説明

内部加熱によりタンパク質含有食品を連続的に製造する方法

【課題】内部加熱方式を用いて、畜肉、鶏肉、水産物、卵、植物等のタンパク質を主原料とする加熱成型されたタンパク質加工食品を連続的に安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】タンパク質と脂質と水分を含有する混合物であり、流動性を有する該混合物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品の製造において、加熱前の該混合物中に加熱前の混合物の温度で固形状態を保持する固形油脂を含有させることを特徴とするタンパク質加工食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内部加熱方式を用いて、被加熱物を連続的に加熱する方法を用いた、畜肉、鶏肉、水産物、卵、植物等のタンパク質を主原料とする加熱成型されたタンパク質加工食品の製造方法に関する。加熱により不可逆的なゲルを形成する物質原料を内部加熱方式により連続的に、しかも安定的に加熱筒体から加熱押出成形を行う製造方法及びその方法で得られた製造物に関する。加熱方法として内部加熱方法であるジュール加熱やマイクロ波加熱、高周波加熱を用いる発明である。
【背景技術】
【0002】
食品加工における加熱工程は、その対象物の種類や目的にかかわらず、対象物に質的な変化をもたらし、その性質を決定する重要な処理の1つであり、種々の加熱方法が知られているが、その方法は、外部加熱(直接加熱、間接加熱)と内部加熱(自己発熱)に分類される。内部加熱方式に分類される代表的なものとして、ジュール加熱やマイクロ波加熱・高周波加熱がある。
【0003】
ジュール加熱は例えば、ジュース、ソース、ケチャップ、マヨネーズ等の流動性のある食品の殺菌や内在酵素失活等の目的で利用されている(特許文献1〜4等)。畜産練り製品の製造においてジュール加熱で予備加熱した後、成型し、成型されたものをさらにジュール加熱する技術が開示されている(特許文献5)。また、竹輪、さつま揚げ、カニ風味カマボコ等の練り製品の製造においては、成型後の練り肉の加熱にジュール加熱を利用するもの、あるいは、成型前の練り肉の予備加熱にジュール加熱を利用するものなどがある(特許文献6〜9等)。
【0004】
マイクロ波加熱は電子レンジとして広く普及している。特許文献10、11には、マイクロ波加熱を用いて皮なし練り製品を加熱成型する方法が開示されている。
高周波加熱はマイクロ波加熱と同じ原理であるが、周波数の小さい加熱方式である。
【0005】
ミンチ肉の加工品として知られているソーセージには、魚肉の練り肉と副原料を混合し、ケーシングに充填し加熱した魚肉ソーセージや、羊腸など、可食ケーシングに練り肉を充填し、燻製などにされ、加熱して食する畜肉のソーセージなどがある。いずれも、ケーシングなど成型してから、加熱処理される食品である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5−33024号
【特許文献2】特許4143948号
【特許文献3】特許4065768号
【特許文献4】特開2003−289838号
【特許文献5】特開2002−142724号
【特許文献6】実開平5−20590号
【特許文献7】特開平9−121818号
【特許文献8】特許3179686号
【特許文献9】特許3614360号
【特許文献10】特開昭55−48371号
【特許文献11】特開2003−325138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ソーセージのような加熱成形工程を経て製造する熱凝固性タンパク質加工食品を連続生産することを課題とする。加熱により凝固する加工食品には、例えば畜肉や魚肉等を原料としたもの、卵や乳タンパク質等を原料にしたもの、さらには大豆タンパク質等の植物タンパク質を原料としたものがあり、従来はそれぞれ異なる加熱加工方法により製造されていた。
畜肉のひき肉や水産物のすり身など流動性のある原料を加熱加工する場合、加熱工程の前に最終製品形状を決定する成形工程が必須である。つまり、成形工程と加熱工程はそれぞれ独立した工程として存在するため、製造工程が煩雑となり、製造効率の低下要因ともなっている。例えば、畜肉又は水産物由来肉をミンチ状にして、練り肉として加工する食品の場合、竹輪やカマボコのように棒や板などの練り肉を支えるものの上に成型したり、ソーセージのようにケーシングに充填したりするなど、製品を個別に成型する必要がある。
