従来、MoDTCを配合したものによる、省燃費性とターボコーキング性能とを両立させることは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−122595号公報
【特許文献2】特開平8−259980号公報
【特許文献3】特開2002−294271号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】自動車技術会2008年学術講演会前刷集153−20085146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、内燃機関における省燃費性を実現し、特に、ターボチャージャーを装着した内燃機関における、省燃費性とターボチャージャーにおけるコーキング低減性とを両立させることのできる内燃機関用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の鉱油系基油に、特定のポリ−α−オレフィン、エステル化合物、特定割合の有機モリブデン系化合物、特定塩基価の金属系清浄剤、ホウ素を含有しないコハク酸イミドおよび特定割合のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有させた内燃機関用潤滑油組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、100℃における動粘度3.5〜4.0mm2/s、粘度指数130以上、芳香族分1.0質量%未満の鉱油系基油に、(A)100℃の動粘度が30〜60mm2/sのポリ−α−オレフィン、(B)エステル化合物、(C)有機モリブデン化合物をモリブデン含量で0.03〜0.12質量%、(D)塩基価250〜500mgKOH/gの金属系清浄剤、(E)ホウ素を含有しないコハク酸イミド、および(F)ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン含量で0.05〜0.08質量%を含有することを特徴する内燃機関用潤滑油組成物が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上記組成を有するので、内燃機関において高い省燃費性を達成でき、特に、高温にさらされることの多いターボチャージャーを備えた内燃機関において、高い省燃費性と効果的なコーキング抑制とを両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の潤滑油組成物について詳述する。
本発明の内燃機関用潤滑油組成物(以下、単に潤滑油組成物ともいう。)に用いる鉱油系基油は、特定の動粘度、特定の粘度指数及び特定量以下の芳香族分を有する。
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTLWAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される鉱油系基油が挙げられる。
【0013】
鉱油系基油の100℃における動粘度は、3.5〜4.0mm2/sであり、好ましくは3.6〜3.98mm2/s、より好ましくは3.7〜3.95mm2/s、特に好ましくは3.8〜3.93mm2/sである。該動粘度が4.0mm2/sを超える場合は、省燃費性およびターボチャージャーにおけるコーキング低減性が悪化する。一方、該動粘度が3.5mm2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また基油の蒸発損失が大きくなるおそれがある。ここでいう100℃における動粘度とは、JIS K2283に規定される100℃での動粘度を意味する。
【0014】
鉱油系基油の粘度指数は、130以上であり、好ましくは135以上、より好ましくは140以上である。特にノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような粘度指数135〜180程度のものを使用することが好ましい。粘度指数が130未満の場合には、省燃費性およびターボチャージャーにおけるコーキング低減性が悪化するおそれがある。ここでいう粘度指数とは、JIS K2283に規定される粘度指数を意味する。
【0015】
鉱油系基油の全芳香族分は、1.0質量%未満であり、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下である。全芳香族分は0質量%でもよいが、添加剤の溶解性の点で0.05質量%以上であることが好ましい。該全芳香族分が1.0質量%以上の場合は、酸化安定性が劣る。
ここでいう全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物が含まれる。
鉱油系基油中の硫黄分は特に制限はないが、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下が特に好ましい。ここでいう硫黄分とは、JIS K 2541−1996に準拠して測定される硫黄分を意味する。
【0016】
本発明では、鉱油系基油として、1種だけを用いてもよいが、2種以上の混合基油を用いることもできる。例として、100℃での動粘度が2〜4mm2/sの基油と100℃での動粘度が8〜50mm2/sの混合基油を挙げることができる。100℃での動粘度が8〜50mm2/sの基油としては、例えば、SAE30〜50、ブライトストック等の鉱油系基油を挙げることができる。
【0017】
本発明の潤滑油組成物は、(A)特定の動粘度を有するポリ−α−オレフィン(PAO)を含む。(A)成分としては、例えば、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等のα−オレフィンまたはその混合物のオリゴマーまたはその水素化物が挙げられ、これらの中では、1−デセンオリゴマーまたはその水素化物が好ましい。
【0018】
(A)成分の100℃における動粘度は、30〜60mm2/sであり、好ましくは35〜55mm2/s、更に好ましくは38〜50mm2/sである。該動粘度が30mm2/s未満の場合は、ターボチャージャーにおけるコーキング低減性が悪化し、60mm2/sを超える場合は省燃費性が悪化する。
【0019】
(A)成分の粘度指数は特に制限はないが、好ましくは130以上、より好ましくは135以上、更に好ましくは140以上である。粘度指数が130未満の場合は、ターボチャージャーにおけるコーキング低減性が悪化するおそれがある。
【0020】
(A)成分の組成物全量中における含有量は、好ましくは2〜20質量%、より好ましくは3〜15質量%、更に好ましくは4〜12質量%である。該含有量が20質量%を超えた場合は、省燃費性が悪化するおそれがあり、2質量%未満の場合は、ターボチャージャーにおけるコーキング低減性が悪化するおそれがある。
