説明

円偏光板、円偏光板の製造方法、光学フィルム、液晶表示装置およびエレクトロルミネッセンス素子

【課題】円偏光板の層構造を簡略化することによって、厚みが抑えられ、高温、高湿条件下においても剥がれなどの不具合が生じることがなく、さらにはツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶層からなる光学異方素子の配向軸角度を偏光板の吸収軸に対して任意に設定して、長尺フィルム形態から連続的に貼り合わせ可能な円偏光板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】三酢酸セルロースフィルム上に配向した液晶層からなる光学異方素子と透光性保護フィルムとの間に偏光素子が挟持され、かつ、該光学異方素子が可視光域で略4分の1波長の位相差を有する光学異方素子から少なくとも構成される円偏光板であって、該液晶層がツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶フィルムを含むことを特徴とする円偏光板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶フィルムからなる円偏光板、その製造方法、該円偏光板を含む光学フィルムに関し、さらには、該円偏光板や光学フィルムを用いた液晶表示装置、あるいはまたは自発光の平面型ディスプレイの他、各種発光体や照明等に使用するエレクトロルミネッセンス素子(以下、EL素子という。)に関し、特に、視認性に優れた有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
円偏光板は、液晶表示装置、有機EL素子の画質向上に用いられるなど工業的に重要な役割を担ってきた。
例えば、液晶表示装置に円偏光板を適用する場合を紹介する。
液晶表示装置は、一般に、液晶セルを一対の直線偏光板で挟み、バックライトを利用して表示を行う透過型液晶表示装置、あるいは、バックライトの代わりに反射板を配置して、外光を利用して表示を行う反射型液晶表示装置が知られている。また、屋外では明るい反射表示が可能となり、かつ、暗い室内の環境下では良好な透過表示が可能となる液晶表示装置として、液晶セルの内部に入射光の一部を透過する半透過反射板を配置した液晶セルを一対の直線偏光板で挟み、かつバックライトを備えた半透過反射型液晶表示装置が提案されている(特許文献1)。バックライト非点灯の状態では、外光を利用した反射型(反射モード)として、暗い環境ではバックライトを点灯させた透過型(透過モード)として使用するものである。
この半透過反射型液晶表示装置では、反射モードにおいては、1枚の偏光板を利用して表示を行い、透過モードにおいては、2枚の偏光板を利用して表示を行うため、液晶セルに円偏光を入射させる必要があることから、位相差フィルムを両側の偏光板と液晶セルの間に配置させる必要がある。
【0003】
次に、有機EL素子に円偏光板を適用する場合を紹介する。
電極間に発光層を設け、これに電圧を印加して発光を生じるEL素子は、平面型照明、光ファイバー用光源、液晶ディスプレイ用バックライト、液晶プロジェクタ用バックライト、ディスプレイ装置等の各種光源として盛んに研究、開発が進められている。その中でも、特に、有機EL素子は、発光効率、低電圧駆動、軽量、低コストという点で優れており、近年極めて注目を浴びている素子である。
有機EL素子は、陰極から電子を、陽極から正孔を注入し、両者が発光層で再結合することにより、発光層の発光特性に対応した可視光線の発光を生じさせるものである。陽極には、現状使用することのできる透明導電性材料の中では最も電気伝導度が高く、比較的仕事関数が大きく、高い正孔注入効率が得られるという点から、専らITOが使用される。一方、陰極には、通常金属電極が使用されるが、電子注入効率を考慮し、仕事関数の観点から、Mg、MgAg、MgIn、Al、LiAl等の材料が使用される。これらの金属材料は、光反射率が高く、電極(陰極)としての機能の他に、発光層で発光した光を反射し、出射光量(発光輝度)を高める機能も担っている。すなわち、陰極方向に発光した光は、陰極である金属材料表面で鏡面反射し、透明なITO電極(陽極)から出射光として取り出されることになる。
【0004】
斯かる構造を有する有機EL素子は、陰極が光反射性の強い鏡面となっているため、発光していない状態では外光反射が著しく目立つことになる。即ち、室内照明の映り込みなどが激しく、明所では黒色が表現できなくなり、ディスプレイ装置用の光源として使用するには、明室コントラストが極端に低いという致命的な問題点を有する。
しかしながら、有機EL素子の陰極が、平滑な鏡面反射面であることを逆に利用すれば、円偏光板を設置することにより、陰極での外光反射を著しく抑制することが可能である。鏡面の外光反射防止に円偏光板を使用することは、既に公知の技術であり、有機EL素子に円偏光板を使用することも知られている(特許文献2〜3)。
【0005】
円偏光板は、一般に、偏光板と可視光域で4分の1波長の位相差を有する位相差フィルムを貼りあわせることにより、作製できることが知られている。しかし、位相差フィルムとそれを貼り合わせるための粘接着層の分だけ厚みが増し、円偏光板の製造工程でロールに巻き取る際に、1ロールあたりの巻き取り量が少なくなり生産性が悪くなるという問題や、最終製品の液晶パネルの厚みが増すという問題がある。また、異種の複数の層から構成されるため各層の熱や湿度による伸縮挙動の違いにより、偏光板と位相差フィルムの界面が高温または高湿条件下で剥がれる等の不具合が生じる場合があった。従来、位相差フィルムとしてはポリカーボネート等を一軸延伸配向させた高分子フィルムを用いるものがほとんどであり、長尺フィルム形態におけるそれらの配向軸は通常延伸方向すなわちMD方向に限られている。すなわち、延伸配向させた位相差フィルムでは、高分子の配向を自在にコントロールすることが困難であり光学特性の自由度に制限があった。一方、偏光板もポリビニルアルコール等の一軸延伸フィルムを使用しているため、長尺フィルム形態における吸収軸は通常MD方向に限られている。従って、偏光板と位相差フィルムを長尺フィルム形態から連続的に貼り合わせて楕円偏光板を製造する場合、偏光板の吸収軸と位相差フィルムの配向軸が平行の特殊な場合に限られていた。
【0006】
通常、吸収型直線偏光板と、1軸延伸フィルムからなる1/4波長板を組み合わせて円偏光板を形成する場合、それらの光軸が45度又は135度で交差するように積層させる必要がある。しかしながら、45度又は135度の交差角のように平行以外の軸配置にするためには、長尺フィルムからシート状に切り出して貼り合わせる必要があり、工程が煩雑で生産性が悪いという問題もあった。以上のように、偏光板の吸収軸と位相差フィルムの配向軸が様々な軸配置を有し、光学性能に優れた円偏光板への要求に対して十分に対応することができなかった。
【0007】
特許文献4および特許文献5においては、液晶性高分子化合物を配向固定化させた光学異方素子が提案されている。更に、特許文献6および特許文献7においては、ツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶フィルムからなる1/4波長板が提案されている。このような液晶性高分子化合物を用いた場合、配向軸角度が任意に設定できるため、長尺フィルム形態から連続的に貼り合わせて種々の円偏光板が製造可能である。しかし前述のように、円偏光板の厚みが増し、偏光板と光学異方素子の界面が高温または高湿条件下で剥がれる等の不具合が生じる場合があった。
【0008】
【特許文献1】特開平10−206846号公報
【特許文献2】特開平8−321381号公報
【特許文献3】特開平9−127885号公報
【特許文献4】特開平4−57017号公報
【特許文献5】特開平6−242317号公報
【特許文献6】特開平2002−48917号公報
