説明

円環状樹脂製品の製造方法、転がり軸受用樹脂保持器、転がり軸受、及び成形金型

【課題】2つの円環部を有する転がり軸受用樹脂保持器において、一方の円環部におけるウェルドレス化を実現しつつ、他方の円環部におけるウェルド部の強度を改善することが可能な転がり軸受用樹脂保持器を提供する。
【解決手段】転がり軸受用樹脂保持器53は、第1円環部62と、第2円環部64と、第1及び第2円環部62,64を連結し、周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部66と、を有し、強化繊維を添加した溶融樹脂を射出することによって成形される。第1円環部62には、ウェルド部Wが形成されず、第2円環部64には、ウェルド部Wが形成され、第2円環部64は、ウェルド部Wにおいて配向が乱された強化繊維を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円環状樹脂製品の製造方法、転がり軸受用樹脂保持器、転がり軸受、及び成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種機械や装置に組み込まれる転がり軸受の保持器として、軽量で柔軟性に優れる合成樹脂製の保持器が使用されることが多くなっている。一般的に、このような軸受用樹脂保持器は、射出成形により製造される。具体的には、図14に示すように、成形金型に成形体である軸受用樹脂保持器の形状に対応する環状のキャビティ140を形成し、このキャビティ140の周縁部に設けた樹脂射出ゲート150から溶解された樹脂材料を注入し、冷却固化することによって製造される。
【0003】
キャビティ140に注入された溶融樹脂は、キャビティ140内を左右に二つの流れとなって流動し、樹脂射出ゲート150と対向する反対側の位置で再び合流し、相互に接合され、ウェルド部100Wが形成される。一般に、この様に射出成形された軸受用樹脂保持器は、溶融樹脂が融着一体化しただけのものであるため、溶融樹脂の均一な混合が起こらず、ウェルド部100Wにおいて強度が低下することがよく知られている。
【0004】
また、溶融樹脂に、強化材料として、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の強化繊維を添加したものでは、ウェルド部100Wにおいて強化繊維が溶融樹脂の流動方向に対し垂直に配向するため、補強効果が発現しない。さらに、ウェルド部100W以外の部分では、強化繊維が溶融樹脂の流動方向に対し平行に配向するため、当該部分とウェルド部との強度差が大きくなってしまう。
【0005】
特に、射出成形により製造され、円環部を2つ有する円環状樹脂製品(例えば、円すいころ軸受用樹脂保持器)では、強度が弱いウェルド部から破損することが多く、以下に示すような対策がなされてきた。
【0006】
例えば、特許文献1記載の軸受用樹脂保持器の製造方法においては、成形金型内に形成したキャビティに溶融樹脂を注入し、この溶融樹脂の合流箇所に、溶融樹脂が流入可能な樹脂溜まり部を設けている。このように構成することによって、合流箇所における強化繊維の配向を乱し、ウェルド部の強度を向上させることを図っている。
【0007】
また、特許文献2記載のプラスチックシールの射出成形方法では、射出された樹脂がキャビティ内を満たしウェルド部が形成された後、樹脂溜まり部に樹脂を流入させることにより、ウェルド部における強化繊維の配向を乱し、該ウェルド部の強度を改善することを図っている。
【0008】
また、特許文献3記載の円環状樹脂製品の射出成形金型では、円環状樹脂製品におけるウェルド部の発生を防止するために、製品用キャビティの内壁全周又は外壁全周にダミー体用キャビティを接続し、樹脂射出ゲートから射出された溶融樹脂が、ダミー体用キャビティを介して製品用キャビティに流入するように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3666536号公報
【特許文献2】特許第3731647号公報
【特許文献3】特開2011−068062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の軸受用樹脂保持器の製造方法や、特許文献2のプラスチックシールの射出成形方法を用いても、ウェルド部の発生位置を制御することは困難であるため、樹脂射出ゲートや樹脂溜まり部の配置によっては、十分な強度を必要とする部位にウェルド部が形成される場合があり、破損の原因となる虞がある。
【0011】