【0021】
本発明の潤滑油組成物は、(B)エステル化合物を含有する。(B)成分におけるエステルを構成するアルコールとしては、1価アルコールでも多価アルコールでもよく、また、エステル油を構成する酸としては、一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。
1価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。
炭素数1〜24のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、イコサノール、ヘンイコサノール、トリコサノール、テトラコサノールまたはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0022】
多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10価の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)またはこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトールまたはこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0023】
これらの多価アルコールの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)またはこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコール、またはこれらの2種以上の混合物が好ましい。さらにエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、またはこれらの混合物がより好ましい。特に、より高い熱・酸化安定性が得られることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、またはこれらの2種以上の混合物が最も好ましい。
【0024】
上記エステルを構成する酸のうち、一塩基酸としては、例えば、炭素数2〜24の脂肪酸が挙げられる。該脂肪酸は、直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。
炭素数2〜24の脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸等の飽和脂肪酸;アクリル酸、ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸等の不飽和脂肪酸;またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、潤滑性および取扱性がより高められる点から、特に炭素数3〜20の飽和脂肪酸、炭素数3〜22の不飽和脂肪酸、またはこれらの2種以上の混合物が好ましく、炭素数4〜18の飽和脂肪酸、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸、またはこれらの2種以上の混合物がより好ましく、酸化安定性の点からは、炭素数4〜18の飽和脂肪酸が最も好ましい。
【0025】
上記エステルを構成する酸のうち、多塩基酸としては、例えば、炭素数2〜16の二塩基酸またはトリメリット酸が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘプタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘキセン二酸、ヘプテン二酸、オクテン二酸、ノネン二酸、デセン二酸、ウンデセン二酸、ドデセン二酸、トリデセン二酸、テトラデセン二酸、ヘプタデセン二酸、ヘキサデセン二酸、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0026】
エステルを形成するアルコールと酸との組み合わせは任意であって特に制限されないが、本発明で使用可能なエステルとしては、例えば下記のエステルを挙げることができ、これらのエステルは単独でもよく、また2種以上を組み合わせてもよい。
(a)一価アルコールと一塩基酸とのエステル、(b)多価アルコールと一塩基酸とのエステル、(c)一価アルコールと多塩基酸とのエステル、(d)多価アルコールと多塩基酸とのエステル、(e)一価アルコールおよび多価アルコールの混合物と、多塩基酸との混合エステル、(f)多価アルコールと、一塩基酸および多塩基酸の混合物との混合エステル、(g)一価アルコールおよび多価アルコールの混合物と、一塩基酸および多塩基酸の混合物との混合エステル。これらの中でも、(b)または(c)のエステルが好ましく、更に(b)のエステルがより好ましい。
【0027】
(B)成分として、多価アルコールを用いる場合に得られるエステルは、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルでもよく、水酸基の一部がエステル化されず水酸基のまま残存する部分エステルでもよい。また、(B)成分として、多塩基酸を用いる場合に得られる有機酸エステルは、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでもよく、あるいはカルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0028】
(B)成分であるエステル化合物の沃素価は、好ましくは0〜5、より好ましくは0〜3、更に好ましくは0〜2、最も好ましくは0〜1である。該沃素価が前記範囲内であると、得られる潤滑油組成物の熱・酸化安定性が良好となる。ここでいう沃素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、エステル価、沃素価、水酸基価および不ケン化価物の測定方法」の指示薬滴定法により測定した値をいう。
【0029】
(B)成分であるエステル化合物の動粘度は特に制限はないが、100℃における動粘度は、好ましくは5.0mm2/s以下、より好ましくは4.8mm2/s以下、更に好ましくは4.5mm2/s以下、特に好ましくは4.3mm2/s以下であり、また、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは1.5mm2/s以上、更に好ましくは2.0mm2/s以上である。
(B)成分であるエステル化合物の粘度指数は特に制限はないが、100以上200以下が望ましい。
