説明

円筒状成形体及びその製造方法、円筒状成形体ユニット、画像形成装置用部材、並びに画像形成装置

【課題】フッ素樹脂粒子を含んでも、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層の局所的な割れが抑制された円筒状成形体を提供すること。
【解決手段】熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層を有する(例えば最外層11として有する)円筒状成形体10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状成形体及びその製造方法、円筒状成形体ユニット、画像形成装置用部材、並びに画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状成形体としては、画像形成装置用部材を始め、様々な技術分野で開発がなされている。
例えば、フッ素化ポリイミド樹脂を使用した定着部材(加熱ベルト、加圧ベルト)が提案されている(特許文献1参照)。
また、ポリイミド樹脂にフッ素樹脂粒子を分散させ、さらにポリイミド表面にフッ素樹脂を分散偏在させた定着部材も提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
また、中間転写ベルト表面層にフッ素原子を導入する方法として、フッ素原子を含む界面活性剤をポリイミド樹脂などのバインダーと共に塗布する方法が提案されている(特許文献3、4参照)。
また、フッ素原子を含有するフッ素樹脂をベルト基材に塗布する方法が提案されている(特許文献5参照)。
【0004】
また、表面層にフッ素樹脂を主体とした材料が用いられた定着ベルトも提案されている(特許文献6〜10参照)。
また、表面層にポリイミド樹脂とフッ素樹脂とを併用した定着ベルトも提案されている(特許文献11参照)。
また、内周面にポリイミド樹脂とフッ素樹脂とを併用した層を設けた定着ベルトも提案されている(特許文献12参照)。
また、表面層にポリイミド樹脂とフッ素樹脂とを併用した定着ロールも提案されている(特許文献13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3069041号公報
【特許文献2】特許第3260679号公報
【特許文献3】特開平7−156287号公報
【特許文献4】特開2004−29769号公報
【特許文献5】特開2004−125905号公報
【特許文献6】特開2007−293028号公報
【特許文献7】特開2004−160431号公報
【特許文献8】特開平11−15303号公報
【特許文献9】特開平10−282818号公報
【特許文献10】特開平7−199691号公報
【特許文献11】特開2006−259248号公報
【特許文献12】特開2005−257989号公報
【特許文献13】特開2007−293028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、フッ素樹脂粒子を含んでも、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層の局所的な割れが抑制された円筒状成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層を有する円筒状成形体。
【0008】
請求項2に係る発明は、
前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層が、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが溶媒中に分散された溶液の塗膜に対して、加熱処理を施すことで得られた層である請求項1に記載の円筒状成形体。
【0009】
請求項3に係る発明は、
前記円筒状成形体が、2層以上の積層体で構成され、
前記ポリイミド系樹脂の溶融層又は軟化層を、最外層として有する請求項1又は2に記載の円筒状成形体。
【0010】
請求項4に係る発明は、
前記円筒状成形体が、2層以上の積層体で構成され、
前記ポリイミド系樹脂の溶融層又は軟化層と接する層が、ポリイミド系樹脂を含んで構成された層である請求項1〜3のいずれか1項に記載の円筒状成形体。
【0011】
請求項5に係る発明は、
前記フッ素樹脂粒子の体積平均粒径が、0.5μm以上70μm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の円筒状成形体。
【0012】
請求項6に係る発明は、
前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層が、導電材料を含む請求項1に記載の円筒状成形体。
【0013】
請求項7に係る発明は、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の円筒状成形体と、該円筒状成形体を張力がかかった状態で掛け渡す複数のロールと、を備え、画像形成装置に対して脱着される円筒状成形体ユニット。
【0014】
請求項8に係る発明は、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の円筒状成形体で構成された画像形成装置用部材。
【0015】
請求項9に係る発明は、
