説明

内燃機関

【課題】
内燃機関において、噴射された燃料の分散を抑制し、排気ガス中に含まれるNOx及びすすの量を低減可能な内燃機関を提供する。
【解決手段】
少なくとも1つの燃料噴射軸Lに沿って燃料を噴射する燃料噴射ノズル2と、冠面6にキャビティ4を形成したピストン3を有する内燃機関1において、内燃機関1が、燃料噴射ノズル2の近傍で且つ燃料噴射軸Lに沿って配置した整流通路10を有すると共に、整流通路10が、燃料噴射ノズル2に固定されて、燃料噴射ノズル2から噴射された噴霧燃料が、整流通路10内を通過するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室に燃料を直接噴射する内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃焼効率の向上及び低燃費化の要求から、燃焼室内に燃料を直接噴射する直接噴射式の内燃機関の開発が進められている。この直接噴射式の内燃機関は、具体的には、ピストンとシリンダヘッドで形成した空間(以下、燃焼室という)に、燃料を噴霧する構成を有している(例えば特許文献1参照)。この内燃機関には、ディーゼルエンジンや、ガソリン直噴エンジン等がある。以下、ディーゼルエンジンを例に説明する。
【0003】
図5に、ディーゼルエンジン1Xのピストン3周辺の断面を示す。ディーゼルエンジン1Xは、円筒形のピストン3と、燃料を霧状に噴射する燃料噴射ノズル2Xと、シリンダライナ8を有している。ピストン3は、ピストン3の冠面(上面)6を刳り貫いて形成したキャビティ4(例えばリエントラント型)と、ピストンリング9を有している。
【0004】
なお、一点鎖線Cはピストン3の中心軸Cを示し、破線Lは燃料噴射ノズル2Xから噴射される燃料の中心方向(以下、燃料噴射軸Lという)を示している。また、点線で囲まれた領域7は、ピストン3の冠面6の上方のスキッシュエリア7を示している。このスキッシュエリア7とキャビティ4をあわせた空間を、燃焼室と呼ぶ。更に、x軸及びz軸は、図面における三次元座標の一部を示している。
【0005】
次に、ディーゼルエンジン1Xにおける燃料噴射について説明する。ディーゼルエンジン1Xは、ピストン3が上死点に対して接近又は離間する際に、燃料噴射ノズル2Xから燃料を筒内(キャビティ4内)に直接噴射する。噴射された燃料は、分裂液滴となり、周囲の空気を導入しながら蒸発し、燃料蒸気となる。この燃料蒸気は、空気と混合されながら燃焼する。ディーゼルエンジン1Xにおいて、燃料と空気の混合を促進することは、燃料の燃焼効率を高め、燃費を向上し、排気ガスを清浄化(排気ガス性能の向上)することにつながる。
【0006】
しかしながら、上記の燃料を直接噴射する内燃機関は、いくつかの問題点を有している。第1に、内燃機関は、蒸発した燃料と周囲の空気の混合が悪い状態、すなわち混合が不均一な状態で燃焼に至ると、NOxやsoot(すす)等の排出量が増加してしまうという問題を有している。
【0007】
第2に、燃費性能が低下してしまうという問題を有している。これは、噴射された燃料が濃くなる部分で、未燃燃料(HC)が発生してしまうためである。
【0008】
以下、燃料の混合状態と排気ガス(NOx及びsoot等)の関係について説明する。図6及び図7に、燃料の混合状態とNOx又はsootの量の関係を表した数値解析結果を示す。この図6及び図7は、局所混合気濃度の平均値からの分散(variance)と、NOx又はsootの排出量(質量)の関係を、局所平均当量比(φ=1.5〜3.0)別に示す。図6及び7から、分散が大きい、すなわち燃料濃度の不均一度が大きい(図6及び図7の右方側)と、排気ガス中のNOx及びsootが増加する傾向にあることがわかる。つまり、燃料が希薄になる部分では燃焼温度が高温となり、NOxが発生しやすくなる。また、燃料が濃くなる部分では不完全燃焼状態により、すす等のPM(Particulate Matter)の発生量が多くなる。
【0009】
