説明

内部酸化装置およびその装置により製造される銀−酸化物系電気接点材料およびその製造方法

【課題】 内部酸化により酸化物形態が異なる酸化層を複数積層して積層構造とした銀−酸化物系電気接点材料は、酸化物の析出にむらが発生して規則正しい正確な酸化層の積層構造が形成できないという問題がある。
【解決手段】 銀−酸化物系電気接点材料を内部酸化させる内部酸化装置において、プログラム温度制御装置、酸素冷却ユニット、この酸素冷却ユニットに接続されている炉体内に内蔵される加圧管、前記プログラム温度制御装置で制御される炉体のヒータおよび前記プログラム温度制御装置で制御される圧力制御弁を有し、炉体内の温度を前記プログラム温度制御装置により一定温度間における昇温の所要時間と降温の所要時間をほぼ同じ時間で行うようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀−酸化物系電気接点材料の内部酸化を行う内部酸化装置およびその装置により製造される銀−酸化物系電気接点材料およびその内部酸化装置による銀−酸化物系電気接点材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーカ、マグネットスイッチ等の電気接点材料は、環境への影響を考慮してAg−(Sn―In)Ox系等のCdを含まない電気接点材料が利用され、様々な改良がくわえられ、応用分野も多岐にわたっている。
また、内部酸化の工程において、酸化物粒子の分布を均一化するために、酸化温度と酸素分圧の両方またはそのいずれか一方のみを変化させて内部酸化処理を行うことにより酸化物粒子の形状および大きさを調整することにより伝導率を高め、硬度分布を均一化させることが行われている。
このような技術においては、内部酸化法によって製造される接点は、酸素分圧および温度を一定に定め、その条件下で内部酸化することでAgマトリックス中に所定の酸化物を析出させて電気接点としている。
しかしながら、Ag−(Sn―In)Ox系の電気接点材料は、負荷電流の開閉を繰り返すと、蒸気圧の低いSnOやIn等の酸化物がその接点表面に凝縮・堆積し、その結果、接触抵抗が高くなって接点片の温度上昇を招来し、接点特性を著しく変化させることとなる。
そこで、従来の内部酸化法とは異なり、内部酸化時の酸化温度および酸素分圧を変化させながら内部酸化を施すことにより、Ag−酸化物電気接点材料の最大の特徴であるAgマトリックス中における析出酸化物について、その形態が異なる酸化物を複数層積層して積層構造とし、その積層構造によってAgマトリックス中の酸化物の移動を抑制して接点表面への酸化物の凝集を防いだ構造とする技術が開発された(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−152971
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような銀−酸化物系電気接点材料の内部酸化を行うとき、一定の温度と保持時間の内部酸化条件を、差をもたせて周期的に変化させながら内部酸化を施すことで酸化物の析出に変化をもたせて酸化物形態の異なる内部酸化層が形成されるが、通常、内部酸化は入炉したら出炉するまで温度を一定に保持し続けるか段階的に昇温するため、規則正しい形態が異なる酸化物を析出した酸化層の積層構造とはならないものであった。
【0005】
また、炉体を冷やそうとしても炉体は保温性が非常によく、一旦昇温すると降温させるのに長い時間がかかるために、昇温と降温とに費やされる経過時間に差が生じ、それによって、昇温時と降温時との酸化物の析出にむらが発生して規則正しい正確な酸化層の積層構造が形成できないという問題がある。
本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、銀−酸化物系電気接点材料を内部酸化させる内部酸化装置において、プログラム温度制御装置、酸素冷却ユニット、この酸素冷却ユニットに接続されている炉体内に内蔵される加圧管、前記プログラム温度制御装置で制御される炉体のヒータおよび前記プログラム温度制御装置で制御される圧力制御弁を有し、炉体内の温度を前記プログラム温度制御装置により一定温度間における昇温の所要時間と降温の所要時間をほぼ同じ時間で行うようにしたことを特徴とする。
