説明

内視鏡用高周波処置具

【課題】ESDの複数の処置に対応できる内視鏡用高周波処置具を提供すること
【解決手段】内視鏡用高周波処置具が、可撓性シースと、ワイヤと、ナイフ部と、
ワイヤとナイフ部とを連結する連結部材と、可撓性シースの先端に嵌入されナイフ部が挿通される貫通孔を備えた導電性を有する先端部材と、可撓性シース内でワイヤを進退させることによりナイフ部を前進又は後退させる操作部と、ナイフ部に高周波電流を流すための高周波電源を接続可能な接点部とを備え、先端部材の先端面は、可撓性シースの先端から露出し、ナイフ部は先端部に突起部を有し、ナイフ部が後退したとき、突起部が先端部材の先端面に当接し電気的に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡装置の処置具挿通チャンネルに挿入して使用する内視鏡用処置具に関し、特に、高周波電流によって切開処置等を行うための内視鏡用高周波処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内視鏡を用いて早期食道癌、早期胃癌、早期大腸癌の広範囲に及ぶ病変部でも確実に一括切除可能な方法として、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection(以下、「ESD」という。)が普及してきた。ESDの手技は、(1)病変部の切除範囲にマーキングを施し(マーキング)、(2)粘膜下層に薬液を局所注射して粘膜病変部を隆起させ(局注)、(3)マーキングを目標に粘膜病変部の周囲を切開した後、粘膜下層を剥離し(切開・剥離)、(4)剥離した潰瘍面や切開、剥離時に発生した出血を止血する(止血)、といった処置(工程)よりなり、各工程では専用のディスポーザブル内視鏡用処置具が使用される。例えば、切開・剥離の工程では、高周波電流を通電して粘膜等を切除するニードルナイフ等を備えた内視鏡用処置具が使用される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−42155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ESDは、広範囲の病変部を一括切除する治療方法であるため、治療時間が長く、手技的難易度も高い。そのため、特許文献1の内視鏡用処置具で粘膜等の切除を行う際は、出血を伴うことが多い。そして、手技中に出血が生じた場合には、切開・剥離用の内視鏡用処置具を体腔内から一旦取り出し、止血用の内視鏡用処置具に差し替えて、内視鏡的止血術を行う必要がある。すなわち、従来のESDでは用途に応じた(各工程に応じた)複数のディスポーザブル専用処置具が必要であり、また予期せぬ出血等があるとそれに応じた対処が必要となるため、コスト及び手技時間の観点から複数の処置(工程)に対応できる内視鏡用処置具が望まれていた。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、ESDの複数の処置に対応できる内視鏡用高周波処置具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡用高周波処置具は、内視鏡の処置具挿通チャンネルを介して体腔内に挿入される内視鏡用高周波処置具であって、処置具挿通チャンネル内に挿通可能な可撓性シースと、可撓性シースの内部に挿通させたワイヤと、可撓性シースの先端から突没可能なロッド状のナイフ部と、ワイヤの先端部とナイフ部の基端部とが挿入される貫通孔を備え、ワイヤと前記ナイフ部とを連結する連結部材と、可撓性シースの先端に嵌入されナイフ部が挿通される貫通孔を備えた導電性を有する先端部材と、可撓性シース内でワイヤを進退させることによりナイフ部を前進又は後退させる操作部と、ワイヤを介してナイフ部に高周波電流を流すための高周波電源を接続可能な接点部とを備え、先端部材の先端面は可撓性シースの先端から露出し、ナイフ部は、先端部に、ナイフ部の軸に対して垂直な方向に突出する突起を備えた突起部を有し、ナイフ部が後退したとき、突起部が先端部材の先端面に当接し電気的に接続されることを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、ナイフ部を後退させて「マーキング」、「止血」の処置を行い、ナイフ部を前進させて「切開」、「剥離」の処置を行うことが可能となるため、手技の作業性は飛躍的に高められ、手技の時間も従来に比較して格段に短縮されることとなる。
【0008】
また、先端部材の先端面は突起部を収容する収容部を有し、ナイフ部が後退したとき、突起部が収容部に収容されるように構成することができる。また、この場合においては、突起部が収容部に収容されたときに、突起部の先端が先端部材の先端面と略同一面上に位置するように構成することができる。このような構成によれば、先端部材の先端面を利用して広い面積を一度に焼灼できるため、作業性がさらに高められる。