請求項8に記載の画像形成装置用部材を備える画像形成装置。
【0016】
請求項10に係る発明は、
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが溶媒中に分散された溶液を、被塗布物上に塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜に対して加熱処理を施して、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層を形成する工程を有する円筒状成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、及び2に係る発明よれば、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層が、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層でない場合に比べ、フッ素樹脂粒子を含んでも、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層の局所的な割れが抑制された円筒状成形体を提供できる。
請求項3に係る発明によれば、最外層が、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層でない場合に比べ、最外層の局所的な割れが抑制された円筒状成形体を提供できる。
請求項4に係る発明によれば、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層と接する層がポリイミド系樹脂を含んで構成されていない場合に比べ、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層とそれと接する層との剥離が抑制される円筒状成形体が提供できる。
請求項5に係る発明によれば、フッ素樹脂粒子の体積平均粒径が上記範囲でない場合に比べ、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層の局所的な割れが抑制された円筒状成形体を提供できる。
請求項6に係る発明によれば、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層が、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層でない場合に比べ、フッ素樹脂粒子と共に導電材料を含んでも、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層の局所的な割れが抑制された円筒状成形体を提供できる。
【0018】
請求項7に係る発明によれば熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層を有する円筒状成形体を適用しない場合に比べ、フッ素樹脂粒子を含んでも、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層の局所的な割れが抑制された円筒状成形体を備えた円筒状成形体ユニットを提供できる。
【0019】
請求項8に係る発明によれば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層を有する円筒状成形体を適用しない場合に比べ、円筒状成形体における、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層の局所的な割れに起因する画像欠陥が抑制された画像形成装置用部材を提供できる。
請求項9に係る発明によれば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層を有する円筒状成形体を適用しない場合に比べ、円筒状成形体における、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層の局所的な割れに起因する画像欠陥が抑制された画像形成装置を提供できる。
【0020】
請求項10に係る発明によれば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが溶媒中に分散された溶液を適用しない場合に比べ、フッ素樹脂粒子を含んでも、ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層の局所的な割れが抑制された円筒状成形体が得られる円筒状成形体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る円筒状成形体を示す概略斜視図である。
【図2】図1のA−A概略断面図である。
【図3】他の本実施形態に係る円筒状成形体を示す概略断面図(図1のA−A概略断面図に相当)である。
【図4】円形電極の一例を示す概略平面図(A)及び概略断面図(B)である。
【図5】本実施形態に係る円筒状成形体ユニットを示す概略斜視図である。
【図6】本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【図7】他の実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0023】
(円筒状成形体)