そのため、上記加工食品を筒体内部で加熱しながら押し出す形式の連続生産を試みても、畜肉又は水産物由来肉などに含まれる、主には筋原繊維由来の塩溶性タンパク質が加熱変性により微細網状構造を有するゲルを形成する結果、その流動性を失い、さらに加工機器に付着することで流路を塞ぐために、加工対象物自身の自己流動性に依存した方法で加工対象物を連続的に移動させながら加熱加工することは困難であった。背景技術の欄に記載したようにジュール加熱やマイクロ加熱を用いて連続的に加熱成型する方法も報告されているが、実用的に安定した生産ができるものではなかった。
本発明は、そのような畜肉や水産物由来肉のようなタンパク質を主原料とした加熱成形食品を連続的に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
食品製造工程において、「加熱」は加工対象物に様々な性質や特徴を付与する非常に重要な工程である。そのため、加工対象物の用途や目的に応じて様々な加熱方式を使い分けることで製造の効率化や商品の高品質化や差別化等が可能となる。
畜産や水産加工品の成形性の付与や向上のために、ジュール加熱やマイクロ波加熱、高周波加熱等の内部加熱を用いて、40〜50℃付近の低温での一次加熱をしている例がある。そのような場合、加熱域内では被加熱物は自己流動性を保持しており、その自己流動性を利用して、例えばポンプ等で被加熱物を連続的に移送しながら内部加熱を行うことは可能であった。しかしながら、被加熱物中に含まれている動物性塩溶性タンパク質が加熱変性してゲル化する温度帯以上、つまり最終製品のための加熱工程においては、被加熱物の自己流動性を利用した連続的な内部加熱加工により品質に優れた製品を製造するのは困難であった。
畜肉又は水産物由来肉を主成分とする食品材料、特にこれらに含まれる筋原繊維タンパク質、主にはミオシンやアクトミオシン等の塩溶性タンパク質は加熱によりその構造が不可逆的に変化し、微細な網状構造を有する強固なゲルに変換する。そのため、筒体の中では容易に目詰まりが生ずる。
【0009】
本発明者らは、内部加熱方式を用いたタンパク質加工食品の製法について検討するなか、原料として固形油脂を含有させることにより、優れた効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
内部加熱方式により、筒内の原料を70〜120℃のようなタンパク質が加熱変性してゲル化する温度帯において加熱すると、ゲル化により流動性を失った被加熱物が流路を塞ぎ、筒内は蒸気の開放経路が塞がれているため筒内圧力が高まり、蒸気と被加熱物が一気に噴出するフラッシュ現象が発生し、加熱物の安定吐出は不可能であった。ここで、筒体と被加熱物の間にすべりを滑らかにする潤滑剤を存在させれば、加熱物の安定吐出が可能となることを見出した。
【0010】
本発明は、(1)〜(6)のタンパク質加工食品の製造方法、及び(7)〜(11)のタンパク質加工食品を要旨とする。
(1)タンパク質と脂質と水分を含有する混合物であり、流動性を有する該混合物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品の製造において、加熱前の該混合物中に加熱前の混合物の温度で固形状態を保持する固形油脂を含有させることを特徴とするタンパク質加工食品の製造方法。
(2)固形油脂の融点が加熱前の混合物の温度よりも7℃以上高い食用油脂である(1)のタンパク質加工食品の製造方法。
(3)固形油脂の融点が15℃以上の食用油脂である(1)のタンパク質加工食品の製造方法。
(4)混合物中の固形油脂の含有量が2重量%以上である(1)ないし(3)いずれかのタンパク質加工食品の製造方法。
(5)内部加熱方式がマイクロ波加熱、ジュール加熱、又は高周波加熱である(1)ないし(4)いずれかのタンパク質加工食品の製造方法。
(6)加熱が被加熱物の中心温度が70〜120℃になるような加熱であることを特徴とする(1)ないし(5)いずれかのタンパク質加工食品の製造方法。
(7)(1)ないし(6)いずれかの製造方法で製造されたタンパク質加工食品。
(8)タンパク質加工食品のタンパク質原料が、魚肉、魚卵、畜肉、鶏肉、鶏卵、豆類のいずれかである(7)のタンパク質加工食品。
(9)タンパク質加工食品が、原料中に2〜35重量%の脂質を含むものであることを特徴とする(7)又は(8)のタンパク質加工食品。
