説明

内視鏡の曇り防止システム

【課題】体腔内に挿入される内視鏡の曇りを防止する、内視鏡の曇り防止システムを提供する。
【解決手段】本発明の一実施の形態では、内視鏡の曇り防止システムは、内視鏡の先端側に配置された磁気発熱手段と、内視鏡とは別体の交流磁場発生手段とを具備し、磁気発熱手段と交流磁場発生手段とが、交流磁場発生手段により発生された交流磁場が磁気発熱手段に作用する範囲内に近接した状態に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に挿入される内視鏡の曇りを防止する、内視鏡の曇り防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、体腔内に挿入してその内部を観察したり手術等を行ったりするための硬性鏡、軟性鏡などの内視鏡が広く使用されている。このような内視鏡による手術の際、術者は、内視鏡先端の光学系から術部の像を取り込んで、これにより得られた画像データに基づいて手術を行う。
【0003】
内視鏡が挿入される体腔内は、例えば、温度約35〜37℃、湿度約98〜100%という環境下にある。挿入される内視鏡先端は、一般的に体腔内よりも低温であるため、挿入された内視鏡先端の光学系、例えば、カバーガラスの表面には、体腔内との温度差に起因する結露が起こり、曇りが生じるが、このような曇りは、観察、手術等の妨げとなりうる。
【0004】
そこで、このような曇りを防止するために、例えば、特許文献1には、内視鏡先端の光学系のカバーガラスの表面に親水性処理を施した表面処理部と、カバーガラスを加熱する加熱手段(ヒータ)とを有する内視鏡の曇り防止装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の内視鏡の曇り防止装置では、内視鏡先端の内部にヒータが配置されているため、内視鏡先端の近傍までヒータ用の電気的配線を行う必要がある。それ故、特許文献1に開示されている装置の構成を既設の配線を有していない光学視管(硬性鏡)に導入するのは難しい。
【0007】
そこで、本発明は、上述の問題を鑑みてなされたものであり、体腔内に挿入される内視鏡の曇りを防止する、内視鏡の曇り防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、内視鏡の先端側に配置された磁気発熱手段と、内視鏡とは別体の交流磁場発生手段とを具備し、前記磁気発熱手段と前記交流磁場発生手段とが、該交流磁場発生手段により発生された交流磁場が前記磁気発熱手段に作用する範囲内に近接した状態に配置される内視鏡の曇り防止システムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、体腔内に挿入される内視鏡の曇りを防止する、内視鏡の曇り防止システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、第1の実施形態の内視鏡の曇り防止システムの一態様を示す図である。
【図2】図2は、第1の実施形態の内視鏡の曇り防止システムの他の態様を示す図である。
【図3】図3は、第2の実施形態の内視鏡の曇り防止システムを示す図である。
【図4】図4は、第3の実施形態の内視鏡の曇り防止システムを示す図である。
【図5】図5は、第4の実施形態の内視鏡の曇り防止システムを示す図である。
【図6】図6は、第5の実施形態の内視鏡の曇り防止システムを示す図である。
【図7】図7は、第5の実施形態における磁気発熱体の比透磁率の温度変化を示すグラフである。
【図8】図8は、第6の実施形態の内視鏡の曇り防止システムの磁気発熱体を示す断面図である。
【図9】図9は、第6の実施形態における磁気発熱体の抵抗率の温度変化を示すグラフである。
【図10】図10は、第7の実施形態の内視鏡の曇り防止システムを示す図である。
【図11】図11は、第8の実施形態の内視鏡の曇り防止システムを示す図である。
【図12】図12は、第9の実施形態の内視鏡の曇り防止システムを示す図である。
【図13】図13は、第10の実施形態の内視鏡の曇り防止システムの特徴部分を概略的に示すブロック図である。
