説明

内面めっき方法及び内面めっき用補助極

【課題】管状被めっき物、特に大きく屈曲した管状被めっき物にも適用可能で、管内面に良好にめっきが施せる方法並びにそれに使用して好適な補助極を提供する。
【解決手段】めっき液にパイプ1を浸漬して電気めっきを施す場合において、パイプ1内には可撓性を有する線状の補助陽極21が挿通され、その補助陽極21の外周には合成樹脂糸を編んだ筒状網スペーサ22を嵌装して、パイプ1の内面と補助陽極21とが非接触状態となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状被めっき物、特に曲管の内面にめっきを施す場合に用いて好適な内面めっき方法及びそれに使用する補助極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気めっきは一般に、めっき用金属を溶解させためっき液中に電極と被めっき物とを浸漬し、電極を陽極、被めっき物を陰極として両者間に電流を流すことで行われる。ここで、被めっき物が管体であると、その内面側では電極から隠れた状態となって電流の流れが十分ではないために、外面に比べて極端にめっきの付きが悪くなる。
【0003】
上記問題の対策として、補助陽極を使用して電流分布を改善することが行われている。その際、例えば管体が真直な直管であれば、直管を縦向きに浸漬させつつその中空内に補助陽極を管壁と接触しないようにして同心状に通せば良いのであるが、管体が途中で屈曲した曲管の場合には対応できなかった。
【0004】
そこで出願人は、先の出願(特開平10−306398号)において、途中で屈曲した管体1内に可撓性を有する線状の補助陽極41を挿通し、その際、補助陽極41の外周に周面に開口を有する複数個の筒体からなる非導電性のスペーサ42を嵌装し、補助陽極41が管体1の内面に接触しないようにする内面めっき方法を提案した(図6参照)。
【0005】
このようなめっき方法では、補助陽極41は可撓性を有しているので、管体1の形状に倣って屈曲しつつその中空内に挿通され、しかもスペーサ42が設けられていることで、補助陽極41が直接に管体1の内面に接触することが避けられる。これにより、管体1の内面の電流分布が改善されて十分なめっき厚が得られるとともに、補助陽極41が接触することに起因するめっきの未着部分が生ずることもなく、良好な内面めっきを行うができる。また、格別な後加工も不要にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−306398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の方法では、屈曲の程度が比較的少ない管体の場合は対応できるものの、大きく屈曲された細い管体に対しては、屈曲部分でスペーサがつかえてしまい奥まで入っていかない場合があり、未だ改善の余地があった。
【0008】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は、管状被めっき物、特に大きく屈曲した管状被めっき物にも適用可能で、管内面に良好にめっきが施せる方法並びにそれに使用した好適な補助極を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本願発明の内面めっき方法は、めっき液に管状被めっき物を浸漬して電気めっきを施す場合において、前記管状被めっき物内には可撓性を有する線状の補助陽極が挿通され、その補助陽極の外周には合成樹脂糸を網目が開口するように編んでなる筒状網スペーサを嵌装して前記管状被めっき物の内面と前記補助陽極とが非接触状態となるようにしたところに特徴を有する。
【0010】
また、本願発明の内面めっき用補助極は、管状被めっき物の内周に挿通可能な可撓性を有する線状の補助陽極の外周に、合成樹脂糸を網目が開口するように編んでなる筒状網スペーサを嵌装したところに特徴を有する。
【0011】
前記補助陽極には、端部に電極金具に取り付けるための取付金具が設けられ、この取付金具には前記補助陽極の基端部を電気的導通可能にカシメ付ける第1カシメ部と、この第1カシメ部よりも前記補助陽極の先端寄りに位置して前記筒状網スペーサを前記補助陽極と共にカシメ付けて固定する第2カシメ部とが設けられるようにしてもよい。
【0012】
また、前記筒状網スペーサの先端には前記合成樹脂糸を溶融させて先細状に纏めたテーパ部が形成されて前記補助陽極の先端が覆わるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、可撓性を有する補助陽極の外周に嵌装されているのは合成樹脂糸を編んだ筒状網スペーサであるから、極めて柔軟性に富み、大きく屈曲した管状被めっき物に対しても途中でつかえて邪魔になることなく、管状被めっき物の奥方まで補助陽極を容易に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るめっき浴槽の概略断面図である。
