説明

内燃機関用点火装置

【課題】内燃機関用点火装置において、セルフシャットオフ機能が動作したことを、点火装置外部に認識させる。特に点火装置自身の端子数、及びECUと点火装置との接続配線数を増やすことなく、ECUへ伝える
【解決手段】
スイッチング素子8が、ECU1からの所定時間以上の点火信号の入力もしくは外部要因等により、異常通電時間を持続する時、または異常通電により異常発熱した時、セルフシャットオフ回路12は、これらの一つを検知して、スイッチング素子のべース又はゲート電圧を制御して1次電流をセルフシャットオフする。セルフシャットオフ機能が働いたときに、点火信号制御装置15により、点火装置側で点火信号線上の点火信号に変化を与えて点火信号線を通してECU1側に知らせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用の点火装置においては、点火コイルの1次電流を通電,遮断制御するスイッチング素子が外部要因により異常発熱し破壊するおそれが生じた場合には、スイッチング素子(1次電流)の通電を強制的に遮断するセルフシャットオフ機能が取り入れられている。
【0003】
例えば、特開平8−335522号公報に記載の点火装置では、スイッチング素子部と、保護機能である電流制限回路と、点火コイルの異常やECU(エンジン制御ユニット)から所定時間以上の点火制御信号が入力によりスイッチング素子の異常発熱を検知すると、スイッチング素子の通電を強制的に遮断(セルフシャットオフ)するサーマルシャットオフ回路とを備える。
【0004】
サーマル式シャットオフ回路は、異常通電信号もしくは点火コイルの故障により発生する異常発熱を、素子の温度をモニタすることにより検出し、素子温度がサーマル式シャットオフ回路の動作閾値温度以上になると、強制的にスイッチング素子のゲート電圧をハイレベルからローレベルに落とし点火コイルに流れる1次電流の通電を停止させる機能である。セルフシャットオフには、上記サーマル式のほかに、タイマー式シャットオフ回路もある。タイマー式は、ECUから連続通電信号が入力された際、通電信号時間が回路内部で設定されたタイマー式シャットオフ回路の動作閾値時間に達した際、強制的にスイッチング素子のゲート電圧を、ハイレベルからローレベルに落とし通電を停止させる機能である。
【0005】
【特許文献1】特開平8−335522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
どちらも異常通電等に対するイグナイタ(特にスイッチング素子)の保護が可能となる。ただし、セルフシャットオフ機能が働いたか否かを、点火装置外部に知らせる機能は備えていなかった。セルフシャットオフ機能が働くと点火時期のずれ等が生じ、不十分な燃焼や失火が起きる。失火等による車両での警告により、異常部品は市場から返却、回収される。ECU制御上の異常により点火コイル(イグナイタ内蔵もある)が返却されても、点火装置の部品としての異常ではないため、原因不明で処理される。その上、異常の本質は改善されないままとなるケースが発生する。また連続的にセルフシャットオフ機能が働くと、失火による触媒の異常過熱等になる可能性があるが、セルフシャットオフ機能をもつだけでは対処できない。
【0007】
以上の見地からすれば、セルフシャットオフ機能が動作したことを、点火装置外部に何らかの形で認識させることが望ましい。特に点火装置自身の端子数、及びECUと点火装置との接続配線数を増やすことなく、ECUへ伝えることが望まれる。
【0008】
本発明は、以上の要求に応えることのできる内燃機関用点火装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、セルフシャットオフ機能が働いたことを、点火信号に変化を与えて点火信号線を通してECUに検知させる手段を、内燃機関用点火装置に設けた。
【0010】
例えば、本発明ではセルフシャットオフ機能が動作したことを、ECUから入力される点火信号電圧をECU側にて検知し易い様に0.2V以上変化させる、又はECUから入力される点火信号の入力電流値を規定値に対し倍以上増加させ、点火信号電圧の変化量、もしくは入力電流の増加電流分をECUで検知、判定もしくは記憶する。これにより、事象発生時もしくは事象発生後であっても、スイッチング素子が異常発熱する要因が発生したのかを確認することができる。
