説明

内燃機関用組合せオイルリング

【課題】オイルリング使用開始時から直ちにオイルスラッジやカーボンデポジットの付着を防止することが可能であり、その後も永続的にオイルスラッジやカーボンデポジットによるリングスティックのない内燃機関に用いられる組合せオイルリングを提供すること。
【解決手段】内燃機関において用いられる組合せオイルリングにおいて、前記組合せオイルリングの少なくとも一部が、撥油性及び撥水性を有する皮膜で覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関用組合せオイルリングに関する。さらに具体的には撥油性及び撥水性を有する皮膜で覆われたオイルリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に内燃機関用のピストンリングは、圧力リングとオイルリングとに大別される。ここで、オイルリングにあっては、オイルの掻き落とし機能と、オイルの消費量を制御するオイルコントロール機能を有する。従来より、内燃機関においては、燃費を向上させるためにシリンダボア内面とピストンリングにおける摩擦の低減が重要となっている。現在では、圧力リングとオイルリングの合計張力をボア径で除した値が0.2〜0.6N/mmの範囲と、著しく小さい値とする必要があり、ピストンリングのフリクション低減の為の低張力化及びリング軸方向幅h1の薄幅化が求められている。特にオイルリングにおいては、摩擦力の低減と共にオイル消費の低減も求められており、これらの機能を高めるために、オイルリング本体の軸方向幅を薄くする薄幅化技術が追求されている。
【0003】
オイルリングの形状としては、オイルリング本体と、オイルリングを径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる2ピースオイルリングや、一対のサイドレールと、その間に設けられるスペーサエキスパンダとからなる3ピースオイルリングが一般に知られている。オイルリングの薄幅化技術は、シリンダライナの内壁面への追従性を向上させ、オイル消費量を削減することが出来るが、同時に張力が低下し、オイル掻き性能が低下するという欠点がある。そこで、オイル掻き性能を低下させず、むしろ向上させるためには、オイルリングのシリンダライナ内壁面と摺動するレールの軸方向高さを小さくし、接触面積を小さくすることで、単位面積あたりの接触圧力を低下させないようにする必要がある。その結果、現在では、内燃機関用オイルリングのオイルリング本体の軸方向高さは0.8mm〜2.0mmの範囲とすることが一般化してきている。
【0004】
しかしながら、近年エンジンの高回転、高出力化に伴い、このようなエンジン環境下におけるピストン周辺部は、オイル消費量、摩耗量が増加する傾向にあり、ピストンリングは更なる軸方向幅の薄幅化による軽量化やフリクションの低減による低張力化が進むと考えられる。オイルリングの低張力化が進むと、オイル上がり量が増え、オイル消費量が増大してしまうという問題が生じる。また、オイルリングの薄幅化によっては、ピストン廻り全体の軽量化やシリンダ壁面への追従性が良くなり、オイル消費量低減効果を図ることができる。しかしオイル戻し穴の面積は従来よりも縮小され、その結果、長時間の使用において、エンジンオイル中の未燃焼物質(以下「オイルスラッジ」と呼ぶ)がオイルリングのオイルリング本体のオイル戻し穴周辺に付着、堆積しオイル通路を塞ぐこととなり、オイル消費量の増加の問題が生じることとなる。また、オイルスラッジの付着、堆積がひどい場合はオイルスラッジが炭化し、カーボンデポジットとなり、リングスティックを起こしやすくなる。
【0005】
このような問題を解決するために、2ピース構成のオイルリングについてはオイルリング本体のオイル戻し穴の拡大や、コイルエキスパンダのコイルピッチ拡大の形状対策が行われている。
【0006】
また、特許文献1には、3ピース構成のオイルリング表面に、親水性皮膜を設けたオイルリングについて開示されており、特許文献2には2ピース構成のコイルエキスパンダの接触する部分に合成樹脂を設けたオイルリングについて開示がされている。
【特許文献1】特開2006−258110号公報
【特許文献2】実公昭48−8963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、2ピース構成のオイルリングにおける、オイルリング本体のオイル戻し穴の拡大や、コイルエキスパンダのコイルピッチ拡大の形状対策のみでは、オイルスラッジやカーボンデポジットの付着を防止することはできず、オイルスラッジやカーボンデポジットによるオイル戻し穴を塞ぐことを緩和する程度に留まっている。
【0008】