【図14】図14(a)並びに(b)は、第11の実施形態の曇り防止システムにおける磁気発熱体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の内視鏡の曇り防止システム1の一態様を示す図である。
内視鏡の曇り防止システム1は、大別すると、硬性鏡である内視鏡2と、交流磁場発生装置3と、トレイ4とを有している。
【0012】
内視鏡先端2aは、対物レンズ5と、この対物レンズ5を覆う透光性部材であるカバーガラス6とを備えた光学系、照明光を照射する照射部など、通常の内視鏡が有している構成部を有している。光学系は、カバーガラス6がなく、対物レンズ5が表面に露出されていてもよい。
【0013】
内視鏡先端2aの側には、磁気発熱手段としての磁気発熱体7が配置されている。磁気発熱体7は、例えば、リング状であり、内視鏡先端2aの内部に埋め込まれて内視鏡2と一体的に構成されている。磁気発熱体7は、内視鏡先端2a側の部材に比べて、比透磁率が高い、抵抗率が低い、及び保持力が大きい性質の少なくとも1つの性質を有する部材で構成される。磁気発熱体7には、例えば、鉄やパーマロイ等の磁性材料を用いる。なお、磁気発熱体7は、これ以外にも、内視鏡先端2aを加熱するのに適した任意の形状及び配置を取ることができる。
【0014】
交流磁場発生手段としての交流磁場発生装置3は、少なくとも1つのコイル8と、コイル用の電源9と、制御用コンピュータ10と、スイッチ11とを有している。この交流磁場発生装置3は、スイッチ11を入れると制御用コンピュータ10により電源9が作動され、コイル8に交流電流が流れて所望の交流磁場を発生させるように構成されている。なお、交流磁場発生装置3が複数のコイル8を備えた構成であれば、各コイル8の出力は個別に制御される。
【0015】
交流磁場発生装置3の上面には、例えば、磁気をほとんど帯びないステンレス鋼(例えば、オーステナイト系ステンレス鋼)で作られたトレイ4が載置されている。トレイ4は、磁気発熱体7に比べて比透磁率が低い、抵抗率が高い、保磁力が小さい性質の少なくとも1つの性質を有する材料で構成される。
【0016】
トレイ4は、交流磁場発生装置3と磁気発熱体7とを互いに近接した状態に配置するお盆である。つまり、磁気発熱体7を含む内視鏡2は、トレイ4に載置可能、すなわちトレイ4を介在して間接的に交流磁場発生装置3の上に載置される。このトレイ4は、使用の際、内視鏡2に触れる部分が少なくとも滅菌されている。
【0017】
次に、以上のように構成された内視鏡の曇り防止システム1の使用手順を説明する。
まず、医療従事者は、オートクレーブ済みの内視鏡2を、交流磁場発生装置3の上に置かれた同じくオートクレーブ済みのトレイ4に置くことにより、内視鏡先端2aの磁気発熱体7と交流磁場発生装置3とを互いに近接した状態に配置する。そして、交流磁場発生装置3のスイッチ11を入れる。これにより、制御用コンピュータ10を介して電源9によりコイル8に交流電流が流れて、交流磁場発生装置3の上面に交流磁場が発生する。
【0018】
このとき、トレイ4の材質であるステンレス鋼の比透磁率は小さいため、トレイ4自体は交流磁場発生装置3による交流磁場によりほとんど磁化されず、この交流磁場はトレイ4を透過する。そして、この交流磁場が内視鏡先端2aの内部に埋め込まれた磁気発熱体7に達すると、電磁誘導作用により渦電流損、磁気ヒステリシス損が生じて磁気発熱体7が発熱する(誘導加熱)。この結果、内視鏡先端2aが温められる。
【0019】
あるいは、図2に示すように、トレイ4を用いずに、医療従事者が内視鏡基端2bを把持し、交流磁場発生装置3に近接して、かつ内視鏡先端2aが交流磁場発生装置3に触れないように保持しながら、つまり、交流磁場発生装置3と磁気発熱体7とを互いに近接した状態に配置して内視鏡先端2aを温めてもよい。この場合にも、トレイ4を用いる場合と同様に、交流磁場発生装置3により発生された交流磁場が内視鏡先端2aの磁気発熱体7に作用する範囲内に、つまり磁気発熱体7に達して所望の温度に加熱する程度に磁気発熱体7と交流磁場発生装置3とが近接していればよい。
【0020】
