説明

内部電極用ペーストおよび電子部品の製造方法

電極材粉体と、ポリビニルブチラール樹脂を主成分とするバインダ樹脂と、溶剤とを有する内部電極用ペーストである。その内部電極用ペーストは、可塑剤をさらに含み、前記可塑剤が、前記バインダ樹脂100質量部に対して、25質量部以上150質量部以下で含有する。バインダ樹脂は、電極材粉体100質量部に対して2.5〜5.5質量部で含まれる。内部電極を薄層化したとしても、乾式転写工法に耐え得る強度と接着力を持つ内部電極用ペーストと、それを用いる電子部品の製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサなどのように内部電極を持つ電子部品の製造方法と、その製造方法に用いられる内部電極用ペーストに係り、さらに詳しくは、内部電極を乾式で転写することが可能となる強度と接着力を持つ内部電極用ペーストと、それを用いる電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の小型化により、電子機器の内部に装着される電子部品の小型化および高性能化が進んでいる。電子部品の一つとして、CR内蔵型基板、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品があり、このセラミック電子部品も小型化および高性能化が求められている。
【0003】
このセラミック電子部品の小型化および高容量化を進めるために、誘電体層の薄層化が強く求められている。最近では、誘電体層を構成する誘電体グリーンシートの厚みが数μm以下になってきた。
【0004】
セラミックグリーンシートを製造するには、通常、まずセラミック粉体、バインダ(アクリル系樹脂、ブチラール系樹脂など)、可塑剤(フタル酸エステル類、グリコール類、アジピン酸、燐酸エステル類)および有機溶剤(トルエン、MEK、アセトンなど)からなるセラミックペーストを準備する。次に、このセラミックペーストを、ドクターブレード法などを用いてキャリアシート(PET、PP製の支持体)上に塗布し、加熱乾燥させて製造する。
【0005】
また、近年、セラミック粉体とバインダが溶媒に混合されたセラミック懸濁液を準備し、この懸濁液を押出成形して得られるフィルム状成形体を二軸延伸して製造することも検討されている。
【0006】
前述のセラミックグリーンシートを用いて、積層セラミックコンデンサを製造する方法を具体的に説明すると、セラミックグリーンシート上に、電極材粉体とバインダを含む内部電極用導電性ペーストを所定パターンで印刷し、乾燥させて内部電極パターンを形成する。その後、キャリアシートからグリーンシートを剥離しこれを所望の層数まで積層する。ここで、積層前にグリーンシートをキャリアシートから剥離する方法と、積層圧着後にキャリアシートを剥離する2種類の方法が考案されているが大きな違いはない。最後に、この積層体をチップ状に切断してグリーンチップが作成される。これらのグリーンチップを焼成後、外部電極を形成し積層セラミックコンデンサなどの電子部品を製造する。
【0007】
積層セラミックコンデンサを製造する場合には、コンデンサとして必要とされる所望の静電容量に基づき、内部電極が形成されるシートの層間厚みは、約3μm〜100μm程度の範囲にある。また、積層セラミックコンデンサでは、コンデンサチップの積層方向における外側部分には内部電極が形成されていない部分が形成されている。
【0008】
このような積層セラミックコンデンサにおいて、グリーンシート用ペーストに使用されているバインダは重合度が1000以下(Mw=50,000)のポリビニルブチラール樹脂が使用されることが一般的であった(特開平10−67567号公報参照)。この理由として、積層時におけるセラミックグリーンシートの接着性を十分に確保することと、グリーンシートの表面粗さを低減することと、グリーンシートの可撓性を確保することと、スラリーの粘度を低くすることとが挙げられる。また、可塑剤としては、一般にフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、燐酸エステル類が使用可能とされているが、可塑性を付与するという目的から、沸点および有害性等の観点から選択されてきた。
【0009】
近年、電子機器の小型化に伴い、その中に使用される電子部品の小型化が急激に進行している。積層セラミックコンデンサに代表されるような積層電子部品においては、積層数の増加、層間厚みの薄層化が急激に進んでいる。このような技術動向に対応するために、層間厚みを決定するグリーンシート厚みは、3μm以下から2μm以下になりつつある。また、それに連れて、内部電極層の厚みは1.5μm以下になり、積層数も300層以上になりつつある。
【0010】
このような薄いグリーンシートに対して内部電極を形成する際に、従来の印刷法を用いると、内部電極用ペーストに含まれる溶剤がグリーンシートを溶かしてしまうと言う、いわゆるシートアタックが問題となる。そこで、乾式転写工法が開発されている。
【0011】
乾式転写工法では、まず支持シートとしてのPETフィルム上に剥離層を形成し、その上に内部電極層を印刷する。さらに、内部電極層の厚みによる段差を解消するため、電極が形成されない余白パターン部分には、内部電極層と同じ厚みの余白パターン層を形成する。
【0012】
そして、内部電極層が形成されるPETフィルムとは別のPETフィルム上に、接着性を有する樹脂層(接着層)を形成し、これを内部電極層および余白パターン層上に熱圧着により転写する。そして、樹脂層側のPETフィルムを剥離する。
【0013】
更に別のPETフィルム上に誘電体グリーンシートを形成し、これを樹脂層上に熱圧着により転写する。
【0014】
こうして剥離層・電極および余白パターン層・樹脂層・グリーンシートを一体化し、これを順次積層していくことで、シートアタックのない薄層シートの積層が可能となる。
【0015】
乾式転写法で使用される接着層は0.1μm以下であることが脱脂時のデラミネーションを防止する上で有効である。このような超薄層でも充分な強度や接着力を得るには、ブチラール系の樹脂が極めて有効である。
【0016】
従来の印刷法に使用されてきた内部電極用ペーストは、エチルセルロース系樹脂と金属粉と溶剤とで構成されることが多かった。しかし、エチルセルロース系の樹脂は強度が低く接着力も低いため、乾式転写工法では、工程中での電極層破壊や接着不良を生じやすいという問題があった。
【0017】
また一方で、チップコンデンサの小型大容量化には、誘電体層の薄層化とともに電極層の薄層化・平滑化も必要である。
【0018】
電極の薄層化により一層あたりの金属重量は低下するため、印刷法で内部電極層を形成する際には、金属付着量を少量化する必要が生じる。従来の設備で、印刷ペースト中の金属含有率を下げることにより金属付着量を減らすことは、工程コスト上有利である。しかし、金属比率を下げるために溶剤比率を高めると、ペースト粘度は急激に低下して従来の印刷設備では対応が出来なくなる。
【0019】
また、焼成後の内部電極層の平滑性を高めるためには、グリーンの時点で内部電極層における金属充填密度を高めることが有効である。金属の充填率を高めるためには、その他の成分、例えばバインダ樹脂を減量すればよい。しかしながら、バインダ樹脂を減量する事によって、ペースト粘度は低下する為、高粘度のバインダを使用しなければならない。
【発明の開示】
【0020】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、内部電極を乾式で転写することが可能となる強度と接着力を持ち、内部電極層の金属充填率および平滑性を高めることが可能な内部電極用ペーストと、それを用いる電子部品の製造方法を提供することである。
【0021】
上記目的を達成するために、本発明に係る内部電極用ペーストは、
電極材粉体と、ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂を主成分とするバインダ樹脂と、溶剤とを有することを特徴とする。
【0022】
本発明の内部電極用ペーストには、電極材粉体、バインダ樹脂および溶剤以外に、その他の添加物が含有してあっても良い。
【0023】
極めて薄い内部電極を形成する場合に、内部電極用ペーストのバインダ樹脂として従来一般的なエチルセルロース系樹脂を用いた場合には、そのペーストを乾燥後に形成される内部電極層は接着力が低く、接着層を転写することが非常に困難である。また、接着層を接着できた場合でも、強度が低いために、支持シートとしてのPETフィルムの剥離時に、内部電極層が破壊し易い。
【0024】
本発明では、ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂を内部電極用ペーストに含ませるために、そのペーストにより形成される内部電極層は、強度・接着力ともに高く、接着層の転写が比較的容易である。また、支持シートとしてのPETフィルムの剥離時に、内部電極層の破壊も発生しにくい。
【0025】