【0009】
また、突起部は、ナイフ部の先端が突起部の先端から所定量突出するようにナイフ部の基端寄りの位置に設けられていることが望ましい。また、この場合においては、所定量が、0.3mm〜0.7mmの範囲内であることが好ましい。このような構成によれば、ナイフ部を後退させて「マーキング」、「止血」の処置を行う際に、ナイフ部の先端が粘膜にわずかに差し込まれるため、可撓性シースの先端が確実に位置決めされた状態で処置を行うことが可能となる。
【0010】
また、ナイフ部が前進したとき、連結部材の先端面が先端部材の基端面に当接する構成とすることができる。このような構成によれば、必要以上にナイフ部が突出することがないため、安全に「切開」、「剥離」の処置を行うことが可能となる。
【0011】
また、先端部材の基端面及び貫通孔の円筒面が絶縁コートされていることが望ましい。このような構成によれば、ナイフ部が前進したときに、先端部材と連結部材との接触、またはナイフ部と先端部材との接触によって、先端部材が通電してしまうことを確実に防止できるため、先端部材の露出部分を誤って体腔内の粘膜に接触させたとしても焼灼させることはない。
【0012】
また、可撓性シースの内部に液体を注入する液体注入口を備え、液体が可撓性シース内を通り、先端部材の先端から噴射されるように構成することができる。このような構成によれば、先端部材の先端から噴射される液体によって、ナイフ部を洗浄することが可能となり、また、本発明の内視鏡用高周波処置具をESDの「局注」処置に適用することも可能となる。
【0013】
また、連結部材は、先端部に、先端面から基端側に延びるスリット部を有し、ナイフ部が前進したとき、液体がスリット部を通って先端部材の先端に供給されるように構成することもできる。また、この場合においては、スリット部は、断面が略十字形状のスリットであることが望ましい。このような構成によれば、ナイフ部が前進し、連結部材の先端面が先端部材の基端面に当接する状態であっても、スリット部を通して先端部材の先端に液体を供給することができるため、ナイフ部を洗浄したり、「局注」処置を行ったりすることができる。
【0014】
また、先端部材は、先端部に、先端面から基端側に延びる断面が略十字形状のスリットを有するように構成することができる。また、この場合においては、先端部材のスリットが、先端部材の先端面から基端面まで延びていることが望ましい。
【0015】
また、突起部が、ナイフ部の円筒面を覆うように形成された円筒状の突起を有することが望ましい。また、この場合、円筒状の突起は、基端部に、基端面から先端側に延びる断面が略十字形状のスリットを有するように構成することもできる。
【0016】
また、突起部が、ナイフ部の軸を中心として4方向に突出する断面が略十字形状の突起を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ESDの複数の処置に対応できる内視鏡用高周波処置具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具の外形図及び断面図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具の先端部付近の構成を説明する拡大図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具の先端部付近の構成を説明する拡大図である。
【図4】図4は、図2のA−A断面図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具を用いて行われるESDの各処置を説明する図である。
【図6】図6は、本発明の第2の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具の先端部付近の構成を説明する拡大図である。
【図7】図7は、本発明の第2の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具の先端部付近の構成を説明する拡大図である。
【図8】図8は、本発明の第3の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具の先端部付近の構成を説明する拡大図である。
