説明

内燃機関用点火コイル

【課題】点火コイルの取付け作業や取外し作業が容易で、且つ、確実な封止性能を発揮する点火コイルを提供する。
【解決手段】コイルケースCAと、コイルケースの突出部3に外嵌される弾性部材SLとを有して構成される。弾性部材SLは、弾性本体部9から軸方向先端に向けて延設される外側シール部11と、弾性本体部9から軸方向先端に向けて、外側シール部11より長く延設される内側シール部10とを有し、内側シール部10と外側シール部11とによって環状の係止溝12が形成される。弾性本体部9の内周面には、軸方向に直進する環状凹部13が形成され、点火コイルの取付け作業時には、コイルケースCAの外周面に突出形成された突条5が、環状凹部13の内部を、所定距離Lだけ移動可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のプラグホールに挿入して使用される点火コイルに関し、特に、取付け作業と取外し作業が容易で、確実な防水性能を実現する点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンなどの内燃機関では、燃焼室に近接するプラグホールに点火コイルを挿入し、プラグホールの底部に装着された点火プラグを駆動する方式を採っている。この種の点火コイルは、バッテリ電圧を受ける一次コイルと、一次コイルの電流遮断時に高電圧を発生する二次コイルとを内蔵するが、これら一次コイル及び二次コイルのほぼ全長をプラグホール内部に配置する方式と、一次コイル及び二次コイルの全体をプラグホールの外部に配置する方式とに大別される。但し、何れの方式を採る場合でも、プラグホール内部に水が浸入しないよう、点火コイルには、適宜な弾性シール部材が装着されている。
【0003】
この弾性シール部材を用いたシール方法としては、プラグホール内壁面に弾性シール部材を押し当てる方法が一般的に使用されている(特許文献1)。例えば、特許文献1の点火コイルでは、点火プラグを受け入れるプラグキャップの内周面に、突起を突出形成して構成されている。そして、プラグキャップに点火プラグを受け入れると、プラグキャップの外周面がプラグホールに向けて膨出することで、プラグホール内壁面との封止面が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−230015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の発明では、点火プラグとプラグキャップとが協働して封止面を形成する構成を採るので、例えば、点火プラグの形状や大きさが多少でも変化すると、封止性能に支障が生じるか、或いは、取付け作業や取外し作業に支障が生じるという問題がある。
【0006】
しかも、上記の発明では、封止面がプラグホールの底面付近だけに形成されるので、浸水を完全には防ぎ切れないという問題がある。また、封止部材の構造上、封止面からプラグホールの上面までに、貯水可能なスペースが少なからず存在し、万一、貯水状態が継続されるとプラグホールを腐食させるおそれがある。
【0007】
一方、内燃機関の運転時には貯水が蒸発するが、その時に発生する加圧状態の大量の酸性ガスが封止面を先端方向に突破し、点火プラグの接点などを腐食させるおそれもある。そして、このような弊害を防止するためには、プラグホールの上面を強固に封止することはできず、結局、前記した貯水の可能性が解消されない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、点火プラグの形状や大きさに拘わらず、点火コイルの取付け作業や取外し作業が容易で、且つ、確実な封止性能を発揮する点火コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、基端部(2)と突出部(3)とに区分され、前記突出部の全域又はほぼ全域が内燃機関のプラグホール(HO)に挿入されるコイルケース(CA)と、前記突出部に外嵌される弾性部材(SL)とを有して構成される点火コイルにおいて、前記弾性部材は、弾性本体部(9)から軸方向先端に向けて延設される外側シール部(11)と、外側シール部の径方向内側において、弾性本体部から軸方向先端に向けて、前記外側シール部より長く延設される内側シール部(10)とを有し、前記内側シール部と前記外側シール部とによって環状の係止溝(12)が形成され、前記弾性本体部及び/又は内側シール部の内周面には、軸方向に直進又は傾斜する環状凹部(13)が形成され、点火コイルを内燃機関の所定箇所に装着する取付け作業時には、前記コイルケースの外周面に突出形成された突条(5)が、前記環状凹部の内部を、所定距離(L)だけ移動可能に構成されている。