ここで、内視鏡先端の温度に関して、日本工業規格JIS T 0601−2−18及び国際規格IEC 60601−2−18では、照射光射出部分を除く挿入部(内視鏡先端)の温度は、内視鏡を内視鏡用付属品と組み合わせて使用する場合、最大50℃までと定めている。従って、体腔内に挿入される内視鏡先端2aは、体温以上の温度から50℃までの温度範囲にあるように、例えば、35℃以上50℃未満となるように温められることが好ましい。
【0021】
医療従事者は、内視鏡先端2aが体温以上(上述の温度範囲内)に温まった後、内視鏡2を体腔内に挿入する。内視鏡先端2aが体温よりも温まっているため、内視鏡先端2aの光学系のカバーガラス6(又は対物レンズ5)は体内からの水蒸気で曇らない。
【0022】
本実施形態によれば、内視鏡先端に配置された磁気発熱体により内視鏡先端を体温よりも高い温度に予め温めることができるので、内視鏡を体腔内に挿入した際に体腔内と内視鏡先端との温度差により内視鏡先端が曇るのを防ぐことができる。また、内視鏡内部の磁気発熱体が誘導加熱により発熱するため、温風等を用いる方法に比べて、内視鏡先端を急速に、かつムラなく温めることができる。
【0023】
さらに、交流磁場発生装置は必ずしも滅菌されているとは限らないが、内視鏡先端を温める際に、オートクレーブ可能なトレイを介在して内視鏡を交流磁場発生装置上に載置することにより、不潔域と清潔域とを分離するための消耗品を使うことなく、内視鏡先端を温めることができる。医療従事者は、交流磁場発生装置の上のトレイに単に内視鏡を置くだけでよいので、医療従事者の作業が単純化される。
【0024】
また、内視鏡基端に取り付けるCCD、光ファイバ等を含む装置との互換性を考慮すると、本実施形態のように、内視鏡先端にヒータ用の電気的配線を有することなく内視鏡先端の光学系の曇りを防止することにより、前記装置との互換性に起因する制約に捉われず、より汎用性のある内視鏡の曇り防止システムを提供することができる。
【0025】
以下、第2乃至第11の実施形態について説明する。以下の説明では、第1の実施形態の内視鏡の曇り防止システム1と同じ構成部材には同じ参照符号を付し、その説明は省略する。
【0026】
[第2の実施形態]
図3は、第2の実施形態の内視鏡の曇り防止システム20を示す図である。
内視鏡の曇り防止システム20は、内視鏡の曇り防止システム1のトレイ4に代わって、交流磁場発生装置3と磁気発熱体7とが、互いに非接触で、発生された交流磁場が磁気発熱体7に作用する範囲内に近接した状態で内視鏡2を保持する保持部材を有している。本実施形態では、この保持部材は、交流磁場発生装置3の上面から上方に配置され、内視鏡2を引っ掛けて保持する保持フック21である。内視鏡先端2aは、保持フック21により交流磁場発生装置3の上面の近傍で非接触にて保持される。
【0027】
使用の際、医療従事者は内視鏡2を保持フック21に引っ掛けて、内視鏡2は保持フック21に垂下された状態で保持される。そして、第1の実施形態と同様にして、誘導加熱により内視鏡先端2aを温める。
【0028】
本実施形態においても、保持部材で内視鏡と交流磁場発生装置とのいずれかを保持することにより、不潔域と清潔域とを分離するための消耗品を使うことなく、内視鏡先端を温めることができる。また、医療従事者は、保持フックに単に内視鏡を掛けるだけでよいので、医療従事者の作業が単純化される。
【0029】
[第3の実施形態]
図4は、第3の実施形態の内視鏡の曇り防止システム30を示す図である。
内視鏡の曇り防止システム30は、交流磁場発生装置3と磁気発熱体7とが、互いに非接触で、発生された交流磁場が磁気発熱体7に作用する範囲内に近接した状態で交流磁場発生装置3を保持する保持部材を有している。本実施形態では、この保持部材は、交流磁場発生装置3のコイル31を保持するアーム32である。
【0030】
本実施形態では、交流磁場発生装置3は、内視鏡の曇り防止システム1のコイル8に代わるコイル31と、コイル用の電源9と、制御用コンピュータ10と、スイッチ11とを有しており、コイル31は、基端がこの装置の上面に取り付けられたアーム32の先端に取り付けられている。アーム32は、例えば、インターロックチューブで構成されており、自在に撓ませてコイル31の所望の位置へ配置することが可能である。