図1は、実施形態に係る円筒状成形体を示す概略斜視図である。図2は、図1のA−A概略断面図である。
【0024】
本実施形態に係る円筒状成形体10(以下、無端ベルト10と称する)は、図1及び図2に示すように、例えば、無端状に形成され、例えば厚み30μm以上80μm以下の基材層12と、基材層12の外周面に設けられた例えば厚み5μm以上70μm以下の最外層11と、の積層体で構成されている。
そして、最外層11として、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層(以下、単に「ポリイミド樹脂層」と称することがある)を適用している。
具体的には、最外層11としてのポリイミド系樹脂層は、例えば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが溶媒中に分散された溶液の塗膜(当該塗膜が熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む混合物に相当)に対して、加熱処理を施すことで得られた層であることがよい。
つまり、ポリイミド系樹脂層は、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む混合物を層状に形成し、加熱により熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子を溶融又軟化させた層である。
【0025】
本実施形態に係る無端ベルト10では、ポリイミド系樹脂層で構成された最外層11を上記構成とすることで、最外層11(つまり、ポリイミド系樹脂層)の局所的な割れが抑制される。
この理由は定かではないが、以下の理由によるものと推測される。
【0026】
従来、フッ素樹脂粒子を含むポリイミド系樹脂層は、フッ素樹脂粒子を分散させたポリイミド系樹脂前駆体溶液の塗膜を加熱して得たり、溶融した熱可塑性ポリイミド系樹脂にフッ素樹脂粒子を分散させたものを層状に形成して得たりしている。
【0027】
しかしながら、このような手法による、フッ素樹脂粒子を含むポリイミド系樹脂層では、層形成前のフッ素樹脂粒子の分散性が低い傾向にあり、得られるポリイミド系樹脂層中にフッ素樹脂粒子が凝集や偏在して含まれることが多いと考えられる。フッ素樹脂粒子を分散させたポリイミド系樹脂前駆体溶液からの加工の場合、ポリイミド樹脂前駆体のイミド化反応に伴い、バインダーたるポリイミド系樹脂が剛直化し、また、ポリイミド系樹脂の凝集力が増加するため加熱処理中に、フッ素樹脂粒子がバインダーから排斥されて凝集が発生する。また。溶融した熱可塑性ポリイミド系樹脂にフッ素樹脂粒子を分散させての加工の場合、熱可塑性ポリイミド樹脂の溶融粘度が高いため、フッ素樹脂粒子の十分な分散ができない。
そして、このような状態でフッ素樹脂粒子が含まれるポリイミド系樹脂層に対して、例えば、曲げや伸び機械的負荷が掛けられると、ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂粒子との濡れ性の違いのためか、フッ素樹脂粒子の凝集存在個所、並びにフッ素樹脂凝集体とポリイミド系樹脂との界面部に応力が集中して、局所的な割れが生じ易くなるものと考えられる。
【0028】
これに対して、本実施形態の如く、ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを混合した状態(混合物)では、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子同士やフッ素樹脂粒子同士が凝集し難く、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが互いに混ざり合った状態を作り出せると考えられる。
そして、このような互いの粒子が混ざり合った状態を作り出すには、例えば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子と溶媒に分散させることがよいと考えられる。これは、フッ素樹脂粒子を分散させたポリイミド系樹脂前駆体溶液からの加工の際に見られるポリイミド樹脂前駆体のイミド反応を伴わないため、フッ素樹脂粒子の凝集が少なくなり、また、先に示したフッ素樹脂粒子を分散させたポリイミド系樹脂前駆体溶液からの加工や、溶融した熱可塑性ポリイミド系樹脂にフッ素樹脂粒子を分散して加工する場合に比べて、分散物の粘度が低いため、容易に分散できるためと考えられるからである。
【0029】
このポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを混合した状態(混合物)、つまり互いの粒子が混ざり合った状態で、ポリイミド系樹脂粒子を溶融すると、具体的には、例えば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが溶媒中に分散された溶液の塗膜に対して、加熱を行うと、フッ素樹脂粒子が凝集や偏在が抑制された状態でポリイミド系樹脂層に含まれることになると考えられる。
即ち、ポリイミド系樹脂層中に、フッ素樹脂粒子が均一に分散して含まれ易くなると考えられる。
【0030】
このため、本実施形態に係る無端ベルト10では、ポリイミド系樹脂層で構成された最外層11(ポリイミド系樹脂層の一例)の局所的な割れが抑制されると考えられる。
