説明

円筒形被洗浄物の洗浄装置

【課題】 簡素かつコンパクトな構成で、被洗浄面に対して、均一で高い洗浄度が確保できる洗浄装置を提供すること。
【解決手段】
洗浄装置本体2と、洗浄装置本体2の内側に形成される洗浄槽3と、洗浄槽3の内周壁4と、内周壁4に8個設けられる吐出口5と、吐出口5に連通する8個の吐出経路6と、内周壁4に8個設けられる第1の排出口7と、第1の排出口7に連通する第1の排出経路8と、洗浄槽3の上方で内側に突設されピストンWとのクリアランスが1.0〜1.5mmとなる洗浄液噴出防止壁9と、を備える洗浄装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形被洗浄物の洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
円筒形被洗浄物と、円筒形被洗浄物を支持する支持部材と、支持された円筒形被洗浄物の表面に向けて高圧水を噴射する噴射手段と、円筒形被洗浄物と支持部材を噴射手段に対して相対的に回転させる回転手段とを備えた円筒形被洗浄物の洗浄装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−267304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1の円筒形被洗浄物の洗浄装置では、スプレー等の噴射手段で洗浄するため、洗浄液が噴射口から直進方向に噴射される領域に対して、洗浄液が広角に噴射される領域では洗浄力が弱くなる。また、被洗浄面に溝などがある場合、溝内部まで均一に洗浄するのが難しい。そして、被洗浄面にまんべんなく高圧水を噴射させるためには、噴射手段と被洗浄面を相対回転させる機構が必要となる。さらに、洗浄液を広角に噴射させるためには、噴射口と被洗浄面の距離を離す必要があり、洗浄装置が大型化する。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みて成されたものであり、簡素かつコンパクトな構成で、被洗浄面に対して、均一で高い洗浄度が確保できる洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の課題解決手段は、外周に被洗浄面を持つ円筒形被洗浄物が鉛直上方側に設けられた開口部から挿入される洗浄槽と、前記洗浄槽の内周壁に設けられる洗浄液の吐出口と、前記洗浄槽から洗浄液を排出する排出口と、を備える洗浄装置であって、前記吐出口は、前記洗浄槽の内部で洗浄液を旋回流させる吐出角度で洗浄液を吐出する構成である。
【0007】
本発明の第2の課題解決手段は、前記吐出口は、前記円筒形被洗浄物の被洗浄面の接線方向に洗浄液を吐出する吐出角度で設けられる構成である。
【0008】
本発明の第3の課題解決手段は、前記内周壁は、洗浄液の旋回流が下方に向かうように下方側に向けて拡径するテーパーが設けられる構成である。
【0009】
本発明の第4の課題解決手段は、前記洗浄槽は、前記内周壁の上方で前記円筒形被洗浄物と前記内周壁とのクリアランスを狭める環状の縮径部を有する構成である。
【0010】
本発明の第5の課題解決手段は、前記洗浄槽は、前記洗浄槽の底部および前記内周壁に複数の洗浄液の排出口を有する構成である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の洗浄装置は、被洗浄面に沿って旋回流させることにより、被洗浄面に対して旋回流を均一に当てて洗浄することができる。また、被洗浄面に溝などがある場合、溝の内部まで洗浄できる。そして、吐出口と被洗浄面を相対回転させる機構も必要なくなる。さらに、吐出口と被洗浄面の距離を離す必要がなく、洗浄装置を簡素かつコンパクト化できる。
【0012】
また、吐出口は、円筒形被洗浄物の被洗浄面の接線方向に洗浄液を吐出する吐出角度で設けることで、被洗浄面に剪断力が作用して被洗浄面の汚れを落とすことができる。
【0013】
また、内周壁は、洗浄液の旋回流が下方に向かうように下方側に向けて拡径するテーパーが設けられることで、洗浄液を下方へ送り洗浄液が滞ることを抑制し、被洗浄面の均一な洗浄度を確保できる。
【0014】