【0010】
本発明は、好ましくは、前記突条とは別に、コイルケースの外周面に押圧部(6)を突出形成するともに、前記内側シール部に、径方向外向きに隆起する隆起部(10a)を形成し、前記突条が、前記環状凹部の内部で先端方向に前記所定距離(L)だけ移動すると、これに対応して、前記押圧部(6)が、前記隆起部(10a)を更に隆起させる位置に移動するよう構成されている(例えば、図1参照)。
【0011】
この場合、前記押圧部が、前記隆起部を自然状態から更に隆起させない限り、前記内側シール部(10)の外径最大寸法は、前記プラグホールの内径寸法よりやや小さいのが好ましい。また、前記内側シール部の内周面に形成された環状凹部は、前記隆起部に対応する位置に形成されているのが典型的である。
【0012】
また、前記環状凹部は、軸方向に先端に向け先細に傾斜する傾斜部を有して構成され、前記傾斜部の先端付近の外周面に、前記隆起部が形成されているのも好適である(例えば、図3参照)。
【0013】
ここで、前記環状凹部は、前記弾性本体部だけに形成されているか(例えば、図1参照)、或いは、前記内側シール部だけに形成されている(例えば、図4参照)のも好適である。前者の場合、前記環状凹部は、軸方向に直進する直進部を有して構成され、前記突条は、前記直進部を前記所定距離だけ移動可能に構成されているのが典型的である。一方、後者の場合、前記環状凹部は、軸方向に先端に向け先細に傾斜する第1傾斜部と、更に急峻に先細に傾斜する第2傾斜部を有して構成され、第1傾斜部と第2傾斜部の境界付近に前記隆起部が形成されているのが典型的である。
【0014】
本発明において、前記突条(5)及び/又は前記押圧部(6)は、基端側に向けて拡径されるテーパ面(5a)と、軸方向に平坦な頂上面(5b)と、コイルケースの外周面に略直交する垂下面(5c)とを有して構成されていると好適である。
【0015】
また、前記押圧部は、円弧状の膨出面を有して構成されて、その最大外径寸法は、前記突条の最大外径寸法より小さく設定されているのも好ましい。
【0016】
なお、一次コイル及び二次コイルのほぼ全域は、プラグホールに収納されているか、或いは、プラグホールから露出する位置に収納されているのが典型的である。
【0017】
また、本発明は、基端部と突出部とに区分され、前記突出部の全域又はほぼ全域が内燃機関のプラグホールに挿入されるコイルケースと、前記突出部に外嵌される弾性部材とを有して構成される点火コイルにおいて、前記弾性部材は、略円環状の弾性本体部と、前記弾性本体部から軸方向先端に向けて延設される内側シール部とを有し、前記弾性本体部は、前記コイルケースに略直交する平坦な径方向シール面と、前記コイルケースの軸方向に延びる外側シール面とが形成され、前記弾性本体部及び/又は内側シール部の内周面には、軸方向に直進又は傾斜する環状凹部が形成され、点火コイルを内燃機関の所定箇所に装着する取付け作業時には、前記コイルケースの外周面に突出形成された突条が、前記環状凹部の内部を、所定距離だけ移動可能に構成されるのも好適である。
【発明の効果】
【0018】
上記した本発明によれば、点火プラグの形状や大きさに拘わらず、点火コイルの取付け作業や取外し作業を容易に完了させることができる。また、本発明の構成によれば、確実な封止性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第一実施例の点火コイルの概略構成を示す図面である。
【図2】図1の点火コイルの作用を説明する図面である。
【図3】第二実施例の点火コイルを説明する図面である。
【図4】第三実施例の点火コイルを説明する断面図である。
【図5】コイルケースの変形例を説明する図面である。