【発明の効果】
【0011】
したがって、これまで原因不明として処理されていた事象に対し、原因を特定することが可能となる。また、点火信号線を用いてセルフシャットオフ機能が働いたことを伝えるために、イグナイタの端子数が増えることもないため、車輛搭載時においても、配線数の増加はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1(a)に本発明の一実施例に係る内燃機関用点火システムの構成例を示す。
【0013】
同図において、1はECU、2は点火装置、3は点火コイルの1次コイル、4は2次コイルである。5はプレイグ防止用高圧ダイオード、6は点火プラグ、7はバッテリ電圧を示す。
【0014】
ECU1の出力段は、PNPトランジスタ19、NPNトランジスタ21、抵抗20で構成される。エンジン状態に応じて、CPU23にて算出された適正な点火タイミングで、トランジスタ19,21をオン、オフ制御し、点火装置2に適正な点火信号(点火制御信号)を出力する。
【0015】
点火装置2は、制御回路要素として、パワートランジスタ或いは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタにより構成されるスイッチング素子8、電流検出抵抗9、電流制限回路10、ECU1から異常通電信号を検知し、FET11を駆動させスイッチング素子に印加されるゲート電圧をOFFさせるセルフシャットオフ回路12、セルフシャットオフ回路12からの信号を基に、点火信号電圧を変化させる点火信号制御回路15、点火装置2の回路を過電圧より保護するツェナダイオード17、プルダウン抵抗16を備え、これらが1チップ構成されている。
【0016】
上記の制御回路のうち、電流制限回路10、FET11、セルフシャットオフ回路12、及び点火信号制御回路は、それぞれの電源として、点火信号の電圧を利用できる構成にしてある。すなわち、ECUとスイッチング素子8間の点火信号線は、点火装置2の各回路の電源線を兼用する。そのため、点火信号電圧は、例えば正常時5Vに設定してある。
【0017】
セルフシャットオフ回路12の出力は、FET11のゲートに接続されると共に、点火信号制御回路15の入力側に接続される。
【0018】
点火信号制御回路15は、例えば図1(b)に示すように、抵抗15aとトランジスタ15bとで構成され、これらの要素は、トランジスタ15bの通電時に、プルダウン抵抗16と並列に接続される。トランジスタ15bのベース(ゲート)にセルフシャットオフ回路12の出力信号が入力される。点火信号の入力電圧VINは、トランジスタ15bがオフ時には、次式で表される。
【0019】
IN=Vcc×R2/(R1+R2) …(1)
ここで、Vccは電源電圧、R1は抵抗20の抵抗値、R2はプルダウン抵抗16の抵抗値である。
【0020】
セルフシャットオフ回路12が動作して点火信号制御回路15のトランジスタ15bがオンすると、点火信号の入力電圧VIN´は、次式で表される。
【0021】
IN´=Vcc×R2´/(R1+R2´) …(2)
ここで、R2´=R2・R3/(R2+R3)であり、R3は抵抗15bの抵抗値である。
【0022】
IN>VIN´の関係が成立することから、セルフシャットオフ回路12が機能すると、点火信号の入力電圧は、低下(変化)することになる。ここでは、この点火信号の入力電圧の変化は、0.2V以上に設定してある。
【0023】
セルフシャットオフ回路12動作時に0.2V以上変化した電圧を検知する手段としては、例えばECU1側に設けた断線検知回路24を利用できるが、これに限定されるものではない。
【0024】
図2に図1の動作タイミングチャートを示す。
【0025】
ECU1から規定通電時間の点火信号がスイッチング素子8のゲートに入力された場合(通常な点火信号の入力)、点火信号によりスイッチング素子8が動作し、点火コイルの1次コイル3に約6Aの制限電流値までの大電流を通電する。点火信号がオフすると同時に、1次コイル3に1次電圧が発生し、相互誘導作用により2次コイル4に巻数比倍の2次電圧が発生する。発生した2次電圧が点火プラグ6に供給される。
【0026】
次にECU1からの点火信号が連続通電状態になり(異常点火信号状態)、セルフシャットオフ機能12が動作した場合について説明する。
【0027】