(10)タンパク質加工食品の原料が、筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を主成分として含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、副原料を添加し練り上げたものであり、混練物中に2〜35重量%の脂質を含むものであることを特徴とする(9)のタンパク質加工食品。
(11)タンパク質加工食品がケーシングを有さないハム・ソーセージ類である(10)のタンパク質加工食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のタンパク質加工食品の製造方法では、原料に含ませた固形油脂が、筒体内での加熱中、被加熱物と筒体の間に適量の液状油として発生し、潤滑油として機能する。そのため、加熱によりゲル化した被加熱物が筒内を塞いでしまうことなく、円滑に吐出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は内部加熱方式としてマイクロ波加熱を用いる際に用いるマイクロ波加熱装置の一態様を示す模式図である。
【図2】図2は内部加熱方式としてジュール加熱を用いる際に用いるジュール加熱装置の一態様を示す模式図である。
【図3】図3は加熱筒体を垂直に設置し、加熱成形する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、「タンパク質加工食品」とは、たんぱく質と脂質と水分を含有する食品であって、未加熱のタンパク質を含有する原料とその他の原料を混合して、タンパク質の凝固温度以上で加熱することにより、タンパク質が加熱変性することによりゲル化して製造される食品である。具体的には、魚肉ソーセージのようなタンパク質が加熱凝固してできる食品のことである。
畜肉又は水産物由来肉を主成分とし、これに任意の食品素材を添加して混練した混練肉を加熱して得られる加工品は畜産ならびに水産加工品として一般的であり、ハム・ソーセージ類やハンバーグ、ミートローフ、練り製品はその例である。これらの加工品を工業的に製造する場合、任意の型やケーシングに充填することも含めた成形工程と加熱工程が独立した二つの工程により行われていた。
【0014】
魚肉ソーセージは魚肉すり身に食塩、砂糖などの調味料、香辛料、澱粉、植物油等の副原料を混合し、ペースト化して合成樹脂製のケーシングに充填し、レトルト加熱して製造されるが、このペーストをケーシングに充填するのではなく、筒体の中を移動させながら加熱凝固させて製造する。その結果、ケーシングを使用しない魚肉ソーセージが連続的に製造することが可能である。
魚肉ソーセージに限らず、タンパク質を含有する液状からペースト状の物性を有する原料を加熱凝固して製造するタンパク質加工食品であれば、いずれもこの方法によって製造することができる。
【0015】
農林水産省の定める「魚肉ハムおよび魚肉ソーセージ品質表示基準」(制定 平成12年12月19日農林水産省告示第1658号。最終改正 平成20年農林水産省告示第1368号)の「普通魚肉ソーセージ」の定義では、魚肉ハムとは、「(1)魚肉(鯨その他魚以外の水産動物の肉を含む。以下同じ。)の肉片を塩漬けしたもの(以下「魚肉の肉片」という。)又はこれに食肉(豚肉、牛肉、馬肉、めん羊肉、山羊肉、家と肉又は家きん肉をいう。以下同じ。)の肉片を塩漬けしたもの、肉様の組織を有する植物性たん白(以下「肉様植たん」という。)若しくは脂肪層(肉様植たん又は脂肪層にあっては、それぞれ、おおむね5g以上のものに限る。)を混ぜ合わせたものにつなぎを加え若しくは加えないで調味料及び香辛料で調味したもの又はこれに食用油脂、結着補強剤、酸化防止剤、保存料等を加えて混ぜ合わせたものをケーシングに充てんし、加熱したもの(魚肉の原材料に占める重量の割合が50%を超え、魚肉の肉片の原材料に占める重量の割合が20%以上であり、つなぎの原材料に占める重量の割合が50%未満であり、かつ、植物性たん白の原材料に占める重量の割合が20%以下であるものに限る。)(2)(1)をブロックに切断し、又は薄切りして包装したもの」とある。
また、魚肉ソーセージは「(1)魚肉をひき肉したもの若しくは魚肉をすり身にしたもの又はこれに食肉をひき肉したものを加えたものを調味料及び香辛料で調味し、これにでん粉、粉末状植物性たん白その他の結着材料、食用油脂、結着補強剤、酸化防止剤、保存料等を加え若しくは加えないで練り合わせたものであって、脂肪含有量が2%以上のもの(以下単に「練合わせ魚肉」という。)をケーシングに充てんし、加熱したもの(魚肉の原材料に占める重量の割合が50%(パーセント)を超え、かつ、植物性たん白の原材料に占める重量の割合が20%以下であるものに限る。特殊魚肉ソーセージの項において同じ。)、(2)(1)をブロックに切断し、又は薄切りして包装したもの」とされている。