本発明の内部電極用ペーストは、可塑剤をさらに含み、前記可塑剤が、前記バインダ樹脂100質量部に対して、25質量部以上150質量部以下で含有する。可塑剤の添加により、支持シートとしてのPETフィルムの剥離力が低減し、剥離作業が容易になる。このような効果を得るためには、可塑剤の添加量は、25質量部以上が好ましい。ただし添加量が150質量部を越えると、そのペーストを用いて形成される内部電極層から過剰な可塑剤が滲み出すため好ましくない。
【0026】
本発明の内部電極用ペースト用いることが可能な可塑剤としては、特に限定されないが、好ましくは、アジピン酸ジオクチル(DOA)、フタル酸ブチルブチレングリコール(BPBG)、フタル酸ジドデシル(DDP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ベンジルブチル(BBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、セバシン酸ジブチルなどが例示される。
【0027】
好ましくは、前記電極材粉体が、前記内部電極用ペースト全体に対して50質量%以下、さらに好ましくは50質量部未満、特に好ましくは48質量部以下で含まれる。例えば電極材粉体の含有率を50質量%から45質量%に低下させることで、ペーストとしての付着量が同じであれば、内部電極厚みは約10%程度低下させることができ、薄層化に寄与する。ただし、電極材粉体の含有率が少なすぎると、ペースト粘度が急激に低下する為に、電極材粉体の含有率は、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは43質量%以上である。
【0028】
内部電極用ペースト中の電極材粉体の含有率を下げるために溶剤の比率を上げると、ペーストの粘度が下がり、ペーストを用いて印刷する時に、にじみ等の問題が発生しやすくなる。バインダ樹脂量を一定のまま、溶剤比率を上げて必要粘度を維持するためには、高粘度の樹脂を使用することが有効である。
【0029】
本発明では、バインダ樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂を用いている。これらの樹脂には、さまざまなグレードがある。本発明では、重合度1400以上のポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂を選択することで、溶剤比率を上げても必要粘度を維持することが可能である。なお、一般的に製造されるポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂の重合度は3600以下である。したがって、好ましくは、前記ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂の重合度が1400〜3600である。ただし、ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂の重合度は、3600以上であってもよい。
【0030】
本発明では、特にポリビニルアセタール樹脂が好ましい。ポリビニルブチラール樹脂に比較して、同じ重合度では、粘度が高いためである。ただし、ポリビニルアセタール樹脂では、アセタール化度を上げると粘度は上がるが、乾燥密度が低下する傾向にある。
【0031】
一般的に製造されるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、50〜74mol%程度である。本発明では、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、好ましくは74モル%以下、さらに好ましくは66モル%以下である。アセタール化度が高くなると、乾燥密度が低下する傾向にあり、焼成後に電極の連続性や平滑性が悪くなる。なお、アセタール化度は、低いほど好ましく、その下限は、50mol%以下であってもよい。
【0032】
好ましくは、前記バインダ樹脂は、前記電極材粉体100質量部に対して2.5〜5.5質量部で含まれる。
【0033】
好ましくは、セラミック粉体をさらに含む。セラミック粉体は、ペースト全体に対して、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは2〜15質量%含まれる。セラミック粉体が少なすぎると、焼成時に誘電体層と電極層のマッチングがとれなくなる傾向にあり、デラミネーションを発生しやすくなる。多すぎると、電極の平滑性や連続性を阻害する。
【0034】
ペースト中にセラミック粉体が含まれる場合において、好ましくは、前記バインダ樹脂は、前記電極材粉体およびセラミック粉体の合計100質量部に対して2.5〜5.5質量部で含まれる。
【0035】
内部電極用ペースト中のバインダ樹脂比率を下げることにより、焼成前の内部電極層の金属充填密度は向上し、焼成後に、内部電極層の平滑性を維持することが可能となる。したがって、バインダ樹脂量は、顔料(電極材料紛体およびセラミック粉体)100質量部に対して5.5質量部以下が好ましい。ただし、バインダ樹脂が少なすぎると強度が低下し、乾式転写工法において内部電極層の破壊等の不具合を生じる。乾式転写工法に充分な強度を得るためには、顔料100質量部に対し2.5質量部以上のバインダ樹脂を必要とする。なお、顔料とは、ペースト中に電極材粉体以外にセラミック粉体を含む場合には、電極材粉体とセラミック粉体の組合せであり、セラミック粉体を含まない場合には、電極材粉体のみを言う。
【0036】
本発明に係る電子部品の製造方法は、
上記のいずれかに記載の内部電極用ペーストを準備する工程と、
グリーンシートを成形する工程と、
前記内部電極用ペーストを用いて内部電極層を形成する工程と、
前記グリーンシートを、内部電極層を介して積層し、グリーンチップを得る工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する。
【0037】
また、本発明に係る電子部品の製造方法は、
上記のいずれかに記載の内部電極用ペーストを用いて、第1支持シートの表面に電極層を形成する工程と、
前記電極層を、グリーンシートの表面に押し付け、前記電極層を前記グリーンシートの表面に接着する工程と、
前記電極層が接着されたグリーンシートを積層し、グリーンチップを形成する工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する。
この方法は、乾式転写工法による電子部品の製造方法である。
【0038】
好ましくは、前記グリーンシートを形成するためのグリーンシート用ペーストに含まれるバインダ樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂を含み、そのポリビニルブチラール樹脂の重合度が1000以上1700以下であり、樹脂のブチラール化度が64モル%より大きく78モル%より小さく、残留アセチル基量が6モル%未満である。
【0039】
グリーンシート用ペーストにおいて、ポリビニルブチラール樹脂の重合度が小さすぎると、薄層化した場合に、グリーンシートとしての十分な機械的強度が得られにくい傾向にある。また、重合度が大きすぎると、シート化した場合における表面粗さが劣化する傾向にある。また、ポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度が低すぎると、ペーストへの溶解性が劣化する傾向にあり、高すぎると、シート表面粗さが劣化する傾向にある。さらに、残留アセチル基量が多すぎると、シート表面粗さが劣化する傾向にある。
【0040】
本発明の電子部品の製造方法において、本発明の内部電極用ペーストには、たとえば焼成後に誘電体層や磁性体層となるグリーンシートを形成するためのペーストに含まれるバインダ樹脂と同じ種類のバインダ樹脂を含有させることが好ましい。このことは、グリーンシート用ペーストのバインダ樹脂としてアクリル系樹脂を用いた場合にも、同様なことが言える。同じ種類のバインダ樹脂を用いることで、脱バインダ工程における条件制御などが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0042】
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図、図2A〜図2Cおよび図3A〜図3Cは電極層の転写方法を示す要部断面図、図4A〜図4C、図5A〜図5C、図6A〜図6C、図7および図8は電極層が接着されたグリーンシートの積層方法を示す要部断面図、図9は本発明の実施例におけるバインダ樹脂の添加量と内部電極層の破断強度との関係を示すグラフ、図10は本発明の実施例における可塑剤の添加量と支持シートの剥離強度との関係を示すグラフである。
発明を実施するための最良の態様
【0043】
まず、本発明に係る電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。
【0044】
図1に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体4と、第1端子電極6と第2端子電極8とを有する。コンデンサ素体4は、誘電体層10と、内部電極層12とを有し、誘電体層10の間に、これらの内部電極層12が交互に積層してある。交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の一方の端部の外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の他方の端部の外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある。