【0031】
また、磁気発熱体7が取り付けられた内視鏡2は、交流磁場発生装置3の上面に限らず、医療従事者が通常内視鏡2を載置するところに置かれる。
【0032】
使用の際、医療従事者はコイル31が取り付けられたアーム32を撓ませて、磁気発熱体7が取り付けられた内視鏡先端2aの近傍にコイル31を非接触で近づける。そして、第1の実施形態の手順と同様にして、誘導加熱により内視鏡先端2aを温める。
【0033】
本実施形態は、内視鏡が元々置かれた場所にコイルを近づけることにより内視鏡先端を温めるので、内視鏡を置く場所を変更する必要がないという利点を有する。
【0034】
[第4の実施形態]
図5は、第4の実施形態の内視鏡の曇り防止システム40を示す図である。
内視鏡の曇り防止システム40では、交流磁場発生装置3と磁気発熱体7とを互いに近接した状態に配置する部材の少なくとも一部が交流磁場発生装置3で構成されている。本実施形態では、この配置する部材は、コイル41が内蔵されたコイルユニット42である。
【0035】
本実施形態では、交流磁場発生装置3は、電源9と、制御用コンピュータ10と、スイッチ11と、内視鏡の曇り防止システム1のコイル8に代わるコイル41が内蔵されたコイルユニット42と、を有している。コイルユニット42は、交流磁場発生装置3に着脱可能である。コイルユニット42は、例えば、上部が開口した円筒形状であり、その内部に内視鏡2を収容して保持する。コイルユニット42は、オートクレーブ可能な部材で構成されている。
【0036】
また、コイルユニット42が交流磁場発生装置3に装着されたとき、これらは、互いの電気接点(コイルユニット側電気接点43、交流磁場発生装置側電気接点44)によって通電される。
【0037】
使用の際、内視鏡2は、内視鏡の曇り防止システム1のトレイ4に代わって内視鏡2のケースとなるコイルユニット42中に置かれる。そして、第1の実施形態の手順と同様にして、誘導加熱により内視鏡先端2aを温める。
【0038】
本実施形態では、交流磁場発生装置の一部でありこの装置に着脱可能なコイルユニットが内視鏡のケースを兼ねるため、ケースのための部材を追加する必要がないという利点を有する。
【0039】
[第5の実施形態]
図6は、第5の実施形態の内視鏡の曇り防止システム50を示す図である。
本実施形態では、内視鏡の曇り防止システム50の構成は内視鏡の曇り防止システム1の構成と同様であるが、磁気発熱体7に相当する磁気発熱体51が、図7に示す温度−比透磁率特性を有する感温性磁性材料で形成されている。すなわち、この磁気発熱体51は、キュリー点が40℃付近の磁性材料でできており、体温よりも幾分高い温度である40℃付近で比透磁率が著しく減少する。
【0040】
上述したように、体腔内に挿入される内視鏡先端の温度は35℃以上50℃未満であることが好ましいので、磁気発熱体51を構成している磁性材料も、この範囲で比透磁率が顕著に減少する材料が選択される。このような感温性磁性材料として、例えば、Ni−Cu−Znフェライトを用いる。
【0041】
磁気発熱体51の比透磁率が大きいほど、一定の交流磁場下での磁気発熱体51の発熱量は大きくなる。交流磁場発生装置3により一定の交流磁場を与えたとき、磁気発熱体51の温度が40℃以下であれば、磁気発熱体51の比透磁率は十分に大きいので、磁気発熱体51が発熱する。しかし、温度が40℃付近に達すると、磁気発熱体51の比透磁率が著しく減少するため、磁気発熱体51の発熱量も同様に減少する。このように、発熱量の著しい減少により磁気発熱体51の温度は40℃付近に保たれるので、内視鏡先端2aも同程度の温度に保たれる。
【0042】
本実施形態によれば、磁気発熱体として感温性磁性材料を用いて、誘導加熱により加熱される内視鏡先端の温度を感温性磁性材料の性質を利用して制御することにより、温度センサを配置することなく、内視鏡先端の温度を予め決められた温度に設定することができる。
【0043】
[第6の実施形態]
図8は、第6の実施形態の内視鏡の曇り防止システムの磁気発熱体61を示す断面図である。