また、特許文献1では3ピース構成のオイルリング表面に、親水性皮膜を設けたオイルリングが開示されており、当該親水性皮膜に水を付着させることにより、この膜を撥油性とすることでオイルスラッジの付着・堆積を防止することが提案されている。しかしながら、この技術を用いる場合、そもそもオイル内に水分が存在していることが前提となり、また親水性皮膜が水分を付着した後でないと、当該皮膜は撥油性とならないため、オイルリング使用開始時から直ちにオイルスラッジの付着防止効果を得ることは難しい。
【0009】
一方、特許文献2では2ピース構成のオイルリングにおいて、オイルリング本体とコイルエキスパンダの接触する部分に耐摩耗性合成樹脂層を設けたオイルリングについて開示がされている。当該技術によれば、オイルリング本体とコイルエキスパンダの接触部を前記耐摩耗性合成樹脂層を形成することにより耐摩耗性は向上するが、形成部はオイルリング本体とコイルエキスパンダの接触部のみであり、オイルスラッジやカーボンデポジットの付着防止対策の点では有効とはいえない。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、オイルリング使用開始時から直ちにオイルスラッジ及びカーボンデポジットの付着を防止することが可能であり、その後も永続的にオイルスラッジ及びカーボンデポジットによるリングスティックのない組合せオイルリングを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための本願発明の組合せオイルリングは、内燃機関において用いられる組合せオイルリングであって、前記組合せオイルリングの少なくとも一部が、撥油性及び撥水性を有する皮膜で覆われていることを特徴とする。
【0012】
また、前記撥油性及び撥水性を有する皮膜は、油との接触角が30°以上であり、水との接触角が80°以上であってもよい。
【0013】
また、前記撥油性及び撥水性を有する皮膜は、Si(珪素)及びF(フッ素)を含有した熱硬化性樹脂からなる皮膜であってもよい。
【0014】
また、前記熱硬化性樹脂は、ラジカル重合を有するフッ素樹脂と、ラジカル重合性シリコーン樹脂と、イソシアネート樹脂と、からなる熱硬化性樹脂であってもよい。
【0015】
また、前記内燃機関用組合せオイルリングが、二つのレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリング本体と、該オイルリング本体の二つのレールを連結する柱部内周側に形成された内周溝に配置され、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる、2ピース構成のオイルリングであり、少なくとも、オイルリング本体に設けられたオイル戻し穴、上下二つのレールが向き合う内周側、コイルエキスパンダの螺旋内周面のいずれかが、前記撥油性及び撥水性を有する皮膜で覆われていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組合せオイルリングによれば、その一部が撥油性及び撥水性を有する皮膜で覆われているため、当該部分に水やオイルが溜まることなく、その結果組合せオイルリングへのオイルスラッジやカーボンデポジットの付着や水垢等の不純物の付着を防止することができオイル消費量の増大を防止することができる。
【0017】
前述した、特許文献1に開示されているオイルリングにあっては、オイル吸着を防止するために、親水性皮膜に水を付着せしめ当該膜を撥油性とする必要があり、従って使用開始時からオイル吸着効果を得ることは困難であるが、本願では、オイルリングを覆う皮膜は撥油性及び撥水性を同時に有しているため、使用開始時から直ちにオイル吸着を防止することでき、オイルスラッジやカーボンデポジットの付着を阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本願の組合せオイルリングについて、図面を用いて具体的に説明する。
【0019】
先ずはじめに、本願発明の対象となる組合せオイルリングについて説明する。
【0020】
本願発明は、その表面に撥油性及び撥水性の両方を有する皮膜を形成した組合せオイルリングに関し、本願発明の特徴である撥油性及び撥水性の両方を有する皮膜の主たる効果は、オイルスラッジやカーボンデポジットによるリングスティックを防止することにあり、従って当該皮膜が形成される組合せオイルリング自体については特に限定されることはなく、内燃機関において用いられる組合せオイルリングであれば好適に適用することができる。従って、以下は、本願発明をオイルリングに適用した場合を中心に説明することとする。
【0021】
ここで、本願発明の対象となるオイルリングについてその構成は特に限定されることはなく、いわゆる2ピース構成のオイルリング(図1)や、いわゆる3ピース構成のオイルリング、さらにはその他の構成であってもよい。
【0022】
以下に、代表的なオイルリングである2ピース構成のオイルリングについて説明する。
【0023】
図1は、本願の組合せオイルリングの実施形態としての2ピース構成のオイルリングの断面図である。