つまり、本実施形態に係る無端ベルト10では、曲げや伸び等の機械的負荷に対して、最外層11の局所的な割れが抑制されることから、例えば、画像形成装置用部材として有用である。
そして、当該画像形成装置用部材を備えた画像形成装置では、最外層11(ポリイミド系樹脂層の一例)の局所的な割れに起因する画像欠陥が抑制される。
【0031】
以下、本実施形態に係る無端ベルト10の構成材料や特性について詳細に説明する。
【0032】
まず、最外層11について説明する。
最外層11は、例えば、フッ素樹脂粒子を含んで構成されたポリイミド系樹脂層であって、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む混合物のポリイミド系樹脂層である。
具体的には、最外層11としてのポリイミド系樹脂層は、例えば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが溶媒中に分散された溶液の塗膜に対して、加熱処理を施すことで得られた層である。
【0033】
最外層11としてのポリイミド系樹脂層には、無端ベルト10の用途に応じて(例えば中間転写体[中間転写ベルト]や、搬送転写体[搬送転写ベルト]等の転写ベルトに適用する場合)、導電材料を含んで構成される。
この場合、例えば、最外層11としてのポリイミド系樹脂層は、例えば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが溶媒中に分散された溶液であって、導電材料も溶媒に分散又は溶解された溶液の塗膜に対して、加熱処理を施すことで得られた層である。
【0034】
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子について説明する。
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子を構成する熱可塑性ポリイミド樹脂とは、例えば、加熱により溶融成形可能な樹脂であって、イミド環構造の繰り返し単位を有する重合体である。熱可塑性ポリイミド系樹脂の熱的特性に関しては、加工上の観点より、融解し得る溶融温度又は軟化温度を持ち、溶融温度又は軟化温度が熱分解温度よりも低いことがよい。
【0035】
熱可塑性ポリイミド系樹脂として具体的には、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリアミドイミド樹脂、熱可塑性ポリエーテルイミド樹脂、熱可塑性ポリエステルイミド樹脂が挙げられる。
【0036】
熱可塑性ポリイミド樹脂は、例えば、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを脱水縮重合して得られるポリアミック酸から、さらに脱水イミド化反応を行う2段階にて製造、又は、ジイソシナネートとテトラカルボン酸二無水物二無水物とを重合して1段階にて製造されるものである。
【0037】
熱可塑性ポリアミドイミドは、例えば、ジアミン化合物とトリメリット酸とを脱水縮重合して得られるポリアミド酸から、さらに脱水イミド化反応を行う2段階にて製造、又は、トリメリット酸二無水物とジイソシアネート化合物とを重合して1段階にて製造されるものである。
【0038】
熱可塑性ポリエーテルイミドは、例えば、エーテル構造を含むジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを脱水縮合、若しくはジアミン化合物とエーテル構造を含むテトラカルボン酸二無水物とを脱水縮重合して得られるポリアミド酸から、さらに脱水イミド化反応を行う2段階にて製造、又は、エーテル構造を含むジイソシアネート化合物とテトラカルボン酸二無水物とを重合、若しくはジイソシアネート化合物とエーテル構造を含むテトラカルボン酸二無水物とを重合して1段階にて製造されるものである。
【0039】
熱可塑性ポリエステルイミドは、例えば、エステル構造を含むジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを脱水重合、若しくはジアミン化合物とエステル構造を含むテトラカルボン酸二無水物とを脱水縮重合して得られるポリアミド酸から、さらに脱水イミド化反応を行う2段階にて製造、又は、エステル構造を含むジイソシアネート化合物とテトラカルボン酸二無水物と重合、若しくはジイソシアネート化合物とエステル構造を含むテトラカルボン酸二無水物とを重合して1段階にて製造されるものが挙げられる。
【0040】
これら熱可塑性ポリイミド系樹脂を製造するための単量体は、周知のものが適用され得る。
【0041】
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子の溶融温度又は軟化温度は、例えば150℃以上450℃以下であることがよく、望ましくは200℃以上400℃以下、より望ましくは250℃以上380℃以下である。
ここで、溶融温度は、融点(Tm)で代表される結晶質樹脂部が溶融する温度で求められる値である。
また、軟化温度は所謂ガラス転移温度(Tg)で示される 非晶質樹脂部の溶融する温度で求められる値である。
【0042】
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子は、粒子状であれば、球状、繊維状、不定形状のいずれであってもよい。
