説明

内燃機関

【課題】
エンジン等の内燃機関1の内部で発生した騒音が、クランク軸3とフロントカバー4の間の貫通孔5から外部に漏れることを抑制できる内燃機関1を提供する。
【解決手段】
クランク軸3が、フロントカバー4の内壁面4aに向かって拡開するテーパ部10と、テーパ部10に沿って形成した少なくとも1つの溝部11と、溝部11に沿って移動自在となるように配置された少なくとも1つの移動体12を有し、内燃機関1が、少なくともフロントカバー4の4a内壁面とテーパ部10の拡開した側の端部の間から、フロントカバー4とクランク軸3の間の貫通孔に至るように配置した円環状のスペーサ14を有し、クランク軸3が回転した際に、移動体12がフロントカバー4の内壁面4aの方向に移動し、スペーサ14をフロントカバー4の内壁面4aに押し付けるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の内燃機関のクランク軸とフロントカバーの間から漏れる騒音を抑制した内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の内燃機関において、この内燃機関から発生する騒音(エンジン音)を抑制することが求められている。この内燃機関のフロントカバーとプーリの間に発生する騒音を抑制する構造が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図4に、特許文献1に開示された内燃機関(以下、エンジンという)のフロントカバー周辺の部分断面図を示す。エンジン1Xは、シリンダブロック2の内側に配置されたクランク軸3Xと、シリンダブロック2に設置され且つクランク軸3Xが貫通する貫通孔5を有したフロントカバー4と、フロントカバー4から突出したクランク軸3Xの端部に設置したプーリ6Xを有している。このエンジン1Xは、フロントカバー4とプーリ6Xの間の距離d1、d2が、変化するようにプーリ6Xを加工している。
【0004】
上記の構成により、図4のエンジン1Xは、プーリ6Xの面振れにより発生した振動が、プーリ6Xとフロントカバー4の間で共振し、増幅されることを抑制することができる。これは、プーリ6Xとフロントカバー4の間で、振動が伝達して反射される距離が、プーリ6Xの回転に伴いd1からd2(又はその逆)に変化するためである。
【0005】
しかしながら、上記のエンジン1Xであっても、エンジンの騒音を十分に抑制することができないという問題を有している。これは、騒音(エンジン音)Sが、エンジン1Xの内部から、クランク軸3Xとフロントカバー4の間の貫通孔5を通過し、外部に放出されることを抑制できないためである。ここで、矢印は、エンジン1Xの内部から、貫通孔5を介して外部に放出される騒音Sの経路を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−135768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジン等の内燃機関の内部で発生した騒音が、クランク軸とフロントカバーの間の貫通孔から外部に漏れることを抑制できる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明に係る内燃機関は、シリンダブロックの内側に配置されたクランク軸と、前記シリンダブロックに設置され且つ前記クランク軸が貫通する貫通孔を有したフロントカバーを有する内燃機関において、前記クランク軸が、前記フロントカバーの内壁面に向かって拡開するテーパ部と、前記テーパ部に沿って形成した少なくとも1つの溝部と、前記溝部に沿って移動自在となるように配置された少なくとも1つの移動体を有し、前記内燃機関が、少なくとも前記フロントカバーの内壁面と前記テーパ部の拡開した側の端部の間から、前記フロントカバーと前記クランク軸の間の貫通孔に至るように配置した円環状のスペーサを有し、前記クランク軸が回転した際に、前記移動体が
前記フロントカバーの内壁面の方向に移動し、前記スペーサを前記フロントカバーの内壁面に押し付けるように構成したことを特徴とする。
【0009】
この構成により、内燃機関の騒音を低減することができる。これは、スペーサとフロントカバーの内壁面の密着度を上げ、内燃機関の内部の騒音が外部に漏れることを抑制することができるためである。また、騒音が伝達するフロントカバーの貫通孔を、スペーサにより狭くしたため、内燃機関の内部の騒音が外部に漏れることを抑制することができる。なお、移動体は、遠心力によりフロントカバーの内壁面の方向の外力を受ける。
