説明

内視鏡

【課題】湾曲部の曲げ操作に起因する撮像装置の信号ケーブルの破断、接合部剥離の発生を抑える。
【解決手段】先端部本体35の係止穴50に係止片69を入れて、ケーブル取付枠59を先端部本体35に揺動自在に取り付ける。ケーブル固定部61により信号ケーブル25の外皮66をケーブル取付枠59に固定する。信号ケーブル25の素線65をメイン基板57及びサブ基板58に半田付けする。鏡筒52、プリズム53、メイン基板57をプリズム保持枠54により一体化する。プリズム53、メイン基板57、サブ基板58、素線65の半田付け部62を封止樹脂60で封止し一体化する。鏡筒52を先端部本体35に固定する。信号ケーブル25へ押し引き力や曲げ力が作用しても、ケーブル取付枠59の揺動により、これら力が軽減され、耐久性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、例えば被検者の体内に挿入される挿入部を有する。この挿入部は、先端から順に、先端硬質部、湾曲部、軟性部となっている。先端硬質部の先端面には、観察窓、照明窓、鉗子出口、送気・送水ノズルがある。また、先端硬質部の内面には、観察窓に対応した位置で撮像装置が、照明窓に対応した位置でライトガイドがそれぞれ取り付けられる。湾曲部は、複数の節輪ユニットを連結して構成され、ワイヤ操作によって先端硬質部を所望の方向に向けることができる。軟性部は、被検体の所望の観察部位に先端硬質部を到達させるために、1m〜2m程度の長さとなっている。
【0003】
撮像装置は、レンズやプリズム等の複数個の光学部品からなる光学系と、この光学系によって結像された光学画像を撮像信号に光電変換するCCD等の固体撮像素子とを有する。固体撮像素子はフレキシブル基板やサブ基板などを介して信号ケーブルに接続される。また、フレキシブル基板やサブ基板には固体撮像素子を駆動するために電子部品が実装されている。撮像装置からの信号は、フレキシブル基板やサブ基板、信号ケーブルを介して画像処理装置に送られる。画像処理装置では信号を画像処理して、モニタに病変部の画像を表示する。
【0004】
撮像装置からの信号を画像処理装置に送る信号ケーブルは、複合多芯ケーブルから構成されている。この信号ケーブルは、挿入部の全長にわたって挿通されているので、挿入部がループされたり湾曲されたりする度に、強く押し引きされる。このため、基板の接合部から信号ケーブルが剥離する場合がある。
【0005】
このような剥離を回避するため、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1記載の内視鏡では、フレキシブル基板の一端側に信号ケーブルが半田付けされるとともに、その半田付けされた信号ケーブルを囲むようにフレキシブル基板がコの字状に折り曲げられ、その周囲をシールドテープと絶縁テープによって被覆され、この内部空間にエポキシ系の接着剤が充填されて変形しないように固められている。さらに、信号ケーブルが固定された側の回路基板は、押さえ板を介して、固定ねじによって連結筒に固定されているため、信号ケーブルが強く押し引きされても、回路基板は動かず、信号ケーブルから回路基板に加わるねじれや傾きの力も、可撓性のある回路基板で吸収されて、固体撮像素子及び対物光学系には伝わらない。
【0006】
特許文献2記載の撮像装置では、フレキシブル基板と信号ケーブルの接続部は封止材で覆い固められている。
【0007】
特許文献3記載の撮像装置は、固体撮像素子及びフレキシブル基板の電子部品実装部を収容する補強枠を備え、この補強枠の内側に接着剤を充填している。さらに、フレキシブル基板に半田付けされた信号ケーブルの先端部分と補強枠とを熱収縮チューブで覆い、この内側に接着剤を充填して密封している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−261064号公報
【特許文献2】特開平9−146011号公報
