説明

円筒形部材により接合された既設の部材の応力計測方法

【課題】円筒形部材によって接合されている既設の部材に掛っている応力を簡易に計測する。
【解決手段】腹材3と主柱材2とは、ボルト4によって接合されているが、この様な場合において、板状部材である腹材3又は主柱材2の応力はボルト4にせん断力として作用している。そこで、主柱材2とボルト4によって接合されている被測定部材である腹材3の応力測定において、前記ボルト4を係止しているナットをゆるめ、当該ボルト4の可動トルクを測定し、予め求めた可動トルクと被測定部材の応力との関係式により、当該被測定部材の応力を求める、既設部材の応力計測方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設の鉄塔の部材及びその他の部材であって、特にボルト等の円筒形部材によって接合されている既設の部材に掛っている応力を迅速、簡便に計測できる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤等に立っている鉄塔は地盤沈下、地震変動等による基礎の不同変位により部材に二次的応力が加わる。これらの部材の変形、変動に伴う力が実際にどのくらい加わっているのかを知ることは、鉄塔の耐力を検討する上で重要な要素である。
【0003】
しかしながら、従来は、新設の鉄塔を設計する際にこれらの応力を予測乃至は推定しているだけである。特許文献1は、複数の節に分割された鉄塔の架構形状及び部材を入力して解析モデルデータを作成して応力解析その他の解析を行い、解析結果を出力して鉄塔の設計や診断を行う鉄塔設計・診断システムである。
【0004】
また、特許文献2は、鉄塔の腹材取替工法と鉄塔の腹材取替検討システムであり、既設の鉄塔に腹材取替装置を取り付け、既設の鉄塔から腹材を取り外し、腹材取替装置と腹材取替装置の周辺の周辺部材に働く応力と、応力に対応する腹材の取替装置と周辺部材の強度を検討する鉄塔の腹材取替検討システムである。この場合、取替える腹材を取り外すと、鉄塔構造が変化するため、腹材取替装置とその周辺の部材の応力が当初の設計値と異なるようになる。それで腹材取替装置とその周辺の部材の強度検討が必要になる。そこで、立体解析により、腹材取替装置とその周辺の部材の応力を求めている。
【0005】
【特許文献1】特許第3787799号公報
【特許文献2】特開2005−350954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2は、いずれも解析によって部材の応力を求めるものである。また、力が作用していない状態と力が作用している状態において、力の変化を別の物理量の変化として計測するものが一般的であり、力が作用していない状態(初期状態)における計測が必要である。構造物の部材のように、力が既に作用している状態において、その力の大きさを計測することが困難であった。
この様に、既設の鉄塔の腹材等の部材、特にボルト等の円筒形部材によって接合されている部材に掛る応力を簡単に測定する方法がないのが現状である。
【0007】
そこでこの発明は、鉄塔の部材に限らず、円筒形部材によって接合されている既設の部材に掛っている応力を簡易に計測する方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、円筒形部材によって接合されている被測定部材の応力測定において、前記円筒形部材を係止している部材の係止を解き、当該円筒形部材の可動トルクを測定し、予め求めた可動トルクと被測定部材の応力との関係により、当該被測定部材の応力を求める、既設部材の応力計測方法とした。
【0009】
また、請求項2の発明は、前記請求項1に記載の発明において、予め求めた可動トルクと被測定部材の応力との関係が、被測定部材の応力値が円筒形部材の可動トルク値に比例している関係である、既設部材の応力計測方法とした。
【0010】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2の方法において、前記円筒形部材の可動トルクの測定を、デジタルトルクレンチで行う、既設部材の応力計測方法とした。
【発明の効果】
【0011】
請求項1及び2の発明によれば、既設の被測定部材の応力を計測するために、当該被測定部材と他の部材を接合しているボルト等の円筒形部材が動く最大のトルク(可動トルク)を測定し、これを予め求めた可動トルクと被測定部材の応力との関係式に当てはめることにより被測定部材の応力を迅速、簡便に計測することができるものである。
【0012】
また、請求項3の発明によれば、デジタルトルクレンチを用いることにより、円筒形部材の可動トルクを容易に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明は、ボルト等の円筒形部材によって接合されている被測定部材の応力測定において、前記円筒形部材を係止しているナット等の部材を緩め、当該円筒形部材の可動トルクを測定し、予め求めた可動トルクと被測定部材の応力との関係式により、当該被測定部材の応力を求める、既設の部材の応力計測方法とした。
【0014】
これにより、簡単な方法で、既設の部材の応力を測定できるものである。
【実施例1】
【0015】
以下、この発明の実施例1を図に基づいて説明する。図1はこの発明の原理を示す説明図、図2はこの発明の実施例1の計測する既設の部材の取り付け箇所を示す説明側面図である。
【0016】
図2に示す、鉄塔1の基礎近くの主柱材2に接続された腹材3には、地盤沈下、地震変動等による基礎の不同変位により二次的応力が加わっている。この腹材3と主柱材2とは、図1に示すように、円筒形部材、すなわち、ボルト4によって接合されている。この様な場合において、板状部材である腹材3又は主柱材2の応力はボルト4にせん断力として作用している。そこで、ボルト4を係止しているナット(図示省略)を緩め、当該ボルト4が動く最大トルク(可動トルク)を測る。せん断力(=部材の応力)が高いと、ボルトの回転抵抗(摩擦抵抗)が高くなり、可動トルクが高くなる。一方、せん断力が低いと、ボルトの可動トルクも低い。
【0017】
次にこの可動トルクと部材の応力(せん断力)との関係を調べる。これには、種々の腹材の応力値を実際に求め、これと各腹材と主柱材との接合部のボルトの可動トルクを求めた。これらの結果を表1に示す。
【0018】
なお、表1における、「測定トルク値N・m」は、ボルトの可動トルク値を示し、「応力測定値kN」は、図3に示すように、当該腹材の上面及び側面の重心軸にひずみゲージを夫々貼着し、当該腹材に沿ってターンバックルを設け、この一端は当該腹材に固定した取付治具を介して固定し、他端は主柱材に台付けワイヤーで固定して、ターンバックルを収縮させて対象腹材の応力を解放した際の対象腹材のひずみの変化から存在応力を算出したもので、これを種々の鉄塔の各腹材について測定した値を示す。なお、腹材と主柱材とを接合するボルト、ナットのナットを予め緩めておき、ボルトが回転可能となった際のひずみを測定する。
【0019】
【表1】




