説明

円形加速器および円形加速器の運転方法

【課題】1台の加速器で加速エネルギーを容易に変えることができ、加速中は高周波加速電極部の共振周波数の変更は不要な円形加速器を提供すること。
【解決手段】偏向磁場を形成する偏向電磁石と、荷電粒子の周回周波数に合わせて高周波電界を発生させるための高周波電源と、この高周波電源に接続された高周波電磁界結合部と、この高周波電磁界結合部に接続された加速電極と、荷電粒子の周回方向に高周波電界を発生する加速ギャップを、加速電極との間に形成するよう設けられた加速電極対向接地板とを備え、荷電粒子の周回周波数が、荷電粒子の入射から出射までの間に、荷電粒子の出射部分における周回周波数に対して、0.7%以上、24.7%以下の変化量で変化する偏向磁場を、偏向電磁石が生成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子を概円形の螺旋軌道を周回させながら高エネルギーまで加速を行ない、加速された荷電粒子を外部に出射する円形加速器に関する。
【背景技術】
【0002】
螺旋軌道を周回させながら荷電粒子を高エネルギーまで加速する装置としてシンクロサイクロトロンとサイクロトロンがある。これらシンクロトロンやサイクロトロンにおいて、荷電粒子を安定に加速するためには、「加速電極を通過するタイミングに合わせて、ビーム進行方向に所定の高周波加速電界を印加する」、「ビーム進行方向に所定の収束力を与える、ビーム垂直方向に所定の収束力を与える」といった必要がある。
【0003】
シンクロサイクロトロンは、例えば特許文献1に記載されているように、イオン源で発生した荷電粒子が、偏向電磁石により周回軌道を形成しながら、加速電極を通過する毎に除々に加速される。エネルギー増加に従い、周回軌道の半径は徐々に大きくなり、すなわち螺旋軌道となって、加速された荷電粒子が最高エネルギーに達したら出射ダクトから加速器外部へ取り出される。特許文献1に記載されたシンクロサイクロトロンでは、(1)加速電極部の共振周波数を加速中に1kHz程度の周期で高速に変調し、高速に周波数変調された高周波加速電界で加速する、(2)ビーム進行方向の収束力を確保する、(3)弱収束磁場であるため、ビーム垂直方向の収束力が確保できる、という構成となっている。特許文献1に記載された装置では、共振周波数の1kHzレベルの高速変調の難度が非常に高い。
【0004】
サイクロトロンは、例えば特許文献2に記載されているように、イオン源で発生した荷電粒子が、偏向電磁石により与えられる偏向磁場により周回軌道を形成しながら、加速電極を通過する毎に徐々に加速される。荷電粒子が加速されてエネルギーが増加するに従い、周回軌道の半径は徐々に大きくなり、すなわち螺旋軌道となって、加速された荷電粒子が最高エネルギーに達したら出射ダクトから加速器外部へ取り出される。ここまではシンクロサイクロトロンと同じである。
【0005】
サイクロトロンにおいて荷電粒子を安定に加速するためには、(4)加速電極において、荷電粒子の通過のタイミングに合わせて、ビーム進行方向に所定の高周波加速電界を印加する、(5)ビーム垂直方向に所定の収束力を与える、必要があり、また(6)ビーム進行方向には収束力はない。
【0006】
特許文献2に記載されたサイクロトロンでは、上記(4)については、荷電粒子の周回周波数が加速とともに変化しないように、偏向電磁石の磁場分布を作成するので高周波加速電界の周波数を変調する必要はない。この磁場のことを等時性磁場と呼ぶ。(6)に関し、等時性磁場ではビーム進行方向には収束力がないため、電磁石の磁場整形の精度を1×10^-6程度に高くし、且つ、加速電圧を大きくして、数百ターンほどでビームを取り出
す構成とする。また(5)に関し、等時性磁場とする為に、半径が大きい方向に強くなる磁場とする必要があり、垂直方向に大きな発散力が生じる。この発散力に打ち勝って垂直方向の収束力を得るために、偏向電磁石の構成が、荷電粒子の周回方向に大きい磁極ギャップと小さい磁極ギャップが交互に繰り返す構成となっており、且つ、磁極形状をスパイラル状の磁極形状としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−507826号公報