【特許文献7】特開平2004−309904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、円偏光板の層構造を簡略化することによって、厚みが抑えられ、高温、高湿条件下においても剥がれなどの不具合が生じることがなく、さらにはツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶層からなる光学異方素子の配向軸角度を偏光板の吸収軸に対して任意に設定して、長尺フィルム形態から連続的に貼り合わせ可能な円偏光板と、その製造方法およびそれを使用した光学フィルム、液晶表示装置または自発光の平面型ディスプレイの他、各種発光体や照明等に使用する有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の第1は、三酢酸セルロースフィルム上に配向した液晶層からなる光学異方素子と透光性保護フィルムとの間に偏光素子が挟持され、かつ該光学異方素子が可視光域で略4分の1波長の位相差を有する光学異方素子から少なくとも構成される円偏光板であって、該液晶層がツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶フィルムを含むことを特徴とする円偏光板である。
【0011】
本発明の第2は、波長550nmの光に対する液晶フィルムの複屈折Δnと厚みd(nm)の積が、140nm以上300nm以下の範囲に設定され、かつねじれ角が30度以上85度以下の範囲に設定されていることを特徴とする本発明の第1に記載の円偏光板である。
【0012】
本発明の第3は、波長550nmの光に対する液晶フィルムの複屈折Δnと厚みd(nm)の積およびねじれ角の組み合わせが、(1)155nm以上175nm以下且つ40度以上50度以下、(2)176nm以上216nm以下且つ58度以上70度以下、または(3)230nm以上270nm以下且つ70度以上80度以下のいずれかの条件を満足するように設定されていることを特徴とする本発明の第2に記載の円偏光板である。
【0013】
本発明の第4は、前記液晶フィルムが、液晶材料を液晶状態においてツイステッドネマチック配向させ、その状態から冷却することにより該配向をガラス固定化した液晶フィルムであることを特徴とする本発明の第1〜3のいずれかに記載の円偏光板である。
本発明の第5は、前記液晶フィルムが、液晶材料を液晶状態においてツイステッドネマチック配向させ、光または熱による架橋反応により該配向を固定化した液晶フィルムであることを特徴とする本発明の第1〜3のいずれかに記載の円偏光板である。
【0014】
本発明の第6は、前記円偏光板の厚みが250μm以下であることを特徴とする本発明の第1〜5のいずれかに記載の円偏光板である。
本発明の第7は、前記光学異方素子が鹸化処理されていることを特徴とする本発明の第1〜6のいずれかに記載の円偏光板である。
本発明の第8は、前記液晶層の表面に透光性オーバーコート層が設けられていることを特徴とする本発明の第1〜7のいずれかに記載の円偏光板である。
本発明の第9は、透光性オーバーコート層がアクリル系樹脂からなることを特徴とする本発明の第8に記載の円偏光板である。
【0015】
本発明の第10は、液晶層の両側表面のいずれか一方の表面付近における液晶分子の配向方向が、MD方向と平行でないことを特徴とする本発明の第1〜9のいずれかに記載の円偏光板である。
本発明の第11は、光学異方素子、透光性保護フィルムおよび偏光素子が長尺フィルムの形態であることを特徴とする本発明の第1〜10のいずれかに記載の円偏光板である。
本発明の第12は、三酢酸セルロースフィルム上に液晶層を形成したのち、該液晶層の表面に透光性オーバーコート層を設けることによって光学異方素子を製造し、次いで該光学異方素子に鹸化処理を施し、しかる後に偏光素子を接着剤層を介して該光学異方素子と透光性保護フィルムに挟持されるように貼り合わせることを特徴とする本発明の第1〜11のいずれかに記載の円偏光板の製造方法である。
【0016】
本発明の第13は、本発明の第1〜11のいずれかに記載の円偏光板とコレステリック液晶フィルムからなる光学フィルムである。
本発明の第14は、液晶セルの少なくとも片側の面に、本発明の第1〜11のいずれかに記載の円偏光板が配置されていることを特徴とする液晶表示装置である。
本発明の第15は、液晶セルの少なくとも片側の面に、本発明の第13に記載の光学フィルムが配置されていることを特徴とする液晶表示装置である。
本発明の第16は、本発明の第1〜11のいずれかに記載の円偏光板を具備することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子である。
本発明の第17は、該円偏光板と発光層との間に光拡散層を有することを特徴とする本発明の第16に記載のエレクトロルミネッセンス素子である。
【0017】
本発明では、光学異方素子を偏光素子の保護フィルムとして用いることにより円偏光板を製造する。そうすることによって、偏光素子の両側が三酢酸セルロースフィルムで保護された偏光板に光学異方素子を貼合するよりも、円偏光板を構成する層数を減らすことができる。その結果として、熱あるいは湿度による各層の収縮ひずみの影響が小さくなり、貼り合わせた界面での剥がれ等の不具合をなくすことが可能である。ただし、通常の三酢酸セルロースフィルム上に液晶層を設けた光学異方素子では偏光素子と接着することが難しい。本発明では光学異方素子を鹸化することでその問題点を解決し、全体として、前記した本発明の目的を効果的に達成することが可能となった。
【0018】
以下、本発明を詳述する。
本発明の円偏光板に使用される光学異方素子の液晶層は、例えば、配向処理基板上で配向させた液晶高分子物質をガラス転移温度(Tg)以下に冷却し、配向を固定化することによって得られる。そのような液晶高分子物質としては、溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーが用いられる。使用されるサーモトロピック液晶ポリマーは、溶融状態(液晶状態)からガラス転移点(Tg)以下に冷却しても液晶相の分子配列状態が保持されることが必要である。
【0019】
液晶高分子物質の溶融時の液晶相は、スメクチック、ネマチック、ねじれネマチック、コレステリックなどのいずれの分子配列構造であってもよく、配向基板付近及び空気界面付近ではそれぞれホモジニアス配向及びホメオトロピック配向状態であり、液晶高分子物質の平均のダイレクターがフィルムの法線方向から傾斜しているいわゆるハイブリッド配向であってもよい。
【0020】
液晶高分子物質としては、各種の主鎖型液晶高分子物質、側鎖型液晶高分子物質、またはこれらの混合物等を用いることができる。主鎖型液晶高分子物質としては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリカーボネート系、ポリイミド系、ポリウレタン系、ポリベンズイミダゾール系、ポリベンズオキサゾール系、ポリベンズチアゾール系、ポリアゾメチン系、ポリエステルアミド系、ポリエステルカーボネート系、ポリエステルイミド系の液晶高分子化合物、またはこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも液晶性を与えるメソゲン基とポリメチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリシロキサン等の屈曲鎖とが交互に結合した半芳香族系ポリエステル系液晶高分子化合物や、屈曲鎖のない全芳香族系ポリエステル系液晶高分子化合物が本発明では望ましい。また側鎖型液晶高分子物質としては、ポリアクリレート系、ポリメタクリレート系、ポリビニル系、ポリシロキサン系、ポリエーテル系、ポリマロネート系、ポリエステル系等の直鎖状又は環状構造の骨格鎖を有する物質に側鎖としてメソゲン基が結合した液晶高分子物質、またはこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、骨格鎖に屈曲鎖からなるスペーサーを介して液晶性を与えるメソゲン基が結合した側鎖型液晶高分子物質や、主鎖および側鎖の両方にメソゲンを有する分子構造の液晶高分子物質が本発明では望ましい。
【0021】
また液晶材料としては、ツイステッドネマチック配向を誘起するために、当該材料中にカイラル剤を添加するか、少なくとも1種のカイラルな構造単位を有する各種液晶物質または非液晶物質を配合した液晶材料であることが特に望ましい。