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子の体積平均粒径は、例えば、0.2μm以上2mm以下であることがよく、望ましくは 0.5μm以上1mm以下であり、より望ましくは 1μm以上100μm以下である。係る体積平均粒径となるように、大きな粒径の熱可塑性樹脂は粉砕して用いられる。
体積平均粒径を上記範囲とすると、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子同士で凝集し難く、フッ素樹脂粒子と混ざり易くなり、また、ポリイミド系樹脂層の厚みに対して小さく、粒子が存在することによる部分的な強度不良(つまり、粒子の存在により部分的に樹脂の存在率が低くなることによる部分的な強度不良)が抑制され、結果、ポリイミド系樹脂層の局所的な割れが抑制され易くなる。
なお、体積平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定、動的光散乱法等の方法にて測定される。
【0043】
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子の含有量(つまり、ポリイミド系樹脂層においての熱可塑性ポリイミド系樹脂の含有量)は、例えば、層を構成する成分全体に対して5質量%以上90質量%以下であることがよく、望ましくは20質量%以上80質量%以下であり、より望ましくは30質量%以上70質量%以下である。
ポリイミド系樹脂粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0044】
ここで、ポリイミド系樹脂粒子以外にも、他の樹脂粒子を併用してもよい。他の樹脂粒子としては、例えば、ポリアミド樹脂粒子、ポリエーテルエーテルエステル樹脂粒子、ポリアリレート樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、補強材を添加してなるポリエステル樹脂粒子などが挙げられる。
【0045】
フッ素樹脂粒子について説明する。
フッ素樹脂粒子を構成するフッ素樹脂としては、例えば、完全フッ素化樹脂、部分フッ素化樹脂、フッ素化樹脂共重合体等が挙げられる。
完全フッ素化樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ素化樹脂、略号:PTFE)等が挙げられる。
部分フッ素化樹脂としては、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ素化樹脂、略号:PCTFE,CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(略号:PVDF)、ポリフッ化ビニル(略号:PVF)等が挙げられる。
フッ素化樹脂共重合体としては、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(略号:PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(略号:FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(略号:ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(略号:ECTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ素化樹脂、略号:PTFE)等が挙げられる。
【0046】
フッ素樹脂粒子は、粒子状であれば、球状、繊維状、不定形状のいずれであってもよい。
フッ素樹脂粒子の体積平均粒径は、例えば、0.5μm以上70μm以下であることがよく、望ましくは1μm以上50μm以下であり、より望ましくは2μm以上20μm以下である。
体積平均粒径を上記範囲とすると、フッ素樹脂粒子同士で凝集し難く、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子と混ざり易くなり、また、ポリイミド系樹脂層の厚みに対して小さく、粒子が存在することによる部分的な強度不良(つまり、粒子の存在により部分的に樹脂の存在率が低くなることによる部分的な強度不良)が抑制され、結果、ポリイミド系樹脂層の局所的な割れが抑制され易くなる。
なお、体積平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定、動的光散乱法、などの方法にて測定される。
【0047】
フッ素樹脂粒子の含有量(つまり、ポリイミド系樹脂層においてのフッ素樹脂の含有量)は、例えば、層を構成する成分全体に対して10質量%以上95質量%以下であることがよく、望ましくは20質量%以上80質量%以下であり、より望ましくは30質量%以上70質量% 以下である。
フッ素樹脂粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0048】
導電材料について説明する。
導電材料としては、導電性(例えば体積抵抗率10Ω・cm未満、以下同様である)もしくは半導電性(例えば体積抵抗率10Ω・cm以上1013Ω・cm以下、以下同様である)のものが挙げられる。