また、洗浄槽は、内周壁の上方で円筒形被洗浄物と内周壁とのクリアランスを狭める環状の縮径部を有することで、洗浄液が洗浄槽の外部へ飛散することを抑制できる。
【0015】
また、洗浄槽は、洗浄槽の底部および前記内周壁に複数の洗浄液の排出口を有することで、洗浄液が滞ることを抑制し、被洗浄面の均一な洗浄度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る円筒形被洗浄物の洗浄装置の説明図。
【図2】本発明の実施形態に係るピストン及び円筒形被洗浄物の洗浄装置の断面図。
【図3】本発明の実施形態に係るピストン及び円筒形被洗浄物の洗浄装置の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る洗浄装置1の説明図である。本実施形態の洗浄装置1はピストンW(図2参照)を洗浄するものである。洗浄装置1は、洗浄装置本体2と、洗浄装置本体2の内側に形成される洗浄槽3と、洗浄槽3の内周壁4と、内周壁4に8個設けられる吐出口5と、吐出口5に連通する8個の吐出経路6と、内周壁4に8個設けられる第1の排出口7と、第1の排出口7に連通する第1の排出経路8と、洗浄槽3の上方で内側に突設されピストンWとのクリアランスが1.0〜1.5mmとなる洗浄液噴出防止壁9(縮径部)と、洗浄液噴出防止壁9上端部にピストンWを出し入れする開口部10と、を備える。内周壁4は、下方に向かって広がるよう5°〜10°のテーパーが設けられている。また、吐出口5は、0°より大きく25°以下で洗浄槽3中心よりオフセットされた方向(ピストンリング溝W1、W2及びW3凹部の接線方向)に向かって洗浄槽3に開口している。そして、吐出口5は、直径3〜5mmの大きさである。さらに、洗浄装置本体2はボルト孔11を有し、台座12(図2参照)に図示しないボルトで締結される。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係るピストンW及び洗浄装置1の断面図である。ピストンWを洗浄槽3に挿入すると、ピストンWの頂部の外周面にある頂部よりスカート部にかけて形成された3個のピストンリング溝W1、W2及びW3を含む側周面Wfが洗浄液に浸される状態となる。また、台座12は、第2の排出口14と、第2の排出口14に連通する第2の排出経路15とを備える。なお、吐出経路6は、台座12の吐出通路13に連通しており、第1の排出経路8は、外部に連通している。
【0020】
図3は、本発明の実施形態に係るピストンW及び洗浄装置1の説明図である。吐出経路6を経由して吐出口5から吐出された洗浄液は、ピストンリング溝W1、W2及びW3を含む側周面Wfを洗浄し、洗浄槽3内を通って、内周壁4に設けられる第1の排出口7を経由して第1の排出経路8と、台座12に設けられる第2の排出口14を経由して第2の排出経路15とから排出される。
【0021】
以下、本発明の実施形態の主な構成要素について説明する。洗浄槽3は、枠形状の洗浄装置本体2の内周壁4に囲まれた空間のことであり、洗浄したいピストンWの先端側のみが挿入される。洗浄槽3の主な構成としては、洗浄槽3の壁部となる洗浄装置本体2の内周壁4と、洗浄槽3の底部となる台座12とを備えている。洗浄装置本体2と台座12は、洗浄装置本体2の下方側と台座12の表面が接触した状態でボルトにより締結されている。
【0022】
洗浄装置本体2は、鉛直上方側に、被洗浄物のピストンWを出し入れする開口部10を備えている。また、洗浄装置本体2の下方側で、洗浄槽3の底部となる台座12に取り付けられている。また、洗浄装置本体2の内側に、円周状の内周壁4を備えている。
【0023】
この開口部10には、内周壁4の上方側でピストンWと内周壁4との隙間を狭めるように環状の洗浄液噴出防止壁9を備えている。
【0024】
洗浄液噴出防止壁9は、洗浄槽3内の洗浄液が開口部10から洗浄液が漏れ出すことを防止する。また、上方側に僅かな隙間を設けておくことにより、ここから空気が取り込まれて洗浄槽3中の洗浄液に気泡が含まれやすくなることから、気泡水による洗浄効果も得られる。さらに、洗浄液噴出防止壁9は、図2に示されるように、洗浄装置本体2の上方側の一端から洗浄槽3の中心方向に立設した環状の壁(洗浄液噴出防止壁)とすることが好ましい。この場合、洗浄液が壁の付近まで洗浄液が供給されやすいため、上方に向かって徐々に縮径されるよりも洗浄面積を広く取ることができる。