カイラルな構造単位としては、例えば、光学活性な2−メチル−1,4−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−クロロ−1,4−ブタンジオール、2−フルオロ−1,4−ブタンジオール、2−ブロモ−1,4−ブタンジオール、2−エチル−1,4−ブタンジオール、2−プロピル−1,4−ブタンジオール、3−メチルヘキサンジオール、3−メチルアジピン酸、ナプロキセン誘導体、カンファー酸、ビナフトール、メントールあるいはコレステリル基含有構造単位またはこれらの誘導体(例えばジアセトキシ化合物などの誘導体)から誘導される単位を利用することができる。上記のジオール類はR体、S体のいずれでも良く、またR体およびS体の混合物であっても良い。なおこれら構造単位は、あくまでも例示であって本発明はこれによって何ら制限されるものではない。
【0022】
またオリゴマーや低分子液晶化合物であっても、架橋性基の導入あるいは適宜な架橋剤のブレンドによって、液晶状態で、あるいは液晶転移温度以下に冷却して配向固定化された状態で、熱架橋あるいは光架橋等の手段により高分子化できるものも液晶高分子物質に含まれる。また、ディスコチック液晶化合物であっても問題なく使用することができる。液晶高分子物質は通常、光学的に正または負の一軸性を示すものが用いられる。それらの光学特性は、光学異方素子に要求される機能によって適宜選択されるが、ねじれネマチック配向した高分子液晶層の場合は、正の一軸性を示す液晶高分子物質が好適に用いられる。
【0023】
前記低分子液晶化合物としては、シッフ塩基系、ビフェニル系、ターフェニル系、エステル系、チオエステル系、スチルベン系、トラン系、アゾキシ系、アゾ系、フェニルシクロヘキサン系、ピリミジン系、シクロヘキシルシクロヘキサン系、トリメシン酸系、トリフェニレン系、トルクセン系、フタロシアニン系、ポルフィリン系分子骨格を有する低分子液晶化合物、またはこれら化合物の混合物等が挙げられる。
【0024】
液晶高分子物質のTgは、配向固定化後の配向安定性に影響を及ぼすため、室温以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。Tgは、液晶高分子物質に用いられるモノマーの種類、モノマー比、重合条件等によって調節できるが、前記のような架橋手段によっても調節が可能である。
【0025】
三酢酸セルロースフィルムは基本的に透明支持フィルムとして用いられており、光学異方素子が主に色補償に使用される場合は、できるだけ光学異方性の小さいものが望ましい。視野角補償に用いられる場合には、高分子液晶層の光学特性を補完する光学特性を有するものを用いることができ、通常、光学的に負の一軸性また二軸性のものが用いられる。三酢酸セルロースフィルム上に高分子液晶層を形成する方法としては、配向処理をした三酢酸セルロースフィルム上に高分子液晶を配向させて、該フィルム上に高分子液晶層を直接形成する方法Aと、別の配向基板上で高分子液晶を配向させて高分子液晶層を形成させた後に、該層を三酢酸セルロースフィルム上に転写する方法Bがある。
【0026】
方法Aの場合、三酢酸セルロースフィルムに有機または無機の配向膜を設けたものが好適に用いられる。有機配向膜としてはポリビニルアルコールやポリイミド誘導体を挙げることができる。配向膜が設けられた面には、ラビング処理などの配向処理が施される。
【0027】
方法Bの場合、配向基板としては、例えばポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、ナイロンなどのポリアミド;ポリエーテルイミド;ポリエーテルケトン;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリケトン;ポリエーテルスルフォン;ポリフェニレンサルファイド;ポリフェニレンオキサイド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリ(メタ)アクリレート;ポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂で例示される高分子フィルムを使用することができる。また、高分子フィルムの表面に前記例示の他の樹脂からなる有機薄膜を形成してもよい。前記高分子フィルムは、ラビング処理などの配向処理が施されて配向基板に供せられる。前記のような配向基板は通常、光学等方性、透光性、物理特性の面から、光学異方素子に用いることが適切でない場合が多いため、高分子液晶層を三酢酸セルロースフィルム上に転写して光学異方素子を得る。
【0028】
上記のように、配向基板(以下、三酢酸セルロースフィルムを含む)上に高分子液晶を配向させるには通常ラビング処理が施される。以下、ラビング処理について、長尺フィルム形態で光学異方素子を作製する場合で説明する。ラビング処理は、長尺の配向基板のMD方向に対して所定の任意の角度で行うことができる。MD方向に対するラビング方向の角度は、光学異方素子の機能に応じて適宜設定されるが、色補償板としての機能が要求される場合は、通常、MD方向に対して斜め方向にラビングされるのが好ましい。斜め方向の角度としては、−45度〜+45度の範囲が好ましい。
【0029】
ラビング処理は任意の方法で行うことができるが、例えば、長尺フィルムをMD方向に搬送するステージ上に、長尺フィルムのMD方向に対して任意の角度でラビングロールを配置し、該フィルムをMD方向に搬送しながら該ラビングロールを回転させ、該フィルム表面をラビング処理する。ラビングロールとステージの移動方向が成す角度は自在に調整し得る機構であり、ラビングロールの表面には、適宜のラビング布材が貼付してある。
【0030】
次に、液晶高分子物質を配向基板のラビング処理面に接触させて高分子液晶層を形成する方法としては、例えば、液晶高分子物質を適宜の溶剤に溶解させた溶液を塗布・乾燥させる方法、あるいは、Tダイなどにより直接液晶高分子物質を溶融押し出しする方法などが挙げられる。膜厚の均一性などの点からは、溶液塗布して乾燥する方法が適当である。液晶高分子溶液の塗布方法としては、特に限定されず、例えばダイコート法、スロットダイコート法、スライドダイコート法、ロールコート法、バーコート法、浸漬引き上げ法などを採用することができる。
【0031】
塗布後、適宜な乾燥方法により溶剤を除去して未配向の高分子液晶層が形成される。次いで、所定温度で所定時間加熱して高分子液晶を配向させた後、Tg以下に冷却することにより配向が固定化された高分子液晶層を形成することができる。高分子液晶層の膜厚は、光学異方素子の機能が発揮される範囲であれば特に制限はなく、約0.05μm〜100μm、好ましくは約0.1μm〜30μmが適当である。高分子液晶層を配向基板から三酢酸セルロースフィルムに転写する場合、適宜の粘接着剤を用いて行うことができる。
【0032】
粘接着剤としては、透光性であって光学的に等方であれば任意のものが使用でき、アクリル系、エポキシ系、エチレン−酢酸ビニル系、ゴム系などを挙げることができるが、特に、アクリル系粘接着剤が好適に用いられる。三酢酸セルロースフィルム上に形成された配向の固定化された高分子液晶層は、その表面を保護するために、光硬化型、電子線硬化型または熱硬化型のアクリル系樹脂からなる透光性オーバーコート層が設けられる。高分子液晶層が架橋等による方法で形成されている場合は、透光性オーバーコート層を設ける必要がない場合もある。以上のようにして光学異方素子は作製されるが、特開平6−242317号公報、特開平10−339813号公報等に記載されている公知の方法により作製することができる。
【0033】
上記の光学異方素子は偏光素子と貼合されるが、貼合する前に鹸化処理が施される。鹸化処理は、通常アルカリ水溶液に接触させることによって行われる。アルカリ水溶液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが用いられ、アルカリ濃度としては、約0.1〜10質量%、好ましくは約0.5〜5質量%、さらに好ましくは約1〜3質量%程度の希薄溶液で十分である。処理条件としては、室温で1〜60分、好ましくは30分以下、さらに好ましくは15分以下の温和な条件で十分である。高分子液晶層にオーバーコート層が設けられていれば、鹸化処理工程において高分子液晶層が浸食されたり、損傷を受けたりすることはない。
【0034】