【図6】第四実施例の点火コイルを説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例に基づいて本発明の実施例を説明する。図1は、第一実施例に係る点火コイルCLを示す概略構成図である。図1(a)に示す通り、この点火コイルCLは、コイルケースCAと、コイルケースCAに外嵌される弾性部材SLとを備えて構成されている。
【0021】
コイルケースCAは、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂などで一体成形されており、取付け状態でエンジンブロックBLのプラグホールHO(図2参照)から露出する基端部2と、プラグホールHOに収容される突出部3とに大別される。
【0022】
基端部2は、点火コイルCLをエンジンブロックBLに装着するための接続部2aと、スイッチング素子が収容されるイグナイタ部2bと、イグナイタ部2bへの接続端子を内蔵するターミナル部2cとに区分される。接続部2aには、金属円筒体MTが装着されることで、上下方向に貫通したボルト穴が形成されている。
【0023】
突出部3は、全体として、略円筒状に形成され、その内部には、一次コイルと二次コイルとが同心状に収容されている。突出部3の外径は、基端側から先端側に向けて段階的に先細に形成され、最大径のネック部3aと、ネック部3aよりやや小径の本体部3b,3bと、更に小径の連結部3cと、先端方向に向けて縮径される傾斜部3dと、最小径の先端部3eとに区分されている。そして、プラグホールHOへの装着状態では、先端部3eが点火プラグPGの一部を受け入れる(図2参照)。
【0024】
図1(a)に示す通り、ネック部3aと本体部3bの境界位置に、突出形成された突条たる係止部5が形成され、係止部5から所定距離Hだけ先端側に離間した位置に、押圧部6が形成されている。
【0025】
図1(b)に示す通り、係止部5は、基端側に向けて拡径されるテーパ面5aと、軸方向に平坦な頂上面5bと、ネック部3aの外表面と直交する垂下面5cとを有して構成されている。ここで、係止部5は、そのテーパ面5aの頂上位置が、接続部2aの底面から所定距離Tだけ軸方向に離間して形成されている(図1(a))。
【0026】
図1(b)の矢印で示す通り、弾性部材SLは、コイルケースCAの先端側から挿入されるが、テーパ面5aの傾斜角が45°程度に設定されていることで、弾性部材SLを円滑に案内して、図1(a)の外嵌状態が実現される。
【0027】
なお、ネック部3aが本体部3bよりやや大径に形成されているので、弾性部材SLが加圧状態で装着され、しかも、係止部5の最大径が適度に大きく設定されているので、弾性部材SLの脱落は、垂下面5cによって確実に阻止される。
【0028】
押圧部6は、本体部3bから径方向外方に円弧状に膨出して構成されている。押圧部6の最大径は、係止部5の最大径より適度に小さく設定されることで、弾性部材SLに対する、コイルケースCAの相対移動を可能にしている。なお、図示例では、テーパ面5aの頂上位置から、押圧部6の軸方向中心位置までを、係止部5と押圧部6との離間距離Hと規定している。したがって、接続部2aの底面から押圧部6の軸方向中心位置までの離間距離は、T+Hとなる。
【0029】
弾性部材SLは、ゴムなどのエラストマ材で略円筒状に一体構成され、肉厚の弾性本体部9と、弾性本体部9の内径寸法を維持して弾性本体部9から軸方向先端側に延設される内側シール部10と、弾性本体部9の外径寸法を維持して軸方向先端向きに延設される外側シール部11と、に大別される。そして、外側シール部11と内側シール部10とで断面U字状の係止溝12が環状に形成されている。なお、点火コイルCLをエンジンブロックBLに装着した後は、弾性本体部9と外側シール部11だけがプラグホールHOから露出する(図2参照)。
【0030】
弾性本体部9及び内側シール部10の内周径は、コイルケースCAの本体部3bの外周径より僅かに小径に形成されており、その結果、コイルケースCAとの適度な密着性を確保している。
【0031】
弾性本体部9の内周側には、環状凹部13が形成されている。図1(b)に示す通り、環状凹部13は、係止部5の垂下面5cと同一形状の基端面13aと、軸方向に所定距離L’だけ同一寸法で延びる環状底面13bと、係止部5のテーパ面5aと同一傾斜面を有する先端面13cとで構成されている。本実施例では、係止溝12の最奥部は、基端面13aに対して、軸方向に所定距離Sだけ離間している。図1(b)から明らかなように、S>L’であって、S≒L’の関係にある。
