説明

円筒形タンクの解体方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、大型の円筒形タンク全体を下降させつつ順次下端側からその壁体を切断除去する方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】大型の円筒形タンクを解体する方法として、タンクの下部を多数のジャッキで支持しつつ、その壁体を下部から順に切除しながらジャッキダウンにより、順次下降させる方法が知られている。この方法によれば、作業が全て地上部で行えるため、足場が不要となり、安全性も高い。
【0003】ジャッキによりタンクを支持する方法として、例えば特開昭63−047475号公報に示すようにジャッキをタンク壁体の下端でなく内側の一方に配置し、ジャッキロッドに連結したアームを壁体に連結する方法がある。この方法によれば、壁体の外周側に切除作業の障害となるものが設置されないため、切除作業が容易となり、例えば切除作業に際し自動溶断装置などの自動化機械を活用できる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ジャッキを壁体の内外一方に設けた場合には、片持ち支持となるため、局部的には壁体に偏心力による曲げ応力が生じ、局部破壊する惧れがある。このために、アームをブラケットを介して壁体にボルトなどを介して強固に仮固定しているが、ジャッキを下降させる毎に、ボルトを外しブラケットを引上げ、再度ボルト結合作業を行わなければならず、しかもジャッキの数はタンクの全周に沿って多数配置されているため、その着脱作業が極めて面倒で手数がかかり、施工能率を低下させていた。
【0005】この発明は、以上の問題を解決するものであって、その目的は、タンク壁体の内外の一方にジャッキを配置し片持ち支持により壁体の下端を支持する方法において、壁体下部の偏心力を解消するとともに,切除,下降動作毎の着脱作業がなく、作業能率の向上を図った円筒形タンクの解体方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、この発明は、ジャッキを介して下端を支持されたタンクの壁体をその下端から順に切除する作業と、ジャッキによる下降動作を交互に繰り返すことで、タンク全体を下降させて解体する円筒形タンクの解体方法において、前記ジャッキはタンクの一方の側のみに設けられるとともに、該ジャッキのロッドを、水平部及び垂直部を有するL字状をしたかぎ形吊り治具に接合してなり、該吊り治具の水平部により前記壁体の下端を支持し、かつ前記垂直部の前面を滑り支承またはパッキングを介して前記壁体の一方の面に当接するとともに垂直部の背面を滑り支承を介して横力受け体に当接させるものである。
【0007】
【作用】以上の方法によれば、壁体の下端は吊り治具の水平部に支持される。壁体の重力のベクトルとジャッキの吊り上げ力のベクトルとは平行であるから偏心力(偶力)が生ずるが、吊り治具の上部の滑り支承またはパッキングに対する壁体の反力と、吊り治具の背面の滑り支承に対する横力受け体の反力とで構成される偶力により解消される。
【0008】また、壁体に横力が働いた場合には、吊り治具を介して横力受け体に伝達され、この横力受け体により反力をとられる。
【0009】
【実施例】以下、この発明の一実施例を図面を用いて詳細に説明する。
【0010】図1〜図3はこの発明の一実施例による解体方法を示している。20はほぼ円筒状に形成されたガスタンク、22はタンク20内の底板上に着地したピストンであり、これを横力受け体として利用する例である。
【0011】ガスタンク20は底板20aの周囲に円筒状に壁体24を配置し、その上部を天板25で覆ったものであり、壁体24は円環を20等分すべく立設された基柱24aの外周をパネル24bで覆ったものである。
【0012】ピストン22は、本来は、ガスタンク内にあって、ガスの量に応じて昇降するいわば中蓋であって、具体的には、中央上面が凹んだ円筒状トラス組構造であり、これを、タンク内のガスを抜くことにより底板上に降下させてタンク下部においてその周縁部を壁体24に対向させている。ピストン周縁部の上部および下部であって壁体24の基柱24bに対向する位置には、基柱24bに摺接する上部ローラ26および下部ローラ(図示せず)があるが、本発明では、下部ローラを撤去している。
【0013】上部ローラ26の上部にはジャッキ受け梁28が配置され、この受け梁28上にはイコライザ30を介してジャッキ32が配置されている。ジャッキ受け梁28は、前記ピストンとは独立した図示しない支柱上に設置されたものであり、ジャッキ32の反力受け架台としてのみ機能する。なお、前記イコライザ30は各ジャッキ32の荷重を均等化するための装置である。
【0014】ジャッキ32の下部に垂設されたジャッキロッド34の下端には、前記壁体24とピストン22との隙間に配置され、壁体24(正確には、壁体24の基柱24aである。)の下端を支持する略L字状をしたかぎ形の吊り治具36が連結配置され、その水平部36aの鉤形先端を壁体24の外側に突出した状態で壁体24の下端を支持している。
【0015】この吊り治具36の垂直部36bの上部および下部には前記壁体の内面に当接する上部滑り支承または上部パッキング38、および図示しない下部滑り支承または下部パッキングが配置されているとともに、垂直部の背面下部には、前記ピストン22の外周部に摺接する滑り支承またはローラ40が配置され、吊り治具36で受けた壁体24の横力をこれら上部滑り支承または上部パッキング38、および図示しない下部滑り支承または下部パッキング、ローラ40によりピストン22側に伝達する。