本発明において「魚肉ハムおよびソーセージ類」とはこの定義の魚肉ハムおよびソーセージを包含するものであるが、魚肉を30重量%以上含有し、脂肪含有量を2重量%以上含有する原材料を練り合わせたものを加熱加工したものを含む。また、ケーシングに充填せずに加熱した、ケーシング無しのものである。
【0016】
本発明において「タンパク質加工食品」とは、畜肉、水産物の他に、卵タンパク、乳タンパク、植物タンパクを主原料とするものも含む。いずれも、加熱によりタンパク質が加熱凝固する点では同じであり、同じ方法で加工食品とすることができる。
タンパク質原料以外の原料は目的に応じて、何を含んでもよい。原料の混合物は、液体状から固体状までどんな状態でもかまわないが、少なくとも原料の時点では筒体に送り込める程度の流動性があればよい。
【0017】
本発明で用いる内部加熱方式とは、マイクロ波加熱、ジュール加熱、高周波加熱などの加熱方式である。食品製造工程において原料や製品を加熱する方法は、外部加熱方式(直接加熱、間接加熱)と、内部加熱方式に分類される。外部加熱方式は被加熱物を目標の温度まで加熱するために目標温度より高い温度の加熱媒体(熱煤)が必要である。つまり、被加熱物と熱媒の間で熱エネルギーを移動させるための温度差が必要となり、被加熱物の一部は加熱目標温度より高温になることは避けられない。このため、外部加熱装置での加熱は過加熱を避けるため、加熱温度や時間の調整、あるいは被加熱物の攪拌等が必要である。これに対して、内部加熱方式であるジュール加熱やマイクロ波加熱は被加熱物の自己発熱を利用して加熱する。そのため、以下の特徴が知られている。
1)熱媒がないため設定した温度以上の加熱がない。
2)被加熱物の温度制御は電気的制御によるため、正確な温度調整が可能である。
3)食品の粘度に関係なく加熱が可能である。また、熱伝導の低い液体も急速な加熱が可能である。
4)固形物入り食品も均一な加熱が可能である。
5)均一かつ迅速な加熱が可能である。
【0018】
ジュール加熱とは、通電加熱とも呼ばれる内部加熱方式の一つである。食品など被加熱物に直接通電して、被加熱物の電気抵抗により発熱させる方法である。流動性を有する食品を連続加熱するためのジュール加熱の装置は特許文献1〜4などに開示されているような装置を利用することができる。基本的には、絶縁性の筒体とその筒体に対をなして電極が設けられた電極を有し、電極は電源に接続されたものがジュール加熱装置であり、この筒体に連続的に被加熱物を送り込めるようにポンプを接続し、加熱された食品を受ける受け皿あるいは冷却部があれば本発明の製造方法に用いることができる装置となる。流動性のある食品を筒体中でジュール加熱する場合でも筒体の内部に食品が焦げ付かないための工夫や、温度管理をするために温度センサーを設けるような技術も知られている。本発明においてもこれら技術を利用することができる。
例えば、電圧150〜400V、電流10〜30A程度の装置を使用することができる。
【0019】
マイクロ波加熱とは、高周波により被加熱物に含まれる水分子などの電気双極子を激しく振動させることによって加熱をする方法で、その原理は家庭用の電子レンジに応用され、広く普及している。マイクロ波加熱の装置は特許文献10〜11に開示されている装置を利用することができる。基本的には、高周波透過性のある、例えばフッ化樹脂性の加熱筒体とその筒体部分に高周波を照射する装置から成り、この筒体に連続的に食品原料を送り込めるようにポンプを接続し、加熱された食品を受ける受け皿あるいは冷却部があれば本発明の製造方法に用いることができる装置となる。
例えば、2450Hz、200V、20A程度の装置を使用することができる。
高周波加熱はマイクロ波加熱よりも周波数の低い電磁波を用いる加熱方式であるが、装置や理論はマイクロ波加熱と基本的に同様のものを使用することができる。
【0020】
本発明において「筒体」とは、その内部に被加熱物を通すことができ、内部加熱、すなわち、マイクロ波・高周波を透過し、電気的な絶縁性を有し、さらに加熱耐性を有した素材が好ましい。加えて、被加熱物が付着しにくい合成樹脂、シリコン樹脂、フッ化樹脂、それらの素材で表面加工した筒が好ましい。筒の直径は加熱方法や加熱エネルギーによるが、マイクロ波加熱の場合、本発明に使用する原料素材のマイクロ波半減深度は深くないためは直径40mm以内、好ましくは30mm以内の直径の筒が望ましい。高周波加熱は、マイクロ波と比較して電磁波の半減深度が深いので、太い幅の筒体でも可能である。形状は円筒よりもむしろ、四角柱が好ましい。ジュール加熱では、マイクロ波と加熱原理が異なるため、理論的には加熱電極の大きさに依存し、直径200mmでも可能である。筒体の長さは、被加熱物の内部移動速度と必要到達温度を勘案した長さに調節する。