【図2】ハンガの外観斜視図である。
【図3】ハンガにパイプを吊り下げた状態の側面図である。
【図4】補助極の一部切欠斜視図である。
【図5】補助極をパイプに挿通した状態の断面図である。
【図6】従来の補助極をパイプに挿通した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を図1ないし図5によって説明する。この実施形態では、自動車の燃料系統に使用されるフィラーパイプ1に亜鉛めっきを施す場合を例示している。このパイプ1は、鋼材を素材として、図5に示すように、入口2に続く直管部分の先が絞られたのち鋭角に屈曲された曲管状に形成されている。なお、パイプ1の入口2からは、めっき処理が不要な細管からなるガス抜き用の補助パイプ3が、分岐して予め溶接により接続されている。
【0016】
上記のようなパイプ1が、循環状に配されたラインに後記するハンガ5を介して吊り下げられ、ラインに沿って搬送される間に、脱脂、洗浄等の前処理工程、詳しくは後記する亜鉛めっき工程、洗浄、クロメート処理、乾燥等の後処理工程を順次に経て、めっき製品として取り出されるようになっている。
【0017】
上記したハンガ5は、図2,3に示すように、大まかには、陰極側フレーム6と陽極側フレーム14とを一体的に組み付けて構成されている。陰極側フレーム6は、パイプ1を引っ掛けて吊るすためのものであって、導電性の金属から縦長に形成され、その下端にパイプ1を引っ掛けるためのフック10が突設されているとともに、上端には吊り手11が形成されている。この陰極側フレーム6は、上記した吊り手11(図2において編目模様を付して示した部分)と、フック10のみが剥き出しとされており、その他の部分は絶縁塗装されている。吊り手11には、図3に示すように陰極バー12が嵌められ、この陰極バー12を介してハンガ5がラインに吊り下げられるようになっている。
【0018】
一方の陽極側フレーム14は、詳しくは後記する補助極20を吊り下げ状に取り付けるためのものであって、同じく導電性の金属から形成されている。この陽極側フレーム14の下端にはL字型に屈曲された取付部15が設けられ、そこにボルト16を螺合可能なねじ孔17が切られているとともに、上端には斜め方向に突出した接触片18が形成されている。陽極側フレーム14では、図2に網目模様を付して示した取付部15と接触片18のみが剥き出しとなっていて、その他の部分は絶縁塗装されている。
【0019】
そして、陰極側フレーム6と陽極側フレーム14とが重ねられてワイヤで縛る等によって互いに絶縁された状態で一体的に組み付けられている。
【0020】
次に補助極20について説明する。補助極20は、図4に示すように、多数本のステンレス鋼線を撚り合わせた金属ワイヤからなる補助陽極21とその周囲に嵌装された筒状網スペーサ22とを備える。補助陽極21は、上記したパイプ1の内周にクリアランスを持って挿通可能な外径を有し、かつ可撓性を有している。補助陽極21の一端側には接続金具23が設けられており、接続金具23にはボルト16の進入を許容するU字状の開口24が形成されているとともに、第1及び第2のカシメ部25,26が縦に並んで切り起こして形成されている。補助陽極21の基端部は、第1のカシメ部25にカシメ固定されて電気的に導通可能な状態で固定されている。
【0021】
筒状網スペーサ22は、6−6ナイロン等の合成樹脂糸を筒状に編むことにより形成され、網目は例えば各辺1mm程度の矩形状をなして開口されている。編まれた合成樹脂糸が互いに滑ることで、筒状網スペーサ22は自由に屈曲、伸縮することができる。この筒状網スペーサ22は補助陽極21の外周に嵌装され、補助陽極21の基端側において接続金具23の第2のカシメ部26内に補助陽極21とともに挿通されてかしめ固定されている。筒状網スペーサ22の先端側は、補助陽極21の先端を覆っており、その部分の合成樹脂糸を溶融させて先細状に纏めたテーパ部22Aとなっている。
【0022】
亜鉛めっき工程には、図1に示すように、めっき浴槽30が設置されている。めっき浴槽30内には、めっき液31が充填され、めっき浴槽30内の両側には、亜鉛板32が吊り下げ浸漬され、それぞれ図示しない電源供給装置の陽極に接続されている。上記したパイプ1を取り付けたハンガ5は、めっき浴槽30の中央部において上げ下げされて浸漬可能となっており、ハンガ5が浸漬された状態では、陰極側フレーム6と接続された陰極棒12が電源供給装置の陰極に導電接続されるようになっている。一方の陽極側フレーム14は、接触片18を介して電源供給装置の陽極と導電接続される。