【図9】図9は、本発明の第4の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具の先端部付近の構成を説明する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1(以下、「処置具1」と称する。)の外形図(図1(a))及び断面図(図1(b))である。処置具1は、高周波ナイフ12(以下、「ナイフ12」と称する。)と、ナイフ12に接続されたワイヤ13と、ナイフ12及びワイヤ13が挿通されたシース15と、ワイヤ13及びシース15を操作するための操作部20等を備えており、シース15が不図示の内視鏡装置の処置具挿通チャンネルから体腔内に挿入されてESDの手技に使用される。
【0021】
ナイフ12は金属製(例えば:SUS(ステンレス鋼))の略丸棒状の部材であり、後述するように、操作部20を操作することによりシース15の先端部(シース先端部15a)から突出する(すなわち、ナイフ12の長手方向に進退する)ように構成されており、高周波電流が通電されて体腔内組織の切開・剥離処置等を行うために使用される。なお、本明細書においては、ナイフ12の先端部がシース先端部15aから突出する方向に移動することを「前進」と称し、ナイフ12の先端部が操作部20側に移動することを「後退」と称する。
【0022】
図2及び図3は、処置具1の先端部付近の構成を説明する拡大図である。図2(a)は、ナイフ12がシース先端部15aから突出したとき(すなわち、前進したとき)の拡大斜視図であり、図2(b)は、その拡大断面図である。また、図3(a)は、ナイフ12が操作部20側に移動したとき(すなわち、後退したとき)の拡大斜視図であり、図3(b)は、その拡大断面図である。
【0023】
図2及び図3に示すように、ナイフ12は、その先端部(ナイフ先端部12a)に突起部材12bを備えており、ナイフ12の基端部は接続部材14によって、ワイヤ13の先端部に電気的及び機械的に接続されている。突起部材12bは、中心部分に貫通穴を有する略円筒状の金属製の部材であり、ナイフ先端部12aが突起部材12bの貫通穴に挿通されて溶接されている。本実施形態においては、ナイフ12の外径は、高周波電流の密度を高めるために、約0.3mmと極力細く構成され、突起部材12bの外径は約0.6mmに設定されている。また、突起部材12bは、ナイフ先端部12aから0.5mm基端側(すなわち、ナイフ先端部12aが突起部材12bから0.5mm突出する位置)に固定されている。なお、本実施形態においては、突起部材12bがナイフ先端部12aに溶接等によって固着されるものとして説明するが、突起部材12bとナイフ12が一体となっていればよく、突起部材12bとナイフ12を一つの部材として加工し、ナイフ12の先端部に突起部を備える構成とすることもできる。
【0024】
ワイヤ13は、ステンレス鋼等の金属からなり、接続部材14によってナイフ12と一体に固定された状態でシース15に挿通されている。ワイヤ13の基端部は操作部20まで延びている。接続部材14は、ナイフ12及びワイヤ13の外径よりも大きく、かつシース15の内径よりも小さな外径を有する略円筒状の金属製の部材である。接続部材14の中心には、ナイフ12の長手方向に沿って延びる貫通孔が形成されており、貫通孔の先端側(ナイフ12側)の径はナイフ12の外径よりもわずかに大きく、貫通孔の基端側(ワイヤ13側)の径はワイヤ13の外径よりもわずかに大きくなっている。ナイフ12及びワイヤ13は、それぞれ貫通孔の先端側及び基端側から挿入された後、ロー付けやレーザ溶接等によって接続部材14に固定される。図4は、図2のA−A断面図である。図2〜図4に示すように、接続部材14の先端部(接続部材先端部14a)には、接続部材先端部14aから基端側に延びる断面十字形状のスリット14bが形成されている。後述するように、スリット14bは、シース15内に液体が注入されたときにシース先端部15aに液体を供給するための送水チャンネルの一部として機能する。
【0025】
シース15は、PTFE(polytetrafluoroethylene)等の樹脂からなる絶縁性及び可撓性を有する管状部材である。シース15の先端部の外周面には、体腔内への処置具1の進入の度合いを内視鏡装置で視認し易くするためにマーカー16が周方向にわたって設けられている。また、シース先端部15aの外周端部(エッジ部)は、手技中のシース15の出し入れによって体腔内の粘膜を傷つけることがないように面取りされ、面取り部15bが形成されている。
【0026】
シース15の先端部には、金属製(例えば:SUS(ステンレス鋼))のストッパ17が固定されている。ストッパ17は、シース15の内径と略同一の外径を有する略円筒状の部材であり、その外周面には抜け止め突起が形成されている。ストッパ17は、シース先端部15aからシース15内に圧入されてシース15の内面と嵌合し、ストッパ17の先端部(ストッパ先端部17a)がシース先端部15aと略同一面となる位置で固定される。
【0027】