本実施形態では、内視鏡の曇り防止システムの構成は内視鏡の曇り防止システム1の構成と同様であるが、磁気発熱体7に相当する磁気発熱体61が、第5の実施形態の磁気発熱体51よりもさらに比透磁率の大きなコアの磁性体62と、その周囲にコーティングされた感温性抵抗材料63とにより構成されている。
【0044】
感温性抵抗材料63は、図9に示すような抵抗率−温度特性を有しており、40℃付近で抵抗率が大幅に上昇する。上述したように、体腔内に挿入される内視鏡先端の温度は35℃以上50℃未満であることが好ましいので、磁気発熱体61を構成している感温性抵抗材料63も、この範囲で抵抗率が顕著に増加する材料が選択される。感温性抵抗材料63は、例えば、樹脂に導電性粒子をコンパウンドした構造を有し、樹脂のガラス転移温度によって抵抗率が大きく変化する。
【0045】
磁気発熱体61の感温性抵抗材料63の抵抗率が小さいほど、一定の交流磁場下での磁気発熱体61の発熱量は大きくなる。交流磁場発生装置3により一定の交流磁場を与えたとき、感温性抵抗材料63の温度が40℃以下であれば、感温性抵抗材料63の抵抗率は十分に小さいので、磁気発熱体61が発熱する。しかし、温度が40℃付近に達すると、感温性抵抗材料63の抵抗率が大幅に増加するため、磁気発熱体61は発熱しにくくなり、その発熱量が著しく減少する。従って、磁気発熱体61の温度は40℃付近に保たれるので、内視鏡先端2aも同程度の温度に保たれる。
【0046】
本実施形態によれば、磁気発熱体として感温性抵抗材料を用いて、誘導加熱により加熱される内視鏡先端の温度を感温性抵抗材料の性質を利用して制御することにより、温度センサを配置することなく、内視鏡先端の温度を予め決められた温度に設定することができる。
【0047】
[第7の実施形態]
図10は、第7の実施形態の内視鏡の曇り防止システム70を示す図である。
内視鏡の曇り防止システム70は、第1の実施形態の内視鏡の曇り防止システム1の構成に加えて、内視鏡先端温度検知手段としての赤外線温度カメラ(赤外線温度センサ)71を有している。赤外線温度カメラ71は、トレイ4の上方に配置されており、トレイ4の上面の温度を画像として検知する。また、赤外線温度カメラ71は、交流磁場発生装置3の制御用コンピュータ10と通信するために接続されている。赤外線温度カメラ71で検知された画像は、制御用コンピュータ10に送信される。
【0048】
制御用コンピュータ10は、赤外線温度カメラ71から送信された画像を解析して、一定範囲内の大きさの熱源を認識したとき、その熱源を内視鏡先端2aの発熱部(磁気発熱体7)と判断する。制御用コンピュータ10は、フィードバック制御を行いながら交流磁場の出力を変化させて交流磁場の大きさを調整し、内視鏡先端2aの温度を目標温度(例えば、45℃)に制御する。目標温度に達したら、術者にアラーム等で聴覚的に、又は不図示のディスプレイに表示して視覚的に報知することができる。
【0049】
本実施形態によれば、温度フィードバック制御を行うことにより瞬間的に大きな交流磁場を発生させることも可能になり、内視鏡先端をより早く加熱することができる。また、赤外線温度カメラを用いることにより広範囲の温度を検知することができ、交流磁場発生装置近辺のどこに内視鏡先端が置かれても内視鏡先端の温度を検知することができる。
【0050】
[第8の実施形態]
図11は、第8の実施形態の内視鏡の曇り防止システム80を示す図である。
内視鏡の曇り防止システム80は、第1の実施形態の内視鏡の曇り防止システム1の構成に加えて、交流磁場発生装置3の上面に配置された内視鏡先端温度検知手段としての接触式温度センサ81を有している。接触式温度センサ81は、交流磁場発生装置3の上面に載置されその上面に内視鏡2が載置されたトレイ4の熱伝導を介して、内視鏡先端2aの温度を検知する。接触式センサ81は、交流磁場発生装置3の制御用コンピュータ10と通信するために接続されている。接触式温度センサ81で検知された温度は、制御用コンピュータ10に送信される。
【0051】
制御用コンピュータ10は、接触式温度センサ81で検知された温度に基づいたフィードバック制御を行いながら交流磁場の大きさを調整し、内視鏡先端2aの温度を目標温度(例えば、45℃)に制御する。目標温度に達したら、術者に報知してもよい。
