説明

内燃機関

【課題】バルブの弁部が弁座に片当たりしてこれらが偏磨耗することを、簡単な構造で防止する。
【解決手段】バルブ1は軸2を有しており、軸2の上端にスプリングリテーナ9が相対回転不能に固定されており、スプリングリテーナ9とばね支持部13との間にコイルスプリング12が配置されている。軸2の上端はバルブリフター10に当接しており、カム10お押圧力はバルブリフター10を介して軸2に作用する。コイルスプリング12の両端部は12a,12bはピン14,16でスプリングリテーナ9及びばね支持部13に回転不能に保持されている。コイルスプリング12の伸縮によってバルブ1が正逆回転するが、機関の回転数によってバルブ1の正転量と逆転量とが変動するため、弁部3が弁座8に強く当たる位置が周方向にずれる。その結果、偏磨耗を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのように吸排気用動弁機構を備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の動弁機構はコイルスプリングで閉じ方向に付勢されたバルブを有しており、バルブはカム軸で直接に又はロッカーアームを介して押したり戻したりされる。そして、バルブを構成する軸の一端にはスプリングリテーナ(ばね受け)が相対回転不能に固定されており、コイルスプリングの一端面がスプリングリテーナで支持され、コイルスプリングの他端面は、シリンダヘッドに設けたばね支持部で支持されている。コイルスプリングの他端面は、スプリングシートを介してばね支持部で支持されていることが多い。
【0003】
そして、理由は明確でないが、バルブの弁部とシリンダヘッドの弁座とが周方向の特定の部位で強く当たる片当たりする現象が生じることがあり、このため、内燃機関を長期に亙って使用しているうちに、弁座又は弁部に偏磨耗が発生するおそれがある。そして、偏磨耗がすすむと燃焼ガスの漏洩等の問題が発生し、機関の性能を悪化させるおそれがある。
【0004】
他方、コイルスプリングは圧縮すると巻き径が大きくなるように変形し、元の長さに伸長すると巻き径が元に戻るように変形しており、このため、コイルスプリングの伸縮に伴い、軸方向から見てコイルスプリングを構成する線材の一端と他端との位置が周方向に広がったり縮まったり変化する。このため、コイルスプリングの伸縮が、スプリングリテーナとスプリングシートとを回転させようと作用する。
【0005】
特許文献1はこの点に着目し、スプリングシートに鋸歯状のラチェット歯を周方向に沿って多数形成する一方、コイルスプリングの他端には、スプリングシートにおけるラチェット歯の溝に嵌合する送り爪を設け、コイルスプリングの伸縮によってバルブを一方方向に間欠的に回転させ、以って、弁部と弁座との偏磨耗防止を図ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−21213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においてスプリングシートはシリンダヘッドに回転不能に固定されており、従って、コイルスプリングの伸長時に当該コイルスプリングの送り爪がスプリングシートのラチェット歯を乗り越えたら、バルブは回転する。しかし、コイルスプリングは伸長し切った状態でも初期弾性力(プリテンション)が付与されているのが普通であり、コイルスプリングの他端は常にスプリングシートに密着しているから、送り爪がなぜラチェット歯を乗り越え得るのか、疑問である。
【0008】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、より現実性が高い偏磨耗対策を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の内燃機関は、シリンダヘッドに摺動自在に嵌まった軸の一端にスプリングリテーナを相対回転不能に固定して軸の他端に設けた弁部は燃焼室に露出させたバルブと、前記バルブの軸に嵌まったコイルスプリングとを備えており、前記コイルスプリングは、前記シリンダヘッドに設けたばね支持部と前記スプリングリテーナとで支持されており、前記バルブが前記コイルスプリングに抗してカム軸又はロッカーアームで押されると開弁する構成において、前記コイルスプリングを、ストッパー手段により、前記スプリングリテーナ及びばね支持部に対して相対回転不能に保持している。
【発明の効果】
【0010】
さて、コイルスプリングの圧縮時と伸長時とでバルブは逆方向に回転するが、機関の回転数が高くなるとコイルスプリングの戻り伸長は遅れ気味になるため、コイルスプリングの圧縮時のバルブの回転量と、コイルスプリングの伸長時のバルブの回転量とは必ずしも一致しない場合が多い。従って、仮にシリンダヘッドの特定位置に目印を付けたと仮定した場合、弁座から離れるときと戻ったときとで目印の位置が周方向にずれる現象が見られる。また、低速回転の場合と高速回転の場合とでもバルブの回転量が相違するため、目印の位置が周方向にずれる量は回転数によっても変化する。