【特許文献2】特表平5−501632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の円形加速器は、以下の様な問題点があった。特許文献1のシンクロサイクロトロン、特許文献2のサイクロトロンともに、粒子線治療で用いる様な数100MeVクラスまで加速を行なうには、1台の加速器で加速エネルギーを変えることが難しい。また、特許文献1のシンクロサイクロトロンでは、加速中に高周波加速電極部の共振周波数の高速変調が必要であり、大電力が印加される部分を1kHzで高速駆動するので、信頼性の確保が難しい。一方、特許文献2のサイクロトロンでは、電磁石の磁場の必要精度が、ΔB/B=1×10^-6程度必要であり、実際に設置する場所で、磁場測定と磁極加工の繰り返しにより、上記の精度を実現するといった、煩雑な作業が必要となる。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決し、1台の加速器で加速エネルギーを容易に変えることができ、加速中は高周波加速電極部の共振周波数を変化させることが不要で高信頼な円形加速器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の円形加速器は、狭い磁極ギャップを構成する電磁石ヒルと広い磁極ギャップを構成する電磁石バレーとを荷電粒子の周回方向に交互に配置して、励磁コイルによって励磁することにより偏向磁場を形成する偏向電磁石と、荷電粒子の周回周波数に合わせて高周波電界を発生させるための高周波電源と、この高周波電源に接続された高周波電磁界結合部と、この高周波電磁界結合部に接続された加速電極と、荷電粒子の周回方向に高周波電界を発生する加速ギャップを、加速電極との間に形成するよう設けられた加速電極対向接地板とを備え、荷電粒子の周回周波数が、荷電粒子の入射から出射までの間に、荷電粒子の出射部分における周回周波数に対して、0.7%以上、24.7%以下の変化量で変化する偏向磁場を、偏向電磁石が生成するようにした。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、1台の加速器で加速エネルギーを変えることが可能であり、しかも加速中は高周波加速電極部の共振周波数を変化させることは不要な円形加速器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1による円形加速器の概略構成を示す断面模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1による円形加速器の概略構成を示す、図1のA−A断面における断面模式図である。
【図3】図1のB−B断面における電磁石の構成を上半分だけ示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1による円形加速器の磁場分布の一例を示す線図である。
【図5】本発明の実施の形態1による円形加速器の磁場分布の別の例を示す線図である。
【図6】従来の円形加速器の磁場分布の例を示す線図である。
【図7】本発明の実施の形態1による円形加速器の荷電粒子の周回周波数の半径依存性の一例を示す線図である。
【図8】本発明の実施の形態1による円形加速器の加速電極部の共振周波数とその時得られる出射陽子エネルギーの関係の一例を示す線図である。
【図9】例を示す線図である。
【図10】本発明の実施の形態1による円形加速器における、出射陽子エネルギーをパラメータとしたときの磁場分布の例を示す線図である。
【図11】本発明の実施の形態1による円形加速器により陽子を加速したときのビーム軌道解析結果の例を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態1による円形加速器に必要な高周波電源出力の例を示す線図である。
【図13】本発明の実施の形態2による円形加速器の概略構成を示す横断面模式図である。
【図14】本発明の実施の形態2による円形加速器の磁場修正用コイルの配置の例を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態2による円形加速器における、磁場修正用コイルの動作を説明するための磁場分布の例を示す線図である。
【図16】本発明の実施の形態2による円形加速器の別の概略構成を示す横断面模式図である。
【図17】本発明の実施の形態3による円形加速器の概略構成を示す断面模式図である。