【0030】
本発明の潤滑油組成物は、(C)有機モリブデン化合物を特定割合で含有する。(C)成分である有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物が挙げられる。
【0031】
モリブデンジチオカーバメートとしては、例えば、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらモリブデンジチオカーバメートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も好ましく用いることができる。
【0032】
上記以外の硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物あるいはその他の有機化合物との錯体、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。
前記モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン;オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸;これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩;二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン;硫化モリブデン酸;硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩;塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデンが挙げられる。
前記硫黄含有有機化合物としては、例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステルが挙げられる。
【0033】
(C)成分としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることもできる。具体的には、例えば、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩が挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩またはアルコールのモリブデン塩が好ましく挙げられる。
【0034】
(C)成分である有機モリブデン化合物の含有量は、組成物全量基準において、モリブデン元素換算で、0.03〜0.12質量%であり、好ましくは0.035〜0.11質量%、特に好ましくは0.04〜0.10質量%、更に好ましくは0.04〜0.09質量%である。その含有量が0.03質量%未満の場合、十分な省燃費性が得られない。一方、含有量が0.12質量%を超える場合は、含有量に見合う効果が得られず、また、ターボチャージャーにおけるコーキング低減性が悪化する。
【0035】
本発明の潤滑油組成物は、(D)特定の塩基価を有する金属系清浄剤を含有する。該金属系清浄剤としては、潤滑油に通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、スルホネート系清浄剤、サリチレート系清浄剤、フェネート系清浄剤、ナフテネート系清浄剤を、単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中では、スルホネート系清浄剤またはサリチレート系清浄剤が好ましい。
【0036】
スルホネート系清浄剤としては、例えば、重量平均分子量1300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸の、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はその(過)塩基性塩を用いることができる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。
【0037】
アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸が挙げられる。石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。合成スルホン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものが挙げられる。
これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0038】
サリチレート系清浄剤としては、例えば、炭素数1〜19の炭化水素基を1つ有する、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレート、あるいはその(過)塩基性塩、炭素数20〜40の炭化水素基を1つ有する、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレート、あるいはその(過)塩基性塩、炭素数1〜40の炭化水素基を2つ又はそれ以上有する、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレート、あるいはその(過)塩基性塩が挙げられる。これら炭化水素基は同一でも異なっていても良い。これらの中では、低温流動性に優れる点で、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有する、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレート、あるいはその(過)塩基性塩を用いることが好ましい。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0039】
フェネート系清浄剤としては、例えば、アルキルフェノールサルファイドの、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、あるいはその(過)塩基性塩が挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。アルキル基の炭素数は、通常6〜21であり、好ましくは9〜18、より好ましくは9〜15である。炭素数が6より短いと基油に対する溶解性に劣るおそれがあり、炭素数が21より長いと製造が難しくまた耐熱性に劣るおそれがある。
【0040】