【0011】
そして、実際の内燃機関の運転において機関の回転数は常に変動しているため、バルブの回転(正転・逆転)も不規則であり、このため、コイルスプリングの伸長によってバルブの弁部が弁座に当たるにおいて、弁座に対して強く当たる位置が存在しても、強く当たる位置が多少ながら周方向にずれることになる。このため、弁部の特定の部位が弁座の特定の部位に強く当たる片当たりを防止又は著しく抑制して、弁座や弁部の偏磨耗を防止又は著しく抑制できる。これにより、経年使用によって燃焼ガスが漏洩して機関の性能が悪化するような問題を防止できる。
【0012】
また、スプリングリテーナが磨耗すると、開きタイミングの遅れや弁座と弁部との密着不良による燃焼ガス漏洩のような問題が生じるため、機関を長期にわたって使用していると部品の交換や調節の必要が生じる場合があるが、本願発明ではコイルスプリングとスプリングリテーナとは相対回転不能に保持されているため、スプリングリテーナが磨耗することはなく、従って、スプリングリテーナの耐久性・機関の信頼性を向上できる。この点も本願発明の利点である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態を示す図で、(A)は要部の縦断図、(B)は(A)のB−B視断面図、(C)は(B)の一部破断C−C視図、(D)は(A)のD−D視断面図、(E)は(D)の一部破断E−E視図である。
【図2】第2実施形態を示す図で、(A)は図1(B)と同じ位置を示す図、(B)は(A)のB−B視断面図、(C)は図1の(D)と同じ位置を示す図、(D)は(C)のD−D視断面図である。
【図3】(A)は第3実施形態に係るコイルスプリングの図、(B)は第4実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1).第1実施形態
次に、本願発明の実施形態を図面に元説明する。まず、図1に示す第1実施形態から説明する。本実施形態は吸気バルブを取り上げているが、排気バルブを排除するものではないので、吸気と排気とは区別せずに単にバルブと表示する。
【0015】
バルブ1は軸2の一端(下端)にラッパ状の弁部3設けた形態であり、軸2はシリンダヘッド4にライナー(ブッシュ)5を介して摺動自在に装着されている。弁部3は通路6と燃焼室7との境界に位置しており、通路6の末端部には、弁部3が当接するリング状の弁座8を設けている。
【0016】
バルブ1における軸2の他端(上端)には、円盤部と筒部とを有する笠状のスプリングリテーナ9がかしめ固定又は強制嵌着されている。従って、スプリングリテーナ9は軸2に相対回転不能に固定されている。スプリングリテーナ9は上からコップ状のバルブリフター10で覆われており、バルブリフター10の頂面(上面)にカム軸11のカム部11aが当接している一方、バルブリフター10の内底面には、バルブ1における軸2の他端面9(上端面)が当接している。
【0017】
バルブ1の軸2にはこれと同心のコイルスプリング12が嵌まっており、コイルスプリング12の下端(他端)はシリンダヘッド4に設けたスプリング支持部13で支持され、コイルスプリング12の上端(一端)はスプリングリテーナ9で支持されている。コイルスプリング12には、若干のプリテンションを掛けている。
【0018】
そして、コイルスプリング12を構成する線材の上端部(一端部)12aを、スプリングリテーナ9に下向き突設した上ピン14に嵌め込んでいる。従って、コイルスプリング12の上端部12aには、上ピンが14が嵌まる穴15を空けている。他方、コイルスプリング12を構成する線材の下端部(他端部)12bを、スプリング支持部13に上向き突設した下ピン16に嵌め込んでいる。従って、コイルスプリング12の下端部12bには、下ピン16が嵌まる下穴17を空けている。ピン14,16と穴15,17はストッパー手段の一例である。
【0019】
コイルスプリング12がカム11aで押されて圧縮されるとき(バルブ1が開くとき)には、コイルスプリング12の一端部12aと他端部12bとは周方向に離れて、コイルスプリング12が伸長するとき(バルブ1が閉じるとき)には、コイルスプリング12の一端部12aと他端部12bbとは元の状態に近づこうとするが、コイルスプリング12の一端部12aとスプリングリテーナ9とは相対回転不能に保持されて、他端部12bはばね支持部13に回転不能に保持されているため、バルブ1はコイルスプリング12の伸縮によって正逆回転する。
【0020】