また、特許文献3の円環状樹脂製品の射出成形金型では、円環部を1つのみ有する樹脂製品(例えば、くし型樹脂保持器、冠型樹脂保持器)を成形する場合のみ開示されており、この場合、溶融樹脂は樹脂製品の内壁全周又は外壁全周からほぼ同時に製品用キャビティ内に充填されるため、ウェルド部は廃材となるダミー体用キャビティ内にのみ発生し、ウェルド部のない樹脂製品を成形することができる。しかしながら、円環部を2つ有する樹脂製品を成形する場合については、特許文献3に開示されておらず、仮に、特許文献3の発明を、2つの円環部を有する樹脂製品を成形する場合に適用した場合、一方の円環部をウェルドレス化することが可能であるとしても、他方の円環部では溶融樹脂の合流部分にウェルド部が発生し強度が低下する原因となってしまう。
【0012】
本発明は、上述の課題を鑑みて成されたものであり、その目的は、2つの円環部を有する転がり軸受用樹脂保持器において、一方の円環部におけるウェルドレス化を実現しつつ、他方の円環部におけるウェルド部の強度を改善することが可能な転がり軸受用樹脂保持器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 第1円環部と、第2円環部と、前記第1及び第2円環部を連結し、周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部と、を有し、強化繊維を添加した溶融樹脂を射出することによって成形される転がり軸受用樹脂保持器であって、
前記第1円環部には、ウェルド部が形成されず、
前記第2円環部には、ウェルド部が形成され、
前記第2円環部は、前記ウェルド部において配向が乱された前記強化繊維を有する
ことを特徴とする転がり軸受用樹脂保持器。
(2) 成形金型内に強化繊維を添加した溶融樹脂を射出することによって成形される円環状樹脂製品の製造方法であって、
前記成形金型は、
第1金型円環部と、第2金型円環部と、前記第1及び第2金型円環部を連結し、周方向に所定の間隔で配置された複数の金型柱部と、を有し、前記円環状樹脂製品を成形するための製品用キャビティと、
前記第1金型円環部の内壁全周に接続され内側に延びる内側ダミー体、又は前記第1金型円環部の外壁全周に接続され外側に延びる外側ダミー体、を成形するためのダミー体用キャビティと、
前記ダミー体用キャビティに設けられ、前記溶融樹脂を射出する樹脂射出ゲートと、
を備え、
前記第2金型円環部の周縁部には、少なくとも1つの樹脂溜まり部が、隣り合う前記金型柱部間に設けられている
ことを特徴とする円環状樹脂製品の製造方法。
(3) 前記ダミー体用キャビティの形状及び大きさは、前記溶融樹脂が、前記ダミー体用キャビティから、前記第1金型円環部の内壁全周又は前記第1金型円環部の外壁全周に、ほぼ同時に流入するように設定される
ことを特徴とする(2)に記載の円環状樹脂製品の製造方法。
(4) 前記溶融樹脂が前記成形金型内に射出されることによって、前記第2金型円環部内において、隣り合う金型柱部間にはウェルド部が形成され、
前記第2金型円環部の周縁部には、少なくとも1つの樹脂溜まり部が、前記ウェルド部が形成される位置、又は前記ウェルド部が形成される位置の近傍に設けられており、
前記第2金型円環部の周縁部と、前記樹脂溜まり部と、は連結部によって連結されており、
前記連結部の断面積は、前記ウェルド部が形成された後に、前記溶融樹脂が、前記樹脂溜まり部に流入するように設定される
ことを特徴とする(2)又は(3)に記載の円環状樹脂製品の製造方法。
(5) (2)〜(4)の何れか1つに記載の円環状樹脂製品の製造方法により製造される
ことを特徴とする転がり軸受用樹脂保持器。
(6) (1)又は(5)に記載の転がり軸受用樹脂保持器を有する転がり軸受。
(7) 第1金型円環部と、第2金型円環部と、前記第1及び第2金型円環部を連結し、周方向に所定の間隔で配置された複数の金型柱部と、を有し、前記円環状樹脂製品を成形するための製品用キャビティと、
前記第1金型円環部の内壁全周に接続され内側に延びる内側ダミー体、又は前記第1金型円環部の外壁全周に接続され外側に延びる外側ダミー体、を成形するためのダミー体用キャビティと、
前記ダミー体用キャビティに設けられ、前記溶融樹脂を射出する樹脂射出ゲートと、
を備える成形金型であって、
前記第2金型円環部の周縁部には、少なくとも1つの樹脂溜まり部が、隣り合う前記金型柱部間に設けられている
ことを特徴とする成形金型。
【発明の効果】
【0014】
本発明の転がり軸受用樹脂保持器によれば、第1円環部にはウェルド部が形成されず、第2円環部にはウェルド部が形成され、第2円環部はウェルド部において配向が乱された強化繊維を有するので、第1円環部のウェルドレス化を実現しつつ、第2円環部におけるウェルド部の強度を改善することが可能となる。
【0015】
また、本発明の円環状樹脂製品の製造方法によれば、製品用キャビティの第1金型円環部の内壁全周に接続され内側に延びる内側ダミー体、又は製品用キャビティの第1金型円環部の外壁全周に接続され外側に延びる外側ダミー体、を成形するためのダミー体用キャビティが設けられ、製品用キャビティの第2金型円環部の周縁部には、少なくとも1つの樹脂溜まり部が、隣り合う金型柱部間に設けられる。したがって、第1金型円環部内ではウェルドレス成形を実現しつつ、第2金型円環部内では、樹脂溜まり部に溶融樹脂が流入することによって、ウェルド部における強化繊維の配向を乱し、ウェルド部の強度を改善することが可能となる。