【特許文献3】特開2008−118568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の撮像装置では、回路基板を固定ねじによって連結筒に固定するという煩雑な作業が必要となるという欠点がある。特許文献2記載の撮像装置では、信号ケーブルが押し引きされる力は、フレキシブル基板との接合部やフレキシブル基板に伝わる。フレキシブル基板に伝わった力は、信号ケーブルとフレキシブル基板との半田付け部やフレキシブル基板と固体撮像素子との接合部等にかかることになり、これらのいずれか弱いところに剥離や破損が生じる懸念がある。
【0010】
特許文献3記載の撮像装置では、固体撮像素子を補強枠の内部に収納する関係上、固体撮像素子のサイズによって補強枠のサイズが影響を受ける。内視鏡への要求も高画質化、細径化、オートクレーブ対応など多様化しており、それに伴い固体撮像素子及びその周辺の部品も多様化/複雑化している。固体撮像素子及びその周辺部品に機能が増えることで大型化すると、これをすべて収納する補強枠も大型化するため、内視鏡挿入部の先端硬質部の径が太くなり、患者の負担が増加するという欠点がある。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、信号ケーブルが強く押し引きされた場合でも、信号ケーブル,フレキシブル基板,固体撮像素子等の部品の破損やこれらの接合部の剥離の発生を抑えることができ、しかも組立も簡単に行えるようにした内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の内視鏡は、観察窓、前記観察窓に対面する位置に形成されている鏡筒取付孔を有する先端部本体と、前記鏡筒取付孔に取り付けられるレンズ鏡筒と、前記レンズ鏡筒を介して結像される光学画像を光電変換する固体撮像素子と、前記固体撮像素子が取り付けられる基板と、前記レンズ鏡筒、前記基板を保持する保持枠と、前記基板と電気的に接続される複数の素線及びこれを覆う外皮からなる信号ケーブルと、一端に係止部、他端に前記信号ケーブルの外皮が固着されるケーブル固定部を有するケーブル取付部材と、前記鏡筒取付孔に近接して前記先端部本体に形成され、前記係止部を揺動自在に保持する係止受け部とを備える。
【0013】
なお、前記係止部は板状の係止片からなり、前記係止受け部は、前記係止片よりも揺動隙間分だけ大きいサイズで形成され、前記係止片が入れられる係止穴からなることが好ましい。この場合には、係止穴に係止片を入れることで、信号ケーブルを先端部本体に簡単に取り付けることができ、撮像装置の組み付けが容易になる。
【0014】
また、係止穴は、ケーブル取付部材の揺動時に、係止片の先端上面が当接する揺動規制面を有することが好ましい。この場合には、ケーブル取付部材を先端部本体に仮取り付けする場合に、組み付け作業が容易になる。
【0015】
前記先端部本体の外周面に取り付けられる先端筒を有する湾曲部を備え、前記先端筒により前記係止穴を覆うことが好ましい。この場合には、ケーブル取付部材は先端筒の内周面で揺動が規制されるため、係止穴から係止部が脱落することがなくなる。
【0016】
前記基板は、メイン基板及びサブ基板に分けて形成、もしくはフレキシブル基板で形成することにより、撮像装置をコンパクトにまとめることができ、挿入部の細径化及び短小化が図れる。さらに、前記鏡筒と前記撮像素子の間にプリズムを有し、前記プリズムの後方に周辺素子を搭載した基板を有し、前記基板は、前記ケーブル取付部材により覆われることにより、プリズムの後端側のスペースを有効利用することができ、挿入部の細径化が図れる。
【0017】
前記ケーブル取付部材は、上板の両端に側板が連接され横断面がU字形の樋状の取付枠であり、先端に前記係止片が、後端に前記ケーブル固定部が形成され、前記取付枠内に前記素線が収納されることにより、ケーブル取付部材を用いて、素線を保護することができる。また、プリズム、メイン基板、サブ基板もしくは屈曲し撮像素子とは異なる面に延出されたメイン基板の一部を一体化し、各基板への素線の半田付け部を封止する封止樹脂を有することにより、防水性を確保することができる
【0018】