ストッパ17には、ナイフ12の外径よりも大きく、突起部材12bの外径よりも小さな径を有する貫通孔17cがナイフ12の長手方向(進退方向)に沿って形成されており、ナイフ12が貫通孔17cに挿通されている。また、貫通孔17cの基端側(ストッパ基端部17b側)及び先端側(ストッパ先端部17a側)はわずかに拡径されており、ストッパ先端部17a側には、突起部材12bを収容する突起部材収容部17dが形成されている。
【0028】
図2に示すように、ナイフ12を前進させると、ストッパ基端部17bに接続部材先端部14aが当接する。このため、ナイフ12の突出量は規制され、必要以上にシース先端部15aから突出することはない。本実施形態においては、ナイフ12の最大突出量は2mmに設定されている。このように、ナイフ12をシース先端部15aから突出させた状態で、ナイフ12に高周波電流を通電することにより、体腔内粘膜の切開・剥離処置を行うことができる(詳細は後述)。また、後述するように、シース15内に液体が供給されたときに、スリット14bを通して、貫通孔17c(ストッパ17とナイフ12との間の隙間)に水が供給されるため、貫通孔17cは、シース先端部15aに水を供給するための送水チャンネルの一部として機能する。なお、ナイフ12をシース先端部15aから突出させた状態で通電を行うと、ストッパ基端部17bと接続部材先端部14aとの接触、またはナイフ12とストッパ17との接触によって、ストッパ17も通電してしまうため、ストッパ基端部17bの表面及び貫通孔17cの円筒面は絶縁コーティングされるのが好ましい。
【0029】
図3に示すように、ナイフ12を後退させると、突起部材12bが突起部材収容部17dに収容される。このとき、突起部材12bの基端側はストッパ17に当接することによりその位置が規制され、突起部材12bの先端はストッパ先端部17aと略同一面上の位置となる。すなわち、ナイフ12を後退させたとき、ナイフ先端部12aがシース先端部15aから0.5mmだけ突出した状態となる。また、突起部材12bの基端側がストッパ17に当接することにより、ナイフ12とストッパ17が電気的に接続されることとなるため、ナイフ12に供給される高周波電流はストッパ17にも供給される。上述したように、ストッパ先端部17aはシース15の前方に露出しているが、この露出面積は、ナイフ12及び突起部材12bの外形に比較してはるかに大きいため、この状態で(突起部材12bを突起部材収容部17dに収容した状態で)、ナイフ12及びストッパ17に高周波電流を通電することにより、広い面積の焼灼、すなわち、マーキング及び止血処置を行うことができる(詳細は後述)。
【0030】
操作部20は、シース15が固定された本体22と、ワイヤ13の基端が固定されたスライダ24を備えている(図1)。本体22は、略棒状の部材であり、スライダ24を摺動させるためのガイド溝22aが軸方向に延設されている。本体22の基端側には、操作時に指を掛けるためのリング22bが設けられており、また本体22の先端側には、シース15をガイドし、折れを防止する折れ止めチューブ30が設けられている。
【0031】
スライダ24は、本体22の外周を取り囲む筒状部24aと、操作時に指を掛けるハンドル24bを有し、図示しない高周波電源と接続されるプラグ26が取付けられている。ワイヤ13の基端部は、筒状部24aの内部で、ネジ26aによってプラグ26と接続固定されている。すなわち、スライダ24及びワイヤ13は、ガイド溝22aに沿って、ナイフ12及びワイヤ13の長手方向に摺動可能に本体22に装着されている。従って、術者が、処置具1のスライダ24をリング22b側に移動させると、ナイフ12が後退して、突起部材12bが突起部材収容部17dに収容され(図3)、処置具1のスライダ24をシース先端部15a側に移動させると、ナイフ12が前進する(すなわち、ナイフ12がシース先端部15aから突出する)(図2)。また、高周波電源から通電される高周波電流は、いずれも導電性のプラグ26、ワイヤ13、接続部材14を介してナイフ12に供給される。
【0032】
折れ止めチューブ30の基端側(本体22側)には、液体注入口32が設けられている。シース15の液体注入口32と対向する位置には、不図示の開口が設けられており、液体注入口32に不図示のシリンジや給水装置等を接続し、生理食塩水等の液体を供給することによって、シース15内に液体を供給することができるように構成されている。シース15内に供給された液体は、シース15内を通りシース先端部15a側に送られ、接続部材先端部14aに形成されたスリット14b、貫通孔17c(ストッパ17とナイフ12との間の隙間)に供給される。そして、この状態で、ナイフ12をわずかに突出させると、貫通孔17cの先端が開放されるため、シース先端部15aから液体が噴射される。シース先端部15aから噴射される液体は、体腔内粘膜の切開・剥離処置中のナイフ12の洗浄や後述する局注処置の局注液として用いられる。