【図18】本発明の実施の形態4による円形加速器の概略構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による円形加速器の概略構成を示す断面模式図である。図1は、荷電粒子が周回する軌道平面で切断した断面の機器配置を示している。また、図2は、図1のA−A断面における断面模式図である。さらに、図3は、図1のB−B断面における電磁石の構成を上半分だけ示す断面図である。図1〜図3を用いて、本発明の実施の形態1による円形加速器の構成、および動作を説明する。
【0014】
電磁石リターンヨーク101、広い磁極ギャップを形成する電磁石バレー102、狭い磁極ギャップを形成する電磁石ヒル103、励磁コイル104により構成される偏向電磁石により、図1の紙面垂直方向に所定の偏向磁場を形成する。その偏向磁場により、イオン源110で発生した荷電粒子の周回軌道が形成される。図2において、周回軌道の軌道面Oを一点鎖線で示している。また、高周波電磁界結合部108を介して高周波電源120から高周波を供給して、加速電極(ディ)105と、加速電極対向接地板(ダミーディ)106との間に形成された加速ギャップ113に高周波の加速電界を印加する。荷電粒子が加速ギャップ113を通過する毎に、この加速電界により徐々に加速される。荷電粒子が加速される毎に荷電粒子の周回軌道の半径は徐々に大きくなり、すなわち周回軌道は螺旋軌道となって、最後には出射ダクト112より、加速された荷電粒子が加速器外部へ取り出される。なお、イオン源110中のアノードやイオン源取出し窓が長期間使用すると損傷するため、イオン源110は加速器外へ取り出して保守ができる構成としている。
【0015】
図1および図3から判る様に、荷電粒子は、電磁石の厚みが薄く磁極ギャップが広い電磁石バレー102と、電磁石の厚みが厚く磁極ギャップが狭い電磁石ヒル103を交互に通過する。このことにより、荷電粒子の垂直方向の収束力を得ることができる。電磁石ヒル103の形状は垂直方向の十分な収束力を得る為に、図1に示すような渦巻き(スパイラル)形状とすることが望ましい。渦巻き形状にすると荷電粒子の進行方向と磁極のエッジ部が角度をもつので荷電粒子が通過するときに垂直方向の所定の収束力を得ることが可能となる。
【0016】
また、図2に示すように、磁極のギャップは全体として、荷電粒子の周回半径が大きくなる、すなわち外周へゆくほど狭くしており、荷電粒子の周回半径が大きくなるほど磁場
強度が増加する磁場分布を実現している。また、例えば電磁石ヒル103の部分が占める角度(セクター角度)を、半径が大きくなるほど広げても、平均の磁場強度を増加させることができる。
【0017】
図4に、陽子を230MeVまで加速するときに必要な半径方向の平均磁束密度分布を示す。図4において、横軸は半径R(m)、縦軸は偏向磁場強度(磁束密度)B(T)を示す。ここで、平均磁束密度とは、その半径位置での1周にわたる平均の磁束密度のことを言う。図4のaで示す曲線が本発明の磁場分布である。比較のため、特許文献2など従来のサイクロトロンの典型的な磁場分布を曲線bで示している。
【0018】
本発明においては、加速領域の半径rの位置における平均磁束密度B(r)が次の式(1)で表される磁場分布となるようにする。
B(r)=(B/E)*E(r) (1)
ただし、E(r)は粒子の半径rの位置でのトータルエネルギー、xは1ではない定数
、添え字の0はある位置のBとEであり、例えばBおよびEは、出射位置の半径(螺旋軌道の最外周)における平均磁束密度および粒子のトータルエネルギーである。
図4の曲線aは、x=0.9の時の磁場分布を示している。なお、従来のサイクロトロンの典型的な磁場分布である曲線bは、式(1)においてx=1とした時の磁場分布に相当する。
【0019】
図5に、陽子を230MeVまで加速するときに必要な半径方向の平均磁束密度分布の別の例を示す。横軸が半径R(m)、縦軸が偏向磁場強度(磁束密度)B(T)を示す。図5のaで示す
曲線が本発明の磁場分布の例であり、式(1)におけるx=0.8の時の磁場分布である。図5には、比較のため曲線bとして、特許文献2など従来のサイクロトロンの典型的な磁場分布を示している。
【0020】
参考のため、特許文献2など従来のサイクロトロン、および特許文献1など従来のシンクロサイクロトロンの典型的な磁場分布を図6に示す。図6は、陽子を230MeVまで加速するときに必要な半径方向の平均磁束密度分布であり、図中のbが特許文献2など従来のサイクロトロンの磁場分布で図4および図5の曲線bと同じ磁場分布、図中のcが特許文献1など従来のシンクロサイクロトロンの典型的な磁場分布である。
【0021】