前記ケーブル固定部を、先端ケーブル挟持部、上板、後端ケーブル挟持部からなるケーブル取付部と、前記先端ケーブル挟持部及び後端ケーブル挟持部の間で、前記上板と前記信号ケーブルの外周とを結束糸の巻回と接着剤とにより一体化した糸巻とから構成することにより、ケーブル取付枠に信号ケーブルを確実に固定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、係止部と係止片との係止によって、信号ケーブルを先端部本体に取り付けることができる。したがって、湾曲部の湾曲操作によって信号ケーブルが押し引きされる場合でも、この信号ケーブルの押し引き力が撮像装置の半田付け部に作用することがなく、半田付け部の剥離や破断などの発生を抑えることができる。また、係止によってケーブル取付部材が先端部本体に揺動自在に取り付けられるため、湾曲部の湾曲操作を受けて信号ケーブルに押し引き力や曲げ力が作用する場合でも、先ずケーブル取付部材が揺動し、この後に押し引き力や、曲げ力が加わるため、信号ケーブル自体にかかる力や変形量を小さくすることができる。したがって、信号ケーブルの破断防止や、耐久性の向上が図れる。また、信号ケーブルによる曲げ変形量を小さくすることができるため、湾曲操作時の負荷が小さくなり、湾曲操作が容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の電子内視鏡システムを示す斜視図である。
【図2】先端硬質部を示す断面図である。
【図3】挿入部先端面を示す正面図である。
【図4】先端部本体を内側から見た正面図である。
【図5】撮像装置の断面図である。
【図6】撮像装置の平面図である。
【図7】ケーブル取付枠の斜視図である。
【図8】先端部本体にケーブル取付枠を取り付けた状態における水平面での揺動範囲を示す平面図である。
【図9】先端部本体にケーブル取付枠を取り付けた状態における垂直面での揺動範囲を示す挿入部先端の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、電子内視鏡システム10は、電子内視鏡11、プロセッサ装置12、光源装置13からなる。電子内視鏡11は、被検体(患者)内に挿入される可撓性の挿入部14と、挿入部14の基端部分に連設された操作部15と、プロセッサ装置12および光源装置13に接続されるコネクタ16と、操作部15、コネクタ16間を繋ぐユニバーサルコード17とを有する。
【0022】
操作部15の先端側には、鉗子口18が設けられる。鉗子口18には、電気メス等の処置具が挿通される。鉗子口18は、挿入部14内の鉗子チャンネル19(図2参照)を通して、先端面14aの鉗子出口20(図2および図3参照)に連通している。
【0023】
操作部15は、アングルノブ21、送気・送水ボタン22、吸引ボタン23、レリーズボタンなどの各種操作部材を備えている。アングルノブ21は、回転操作によって挿入部14の先端硬質部31を上下左右方向に湾曲させる。送気・送水ボタン22は、押圧操作によって送気・送水ノズル43(図3参照)からエアーまたは水を噴出させる。吸引ボタン23は、押圧操作によって、体内の液体や組織等の被吸引物を鉗子出口20から吸引する。レリーズボタンは、押圧操作によって観察画像を静止画記録する。
【0024】
プロセッサ装置12は、光源装置13と電気的に接続され、電子内視鏡システム10の動作を統括的に制御する。プロセッサ装置12は、ユニバーサルコード17や挿入部14内に挿通された信号ケーブル25(図2参照)を介して電子内視鏡11に給電を行い、先端硬質部31に搭載された撮像装置26(図2参照)の駆動を制御する。また、プロセッサ装置12は、信号ケーブル25を介して撮像装置26からの信号を受信し、各種処理を施して画像データを生成する。プロセッサ装置12にはモニタ27が接続されている。モニタ27は、プロセッサ装置12からの画像データに基づき観察画像を表示する。
【0025】