【0007】
また、このような内部酸化装置において、炉体温度のプログラム制御と内部酸化用の炉内に、冷却手段で冷却した酸素を強制的に導入することにより急速に炉内を冷却する構造を有する内部酸化装置としたことを特徴とする。
また、炉体温度のプログラム制御と内部酸化用の炉内に冷却手段で冷却した酸素を導入することにより、内部酸化時の一定温度間における昇温時と降温時の酸化物の析出を同程度にした酸化物形態が異なる酸化層を複数積層して積層構造の電気接点材料としたことを特徴とする。
【0008】
このような本発明によると、一定温度間の昇温に要する時間と降温に要する時間とが同じかもしくはほぼ同じにすることにより、昇温時と降温時における酸化物の析出にむら(違い)が生じることがなく規則正しい酸化物形態の異なる酸化層を積層させることができる。昇温に要する時間と降温に要する時間とを合わせることは、冷めにくい炉内の降温時間を速めることで達成することが可能となるものである。
具体的には、炉内温度を300°C〜850°Cの範囲で、昇温、降温を1サイクル以上繰り返し制御でき、かつ、内部酸化時の酸素分圧を1atm〜50atmの範囲で変化させることが可能な内部酸化装置である。
【0009】
炉内温度を300°C〜850°Cとしたのは、内部酸化温度が300°C以下ではAg合金中を酸素が拡散していくことができず、表面において酸化物の皮膜が生成されるのみで、Agマトリックス中に酸化物を析出することができないためであり、850°C以上では、析出される酸化物が粗大になってしまい、耐溶着性能等の接点性能が損なわれるためである。
【0010】
また、内部酸化時の酸素分圧を1atm〜50atmとした理由は、1atm以下では、酸素がAgマトリックス中を拡散していく速度よりもSnやIn等の金属が拡散する速度が速くなってしまう場合があり、その結果、酸化物が凝集してしまい、所期の形態の酸化物を析出することができないためであり、50atm以上では酸素分圧をあげても大きな接点性能の向上が確認できないためである。
【発明の効果】
【0011】
このようにした本発明は、冷却手段により強制冷却した酸素を炉内に導入することで炉内および炉体を冷却させてプログラムによる炉体温度に設定することを可能にして、一定温度間の昇温に要する時間と降温に要する時間とが短時間でしかも同じかもしくはほぼ同じにすることができ、形態が異なる酸化物の析出にむらの生じない酸化層を規則正しく複数層を形成した積層構造とすることが可能となり、接点性能および耐久性に優れた材料とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施例を図1の構成図を用いて説明する。
図において、1はプログラム温度制御装置、2は酸素冷却ユニット、3は酸素冷却ユニットの温度を一定に保つチラー、4は炉体であり、加圧装置である加圧管5を内蔵し、前記プログラム温度制御装置1で制御されるヒータ6によって加熱される。7は炉内の温度を測定する熱電対である。8は前記プログラム温度制御装置で制御される圧力制御弁、9は定圧開放弁である。
ヒータ6は、プログラム温度制御装置1によって指示温度に昇温もしくは保持される。
加圧管5内は、炉内温度の一定保持もしくは昇温時は圧力制御弁8を閉鎖し、リークした酸素は補充される。
また、炉内に導入される酸素は、酸素冷却ユニット2によって強制冷却される。酸素温度はチラー3により一定温度に保たれている。
炉体温度の降温時は、炉体4内の加圧管5の出力を低下させ、圧力制御弁8を開放して酸素冷却ユニット2のチラー3で一定温度に保たれた酸素を加圧管5内に強制導入して炉内に導入することによって行われ、また、酸素の導入と同時に定圧開放弁9より炉内酸素分圧が指示圧値より下がらないように制御しながら酸素を排気する。
例として、図2に示す300°C〜850°Cを複数回繰り返す工程を説明する。
図3に示す如く、工程Aにより、プログラム温度制御装置1によって、炉体4の出力をあげ、圧力制御弁8を閉鎖して炉内を850°Cに昇温させる。