【0016】また、吊り治具を壁体の一方の側のジャッキで支持するため、壁体の重力のベクトルとジャッキの吊り上げ力のベクトルとの偏心による偶力が吊り治具に生ずるが、吊り治具の上部の滑り支承に対する壁体の反力と、吊り治具の背面の滑り支承に対する横力受け体の反力とで構成される偶力により解消され、吊り治具は、正しい姿勢を保ち、壁体24の下部に面外方向の曲げモーメントを与えて局部破壊を生じさせる恐れがない。
【0017】次に、順次壁体24の下部を溶断する。溶断位置Aは図3(a)に示すように吊り治具36に設けられたパッキング38の下部に沿った水平方向とゾーン毎に壁体24を除去するための縦方向であり、溶断位置Aを地表から1.7〜2.0m程度の高さ位置に設定すれば足場などが不要である。
【0018】また壁体24の周囲には障害物がないので、プラズマ切断機などを自動走行台車上に設けた自動切断機を用いることができ、これによって溶断作業の自動化,省力化ができる。
【0019】実際の溶断作業は各吊り治具36の配置箇所を円周状の点対称位置でゾーン毎に区切って行い、この吊り治具36の部分の上部が開口されたなら、図3(b)に示すように、ジャッキ32または図示しないクレーンにより吊り治具を上昇させ、吊り治具を介してジャッキ32、吊り治具36により溶断された下端を支持することを繰り返し、次いで吊り治具36が配置されていない箇所を同じく溶断位置Aに沿って溶断して切除すれば、壁体24の下端は溶断位置Aで各吊り治具36により空中に保持される。
【0020】この後、各ジャッキ32を一斉に下降させれば、壁体24の下端は底板20aに接地され、再度溶断作業が可能となる。
【0021】以上の作業サイクルを繰り返すことで、タンク20は下端から順次だるま落とし式に解体されることになる。
【0022】なお、各ジャッキ32の速度制御,負荷荷重などの制御はそれぞれに接続された計測機器の計測データを外部に設置した中央制御室などに設けたコンピューターに取り入れ、これら計測データを基に制御すれば最適な制御ができる。この際ジャッキ32にはジャッキ受け梁30により垂直に支持され、水平分力が働かないので、計測データの解析が簡単であり、さらに制御しやすいものとなる。
【0023】また、以上の作業中に風,地震などによりタンク20に水平力が作用すると、その水平力は上部ローラ26を介してピストン22の上部側に伝達される。また、下部側では吊り治具36に設けたパッキング38,ローラ40を介して同じくピストン22に伝達される。ピストン22は底板20aに定着されているので、この水平力に十分に抗することができる。
【0024】なお、本実施例では、ジャッキ架台を壁体24の内側に取付けたが、吊り治具をL字状にして、その垂直部の前面上部および背面下部に滑り支承を有する限り、ジャッキ架台を壁体24の外側に設けてもよい。この場合、横力受け体をタンクの外側に設けることはいうまでもない。
【0025】
【発明の効果】以上実施例により詳細に説明したようにこの発明に係る円筒形タンクの解体方法にあっては、次の効果がある。
■ジャッキを壁体の一方の側のみに配置しているため、他方の側に余分な突出物がなく、解体のための溶断作業を自動化できる。
■吊り治具そのものが、偏心力を解消でき、吊り治具が壁体下部に偏心力を与えることがなく、偏心力による壁体下部の破損の恐れがない。
■吊り治具を壁体に固定する必要がないため、切除,下降動作毎の付け換え作業がなく、施工能率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による円筒形タンクの解体方法の全体を示す概略断面図である。
【図2】同断面図である。
【図3】図1における部分拡大図であり、(a)はジャッキを下降させた状態の要部拡大断面図である。(b)はジャッキを上昇させた状態の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
20 タンク
20a 底板
22 ピストン(横力受け体)
24 壁体
32 ジャッキ
34 ジャッキロッド
36 吊り治具
38 パッキング
40 ローラ(滑り支承)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ジャッキを介して下端を支持されたタンクの壁体をその下端から順に切除する作業と、ジャッキによる下降動作を交互に繰り返すことで、タンク全体を下降させて解体する円筒形タンクの解体方法において、前記ジャッキはタンクの一方の側のみに設けられるとともに、該ジャッキのロッドを、水平部及び垂直部を有するL字状をしたかぎ形吊り治具に接合してなり、該吊り治具の水平部により前記壁体の下端を支持し、かつ前記垂直部の前面を滑り支承またはパッキングを介して前記壁体の一方の面に当接するとともに垂直部の背面を滑り支承を介して横力受け体に当接させることを特徴とする円筒形タンクの解体方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】第2911679号
【登録日】平成11年(1999)4月9日
【発行日】平成11年(1999)6月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−123807
【出願日】平成4年(1992)5月15日
【公開番号】特開平5−311894
【公開日】平成5年(1993)11月22日
【審査請求日】平成8年(1996)7月24日
【出願人】(591027444)大阪ガスエンジニアリング株式会社 (18)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【参考文献】
【文献】特開 昭62−170673(JP,A)
【文献】特公 平4−43542(JP,B2)
【文献】特公 平6−6831(JP,B2)
【文献】実公 昭61−14517(JP,Y2)