【0045】
本実施形態では、内部電極層12は、後で詳細に説明するように、図2〜図6に示すように、電極層12aをセラミックグリーンシート10aに転写して形成される。
【0046】
誘電体層10の材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。各誘電体層10の厚みは、特に限定されないが、数μm〜数百μmのものが一般的である。特に本実施形態では、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、特に好ましくは1.5μm以下に薄層化されている。また、内部電極層12も、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.2μm以下、特に好ましくは1.0μm以下に薄層化されている。
【0047】
端子電極6および8の材質も特に限定されないが、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。端子電極6および8の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
【0048】
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、通常、縦(0.6〜5.6mm、好ましくは0.6〜3.2mm)×横(0.3〜5.0mm、好ましくは0.3〜1.6mm)×厚み(0.1〜1.9mm、好ましくは0.3〜1.6mm)程度である。
【0049】
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。
【0050】
(1)まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を構成することになるセラミックグリーンシートを製造するために、誘電体ペースト(グリーンシート用ペースト)を準備する。
【0051】
誘電体ペーストは、誘電体原料(セラミック粉体)と有機ビヒクルとを混練して得られる有機溶剤系ペーストで構成される。
【0052】
誘電体原料としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。誘電体原料は、通常、平均粒子径が0.4μm以下、好ましくは0.1〜3.0μm程度の粉体として用いられる。なお、きわめて薄いグリーンシートを形成するためには、グリーンシート厚みよりも細かい粉体を使用することが望ましい。
有機ビヒクルに用いられるバインダは、特に限定されるものではなく、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂などの通常の各種バインダが用いることができるが、本実施形態ではポリブチラール樹脂が用いられる。そのポリビニルブチラール樹脂の重合度は、1000以上1700以下であり、好ましくは1400〜1700である。また、樹脂のブチラール化度が64モル%より大きく78モル%より小さく、好ましくは64モル%より大きく70モル%以下であり、その残留アセチル基量が6モル%未満、好ましくは3モル%以下である。
【0053】
有機ビヒクルに用いられる有機溶剤も、特に限定されるものではなく、テルピネール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエンなどの有機溶剤が用いられる。
【0054】
本発明において、誘電体ペーストは、誘電体原料と、水中に水溶性バインダを溶解させたビヒクルを混連して、生成することもできる。
【0055】
水溶性バインダは、特に限定されるものではなく、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、水溶性アクリル樹脂、エマルジョンなどが用いられる。
【0056】
誘電体ペースト中の各成分の含有量は、特に限定されるものではなく、たとえば、約1質量%ないし約50質量%の溶剤を含むように、誘電体ペーストを調製することができる。
【0057】
誘電体ペースト中には、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されていてもよい。誘電体ペースト中に、これらの添加物を添加する場合には、総含有量を、約10質量%以下にすることが望ましい。バインダ樹脂として、ブチラール系樹脂を用いる場合には、可塑剤の含有量は、バインダ樹脂100質量%に対して、約25質量%ないし約100質量%であることが好ましい。可塑剤が多すぎると、可塑剤が滲み出して、取り扱いが困難になり、好ましくない。
【0058】
この誘電体ペーストを用いて、ドクターブレード法などにより、たとえば図3Aに示すように、第2支持シートとしてのキャリアシート30上に、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは0.5〜10μm程度の厚みで、グリーンシート10aを形成する。グリーンシート10aは、キャリアシート30に形成された後に乾燥される。グリーンシート10aの乾燥温度は、好ましくは50〜100°Cであり、乾燥時間は、好ましくは1〜20分である。乾燥後のグリーンシート10aの厚みは、乾燥前に比較して、5〜25%の厚みに収縮する。乾燥後のグリーンシートの厚みは、3μm以下が好ましい。
【0059】
(2)上記のキャリアシート30とは別に、図2Aに示すように、第1支持シートとしてのキャリアシート20を準備し、その上に、剥離層22を形成し、その上に、所定パターンの電極層12aを形成し、その前後に、その電極層12aが形成されていない剥離層22の表面に、電極層12aと実質的に同じ厚みの余白パターン層24を形成する。
【0060】
キャリアシート20および30としては、たとえばPETフィルムなどが用いられ、剥離性を改善するために、シリコンなどがコーティングしてあるものが好ましい。これらのキャリアシート20および30の厚みは、特に限定されないが、好ましくは、5〜100μmである。これらのキャリアシート20および30の厚みは、同じでも異なっていても良い。
【0061】
剥離層22は、好ましくは図3Aに示すグリーンシート10aを構成する誘電体と同じ誘電体粒子を含む。また、この剥離層22は、誘電体粒子以外に、バインダと、可塑剤と、離型剤とを含む。誘電体粒子の粒径は、グリーンシートに含まれる誘電体粒子の粒径と同じでも良いが、より小さいことが好ましい。
【0062】
本実施形態では、剥離層22の厚みt2は、電極層12aの厚み以下の厚みであることが好ましく、好ましくは60%以下の厚み、さらに好ましくは30%以下に設定する。
【0063】
剥離層22の塗布方法としては、特に限定されないが、きわめて薄く形成する必要があるために、たとえばワイヤーバーコーターまたはダイコーターを用いる塗布方法が好ましい。なお、剥離層の厚みの調整は、異なるワイヤー径のワイヤーバーコーターを選択することで行うことができる。すなわち、剥離層の塗布厚みを薄くするためには、ワイヤー径の小さいものを選択すれば良く、逆に厚く形成するためには、太いワイヤー径のものを選択すればよい。剥離層22は、塗布後に乾燥される。乾燥温度は、好ましくは、50〜100°Cであり、乾燥時間は、好ましくは1〜10分である。
【0064】
剥離層22のためのバインダとしては、たとえば、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらの共重合体からなる有機質、またはエマルジョンで構成される。剥離層22に含まれるバインダは、グリーンシート10aに含まれるバインダと同じでも異なっていても良いが同じであることが好ましい。
【0065】
剥離層22のための可塑剤としては、特に限定されないが、たとえばフタル酸エステル、フタル酸ジオクチル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。剥離層22に含まれる可塑剤は、グリーンシート10aに含まれる可塑剤と同じでも異なっていても良い。
【0066】
剥離層22のための剥離剤としては、特に限定されないが、たとえばパラフィン、ワックス、シリコーン油などが例示される。剥離層22に含まれる剥離剤は、グリーンシート10aに含まれる剥離剤と同じでも異なっていても良い。
【0067】
バインダは、剥離層22中に、誘電体粒子100質量部に対して、好ましくは2.5〜200質量部、さらに好ましくは5〜30質量部、特に好ましくは8〜30質量部程度で含まれる。
【0068】
可塑剤は、剥離層22中に、バインダ100質量部に対して、0〜200質量部、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは50〜100質量部で含まれることが好ましい。
【0069】
剥離剤は、剥離層22中に、バインダ100質量部に対して、0〜100質量部、好ましくは2〜50質量部、さらに好ましくは5〜20質量部で含まれることが好ましい。
【0070】