【0033】
次に、上記のように構成された本実施形態の処置具1を用いたESDの手技について説明する。図5は、本実施形態の処置具1を用いて行われるESDの各処置を説明する図である。
【0034】
<マーキング>
図5(a)は、本実施形態の処置具1を用いて行われるマーキング処置を説明する図である。マーキング処置は、内視鏡装置の先端部を患者の体腔内に挿入し、ESDの切開対象となる病変部周辺に切開範囲の目印を付す工程である。内視鏡装置の先端部を患者の体腔内に挿入した状態で、内視鏡装置の処置具挿通チャンネルにシース15を挿通し、内視鏡先端部からシース15を突出させる。そして、内視鏡画像によってシース先端部15aと病変部の位置を確認しながら、ナイフ12を後退させた状態で、シース先端部15aを病変部周辺の粘膜に押し当て、ナイフ12に高周波電流を通電する。上述したように、ナイフ12を後退させた状態では、ナイフ12に供給される高周波電流がストッパ17にも供給されるため、ストッパ先端部17aの露出部分と接触した粘膜が焼灼されてマーキング痕が形成される。なお、本実施形態の処置具1は、ナイフ12を後退させた状態のときに、ナイフ先端部12aがシース先端部15aから0.5mm突出するように構成されている。従って、シース先端部15aを病変部周辺の粘膜に押し当てると、シース先端部15aが粘膜内にわずかに差し込まれるため、粘膜表面で滑ることなく、狙った位置にマーキング痕を形成することができる。術者は、このような操作を複数回繰り返して、病変部の外縁を把握できる程度の個数のマーキング痕を形成し、マーキング作業を終了する。
【0035】
このように、本実施形態の処置具1によれば、マーキング処置専用の処置具を使用することなく、容易に視認できる程度の大きさのマーキング痕を形成することが可能となる。
【0036】
<局注>
図5(b)は、本実施形態の処置具1を用いて行われる局注処置を説明する図である。局注処置は、切開対象となる病変部の粘膜下層に薬液(例えば、生理食塩水)を局所注射して、切開対象である病変部の粘膜を浮き上がらせる工程である。内視鏡画像によってシース先端部15aと病変部の位置を確認しながら、ナイフ12を前進させた状態で高周波電流を通電させ、シース先端部15aを粘膜下層に差し込むための穴を穿つ。その後、ナイフ12を後退させた状態で、シース先端部15aを粘膜下層に差し込む。そして、液体注入口32から薬液を注入し、この状態でスライダ24を操作し、ナイフ12をわずかに前進させる。上述したように、本実施形態の処置具1は、ナイフ12を前進させると、シース先端部15aから送水が行われるように構成されているため、局注に必要な専用の処置具を使用することなく、安全かつ容易に病変部の粘膜下層に薬液を供給することが可能となる。なお、局注の工程においては、ナイフ12に高周波電流は通電されない。
【0037】
このように、本実施形態の処置具1によれば、局注専用の処置具を使用することなく、容易に局注処置を行うことが可能となる。
【0038】
<切開>
図5(c)は、本実施形態の処置具1を用いて行われる切開処置を説明する図である。切開処置は、切開対象となる病変部の周囲をマーキング痕に沿って切開する工程である。内視鏡画像によってシース先端部15aとマーキング痕の位置を確認しながら、ナイフ12を前進させ、高周波電流を通電させた状態で、シース先端部15aをマーキング痕に沿って移動させて全周切開を行う。切開中は、ナイフ先端部12aが粘膜内に埋没した状態で移動することとなるが、ナイフ先端部12aには突起部材12bが設けられており、これが粘膜内に嵌まり込み、一種の抜け止めとして機能するため、ナイフ先端部12aが不用意に粘膜から抜けることがない。上述したように、切開処置では、出血を伴うことが多い。出血した場合には、後述の止血処置を行う。また、切開処置では、ナイフ12に粘膜や血液等が付着し、ナイフとしての機能が低下してしまうことがある。この場合、ナイフ12を一旦粘膜から引き抜き、液体注入口32から液体を注入してナイフ先端部12aを洗浄する。このように、本実施形態の処置具1は、処置具1を取り出すことなくナイフ先端部12aを洗浄することが可能であり、また、止血処置を行うことができるように構成されている。
【0039】
<剥離>