加熱筒体部分の外側には、内部加熱方式の加熱装置を配置する。例えば、図1に示すマイクロ波加熱や図2に示すジュール加熱の装置である。
【0021】
本発明では、タンパク質と脂質と水分を含有する食品原料を混合する。得られた原料混合物は必要に応じて脱気処理を行い、送りポンプ等の搬送装置にて連続的に移送され、移送しながらジュール加熱やマイクロ波加熱・高周波加熱、もしくはそれらの加熱方法の組み合わせにより混合物中心温度を70℃以上120℃以下の範囲で任意に設定した温度まで昇温加熱が行われる。加熱筒体中で形成されたゲルは連続的に押し出され、加熱成形された加工品が得られる。加熱温度が70℃以下ではタンパク質の加熱変性が充分ではなく良好な物性を持ったゲルが得られない。また、120℃以上ではゲルは形成するが、高温の影響でゲル構造がダメージを受け、ゲル強度が低下する。
【0022】
本発明では、この原料に添加する脂質として固形油脂を用いることを特徴とする。液状油脂でも一定の効果があるが、原料にタンパク質を含むため、液状油脂を用いると油脂が乳化し、潤滑油としての効果が弱くなる。固形油脂を固形油脂のままで分散・混合させると、加熱成形させる際に、筒体内壁周辺部にある固形油脂が溶融し、潤滑油として機能する。
固形油脂は、加熱前の原料混合物の温度より融点の高いものを選択する。実際には、加熱前の原料混合温度よりも7℃以上高い融点を有する食用油脂であれば、攪拌中に溶けてしまうことはない。例えば、魚肉を原料とする場合、タンパク質変性防止の観点から通常15℃以下の温度で混合を行う。混合温度が15℃の場合、融点が22℃以上の油脂を用いればよいし、混合温度が8℃の場合、融点が15℃以上の油脂を使うことができる。融点があまり高いと出来上がった食品の舌触りが悪くなるので、具体的には、融点が15〜70℃程度の固形油脂を用いるのが好ましい。特に好ましくは、15〜45℃の融点の油脂である。添加量は原料混合物中の固形油脂の含有量が2〜20重量%が好ましい、特に好ましくは、5〜10重量%である。種々の融点の固形油脂を混合して用いても、また、液状油脂と混合して用いても良い。タンパク質加工食品全体として固形油脂及びその他の脂質を合計2〜35重量%含有するのが好ましい。畜肉、魚肉を主原料とする混練肉中に脂質を均等に分散させる。脂質添加量は少ないと加熱ゲルの移送性が得られず、多すぎるとゲル形成が阻害される。好ましくは、5〜20重量%である。
【0023】
本発明により、畜肉又は水産物由来肉などタンパク質を主成分とし、これに任意の食品素材を添加して混練した混練肉中に固形油脂を含む脂質を添加することにより、混練肉が加熱によってゲル化した後も、加熱ゲル中に脂質が保持されるとともに、一部の脂質が放出され、放出された脂質の潤滑作用により、加熱筒体内壁と加熱ゲルとの移動摩擦を低減せしめ、結果として加熱ゲルの円滑な移送性を維持することが可能である。
【0024】
畜肉又は水産物由来肉に含まれる筋原繊維を構成する塩溶性タンパク質は塩を添加することで溶解する性質を持っている。この塩溶性タンパク質は繊維状のタンパク質であり、構造中に疎水基と親水基を持つため、乳化作用を有している。このため、塩を加えて充分に擂潰した練り肉に脂質を添加して混練すると、均一な乳化物が得られる。
加熱によるゲル化とは塩で溶解した塩溶性タンパク質が加熱によりその立体構造が変化し、三次元的に複雑に絡み合い、微細な網目構造を形成する現象である。加熱によりその立体構造が変化した塩溶性タンパク質は同時に乳化性も低下し、塩溶性タンパク質は乳化した脂質を一度は解放するが、同時に形成される微細網目構造中にその脂質を取り込み、構造中に保持する。また、微細網目構造中の外に放出された脂質は、それ自身が潤滑油として機能する。そのため、ゲル化した塩溶性タンパク質と加熱装置内壁の動摩擦抵抗を低減させ、移送性を向上し、さらに機器への付着性も低減する。
本発明では、この脂質の少なくとも一部を固形油脂にすることにより、より潤滑油としての機能を確実にすることができるのである。
【0025】
本発明の方法は、内部加熱方式で加熱するときに、加熱筒体を垂直もしくは、略垂直(15度以内の傾き)に設置し、該混合物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱成型を行う方式(垂直方向吐出方式)と併用することでより一層安定した製造を行うことができる。すなわち、図3に示すように加熱筒体を設置して製造を行う方式で加熱する。