偏光素子としては、延伸したポリビニルアルコール(PVA)フィルムなどの基材に沃素や2色性色素などの偏光要素を吸着させたものが一般的に用いられる。偏光素子は一般的には両側を保護フィルムで挟まれて偏光板とされ、通常は、保護フィルムとして三酢酸セルロースフィルムが用いられる。本発明では、偏光素子の少なくとも片側に保護フィルムとして上記の光学異方素子を貼り合わせることにより、円偏光板を得ることができる。
偏光素子と光学異方素子とは、アクリル系、SBR系、あるいはシリコン系の粘着剤または接着剤によって貼り合わされる。光学異方素子は、透光性オーバーコート層が設けられた高分子液晶層側、三酢酸セルロースフィルム側のどちらでも偏光素子と貼り合わせることが可能であるが、三酢酸セルロースフィルム側と偏光素子を貼り合わせることが好ましい。
【0035】
本発明に使用される透光性保護フィルムとしては、上記の光学異方素子を用いることもできるが、複屈折の小さいゼオノア(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(日本ゼオン(株)製)、ARTON(JSR(株)製)、フジタック(富士写真フィルム(株)製)等の商品名で市販されている光学異方性の少ない透光性フィルムを用いることが好ましい。透光性保護フィルムの厚さは、一般には200μm以下であり、1〜100μmが好ましい。特に5〜50μmとするのが好ましい。透光性保護フィルムと偏光素子の貼り合わせは、光学異方素子を貼り合わせる場合と同様な方法で行われる。
【0036】
本発明の円偏光板は、偏光素子層および可視光域で略4分の1波長の位相差を有する光学異方素子から少なくとも構成される。光学異方素子は高分子液晶層を複数層積層しても良いが、1層でも十分な光学特性を得ることができる。
本発明の円偏光板を構成する光学異方素子は、ツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶フィルムを少なくとも含み、可視光域で略4分の1波長の位相差を有する。
【0037】
光学異方素子を構成する液晶フィルムとは、光学異方軸を有し、且つその一方の面から他方の面にかけて光学異方軸がねじれた構造を有するツイステッドネマチック配向構造を固定化したフィルムを意味する。従って、本液晶フィルムは、光学的に異方性を持った層をその光学異方軸が連続的にツイストするように多層重ね合わせたものと同等の特性を有し、通常のTN(ツイステッドネマチック)液晶セルやSTN(スーパーツイステッドネマチック)液晶セル等と同様に、リターデーション(=Δnd:複屈折Δnと厚みdの積で表される値)とねじれ角を有している。また配向構造が固定化されているとは、液晶フィルムを使用する条件下において配向構造が乱れず、保持されていることを意味する。同様の配向状態は液晶セルにおいても作製できるが、配向構造を固定化することで、液晶セルにおけるガラス等の基板が不要となり、軽量化、薄肉化、取扱い性の向上等が達成できる。また、前記液晶フィルムは、温度環境が変化するとリターデーションが変化し、元の温度に戻すとリターデーションも元に戻るといった温度補償型のものも好ましく使用できる。
【0038】
また液晶フィルムとしては、波長550nmの光に対する液晶フィルムの複屈折Δnと厚みd(nm)の積が、140nm以上300nm以下、かつねじれ角が30度以上85度以下であることが円偏光特性の点で望ましい。さらには、(1)155nm以上175nm以下かつ40度以上50度以下、(2)176nm以上216nm以下かつ58度以上70度以下、または(3)230nm以上270nm以下かつ70度以上80度以下、のいずれかの条件を満足する液晶フィルムが、上述した偏光素子と組み合わせ際に良好な円偏光特性を示すことから特に好ましい。なお、ねじれの向きには2種類あるが、右ねじれでも左ねじれでも構わない。
【0039】
本発明の円偏光板は、以上説明した偏光素子、三酢酸セルロースフィルム上に配向した液晶層からなる光学異方素子と透光性保護フィルムとから少なくとも構成される。なお本発明の円偏光板の厚さは、特に制限されるものではないが、通常300μm以下、好ましくは250μm以下、より好ましくは220μm以下、さらに好ましくは200μm以下にすることが可能である。
さらに本発明の円偏光板は、偏光素子、光学異方素子と透光性保護フィルムの他に、反射防止層、防眩処理層、ハードコート層、接着層、粘着層、光拡散層、光拡散性接着層等を1層または複数層含んでいても良い。
【0040】
以下に本発明の円偏光板を適用する液晶表示装置について説明する。
本発明の液晶表示装置は、前記円偏光板を少なくとも有する。液晶表示装置は一般的に、偏光板、液晶セル、および必要に応じて位相差補償板、反射層、光拡散層、バックライト、フロントライト、光制御フィルム、導光板、プリズムシート等の部材から構成されるが、本発明においては前記円偏光板を使用する点を除いて特に制限は無い。また前記円偏光板の使用位置は特に制限はなく、また、1カ所でも複数カ所でも良い。
【0041】
前記液晶表示装置に用いる偏光板は特に制限されず、前述した円偏光板に使用するものと同様の偏光素子から形成された偏光板を使用することができる。
液晶セルとしては特に制限されず、電極を備える一対の透明基板で液晶層を狭持したもの等の一般的な液晶セルが使用できる。
液晶セルを構成する前記透明基板としては、液晶層を構成する液晶性を示す材料を特定の配向方向に配向させるものであれば特に制限はない。具体的には、基板自体が液晶を配向させる性質を有していている透明基板、基板自体は配向能に欠けるが、液晶を配向させる性質を有する配向膜等をこれに設けた透明基板等がいずれも使用できる。また、液晶セルの電極は、公知のものが使用できる。通常、液晶層が接する透明基板の面上に設けることができ、配向膜を有する基板を使用する場合は、基板と配向膜との間に設けることができる。
前記液晶層を形成する液晶性を示す材料としては、特に制限されず、各種の液晶セルを構成し得る通常の各種低分子液晶物質、高分子液晶物質およびこれらの混合物が挙げられる。また、これらに液晶性を損なわない範囲で色素やカイラル剤、非液晶性物質等を添加することもできる。
【0042】
前記液晶セルは、前記電極基板および液晶層の他に、後述する各種の方式の液晶セルとするのに必要な各種の構成要素を備えていても良い。
前記液晶セルの方式としては、TN(Twisted Nematic)方式、STN(Super Twisted Nematic)方式、ECB(Electrically Controlled Birefringence)方式、IPS(In-Plane Switching)方式、VA(Vertical Alignment)方式、OCB(Optically Compensated Birefringence)方式、HAN(Hybrid Aligned Nematic)方式、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)方式、ハーフトーングレイスケール方式、ドメイン分割方式、あるいは強誘電性液晶、反強誘電性液晶を利用した表示方式等の各種の方式が挙げられる。
また、液晶セルの駆動方式も特に制限はなく、STN−LCD等に用いられるパッシブマトリクス方式、TFT(Thin Film Transistor)電極やTFD(Thin Film Diode)電極等の能動電極を用いるアクティブマトリクス方式、プラズマアドレス方式等のいずれの駆動方式であっても良い。
【0043】
前記液晶表示装置に用いる位相差補償板としては、透明性と均一性に優れたものであれば特に制限されないが、高分子延伸フィルムや、液晶からなる光学補償フィルムが好ましく使用できる。高分子延伸フィルムとしては、セルロース系、ポリカーボネート系、ポリアリレート系、ポリスルフォン系、ポリアクリル系、ポリエーテルスルフォン系、環状オレフィン系高分子化合物等からなる1軸又は2軸位相差フィルムを例示することができる。中でもポリカーボネート系がコスト面およびフィルムの均一性から好ましい。また、液晶からなる光学補償フィルムとは、液晶を配向させてその配向状態から生じる光学異方性を利用できるフィルムであれば特に制限されるものではない。例えば、ネマチック液晶、ディスコチック液晶、スメクチック液晶等を利用した各種光学機能性フィルム等、公知のものを使用することができる。