さらに、ダミー体用キャビティの形状及び大きさは、溶融樹脂が、ダミー体用キャビティから、第1金型円環部の内壁全周又は第1金型円環部の外壁全周に、ほぼ同時に流入するように設定される。したがって、第1金型円環部内において確実にウェルドレス化を実現することが可能となる。また、第1及び第2金型円環部を連結する複数の金型柱部において、ほぼ同時に樹脂を充填させることができるため、十分な強度が必要とされる金型柱部と第2金型円環部との接続部(ポケット隅R部)においてウェルド部の形成を防止することが可能となる。
また、第2金型円環部の周縁部と、樹脂溜まり部と、は連結部によって連結されており、連結部の断面積は、ウェルド部が形成された後に、溶融樹脂が、樹脂溜まり部に流入するように設定されるので、ウェルド部における強化繊維の配向を乱すことによって当該ウェルド部の強度をより確実に改善することが可能となる。
【0016】
また、本発明の転がり軸受によれば、上述の製造方法によって製造された転がり軸受用樹脂保持器を備え、当該転がり軸受用樹脂保持器は、全体において強度が低下している部位が少なく、耐久性や信頼性に優れ、肉厚を薄くすることができる。したがって、当該保持器を有する転がり軸受においては、転動体のサイズを大きくすることができ、軸受の定格荷重を上げることができ、軸受の長寿命化を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係る製造方法に使用する成形金型を示す図である。
【図2】図1の成形金型の部分縦断面図である。
【図3】第1実施形態に係る製造方法によって製造された転がり軸受用樹脂保持器の斜視図である。
【図4】第1実施形態に係る製造方法の説明図であり、第1金型円環部に溶融樹脂が流入している状態を示す図である。
【図5】第1実施形態に係る製造方法の説明図であり、金型柱部に溶融樹脂が流入している状態を示す図である。
【図6】第1実施形態に係る製造方法の説明図であり、樹脂溜まり部に溶融樹脂が流入している状態を示す図である。
【図7】第2実施形態に係る製造方法に使用する成形金型を示す図である。
【図8】第3実施形態に係る製造方法に使用する成形金型を示す図である。
【図9】第4実施形態に係る製造方法に使用する成形金型を示す図である。
【図10】第5実施形態に係る製造方法に使用する成形金型を示す図である。
【図11】第6実施形態に係る製造方法に使用する成形金型を示す図である。
【図12】本発明に係る製造方法によって製造されたアンギュラ玉軸受用樹脂保持器の斜視図である。
【図13】(a)は本発明に係る製造方法によって製造された針状ころ軸受用樹脂保持器の上面図であり、(b)はその側面図である。
【図14】従来の軸受用樹脂保持器の製造方法に使用する成形金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る円環状樹脂製品の製造方法、転がり軸受用樹脂保持器、転がり軸受、及び成形金型の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法では、図1及び図2に示すように、複数の樹脂射出ゲート7(以下、単にゲートと呼ぶことがある。)から成形金型1内に強化繊維を添加した溶融樹脂Gを射出して、円環状樹脂製品としての転がり軸受用樹脂保持器を成形する。
【0020】
図3に示すように、本実施形態で射出成形される転がり軸受(円錐ころ軸受)用樹脂保持器53は、第1円環部62と、第1円環部よりも大径の第2円環部64と、第1及び第2円環部62,64を連結し、周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部66と、を有し、図示しない転動体を保持する複数のポケット部68が形成される。
【0021】
樹脂材料としては、例えば、ポリアミド66やポリアミド46、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等に、補強のための強化繊維(例えば、ガラス繊維や炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー)を添加した樹脂組成物が用いられる。また、樹脂組成物には、成形時及び使用時の熱劣化を抑えるために、ヨウ化物系熱安定剤及び/又はアミン系熱安定剤を添加してもよい。さらに、樹脂組成物には、耐衝撃性を改善するために、エチレンプロビレン非共役ジエン(EPDM)等のゴム材料を配合してもよい。
【0022】