【0010】
上記の内燃機関において、前記クランク軸が、前記テーパ部の外周面に形成した溝部と、前記テーパ部の外周側に配置し前記移動体を前記溝部内に保持するカバーを有していることを特徴とする。この構成により、溝部を有するテーパ部の加工が容易且つ低コストとなる。
【0011】
上記の内燃機関において、前記テーパ部が、前記クランク軸の回転の中心軸に対して全周方向に形成されていることを特徴とする。この構成により、内燃機関の内部の騒音が、フロントカバーに形成した貫通孔を介して外部に漏れることを抑制することができる。これは、騒音の通り道となる貫通孔を、テーパ部で覆うことができるためである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る内燃機関によれば、エンジン等の内燃機関の内部で発生した騒音が、クランク軸とフロントカバーの間の貫通孔から外部に漏れることを抑制できる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施の形態の内燃機関のクランク軸の周辺の概略を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の内燃機関のクランク軸の周辺の概略を示した図である。
【図3】本発明に係る異なる実施の形態の内燃機関のクランク軸の周辺の概略を示した図である。
【図4】従来の内燃機関のクランク軸の周辺の概略を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態の内燃機関(以下、エンジンという)1のクランク軸3の周辺の概略を示す。なお、一部を断面で示している。このエンジン1は、シリンダブロック(図示しない)の内側に配置されたクランク軸3と、シリンダブロックに設置され且つクランク軸3が貫通する貫通孔5を有したフロントカバー4と、フロントカバー4から突出したクランク軸3の端部に設置されたプーリ6を有している。
【0015】
また、クランク軸3は、フロントカバー4の内壁面4aに向かって拡開するテーパ部10と、テーパ部10の外周面に、クランク軸3の中心軸Cと略平行となる方向に形成された少なくとも1つの溝部11と、この溝部11に沿って移動自在に配置された少なくとも1つの移動体12と、テーパ部10の外周側に配置し移動体12を溝部11内に保持するカバー13を有している。ここで、図1のクランク軸3は、上下方向に突出した2つのテーパ部10を有している。また、移動体12は溝部11に沿って移動できる形状であればよく、例えば球形、円柱形又はその他の形状とすることができる。更に、移動体12の材質は特に限定されないが、質量の大きい金属材料を使用することが望ましい。
【0016】
また、エンジン1は、少なくともフロントカバー4の内壁面4aとテーパ部10の拡開した側(図1右方)の端部の間から、フロントカバー4とクランク軸3の間の貫通孔5を通り、フロントカバー4の外壁面4bに至るように配置した円環状のスペーサ14を有している。
【0017】
なお、図1はエンジン1の停止状態の様子を示している。図1に示す様に、エンジン1が停止しているとき、移動体12は重力の作用によりそれぞれ溝部11内の安定する位置にある。
【0018】
図2に、エンジン1の運転状態の様子を示す。図2右方には、図2左方の状態からクランク軸3が90度回転した状態を示している。なお、簡単のためカバー13は図示しない。エンジン1が運転状態にあるときは、クランク軸3が中心軸Cを中心として回転する。このクランク軸3の回転により、移動体12はクランク軸3の外周方向へ遠心力を受ける。遠心力を受けた移動体12は、遠心力の分力によりフロントカバー4側に移動する(図2左参照)。このとき、移動体12には、スペーサ14をフロントカバー4の内壁面4aに押し付ける方向の力(白抜き矢印参照)が働いている。これは、移動体12が移動する溝部11が、スペーサ14に向かって中心軸Cから離れるような傾斜を有しているためである。また、移動体12は、スペーサ14と接触した状態で、クランク軸3の回転に伴いスペーサ14上を移動することができる。
【0019】