【0024】
図1に示すように、本願の組合せオイルリング10は、オイルリング本体11と、該ピストンリング本体11に内周溝に配置されるコイルエキスパンダ12とから構成されており、その所定の部分が撥油性及び撥水性の両方を有する皮膜13によって覆われていることを特徴とする。
【0025】
このように、組合せオイルリング10の所定の部分に撥油性及び撥水性の両方を有する皮膜13を設けることにより、当該部分にオイルや水分が長期間滞留することがなく、その結果、オイルスラッジやカーボンデポジットによるリングスティックを防止することができるとともに、水あかやその他の不純物が付着することも防止することができる。
【0026】
ここで、本願における撥油性及び撥水性とは、それぞれ、油を弾く性質、および水を弾く性質の意味であり、従って、本願発明において用いられる皮膜は、油と水の両方を弾く性質を有していることを意味している。
【0027】
また、これらについては、それぞれ皮膜と油、皮膜と水との接触角で表され、皮膜と油との接触角が大きい程皮膜の撥油性は高く、皮膜と水との接触角が大きいほど皮膜の撥水性は高くなる。従って、本願発明において用いられる皮膜13は、油との接触角が大きく、かつ水との接触角が大きい皮膜であることが好ましい。具体的には、該皮膜と油との接触角は少なくとも30°以上であることが好ましく、40°以上がさらに好ましい。また、該皮膜の水との接触角は80°以上であることが好ましく、90°以上がさらに好ましい。
【0028】
前記皮膜の膜厚についても本願は特に限定することはないが、撥油性及び撥水性の機能を発揮するためには、該皮膜の膜厚は0.1〜10μmが好ましく、0.5〜3.0μmがさらに好ましい。
【0029】
このような性質を有する具体的な皮膜13としては、バインダーとしての熱硬化性樹脂にSi(珪素)及びF(フッ素)を含有することにより形成される皮膜が挙げられる。このように熱硬化性樹脂にSi(珪素)及びF(フッ素)を含有させた皮膜とすることで、該皮膜の撥油性及び撥水性の効果を高めることができる。
【0030】
ここで熱硬化性樹脂としては特に限定されることはなく適宜選択が可能であるが、具体的にはラジカル重合を有するフッ素樹脂と、ラジカル重合性シリコーン樹脂と、イソシアネート樹脂とを結合させた熱硬化性樹脂が挙げられ、より具体的にはシリコーンポリマーをグラフト重合した、F(フッ素)、Si(珪素)、C(炭素)、O(酸素)からなるフッ素ポリマーと、イソシアネート樹脂とを結合させた熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0031】
本発明における皮膜13の形成方法については特に限定されることはなく、例えば、熱硬化性樹脂をスプレーコート法、ディップコート法、スピンコーティング法などを用いてオイルリングの所望の部分に塗布してもよい。
【0032】
該皮膜13を形成する箇所については、特に限定されることはなく必要に応じて任意に選択可能であり、場合によっては組合せオイルリング表面全体に皮膜を形成してもよい。しかしながら該皮膜は、主にオイルスラッジやカーボンデポジットを防止するために形成されるものであることから、該皮膜を形成する部分としては、オイルスラッジやカーボンデポジットが付着し易い部分に形成することが好ましく、図1に示した2ピース構成のオイルリングにあってはオイルリング本体に設けられたオイル戻し穴、上下二つのレールが向き合った内周面、コイルエキスパンダの螺旋内周面に皮膜が形成されていることが好ましい。2ピース構成のオイルリングにおけるこれらの部分は、オイルや水分が滞留しやすく、オイルスラッジやカーボンデポジットが付着しやすいからである。なお、オイルリング本体、コイルエキスパンダの全周に本発明の皮膜が覆われていても良い。
【実施例】
【0033】
本発明のオイルリングを実施例を用いてさらに具体的に説明する。
【0034】
2ピース構成のオイルリングに、実施例1、比較例1〜3として、表1に示す条件の皮膜をディップコート法により形成した。皮膜の形成箇所は図1に示す如く形成した。
【0035】
実施例1及び比較例1〜3のリング仕様は、第一圧力リングのa1寸法を2.9mm、h1寸法1.2mmとし、第二圧力リングのa1寸法を2.9mm、h1寸法を1.2mmとし、オイルリングのa12寸法を2.5mm、h1寸法を2.0mmとした。ここでa1寸法はリング径方向厚さを示し、h1寸法はリング軸方向高さを示す。オイルリングのa12寸法及びh1寸法は、図1に示す。
【0036】
また、第一圧力リングの外周摺動面にはCrめっきを形成し、オイルリングの本体のみ全周ガス窒化処理を行った。
【0037】