図5(d)は、本実施形態の処置具1を用いて行われる剥離処置を説明する図である。剥離処置は、切開した病変部を少しずつ剥ぎ取る工程である。ナイフ12を前進させ、高周波電流を通電させた状態で、切開した病変部を持ち上げながら、切開した病変部の粘膜下層を焼灼して剥離していく。剥離処置中も切開処置と同様、ナイフ先端部12aの突起部材12bが粘膜内に適度に引っかかるため、ナイフ先端部12aが滑って不用意に粘膜から抜けることがない。また、剥離処置においても、出血を伴うことが多いが、切開処置と同様、出血した場合には、後述の止血処置を行い、また、ナイフ12に粘膜や血液等が付着し、ナイフとしての機能が低下してしまった場合には、ナイフ先端部12aを洗浄する。
<止血>
図5(e)は、本実施形態の処置具1を用いて行われる止血処置を説明する図である。止血処置は、病変部を剥離した後の潰瘍部や切開、剥離処置中に出血した出血箇所を焼灼して止血する処理である。ナイフ12を後退させた状態で、シース先端部15aを出血した潰瘍部や粘膜に押し当て、ナイフ12に高周波電流を通電して焼灼する。マーキング処置と同様、ナイフ12を後退させた状態では、ナイフ12に供給される高周波電流がストッパ17にも供給され、ストッパ先端部17aの露出部分と接触した比較的広い面積の粘膜が一度に焼灼されて止血処置される。また、本実施形態の処置具1は、ナイフ12を後退させた状態のときに、ナイフ先端部12aがシース先端部15aから0.5mm突出するため、粘膜表面で滑ることなく、狙った位置を的確に止血することができる。
【0040】
このように、本実施形態の処置具1によれば、止血処置専用の処置具を使用することなく、容易に止血処置を行うことが可能となる。
【0041】
術者は、必要に応じて上述の動作(処置)を継続し、最終的に、病変部を一括切除し、鉗子を有する他の処置具等を用いて切除後の粘膜を回収し、ESDの手技を終了する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の処置具1を用いた場合、ESDの「マーキング」、「局注」、「切開」、「剥離」、「止血」の各処置を1つの処置具だけで行うことが可能となる。従って、手技の作業性は飛躍的に高められ、手技の時間も従来に比較して格段に短縮されることとなる。また、従来複数のディスポーザブル処置具を必要としていたが、1つのディスポーザブル処置具ですむため、手術費用の低廉化にも寄与することとなる。
【0043】
以上が、本発明の第1の実施形態に説明であるが、本発明は上述の構成に限定されるものではなく、発明の技術的思想の範囲内において様々な変形が可能である。例えば、第1の実施形態においては、突起部材12bは、ナイフ先端部12aから0.5mm基端側に固定されているとして説明したが、「マーキング」や「止血」の処置においてシース先端部15aを固定できればよく、例えば、ナイフ先端部12aから0.3mm〜0.7mmの範囲内に固定されていればよい。
【0044】
また、第1の実施形態においては、接続部材先端部14aには、断面十字形状のスリット14bが形成されているとして説明したが、シース先端部15aに液体を供給することの可能な送水チャンネルを構成できればよく、他の形状のスリットを適用することも可能である。
【0045】
また、第1の実施形態においては、突起部材12bは円筒状の部材として説明したが、この形状に限定されるものではなく、様々な形状のものを採用することが可能である。以下、いくつかの実施形態を挙げて説明する。
【0046】
図6及び図7は、本発明の第2の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具2(以下、「処置具2」と称する。)の先端部付近の構成を説明する拡大図である。図6(a)は、ナイフ12が前進したときの拡大斜視図であり、図6(b)は、その拡大断面図である。また、図7(a)は、ナイフ12が後退したときの拡大斜視図であり、図7(b)は、その拡大断面図である。なお、図6及び図7においては、図1〜5を用いて説明した本発明の第1の実施形態と共通する構成については共通の符号を付している。
【0047】
処置具2は、ナイフ先端部12aに設けられる突起部材112bが断面十字形状の部材である点で第1の実施形態に係る処置具1と異なる。突起部材112bには、軸を中心として90°間隔で4つの方向に突出する突起が設けられている。図7に示すように、ナイフ先端部12aが後退した場合、突起部材112bは、突起部材収容部17dに収容されるが、突起部材112bと突起部材収容部17dとの間に大きな隙間が形成される点で、第1の実施形態の突起部材12bとは異なる。本実施形態の処置具2は、突起部材112bをこのような構成とすることで、突起部材112bを突起部材収容部17dに収容した状態(すなわち、ナイフ先端部12aを後退させた状態)で、液体注入口32から注入される液体をシース先端部15aから噴射可能としている。そして、このような構成によれば、ナイフ12を前進させることなく局注を行うことができるため、局注時のナイフ12の操作によって体腔内の粘膜を穿孔してしまう危険性を回避することが可能となる。また、このような構成によれば、突起部材112bを突起部材収容部17dに収容した状態でナイフ12を洗浄することも可能となるため、ナイフ先端部12a及び突起部材112bに付着した粘膜や血液等を容易に洗い流すことが可能となる。