【0032】
環状凹部13(つまり環状底面13b)の深さは、係止部5のコイルケース本体部3bからの突出高さとほぼ同一に形成されている。そのため、弾性部材SLとコイルケースCAとは、環状底面13bの長さL’に対応して、相対移動距離Lの移動が許容される。なお、この相対移動距離Lは、環状底面13bの軸方向長さL’と、係止部の頂上面5bの厚みaに対応して、L=L’−aとなる。
【0033】
弾性部材SLの内側シール部10は、プラグホールHOの内径寸法と、コイルケース本体部3bの外径寸法の寸法差に対応して、適度に肉薄な略円筒形に形成されている。そして、内側シール部10の外周径は、先端側の隆起部10aを除いて、ほぼ均一に設定されている(図1(b))。但し、コイルケース押圧部6に加圧される変形部10bは、押圧部6の膨出形状に対応して、径方向外方にやや膨出する。この変形部10bの位置は、コイルケースCAと弾性部材SLとの相対移動に対応して軸方向前後に移動する。
【0034】
なお、図1に示す点火コイルCLの初期状態(未装着状態)では、隆起部10aと変形部10bの外径寸法が、プラグホールHOの内径寸法より、やや小さく設定されている。したがって、隆起部10aや変形部10bの最外面が、点火コイルCLのプラグホールHOへの取付け作業を阻害するおそれはない。
【0035】
ところで、本実施例では、隆起部10aの軸方向中心位置と、環状底面13bの最先端位置との相対距離H’は、係止部5と押圧部6の相対距離Hと同一に設定されている。そのため、図1(a)の初期状態から、コイルケースCAが、弾性部材SLとの関係で、相対移動距離Lだけ先端方向に相対移動すると、変形部10bが隆起部10aの位置に達することになり、隆起部10aが更に大きく隆起する。本実施例では、この最大隆起状態において、隆起部10aの外径寸法が、プラグホールHOの内径寸法より適度に大きくなるよう設定されている。そのため、隆起部10aの最大隆起状態では、弾性部材SLがプラグホールの内壁面に強く押圧されることで、確実なシール性能を発揮する。
【0036】
図2(a)〜(c)は、エンジンブロックBLの構成と、上記の動作を確認的に示す図面である。図2に示す通り、エンジンブロックBLには、プラグホールHOの内周面を延長して円筒状に突出する突出装着部20が形成されている。突出装着部20の肉厚は、弾性部材SLの係止溝12の形状に対応して、係止溝12の溝幅よりやや厚く形成されている。また、突出装着部20の突出高さD1は、係止溝12の深さより十分高く設定されている。そのため、突出装着部20は、係止溝12を押し広げつつ、その奥底まで無理なく進入することができる(図2(b)参照)。
【0037】
また、コイルケース接続部2aに対応する位置には、固定部21が隆起して形成されている。固定部21は、突出装着部20より更にD2だけ高く、その隆起高さがD1+D2に設定されている。この実施例では、接続部2aと係止部5の離間距離Tに対応して、D2≒Tに設定されている。なお、固定21にはボルト穴が形成されており、金属円筒体MTを貫通してボルトを締め込むことで、点火コイルCLがプラグホールHOに固定される。
【0038】
以上を踏まえて、点火コイルCLの装着時におけるコイルケースCAと弾性部材SLの動作内容を説明する。先に説明した通り、弾性部材SLの隆起部10aや変形部10bの外径寸法は、図1(a)に示す初期状態では、プラグホールHOの内径寸法より、やや小さく設定されている。そのため、点火コイルCLは、図2(a)の状態から図2(b)の状態まで、円滑にプラグホールHOに挿入される。
【0039】
また、突出装着部20は、その突出高さD1が、係止溝12の深さより高く設定され、その肉厚が、係止溝12の溝幅よりやや厚く形成されている。そのため、図2(b)の停止状態では、係止溝12の奥底に、突出装着部20の先端が当接された状態で、係止溝12が押し広げられ、これに対応して、外側シール部11が、突出装着部20の外周面を内向きに押圧して、確実なシール性能を発揮している。
【0040】