(D)成分の塩基価は、250〜500mgKOH/gであり、好ましくは270〜400mgKOH/g、より好ましくは290〜350mgKOH/gである。塩基価が250mgKOH/g未満の場合は、ターボコーキング性能が悪化するのおそれがあり、500mgKOH/gを超える場合は溶解性に問題を生ずるおそれがある。ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0041】
(D)成分の金属比は特に制限はないが、下限は好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは2.5以上であり、上限は好ましくは20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下である。ここでいう金属比とは、(D)成分における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルホン酸基、フェノール基、サリチル酸基等を意味する。
【0042】
(D)成分の含有割合は、組成物全量基準において、金属元素換算で、好ましくは0.02〜0.40質量%、より好ましくは0.05〜0.30質量%、さらに好ましくは0.10〜0.25質量%である。含有割合が金属元素換算で0.02質量%未満の場合は必要とする清浄性および酸中和性が得られないおそれがあり、0.40質量%を超える場合は過剰な金属成分が堆積するおそれがある。
【0043】
本発明の潤滑油組成物は、(E)ホウ素を含有しないコハク酸イミドを含有する。(E)成分としては、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に1個または2個有する、式(2)又は(3)で示される化合物が例示できる。
【化1】

【0044】
式(2)中、R20は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、hは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。一方、式(3)中、R21及びR22は、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、特に好ましくはポリブテニル基である。またiは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
上記アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は(E)成分の基油に対する溶解性が低下するおそれがあり、一方、該炭素数が400を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するおそれがある。このアルキル基又はアルケニル基としては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
(E)成分としては、高温清浄性の点から式(3)で示されるビスタイプのコハク酸イミドが好ましい。
【0045】
(E)成分の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で通常0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜8質量%、さらに好ましくは1〜6質量%である。該含有量が0.1質量%未満の場合は、ターボコーキング性能が悪化するのおそれがあり、また、10質量%を超える場合は、含有量に見合う効果が得られないばかりか、清浄性が悪化する傾向にある。
【0046】
本発明の潤滑油組成物は、(F)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を特定割合で含有する。(F)成分としては、例えば、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジヘプチルジチオリン酸亜鉛、またはジオクチルジチオリン酸亜鉛等の炭素数3〜18、好ましくは炭素数3〜10の直鎖状若しくは分枝状(第1級、第2級又は第3級、好ましくは第1級又は第2級)アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛;ジフェニルジチオリン酸亜鉛、またはジトリルジチオリン酸亜鉛などの炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜10のアリール基若しくはアルキルアリール基を有するジ((アルキル)アリール)ジチオリン酸亜鉛、またはこれらの2以上の混合物が挙げられる。
【0047】
(F)成分の含有量は、組成物全量基準で、リン元素換算量で通常0.05〜0.08質量%であり、好ましくは0.055〜0.078質量%、より好ましくは0.06〜0.075質量%、さらに好ましくは0.065〜0.073質量%である。(F)成分の含有量が0.08質量%を超える場合には、(F)成分の分解物が金属腐食を発生させたり、金属系清浄剤を消耗させて清浄性を悪化させ、0.05質量%未満の場合には十分な摩耗防止性が得られない。
【0048】
本発明の潤滑油組成物は、上記構成により、省燃費性およびコーキング防止性に優れたものとすることができ、ターボチャージャーを装着した内燃機関に用いた場合に、ターボチャージャーのコーキングを防止することができるが、さらにその性能を向上させるために、又は、その他の目的に応じて、本発明の潤滑油組成物には、潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、(E)成分以外の無灰分散剤、(F)成分以外の摩耗防止剤(または極圧剤)、有機モリブデン化合物以外の摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、又は着色剤を挙げることができる。
【0049】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤あるいは金属系酸化防止剤が挙げられる。これらの中ではコーキング防止性に優れることからフェノール系酸化防止剤が好ましく、ビスフェノール系あるいはエステル結合を有するフェノール系酸化防止剤が好ましい。具体的には、オクチル−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートや、オクチル−3−(3−メチル−5−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の3,5−ジアルキル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類(アルキル基は、1つがターシャリーブチル基であり、残りがメチル基又はターシャリーブチル基)が特に好ましい。