ここに例示した位相差補償板は、液晶表示装置を構成するにあたり、1枚のみの使用でも良いし、複数枚使用しても良い。また、高分子延伸フィルムと、液晶からなる光学補償フィルムの両方を使用することもできる。
【0044】
前記反射層としては、特に制限されず、アルミニウム、銀、金、クロム、白金等の金属やそれらを含む合金、酸化マグネシウム等の酸化物、誘電体の多層膜、選択反射を示す液晶、又はこれらの組み合わせ等を例示することができる。これら反射層は平面であっても良く、また曲面であっても良い。さらに反射層は、凹凸形状など表面形状に加工を施して拡散反射性を持たせたもの、液晶セルの観察者側と反対側の前記電極基板上の電極を兼備させたもの、反射層の厚みを薄くしたり、穴をあける等の加工を施すことで光を一部透過させるようにした半透過反射層であっても良く、またそれらを組み合わせたものであっても良い。
【0045】
前記光拡散層は、入射光を等方的あるいは異方的に拡散させる性質を有するものであれば、特に制限はない。例えば2種以上の領域からなり、その領域間に屈折率差をもつものや、表面形状に凹凸を付けたものが挙げられる。前記2種以上の領域からなり、その領域間に屈折率差をもつものとしては、マトリックス中にマトリックスとは異なる屈折率を有する粒子を分散させたものが例示される。前記拡散層はそれ自身が粘接着性を有するものであっても良い。
前記光拡散層の膜厚は、特に制限されるものではないが、通常10μm以上500μm以下であることが望ましい。
また光拡散層の全光線透過率は、50%以上であることが好ましく、特に70%以上であることが好ましい。さらに当該光拡散層のヘイズ値は、通常10〜95%であり、好ましくは40〜90%であり、さらに好ましくは60〜90%であることが望ましい。
【0046】
前記バックライト、フロントライト、光制御フィルム、導光板、プリズムシートとしては、特に制限されず公知のものを使用することができる。
本発明の液晶表示装置は、前記した構成部材以外にも他の構成部材を付設することができる。例えば、カラーフィルターを本発明の液晶表示装置に付設することにより、色純度の高いマルチカラー又はフルカラー表示を行うことができるカラー液晶表示装置を作製することができる。
【0047】
本発明における液晶表示装置としては、電極を備える一対の透明基板で液晶層を狭持した液晶セルと、該液晶セルの観察者側に配置された偏光板と、前記偏光板と前記液晶セルの間に配置される少なくとも1枚の位相差補償板と、観察者から見て前記液晶層よりも後方に設置された半透過反射層を少なくとも備える半透過反射型液晶表示装置であって、観察者から見て前記半透過反射層よりも後方に前記円偏光板を有するものが特に好ましい。このタイプの液晶表示装置では、円偏光板後方にバックライトを設置することで反射モードと透過モード両方の使用が可能となる。
例えば、液晶セルとしてSTN−LCD方式のものを使用した場合、前記位相差補償板として前記高分子延伸フィルムを2枚および/または前記液晶からなる光学補償フィルムを1枚用いたものが、良好な表示を得ることができることから望ましい。
【0048】
液晶からなる光学補償フィルムとしては、ツイステッドネマチック配向構造を固定化した光学補償フィルムが特に好ましい。この光学補償フィルムのリターデーションとねじれ角の組み合わせは、使用する液晶セルのリターデーションとねじれ角にも依存することから一概には言えないが、通常、400nm以上1200nm以下かつ150度以上220度以下、より好ましくは、500nm以上1000nm以下かつ160度以上210度以下、さらに好ましくは600nm以上850nm以下かつ170度以上200度以下であることが望ましい。また光学補償フィルムのねじれの向きは、液晶セルのねじれの向きと逆であることが好ましい。また前記液晶表示装置は、前記偏光板と液晶セルの間に拡散層を設けるか、拡散反射性の半透過反射層を液晶セルの電極に用いたものが良好な表示特性を与えることから望ましいと言える。
【0049】
その他の液晶表示装置としては、ECB、TN−LCD方式の液晶セルを使用した反射型もしくは半透過型液晶表示装置が挙げられる。TN−LCD方式の液晶セルのねじれ角としては、通常0度以上85度以下、好ましくは0度以上80度以下、さらに好ましくは0度以上70度以下のものが、本発明の円偏光板と組み合わせた際に良好な表示特性を与えることから望ましいと言える。
【0050】
次いで、本発明の円偏光板をコレステリック液晶フィルムと積層した光学フィルムについて説明する。
該光学フィルムは、偏光素子、1/4波長板、コレステリック液晶フィルムの順に積層することにより輝度向上機能を有する直線偏光板を形成する。
コレステリック液晶フィルムは、輝度向上フィルムに使用される各種のものを特に制限なく使用できる。コレステリック液晶フィルムは、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持したものの如き、左回り又は右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すものなどが挙げられる。コレステリック液晶フィルムとしては、例えば、可視光の少なくとも一部の帯域において円偏光二色性を示すものや、可視光の200nm以上の帯域において円偏光二色性を示すものが用いられる。コレステリック液晶フィルムは、光学活性基含有モノマーをモノマーユニットとして含有するコレステリック液晶ポリマーにより形成することができる。光学活性基を含有するモノマーユニットの含有率に基づいてコレステリック液晶のピッチが変化するため、前記モノマーユニットの含有率により円偏光二色性を制御することができる。コレステリック液晶フィルムの厚さは、通常0.5〜30μmであることが好ましく、特に2〜15μmであることが好ましい。なおコレステリック液晶フィルムには前記液晶ポリマー以外のポリマーや安定剤、可塑剤などの無機化合物、有機化合物、金属やその化合物などの1種以上の添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0051】
コレステリック液晶フィルムは、反射波長が相違するものの組み合わせにして2層又は3層以上重畳した配置構造とすることにより、可視光領域等の広い波長範囲で円偏光を反射するものを得ることができ、それに基づいて広い波長範囲の透過円偏光を得ることができる。
本発明の円偏光板をコレステリック液晶フィルムと積層した光学フィルムは、1/4波長板とコレステリック液晶フィルムから構成される積層体が輝度向上機能を有し、偏光素子が直線偏光板の機能を有するため、1/4波長板とコレステリック液晶フィルムから構成される積層体を輝度向上フィルムと定義する。
【0052】
偏光素子と輝度向上フィルムを積層した偏光板は、通常液晶セルの裏側サイドに設けられて使用される。輝度向上フィルムは、液晶表示装置などのバックライトや裏側からの反射などにより自然光が入射すると所定偏光軸の直線偏光または所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを偏光素子と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得ると共に、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光を更にその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上フィルムに再入射させ、その一部又は全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図ると共に、偏光子に吸収させにくい偏光を供給して液晶表示画像表示等に利用しうる光量の増大を図ることにより輝度を向上させうるものである。
【0053】
すなわち、輝度向上フィルムを使用せずに、バックライトなどで液晶セルの裏側から偏光子を通して光を入射した場合には、偏光子の偏光軸に一致していない偏光方向を有する光は、ほとんど偏光子に吸収されてしまい、偏光子を透過してこない。すなわち、用いた偏光子の特性によっても異なるが、およそ50%の光が偏光子に吸収されてしまい、その分、液晶画像表示等に利用しうる光量が減少し、画像が暗くなる。輝度向上フィルムは、偏光子に吸収されるような偏光方向を有する光を偏光子に入射させずに輝度向上フィルムで一旦反射させ、更にその後ろ側に設けられた反射層等を介して反転させて輝度向上フィルムに再入射させることを繰り返し、この両者間で反射、反転している光の偏光方向が偏光子を通過し得るような偏光方向になった偏光のみを、輝度向上フィルムは透過させて偏光子に供給するので、バックライトなどの光を効率的に液晶表示装置の画像の表示に使用でき、画面を明るくすることができる。