ところで、この停止状態では、接続部2aの底面は、突出装着部20の最上部(係止溝12の最奥部)からT+(S−a)だけ離間して位置している。ここで、距離Sは、係止溝12の最深部と、基端面13aとの離間距離であり、距離aは、係止部の頂上面5cの軸方向厚さである(図1(b))。一方、固定部21の高さは、突出装着部20より更にD2に高く設定されている。そのため、接続部2aの底面と固定部21の頂上面との離間距離δは、δ=T+(S−a)−D2となる。
【0041】
先に説明した通り、本実施例では、D2≒Tに設定されている。また、L’=L+aであって、S≒L’に設定されている。そのため、δ=T+(S−a)−D2=T+S−L’+L−D2=(T−D2)+(S−L’)+L≒Lの関係が成立し、離間距離δは、環状底面13bの軸方向長さL’に対応する相対移動距離Lにほぼ一致する。
【0042】
次に、このような停止状態(図2(b))において、金属円筒体MTを貫通してボルトを締め込むと、この締め込み動作に対応して、コイルケースCAは、更にプラグホールHOの内部に進入する。但し、弾性部材SLのそれ以上の移動は、突出装着部20に阻止されるので、弾性部材SLを残した状態で、コイルケースCAだけが更に進入する。
【0043】
そして、締め込み距離が、図示の離間距離δに達すると、接続部2aの底面が、固定部21の頂上面に当接して締め込み作業が完了する(図2(c)参照)。先に説明した通り、この実施例では、δ≒Lの関係が成立しているので、この締め込み完了時には、係止部5のテーパ面5aが、弾性部材SLの先端面13cに当接されると共に、押圧部6が、隆起部10aの位置に到達する(図2(c))。そのため、隆起部10aは更に隆起することになり、弾性部材SLが、プラグホールHOの内面に強く押圧されて、確実なシール性能を発揮する。なお、図2(c)は、この状態を図示している。
【0044】
一方、点火プラグPGの交換などのために、点火コイルを引き抜く場合には、弾性部材SLがプラグホールHOの内壁面を押圧していることから、弾性部材SLを残して、コイルケースCAだけが上方に移動する。その結果、隆起部10aの最大隆起状態が素早く解消され、その後は、点火コイル全体が一体的に移動して、円滑に取外し作業を終えることができる。
【0045】
以上説明した通り、本実施例の点火コイルCLでは、図2(c)の締め込み完了状態までは、弾性部材SLが、プラグホールHOの内壁面を押圧しないので、取付け作業が容易である。同様に、弾性部材SLの押圧状態は、容易に解消されるので点火コイルCLの取外し作業も容易である。また、プラグホールHOの上部位置において、その内壁面と外壁面とを、弾性部材SLの外側シール部11と内側シール部10で二重に封止するので、プラグホールHOへの浸水を確実に防止できる。なお、万一、外側シール部が突破されても、内側シール部に至るまでの空間及び距離が狭小であるので、弊害が生じない。
【0046】
以上、本発明の実施例について具体的に説明したが、環状凹部を2箇所に設けるのも好適である。図3は、このような第二実施例を示す概略図である。この実施例では、内側シール部10の内周面に、押圧部6に対応する第2の環状凹部30が形成されている。また、環状凹部30の先端位置に、隆起部10aが設けられている。
【0047】
図3(b)に示す通り、隆起部10aの軸方向中心位置と、押圧部6の先端側端面とは、所定距離L1だけ離間している。
【0048】
一方、環状凹部30は、内側シール部10の内周面に直交する基端面30aと、軸方向に同一寸法で延びる環状底面30bと、先端方向に先細に傾斜面を形成する先端面30cとで構成されている。環状底面30bは、押圧部6の最大径よりやや深く形成されており、押圧部6の移動を阻害しない。また、隆起部10aの軸方向中心位置と、押圧部6の先端側端面との離間距離L1は、第1環状凹部13における相対移動距離Lとほぼ同一に設定されている。
【0049】
その他の構成は第一実施例の場合と同じであり、図3(b)の停止状態では、接続部2aの底面と固定部21の頂上面との離間距離δは、δ=T+(S−a)−D2となる。そして、この状態から、更にボルトを締め込むと、ほぼ相対移動距離LだけコイルケースCAが進行した状態で、図3(c)の装着状態となる。
【0050】
先に説明した通り、この実施例では、L≒L1に設定されているので、図3の状態では、押圧部6が隆起部10aの位置に到達し、プラグホールHOの内壁面に強く当接されて確実なシール性能を発揮する。なお、図3(c)の状態からコイルケースを引き抜き方向に移動すると、容易に図3(b)の状態に移行するので、取外し作業も容易である。