剥離層22をキャリアシート30の表面に形成した後、図2Aに示すように、剥離層22の表面に、焼成後に内部電極層12を構成することになる電極層12aを所定パターンで形成する。電極層12aの厚さは、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは0.1〜1.5μm程度である。電極層12aは、単一の層で構成してあってもよく、あるいは2以上の組成の異なる複数の層で構成してあってもよい。
【0071】
電極層12aは、たとえば電極用ペーストを用いる印刷法などの厚膜形成方法、あるいは蒸着、スパッタリングなどの薄膜法により、剥離層22の表面に形成することができる。厚膜法の1種であるスクリーン印刷法あるいはグラビア印刷法により、剥離層22の表面に電極層12aを形成する場合には、以下のようにして行う。
【0072】
まず、電極用ペーストを準備する。電極用ペーストは、各種導電性金属や合金からなる導電体材料、あるいは焼成後に上記した導電体材料となる各種酸化物、有機金属化合物、またはレジネート等の電極材粉体と、有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0073】
電極用ペーストを製造する際に用いる導体材料(電極材粉体)としては、NiやNi合金さらにはこれらの混合物を用いる。このような導体材料は、球状、リン片状等、その形状に特に制限はなく、また、これらの形状のものが混合したものであってもよい。また、導体材料の粒子径は、通常、球状の場合、平均粒子径が0.01〜2μm、好ましくは0.05〜0.5μm程度のものを用いればよい。
【0074】
有機ビヒクルは、バインダおよび溶剤を含有するものである。バインダとしては、例えばエチルセルロース、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらの共重合体などが例示されるが、本実施形態では、特にポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂などのブチラール系樹脂が好ましい。
【0075】
バインダ樹脂は、電極用ペースト中に、導体材料(電極材粉体)100質量部に対して、好ましくは2.5〜5.5質量部で含まれる。電極用ペースト中には、グリーンシート用ペーストに含まれるセラミック粉体と同じセラミック粉体(共材)が含まれていても良い。その場合には、バインダ樹脂は、電極用ペースト中に、導体材料(電極材粉体)とセラミック粉体(共材)との合計質量の100質量部に対して、好ましくは2.5〜5.5質量部で含まれる。バインダ樹脂が少なすぎると強度が低下し、乾式転写工法において電極層12aの破壊等の不具合を生じる傾向にあり、バインダ樹脂が多すぎると、焼成前の電極層12aの金属充填密度は低下し、焼成後に、内部電極層12の平滑性を維持することが困難になる傾向にある。
【0076】
好ましくは、電極材粉体が、内部電極用ペースト全体に対して50質量%以下で含まれる。例えば電極材粉体の含有率を50質量%から45質量%に低下させることで、ペーストとしての付着量が同じであれば、内部電極層12aの厚みは約10%程度低下させることができ、薄層化に寄与する。
【0077】
電極ペースト組成の粘度は、HAAKE社RV20式円錐円盤粘度計25℃剪断速度が8[1/s]において、粘度が4Pa・s以上、好ましくは6Pa・s以上であることが好ましい。低剪断速度での粘度が低いと、印刷したときに、にじみが発生しやすくなる。
【0078】
内部電極用ペースト中の電極材粉体の含有率を下げるために溶剤の比率を上げると、ペーストの粘度が下がり、ペーストを用いて印刷する時に、にじみ等の問題が発生しやすくなる。バインダ樹脂量を一定のまま、溶剤比率を上げて必要粘度を維持するためには、高粘度の樹脂を使用することが有効である。
【0079】
本実施形態では、内部電極用ペーストのためのバインダ樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂を用いている。このポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂には、さまざまなグレードがある。本実施形態では、重合度1400以上のポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂を選択することで、溶剤比率を上げても必要粘度を維持することが可能である。なお、一般的に製造されるポリビニルブチラール及び/又はポリビニルアセタール樹脂系樹脂の重合度は3600以下である。したがって、内部電極用ペーストのためのバインダ樹脂として、好ましくは、ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂の重合度が1400〜3600である。本実施形態においては、ポリビニルアセタールが好ましく、アセタール化度は74モル%以下のものが好ましい。
【0080】
溶剤としては、例えばテルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等公知のものはいずれも使用可能である。溶剤含有量は、ペースト全体に対して、好ましくは20〜50質量%程度とする。
【0081】
接着性の改善のために、電極用ペーストには、可塑剤が含まれることが好ましい。可塑剤としては、フタル酸ベンジルブチル(BBP)などのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。本実施形態では、好ましくは、アジピン酸ジオクチル(DOA)、フタル酸ブチルブチレングリコール(BPBG)、フタル酸ジドデシル(DDP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ベンジルブチル(BBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、セバシン酸ジブチルなどが用いられる。中でも、フタル酸ジオクチル(DOP)が特に好ましい。
【0082】
可塑剤は、バインダ樹脂100質量部に対して、好ましくは25質量部以上150質量部以下、さらに好ましくは25〜100質量部で含有される。可塑剤の添加により、そのペーストを用いて形成される電極層12aの接着力は高まり、電極層12aとグリーンシート10aとの接着力が向上する。このような効果を得るためには、可塑剤の添加量は、25質量部以上が好ましい。ただし添加量が150質量部を越えると、そのペーストを用いて形成される電極層12aから過剰な可塑剤が滲み出すため好ましくない。
【0083】
剥離層22の表面に、所定パターンの電極用ペースト層を印刷法で形成した後、またはその前に、電極層12aが形成されていない剥離層22の表面に、電極層12aと実質的に同じ厚みの余白パターン層24を形成する。余白パターン層24は、次に説明する以外は、図3Aに示すグリーンシート10aを形成するためのと同様なペーストを用いて同様な方法により形成される。
【0084】
余白パターン層を形成するための誘電体ペーストは、誘電体粒子以外に、バインダおよび可塑剤と、任意成分として剥離剤とを含んでいる。誘電体粒子の粒径は、セラミックグリーンシートに含まれる誘電体粒子の粒径と同じでも異なっていてもよい。
バインダとしては、たとえば、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらのエマルジョンを用いることができる。
【0085】
余白パターン層を形成するための誘電体ペーストに含まれているバインダは、セラミックグリーンシートに含まれているバインダと同じであっても、異なっていてもよい。また、余白パターン層を形成するための誘電体ペーストに含まれているバインダは、電極ペーストと同じであっても異なっていてもよいが同じバインダを用いる事が好ましい。
【0086】
余白パターン層を形成するための誘電体ペーストに含まれている可塑剤は、特に限定されるものではなく、たとえば、フタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などを挙げることができる。余白パターン層を形成するための誘電体ペーストに含まれる可塑剤は、セラミックグリーンシートに含まれる可塑剤と同じであっても、異なっていてもよい。
【0087】
余白パターン層を形成するための誘電体ペーストは、バインダ100質量部に対して、約0質量部ないし約200質量部、好ましくは、約20質量部ないし約200質量部、さらに好ましくは、約50質量部ないし約100質量部の可塑剤を含んでいる。
【0088】
余白パターン層を形成するための誘電体ペーストに含まれる剥離剤は、特に限定されるものではなく、たとえば、パラフィン、ワックス、シリコーン油などを挙げることができる。
【0089】
余白パターン層を形成するための誘電体ペーストは、バインダ100質量部に対して、約0質量部ないし約100質量部、好ましくは、約2質量部ないし約50質量部、より好ましくは、約5質量部ないし約20質量部の剥離剤を含んでいる。
【0090】
余白パターンペースト用ペーストの粘度は、HAAKE社RV20式円錐円盤粘度計25℃剪断速度が8[1/s]において、粘度が4Pa・s以上、好ましくは7Pa・s以上であることが好ましい。低剪断速度での粘度が低いと、印刷したときに、にじみが発生しやすくなる。