成形金型1は、転がり軸受(円錐ころ軸受)用樹脂保持器53(以下、単に保持器と呼ぶ)を成形するための製品用キャビティ3と、製品用キャビティ3の内側に接続し、内側ダミー体55を成形するための内側ダミー体用キャビティ5と、内側ダミー体用キャビティ5に設けられ、溶融樹脂Gを射出する複数の樹脂射出ゲート7と、を備えている。
【0023】
製品用キャビティ3は、保持器53の第1円環部62に対応する第1金型円環部12と、保持器53の第2円環部64に対応する第1金型円環部12よりも大径の第2金型円環部14と、これら第1及び第2金型円環部12,14を連結し、周方向に所定の間隔で配置され、保持器50の複数の柱部66に対応する複数の金型柱部16と、を有する。
【0024】
内側ダミー体用キャビティ5は、その径方向外側端部に、径方向外側に向かうにしたがって軸方向幅が小さくなるノッチ20が形成されている(図2参照)。そして、内側ダミー体用キャビティ5は、製品用キャビティ3の第1金型円環部12の内壁18全周にノッチ20を介して接続されている。このように、内側ダミー体55にノッチ20が形成されていることにより、成形された転がり軸受用樹脂保持器53及び内側ダミー体55は、抜き加工等により、容易に分離することが可能となる。
【0025】
内側ダミー体用キャビティ5の上面5Sは、その径方向内側部に、周方向に所定の間隔で複数(本実施形態では12個)のゲート7が設けられている。それぞれのゲート7は、ランナー22を介して、製品用キャビティ3及び内側ダミー体用キャビティ5の中心軸Cと同軸に配置されたスプルー24に接続される。
【0026】
また、第2金型円環部14の外周側周縁部14Aには、隣り合う金型柱部16間の後述のウェルド部Wが形成される位置(図3参照)、すなわち周方向に隣り合う金型柱部16の周方向中間部に、連結部26によって連結された樹脂溜まり部28が設けられる。
【0027】
以下、図4〜6を参照し、内側ダミー体用キャビティ5及び製品用キャビティ3内に溶融樹脂Gが充填される様子を詳細に説明する。
【0028】
図4に示すように、スプルー24から注入された溶融樹脂Gは、複数のランナー22、複数のゲート7を通り、内側ダミー体用キャビティ5に流入する。ここで、溶融樹脂Gが、内側ダミー体用キャビティ5から製品用キャビティ3の第1金型円環部12の内壁18全周にほぼ同時に流入するように、内側ダミー体用キャビティ5の形状及び大きさや、ゲート7の数及び配置される位置、それぞれのゲート7から射出される溶融樹脂Gの量、それぞれのランナー22の配置、それぞれのゲート7からの樹脂の射出が開始される時刻などが設定されている。したがって、第1金型円環部12内において溶融樹脂G同士が合流することを防止することができるので、保持器53の第1円環部62をウェルドレス化することができる。
なお、内側ダミー体用キャビティ5の形状及び大きさを適切に定める際には、例えば、樹脂流動解析(CAE)が用いられる。
【0029】
その後、図5に示すように、溶融樹脂Gは、第1金型円環部12を充填し、さらに金型柱部16に流入する。ここで、本実施形態においては、上述のように溶融樹脂Gが第1金型円環部12の内壁18全周にほぼ同時に流入するように構成されているので、複数の金型柱部16への充填もほぼ同時となり、十分な強度が必要とされる金型柱部16と第2金型円環部14との接続部30(ポケット隅R部)においてウェルド部Wが形成されることを防止することが可能となる。
【0030】
続いて、図6に示すように、隣り合う金型柱部16から第2金型円環部14に流入してきた溶融樹脂Gは、第2金型円環部14を充填し、隣り合う金型柱部16の中間部において互いに合流することでウェルド部Wを形成する。このとき、当該ウェルド部Wは、溶融樹脂が融着一体化しただけであるため、強度が他の部位より低い状態となっている。
【0031】
ここで、本実施形態では、第2金型円環部14の外周側周縁部14Aに、ウェルド部Wが形成される位置において、連結部26を介して樹脂溜まり部28が設けられており、連結部26の断面積は、ウェルド部Wが形成された後に溶融樹脂Gが樹脂溜まり部28に流入するように形成されている。したがって、ウェルド部Wが形成された後に、溶融樹脂Gが樹脂溜まり部28に流入することによって、ウェルド部Wの強化繊維の配向を乱し、ウェルド部Wの強度を向上させることができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の円環状樹脂製品の製造方法によって製造された転がり軸受用樹脂保持器53によれば、第1円環部62にはウェルド部Wが形成されず、第2円環部64にはウェルド部Wが形成され、第2円環部64はウェルド部Wにおいて配向が乱された強化繊維を有するので、第1円環部62のウェルドレス化を実現しつつ、第2円環部64におけるウェルド部Wの強度の改善が可能となる。
【0033】