挿入部14は、先端面14aから順に、先端硬質部31、湾曲部32、及び軟性部33となっている。図2に示すように、先端硬質部31は、硬質樹脂製の先端部本体35に、軟質樹脂製の先端キャップ30を被せ、先端部本体35とこれに続く湾曲部32の金属製先端筒37をチューブ36により被覆して構成される。湾曲部32は、先端筒37、複数の関節用節輪38aを連結ピン39で連結した節輪ユニット38から構成され、ピン結合部分が所定角度で回転することにより全体が湾曲する。湾曲部32内には、操作部15のアングルノブ21から4本のワイヤ34が挿通されており、これらのワイヤ34がアングルノブ21(図1参照)の回転操作により押し引きされる。この押し引きによって、湾曲部32が上下左右方向に任意角度で湾曲する。これにより、先端硬質部31が体腔内の所望の方向に向けられ、体腔内の被観察部位を撮像装置26で撮像することができる。軟性部33は、操作部15と湾曲部32との間を細径で長尺状に繋ぐ部分であり、可撓性を有している。
【0026】
先端部本体35は硬質樹脂製の円柱体から構成されており、外周面には段部35aが形成される。先端部本体35には軟質樹脂からなる先端キャップ30が固着される。また、段部35aには、湾曲部32の先端筒37が接合される。さらに、先端部本体35の後端側外周面と先端筒37を覆うようにして、軟質樹脂製のチューブ36が先端キャップ30の後端面に接合される。このチューブ36は、湾曲部32の外周面を覆い、操作部15まで連続しており、挿入部14の外周表皮を構成する。
【0027】
図3に示すように、先端面14aには、前記鉗子出口20の他に、観察窓40、照明窓41,42、及び送気・送水ノズル43が設けられる。また、必要に応じて、ウォータジェット噴き出し口やその他のノズルなどが設けられる。図2に示すように、鉗子出口20に連続するように、先端部本体35には出口筒44が取り付けられており、この後端部に鉗子チャンネル19が外嵌される。また、観察窓40の奥には、鏡筒取付孔45が形成されており、この取付孔45に撮像装置26の鏡筒52が取り付けられる。
【0028】
図4に示すように、先端部本体35には、鏡筒取付孔45,出口筒44の他に、ライトガイド取付孔46,47が形成される。ライトガイド取付孔46,47は、図3に示す二つの照明窓41,42に対応する位置に形成される。また、送気・送水ノズル43に対応する位置には、送気チューブ接続筒48及び送水チューブ接続筒49が形成される。また、鏡筒取付孔45の上部には、矩形状の係止穴50が形成される。また、係止穴50の下方で鏡筒取付孔45の周りには撮像装置収納凹部28が形成される。
【0029】
図5に示すように、撮像装置26は、鏡筒52、プリズム53、プリズム保持枠54、カバーガラス55、CCD56、メイン基板57、サブ基板58、ケーブル取付枠(ケーブル取付部材)59、封止樹脂60、信号ケーブル25、ケーブル固定部61から構成される。鏡筒52は撮影レンズ51を有し、プリズム保持枠54にプリズム53と共に、一体的に保持される。
【0030】
プリズム53には、カバーガラス55を介してCCD56が固着される。CCD56はメイン基板57に取り付けられる。このCCD56は、撮影レンズ51及びプリズム53を介して結像される光学画像を光電変換する。メイン基板57とサブ基板58とは、図示しない接続コードを介して接続されており、メイン基板57に取り付けることができなかった部品などがサブ基板58に取り付けられる。サブ基板58は、接着剤を介してメイン基板に取り付けられる。なお、メイン基板57、サブ基板58、プリズム53、プリズム保持枠54は封止樹脂60により一体化され、基板と素線の半田付け部62は封止樹脂60により封止されるので、この封止樹脂60による封入時にメイン基板57とサブ基板58とを接着してもよい。
【0031】
信号ケーブル25は多芯ケーブルから構成される。この信号ケーブル25は、複数の素線65とこれらを束ねたシールド線(図示せず)とこれを覆う外皮66とから構成される。そして、複数の素線65とシールド線はメイン基板57及びサブ基板58に半田付けされる。素線65及びシールド線は、組み付けが容易に行え、且つ信号ケーブル25への押し引き力が素線65などの半田付け部62に直接作用することがないように、余裕を持った長さに形成される。なお、信号ケーブル25の各素線65はサブ基板58及びメイン基板57にそれぞれ接続する代わりに、どちらか一方に直接に接続されるものであってもよい。また、サブ基板58はフレキシブル基板から構成してもよい。