図4から図6でわかるように、本発明の円形加速器における偏向磁場の磁場分布は、従来のサイクロトロンの典型的な磁場分布と従来のシンクロサイクロトロンの典型的な磁場分布との中間的な磁場分布としている。本発明における磁場分布は、荷電粒子の発生から出射までの全ての領域で、すなわち半径全体にわたって式(1)を満足する磁場分布である必要はなく、荷電粒子の発生部や出射部は磁石の中心や端部となるので、これらの位置では式(1)から若干ずれても良い。磁場分布が式(1)からずれる部分が全半径の2割程度以上となると加速効率が落ちるので、2割以下にする必要がある。
【0022】
本発明における、図4の曲線aで示す磁場分布の円形加速器により陽子を230MeVまで加速するときの荷電粒子の周回周波数の半径依存性を図7に示す。図7において、横軸は半径R(m)、縦軸は荷電粒子の周回周波数(Hz)を示す。荷電粒子の周回周波数は、入射部分
の25.9MHzから出射部分の25.3MHz程度まで0.6MHz、出射部分の周波数に対して約2%変化する。この変化に合わせて、高周波電源120から供給する高周波の周波数を変化させる。高周波電源120から供給される高周波の周波数が変化しても、この程度の変化の場合には加速電極部の共振の鋭さ(Q値:中心周波数f/半値幅Δf)が100以下、好ましくは50程度であれば、加速電極部の共振周波数を変えないで一定にした状態で10kW程度の高周波電源を用いれば230MeVまで加速可能である。図7の例の場合、加速電極部の共振周波数は、入射部分の荷電粒子の周回周波数25.9MHzと出射部分の荷電粒子の周回周波数25.3MHzの中央値25.6MHzとしておけば良い。ここで、加速電極部の共振周波数とは、加速電極105、加速電極対向接地板106、加速ギャップ113、加速電極延長電極107、高周波電磁界結合部108などを含めて高周波電磁界結合部108の入力端から見た負荷全体の共振周波数のことを言う。
【0023】
このように、加速電極部の共振の鋭さ(Q値)を小さくし、高周波電源120から供給される高周波の周波数が変化しても、加速電極部の共振周波数を変化させずに加速電極105と、加速電極対向接地板106間に所定の加速電界が印加されるようにする。Q値を小さくするためには、加速電極全体の金属(通常の材質は銅)の表面粗さを大きくすることによって実現できる。ただし、本実施の形態1においては、加速電極全体に熱が発生するのを抑制するために、図1に示すように、高周波電磁界結合部108にRF電力消費負荷111を取り付け、この部分でRF電力を消費させることによりQ値を小さくする構成としている。
【0024】
図8は、本発明の高周波の動作と、従来のサイクロトロン、および従来のシンクロサイクロトロンの高周波の動作との違いを概念的に表現した図である。図の横軸は周波数、縦軸は加速電極に印加できる高周波電力を示す。すなわち、図8の曲線は、加速電極部の共振特性を示しており、太実線の曲線が本発明、細実線の曲線が従来のサイクロトロン、破線の曲線が従来のシンクロサイクロトロンにおける加速電極部の共振特性である。また、矢印はそれぞれ供給する高周波の周波数の変化のイメージを示している。従来のサイクロトロンでは、加速電極部の共振特性は鋭く(Q値が大きく)、供給する高周波の周波数は一定である。また、従来のシンクロサイクロトロンでは、加速中に供給する高周波の周波数を変化させるとともに、その変化に対応して加速電極部の共振周波数も変化させる。これらに対して、本発明の円形加速器では、加速中に供給する高周波の周波数を若干変化させるが、その割合は従来のシンクロサイクロトロンに比較して小さい。このため、供給する高周波の周波数の変化量が共振特性の例えば半値幅以下となるように、加速電極部の共振特性のQ値を小さくしておき、加速電極部の共振周波数を変化させることなく加速ギャップに加速電界が印加されるようにしている。
【0025】
本発明においては、荷電粒子を加速しない時に、すなわち装置の準備段階において、加速電極部の共振周波数を変更し、高周波電源120から供給する高周波を大きく変えることにより、出射荷電粒子のエネルギーを変えることができる。図9に、加速電極部の共振周波数と、出射陽子のエネルギーの関係を示す。図9において、横軸が出射陽子のエネルギー(MeV)で縦軸が共振周波数(MHz)である。70MeVで出射するときは、約16MHz、230MeVで出射するときには約26MHzの共振周波数にすればよい。
【0026】