また、本実施形態の円環状樹脂製品の製造方法によれば、製品用キャビティ3の第1金型円環部12の内壁18全周に接続され内側に延びる内側ダミー体55を成形するための内側ダミー体用キャビティ5が設けられ、製品用キャビティ3の第2金型円環部14の外周側周縁部14Aには、樹脂溜まり部28が、隣り合う金型柱部16間のウェルド部Wが形成される位置に設けられる。したがって、第1金型円環部12内ではウェルドレス成形を実現しつつ、第2金型円環部14内では、樹脂溜まり部28に溶融樹脂が流入することによって、ウェルド部Wにおける強化繊維の配向を乱し、ウェルド部Wの強度を改善することが可能となる。
【0034】
さらに、内側ダミー体用キャビティ5の形状及び大きさは、溶融樹脂Gが、内側ダミー体用キャビティ5から、第1金型円環部12の内壁18全周にほぼ同時に流入するように設定される。したがって、第1金型円環部12内において確実にウェルドレス化を実現することが可能となる。
【0035】
また、第1及び第2金型円環部12,14を連結する複数の金型柱部16において、ほぼ同時に溶融樹脂Gを充填させることができるため、十分な強度が必要とされる金型柱部16と第2金型円環部14との接続部30(ポケット隅R部)においてウェルド部Wの形成を防止することが可能となる。
【0036】
また、第2金型円環部14の外周側周縁部14Aと、樹脂溜まり部28と、は連結部26によって連結されており、連結部26の断面積は、ウェルド部Wが形成された後に、溶融樹脂Gが、樹脂溜まり部28に流入するように設定されるので、ウェルド部Wにおける強化繊維の配向を乱すことによって当該ウェルド部Wの強度をより確実に改善することが可能となる。
【0037】
また、以上のような本実施形態の製造方法によって製造された転がり軸受用樹脂保持器53は、全体において強度が低下している部位が少なく、耐久性や信頼性に優れ、肉厚を薄くすることができる。したがって、当該保持器53を有する転がり軸受においては、転動体のサイズを大きくすることができ、軸受の定格荷重を上げることができ、軸受の長寿命化を実現することが可能である。
【0038】
なお、本実施形態では、内側ダミー体用キャビティ5が接続される第1金型円環部12は、第2金型円環部14よりも小径であるとしたが、当該構成に限定されず、第1金型円環部12を、第2金型円環部14よりも大径であるとしてもよい。
【0039】
また、肉厚の薄い部分に形成されたウェルド部Wは、溶融樹脂Gの均一な混合が起こり難く強度が低下する傾向にあるので、第2金型円環部14の肉厚は、第1金型円環部12の肉厚よりも厚くすることが望ましい。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法について説明する。なお、本実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法は、上記実施形態と基本的構成を同一とするので、同一部分又は相当部分には同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、相違部分について詳述する。
【0041】
図7に示すように、本実施形態の第2金型円環部14は、その内周側周縁部14Bに、ウェルド部Wが形成される位置、すなわち隣り合う金型柱部16の中間部において連結部26を介して樹脂溜まり部28が設けられている。このように構成した場合であっても、第1実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0042】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法について説明する。なお、本実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法は、上記実施形態と基本的構成を同一とするので、同一部分又は相当部分には同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、相違部分について詳述する。
【0043】
図8に示すように、本実施形態においては、製品用キャビティ3の第1金型円環部12の外壁19全周に接続されて径方向外側に延び、外側ダミー体56を成形するための外側ダミー体用キャビティ6が設けられる。このとき、外側ダミー体用キャビティ6の形状及び大きさは、溶融樹脂Gが、外側ダミー体用キャビティ6から第1金型円環部の外壁19全周に、ほぼ同時に流入するように設定されている。このように構成した場合であっても、第1実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0044】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法について説明する。なお、本実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法は、上記実施形態と基本的構成を同一とするので、同一部分又は相当部分には同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、相違部分について詳述する。