【0091】
この余白パターン用ペーストは、図2Aに示すように、電極層12a間の余白パターン部に印刷される。その後、電極層12aおよび余白パターン層24は、必要に応じて乾燥される。電極層12aおよび余白パターン層24の乾燥温度は、乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは70〜120°Cであり、乾燥時間は、好ましくは1〜10分である。
【0092】
(3)上記のキャリアシート20および30とは別に、図2Aに示すように、第3支持シートとしてのキャリアシート26の表面に接着層28が形成してある接着層転写用シートを準備する。キャリアシート26は、キャリアシート20および30と同様なシートで構成される。
【0093】
接着層28は、バインダと、可塑剤とを含む。接着層28には、グリーンシート10aを構成する誘電体と同じ誘電体粒子を含ませても良いが、誘電体粒子の粒径よりも厚みが薄い接着層を形成する場合には、誘電体粒子を含ませない方がよい。また、接着層28に誘電体粒子を含ませる場合には、その誘電体粒子の粒径は、グリーンシートに含まれる誘電体粒子の粒径より小さいことが好ましい。
【0094】
可塑剤は、接着層28中に、バインダ100質量部に対して、0〜200質量部、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは50〜100質量部で含まれることが好ましい。
【0095】
接着層28の厚みは、0.02〜0.3μm程度が好ましく、しかもグリーンシートに含まれる誘電体粒子の平均粒径よりも薄いことが好ましい。また、接着層28の厚みが、グリーンシート10aの厚みの1/10以下であることが好ましい。
【0096】
接着層28の厚みが薄すぎると、接着力が低下し、厚すぎると、その接着層の厚みに依存して焼結後の素子本体の内部に隙間ができやすく、その体積分の静電容量が著しく低下する傾向にある。
【0097】
接着層28は、第3支持シートとしてのキャリアシート26の表面に、たとえばバーコーター法、ダイコータ法、リバースコーター法、ディップコーター法、キスコーター法などの方法により形成され、必要に応じて乾燥される。乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは室温〜80°Cであり、乾燥時間は、好ましくは1〜5分である。
【0098】
(4)図2Aに示す電極層12aおよび余白パターン層24の表面に、接着層を形成するために、本実施形態では、転写法を採用している。すなわち、図2Bに示すように、キャリアシート26の接着層28を、図2Bに示すように、電極層12aおよび余白パターン層24の表面に押し付け、加熱加圧して、その後キャリアシート26を剥がすことにより、図2Cに示すように、接着層28を、電極層12aおよび余白パターン層24の表面に転写する。なお、接着層28の転写は、図3Aに示すグリーンシート10aの表面に対して行っても良い。
【0099】
転写時の加熱温度は、40〜100°Cが好ましく、また、加圧力は、0.2〜15MPaが好ましい。加圧は、プレスによる加圧でも、カレンダロールによる加圧でも良いが、一対のロールにより行うことが好ましい。
【0100】
その後に、電極層12aを、図3Aに示すキャリアシート30の表面に形成してあるグリーンシート10aの表面に接着する。そのために、図3Bに示すように、キャリアシート20の電極層12aおよび余白パターン層24を、接着層28を介して、グリーンシート10aの表面にキャリアシート20と共に押し付け、加熱加圧して、図3Cに示すように、電極層12aおよび余白パターン層24を、グリーンシート10aの表面に転写する。ただし、グリーンシート側のキャリアシート30が引き剥がされることから、グリーンシート10a側から見れば、グリーンシート10aが電極層12aおよび余白パターン層24に接着層28を介して転写される。
【0101】
この転写時の加熱および加圧は、プレスによる加圧・加熱でも、カレンダロールによる加圧・加熱でも良いが、一対のロールにより行うことが好ましい。その加熱温度および加圧力は、接着層28を転写するときと同様である。
【0102】
図2A〜図3Cに示す工程により、単一のグリーンシート10a上に、単一層の所定パターンの電極層12aが形成される。電極層12aが形成されたグリーンシート10aを積層させるには、たとえば図4A〜図6Cに示す工程を繰り返せばよい。なお、図4A〜図6Cにおいて、図3A〜図4Cに示す部材と共通する部材には、同一の符号を付し、その説明を一部省略する。
【0103】
まず、図4A〜図4Cに示すように、グリーンシート10aにおける反電極層側表面(裏面)に、接着層28を転写する。その後に、図5A〜図5Cに示すように、接着層28を介して、グリーンシート10aの裏面に電極層12aおよび余白パターン層24を転写する。
【0104】
次に、図6A〜図6Cに示すように、接着層28を介して、電極層12aおよび余白パターン層24の表面に、グリーンシート10aを転写する。その後は、これらの転写を繰り返せば、図7に示すように、電極層12aおよびグリーンシート10aが交互に多数積層された積層ブロックが得られる。
【0105】
なお、図5C〜図6Cに示す工程を採用することなく、図5Bに示す工程から、下側のキャリアシート20を剥がすのではなく、上側のキャリアシートを剥がし、その上に、図4Cに示す積層体ユニットU1を積層しても良い。その後に、再度、上側のキャリアシート20を剥がし、その上に、図4Cに示す積層体ユニットU1を積層して、再度、上側のキャリアシート20を剥がす動作を繰り返しても、図7に示すように、電極層12aおよびグリーンシート10aが交互に多数積層された積層ブロックが得られる。図4Cに示す積層体ユニットU1を積層する方法の方が、積層作業効率に優れている。
【0106】
グリーンシートの積層数が少ない場合には、この積層ブロック単独で、次工程における焼成工程を行う。また、必要に応じて、このような複数の積層ブロックを、前記と同様にして転写法により形成する接着層28を介して、積層して、より多層の積層体としても良い。
【0107】
(5)その後、図8に示すように、この積層体の下面に、外層用のグリーンシート40(電極層が形成されていないグリーンシートを複層積層した厚めの積層体)を積層し、積層体の全体を吸引保持台50で支持する。その後に、上側のキャリアシート20を引き剥がし、同様にして外層用のグリーンシート40を積層体の上部に形成した後、最終加圧を行う。
【0108】
最終加圧時の圧力は、好ましくは10〜200MPaである。また、加熱温度は、40〜100°Cが好ましい。その後に、積層体を所定サイズに切断し、グリーンチップを形成する。このグリーンチップは、脱バインダ処理、焼成処理が行われ、そして、誘電体層を再酸化させるため、熱処理が行われる。
【0109】
脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよいが、内部電極層の導電体材料にNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、特に下記の条件で行うことが好ましい。
昇温速度:5〜300℃/時間、特に10〜50℃/時間、
保持温度:200〜800℃、特に350〜600℃、
保持時間:0.5〜20時間、特に1〜10時間、
雰囲気 :加湿したNとHとの混合ガス。
【0110】
焼成条件は、下記の条件が好ましい。
昇温速度:50〜500℃/時間、特に200〜300℃/時間、
保持温度:1100〜1300℃、特に1150〜1250℃、
保持時間:0.5〜8時間、特に1〜3時間、
冷却速度:50〜500℃/時間、特に200〜300℃/時間、
雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス等。
【0111】
ただし、焼成時の空気雰囲気中の酸素分圧は、10−2Pa以下、特に10−2〜10−8Paにて行うことが好ましい。前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にあり、また、酸素分圧があまり低すぎると、内部電極層の電極材料が異常焼結を起こし、途切れてしまう傾向にある。
【0112】
このような焼成を行った後の熱処理は、保持温度または最高温度を、好ましくは1000℃以上、さらに好ましくは1000〜1100℃として行うことが好ましい。熱処理時の保持温度または最高温度が、前記範囲未満では誘電体材料の酸化が不十分なために絶縁抵抗寿命が短くなる傾向にあり、前記範囲をこえると内部電極のNiが酸化し、容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応してしまい、寿命も短くなる傾向にある。熱処理の際の酸素分圧は、焼成時の還元雰囲気よりも高い酸素分圧であり、好ましくは10−3Pa〜1Pa、より好ましくは10−2Pa〜1Paである。前記範囲未満では、誘電体層2の再酸化が困難であり、前記範囲をこえると内部電極層3が酸化する傾向にある。そして、そのほかの熱処理条件は下記の条件が好ましい。