【0025】
洗浄装置本体2の内周壁4には、洗浄液を吐出する吐出口5と、洗浄液を排出する第1の排出口7を備えている。
【0026】
吐出口5は、洗浄液を被洗浄物に対して均一に当てやすくするために、内周壁4に均等間隔で複数設けられている。吐出口5は、吐出される洗浄液の吐出角度(吐出される洗浄液の吐出方向)が、洗浄槽3の中心方向に対してピストンW外周の接線方向、すなわち内周壁4の接線方向に、傾斜していることが好ましい。この場合、洗浄槽3内部で洗浄液の旋回流が起きやすくなるため、円筒状の側周面Wfに対して洗浄液を均一に当てることができる。また、洗浄槽3中の洗浄液の流れに方向性ができることから、洗浄槽3中の洗浄液を効率的に入れ替わりやすくなり、常に、きれいな洗浄液で洗浄ができるようになる。
【0027】
第1の排出口7は、内周壁面4に均等間隔で複数設けられている。内周壁面4に第1の排出口7を設けることにより、側周面Wfに接触した洗浄液を効率的に排出できる。特に、洗浄槽3内で旋回流をしている場合、洗浄液に遠心力が作用し、内周壁4にある第1の排出口7から洗浄液が排出されやすくなり、洗浄槽3中の洗浄液を効率的に入れ替わりやすくなり、常に、きれいな洗浄液で洗浄ができるようになる。
【0028】
洗浄槽3底部の台座12は、吐出口5から吐出された洗浄液を、洗浄槽3内に一時的に溜める役割をもつと共に、洗浄槽3内の洗浄液を排出する第2の排出口14を備えている。
【0029】
第2の排出口14は、洗浄液の吐出口5よりも下方にある洗浄槽3底部の台座12に設けられているため、洗浄槽3中の洗浄液を下方側に向かうようにできる。そのため、洗浄槽3中の洗浄液の流れに方向性ができることから、洗浄槽3中の洗浄液が効率的に入れ替わりやすくなり、常に、きれいな洗浄液で洗浄ができるようになる。この第2の排出口14は、台座12に均等間隔で複数設けられると好ましい。この場合、洗浄槽3中において、洗浄液の局所的な滞留を抑制できる。
【0030】
本発明の実施形態の動作について説明する。洗浄液は、台座12側から吐出経路6を経由して、オフセットして設けられた吐出口5から、ピストンWの頂部の外周面にある頂部よりスカート部にかけて形成された3個のピストンリング溝W1、W2及びW3を含む側周面Wfに向けて吐出される。吐出された洗浄液は、吐出口5が洗浄槽3中心よりオフセットされた方向(ピストンリング溝W1、W2及びW3凹部の接線方向)に向かって洗浄槽3に開口するため、旋回流を生じてピストンリング溝W1、W2及びW3を含む側周面Wfを洗浄する。また、洗浄液は、テーパーを設けられた内周壁4で洗浄液を円周方向だけでなく下方へ向かうよう液流れを形成する。そして、円周方向及び下方に流れる洗浄液は、第1の排出口7を経由して第1の排出経路8と、台座12に設けられる第2の排出口14を経由して第2の排出経路15とから排出される。
【0031】
本発明の実施形態の効果について説明する。本発明の洗浄装置1は、ピストンWの頂部の外周面にある頂部よりスカート部にかけて形成された3個のピストンリング溝W1、W2及びW3を含む側周面Wfに沿って旋回流させることにより、側周面Wfに対して旋回流を均一に当てて洗浄することができる。また、3個のピストンリング溝W1、W2及びW3の内部まで洗浄できる。そして、吐出口5と側周面Wfを相対回転させる機構も必要なくなる。さらに、吐出口5と側周面Wfの距離を離す必要がなく、洗浄装置1を簡素かつコンパクト化できる。
【0032】
また、吐出口5は、ピストンWの側周面Wfの接線方向に洗浄液を吐出する吐出角度で設けることで、側周面Wfに剪断力が作用して側周面Wfの汚れを落とすことができる。
【0033】
また、内周壁4は、洗浄液の旋回流が下方に向かうように下方側に向けて拡径するテーパーが設けられることで、洗浄液を下方へ送り洗浄液が滞ることを抑制し、側周面Wfの均一な洗浄度を確保できる。
【0034】
また、洗浄槽3は、内周壁4の上方に狭める環状の洗浄液噴出防止壁9を備え、ピストンWと内周壁4とのクリアランスを小さくすることで、洗浄液が洗浄槽3の外部へ飛散することを抑制できる。