【0045】
図9に示すように、本実施形態の第2金型円環部14は、その外周側周縁部14Aに、隣り合う金型柱部16の間、且つウェルド部Wが形成される位置の近傍において、連結部26を介して樹脂溜まり部28が設けられている。このように構成した場合であっても、第1実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0046】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法について説明する。なお、本実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法は、上記実施形態と基本的構成を同一とするので、同一部分又は相当部分には同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、相違部分について詳述する。
【0047】
図10に示すように、本実施形態の第2金型円環部14は、その外周側周縁部14Aに、隣り合う金型柱部16の間、且つウェルド部Wが形成される位置の近傍において、外周側連結部26Aを介して外周側樹脂溜まり部28Aが設けられるとともに、その内周側周縁部14Bに、ウェルド部Wが形成される位置、すなわち隣り合う金型柱部16の中間部において内周側連結部(不図示)を介して内周側樹脂溜まり部28Bが設けられる。
【0048】
このように構成することによって、ウェルド部Wにおける強化繊維の配向をより乱すことが可能となり、ウェルド部の強度を向上させることができる。
【0049】
なお、外周側及び内周側樹脂溜まり部28A,28Bが設けられる位置は、上記構成に限定されず、外周側樹脂溜まり部28Aを、ウェルド部Wが形成される位置に設け、内周側樹脂溜まり部28Bを、隣り合う金型柱部16の間、且つウェルド部Wが形成される位置の近傍に設けるようにしてもよい。
【0050】
また、外周側樹脂溜まり部28A、及び内周側樹脂溜まり部28Bに溶融樹脂Gが流入する順番は、外周側/内周側を問わず、「ウェルド部Wが形成される位置に設けた樹脂溜まり部→ウェルド部Wが形成される位置の近傍に設けた樹脂溜まり部」とすることが望ましい。このように構成することで、ウェルド部W形成位置に設けた樹脂溜まり部に溶融樹脂Gが流入し、ウェルド部Wの強化繊維の配向が乱される。このとき、ウェルド部W形成位置の近傍では強化繊維の流動方向に直交するように配向する強化繊維も存在し得るが、さらにウェルド部W形成位置の近傍に設けた樹脂溜まり部に溶融樹脂Gを流入させることにより、ウェルドWの強化繊維は流動方向に配向することになり、ウェルド部Wの強度改善の効果をより高めることが可能となる。
【0051】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法について説明する。なお、本実施形態に係る円環状樹脂製品の製造方法は、上記実施形態と基本的構成を同一とするので、同一部分又は相当部分には同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、相違部分について詳述する。
【0052】
図11に示すように、本実施形態の円環状樹脂製品の製造方法は、円筒ころ軸受用樹脂保持器を製造するためのものである。このように構成した場合であっても、第1実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0053】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上述の実施形態においては、連結部26の断面積を適切に設定することにより、ウェルド部Wが形成された後に、溶融樹脂Gが樹脂溜まり部28に流入するように構成した。しかしながら、必ずしもこの構成に限定されず、連結部26にヒーター等の局部加熱装置を設けて温度を調整することによって、ウェルド部Wが形成された後に、溶融樹脂Gが樹脂溜まり部28に流入するように構成してもよい。
【0054】
また、本発明の円環状樹脂製品の製造方法が適用される円環状樹脂製品の種類は保持器に限定されず、第1,第2円環部と、及びこれら第1,第2円環部を連結する複数の柱部と、を有するものであればよく、また、図12に示すようなアンギュラ玉軸受用樹脂保持器や、図13に示すような針状ころ軸受用樹脂保持器等、様々な転がり軸受用樹脂保持器の製造に広く応用することも可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 成形金型
3 製品用キャビティ