【0113】
保持時間:0〜6時間、特に2〜5時間、
冷却速度:50〜500℃/時間、特に100〜300℃/時間、
雰囲気用ガス:加湿したNガス等。
【0114】
なお、Nガスや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は0〜75℃程度が好ましい。また脱バインダ処理、焼成および熱処理は、それぞれを連続して行っても、独立に行ってもよい。これらを連続して行なう場合、脱バインダ処理後、冷却せずに雰囲気を変更し、続いて焼成の際の保持温度まで昇温して焼成を行ない、次いで冷却し、熱処理の保持温度に達したときに雰囲気を変更して熱処理を行なうことが好ましい。一方、これらを独立して行なう場合、焼成に際しては、脱バインダ処理時の保持温度までNガスあるいは加湿したNガス雰囲気下で昇温した後、雰囲気を変更してさらに昇温を続けることが好ましく、熱処理時の保持温度まで冷却した後は、再びNガスあるいは加湿したNガス雰囲気に変更して冷却を続けることが好ましい。また、熱処理に際しては、Nガス雰囲気下で保持温度まで昇温した後、雰囲気を変更してもよく、熱処理の全過程を加湿したNガス雰囲気としてもよい。
【0115】
このようにして得られた焼結体(素子本体4)には、例えばバレル研磨、サンドプラスト等にて端面研磨を施し、端子電極用ペーストを焼きつけて端子電極6,8が形成される。端子電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、端子電極6,8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、端子電極用ペーストは、上記した電極用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0116】
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0117】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法では、グリーンシートとして、特定範囲の重合度、特定範囲のブチラール化度、しかも残留アセチル基量が所定値以下のポリビニルアセタール樹脂をバインダとして用いる。そのため、たとえば5μm以下程度に極めて薄いグリーンシート10aであっても、キャリアシート30からの剥離に耐えうる強度を有し、かつ良好な接着性およびハンドリング性を有する。また、シート10aの表面粗さも小さく、且つスタック性に優れている。そのため、グリーンシート10aを、電極層12aを介して多数積層することが容易になり、必要に応じて、接着層28を省略して積層することも可能である。
【0118】
また、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法では、グリーンシート10aが破壊または変形されることなく、グリーンシート10aの表面に高精度に乾式タイプの電極層12aを容易且つ高精度に転写することが可能である。
【0119】
さらに、本実施形態の製造方法では、電極層またはグリーンシートの表面に、転写法により接着層28を形成し、その接着層28を介して、電極層12aをグリーンシート10aの表面に接着する。接着層28を形成することで、電極層12aをグリーンシート10aの表面に接着させて転写する際に、高い圧力や熱が不要となり、より低圧および低温での接着が可能になる。したがって、グリーンシート10aが極めて薄い場合でも、グリーンシート10aが破壊されることはなくなり、電極層12aおよびグリーンシート10aを良好に積層することができ、短絡不良なども発生しない。
【0120】
本実施形態では、接着層28と電極層12aのバインダ組成が同一(ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂)である場合、電極間の接着性が大幅に改善される。そのため、転写が容易になる。
【0121】
また、たとえば接着層28の接着力を、剥離層22の粘着力よりも強くし、しかも、剥離層22の粘着力を、グリーンシート10aとキャリアシート30との粘着力よりも強くすることなどにより、グリーンシート10a側のキャリアシート30を選択的に容易に剥離することができる。
【0122】
さらにまた、本実施形態では、電極層12aまたはグリーンシート10aの表面に接着層28をダイレクトに塗布法などで形成せずに、転写法により形成することから、接着層28の成分が電極層12aまたはグリーンシート10aに染み込むことがないと共に、極めて薄い接着層28の形成が可能になる。たとえば接着層28の厚みは、0.02〜0.3μm程度に薄くすることができる。接着層28の厚みは薄くとも、接着層28の成分が電極層12aまたはグリーンシート10aに染み込むことがないことから、接着力は十分であり、しかも、電極層12aまたはグリーンシート10aの組成に悪影響を与えるおそれがない。
【0123】
また本実施形態では、図2Aに示す電極層12aの余白パターン部に、余白パターン層24を形成する際に、余白パターン用ペーストの粘度が極端に低下せず、極めて薄い余白パターン層であっても、良好に印刷が可能になる。また、余白パターン用ペースト中に含まれるバインダ樹脂の量を増大させる必要がないので、積層体の脱バインダ時に、シート間のデラミネーションなどが発生するおそれも少ない。
【0124】
特に本実施形態では、ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂を内部電極用ペーストに含ませるために、そのペーストにより形成される内部電極層12aは、強度・接着力ともに高く、接着層28の転写が比較的容易である。また、支持シートとしてのPETフィルムから成るキャリアシート20の剥離時に、内部電極層12aの破壊も発生しにくい。
【0125】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0126】
たとえば、本発明の方法は、積層セラミックコンデンサの製造方法に限らず、積層インダクタ、多層基板等、その他の積層型電子部品の製造方法としても適用することが可能である。
【実施例】
【0127】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
実施例1a
グリーンシート用ペーストの作製
【0128】
セラミック粉体の出発原料としてBaTiO粉体(BT−02/堺化学工業(株))を用いた。このBaTiO粉体100質量部に対して、(Ba0.6Ca0.4)SiO:1.48質量部、Y:1.01質量部、MgCO:0.72質量%、Cr:0.13質量%、およびV:0.045質量%になるようにセラミック粉体副成分添加物を用意した。
【0129】
初めに、副成分添加物のみをボールミルで混合し、スラリー化した。すなわち、副成分添加物(合計量8.8g)と、エタノール/n−プロパノールが1:1の溶剤(16g)とを、ボールミルにより、20時間予備粉砕を行った。次に、BaTiO:191.2gに対して、副成分添加物の予備粉砕スラリーと、エタノール:38gと、n−プロパノール:38gと、キシレン:28gと、ミネラルスピリット:14gと、可塑剤成分としてのDOP(フタル酸ジオクチル):6gと、分散剤としてのポリエチレングリコール系のノニオン性分散剤(HLB=5〜6):1.4gとを添加し、ボールミルによって、4時間混合した。なお、分散剤としてのポリエチレングリコール系のノニオン性分散剤(HLB=5〜6)としては、ポリエチレングリコールと脂肪酸エステルのブロックポリマーを用いた。
【0130】
次に、この分散ペーストに、バインダ樹脂として、積水化学社製BH6(ポリビニルブチラール樹脂/PVB)の15%ラッカー(積水化学社製BH6を、エタノール/n−プロパノール=1:1で溶解)を固形分として6質量%添加した(ラッカー添加量として、80g)。その後16時間、ボールミルすることによって、セラミックペースト(グリーンシート用ペースト)とした。
【0131】
バインダ樹脂としてのポリビニルブチラール樹脂の重合度は、1400であり、そのブチラール化度は、69モル%±3モル%であり、残留アセチル基量は、3±2モル%であった。このバインダ樹脂は、セラミックス粉体(セラミック粉体副成分添加物を含む)100質量部に対して6質量部でセラミックペースト中に含まれていた。また、セラミックペーストにおけるセラミックス粉体とバインダ樹脂と可塑剤との合計の体積を100体積%とした場合に、セラミックス粉体が占める体積割合は、67.31体積%であった。
【0132】
また、可塑剤としてのDOPは、バインダ樹脂100質量部に対して、50質量部でセラミックペースト中に含まれていた。水は、セラミック粉体100質量部に対して、2質量部含まれていた。分散剤としてのポリエチレングリコール系のノニオン性分散剤は、セラミック粉体100質量部に対して、0.7質量部含まれていた。
【0133】