【0032】
図6及び図7に示すように、ケーブル取付枠59は、先端から後端に向けて、係止片69、取付枠本体70、ケーブル取付部71を有する。係止片69は矩形板からなり、先端に抜脱防止用突片69aを有する。
【0033】
図8は、ケーブル取付枠59の先端部本体35への取り付け状態を示している。先端部本体35の上部周面の係止穴50は、矩形状に形成される。この係止穴50は、係止片69よりも少し大きなサイズであり、係止片69は係止穴50に入れられると、このサイズの違いによって、両者の間に水平面での揺動隙間73が形成される。この揺動隙間73の範囲内で、係止片69が水平面内で揺動する。この水平方向での揺動角度θ1は、(第1アングルリングの水平方向のガタによる可動角度)よりも大きく、また(水平方向断面の内蔵物の充填率から算出される干渉の無い可動角度)よりも小さい範囲内で設定される。且つ揺動角度θ1は、鉛直方向に内蔵物が摺動可能な間隙も考慮して設定される。なお、第1アングルリングの水平方向のガタによる可動角度とは、第1アングルリングは垂直方向にのみ回転可能な部材であり、水平方向には回転することのないように規制されるため、水平方向には本来可動するものでは無いが、ここでは、ガタによる可動角度を言っており、極、小さな数値である。
【0034】
図9に示すように、係止穴50は係止片69の厚み寸法よりも大きな高さ寸法を有しており、このサイズの違いによって両者の間に鉛直方向での揺動隙間74が形成される。この揺動隙間74の範囲内で係止片69が係止穴50内で垂直方向に揺動する。この垂直方向での揺動角度θ2は、(第1アングルリングの垂直方向可動角度)−(ケーブル揺動耐久限度角度)よりも大きくなるように設定する。また、周辺部品との干渉を考慮し、干渉しない角度で設定する。
【0035】
抜脱防止用突片69aは、ケーブル取付枠59を先端部本体35の係止穴50に入れたときに、係止穴50の上面からなる揺動規制面50aに係止し、係止穴50からの係止片69の抜け落ちを防止する。この抜け落ち防止は、先端部本体35に湾曲部32の先端筒37を接合する前の先端部本体35へのケーブル取付枠59を仮組み付けする状態で特に有効であり、組み付け作業が容易になる。また、最終的には、湾曲部32の先端筒37が先端部本体35の外周に嵌められて組み付けが完了すると、ケーブル取付枠59が垂直方向に揺動しようとしても、ケーブル取付枠59が先端筒37の内周面に干渉し、それ以上の揺動が制限される。したがって、係止穴50から係止片69が抜けることはなくなる。このように揺動可能でありながら先端部本体35からケーブル取付枠59が抜け出ることがなく、ケーブル取付枠59を先端部本体35に確実に連結することができる。また、余裕を持った長さの素線65によって各基板57,58に接続されるため、信号ケーブル25が押し引きされる場合の押し引きの力は、素線65の半田付け部62やメイン基板57やサブ基板58に伝わることがない。
【0036】
なお、抜脱防止用突片69aを折り曲げてこの折り曲げ角度を調節することにより、揺動規制面50aとの間隔が変更可能になり、ケーブル取付枠59の揺動角度範囲を微調節することができる。
【0037】
図7に示すように、取付枠本体70は、上板70aとこの両側縁に連続する側板70bとにより、横断面がU字形の樋状に構成される。取付枠本体70内には素線65が収納される。このようにケーブル取付枠59を用いて、素線65を保護することができる。取付枠本体70は、後端側のケーブル取付部71に向かうに従い、次第に横断面の面積が小さくなるように絞られる。この絞りは左右方向(X軸)での絞り量が不均一な絞りになっており、X軸方向のオフセット量OFx(図4参照)が設定される。また、図5に示すように、取付枠本体70によって係止片69とケーブル固定部61とはY軸方向で段差ができており、Y軸方向のオフセット量OFy(図4参照)が設定される。
【0038】