【0054】
次いで本発明の円偏光板を適用する有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えば、トリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0055】
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0056】
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0057】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0058】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
位相差板および偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板を1 /4 波長板で構成し、かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4 に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0059】
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが、とくに位相差板が1 /4 波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4 のときには円偏光となる。
この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差板に再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の円偏光板は、光学異方素子と偏光素子との貼り合わせ工程において、高分子液晶層に損傷が起こり難く、光学異方素子の接着性に優れ、各種の液晶表示装置用、有機EL表示装置などの画像表示装置のフィルムとして有用である。さらに円偏光板を構成するラミネート層の数が少ないために、促進耐久性試験において界面で剥がれや泡の発生がない。偏光素子との貼り合わせ工程においても、長尺フィルム形態で貼合することができるために、従来法より貼合工程が合理化できる利点がある。
【実施例】
【0061】
以下、参考例、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本実施例におけるリターデーション(Δnd)は特に断りのない限り波長550nmにおける値とする。
また、実施例中に記載した対数粘度は、ウベローデ型粘度計を用い、フェノール/テトラクロロエタン(60/40質量比)混合溶媒中、30℃で測定した。
【0062】
<参考例1>
ねじれ角とリターデーションをパラメータとするねじれ構造をもつ位相差板(ねじれ位相差板)の中で、偏光板と組み合わせることで円偏光板として機能するパラメータ群を探索した。偏光板、ねじれ位相差板および鏡面からなる積層体では、円偏光は鏡面で反射した場合に該円偏光の回転方向が反転するため、偏光板側より垂直に光を入射した場合の反射率は理想的には0となる。この原理を用いて、偏光板、ねじれ位相差板および鏡面からなる積層体において、偏光板の吸収軸方位、ねじれ位相差板のねじれ角度およびリターデーションをパラメータとした組み合わせ計算を拡張ジョーンズ法で行った。計算結果の中から、反射率を視感度補正を施した明るさY値で評価し、公知のねじれの無い一軸性のλ/4波長板を用いた場合と同程度までY値が暗くなる組み合わせを抽出した。その結果、波長550nmの光に対するねじれ位相差板のリターデーションが、140nm以上300nm以下の範囲にあり、且つねじれ角が30度以上85度以下の範囲にある場合、良好な円偏光特性をもつことを見いだした。さらには、表1で示す3つの組み合わせを中心とするパラメータ群で特に良好な円偏光特性を示すことを見いだした。
【0063】
【表1】

【0064】
なお、本参考例においては、偏光板と接する側のねじれ位相差フィルムの光軸を0度とし、偏光板側から鏡面側に向かって反時計回り方向の角度を+とし、時計回り方向を−としている。
Y値は、本発明の円偏光板により得られる円偏光の偏光度を反映したものであるため、該Y値の上限値は、本発明の円偏光板を適用する用途や目的に依存し、一概に規定することは出来ないが、パラメータ群の範囲としては、表2に示す範囲にあることが好ましく、表3に示す範囲にあることがさらに好ましい。この範囲を超えた場合には十分な円偏光特性が得られなくなる可能性がある。
【0065】
【表2】

【表3】

【0066】
<実施例1>
(高分子溶液Aの調整)
テレフタル酸50mmol、2,6−ナフタレンジカルボン酸50mmol、メチルヒドロキノンジアセテート40mmol、カテコールジアセテート60mmol、およびN−メチルイミダゾール60mgを用いて窒素雰囲気下、270℃で12時間重合を行った。次に得られた反応生成物をテトラクロロエタンに溶解したのち、メタノールで再沈殿を行って精製し、液晶性ポリエステル14.7gを得た。この液晶性ポリエステル(ポリマー1)の対数粘度は0.17(dl/g)、液晶相としてネマチック相をもち、等方相−液晶相転移温度は250℃以上、ガラス転移点は115℃であった。
ビフェニルジカルボニルクロリド90mmol、テレフタロイルクロリド10mmol、S−2−メチル−1,4−ブタンジオール105mmolをジクロロメタン中で室温にて20時間反応させ、反応液をメタノール中に投入し再沈殿させることにより液晶性ポリエステル12.0gを得た。この液晶性ポリエステル(ポリマー2)の対数粘度は0.12であった。
ポリマー1の19.82gとポリマー2の0.18gからなる混合ポリマーを20質量%になるようにN−メチルピロリドンに溶解し高分子溶液Aを調製した。
【0067】
(光学異方素子Bの作製)
650mm幅、厚み100μmの長尺のPEEKフィルムを搬送しながら、レーヨン布を巻き付けた150mmφのラビングロールを斜めに設定し、高速で回転させることにより連続的にラビングを行い、ラビング角度25°の配向基板フィルムを得た。ここで、ラビング角度はラビング面を上からみたときにMD方向から反時計回り方向の角度とする。前記高分子溶液Aを、前記配向基板フィルム上に、ダイコーターを用いて連続的に塗布・乾燥し、未配向の高分子液晶層を形成した後、200℃×10分間加熱処理をして液晶高分子物質を配向させ、次いで室温に冷却して配向を固定化した。この高分子液晶層は、ねじれネマチック配向しており、ねじれ角は−64度、Δndは196nmであった。この高分子液晶層を鹸化処理していない厚さ40μmの三酢酸セルロースフィルムに紫外線硬化型アクリル系接着剤を用いて転写した(PEEKフィルムは剥離除去)。表面保護のために同じアクリル系接着剤を高分子液晶層表面に塗布したのち硬化させて透光性オーバーコート層を設けた。以上のようにして総膜厚が約60μmの光学異方素子Bを得た。
【0068】
(円偏光板Cの作製)
光学異方素子Bを室温で、2質量%水酸化カリウム水溶液中に5分間浸漬して鹸化処理を行い、流水中で洗浄した後乾燥させた。延伸したポリビニルアルコールに沃素を吸着させた偏光素子の一方の面に、アクリル系接着剤を用いて、鹸化した光学異方素子Bを高分子液晶層が外側となるように連続的に貼り合わせた。また偏光素子の他方の面には鹸化した三酢酸セルロースフィルムを貼り合わせ本発明の円偏光板Cを作製した。総膜厚は約130μmであり、通常のものよりも薄くすることが出来た。この円偏光板Cをエリプソメーター((株)溝尻光学工業所製DVA−36VWLD)で偏光解析したところ、波長550nmにおける楕円率が0.94であり、良好な円偏光特性を持つ円偏光板であることが確認できた。この円偏光板Cを光学検査したところ高分子液晶層にシミや傷などの損傷は見られなかった。この円偏光板Cの光学異方素子B側をアクリル系粘着剤を介してガラス板に貼り付け、60℃90%RHの恒温恒湿槽に入れ、500時間経過後に取り出して観察したところ、剥がれや泡の発生などの異常は一切認められなかった。