また、ペースト中には、セラミックス粉体100質量部に対して、炭化水素系溶剤、工業用ガソリン、ケロシン、ソルベントナフサの内の少なくとも何れか1つであるミネラルスピリットが、5質量部添加されていた。さらに、ペースト中には、溶剤として、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤とを含み、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤との合計質量を100質量部として、芳香族系溶剤としてのトルエンが15質量部含まれていた。
【0134】
ペーストの粘度は、0.12Pa・sであった。ペーストの粘度はB型粘度計を用い、25℃において50rpmとなる回転を付与したときの粘度を測定した。
グリーンシートの作製
【0135】
上記のようにして得られたペーストをワイヤーバーコーターによって、図3Aに示す第2支持シートとしてのPETフィルム上に5μmの厚みで塗布し、乾燥することでグリーンシート10aを作製した。塗布速度は50m/min、乾燥条件は、乾燥炉内の温度が60℃〜70℃、乾燥時間が2分であった。
剥離層用ペースト
【0136】
前記の誘電体グリーンシート用ペーストをエタノール/トルエン(55/10)によって重量比で2倍に希釈したものを剥離層用ペーストとした。ただし、この剥離層には、可塑剤としてのDOPは、バインダ樹脂100質量部に対して、50質量部でセラミックペースト中に含まれていた。
接着用ペースト
【0137】
ポリビニルブチラール樹脂をMEK(メチルエチルケトン)で溶解し、1.5%溶液に、可塑剤DOPを50質量部添加し、接着用ペーストとした。
内部電極用ペースト(転写される電極層用ペースト)
【0138】
次に、下記に示される配合比にて、ボールミルにより混練し、スラリー化して内部電極用ペーストとした。すなわち、平均粒径が0.2μmのNi粒子(電極材粉体)100質量部に対して、グリーンシート用ペーストに含まれているセラミック粉体と同じセラミック粉体(BaTiO粉体およびセラミック粉体副成分添加物)を20質量部と、ポリビニルブチラール樹脂4.5質量部と、ターピネオール95質量部とを加え、ボールミルにより混練し、スラリー化して内部電極用ペーストとした。
【0139】
電極材粉体としてのNi粒子は、内部電極用ペースト全体に対して、50質量%以下の47質量%で含まれていた。バインダ樹脂としてのポリビニルアセタール樹脂としては、重合度が2400で、アセタール化度が55モル%のものを用いた。このポリビニルブチラール樹脂は、Ni粒子とセラミック粉体の合計100質量部に対して2.5〜5.5質量部の範囲内である3.8質量部で含まれていた。電極ペースト組成の粘度は、HAAKE社RV20式円錐円盤粘度計25℃剪断速度が8[1/s]において、粘度が6Pa・sであった。
余白パターン用ペースト
【0140】
バインダ樹脂として、重合度1450、ブチラール化度69モル%±3モル%および残留アセチル基量6±2モル%のポリビニルブチラール樹脂を用い、内部電極用ペーストと同様にして、余白ペースト用ペーストを作製した。
【0141】
この余白ペースト組成の粘度は、HAAKE社RV20式円錐円盤粘度計25℃剪断速度が8[1/s]において、粘度が7Pa・sであった。また、このペーストには、セラミック粉体が、ペースト全体に対して、40質量%の割合で含まれていた。
剥離層の形成、接着層および電極層の転写
【0142】
まず、PETフィルム(第1支持シート)上に、剥離層を形成するために、上記の剥離層用ペーストを、ワイヤーバーコーターにより塗布乾燥させて0.3μmの剥離層を形成した。
【0143】
剥離層の表面に、電極層12aおよび余白パターン層24を形成した。電極層12aは、上記の内部電極用ペーストを用いた印刷法により、1μmの厚みで形成した。余白パターン層24は、上記の余白パターン用ペーストを用いた印刷法により、1μmの厚みで形成した。余白パターン用ペーストを用いた印刷に際しては、そのペーストが印刷製版のメッシュから流れ出すなどの不都合は観察されなかった。
【0144】
また、別のPETフィルム(第3支持シート)の上に、接着層28を形成した。接着層28は、上記の接着層用ペーストを用いワイヤーバーコーターにより、0.1μmの厚みで形成した。
【0145】
まず、電極層12aおよび余白パターン層24の表面に、図2に示す方法で接着層28を転写した。転写時には、一対のロールを用い、その加圧力は、1MPa、温度は、80°Cであり、転写は、良好に行えることが確認できた。
【0146】
次に、図3に示す方法で、接着層28を介してグリーンシート10aの表面に内部電極層12aおよび余白パターン層24を接着(転写)した。転写時には、一対のロールを用い、その加圧力は、1MPa、温度は、80°Cであり、転写は、良好に行えることが確認できた。
【0147】
図3Bに示す状態で、電極層12aとグリーンシート10aとの接着力を測定した。接着力の測定は、支持体20および30を、それぞれ剥離した後、剥離した両面を、それぞれ両面テープで治具に固定し、接着面に対して垂直に8mm/分の速度で治具を引き上げて、その時の最大応力を接着力とした。表1に示すように、接着力は、30N/cm以上であり、強固な接着力が得られることが確認できた。なお、30N/cm以上の接着力を測定できなかったのは、測定するための治具の測定限界であったためである。
【0148】
また、図3Bに示す状態で、PETフィルムからなるキャリアシート20を引き剥がしてみたところ、電極層12aがシート20側に付着することなくきれいに引き剥がすことができた。すなわち、表1に示すように、キャリアシートの剥離性(PET剥離性)にも問題がなかった。
【0149】
【表1】

実施例1b〜1e
【0150】
内部電極用ペーストに、バインダ樹脂100質量部に対して25,50、75,100質量部の添加量で、可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(DOP)を添加させた以外は、実施例1aと同様にして内部電極用ペーストを調整し、図3Bに示す積層体を作製し、同様な試験を行った。結果を表1に示す。
【0151】
また、図3Bに示す積層体について、キャリアシート20および30の剥離強度を測定した。結果を、表1および図10に示す。
【0152】
剥離強度の測定は、たとえば図3Bに示す状態で、キャリアシート20の一端を積層体の平面に対して90度の方向に8mm/分の速度で引き上げ、その時に、キャリアシート20に作用する力(mN/cm)を剥離強度として測定した。キャリアシート20は剥離層22側に位置するので、表1および図10では、キャリアシート20の剥離強度は、剥離層側PET剥離強度として示される。また、同様にして、キャリアシート30の剥離強度は、表1および図10では、誘電体層側PET剥離強度として示される。
【0153】
表1および図10に示すように、剥離層側PET剥離強度は、DOPの添加割合PHP(質量部)を増大させることで低下させることができることが確認できた。また、剥離後のキャリアシート20の表面には、電極層12aの破壊残りが付着せず、良好に剥離可能なことが確認できた。
【0154】
乾式転写後にPETフィルムから成るキャリアシート20または30を剥離する際、剥離強度が高すぎると電極層12aの破壊や接着層28の破壊を招く。ポリビニルブチラール樹脂を含む本実施例の電極層は、表1および図10に示すように、DOPなどの可塑剤の添加によって、剥離強度を低下させることができることが確認できた。すなわち、25PHR以上の可塑剤添加によって、剥離強度は不具合を起こさない程度まで低下させられる。
比較例1a〜1d
【0155】
内部電極用ペーストのバインダ樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂の代わりに、エチルセルロース樹脂を用い、しかも、バインダ樹脂100質量部に対する可塑剤としてのDOPの添加量(PHR)を、0〜150質量部の範囲で変化させた以外は、実施例1bと同様にして内部電極用ペーストを調整し、図3Bに示す積層体を作製し、同様な試験を行った。結果を表1に示す。
【0156】
表1に示すように、エチルセルロース樹脂を用いた場合には、可塑剤を入れたとしても、接着力がほとんど上昇せず、ポリビニルブチラール樹脂の優位性が確認できた。
【0157】
なお、表1において、比較例1a〜1cでは、接着力が0であり、剥離性を評価できず、比較例1dの接着力も非常に低いため、キャリアシート20の剥離ができず測定できなかった。
実施例2a〜2k
【0158】
表2に示すように、内部電極用ペーストのバインダ樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂またはポリビニルアセタール樹脂を用い、その重合度、ブチラール化度またはアセタール化度を変化させ、Ni粒子を、内部電極用ペースト全体に対して、45質量%の添加量(金属含有率)とした以外は、実施例1aと同様にして内部電極用ペーストを調整した。
【0159】
これらの各実施例における8%TPOラッカー粘度と、電極用ペーストの粘度とを測定した結果を表2に示す。ペーストの粘度は、HAAKE社RV20式円錐円盤粘度計を用い、25°Cにおいて、剪断速度が8[1/s]となる回転を付与したときの粘度(V8(1/s))と、剪断速度が50[1/s]となる回転を付与したときの粘度(V50(1/s))とを測定した。
【0160】