これらオフセット量OFx,OFyによって先端部本体35に、鏡筒52及びケーブル取付枠59が取り付けられた状態で、図4に示すように、鏡筒52の光軸CL1と、信号ケーブル25の中心軸CL2とがずれるようになる。したがって、取付枠本体70の形状を変えることにより、X軸方向のオフセット量OFx、Y軸方向のオフセット量OFyを適宜設定することができ、XY軸を含む面内で任意位置に信号ケーブル25を撮影光軸CL1に対してずらして配置することができる。また、取付枠本体70が絞られてケーブル取付部71が構成されることにより、信号ケーブル25のケーブル取付部71への接着やカシメを容易に行うことができる。
【0039】
図7に示すように、ケーブル取付部71は、取付枠本体70の後端と同じ断面形状で形成される。このケーブル取付部71の両側板71bには切欠き71cが形成される。この切欠き71cによって両側板71bは分断され、上板71aのみで連結されて、先端ケーブル挟持片71dと後端ケーブル挟持片71eとなる。これらケーブル挟持片71d,72eは、信号ケーブル25を両側から挟持するようにかしめられ、信号ケーブル25の外皮66に圧着する(図5参照)。
【0040】
図5に示すように、ケーブル挟持片71d,72eの間には、結束糸75及び接着剤76からなる糸巻77が形成される。結束糸75は、信号ケーブル25とケーブル取付部71の上板71aとを接触させた状態で、これらを一体化するように巻回される。そして、ケーブル取付部71と糸巻77によってケーブル固定部61が構成される。このケーブル固定部61によって、信号ケーブル25とケーブル取付枠59との結合強度が高められる。糸巻77を、先端ケーブル挟持片71d及び後端ケーブル挟持片71eで挟むため、湾曲部32による湾曲操作で信号ケーブル25が押し引きされ、この押し引きの力がこのケーブル固定部61に作用しても、結合強度が高められているので、ケーブル取付枠59から信号ケーブル25がずれてしまうことがなく、素線65の半田付け部62の剥がれや破損などの発生が抑えられる。
【0041】
ケーブル固定部61の後端の近くで信号ケーブル25には、保護チューブ80が被覆される。この保護チューブ80は、湾曲部32内の信号ケーブル25を保護する。この信号ケーブル25の先端側の外皮66と、保護チューブ80の先端側の内面は、必要に応じてエッチング処理の一つとしてテトラエッチ処理することが好ましい。このテトラエッチ処理により、その活性面に接着剤81が塗布されるので、両者が強固に接着される。なお、必要に応じて信号ケーブル25のシールド線にはケーブル取付枠59に接触することがないように、非導電性の被覆チューブが被せられる。
【0042】
保護チューブ80は、ケーブル固定部61の後端側に設けたが、これに代えて、ケーブル固定部61も覆うように、保護チューブ80を形成してもよい。この場合には、保護チューブ80でケーブル固定部61が被覆されることにより、湾曲部32の曲げ操作により信号ケーブル25が曲げられる場合に、曲げ力を信号ケーブル25だけでなく保護チューブ80にも分散させることができ、その分だけ信号ケーブル25の曲げによる耐性を向上させることができる。
【0043】
また、取付枠本体70の絞りによるオフセット量OFx,OFyを利用して、湾曲部32の中心軸に対し、鉗子チャンネル19のほぼ対角位置に信号ケーブル25を位置決めすることにより、湾曲部32の湾曲操作による鉗子チャンネル19の湾曲挙動の影響が最も少ない位置に、信号ケーブル25を位置させることができる。したがって、鉗子チャンネル19の信号ケーブル25に対する干渉に起因するストレスが軽減され、その分だけ信号ケーブル25の耐久性が向上し、湾曲部32の断面内で信号ケーブル25や各チューブ類の位置が変わってしまう配列乱れが防止される。これにより、信号ケーブル25へのダメージが少なくなり、信号ケーブル25の破断などの発生が抑えられる。
【0044】
ケーブル取付枠59を用いて信号ケーブル25を先端部本体35に取り付けているので、湾曲操作により湾曲部32が湾曲して信号ケーブル25が曲げられたり、押し引きされるときに、これらの力がケーブル取付枠59を介して先端部本体35に伝えられ、素線65やこの素線65の半田付け部62、基板57,58にはこれらの力が作用することがないので、素線65の断線や半田付け部62の剥離などの発生が抑えられる。
【0045】