図4に示す如く、工程Bにより、プログラム温度制御装置1によって、ヒータ6は850°Cで一定になるようにヒータ出力を保持し、圧力制御弁8は閉鎖状態を保つ。この間炉内圧力は指定圧力に保つように、プログラム温度制御装置1によりリークした酸素の補充が行われる。
図5に示す如く、工程Cにより、プログラム温度制御装置1によってヒータ6の出力を絞り、圧力制御弁8を開放して炉内の加圧管5にチラー3により一定の冷却温度に保たれた酸素を酸素冷却ユニット2から導入して強制冷却する。この酸素導入時も炉内酸素分圧が指定圧力を保つように定圧開放弁9で流量を制御しながら排気する。
図4に示す如く、工程Dにより、プログラム温度制御装置1によって、炉体内4は300°Cで一定になるようにヒータ6の出力を保持し、圧力制御弁9は閉鎖状態を保つ。この間も炉内圧力は指定圧力に保つように、プログラム温度制御装置1によりリークした酸素の補充が行われる。
上記の工程を1セットとして複数回繰り返すことにより、電子顕微鏡写真である図8に示す如く、層状に酸化物形態の異なる酸化層が積層されることになる。なお、本例では、昇温・保温・降温・保温の1サイクルを、3時間とした。
このような降温時間の本例を従来の方法での降温時間による積層状態と比較すると、図6、図7に示す結果となり、本例によると、一定温度間における昇温に要する時間と降温に要する時間とが同じかもしくはほぼ同じにすることにより、酸化物の析出にむらが生じることがなく規則正しい酸化物形態の異なる酸化層を積層することができ、従来例では昇温時と降温時とでは経過時間に差があり、酸化物の析出にむらが生じて規則正しい異なる酸化層の積層は得られないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】内部酸化装置の実施例を示す構成図
【図2】工程例を示すフローチャート
【図3】工程Aの説明図
【図4】工程B、Dの説明図
【図5】工程Cの説明図
【図6】本発明の炉内温度測定値の説明図
【図7】従来技術の炉内温度測定値の説明図
【図8】本発明による内部酸化層の電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0014】
1 プログラム温度制御装置
2 酸素冷却ユニット
3 チラー
4 炉体
5 加圧管
6 ヒータ
7 熱電対
8 圧力制御弁
9 定圧開放弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラム温度制御装置、酸素冷却ユニット、この酸素冷却ユニットに接続されている炉体内に内蔵される加圧管、前記プログラム温度制御装置で制御される炉体のヒータおよび前記プログラム温度制御装置で制御される圧力制御弁を有し、炉体内の温度を前記プログラム温度制御装置により一定温度間における昇温の所要時間と降温の所要時間をほぼ同じ時間で行うようにしたことを特徴とする銀−酸化物系電気接点材料の内部酸化装置。
【請求項2】
請求項1において、炉体温度のプログラム制御と内部酸化用の炉内に冷却手段で冷却した酸素を強制的に導入することにより急速に炉内を冷却する構造を有することを特徴とする内部酸化装置。
【請求項3】
請求項1において、一定温度間を300°C〜850°Cの範囲で昇温、降温を1サイクル以上繰り返し制御でき、かつ、内部酸化時の酸素分圧を1atm〜50atmの範囲で変化させることを特徴とする内部酸化装置。
【請求項4】
内部酸化により酸化物形態が異なる酸化層を複数積層して積層構造とした銀−酸化物系電気接点材料において、
内部酸化時の一定温度間における昇温時と降温時の酸化物の析出を同じようにした酸化物形態が異なる酸化層を複数積層して積層構造としたことを特徴とする請求項1記載の内部酸化装置により製造された銀−酸化物系電気接点材料。
【請求項5】
内部酸化時の一定温度間の昇温に要する時間と降温に要する時間とをほぼ同じにして昇温時と降温時の酸化物の析出を同じようにした工程を1セットとし、それを複数回繰り返すことにより酸化物形態が異なる酸化層を積層させることを特徴とする請求項1記載の内部酸化装置による銀−酸化物系電気接点材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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