【0051】
なお、第一と第二の実施例では、コイルケースCAに、係止部5と押圧部6とを設けたが、必ずしも、このような構成は必須ではない。図4は、押圧部6を省略した第三実施例を示す概略図である。この実施例では、弾性部材SLの抜け防止機能を発揮する係止部5が、押圧部6を兼ねる構成となっている。
【0052】
そして、この構成に対応して、接続部2aの底面から、係止部5のテーパ面5a最上部までの離間距離Tが、第一実施例の場合より大きく形成されている。また、環状凹部40を内側シール部10に形成している。
【0053】
図4(b)に示す通り、環状凹部40は、内側シール部10の内周面に直交する基端面40aと、先端方向に向けて第1傾斜角で傾斜する第1傾斜面40bと、第1傾斜角より急峻に傾斜する第2傾斜面40cとで構成されている。そして、第1傾斜面40bと、第2傾斜面40cの境界部に隆起部10aが設けられている。なお、基端面40aの深さは、係止部6の径方向最外部に一致する程度に形成されており自由移動を阻止している。
【0054】
ここで、隆起部10aの軸方向中心位置と、係止部5のテーパ面5aの最上部とは、所定距離L2だけ離間している。また、係止部5のテーパ面5aの最上部と、係止溝12の最奥部との離間距離は、所定値dに設定されている。
【0055】
そのため、図4(b)に示す停止状態では、T=D2+d+δの関係が成立する。先の実施例と同様、δは、接続部2aの底面と、固定部21の頂上面との離間距離であり、D2は、突出装着部20と固定部21の突出高さの差である。
【0056】
前式を変形するとδ=T−D2−dとなるが、この実施例では離間距離dを適宜に設定することで、δ=T−D2−d≒L2となるよう構成されている。
【0057】
そのため、図4(b)の停止状態から図4(c)の状態までボルトを締め込むと、係止部5の頂上面5aの先端が、第1傾斜面40bと第2傾斜面40cの境界位置まで移動し、隆起部10aを更に隆起させることで、プラグホールHOの内壁面との確実なシール性能を発揮する。なお、図4(c)の状態からコイルケースを引き抜き方向に移動すると、容易に図4(b)の状態に移行するので、取外し作業も容易である。
【0058】
以上、一次コイルと二次コイルのほぼ全長をプラグホールに収容するペンシルタイプの点火コイルについて説明した。しかし、本発明の適用は、このような点火コイルに限定されるものではなく、一次コイル及び二次コイルの全体をプラグホールの外部に配置する点火コイルにも好適に適用することができる。また、コイルケースの形状も、図5の形状を含めて適宜に変更可能である。
【0059】
また、上記の実施例では、外側シール部11と、内側シール部10との間に、環状の係止溝12を設けているが、必ずしも、このような構成に限定されない。
【0060】
図6は、外側シール部11を設けない第四実施例を示している。この点火コイルでは、円環状に形成された弾性本体部9に、コイルケースCAに略直交する径方向シール面50aと、軸方向に延びる外側シール面50bとが形成されている。ここで、径方向シール面50aは、十分に平坦に構成されており、点火コイルの装着状態では、径方向シール面50aがエンジンブロックBLの頂上面にピッタリと当接されることで、貯水可能なスペースが発生しない。
【0061】
この実施例では、径方向シール面50aと外側シール面50bとが、前記各実施例における外側シール部11と同等の作用効果を発揮する。そして、このような構成を採ることで、プラグホールHOの開口端面を、その周囲面と同様な平滑面にすることができる。なお、この実施例でも、内側シール部は、図3や図4の構成を採ることができる。
【符号の説明】
【0062】
2 基端部
3 突出部
5 突条
9 弾性本体部
10 内側シール部
11 外側シール部
12 係止溝
13 環状凹部
HO プラグホール
CA コイルケース
SL 弾性部材
CL 点火コイル
L 所定距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端部と突出部とに区分され、前記突出部の全域又はほぼ全域が内燃機関のプラグホールに挿入されるコイルケースと、前記突出部に外嵌される弾性部材とを有して構成される点火コイルにおいて、