図1および図2で示すように、加速電極105に接続された加速電極延長電極107は、高周波電磁界結合部108に接続されている。出射荷電粒子のエネルギーを変更する場合、荷電粒子を加速していない時に、高周波電磁界結合部108に設けられたチューナ109を矢印方向に移動することにより、高周波電磁界結合部108におけるキャパシタンス又はインダクタンスを変更する。このようにして加速電極部の共振周波数を変更する。なお、図2のチューナ119と図1のチューナ109は形状が異なるが、同様な働き、即ち、高周波電磁界結合部108のキャパシタンス又はインダクタンスを変化させる働きをする。出射エネルギーを変更するときには、荷電粒子を加速しない時にチューナ109や119をゆっくり移動させればよいので、所望の共振周波数を容易に実現可能である。
【0027】
荷電粒子の加速エネルギーを変化させる時には、偏向電磁石の磁場強度と磁場分布を変更する必要があり、図2に示す励磁コイル104に流す電流と磁場修正用コイル202に流す電流を調整することにより磁場分布を整形する。すなわち、励磁コイル104と電磁石リターンヨーク101によって磁気ギャップに形成される磁場に、磁場修正用コイル2
02に流れる電流によって発生する磁場を加えることにより磁場分布を整形する。磁場修正用コイル202によって加える磁場は、励磁コイル104と電磁石リターンヨーク101によって磁気ギャップに形成される磁場と方向が反対のこともあり、その場合は磁場を減ずることになる。
【0028】
図10に、出射陽子のエネルギーが異なる場合の偏向磁場の半径方向の平均磁束密度分布を示す。図10において、横軸は半径R(m)、縦軸は磁束密度B(T)である。a、b
、c、d、eはそれぞれ、出射エネルギーが235MeV、190MeV、150MeV、120MeV、70MeVの
場合の磁場分布である。平均磁束密度の磁場整形は、励磁コイル104や磁場修正用コイル202の励磁電流を変えることにより行なう。
【0029】
図11に、本発明の円形加速器により陽子を180MeVまで加速したビーム軌道解析例を示す。横軸は加速位相(度)、縦軸はエネルギー(MeV)を示す。イオン源110から30keVの陽子を発生させ、高周波電界と周回磁場の中をどのように加速されるかをビーム軌道解析した結果である。磁場分布はa=0.92で計算している。図から非常に大きな縦方向の安定領域を形成しながら、安定に加速されていることがわかる。高エネルギーの加速粒子から徐々に出射ダクト112に達し加速器外に取り出される。
【0030】
図12に、加速領域の磁場分布、ずなわち、式(1)で表される平均磁束密度のxを変化させたときの加速電極を励振するために必要な高周波電源出力(kW)を示す。図12
において、横軸は式(1)のxの値、縦軸は高周波電源出力(kW)である。図からxの値が1に近ければ近いほど、高周波電源出力は小さくてすむ。一方、図11と同様な計算を行なうと、x>0.98の場合には偏向電磁石に起因する誤差電磁界の影響で安定に荷電粒子を
加速することができない。また、x<-0.2の場合、即ち、高周波電力の値が120kWを超えると、共振のQ値を下げた時に加速電極内での発熱が大きく、通常の方法での水冷は難しくなる。以上により、xの値は、-0.2 <x< 0.97が望ましい。この条件を、荷電粒子の周回周波数の変化Δfに置き換えると、荷電粒子の出射部分の周回周波数fに対して、
0.007*f<Δf<0.247*f
になる。つまり、本発明の偏向磁場の磁場分布は、荷電粒子の周回周波数が、荷電粒子の入射から出射までの間に、出射部分における荷電粒子の周回周波数に対して、0.7%以上、24.7%以下の変化量で変化する磁場となっている。本発明の偏向磁場の分布は、逆にいえば、上記のような荷電粒子の周回周波数の変化を生じるような、あるいは供給する高周波の周波数を上記のように変化させることにより加速できるような磁場分布に設定することを意味している。
【0031】
なお、図1の例では、円形加速器の入射位置にイオン源110を配置して荷電粒子を発生させていたが、加速器の外部で荷電粒子を発生させ、イオン源110と同じ場所に設置された入射電極を通して、加速器内に荷電粒子を入射(一般に外部入射と呼ばれる)させても同じ効果を奏する。
【0032】
また、図1の例では、RF電力消費負荷111によりRF電力を消費させQ値を小さくしたが、RF電力消費負荷111の場所にカプラー等のRF電力取り出し部を設け、RF電力を取り出し、加速器外でRF電力を消費させることによりQ値を小さくしても良い。