【0069】
<実施例2>
実施例1で得た円偏光板を用いて、図1に示したような配置でSTN型の半透過反射型液晶表示装置を作製した。ここで本実施例においては、偏光板1側から液晶セル3側に向かって反時計回り方向を+とし、時計回り方向を−として装置を作製し、実験を行ったが、偏光板1から液晶セル3側に向かって時計回り方向を+、反時計回り方向を−として同様な実験を行っても全く同様の結果が得られることを先に付言する。
図1に示される通り、液晶セル3は、対向する一対の基板3Dと、その観察者側の面上に設けられた上電極3Bと、観察者とは反対側の面上に設けられた半透過反射性を持つ電極3Cと、それらの上に印刷形成され、配向処理が施された配向膜3Fとを備える。配向膜3Fと、基板周辺に印刷塗布形成したシール剤3Eにより規定される空間内に液晶物質が封入され液晶層3Aが形成される。
【0070】
上記STN型半透過反射型液晶表示装置の各構成部材における角度θ1〜θ7の関係を図2に示す。
図2において、液晶層3Aの、偏光板1側の面上における配向方向31と、円偏光板4側の面上における配向方向32とは、角度θ1をなしている。位相差補償板2の、偏光板1側の面上における配向軸の向き21と、液晶セル側の面上における配向軸の向き22とは、角度θ2をなしている。光学異方素子4Aの偏光板1側の面上における配向軸の向き41と、偏光板4B側の面上における配向軸の向き42とは、角度θ6をなしている。また、偏光板1の吸収軸11と、位相差補償板2の偏光板1側の面上における配向軸の向き21とは角度θ3をなし、偏光板1の吸収軸11と、液晶層3Aの偏光板1側の面上における配向方向31とは角度θ4をなしている。また、円偏光板4中の光学異方素子4Aの液晶セル側面上における配向方向41は、偏光板1の吸収軸11と角度θ5をなし、偏光板4Bの吸収軸43は偏光板1の吸収軸11と角度θ7をなしている。
【0071】
液晶材料としてZLI−2293(メルク社製)を用い、配向膜3Fの配向処理方向を調節することにより液晶層3Aを所定の方向に配向させ、θ1=+250度にツイストさせた。また、液晶セル3中の液晶物質の屈折率異方性△nと液晶層3Aの厚みdとの積△ndは略800nmであった。
液晶セル3の表示面側(図の上側)に偏光板1(厚み約180μm;住友化学工業(株)製SQW−862)を配置し、偏光板1と液晶セル3との間にツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶フィルムからなる位相差補償板2を配置した。この位相差補償板2は実施例1の光学異方素子Bと同様の手法で作製した。位相差補償板2の△ndは略670nm、ねじれ角はθ2=−190度であった。この時、偏光板1の吸収軸から位相差補償板2の偏光板側の面上における配向軸への角度θ3=+20度、偏光板1の吸収軸から液晶層3Aの偏光板側の面上における配向方向への角度θ4=+105度とした。
【0072】
また、実施例1で作製した円偏光板Cを、図1で定義した円偏光板4として、観察者から見て液晶セルの後方に配置した。円偏光板4は、偏光板4Bとツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶フィルムからなる光学異方素子4A(△nd=196nm、ねじれ角はθ6=−64度)からなるが、偏光板1の吸収軸から光学異方素子4Aの液晶セル側の面上における配向軸への角度θ5=+35度、偏光板1の吸収軸から偏光板4Bの吸収軸への角度θ7=+60度とした。
さらに、位相差補償板2と液晶セル3の間は光拡散特性を有する粘着層5(全光線透過率90%、ヘイズ値80%)を配置し、偏光板1と位相差補償板2および液晶セル3と円偏光板4の間には通常の透明な粘着層を配置した。
【0073】
上記の液晶表示装置に、駆動回路(図示せず)から電極3B、3Cに駆動電圧を印加し(1/240デューティー、最適バイアスで駆動)、バックライトを配置してバックライト非点灯時(反射モード)および点灯時(透過モード)の光学特性を調べたところ、反射モード、透過モードとも明るく高コントラストの表示ができた。特に透過モードにおいて良好な視野角特性を持っていることが分かった。
本実施例では、カラーフィルターの無い形態で実験を行ったが、液晶セル中にカラーフィルターを設ければ、良好なマルチカラー、またはフルカラー表示ができることは言うまでもない。また、本実施例では、位相差補償板としてポリカーボネート製の2軸性の位相差フィルム2枚を用いても良好な表示を行うことができる。
【0074】
<実施例3>
三酢酸セルロースフィルム(80μm)上に、400〜700nmの帯域において円偏光二色性を示すコレステリック液晶層(5μm)を形成したものを用い、当該液晶層上に、実施例1で得られた円偏光板Cの光学異方素子B側をアクリル系粘着剤により形成された粘着剤層(25μm)を介して貼り合せて、輝度向上フィルムを有する直線偏光板Dを作製した。
このようにして得られた輝度向上機能付直線偏光板Dを、バックライト、下偏光板、液晶セル、上偏光板の順で配置された市販の液晶ディスプレイの、下偏光板の代わりに用い、図3に示すように、バックライト、輝度向上フィルム(コレステリック液晶フィルム、光学異方素子B)、下偏光板、液晶セル、上偏光板の順になるように配置した。その結果、輝度向上フィルムを用いなかった場合に比べ、30%の輝度向上率を持つ明るい画像が得られることが分かった。
【0075】
<実施例4>
実施例1で作製した円偏光板Cを、図4で定義する円偏光板23として、市販の有機ELディスプレイの有機EL素子28の透明ガラス基板24上にアクリル系粘着剤を介して貼着し、有機EL素子を作成した。その結果、円偏光板を配置しない場合に比べ、大幅な外光反射防止効果を発揮し、視認性の優れた有機EL素子が得られることが分かった。
【0076】
<比較例1>
鹸化処理をした厚さ40μmの三酢酸セルロースフィルムにアルキル変性ポリビニルアルコールを塗布、乾燥させ、次に光学異方素子Bの作製に使用した方法でラビング処理をしてラビング角度25°の配向フィルムを得た。前記の高分子溶液Aを、上記ラビング処理をした三酢酸セルロース長尺フィルムに塗布し、乾燥後加熱配向処理をして高分子液晶層を配向固定化した。この高分子液晶層は、ねじれネマチック配向しており、ねじれ角は−64度、Δndは196nmであった。表面保護のために紫外線硬化型アクリル系接着剤を高分子液晶層側に塗布して、総膜厚が約60μmの光学異方素子Eを得た。
実施例1に準拠して偏光素子の片側に光学異方素子Eを高分子液晶層が外側となるように貼り合わせ、もう一方の側には鹸化した三酢酸セルロースフィルムを貼り合わせた円偏光板Fを得た。この円偏光板Fをエリプソメーター((株)溝尻光学工業所製DVA−36VWLD)で偏光解析したところ、波長550nmにおける楕円率が0.94であり、良好な円偏光特性を持つ円偏光板であることが確認できた。この円偏光板Fの光学異方素子E側にアクリル系粘着剤を塗布しガラス板に貼り付けて、実施例1と同様の試験を行ったところ、100時間経過後に偏光素子と光学異方素子Eの三酢酸セルロース面との間に剥がれが認められた。
【0077】
<比較例2>
光学異方素子B作製例において表面保護のためのアクリル系接着剤を高分子液晶層に塗布しないほかは全く同じ操作で光学異方素子Gを得た。この高分子液晶層は、ねじれネマチック配向しており、ねじれ角は−64度、Δndは196nmであった。
光学異方素子Gを室温で、2質量%水酸化カリウム水溶液中に5分間浸漬して鹸化処理を行い、流水中で洗浄した後乾燥させた。実施例1に準拠して偏光素子の片側に光学異方素子Gを高分子液晶層が外側となるように配し、もう一方の側には鹸化した三酢酸セルロースフィルムを貼り合わせた円偏光板Hを得た。この円偏光板Hをエリプソメーター((株)溝尻光学工業所製DVA−36VWLD)で偏光解析したところ、波長550nmにおける楕円率が0.94であり、良好な円偏光特性を持つ円偏光板であることが確認できた。この円偏光板Gの光学検査を行ったところ、高分子液晶層の損傷によると思われるシミや傷が多数発生していた。