図8及び図9に、キャビティ4内における燃料濃度の分散の分布状況の数値解析の結果を示す。図8は、燃料噴射ノズル(injector)が燃料噴射を完了した直後の様子を示している。図中の色の濃い部分は、燃料濃度の分散が高い場所を示しており、特に、燃料噴射ノズル近傍(図8右方)及び噴射された燃料の先端側(図8左方)で、燃料濃度の分散が高くなっていることがわかる。また、図9は、燃料噴射完了から0.5秒後の様子を示している。燃料噴射直後(図8)と同様、噴射された燃料の先端側(図9左方)で、燃料濃度の分散が高くなっていることがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−190217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、ディーゼルエンジン及びガソリン直噴エンジン等の内燃機関において、噴射された燃料の濃度の分散を抑制し、排気ガス中に含まれるNOx及びすすの量を低減可能な内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明に係る内燃機関は、少なくとも1つの燃料噴射軸に沿って燃料を噴射する燃料噴射ノズルと、冠面にキャビティを形成したピストンを有する内燃機関において、前記内燃機関が、前記燃料噴射ノズルの近傍で且つ前記燃料噴射軸に沿って配置した整流通路を有すると共に、前記整流通路が、前記燃料噴射ノズルに固定されて、前記燃料噴射ノズルから噴射された噴霧燃料が、前記整流通路内を通過するように構成したことを特徴とする。
【0013】
この構成により、キャビティ内に噴霧された噴霧燃料の濃度の分散を抑制することができる。これは、燃料の噴霧により誘起される乱流渦の発生を抑制し、且つ乱流渦が維持される時間を短縮することができるためである。また、この構成により、燃料の噴射タイミングに関わらず、噴霧燃料の濃度の分散を抑制することができる。これは、燃料噴射ノズルと整流通路の相対位置が、ピストンの位置に関わらず一定となるためである。特に、多段噴射を行う内燃機関で、噴霧燃料の濃度の分散を効率よく抑制することができる。
【0014】
上記の内燃機関において、前記整流通路が、前記燃料噴射軸を少なくとも両側から挟むように配置した2つの整流部材を有していることを特徴とする。この構成により、噴霧燃料の運動を妨げずに、噴霧燃料の濃度の分散を抑制することができる。特に、この構成によれば整流通路の下側が開放されるので、鉛直方向に落下した噴霧燃料が整流通路に付着し、その場所の燃料の濃度が高くなるという問題を防止できる。
【0015】
上記の内燃機関において、前記整流通路の整流部材が、噴霧燃料の運動を妨げない程度の間隔で配置されていることを特徴とする。この構成により、整流通路は、噴霧燃料の移動及び拡散等を妨げることなく、噴霧燃料の移動に伴う乱流の発生を防止、又は抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る内燃機関によれば、ディーゼルエンジン及びガソリン直噴エンジン等の内燃機関において、噴射された燃料の濃度の分散を抑制し、排気ガス中に含まれるNOx及びすすの量を低減可能な内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施の形態の内燃機関の燃料噴射ノズル周辺の概略を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の内燃機関の燃料噴射ノズル周辺の概略を示した図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の内燃機関の燃料濃度の分散の分布状況を示した図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の内燃機関の燃料濃度の分散の分布状況を示した図である。
【図5】従来の内燃機関のピストンの断面を示した図である。
【図6】従来の内燃機関の燃料濃度の分散とすすの量の関係を示した図である。
【図7】従来の内燃機関の燃料濃度の分散とNOxの量の関係を示した図である。
【図8】従来の内燃機関の燃料濃度の分散の分布状況を示した図である。
【図9】従来の内燃機関の燃料濃度の分散の分布状況を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関について説明する。図1に、内燃機関1における燃料噴射ノズル2の周辺の概略を示す。この内燃機関1は、少なくとも1つの燃料噴射軸Lに沿って燃料を噴射する燃料噴射ノズル2と、燃料噴射ノズルの近傍で且つ燃料噴射軸Lに沿って配置した整流通路10と、冠面にキャビティ4を形成したピストン3を有している。この整流通路10は、燃料噴射ノズル2に固定されており、燃料噴射ノズル2から噴射された噴霧燃料が、整流通路10内を通過するように構成している。この整流通路10は、例えば、燃料噴射軸Lを両側から挟むように配置した2つの平板状の整流部材11で構成することができる。
【0019】