【0033】
以上のように、本発明の実施の形態1による円形加速器は、磁場分布を式(1)におけるxを1以外の値、すなわち従来のシンクロサイクロトロンの典型的な磁場分布と従来のサイクロトロンの典型的な磁場分布の間の磁場分布とした。ただし、磁場分布は、精確に式(1)に従った磁場分布ではなくても、半径全体の2割程度の部分が式(1)からずれていても構わない。この偏向磁場の磁場分布は、荷電粒子の周回周波数が、荷電粒子の入射から出射までの間に、荷電粒子の出射部分における周回周波数に対して、0.7%以上
、24.7%以下の変化量で変化する磁場となっている。また、加速電極部の共振特性におけるQ値を小さくして、供給する高周波の周波数が変化しても、加速電極部の共振周波数を変化させずに、加速ギャップに加速電界が印加されるようにしている。Q値としては、好ましくは100以下とし、供給する高周波の周波数変化は、加速電極部の共振特性の半値幅以下となるようにする。共振特性のQ値を下げ過ぎると高周波損失が増えすぎる。
【0034】
以上のような構成により、1台の加速器で加速エネルギーを変えることが可能であり、しかも加速中は加速電極部の共振周波数を変化させることは不要なため高信頼であり、電磁石の磁場の必要精度が、2×10^-3程度で良く、組み立て後に磁極の再加工が不要な円形加速器が得られるという効果を奏する。
【0035】
実施の形態2.
図13は、本発明の実施の形態2による円形加速器の概略構成を示す横断面模式図であり、実施の形態1の図2に相当する図である。図13において、図1、図2と同一符号は同一または相当する部分を示す。本実施の形態2では、図13に示すように、磁極面に複数の磁場修正用コイル202を並べて外側程強い磁場となるように励磁している。図14に磁場修正用コイル202のより具体的な配置の例を示す。図14は、電磁石リターンヨーク101の磁極面、すなわち、電磁石ヒル103と電磁石バレー102が交互に繰り返す部分を軌道平面から見た図である。磁場修正用コイル202は少なくとも電磁石ヒル103の磁極面上に周方向に電流が流れるように配置されている。励磁コイル104と電磁石リターンヨーク101によって磁気ギャップに形成される磁場に、この磁場修正用コイル202に流れる電流によって発生する磁場を加えることにより磁場分布を整形する。外側の磁場修正用コイル程電流を多く流す、あるいは外側ほどコイルの密度を高める、などにより外側ほど強い磁場となるようにする。実施の形態1においては、磁場修正用コイル202を1か所だけに設けたが、本実施の形態2では、以上のように磁場修正用コイル202を複数設け、外側程強い磁場となるように励磁する。
【0036】
次に、図15を参照して、磁場修正用コイル202の動作を説明する。図15は、先に説明した図10と同様、出射陽子のエネルギーが異なる場合の偏向磁場の半径方向の平均磁束密度分布を示す。a、b、c、d、eはそれぞれ、出射エネルギーが235MeV、190MeV、150MeV、120MeV、70MeVの場合の磁場分布である。例えば、図15のcの曲線で示す150MeVに相当する偏向磁場の平均磁束密度分布を、磁極ギャップの形状101と励磁コイル
104により生成する。その後、235MeVにエネルギーを変更する場合、励磁コイル104の起磁力を増加させるが、それだけでは、図15のa1の破線で示す偏向磁場の平均磁束密度分布しか得らないことが考えられる。この場合、aで示す所定の磁場分布、すなわち235MeVのエネルギーを得るための磁場分布が得られない。そこで、磁場修正用コイル202により発生する補正磁場を加えることにより、a1であった磁場分布を、aの磁場分布とすることで、出射エネルギーが235MeVとなるよう加速できる磁場分布が得られる。また、70MeVにエネルギー変更する場合、コイルの起磁力を減少させるが、それだけでは、図15のe1の破線で示す偏向磁場の平均磁束密度分布しか得らないことが考えられる。この場合、eで示す所定の磁場分布が得られない。そこで、磁場修正用コイル202により負の、すなわち逆方向の補正磁場を発生させて、e1であった磁場分布を、eの磁場分布とすることで、出射エネルギーが75MeVとなるよう加速できる磁場分布が得られる。
【0037】