上記の構成により、エンジンを運転したときの騒音(エンジン音)を低減することができる。これは、スペーサ14とフロントカバー4の内壁面4aの密着度を上げ、エンジン内部の音が外部に漏れることを抑制できるためである。つまり、フロントカバー4とスペーサ14の密着度を向上し、テーパ部10の拡開した側の端部とスペーサ14の間の空間を移動体12により小さくする構成により、騒音の伝達経路を狭くすることができる。そのため、エンジン内部の密閉性が向上し、騒音が外部に漏れることを抑制することができる。
【0020】
また、移動体12がスペーサ14をフロントカバー4に押し付ける構成により、スペーサ14及びフロントカバー4の振動を抑制し、騒音の伝達及び発生を抑制することができる。
【0021】
ここで、エンジン1は、少なくとも1つのテーパ部10を有していればよい。ただし、テーパ部10の数が多くなるほど、スペーサ14とフロントカバー4の密着度を向上することができ、騒音を低減する効果が向上する。
【0022】
また、溝部11の形状は、上記の構成に限られない。溝部11は、少なくともクランク軸3が回転した際に、移動体12がスペーサ14をフロントカバー4の内壁面4aに押し付ける構成を有していればよい。例えば、溝部11の延長線が、中心軸Cと交わらないねじれの位置となるように構成してもよい。また、溝部が、中心軸Cを中心としてフロントカバー4に向かって拡大するらせん状となるように構成してもよい。
【0023】
更に、エンジン1は、移動体12が溝部11に沿って移動自在であれば、カバー13を設置しない構成としてもよい。例えば、テーパ部10の肉厚部を円柱状に刳り貫くように穿孔して溝部を形成し、この溝部内を移動体が移動するように構成してもよい。
【0024】
加えて、スペーサ14の形状は、上記に限られない。スペーサは、移動体12との接触面を有しており、且つ、フロントカバー4とクランク軸3の間の隙間を狭くする構成を有していればよい。このスペーサ14の材質は特に限定されないが、成型のコスト等を考慮すると金属材料を使用することが望ましい。
【0025】
図3に、本発明に係る異なる実施の形態の内燃機関(エンジン)1aのクランク軸3の周辺の概略を示す。このエンジン1aは、クランク軸3の中心軸Cに対して、全周方向に形成したテーパ部10aを有している。この構成により、フロントカバー4に形成した貫通孔5から、外部に漏れる騒音(エンジン音)を更に抑制することができる。これは、音の通り道となる貫通孔5を、テーパ部10aが覆うように配置されているためである。
【符号の説明】
【0026】
1、1a 内燃機関(エンジン)
2 シリンダブロック
3 クランク軸
4 フロントカバー
4a フロントカバーの内壁面
4b フロントカバーの外壁面
5 貫通孔
6 プーリ
10、10a テーパ部
11 溝部
12 移動体
13 カバー
14 スペーサ
C 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックの内側に配置されたクランク軸と、前記シリンダブロックに設置され且つ前記クランク軸が貫通する貫通孔を有したフロントカバーを有する内燃機関において、
前記クランク軸が、前記フロントカバーの内壁面に向かって拡開するテーパ部と、前記テーパ部に沿って形成した少なくとも1つの溝部と、前記溝部に沿って移動自在となるように配置された少なくとも1つの移動体を有し、
前記内燃機関が、少なくとも前記フロントカバーの内壁面と前記テーパ部の拡開した側の端部の間から、前記フロントカバーと前記クランク軸の間の貫通孔に至るように配置した円環状のスペーサを有し、
前記クランク軸が回転した際に、前記移動体が前記フロントカバーの内壁面の方向に移動し、前記スペーサを前記フロントカバーの内壁面に押し付けるように構成したことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記クランク軸が、前記テーパ部の外周面に形成した溝部と、前記テーパ部の外周側に配置し前記移動体を前記溝部内に保持するカバーを有していることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記テーパ部が、前記クランク軸の回転の中心軸に対して全周方向に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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