垂直方向吐出方式を用いることで、加熱時に筒体内で発生する蒸気は筒体内を煙突と同様に重力方向と逆、つまり上部に移動する。さらに被加熱物も筒体内を上部に移動するため、内部で発生した蒸気と被加熱物の移動方向が一致する。その結果、蒸気の内部滞留も生ずることなく、安定した被加熱物の吐出が可能となる。また、加熱筒体壁面に沿って上昇する蒸気は筒体壁面と被加熱物との動摩擦抵抗を軽減せしめ、被加熱物の円滑移動を補助する機能をも有している。
加えて、垂直方向吐出方式を用いることで加熱筒体内の被加熱物は、重力により加熱筒体の長軸長に比例した自重を常に受け、内部圧力が高まることとなる。このため、原料に含まれる水の沸点が高まり、常圧よりも高温まで安定して加熱できる。さらに、加熱により加熱筒体内で発生する蒸気や被加熱物が加熱膨張することを抑制し、安定した被加熱物の吐出に寄与する結果となる。
垂直方向吐出方式と併用する場合、本発明は、「タンパク質と脂質と水分を含有する混合物であり、流動性を有する該混合物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品の製造において、加熱前の該混合物中に加熱前の混合物の温度で固形状態を保持する固形油脂を含有させ、かつ、該筒体を垂直もしくは、略垂直(15度以内の傾き)に設置し、該混合物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱成型を行うことを特徴とするタンパク質加工食品の製造方法。」である。
【0026】
本発明の製造方法は魚肉・畜肉ソーセージを例にすると、以下のような手順で実施することができる。
筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、これをサイレントカッター等の混練機に供し、充分に細断する。この際の温度はなるべく低温を維持し、10℃程度が望ましい。これに塩を添加し、原料に含まれる筋原繊維由来の塩溶性タンパク質の溶解を充分に行う。この後に、必要に応じて澱粉、植物タンパク質、香辛料、調味料、乳化剤等を加え、さらに混練肉の2〜35重量%の脂質を加える。脂質は植物油、硬化油、豚脂、牛脂等、食用に値する脂質を用いても良いし、もともとの畜肉又は水産物由来肉が含有する脂質を利用しても良いが、一定量の固形油脂を加える。脂質添加後、さらに充分に混練し、添加した脂質を均等に分散、乳化させる。このとき、固形油脂は固形のまま拡散する温度条件で行う。混練の際に必要に応じて脱気処理を行う。
この混練肉を送肉ポンプ等で加熱筒体へ連続的に送り込みながら、70℃以上120℃以下の温度帯で所望の温度までジュール加熱やマイクロ波加熱・高周波加熱、もしくはそれらを組み合わせた加熱を行うが、例えば最初に30℃まで加熱した後、所望の温度まで加熱するという二段加熱、また、必要に応じて複数段階の加熱、さらに加熱時の昇温速度の調整も可能であり、最適の物性を得るために自由に調整することが出来る。
加熱によってゲル化した混練肉は、含有する脂質により、移送性を失わずに加熱装置から連続的に加熱成形されて押し出され、所望の加工品が連続して得られる。
畜肉又は水産物由来肉としては、魚介類のすり身、落し身や、畜肉のミンチなどが利用できる。本発明により、種々の直径のソーセージを容易に連続生産することができる。
【0027】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
表1の配合により魚肉ソーセージの練り肉を調製した。固形油脂は表2に示した油脂を使用した。練り肉中の油脂は、表3に示した添加量で、液状油脂((株)J−オイルミルズ社製、菜種白絞油)と固形油脂を組み合わせて用いた。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
(株)廣電製の連続マイクロ波加熱装置を用いて、加熱温度は吐出された被加熱物の中心温度が85℃となるように、マグネトロンの出力を調整した。マイクロ波加熱の連続処理では、筒体の外周に金属壁で三つに区分けされたそれぞれの区画にマイクロ波発生装置(マグネトロン)が120度の位相で装着されたマイクロ波加熱装置を用いた(図1)。練り肉を加熱するための筒体は直径23mmのフッ化樹脂性管を用いた。
【0033】