図16は、本発明の実施の形態2による円形加速器の別の概略構成を示す横断面模式図である。図16において、図13と同一符号は同一または相当する部分を示す。図14に示したような、電磁石ヒル103に設けた磁場修正用コイル202のみでは、特に電磁石リターンヨーク101が磁気飽和した場合など、最外周辺りの急峻な磁場勾配を実現できないことも考えられる。この場合、図16に示すように、励磁コイル104を、励磁コイル104と磁場修正用コイル203に分割して、すなわち磁場修正用コイル203を励磁
コイル104の半径方向位置と同じ位置に設ける。電磁石リターンヨーク101が磁気飽和する領域では、磁場修正用コイル203により修正磁場を発生させて、最外周辺りの急峻な磁場勾配を実現できるようにする。
【0038】
このように、本発明によれば、電磁石の磁場の必要精度が、2×10^-3程度で良いため、磁場を発生させる構成として、磁場修正用コイル202、203のように、コイルを適切な位置に配置するなど、種々の構成をとることができる。また、従来のサイクロトロンで必要であった、機器組み立て後に磁極を再加工するなど、磁場の再調整が不要となる効果も奏する。
【0039】
実施の形態3.
図17は、本発明の実施の形態3による円形加速器の概略構成を示す断面模式図であり、実施の形態1の図1に相当する図である。図17において、図1、図2と同一符号は同一または相当する部分を示す。本実施の形態3による円形加速器においては、図1とは高周波電磁界結合部108におけるチューナの構成が異なり、チューナを回転コンデンサ129としている。回転コンデンサ129の電極が回転することによりキャパシタンスを変更して、加速電極部の共振周波数を変更する。本発明による円形加速器では、加速電極部の共振周波数の変更は、エネルギーを変更する場合に行うのであって、荷電粒子の加速中には行わない。従って、回転コンデンサ129を数秒かけてゆっくり回転させれば良く、従来のシンクロサイクロトロンのように荷電粒子を加速中に1kHzといった高速で共振周波数の変更を行う必要が無いため、高信頼なシステムが実現できる。
【0040】
実施の形態4.
図18は、本発明の実施の形態4による円形加速器の概略構成を示す断面模式図であり、実施の形態1の図1に相当する図である。図18において、図1、図2と同一符号は同一または相当する部分を示す。本実施の形態4による円形加速器においては、図1と加速電極の構成が異なり、図18のように加速電極115を、電磁石バレー102(磁極ギャップが広い部分)の部分のみに設置している。この場合、加速電極115の両側の加速ギャップ113において荷電粒子が加速される高周波電界の位相にするために、図1などに示した構成の加速電極を用いた場合に対して、供給する高周波の周波数をN倍(Nは2以上の正整数)に高くすれば良い。このような構成とすることで加速電極115の設置スペースを確保しながら、電磁石ヒル103(磁極ギャップが狭い部分)の磁極ギャップを狭くできるので、強い垂直方向のビーム収束力が確保でき安定にビームを加速できるという効果を奏する。
【符号の説明】
【0041】
101:電磁石リターンヨーク 102:電磁石バレー
103:電磁石ヒル 104:励磁コイル
105:加速電極 106:加速電極対向接地板
108:高周波電磁界結合部 109、119:チューナ
110:イオン源 111:RF電力消費負荷
112:出射ダクト 113:加速ギャップ
120:高周波電源 129:回転コンデンサ(チューナ)
202、203:磁場修正用コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に入射された荷電粒子を、偏向磁場により螺旋軌道に沿って周回させながら高周波電界によって加速する円形加速器であって、
狭い磁極ギャップを構成する電磁石ヒルと広い磁極ギャップを構成する電磁石バレーとを上記荷電粒子の周回方向に交互に配置して、励磁コイルによって励磁することにより上記偏向磁場を形成する偏向電磁石と、
上記荷電粒子の周回周波数に合わせて上記高周波電界を発生させるための高周波電源と、この高周波電源に接続された高周波電磁界結合部と、
この高周波電磁界結合部に接続された加速電極と、
上記荷電粒子の周回方向に上記高周波電界を発生する加速ギャップを、上記加速電極との間に形成するよう設けられた加速電極対向接地板と、
を備え、
上記荷電粒子の入射から出射までの間に、上記荷電粒子の周回周波数が、上記荷電粒子の出射部分における周回周波数に対して、0.7%以上、24.7%以下の変化量で変化する偏向磁場を、上記偏向電磁石が生成することを特徴とする円形加速器。
【請求項2】