酸化防止剤を用いる場合の含有量は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%である。
【0050】
(E)成分以外の無灰分散剤としては、ホウ素化したアルケニルコハク酸イミド等の変性コハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアミン等を挙げることができる。
(F)成分以外の摩耗防止剤(または極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類が挙げられる。これらの摩耗防止剤(または極圧剤)を使用する場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0051】
有機モリブデン化合物以外の摩擦調整剤としては、例えば、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤が挙げられる。有機モリブデン化合物以外の摩擦調整剤を用いる場合の含有量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0052】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤又はポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤が挙げられる。これらの中でも、コーキング防止性により優れることから、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤あるいはスチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤が好ましく、中でも、エチレン−α−オレフィン共重合体系粘度指数向上剤が特に好ましい。これら粘度指数向上剤の重量平均分子量は、通常800〜1000000、好ましくは100000〜900000である。粘度指数向上剤を用いる場合の含有量は、組成物全量基準で、通常0.1〜20質量%である。
【0053】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステルが挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルが挙げられる。
【0054】
消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレート、o−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテルが挙げられる。
【0055】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ通常0.005〜5質量%、金属不活性化剤では通常0.005〜1質量%、消泡剤では通常0.0005〜1質量%の範囲から選ばれる。
【0056】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、通常5.6〜21.3mm2/s、好ましくは5.6〜16.3mm2/sである。ここでいう100℃における動粘度とは、JIS K2283に規定される100℃での動粘度を意味する。
【0057】
本発明の潤滑油組成物は、高い省燃費性およびコーキング防止性を発揮する。したがって、特に高温にさらされることの多いターボチャージャーを備えた内燃機関用の潤滑油組成物として好適に使用することができ、内燃機関において、効果的にコーキングを抑制することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の内容を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されない。
実施例1〜8、比較例1〜10
表1の組成となるように、実施例1〜8、比較例1〜10の計18種の潤滑油組成物を、それぞれ100℃における動粘度が11mm2/sとなるように調製した。基油の割合は基油全量基準、各添加剤の添加量は組成物全量基準である。表1に示す組成物につき、コーキング防止性を下記TEOST33C試験により、また省燃費性を同じくSRV摩擦試験により評価した。
【0059】
(TEOST33C試験)
Thermo-Oxidation Engine Oil Simulation Test、ASTM6335に準拠。
(SRV摩擦試験)
往復摺動摩擦試験、SAE Paper 952341に準拠。
試験片:シリンダー−オン−ディスク
荷重:400N
周波数:50Hz
振動の振幅:1.5mm
試験時間:5min
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すように、本発明の組成物はTEOST33C試験およびSRV摩擦試験の両方で優れた成績を示すのに対し、比較例1〜6および9〜10はTEOST33C試験の成績が劣り、比較例7〜8の組成物はSRV摩擦試験の成績が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における動粘度3.5〜4.0mm2/s、粘度指数130以上、芳香族分1.0質量%未満の鉱油系基油に、
(A)100℃の動粘度が30〜60mm2/sのポリ−α−オレフィン、(B)エステル化合物、(C)有機モリブデン化合物をモリブデン含量で0.03〜0.12質量%、(D)塩基価250〜500mgKOH/gの金属系清浄剤、(E)ホウ素を含有しないコハク酸イミド、および(F)ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン含量で0.05〜0.08質量%を含有することを特徴する内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
エステル化合物の100℃における動粘度が、1.0〜5.0mm2/sであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
有機モリブデン化合物が、モリブデンジチオカーバメートであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
ターボチャージャーを備えた内燃機関に使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−184566(P2011−184566A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51276(P2010−51276)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】