導電材料として具体的は、例えば、カーボンブラック(例えばケッチエンブラック、アセチレンブラック、表面が酸化処理されたカーボンブラック等)、金属(例えばアルミニウムやニッケル等)、酸化金属化合物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等)、イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等)、導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリサルフォン、ポリアセチレンなど)等が挙げられる。
【0049】
導電材料は、その使用目的により選択されるが、電気抵抗の経時での安定性や、転写電圧による電界集中を抑制する電界依存性の観点から、pH5以下(望ましくはpH4.5以下であり、より望ましくはpH4.0以下)の酸化処理カーボンブラック(例えば表面にカルボキシル基、キノン基、ラクトン基、水酸基等を付与して得られたカーボンブラック)がよく、電気的耐久性付与の観点から、導電性高分子(例えばポリアニリン等)がよい。
【0050】
なお、導電材料がカーボンブラック等の粒子状の場合、その一次粒径が10μm未満、望ましくは1μm以下の粒子であることがよい。
【0051】
導電材料の含有量は、例えば、層を構成する成分全体に対して1質量%以上50質量%以下であることがよく、望ましくは2質量%以上40質量%以下より望ましくは4質量%以上30質量%以下である。
導電材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0052】
次に、基材層12について説明する。
基材層12は、樹脂材料を含んで構成される。基材層12も、無端ベルト10の用途に応じて(例えば中間転写体[中間転写ベルト]や、搬送転写体[搬送転写ベルト]等の転写ベルトに適用する場合)、導電材料を含んで構成される。
【0053】
樹脂材料について説明する。
樹脂材料としては、樹脂材料は、そのヤング率が、ベルト厚みによっても異なるが、望ましくは、3500MPa以上、より望ましくは4000MPa以上であればよく、ベルトとしての機械特性が満足される。樹脂としては、上記ヤング率を満たせば、制限はないが、例えば、ポリイミド系樹脂(例えば、熱可塑性、又は熱硬化性のポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、補強材を添加してなるポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0054】
なお、ヤング率は、JIS K7127(1999)に準じて引張試験を行い、得られた応力・歪曲線の初期ひずみ領域の曲線に接線を引き、その傾きにより求める。測定条件としては、短冊状試験片(幅6mm、長さ130mm)、ダンベル1号、試験速度500mm/分、厚さはベルト本体の厚さの各設定で測定するものとする。
【0055】
上記樹脂材料の中でも、ポリイミド系樹脂が好適である。ポリイミド系樹脂(特にポリイミド樹脂)は、高ヤング率材料であることから、ベルト回転駆動時の変形が他の樹脂に比べ少なくなる。そして、最外層11がポリイミド系樹脂を含んで構成されることから、最外層11と接触する下層に相当する基材層12もポリイミド系樹脂を含んで構成させることで、最外層11と下層となる基材層12との密着性が向上すると考えられ、当該層間の剥離が抑制される。
【0056】
導電材料について説明する。
導電材料についても、最外層11を構成する導電材料と同様なものが挙げられる。
【0057】
次に、本実施形態に係る無端ベルト10の特性について説明する。
本実施形態に係る無端ベルト10は、周方向に屈曲半径5mmにて135°の変形を加えたとき、最外層11(ポリイミド系樹脂層)に破損(割れ、折れ等)が発生しないことがよい。
【0058】
本実施形態に係る無端ベルト10が中間転写体(中間転写ベルト)に適用される場合、その外周面の表面抵抗率は、常用対数値で9(LogΩ/□)以上13(LogΩ/□)以下であることが望ましく、10(LogΩ/□)以上12(LogΩ/□)以下であることがより望ましい。表面抵抗率の常用対数値が13(LogΩ/□)を超えると、二次転写時に記録媒体と中間転写体とが静電吸着し、記録媒体の剥離ができなくなる場合がある。一方、表面抵抗率の常用対数値が9(LogΩ/□)未満であると、中間転写体に一次転写されたトナー像の保持力が不足し画質の粒状性や像乱れが発生する場合がある。尚、前記表面抵抗率の常用対数値は、導電材料の種類、及び導電材料の添加量により制御される。
【0059】
ここで、表面抵抗率の測定方法は、次の通り行う。円形電極(例えば、三菱油化(株)製ハイレスターIPの「URプローブ」)を用い、JIS K6911に従って測定する。表面抵抗率の測定方法を、図を用いて説明する。図4は、円形電極の一例を示す概略平面図(A)及び概略断面図(B)である。図4に示す円形電極は、第一電圧印加電極Aと板状絶縁体Bとを備える。第一電圧印加電極Aは、円柱状電極部Cと、該円柱状電極部Cの外径よりも大きい内径を有し、且つ円柱状電極部Cを一定の間隔で囲む円筒状のリング状電極部Dとを備える。第一電圧印加電極Aにおける円柱状電極部C及びリング状電極部Dと板状絶縁体Bとの間にベルトTを挟持し、第一電圧印加電極Aにおける円柱状電極部Cとリング状電極部Dとの間に電圧V(V)を印加したときに流れる電流I(A)を測定し、下記式により、ベルトTの転写面の表面抵抗率ρs(Ω/□)を算出する。ここで、下記式中、d(mm)は円柱状電極部Cの外径を示し、D(mm)はリング状電極部Dの内径を示す。