前記弾性部材は、弾性本体部から軸方向先端に向けて延設される外側シール部と、外側シール部の径方向内側において、弾性本体部から軸方向先端に向けて、前記外側シール部より長く延設される内側シール部とを有し、前記内側シール部と前記外側シール部とによって環状の係止溝が形成され、
前記弾性本体部及び/又は内側シール部の内周面には、軸方向に直進又は傾斜する環状凹部が形成され、
点火コイルを内燃機関の所定箇所に装着する取付け作業時には、前記コイルケースの外周面に突出形成された突条が、前記環状凹部の内部を、所定距離だけ移動可能に構成されていることを特徴とする内燃機関用の点火コイル。
【請求項2】
前記突条とは別に、コイルケースの外周面に押圧部を突出形成するともに、前記内側シール部に、径方向外向きに隆起する隆起部を形成し、
前記突条が、前記環状凹部の内部で先端方向に前記所定距離だけ移動すると、これに対応して、前記押圧部が、前記隆起部を更に隆起させる位置に移動するよう構成されている請求項1に記載の点火コイル。
【請求項3】
前記押圧部が、前記隆起部を自然状態から更に隆起させない限り、前記内側シール部の外径最大寸法は、前記プラグホールの内径寸法よりやや小さい請求項2に記載の点火コイル。
【請求項4】
前記内側シール部の内周面に形成された環状凹部は、前記隆起部に対応する位置に形成されている請求項2又は3に記載の点火コイル。
【請求項5】
前記環状凹部は、軸方向に先端に向け先細に傾斜する傾斜部を有して構成され、前記傾斜部の先端付近の外周面に、前記隆起部が形成されている請求項2〜4の何れかに記載の点火コイル。
【請求項6】
前記環状凹部は、前記弾性本体部だけに形成されている請求項1に記載の点火コイル。
【請求項7】
前記環状凹部は、軸方向に直進する直進部を有して構成され、前記突条は、前記直進部を前記所定距離だけ移動可能に構成されている請求項6に記載の点火コイル。
【請求項8】
前記環状凹部は、前記内側シール部だけに形成されている請求項1に記載の点火コイル。
【請求項9】
前記環状凹部は、軸方向に先端に向け先細に傾斜する第1傾斜部と、更に急峻に先細に傾斜する第2傾斜部を有して構成され、第1傾斜部と第2傾斜部の境界付近に前記隆起部が形成されている請求項8に記載の点火コイル。
【請求項10】
前記突条及び/又は前記押圧部は、基端側に向けて拡径されるテーパ面と、軸方向に平坦な頂上面と、コイルケースの外周面に略直交する垂下面とを有して構成されている請求項2〜9の何れかに記載の点火コイル。
【請求項11】
前記押圧部は、円弧状の膨出面を有して構成されて、その最大外径寸法は、前記突条の最大外径寸法より小さく設定されている請求項2に記載の点火コイル。
【請求項12】
一次コイル及び二次コイルのほぼ全域は、プラグホールに収納されている請求項1〜11の何れかに記載の点火コイル。
【請求項13】
一次コイル及び二次コイルは、プラグホールから露出する位置に収納されている請求項1〜11の何れかに記載の点火コイル。
【請求項14】
基端部と突出部とに区分され、前記突出部の全域又はほぼ全域が内燃機関のプラグホールに挿入されるコイルケースと、前記突出部に外嵌される弾性部材とを有して構成される点火コイルにおいて、
前記弾性部材は、略円環状の弾性本体部と、前記弾性本体部から軸方向先端に向けて延設される内側シール部とを有し、前記弾性本体部は、前記コイルケースに略直交する平坦な径方向シール面と、前記コイルケースの軸方向に延びる外側シール面とが形成され、
前記弾性本体部及び/又は内側シール部の内周面には、軸方向に直進又は傾斜する環状凹部が形成され、
点火コイルを内燃機関の所定箇所に装着する取付け作業時には、前記コイルケースの外周面に突出形成された突条が、前記環状凹部の内部を、所定距離だけ移動可能に構成されていることを特徴とする内燃機関用の点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−35256(P2011−35256A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181558(P2009−181558)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000109093)ダイヤモンド電機株式会社 (387)