すなわち、本実施形態のコイルスプリング12は左巻きであるため、コイルスプリング12の圧縮時には、バルブ11は図1(A)に実線で示す矢印18の方向に回転(正転)し、コイルスプリング12が伸長するときは、バルブ1は点線矢印19で示す方向に回転(逆転)する。
【0021】
そして、コイルスプリング12をゆっくりと押す場合は、バルブ1の正転量(正転角度)と逆転量(逆転角度)は完全に一致するが、回転数がある程度以上に高くなると、コイルスプリング12の応答遅れ等により、正転量と逆転量とが一致せず、このため、バルブ1が上昇して弁部3が弁座8に当接するにおいて、軸方向から見て、バルブ1が戻り回転し切る前に弁部3と弁座8とが密着する現象が生じる。また、バルブ1の正転量と逆転量は、機関の回転数によっても変化する。
【0022】
このため、実際の運転においては、図1(A)に符号Eを付して模式的に示すように、弁部3と弁座8との密着状態じ周方向にある程度の範囲だけずれる現象が生じる。このため、弁部3の特定の部位が弁座8の特定の部位に集中的に当たる片当たりを防止して、特に弁座9の偏磨耗を防止できる。また、スプリングリテーナ9が磨耗することもないため、スプリングリテーナ9の耐久性を向上できる。
【0023】
(2).他の実施形態
次に、ストッパー手段の別例である他の実施形態を説明する。第1実施形態ではストッパー手段としてピン14,16と穴15,17との組み合わせを採用していたが、図2に示す第2実施形態では、スプリングリテーナ9とばね支持部13とに設けた突起20,21にコイルスプリング12の端面12c,12dを当接している。
【0024】
コイルスプリング12の一端面12cと他端面12dとは互いに逆方向を向いているので、この実施形態のように端面12c,12dを突起20,21に当てただけでも、コイルスプリング12は回転不能に保持されており、結果として、バルブ1はコイルスプリング12の伸縮によって正逆回転する。
【0025】
図3(A)に示す第3実施形態では、ストッパー手段の一環としてコイルスプリング12の両端に、軸方向に向いたピン部12e,12fを曲げ形成しており、上端に設けたピン部12eはスプリングリテーナ9に設けた穴(図示せず)に嵌め込み、下端に設けてピン部12fはばね支持部13に設けた穴(図示ぜず)に嵌め込むようにしている。
【0026】
図3(B)に示す第4実施形態では、スプリングリテーナ9の下面にはコイルスプリング12の上端部12aが嵌まる上溝22を形成し、ばね支持部13には、コイルスプリング12の下端部12bが嵌まる下溝23を形成している。この場合も、コイルスプリング12はその両端が溝22,23に突っ張っているため、コイルスプリング12自体は伸縮しても回転はせずにバルブ1が回転する。
【0027】
(3).その他
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えばコイルスプリングをスプリングリテーナやばね支持部に保持するストッパー手段としては、例えばスナップ係合式のキャッチ部材でスプリングリテーナやばね支持部に押さえ保持することも可能である。また、バルブの駆動手段に限定はないのであり、バルブリフターを設けずに、バルブの軸をカムやロッカーアームで直接に押すことも可能であるし、油圧式のバルブタイミング装置を備えたものにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本願発明は内燃機関に実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 バルブ
2 軸
3 弁部
4 シリンダヘッド
7 燃焼室
8 弁座
9 スプリングリテーナ
10 バルブリフター
11 カム軸
12 コイルスプリング
13 ばね支持部
14,16 ストッパー手段を構成するピン
15,17 ストッパー手段を構成する穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに摺動自在に嵌まった軸の一端にスプリングリテーナを相対回転不能に固定して軸の他端に設けた弁部は燃焼室に露出させたバルブと、前記バルブの軸に嵌まったコイルスプリングとを備えており、前記コイルスプリングは、前記シリンダヘッドに設けたばね支持部と前記スプリングリテーナとで支持されており、前記バルブが前記コイルスプリングに抗してカム軸又はロッカーアームで押されると開弁する構成であって、
前記コイルスプリングを、ストッパー手段により、前記スプリングリテーナ及びばね支持部に対して相対回転不能に保持している、
内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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