【0023】
ハンガ5には、図3に示すように、補助陽極21の接続金具23がボルト16により陽極側フレーム14の取付部15に導電可能な状態で固定されることにより、パイプ1内を貫通させた補助極20が陽極側フレーム14に吊り下げられた状態となる。
【0024】
所定のラッキング位置において、ハンガ5にパイプ1がラッキングされる。その場合は、まず上記した補助極20の自由端がパイプ1内に入口2側から挿通される。そうすると、図5に示すように、補助陽極21が筒状網スペーサ22ともどもパイプ1の形状に倣って屈曲して通される。このとき、パイプ1内面には筒状網スペーサ22が部分的に接触するだけであって、補助陽極21がパイプ1の内面と直接に接触することはない。また、パイプ1が大きく屈曲している場合でも、本実施形態の筒状網スペーサ22は容易に屈曲可能であるから、パイプ1の屈曲部分で適宜屈曲・伸縮し、補助陽極21のパイプ1への挿入を妨げることなく補助陽極21とともに円滑にパイプ1内の所定位置に挿通される。
【0025】
補助極20がパイプ1内に挿通されたら、補助パイプ3をフック10に掛けることで、パイプ1が吊り下げ状に支持される。なお、パイプ1を上下2段に吊り下げる場合には、長尺の補助極を準備して、1本の補助極を上下のパイプ1にわたって通すようにすればよい。
【0026】
ラッキングが完了したら、ハンガ5並びにパイプ1はラインに沿って搬送され、パイプ1に対して、既述した脱脂、洗浄等の前処理工程、亜鉛めっき工程を行い、亜鉛めっき工程後に補助極20を抜き取り、その後、洗浄、クロメート処理、乾燥等の後処理工程を順次に経て、製品として完成する。
【0027】
このように、本実施形態の補助極20を使用する場合、大きく屈曲したパイプ1であっても、補助陽極21の外周に嵌装されている筒状網スペーサ22は引っかかり部分がなく滑りやすいから、パイプ1内に挿通する作業をきわめて円滑に行うことができる。
<他の実施形態>
【0028】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0029】
(1)上記実施形態では、筒状網スペーサ22の材料を6−6ナイロンとしたが、これに限らず、非導電性であって硬度や伸縮性が適するものであれば、どのような合成樹脂糸を使用しても良い。
【0030】
(2)また、筒状網スペーサ22の網目の大きさは、図面に例示したものに限らず、適宜変更することが可能である。
【0031】
(3)本発明は上記実施形態に例示したフィーラーパイプに限らず、曲管の内面めっき全般に広く適用することができる。
【0032】
(4)また、亜鉛めっき以外の電気めっき全般に適用可能である
【符号の説明】
【0033】
1…パイプ(管状被めっき物)
5…ハンガ
6…陰極側フレーム
10…フック
14…陽極側フレーム
15…取付部
16…ボルト
20…補助極
21…補助陽極
22…筒状網スペーサ
22A…テーパ部
23…取付金具
25…第1カシメ部
26…第2カシメ部
30…めっき浴槽
31…めっき液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液に管状被めっき物を浸漬して電気めっきを施す場合において、前記管状被めっき物内には可撓性を有する線状の補助陽極が挿通され、その補助陽極の外周には合成樹脂糸を網目が開口するように編んでなる筒状網スペーサを嵌装して前記管状被めっき物の内面と前記補助陽極とが非接触状態となるようにしたことを特徴とする内面めっき方法。
【請求項2】
管状被めっき物の内周に挿通可能な可撓性を有する線状の補助陽極の外周に、合成樹脂糸を網目が開口するように編んでなる筒状網スペーサを嵌装してなる内面めっき用補助極。
【請求項3】
前記補助陽極には、端部に電極金具に取り付けるための取付金具が設けられ、この取付金具には前記補助陽極の基端部を電気的導通可能にカシメ付ける第1カシメ部と、この第1カシメ部よりも前記補助陽極の先端寄りに位置して前記筒状網スペーサを前記補助陽極と共にカシメ付けて固定する第2カシメ部とが設けられていることを特徴とする請求項2記載の内面めっき用補助極。
【請求項4】
前記筒状網スペーサの先端には前記合成樹脂糸を溶融させて先細状に纏めたテーパ部が形成されて前記補助陽極の先端が覆われていることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の内面めっき用補助極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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