本願の実施例のオイルリングと比較例のオイルリングを、それぞれボア径81mm、1.6リットル、直列4気筒の自動車用ガソリンエンジンに装着し、当該エンジンをWOT(全負荷)状態で回転数6000rpmで200時間運転した。なお冷却水温度は30分毎に40℃と100℃を繰り返した。その後運転前後におけるオイル消費指数、及びオイルリングへのカーボンデポジット堆積量を測定した。オイル消費指数は運転前の値を1とし評価を行った。またカーボンデポジットの堆積量はオイルリング本体に設けられるオイル戻し穴の面積に対し、運転後のオイル戻し穴に付着したカーボンデポジットの面積率を測定した。その結果、オイル消費指数が運転前後で同等であり、カーボンデポジットの面積率が40%以下のものを○、それ以外を×とした。運転前後におけるオイル消費指数及びカーボンデポジットの堆積量測定結果を併せて表1に示す。表1に示す実施例1と比較例1〜3の水と油の接触角の測定は、協和界面科学株式会社製の全自動接触角測定装置CA−V20にて、滴下量1μLにて測定した結果である。
【0038】
【表1】

表1に示す実施例1と比較例1〜3からも明らかなように、本願実施例のオイルリングにおいては、運転試験前後のオイル消費指数に変化はみられず、良好なオイル消費を示している。一方、比較例のオイル消費指数は運転前と比較して上昇しており、オイル消費は悪化していることが明らかである。
【0039】
また、カーボンデポジットの堆積量についても本願実施例のオイルリングにおいては、オイル戻し穴に付着したカーボンデポジットの堆積量(面積率)は、オイル戻し穴の面積の40%以下となっており、カーボンデポジットの付着を防止することができた。一方、比較例のカーボンデポジットの堆積量(面積率)はいずれも40%をはるかに超える結果となった。
【0040】
以上の結果より、2ピース構成のオイルリングのオイル戻し穴、上下二つのレールが向きある内周側、コイルエキスパンダの螺旋内周面のいずれかに本願皮膜を形成することにより、カーボンデポジットがオイル戻し穴等に付着するのを防止し、オイル消費量が増大するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】2ピース構成のオイルリング
【符号の説明】
【0042】
10…2ピース構成のオイルリング
11…オイルリング本体
12…コイルエキスパンダ
13…皮膜
14…オイル戻し穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関において用いられる組合せオイルリングであって、
前記組合せオイルリングの少なくとも一部が、撥油性及び撥水性を有する皮膜で覆われていることを特徴とする、内燃機関用組合せオイルリング。
【請求項2】
前記撥油性及び撥水性を有する皮膜は、油との接触角が30°以上であり、かつ水との接触角が80°以上となる皮膜であることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関用組合せオイルリング。
【請求項3】
前記撥油性及び撥水性を有する皮膜は、Si(珪素)及びF(フッ素)を含有した熱硬化性樹脂からなる皮膜であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の内燃機関用組合せオイルリング。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂は、
ラジカル重合を有するフッ素樹脂と、
ラジカル重合性シリコーン樹脂と、
イソシアネート樹脂と、
からなる熱硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項3に記載の内燃機関用組合せオイルリング。
【請求項5】
前記内燃機関用組合せオイルリングが、二つのレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリング本体と、該オイルリング本体の二つのレールを連結する柱部内周側に形成された内周溝に配置され、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる、2ピース構成のオイルリングであり、
少なくとも、ピストンリング本体に設けられたオイル戻し穴、上下二つのレールが向き合う内周側、コイルエキスパンダの螺旋内周面のいずれかが、前記撥油性及び撥水性を有する皮膜で覆われていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関用組合せオイルリング。

【図1】
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【公開番号】特開2009−36035(P2009−36035A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198865(P2007−198865)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【出願人】(592065058)エスティーティー株式会社 (14)
【Fターム(参考)】