ここで、本発明の整流通路10の構成は、上記に限られない。整流通路10は、特に燃料噴射ノズル2の近傍において、噴霧燃料の移動に伴い燃料噴射軸Lの周囲に発生する乱流渦の発生を抑制し、また発生した乱流渦の消失を促進する構成を有していればよい。例えば、整流通路10を、燃料噴射軸Lの全周を覆うような筒型整流通路としてもよい。また、整流通路10を、燃料噴射軸Lの両側面に加え、上面又は下面を覆う形状としてもよい。更に、キャビティ内の気流(たとえばスワール流又はタンブル流等)への影響を考慮し、形状に適宜変更を加えてもよい。
【0020】
図2に、燃料噴射ノズル2及び整流通路10の底面図を示す。この燃料噴射ノズル2は、4つの噴射孔5と、4つの噴射孔5に対応するそれぞれの整流通路10を有している。この整流通路10を構成する2つの整流部材11の間隔dは、燃料噴射軸Lに沿って噴射される噴霧燃料の運動を阻害しない限りにおいて、狭く構成することが望ましい。この間隔dの長さは、内燃機関の排気量により異なる。
【0021】
なお、図2では、燃料噴射ノズル2が有する噴射孔5(又は燃料噴射軸L)を4つとした場合を記載しているが、本発明はこの構成に限られない。燃料噴射ノズル2は、少なくとも1つの噴射孔5を有していればよく、例えば、2、4、5、8などの数の噴射孔5を有していてもよい。
【0022】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、キャビティ4内に噴霧された噴霧燃料の濃度の分散を抑制することができる。つまり、燃料を従来よりも均一に噴霧することができる。これは、整流通路10の内面の粘性により、燃料の噴霧により誘起される乱流渦の発生を抑制し、且つ乱流渦が維持される時間を短縮することができるためである。
【0023】
第2に、燃料の噴射タイミングに関わらず、噴霧燃料の濃度の分散を抑制することができる。これは、燃料噴射ノズル2と整流通路10の相対位置が、ピストン3の位置に関わらず一定となるためである。特に、多段噴射を行う内燃機関で、噴霧燃料の濃度の分散を効率よく抑制することができる。
【0024】
第3に、整流通路10を、燃料噴射軸Lの両側面に設置した整流部材11とする構成により、噴霧燃料の運動を妨げずに、噴霧燃料の濃度の分散を抑制することができる。特に、整流通路10の下側が開放されているので、鉛直方向zに落下した噴霧燃料が整流通路10に付着し、その場所の燃料濃度が高くなるという問題の発生を防止することができる。
【0025】
図3及び4に、内燃機関1の燃料濃度の分散の分布状況を示す。図3は、燃料噴射ノズル(injector)が燃料噴射を完了した直後の様子を示している。図4は、燃料噴射完了から0.5秒後の様子を示している。なお、図中の色の濃い部分は、燃料濃度の分散が高い場所を示している。
【0026】
本発明の内燃機関1の状態を示す図3及び4と、従来の内燃機関1Xの状態を示す図8及び9を比較してみると、本発明の内燃機関1は、噴霧燃料の濃度の分散を効率よく抑制できていることがわかる。つまり、本発明の内燃機関1は、燃料を従来よりも均一に噴霧することができ、NOx及びすす等の発生を抑制し、排気ガス性能を向上することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 内燃機関(ディーゼルエンジン、ガソリン直噴エンジン)
2 燃料噴射ノズル
3 ピストン
4 キャビティ
6 冠面
10 整流通路
11 整流部材
L 燃料噴射軸
d 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの燃料噴射軸に沿って燃料を噴射する燃料噴射ノズルと、冠面にキャビティを形成したピストンを有する内燃機関において、前記内燃機関が、前記燃料噴射ノズルの近傍で且つ前記燃料噴射軸に沿って配置した整流通路を有すると共に、前記整流通路が、前記燃料噴射ノズルに固定されて、前記燃料噴射ノズルから噴射された噴霧燃料が、前記整流通路内を通過するように構成したことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記整流通路が、前記燃料噴射軸を少なくとも両側から挟むように配置した2つの整流部材を有していることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−92103(P2013−92103A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234609(P2011−234609)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】