点火信号の通電時間が連続通電状態になると、セルフシャットオフ回路12がこの連続状態を検知して動作し、セルフシャットオフ回路12から発生したハイレベル信号によりFET11をオンさせる。それによりスイッチング素子8のゲート電圧を強制的にオフし、スイッチング素子自身をオフさせる。
【0028】
この際に、セルフシャットオフ回路12より出力した信号は、点火信号制御回路15にも入力される。なお、セルフシャットオフ回路は、上記のような点火信号の連続通電時間を検出するほかに、これに代えてスイッチング素子などの異常温度を直接、或いは間接的に検出して作動するようにしてもよい。
【0029】
点火信号制御回路15がオンすることにより、点火信号の入力電圧VINは、上記したようにVIN´に変化する。すなわち、Vcc18は抵抗20,16及び点火信号制御回路15の抵抗15aにより決定される電圧に変化する。この変化する電圧の変化幅を、0.2V以上と通常入力される点火信号電圧に対し異なる電圧とすることにより、ECU1側の検知機能24が点火信号線を介して識別することが可能になる。それにより、セルフシャットオフ機能が動作したことをECU側で検知することができる。
【0030】
なお、点火信号制御回路15により変化させられる点火信号の電圧変化幅は、制御回路の動作に必要な回路電源としての電圧値を確保するのが好ましく、変化幅は例えば0.2V〜1Vの範囲で設定するのが好ましい。ただし、これに限定されるものではない。
【0031】
図2の例では、セルフシャットオフ機能時には、セルフシャットオフ回路12は、1次電流が勾配をもって遮断されるようにスイッチング素子をオフさせるいわゆるソフトオフを実行するように設定されている。ソフトオフによれば、1次電圧及び2次電圧の発生を抑えて適正点火タイミング以外での点火発生を防止できる。
【0032】
なお、スイッチ素子及び1次電流を急峻にオフするいわゆるハードオフの場合には、1次電圧、2次電圧が発生して適正点火タイミング以外での点火発生が起こることもある。
【0033】
点火信号の診断手法として、点火装置に供給される電流量をモニタしているECUも存在する。この電流量モニタからセルフシャットオフ回路が作動したか否か検出することも可能である。
【0034】
図3に点火信号の診断手法として、電流モニタタイプの回路構成例を示す。図4に図3の動作タイミングチャートを示す。
【0035】
図3において、図1の実施例における符号と同一のものは、同一或いは共通する要素を示す。
【0036】
図3の回路構成において、正規点火信号入力時、及び連続通電信号が入力されセルフシャットオフ回路12が働くまでの動作は図2と同一であるが、セルフシャット回路動作後、そのセルフシャット回路の作動を検知する手法において、図1の実施例と異なる。
【0037】
セルフシャットオフ回路12が作動することにより、点火信号制御回路15が作動すると、既述したように点火信号の入力電圧は、正規電圧VINからVIN´に変化する。それに伴い点火信号の入力電流も変化する(本実施例では、入力電圧が減少する分、入力電流が増加する)。この点火装置2に流れる変化後の入力電流が通常値に対しECUで規定される入力電流値以上とすることで、ECU1に内蔵される入力電流をモニタしている機能25によりこの規定値以上の入力電流値を検知し、セルフシャットオフ回路が動作したことを判定する。
【0038】
上記した各実施例によれば、次のような効果を奏する。
【0039】
スイッチング素子を保護するセルフシャットオフ機能が動作したことをECU側においてモニタ可能となりECUの異常制御の発生有無、及び何らかの要因により点火装置が異常発熱していたことを確認することが可能となる。
【0040】
またECU側にてセルフシャットオフ動作信号が入力された際に、他部品への制御を実施することで、失火による触媒の異常過熱を未然に防止することが可能となる。
【0041】
大きさについては、本発明における回路構成をモノリシックシリコン基板内に集約した1チップイグナイタとすることで小型化が可能となる。
【0042】
また、ECUで上記セルフシャットオフ機能時における点火信号電圧変化及び電流変化を検知可能になるため、例えば新たな検知機能を追加する以外に、電圧レベルの変化を知り得る既存の断線検知機能を用いることにより対応可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)は本発明の一実施例に係る内燃機関用点火システムの構成を示す図、(b)はその一部を示す回路図。