【0052】
本実施形態においても、温度フィードバック制御を行うことにより瞬間的に大きな交流磁場を発生させることが可能であり、内視鏡先端をより早く加熱することができる。また、接触式温度センサを用いることにより、安価な構成でフィードバック制御を行うことができる。
【0053】
なお、接触式温度センサ81は、交流磁場発生装置3側のみならず、トレイ4に搭載されていてもよい。その場合は、交流磁場発生装置3とトレイ4との間に電気接点を設けて、接触式温度センサ81で検知された温度を制御用コンピュータ10が読み取る。
【0054】
[第9の実施形態]
図12は、第9の実施形態の内視鏡の曇り防止システム90を示す図である。
内視鏡の曇り防止システム90には、内視鏡2の内部に、温度センサ91と永久磁石92とが配置されている。さらに、交流磁場発生装置3の上面には、磁気センサ93が配置されている。磁気センサ93は、トレイ4を介在してこの上面に置かれる内視鏡2の永久磁石92が形成する磁場の変化を検出する。温度センサ91は、第5の実施形態の磁気発熱体51と同様に、40℃付近で比透磁率が著しく減少する感温性磁性材料でできている。このような感温性磁性材料として、温度に比例して比透磁率が減少する材料、例えば、Li−Zn−Cuフェライトを用いる。
【0055】
交流磁場発生装置3による交流磁場によりトレイ4に載置された内視鏡2の磁気発熱体7が発熱し、内視鏡先端2aの温度が40℃付近になると、温度センサ91の比透磁率が著しく減少する。これにより、永久磁石92が形成する磁場のうち、内視鏡先端2aの外部に漏れ出す磁場が変化する。その変化を磁気センサ93で検知することで、内視鏡先端2aの温度が40℃付近になったことを検出する。
【0056】
制御用コンピュータ10は、磁気センサ93の検出に基づいたフィードバック制御を行いながら、内視鏡先端2aの温度を目標温度(例えば、45℃)に制御する。目標温度に達したら、術者に報知してもよい。
【0057】
本実施形態においても、温度フィードバック制御を行うことにより瞬間的に大きな交流磁場を発生させることが可能であり、内視鏡先端をより早く加熱することができる。
【0058】
また、ワイヤレスで内視鏡先端の温度を検知することができるため、内視鏡内部に電気的配線を設ける必要がなく、内視鏡を小径化することができる。さらに、温度センサで内視鏡内部の温度を検知することができるため、接触式温度センサと比べて応答性が良いという利点を有する。
【0059】
なお、感温性磁性材料を用いた方法以外にも、抵抗温度センサ及び無線通信技術を利用したワイヤレス温度センサを用いることができる。この場合、例えば、内視鏡2の内部にコイルを設け、交流磁場発生装置3からの交流磁場を用いて発電し、温度センサや通信の電力とする。
【0060】
[第10の実施形態]
図13は、第10の実施形態の内視鏡の曇り防止システムの特徴部分を概略的に示すブロック図である。
本実施形態では、内視鏡先端2aの内部に温度センサ101が配置されている。温度センサ101を含む内視鏡2は、配線103によって内視鏡ビデオセンタ102に接続されており、温度センサ101が検知した温度を内視鏡ビデオセンタ102に伝達する。内視鏡ビデオセンタ102は、さらに、配線104によって交流磁場発生装置3に通信するために接続されている。
【0061】
制御用コンピュータ10は、温度センサ101が検知した温度に基づいたフィードバック制御を行いながら交流磁場の大きさを調整し、内視鏡先端2aの温度を目標温度(例えば、45℃)に制御する。
【0062】
本実施形態によれば、内視鏡先端に設けられる温度センサはヒータなどの加熱手段と比べて小さく、また、その配線も比較的細いため、内視鏡先端に配置しやすい。つまり、ヒータのような加熱のための熱源を内視鏡先端に設けるとなると、比較的太い配線が必要となり内視鏡の径が大きくなってしまうが、本実施形態の内視鏡先端温度検知手段は、熱源に比べて小さく、また、電力も必要としないため、このような温度センサを内視鏡先端に設けても配線は細くて済み、さらに、安価に構成することができるという利点を有する。