なお、表2において、8%TPOラッカー粘度とは、樹脂8質量部をターピネオール92質量部で溶解したビヒクルの粘度を意味し、電極ペースト粘度とは、粉体・可塑剤等を所定割合で配合した電極用ペーストの粘度を意味する。
【0161】
電極用ペーストを用いて、図2Aに示すような所定パターンの電極層12aを印刷法により形成するためには、そのペーストにおけるV8(1/s)粘度は4以上、好ましくは6Pa・s以上である。その粘度よりも低くなると、印刷時にペーストがメッシュから流れ出したり、滲みが発生しやくなり印刷が困難になる。
【0162】
そのような観点からは、表2に示すように、電極用ペーストに用いるポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂の重合度は、1400以上である。
【0163】
また、これら実施例2a〜2kにおける電極用ペーストの乾燥密度を、それぞれ測定した。結果を表2に示す。乾燥密度の測定は、電極用ペーストをギャップ250μmのアプリケータで塗膜にし、100℃で15分乾燥させ、一定面積の厚みと重量から算出した。実施例2g、2i、2jおよび2kに示すように、同じ重合度で比較した場合、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が高くなると、粘度は高くなるが、乾燥密度が低下する傾向にある。乾燥密度が低下すると、焼成後に、電極の連続性や平滑性が悪くなるため、高い方が好ましい。
【0164】
【表2】

比較例2
【0165】
表2に示すように、内部電極用ペーストのバインダ樹脂として、エチルセルロース樹脂用い、Ni粒子を、内部電極用ペースト全体に対して、45質量%または50質量%の添加量(金属含有率)とした以外は、実施例1aと同様にして内部電極用ペーストを調整した。これらの比較例2における8%TPOラッカー粘度と、電極用ペーストの粘度とを、実施例2a〜2kと同様にして測定した結果を表2に示す。
【0166】
表2に示すように、比較例2に係るエチルセルロース系の電極用ペーストの樹脂量を固定して溶剤希釈によって金属含有量を50%から45%に低下させると、粘度が急激に低下してしまう。この粘度のペーストは従来の印刷工程では、にじみ等の不具合を生じる。
【0167】
Ni粒子の含有率が50質量%の場合には、エチルセルロース樹脂の場合でも粘度が高くなり、印刷は可能であるが、金属含有率が高くなることから、薄層化が困難となる。
実施例3a〜3i
【0168】
内部電極用ペーストにおいて、Ni粒子とセラミック粉体(共材)の合計100質量部に対して、ポリビニルブチラール樹脂の添加割合(PHP)を、表3に示すように、5.5〜2.0質量部に変化させた以外は、実施例1aと同様にして内部電極用ペーストを調整し、図3Bに示す積層体を作製し、乾式転写の可否を確認した。また、これらの各実施例における内部電極用ペーストを、ギャップ250μmのアプリケーターで塗膜にし、100℃で15分乾燥させ、その乾燥密度を測定した。乾燥密度の測定は、一定面積の厚みと重量から算出した。結果を表3に示す。
【0169】
【表3】

【0170】
表3に示すように、電極用ペースト中の樹脂量低下によって金属充填率が上がるため、電極用ペーストの乾燥密度は向上する。ただし樹脂量が顔料(Ni+共材)に対して少なすぎる場合、電極層の強度が低下し乾式転写工程で不具合を生じるため、3PHP以上の樹脂量が好ましい。
【0171】
すなわち、表3に示すように、ポリビニルアセタール樹脂の添加割合(PHP)が2.5質量部未満であると、乾式転写をしようとすると、支持体であるPETフィルムを剥離すると、電極層が内部破壊してPETに付着したまま、剥離されるという不具合が発生した。表3では、×として示した。乾式転写が可能だった実施例は、表3において、○で示した。なお、ポリビニルブチラール樹脂の添加割合(PHP)が5.5質量部より大きくなると、表3に示すように、乾式転写は可能であったが、ペースト乾燥密度が5.0g/cm以下の4.8g/cmとなり、積層して焼成した時に電極の途切れが多くなることから好ましくない。
【0172】
したがって、表3に示す結果から、ポリビニルブチラール樹脂は、Ni粒子とセラミック粉体の合計100質量部に対して2.5〜5.5質量部の範囲内であることが好ましいことが確認できた。
【0173】
また、次のようにして電極層の破断強度を測定した。すなわち、まず、図2Aに示すように、実施例3d〜3iに係る電極用ペーストを用いて形成された電極層12aの表面に接着層28を接着する前の段階で、キャリアシート20を剥がし、剥離層22と電極層12aとの積層体をそれぞれ準備した。各積層体の電極層側を二点で支持し、その支持点の中央位置から支持点と反対側からロッドで8mm/分の速度で押し、電極層12aが破壊される時の圧力を測定し、その圧力を破断強度(MPa)とした。
【0174】
Ni粒子とセラミック粉体との合計100質量部に対するポリビニルブチラール樹脂の添加割合[バインダ量PHP/(Ni+共材)]と破断強度との関係を、表3および図9に示す。表3および図9に示すように、ポリビニルブチラール樹脂の添加割合が増えるほど、破断強度が向上することが確認できた。乾式転写が可能な電極は、0.8MPa以上の破断強度を有し、0.8MPa以上の破断強度を得るには顔料に対して、2.5PHP以上のポリビニルブチラール樹脂の添加が必要である。
【0175】
以上説明してきたように、本発明によれば、グリーンシートおよび/または電極層の厚みが極めて薄い場合でも、乾式転写工法に耐え得る強度と接着力を持つ内部電極用ペーストを提供することが可能になる。その結果、シート間のデラミネーションや積層体の変形などを有効に防止することができ、電子部品の薄層化および多層化に適した内部電極用ペーストおよび電子部品の製造方法を提供することができる。
【図1】






【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極材粉体と、ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂を主成分とするバインダ樹脂と、溶剤とを有することを特徴とする内部電極用ペースト。
【請求項2】
可塑剤をさらに含み、前記可塑剤が、前記バインダ樹脂100質量部に対して、25質量部以上150質量部以下で含有する請求項1に記載の内部電極用ペースト。
【請求項3】
前記バインダ樹脂は、前記電極材粉体100質量部に対して2.5〜5.5質量部で含まれる請求項1または2のいずれかに記載の内部電極用ペースト。
【請求項4】
セラミック粉体をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内部電極用ペースト。
【請求項5】
前記バインダ樹脂は、前記電極材粉体およびセラミック粉体の合計100質量部に対して2.5〜5.5質量部で含まれる請求項4に記載の内部電極用ペースト。
【請求項6】
前記電極材粉体が、前記内部電極用ペースト全体に対して50質量%以下で含まれる請求項1〜5のいずれかに記載の内部電極用ペースト。
【請求項7】
前記ポリビニルブチラール樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂の重合度が1400以上3600以下である請求項1〜6のいずれかに記載の内部電極用ペースト。
【請求項8】
前記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が74モル%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の内部電極用ペースト。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の内部電極用ペーストを準備する工程と、
グリーンシートを成形する工程と、
前記内部電極用ペーストを用いて内部電極層を形成する工程と、
前記グリーンシートを、内部電極層を介して積層し、グリーンチップを得る工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、
を有する電子部品の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の内部電極用ペーストを用いて、第1支持シートの表面に電極層を形成する工程と、
前記電極層を、グリーンシートの表面に押し付け、前記電極層を前記グリーンシートの表面に接着する工程と、
前記電極層が接着されたグリーンシートを積層し、グリーンチップを形成する工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する電子部品の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/088675
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504188(P2005−504188)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004178
【国際出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】