5 内側ダミー体用キャビティ(ダミー体用キャビティ)
6 外側ダミー体用キャビティ(ダミー体用キャビティ)
7 樹脂射出ゲート
12 第1金型円環部
14 第2金型円環部
14A 外周側周縁部(周縁部)
14B 内周側周縁部(周縁部)
16 金型柱部
18 内壁
19 外壁
26 連結部
28 樹脂溜まり部
28A 外周側樹脂溜まり部
28B 内周側樹脂溜まり部
53 円錐ころ軸受用樹脂保持器(転がり軸受用樹脂保持器、円環状樹脂製品)
53A 円筒ころ軸受用樹脂保持器(転がり軸受用樹脂保持器、円環状樹脂製品)
55 内側ダミー体
56 外側ダミー体
62 第1円環部
64 第2円環部
66 柱部
G 溶融樹脂
W ウェルド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1円環部と、第2円環部と、前記第1及び第2円環部を連結し、周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部と、を有し、強化繊維を添加した溶融樹脂を射出することによって成形される転がり軸受用樹脂保持器であって、
前記第1円環部には、ウェルド部が形成されず、
前記第2円環部には、ウェルド部が形成され、
前記第2円環部は、前記ウェルド部において配向が乱された前記強化繊維を有する
ことを特徴とする転がり軸受用樹脂保持器。
【請求項2】
成形金型内に強化繊維を添加した溶融樹脂を射出することによって成形される円環状樹脂製品の製造方法であって、
前記成形金型は、
第1金型円環部と、第2金型円環部と、前記第1及び第2金型円環部を連結し、周方向に所定の間隔で配置された複数の金型柱部と、を有し、前記円環状樹脂製品を成形するための製品用キャビティと、
前記第1金型円環部の内壁全周に接続され内側に延びる内側ダミー体、又は前記第1金型円環部の外壁全周に接続され外側に延びる外側ダミー体、を成形するためのダミー体用キャビティと、
前記ダミー体用キャビティに設けられ、前記溶融樹脂を射出する樹脂射出ゲートと、
を備え、
前記第2金型円環部の周縁部には、少なくとも1つの樹脂溜まり部が、隣り合う前記金型柱部間に設けられている
ことを特徴とする円環状樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
前記ダミー体用キャビティの形状及び大きさは、前記溶融樹脂が、前記ダミー体用キャビティから、前記第1金型円環部の内壁全周又は前記第1金型円環部の外壁全周に、ほぼ同時に流入するように設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の円環状樹脂製品の製造方法。
【請求項4】
前記溶融樹脂が前記成形金型内に射出されることによって、前記第2金型円環部内において、隣り合う金型柱部間にはウェルド部が形成され、
前記第2金型円環部の周縁部には、少なくとも1つの樹脂溜まり部が、前記ウェルド部が形成される位置、又は前記ウェルド部が形成される位置の近傍に設けられており、
前記第2金型円環部の周縁部と、前記樹脂溜まり部と、は連結部によって連結されており、
前記連結部の断面積は、前記ウェルド部が形成された後に、前記溶融樹脂が、前記樹脂溜まり部に流入するように設定される
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の円環状樹脂製品の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4の何れか1項に記載の円環状樹脂製品の製造方法により製造される
ことを特徴とする転がり軸受用樹脂保持器。
【請求項6】
請求項1又は5に記載の転がり軸受用樹脂保持器を有する転がり軸受。
【請求項7】
第1金型円環部と、第2金型円環部と、前記第1及び第2金型円環部を連結し、周方向に所定の間隔で配置された複数の金型柱部と、を有し、前記円環状樹脂製品を成形するための製品用キャビティと、
前記第1金型円環部の内壁全周に接続され内側に延びる内側ダミー体、又は前記第1金型円環部の外壁全周に接続され外側に延びる外側ダミー体、を成形するためのダミー体用キャビティと、
前記ダミー体用キャビティに設けられ、前記溶融樹脂を射出する樹脂射出ゲートと、
を備える成形金型であって、
前記第2金型円環部の周縁部には、少なくとも1つの樹脂溜まり部が、隣り合う前記金型柱部間に設けられている
ことを特徴とする成形金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2013−46982(P2013−46982A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186367(P2011−186367)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】