ケーブル取付枠59の先端に設けた係止片69を、先端部本体35内の係止穴50に挿入し、これら係止穴50と係止片69との間に揺動隙間73,74を設けているので、ケーブル取付枠59が先端部本体35に対して、X軸方向及びY軸方向で例えば5度程度の範囲で揺動が可能になる。これにより、信号ケーブル25に曲げ力や押し引き力が作用しても、先ず、上記揺動隙間73,74の範囲内で揺動したのちに、曲げや押し引きが行われるので、信号ケーブル25にかかる曲げ力や押し引き力を低減することができ、その分だけ耐久性が向上する。
【0046】
本実施形態では、メイン基板57及びサブ基板58に分けられることにより、撮像装置26をコンパクトにまとめることができ、先端硬質部31の細径化及び短小化が図れる。また、鏡筒52と固体撮像素子56の間でプリズム保持枠54はプリズム53を有し、プリズム53の後端に近接させてサブ基板58が配置されることにより、プリズム53の後端側のスペースを有効利用することができ、先端硬質部31の細径化が図れる。また、プリズム53、メイン基板57、サブ基板58を一体化し、各基板57,58への素線65の半田付け部62を封止樹脂60で封止することにより、防水性を確保することができる。
【0047】
以下、先端硬質部31の組み立て方法について説明する。先ず、ケーブル取付枠59のケーブル取付部71に信号ケーブル25の外皮66を入れて、結束糸75及び接着剤76により、これらを一体化し、ケーブル固定部61を形成する。このケーブル固定部61の形成により、信号ケーブル25とケーブル取付枠59が連結される。そして、必要に応じて、先端ケーブル挟持片71dと後端ケーブル挟持片71eがカシメ治具やペンチなどによりかしめられ、外皮66に密着される。
【0048】
次ぎに、プリズム保持枠54に、鏡筒52、プリズム53、カバーガラス55、CCD56、メイン基板57、サブ基板58を取り付ける。そして、メイン基板57及びサブ基板58に対して、信号ケーブル25の各素線65を半田付けする。このとき、各素線65は余裕を持って取付枠本体70内に収納されるように長めに形成する。
【0049】
次ぎに、半田付け部62を含むプリズム53、プリズム保持枠54、メイン基板57、サブ基板58を封止樹脂60にて一体化する。このようにして、ケーブル取付枠59により信号ケーブル25が接続された撮像装置26を形成する。
【0050】
撮像装置26は、先端部本体35に取り付けられる。まず、ケーブル取付枠59の係止片69を、先端部本体35の係止穴50に挿入する。この後に、湾曲部32の先端筒37を先端部本体35の外周面に被せる。これにより、先端筒37で係止穴50が覆われ、しかも先端筒37の内周面にケーブル取付枠59が干渉するため、係止穴50から係止片69が脱落する程の揺動が規制される。したがって、ケーブル取付枠59は、先端部本体35に係止片69及び係止穴50を介し揺動自在に連結される。次ぎに、先端キャップ30やチューブ36が先端部本体35や湾曲部32などに被せられ、組み付けが終了する。このように、係止穴50に係止片69を入れることで、信号ケーブル25を先端部本体35に簡単に取り付けることができ、撮像装置26の先端硬質部31への組み付けが容易になる。
【0051】
使用に際しては、操作部15のアングルノブ21を回転操作し、先端筒37の内周面に周方向に90度間隔で4本配置されているワイヤ34を介して先端筒37を引っ張ることで、湾曲部32を所望の方向に所望の湾曲度合いで湾曲させることができる。この湾曲によって信号ケーブル25が押し引きされると、先ず、係止穴50と係止片69との揺動隙間73,74によるケーブル取付枠59の揺動によって、これらの押し引きの力が軽減される。また、ケーブル固定部61から信号ケーブル25が曲げられるが、この曲げ力もケーブル取付枠59と先端部本体35との揺動によって軽減される。したがって、信号ケーブル25の押し引き力や曲げ力に起因する信号ケーブル25の断線の発生が抑えられる。また、押し引き力はケーブル取付枠59を介して先端部本体35に作用し、素線65や半田付け部62、基板57,58などに作用することがないので、湾曲部32の湾曲操作に起因する素線65の断線や半田付け部62の破損の発生が無くなる。