【0063】
[第11の実施形態]
図14(a)並びに(b)は、第11の実施形態の曇り防止システムにおける磁気発熱体111を示す図である。
本実施形態では、内視鏡先端2aには、内視鏡の曇り防止システム1の磁気発熱体7に代わる磁気発熱体111が、その外周面に係合するように装着されている。この磁気発熱体111は、例えば、キャップ型であるように、内視鏡先端2aに着脱可能な形状である。内視鏡2に磁気発熱体111を装着することにより、磁気発熱体を予め有していない内視鏡も誘導加熱する。
【0064】
このような構成の曇り防止システムは、手術等で体腔内に挿入される内視鏡に限らず、歯科等で使用する口腔内に入れる鏡にも使用可能である。その場合は、鏡の近傍、例えば、鏡の裏側に磁気発熱体を配置する。
【0065】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさまざまな改良及び変更が可能である。
【0066】
以下は、本発明の付記事項である。
(付記1)先端に光学部材を有する内視鏡と、内視鏡とは別体の交流磁場発生手段とを具備し、前記内視鏡の先端側には、磁気発熱手段が設けられ、前記磁気発熱手段と前記交流磁場発生手段とは、該交流磁場発生手段により発生された交流磁場により前記磁気発熱手段が誘導加熱される範囲内に近接して配置されたとき、内視鏡先端の前記光学部材を加熱することを特徴とする内視鏡の曇り防止システム。
(付記2)前記磁気発熱手段と前記交流磁場発生手段とを互いに前記近接した状態に配置する部材を有することを特徴とする付記1記載の内視鏡の曇り防止システム。
(付記3)前記配置する部材は、前記磁気発熱手段に比べて、比透磁率が低い、抵抗率が高い、及び保磁力が小さい性質の少なくとも1つの性質を有する材料で構成されていることを特徴とする付記2記載の内視鏡の曇り防止システム。
(付記4)前記磁気発熱手段は、前記内視鏡先端側の部材に比べて、比透磁率が高い、抵抗率が低い、及び保磁力が大きい性質の少なくとも1つの性質を有する材料で構成されていることを特徴とする付記1記載の内視鏡の曇り防止システム。
【符号の説明】
【0067】
1…内視鏡の曇り防止システム、2…内視鏡、2a…内視鏡先端、3…交流磁場発生装置、4…トレイ、5…対物レンズ、6…カバーガラス、7…磁気発熱体、8…コイル、9…電源、10…制御用コンピュータ、11…スイッチ、20…内視鏡の曇り防止システム、21…保持フック、30…内視鏡の曇り防止システム、31…コイル、32…アーム、40…内視鏡の曇り防止システム、41…コイル、42…コイルユニット、50…内視鏡の曇り防止システム、51…磁気発熱体、61…磁気発熱体、62…磁性体、63…感温性抵抗材料、70…内視鏡の曇り防止システム、71…赤外線温度カメラ、80…内視鏡の曇り防止システム、81…接触式温度センサ、90…内視鏡の曇り防止システム、91…温度センサ、92…永久磁石、93…磁気センサ、101…温度センサ、102…内視鏡ビデオセンタ、103,104…配線、111…キャップ型磁気発熱体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の先端側に配置された磁気発熱手段と、
内視鏡とは別体の交流磁場発生手段とを具備し、
前記磁気発熱手段と前記交流磁場発生手段とが、該交流磁場発生手段により発生された交流磁場が前記磁気発熱手段に作用する範囲内に近接した状態に配置されることを特徴とする内視鏡の曇り防止システム。
【請求項2】
前記磁気発熱手段と前記交流磁場発生手段とを互いに前記近接した状態に配置する部材を有することを特徴とする請求項1記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項3】
前記配置する部材は、前記交流磁場発生手段の上方に前記磁気発熱手段を間接的に載置する部材であることを特徴とする請求項2記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項4】