【0048】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具3(以下、「処置具3」と称する。)の先端部付近の構成を説明する拡大図である。図8(a)は、ナイフ12が前進したときの拡大斜視図であり、図8(b)は、ナイフ12が後退したときの拡大断面図である。また、図8(c)は、図8(b)のB−B断面図である。なお、図8においても、図1〜5を用いて説明した本発明の第1の実施形態と共通する構成については共通の符号を付している。
【0049】
処置具3は、ナイフ先端部12aに設けられる突起部材212bの基端側に断面十字形状のスリット212cが形成されている点で第1の実施形態に係る処置具1と異なる。図8(b)及び(c)に示すように、ナイフ12が後退した場合、突起部材112bは、突起部材収容部17dに収容されるが、突起部材212bの基端側とストッパ17との間にスリット212cの分だけ大きな隙間が形成される点で、第1の実施形態の突起部材12bとは異なる。本実施形態の処置具3は、突起部材212bをこのような構成とすることで、第2の実施形態と同様、突起部材212bを突起部材収容部17dに収容した状態(すなわち、ナイフ先端部12aを後退させた状態)で、液体注入口32から注入される液体をシース先端部15aから噴射可能としている。そして、本実施形態においても、ナイフ12を前進させることなく局注を行うことができるため、局注時のナイフ12操作によって体腔内の粘膜を穿孔してしまう危険性を回避することが可能となる。また、突起部材212bを突起部材収容部17dに収容した状態でナイフ12を洗浄することも可能となるため、ナイフ先端部12a及び突起部材212bに付着した粘膜や血液等を容易に洗い流すことが可能となる。
【0050】
図9は、本発明の第4の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具4(以下、「処置具4」と称する。)の先端部付近の構成を説明する拡大図である。図9(a)は、ナイフ12が後退したときの拡大斜視図であり、図9(b)は、図9(a)のC−C断面図である。なお、図9においても、図1〜5を用いて説明した本発明の第1の実施形態と共通する構成については共通の符号を付している。
【0051】
処置具4は、ストッパ117の先端部に、ストッパ先端部117aからストッパ基端部117bに向かって延びる断面十字形状のスリット117eが形成されている点で第1の実施形態に係る処置具1と異なる。図9(a)及び(b)に示すように、ナイフ12が後退した場合、突起部材12bは、突起部材収容部117dに収容されるが、突起部材12bとストッパ117との間にスリット117eの分だけ大きな隙間が形成される点で、第1の実施形態のストッパ17とは異なる。本実施形態の処置具4は、ストッパ117をこのような構成とすることで、第2及び第3の実施形態と同様、突起部材12bを突起部材収容部117dに収容した状態(すなわち、ナイフ先端部12aを後退させた状態)で、液体注入口32から注入される液体をシース先端部15aから噴射可能としている。そして、本実施形態においても、ナイフ12を突出させることなく局注を行うことができるため、局注時のナイフ12操作によって体腔内の粘膜を穿孔してしまう危険性を回避することが可能となる。また、突起部材12bを突起部材収容部117dに収容した状態でナイフ12を洗浄することも可能となるため、ナイフ先端部12a及び突起部材12bに付着した粘膜や血液等を容易に洗い流すことが可能となる。なお、スリット117eは、ストッパ117の先端部の一部に設けてもよいが、ストッパ先端部117aからストッパ基端部117bに貫通するように設けてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1、2、3、4 内視鏡用高周波処置具
12 ナイフ
12b、112b、212b 突起部材
13 ワイヤ
14 接続部材
15 シース
16 マーカー
17、117 ストッパ
20 操作部
22 本体
24 スライダ
26 プラグ
30 折れ止めチューブ
32 液体注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の処置具挿通チャンネルを介して体腔内に挿入される内視鏡用高周波処置具であって、
前記処置具挿通チャンネル内に挿通可能な可撓性シースと、