【0020】
この表1の各「測定トルク値/N・m」と相応する各「応力測定値/kN」との交点を、図4に示す、横軸をボルト可動トルク値(N・m)、縦軸を部材軸力(kN、応力値)としたグラフにプロットとした。
【0021】
この結果、前記グラフに示すように、プロットした交点は概ね直線で表示でき、せん断力をFとし、可動トルクをτとすると、両者は概ね比例関係F∝τとなることが明らかになった。この様に、ボルト4の可動トルクを計測することにより、腹材3の応力を定量化することができる。表1の場合両者の関係は、部材の応力をyとし、ボルトの可動トルク値をxとした場合、
y=0.1594x+0.9802である。
【0022】
以上のように、この発明の計測方法により計測すれば、デジタルトルクレンチ等により、既設の被測定部材の接合部のボルト4の可動トルクを測定することは極めて容易であり、この可動トルク値から被測定部材の応力値を簡単に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の原理を示す説明図である。
【図2】この発明の実施例1の被測定部材の取り付け箇所を示す説明側面図である。
【図3】この発明の実施例1における部材の真の応力値の測定を行う装置の説明側面図である。
【図4】この発明の実施例1のボルト可動トルク値と部材の軸力(応力値)との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0024】
1 鉄塔 2 主柱材
3 腹材 4 ボルト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形部材によって接合されている被測定部材の応力測定において、
前記円筒形部材を係止している部材の係止を解き、当該円筒形部材の可動トルクを測定し、
予め求めた可動トルクと被測定部材の応力との関係により、当該被測定部材の応力を求めることを特徴とする、既設部材の応力計測方法。
【請求項2】
前記予め求めた可動トルクと被測定部材の応力との関係が、被測定部材の応力値が円筒形部材の可動トルク値に比例している関係であることを特徴とする、請求項1に記載の既設部材の応力計測方法。
【請求項3】
前記円筒形部材の可動トルクの測定を、デジタルトルクレンチで行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の既設部材の応力計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−18054(P2012−18054A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154995(P2010−154995)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)