上記偏向電磁石は、半径rにおける位置での上記荷電粒子の周回方向の平均磁束密度B(r)と荷電粒子のトータルエネルギーE(r)とが、荷電粒子の出射位置での半径における平均磁束密度Bと上記出射位置での荷電粒子のエネルギーEとにより、
B(r)=(B/E)*E(r)
で表される関係において、xが1ではない定数となる磁束密度分布を生成することを特徴とする請求項1に記載の円形加速器。
【請求項3】
中心に入射された荷電粒子を、偏向磁場により螺旋軌道に沿って周回させながら高周波電界によって加速する円形加速器であって、
狭い磁極ギャップを構成する電磁石ヒルと広い磁極ギャップを構成する電磁石バレーとを上記荷電粒子の周回方向に交互に配置して、励磁コイルによって励磁することにより上記偏向磁場を形成する偏向電磁石と、
上記荷電粒子の周回周波数に合わせて上記高周波電界を発生させるための高周波電源と、この高周波電源に接続された高周波電磁界結合部と、
上記高周波電磁界結合部に接続された加速電極と、
上記荷電粒子の周回方向に上記高周波電界を発生する加速ギャップを、上記加速電極との間に形成するよう設けられた加速電極対向接地板と、
を備え、
上記偏向電磁石は、半径rにおける位置での上記荷電粒子の周回方向の平均磁束密度B(r)と荷電粒子のトータルエネルギーE(r)とが、荷電粒子の出射位置での半径における平均磁束密度Bと上記出射位置での荷電粒子のエネルギーEとにより、
B(r)=(B/E)*E(r)
で表される関係において、xが1ではない定数となる磁束密度分布を生成することを特徴とする円形加速器。
【請求項4】
上記xが、-0.2<x<0.97であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の円形加速器。
【請求項5】
上記高周波電源から供給される高周波の周波数を、上記荷電粒子の周回周波数の変化に合わせて変化させることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の円形加速器。
【請求項6】
加速電極部の共振特性におけるQ値が100以下であることを特徴とする請求項5に記載の円形加速器。
【請求項7】
上記荷電粒子の周回周波数の変化量が、上記加速電極部の共振特性の半値幅以内であることを特徴とする請求項6に記載の円形加速器。
【請求項8】
加速電極部の共振周波数を変更する手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項3に記載の円形加速器
【請求項9】
上記高周波電磁界結合部は、インダクタンスまたはキャパシタンスを変更する手段を備えたことを特徴とする請求項8に記載の円形加速器
【請求項10】
上記偏向磁場の半径方向の磁束密度分布を修正する手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項3に記載の円形加速器。
【請求項11】
上記偏向磁場の半径方向の磁束密度分布を修正するための磁場修正用コイルを半径方向に複数備えたことを特徴とする請求項10に記載の円形加速器。
【請求項12】
上記磁場修正用コイルは、上記電磁石ヒルの位置に設けたことを特徴とする請求項11に記載の円形加速器。
【請求項13】
上記偏向磁場の半径方向の磁束密度分布を修正するための磁場修正用コイルを、上記励磁コイルの半径方向位置と同じ位置に設けたことを特徴とする請求項10に記載の円形加速器。
【請求項14】
上記加速電極を、上記電磁石バレーに対応する位置に配置したことを特徴とする請求項1または請求項3に記載の円形加速器。
【請求項15】
請求項10に記載の円形加速器の運転方法であって、上記高周波電源から高周波が供給されない間に、上記偏向磁場の半径方向の磁束密度分布を修正するとともに、加速電極部の共振周波数を変更することを特徴とする円形加速器の運転方法。
【請求項16】
上記高周波電磁界結合部のインダクタンスまたはキャパシタンスを変更することにより、上記加速電極部の共振周波数を変更することを特徴とする請求項15に記載の円形加速器の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−195279(P2012−195279A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244298(P2011−244298)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】