前記載置する部材は、前記磁気発熱手段に比べて、比透磁率が低い、抵抗率が高い、及び保磁力が小さい性質の少なくとも1つの性質を有する材料で構成されていることを特徴とする請求項3記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項5】
前記配置する部材は、前記内視鏡と前記交流磁場発生手段とのいずれかを保持し、前記磁気発熱手段と前記交流磁場発生手段とを互いに非接触で前記近接した状態に保持する部材であることを特徴とする請求項2記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項6】
前記配置する部材は、前記内視鏡に触れる部分が少なくとも滅菌されていることを特徴とする請求項2記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項7】
前記配置する部材は、少なくともその一部が交流磁場発生手段で構成されていることを特徴とする請求項2記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項8】
前記磁気発熱手段は、内視鏡先端側の部材に比べて、比透磁率が高い、抵抗率が低い、及び保磁力が大きい性質の少なくとも1つの性質を有する部材で構成されていることを特徴とする請求項1記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項9】
前記磁気発熱手段は、摂氏35度から50度の範囲で比透磁率が顕著に減少する感温性磁性材料で構成された部材であることを特徴とする請求項8記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項10】
前記磁気発熱手段は、磁性体と、摂氏35度から50度の範囲で抵抗率が顕著に増加する感温性抵抗材料とを組み合わせた部材であることを特徴とする請求項8記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項11】
内視鏡先端温度検知手段を有し、前記交流磁場発生手段の出力を変化させることで、内視鏡先端の温度を任意の温度に制御することを特徴とする請求項1記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項12】
前記内視鏡先端温度検知手段は、内視鏡とは別体の赤外線温度センサであることを特徴とする請求項11記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項13】
前記内視鏡先端温度検知手段は、内視鏡とは別体の接触式温度センサであることを特徴とする請求項11記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項14】
前記内視鏡先端温度検知手段は、内視鏡先端の内部に設けられた温度センサと、無線によって前記交流磁場発生手段に温度を伝達する温度伝達手段とを有することを特徴とする請求項11記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項15】
前記内視鏡先端温度検知手段は、内視鏡先端の内部に設けられた温度センサと、有線によって前記交流磁場発生手段に温度を伝達する温度伝達手段とを有することを特徴とする請求項11記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項16】
前記磁気発熱手段は、内視鏡先端に着脱可能な形状であることを特徴とする請求項1記載の内視鏡の曇り防止システム。
【請求項17】
前記交流磁場発生手段は、少なくとも1つのコイルを有し、各コイルの出力が個別に制御可能であることを特徴とする請求項1記載の内視鏡の曇り防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−254154(P2012−254154A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128344(P2011−128344)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】