【図2】図1の回路構成による動作タイミングチャ−ト。
【図3】本発明の他の実施例に係る内燃機関用点火システムの構成を示す図。
【図4】図3の回路構成による動作タイミングチャ−ト。
【符号の説明】
【0044】
1…ECU、2…点火装置、3…1次コイル、4…2次コイル、5…点火コイル、6…点火プラグ、7…バッテリ電圧、8…スイッチング素子、9…電流検出抵抗、10…電流制限回路、11…FET、12…セルフシャットオフ回路、13、16、20…抵抗、15…点火信号低下回路、17…ツェナダイオード、18…VCC、19…PNPトランジスタ、21…NPNトランジスタ、23…CPU、24…電圧型検知回路、25…電流型検知回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火信号を入力して点火コイルに流れる1次電流を通電、遮断制御して点火コイルに高電圧を発生させるスイッチング素子と、
所定時間以上の点火信号の入力もしくは外部要因等による前記スイッチング素子の異常通電時間、または異常通電に至る異常発熱を検知して前記スイッチング素子のべース又はゲート電圧を制御して前記1次電流をセルフシャットオフする機能と、を有する点火装置において、
前記セルフシャットオフ機能が働いたことを、点火信号に変化を与えて点火信号線を通して検知させる手段を有することを特徴とする内燃機関用点火装置。
【請求項2】
内燃機関用電子制御装置(以下、「ECU」と称する)から出力される点火信号を入力して点火コイルに流れる1次電流を通電、遮断制御し点火コイルに高電圧を発生させるパワートランジスタ或いは絶縁ゲート形バイポーラトランジスタのスイッチング素子と、
前記ECUからの所定時間以上の点火信号の入力もしくは外部要因等による前記スイッチング素子の異常通電時間、または異常通電に至る異常発熱を検知して前記スイッチング素子のべース又はゲート電圧を制御して前記1次電流をセルフシャットオフする機能と、を有する点火装置において、
前記セルフシャットオフ機能が働いたときに、点火装置側で点火信号線上の点火信号に変化を与えて点火信号線を通して前記ECU側に知らせる手段を有することを特徴とする内燃機関用点火装置。
【請求項3】
点火信号を入力して点火コイルに流れる1次電流を通電、遮断制御して点火コイルに高電圧を発生させるスイッチング素子と、
点火信号の入力電圧を回路電源として利用する制御回路とを有し、
前記制御回路は、所定時間以上の点火信号の入力もしくは外部要因等による前記スイッチング素子の異常通電時間、または異常通電に至る異常発熱を検知して、前記スイッチング素子のべース又はゲート電圧を制御して前記1次電流をセルフシャットオフする機能を含む点火装置において、
前記セルフシャットオフの動作時にセルフシャットオフを検知させるために点火信号の入力電圧もしくは入力電流を変化させる回路を備え、この変化させられた点火信号の入力電圧もしくは入力電流のレベルであっても、前記点火信号は、制御回路の動作に必要な電圧値を確保する構成としたことを特徴とする内燃機関用点火装置。
【請求項4】
前記セルフシャットオフ時に前記点火信号に与えられる変化は、点火信号電圧或いは点火信号電流を正常動作時と異なる値に制御して与えられる点火信号電圧変化或いは点火信号電流変化である請求項1ないし3のいずれか1項記載の内燃機関用点火装置。
【請求項5】
前記セルフシャットオフ時に前記点火信号に与えられる変化は、点火信号電圧値を正規電圧値に対し0.2V以上変化させることである請求項1ないし3のいずれか1項記載の内燃機関用点火装置。
【請求項6】
前記セルフシャットオフは、前記スイッチング素子を急峻にオフするハードオフまたは勾配を与えてオフするソフトオフにより前記1次電流を遮断するようにした請求項1ないし5のいずれか1項記載の内燃機関用点火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−25547(P2008−25547A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202147(P2006−202147)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】