前記可撓性シースの内部に挿通させたワイヤと、
前記可撓性シースの先端から突没可能なロッド状のナイフ部と、
前記ワイヤの先端部と前記ナイフ部の基端部とが挿入される貫通孔を備え、前記ワイヤと前記ナイフ部とを連結する連結部材と、

前記可撓性シースの先端に嵌入され、前記ナイフ部が挿通される貫通孔を備えた導電性を有する先端部材と、
前記可撓性シース内で前記ワイヤを進退させることにより、前記ナイフ部を前進又は後退させる操作部と、
前記ワイヤを介して前記ナイフ部に高周波電流を流すための高周波電源を接続可能な接点部と、
を備え、
前記先端部材の先端面は、前記可撓性シースの先端から露出し、
前記ナイフ部は、先端部に、前記ナイフ部の軸に対して垂直な方向に突出する突起を備えた突起部を有し、
前記ナイフ部が後退したとき、前記突起部が前記先端部材の先端面に当接し、電気的に接続される
ことを特徴とする内視鏡用高周波処置具。
【請求項2】
前記先端部材の先端面は、前記突起部を収容する収容部を有し、
前記ナイフ部が後退したとき、前記突起部が前記収容部に収容されることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項3】
前記突起部が前記収容部に収容されたときに、前記突起部の先端が前記先端部材の先端面と略同一面上に位置することを特徴とする請求項2に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項4】
前記突起部は、前記ナイフ部の先端が前記突起部の先端から所定量突出するように前記ナイフ部の基端寄りの位置に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項5】
前記所定量が、0.3mm〜0.7mmの範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項6】
前記ナイフ部が前進したとき、前記連結部材の先端面が前記先端部材の基端面に当接することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項7】
前記先端部材の基端面及び貫通孔の円筒面が絶縁コートされていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項8】
前記可撓性シースの内部に液体を注入する液体注入口を備え、
前記液体が、前記可撓性シース内を通り、前記先端部材の先端から噴射されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項9】
前記連結部材は、先端部に、先端面から基端側に延びるスリット部を有し、
前記ナイフ部が前進したとき、前記液体が前記スリット部を通って前記先端部材の先端に供給されることを特徴とする請求項8に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項10】
前記スリット部は、断面が略十字形状のスリットであることを特徴とする請求項9に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項11】
前記先端部材は、先端部に、先端面から基端側に延びる断面が略十字形状のスリットを有することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項12】
前記先端部材のスリットが、前記先端部材の先端面から基端面まで延びていることを特徴とする請求項11に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項13】
前記突起部が、前記ナイフ部の円筒面を覆うように形成された円筒状の突起を有することを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項14】
前記円筒状の突起は、基端部に、基端面から先端側に延びる断面が略十字形状のスリットを有することを特徴とする請求項13に記載の内視鏡用高周波処置具。
【請求項15】
前記突起部が、前記ナイフ部の軸を中心として4方向に突出する断面が略十字形状の突起を有することを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の内視鏡用高周波処置具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−111308(P2013−111308A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261157(P2011−261157)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】