【0052】
なお、上記実施形態では、係止部及び係止受け部としての係止片69及び係止穴50を矩形状に形成したが、これらの形状は矩形に限らず、他の三角形や半円形、半楕円形、さらには円形や楕円形であってもよい。また、板状部材に限らず、ケーブル取付枠を水平方向及び垂直方向に僅かに揺動可能にできるものであればよく、軸や球状の係止部であってもよい。また、係止受け部は、係止穴に限られることなく、係止部を揺動自在に係止することができるものであればよく、突起や係止ピンなどで構成した受け部としてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 電子内視鏡システム
11 電子内視鏡
14 挿入部
25 信号ケーブル
26 撮像装置
31 先端硬質部
32 湾曲部
40 観察窓
50 係止穴
51 撮影レンズ
52 鏡筒
53 プリズム
54 プリズム保持枠
56 CCD
57 メイン基板
58 サブ基板
59 ケーブル取付枠
60 封止樹脂
61 ケーブル固定部
65 素線
66 外皮
69 係止片
70 取付枠本体
71 ケーブル取付部
77 糸巻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察窓、前記観察窓に対面する位置に形成されている鏡筒取付孔を有する先端部本体と、
前記鏡筒取付孔に取り付けられるレンズ鏡筒と、
前記レンズ鏡筒を介して結像される光学画像を光電変換する固体撮像素子と、
前記固体撮像素子が取り付けられる基板と、
前記基板と電気的に接続される複数の素線及びこれを覆う外皮からなる信号ケーブルと、
一端に係止部、他端に前記信号ケーブルの外皮が固着されるケーブル固定部を有するケーブル取付部材と、
前記鏡筒取付孔に近接して前記先端部本体に形成され、前記係止部を揺動自在に保持する係止受け部と
を備えることを特徴とする内視鏡。
【請求項2】
前記係止部は板状の係止片からなり、
前記係止受け部は、前記係止片よりも揺動隙間分だけ大きいサイズで形成され、前記係止片が入れられる係止穴からなることを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項3】
前記係止穴は、前記ケーブル取付部材の揺動時に、前記係止片の先端上面が当接する揺動規制面を有することを特徴とする請求項2記載の内視鏡。
【請求項4】
前記先端部本体の外周面に取り付けられる先端筒を有する湾曲部を備え、前記先端筒により前記係止穴を覆うことを特徴とする請求項3記載の内視鏡。
【請求項5】
前記鏡筒と前記撮像素子の間にプリズムを有し、
前記プリズムの後方に周辺素子を搭載した基板を有し、前記基板は、前記ケーブル取付部材により覆われることを特徴とする請求項4記載の内視鏡。
【請求項6】
前記ケーブル取付部材は、上板の両端に側板が連接され横断面がU字形の樋状の取付枠であり、先端に前記係止片が、後端に前記ケーブル固定部が形成され、前記取付枠内に前記素線が収納されることを特徴とする請求項5記載の内視鏡。
【請求項7】
前記取付枠は、先端から後端に向かうに従い前記樋方向に直交する横断面の断面積が次第に小さくなるように絞られ、この絞りにより前記先端部本体に取り付けられる前記鏡筒の光軸と、前記ケーブル取付部材に固定される信号ケーブルの中心軸とをオフセットさせることを特徴とする請求項6記載の内視鏡。
【請求項8】
前記ケーブル固定部を、先端ケーブル挟持部、上板、後端ケーブル挟持部からなるケーブル取付部と、前記先端ケーブル挟持部及び後端ケーブル挟持部の間で、前記上板と前記信号ケーブルの外周とを結束糸の巻回と接着剤とにより一体化した糸巻とから構成することを特徴とする請求項7記載の内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−170765(P2012−170765A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38181(P2011−38181)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】