結果を表3に示した。吐出安定性はマイクロ波加熱により、魚肉ソーセージが安定して製造できるかどうかにより判断した。○は安定して連続生産が可能であったことを示す。△と×は水蒸気が突出したり、ソーセージが脈動して均一でなかったり、詰まってしまったり、あるいは、一部過加熱になったりしたことを示し、その程度が軽いものとやや重いことを示す。また、品質は、ソーセージの加熱状態の均一性で判断した。
サンプル1や2のように、油脂無添加、あるいは液状油脂のみ添加した場合、吐出が安定しなかったが、サンプル3−5のように固形油脂を2%以上添加すると安定して吐出するようになった。
サンプル6〜12は固形油脂の融点による違いを比較したものである。サンプル6、10のように融点が低い固形油脂では効果が見られなかったが、サンプル7−9、11,12では十分な効果が見られた。融点はその絶対値よりも練り肉の温度との関係が重要であり、サンプル13−15に示すように、同じ融点の固形油脂を用いた場合でも、練り肉の温度が低く、固形油脂が溶けない温度であれば、良好な結果が得られた。サンプル15からは融点より、7℃高いものであれば十分に効果を有することがわかる。
【実施例2】
【0034】
実施例1と同じ練り肉を用いて、イズミフードマシナリー製リング型電極ジュール加熱装置を用いて、被加熱物の中心温度が85℃となるように、電圧と電流を調整して魚肉ソーセージを製造した。使用した機器は筒体に対を成して電極が設けられたタイプの装置である(図2)。マイクロ波加熱同様に、固形油脂を用いることで、円滑な吐出が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
内部加熱は効率的に電気エネルギーを熱エネルギーに転換する特徴があり、これを利用することで、化石燃料消費の削減や地球温暖化ガスの削減も可能ともなり、各種食品加工産業に有用な加熱方法を提供することができる。本発明の製造方法により、従来ケーシングなどに充填して製造していた魚肉ソーセージを始め、各種タンパク質含有食品を連続生産することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と脂質と水分を含有する混合物であり、流動性を有する該混合物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品の製造において、加熱前の該混合物中に加熱前の混合物の温度で固形状態を保持する固形油脂を含有させることを特徴とするタンパク質加工食品の製造方法。
【請求項2】
固形油脂の融点が加熱前の混合物の温度よりも7℃以上高い食用油脂である請求項1のタンパク質加工食品の製造方法。
【請求項3】
固形油脂の融点が15℃以上の食用油脂である請求項1のタンパク質加工食品の製造方法。
【請求項4】
混合物中の固形油脂の含有量が2重量%以上である請求項1ないし3いずれかのタンパク質加工食品の製造方法。
【請求項5】
内部加熱方式がマイクロ波加熱、ジュール加熱、又は高周波加熱である請求項1ないし4いずれかのタンパク質加工食品の製造方法。
【請求項6】
加熱が被加熱物の中心温度が70〜120℃になるような加熱であることを特徴とする請求項1ないし5いずれかのタンパク質加工食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれかの製造方法で製造されたタンパク質加工食品。
【請求項8】
タンパク質加工食品のタンパク質原料が、魚肉、魚卵、畜肉、鶏肉、鶏卵、豆類のいずれかである請求項7のタンパク質加工食品。
【請求項9】
タンパク質加工食品が、原料中に2〜35重量%の脂質を含むものであることを特徴とする請求項7又は8のタンパク質加工食品。
【請求項10】
タンパク質加工食品の原料が、筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を主成分として含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、副原料を添加し練り上げたものであり、混練物中に2〜35重量%の脂質を含むものであることを特徴とする請求項9のタンパク質加工食品。
【請求項11】
タンパク質加工食品がケーシングを有さないハム・ソーセージ類である請求項10のタンパク質加工食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−157330(P2012−157330A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20998(P2011−20998)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】