【0035】
また、内周壁4は、第1の排出口7を有することで、洗浄液が滞ることを抑制し、側周面Wfの均一な洗浄度を確保できる。
【0036】
また、台座12は、第2の排出口14を有することで、下方から洗浄液を排出でき、洗浄液が滞ることを抑制し、側周面Wfの均一な洗浄度を確保できる。
【0037】
また、洗浄装置1は、ピストンWの所望の側周面Wfのみを洗浄し、洗浄液噴出防止壁9により洗浄液の飛散を防止できるため、ピストンWをマスキングする必要がない。
【0038】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、以下に示す態様に変更しても良い。
【0039】
・本実施形態ではピストンWを洗浄しているが、被洗浄物が円筒形であれば適用できる。
【0040】
・本実施形態では洗浄吐出経路6と、吐出口5と、第1の排出口7と、が8個ずつ設けられているが、これらの数は、被洗浄物の大きさによっても変化する値であり、均一な洗浄度が確保できれば数は限定しない。
【0041】
・本実施形態ではピストンWと洗浄液噴出防止壁9とのクリアランスを1.0〜1.5mmとしているが、クリアランスの大きさは、被洗浄物の大きさによっても変化する値であり、洗浄液が洗浄槽3の外部へ噴出しない程度であれば数値は限定しない。
【0042】
・本実施形態では内周壁4のテーパー角度は、5〜10°としているが、テーパー角度は、被洗浄物の大きさによっても変化する値であり、洗浄液を下方へ送り洗浄液が滞ることを抑制できる程度であれば数値は限定しない。
【0043】
・本実施形態では吐出口5は、直径3〜5mmとしているが、吐出口5の大きさは、被洗浄物の大きさによって変化する値であり、均一な洗浄度が確保できれば大きさは限定しない。
【0044】
・本実施形態では洗浄液噴出防止壁9を有するが、内周壁4のテーパー角度をつけることにより、内周壁4の上方で被洗浄物と内周壁4とのクリアランスを小さくすることで洗浄液が飛散することを抑制しても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 :洗浄装置
3 :洗浄槽
4 :内周壁
5 :吐出口
7 :第1の排出口(排出口)
9 :洗浄液噴出防止壁(縮径部)
14 :第2の排出口(排出口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に被洗浄面を持つ円筒形被洗浄物が鉛直上方側に設けられた開口部から挿入される洗浄槽と、
前記洗浄槽の内周壁に設けられる洗浄液の吐出口と、
前記洗浄槽から洗浄液を排出する排出口と、を備える洗浄装置であって、
前記吐出口は、前記洗浄槽の内部で洗浄液を旋回流させる吐出角度で洗浄液を吐出する、ことを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
前記吐出口は、前記円筒形被洗浄物の被洗浄面の接線方向に洗浄液を吐出する吐出角度で設けられることを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記内周壁は、洗浄液の旋回流が下方に向かうように下方側に向けて拡径するテーパーが設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記洗浄槽は、前記内周壁の上方で前記円筒形被洗浄物と前記内周壁とのクリアランスを狭める環状の縮径部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記洗浄槽は、前記洗浄槽の底部および前記内周壁に複数の排出口を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の円筒形被洗浄物の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−111548(P2013−111548A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261610(P2011−261610)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】