【0078】
<比較例3>
延伸したポリビニルアルコールに沃素を吸着させた偏光素子の両側に、アクリル系接着剤を用いて、鹸化した三酢酸セルロースフィルムを貼り合わせて偏光板を作製した。光学異方素子Bを鹸化処理することなく、その高分子液晶層側をアクリル系粘着剤を介してこの偏光板に連続的に貼合して円偏光板Iを作製した。この円偏光板Iは厚さ約200μmと厚く、巻き厚が大きくなるために一回の操作での処理長さは実施例1の円偏光板の作製に比べて短くならざるを得なかった。円偏光板Iの光学異方素子B側にアクリル系粘着剤を塗布しガラス板に貼りつけて、実施例1と同様の試験を行ったところ、500時間経過後に端部に0.5mmの剥がれが認められた。
【0079】
<比較例4>
厚み40μmの三酢酸セルロースフィルムを用いて比較例3のようにして作製された偏光板(厚み110μm)と厚み70μmのポリカーボネート製の一軸位相差フィルム(Δnd=137.5nm)を約25μmの粘着層を用いてラミネートし、円偏光板Jを得た。この円偏光板Jを用いて、実施例2と同様の液晶表示装置を作製した。この時一軸位相差フィルムと表示側偏光板1との角度θ5=15度(θ6=0度に相当)、偏光板1の吸収軸から偏光板4Bの吸収軸への角度θ7=+60度とした。
上記の液晶表示装置に、駆動回路(図示せず)から電極3B、3Cに駆動電圧を印加し(1/240デューティー、最適バイアスで駆動)、バックライト非点灯時(反射モード)および点灯時(透過モード)の光学特性を調べたところ、透過モードにおいてコントラストがやや低く、視野角特性も狭いことが分かった。また、液晶表示装置の厚みの点でも実施例2よりも厚いものとなってしまった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例2の液晶表示装置を模式的に示す立面断面図である。
【図2】実施例2の液晶表示装置における偏光板の吸収軸や液晶セル、光学補償板、円偏光板の軸角度関係を示す平面図である。
【図3】実施例3で用いた液晶ディスプレイの概念図である。
【図4】実施例4で用いた有機ELディスプレイの概念図である。
【符号の説明】
【0081】
1 偏光板
2 位相差補償板
3 液晶セル
3A 液晶層
3B 電極
3C 半透過反射性電極
3D 基板
3E シール剤
3F 配向膜
4 円偏光板
4A 光学異方素子
4B 偏光板
5 光拡散性粘着層
11 観察者側の偏光板1の吸収軸
21 位相差補償板の偏光板1側の配向軸
22 位相差補償板の液晶セル3側の配向軸
31 液晶層3Aの偏光板1側の面上における配向方向
32 液晶層3Aの円偏光板4側の面上における配向方向
41 光学異方素子4Aの液晶セル3側面上における配向方向
42 光学異方素子4Aの偏光板4B側面上における配向方向
43 偏光板4Bの吸収軸
6 上偏光板
7 液晶セル
8 下偏光板
9 1/4波長板
10 三酢酸セルロースフィルム
11 コレステリック液晶フィルム
12 輝度向上フィルム
13 拡散板
14 集光シート
15 集光シート
16 拡散板
17 導光板
18 反射板
19 ランプ
20 バックライト
21 偏光板
22 1/4波長板
23 円偏光板
24 透明ガラス基板
25 陽極
26 発光層
27 陰極
28 有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三酢酸セルロースフィルム上に配向した液晶層からなる光学異方素子と透光性保護フィルムとの間に偏光素子が挟持され、かつ該光学異方素子が可視光域で略4分の1波長の位相差を有する光学異方素子から少なくとも構成される円偏光板であって、該液晶層がツイステッドネマチック配向構造を固定化した液晶フィルムを含むことを特徴とする円偏光板。
【請求項2】
波長550nmの光に対する液晶フィルムの複屈折Δnと厚みd(nm)の積が、140nm以上300nm以下の範囲に設定され、かつねじれ角が30度以上85度以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1記載の円偏光板。
【請求項3】
波長550nmの光に対する液晶フィルムの複屈折Δnと厚みd(nm)の積およびねじれ角の組み合わせが、(1)155nm以上175nm以下且つ40度以上50度以下、(2)176nm以上216nm以下且つ58度以上70度以下、または(3)230nm以上270nm以下且つ70度以上80度以下のいずれかの条件を満足するように設定されていることを特徴とする請求項2記載の円偏光板。
【請求項4】
前記液晶フィルムが、液晶材料を液晶状態においてツイステッドネマチック配向させ、その状態から冷却することにより該配向をガラス固定化した液晶フィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の円偏光板。
【請求項5】
前記液晶フィルムが、液晶材料を液晶状態においてツイステッドネマチック配向させ、光または熱による架橋反応により該配向を固定化した液晶フィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の円偏光板。
【請求項6】
該円偏光板の厚みが250μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の円偏光板。
【請求項7】
該光学異方素子が鹸化処理されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の円偏光板。
【請求項8】
液晶層の表面に透光性オーバーコート層が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載の円偏光板。
【請求項9】
透光性オーバーコート層がアクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項8記載の円偏光板。
【請求項10】
液晶層の両側表面のいずれか一方の表面付近における液晶分子の配向方向が、MD方向と平行でないことを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の円偏光板。
【請求項11】
光学異方素子、透光性保護フィルムおよび偏光素子が長尺フィルム形態であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかの項に記載の円偏光板。
【請求項12】
三酢酸セルロースフィルム上に液晶層を形成したのち、該液晶層の表面に透光性オーバーコート層を設けることによって光学異方素子を製造し、次いで該光学異方素子に鹸化処理を施し、しかる後に偏光素子を接着剤層を介して該光学異方素子と透光性保護フィルムに挟持されるように貼り合わせることを特徴とする請求項1〜11のいずれかの項に記載の円偏光板の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかの項に記載の円偏光板とコレステリック液晶フィルムからなる光学フィルム。
【請求項14】
液晶セルの少なくとも片側の面に、請求項1〜11のいずれかの項に記載の円偏光板が配置されていることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項15】
液晶セルの少なくとも片側の面に、請求項13に記載の光学フィルムが配置されていることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれかの項に記載の円偏光板を具備することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項17】
該円偏光板と発光層との間に光拡散層を有することを特徴とする請求項16に記載のエレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−3824(P2007−3824A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183822(P2005−183822)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】