式:ρs=π×(D+d)/(D−d)×(V/I)
なお、表面抵抗率は、円形電極(三菱油化(株)製ハイレスターIPのURプローブ:円柱状電極部Cの外径Φ16mm、リング状電極部Dの内径Φ30mm、外径Φ40mm)を用い、22℃/55%RH環境下、電圧500V、10秒印加後の電流値を求め算出する。
【0060】
本実施形態に係る無端ベルト10が中間転写体(中間転写ベルト)に適用される場合、その全体の体積抵抗率は、常用対数値で8(LogΩcm)以上13(LogΩcm)以下であることが望ましい。前記体積抵抗率の常用対数値が8(LogΩcm)未満であると、像保持体から中間転写体に転写された未定着トナー像の電荷を保持する静電的な力が働きにくくなるため、トナー同士の静電的反発力や画像エッジのフリンジ電界の力によって、画像の周囲にトナーが飛散してしまい、ノイズの大きい画像が形成される場合がある。一方、前記体積抵抗率の常用対数値が13(LogΩcm)を超えると、電荷の保持力が大きいために、一次転写での転写電界で中間転写体表面が帯電するために除電機構が必要となる場合がある。尚、前記体積抵抗率の常用対数値は、導電材料の種類、及び導電材料の添加量により制御される。
【0061】
ここで、体積抵抗率の測定は、円形電極(例えば、三菱油化(株)製ハイレスターIPのURプローブ)を用い、JIS K6911に従って測定する。前記体積抵抗率の測定方法を、図を用いて説明する。測定は表面抵抗率と同一の装置で測定する。但し、図4に示す円形電極において、表面抵抗率測定時の板状絶縁体Bに代えて第二電圧印加電極B’とを備える。そして、第一電圧印加電極Aにおける円柱状電極部C及びリング状電極部Dと第二電圧印加電極B’との間にベルトTを挟持し、第一電圧印加電極Aにおける円柱状電極部Cと第二電圧印加電極Bとの間に電圧V(V)を印加した時に流れる電流I(A)を測定し、下記式により、ベルトTの体積抵抗率ρv(Ωcm)を算出する。ここで、下記式中、tは、ベルトTの厚さを示す。
式ρv=19.6×(V/I)×t
なお、体積抵抗率は、円形電極(三菱油化(株)製ハイレスターIPのURプローブ:円柱状電極部Cの外径Φ16mm、リング状電極部Dの内径Φ30mm、外径Φ40mm)を用い、22℃/55%RH環境下、電圧500V、10秒印加後の電流値を求め算出する。
【0062】
また、上記式に示される19.6は、抵抗率に変換するための電極係数であり、円柱状電極部の外径d(mm)、試料の厚さt(cm)より、πd/4tとして算出される。また、ベルトTの厚さは、サンコー電子社製渦電流式膜厚計CTR−1500Eを使用し測定する。
【0063】
以下、本実施形態に係る無端ベルト10の製造方法について説明する。
なお、無端ベルト10として、基材層12の樹脂材料としてポリイミド樹脂、基材層12及び最外層11に導電材料としてカーボンブラックを含ませた形態の製造方法について説明するが、これに限られるわけではない。
【0064】
まず、芯体を準備する。準備する芯体としては、円筒状金型等が挙げられる。芯体の素材としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等の金属が挙げられる。芯体の長さは、目的とする無端ベルト以上の長さが必要であるが、目的とする無端ベルトの長さより、10%以上40%以下長いことが望ましい。
【0065】
次に、基材層形成用塗布液として、カーボンブラックを分散させたポリアミック酸溶液を準備する。
具体的には、例えば、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を溶解させ、これにカーボンブラックを分散させた後、重合してカーボンブラックを分散させたポリアミック酸溶液を準備する。
この際、ポリアミック酸溶液における、モノマー濃度(溶媒中におけるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の濃度)は種々の条件により設定されるが、5質量%以上30質量%以下が望ましい。また、重合反応温度は80℃以下に設定することが望ましく、特に望ましくは5℃以上50℃以下であり、重合反応時間は5時間以上10時間以下である。
【0066】
次に、基材層形成用塗布液を芯材としての円筒状金型に塗布し、基材層形成用塗布液の塗膜を形成する。
塗布液の円筒状金型への塗布方法は、特に制限はなく、例えば、円筒状金型の外周面に浸漬する方法や、円筒状金型の内周面に塗布する方法、軸を水平にして円筒状金型を回転させながら、その外周面又は内周面にらせん状に塗布する方法や、円筒状金型の外周と特定の間隔を有するダイを用い塗布する方法により塗布する方法等が挙げられる。
【0067】
次に、基材層形成用塗布液の塗膜を乾燥させ、基材層となる皮膜(乾燥したイミド化前の塗膜)を形成する。乾燥条件は、例えば80℃以上200℃以下の温度で10分間以上60分間以下がよく、温度が高いほど加熱時間は短くてよい。加熱の際、熱風を当てることも有効である。加熱時は、温度を段階的に上昇させたり、速度を変化させずに上昇させてもよい。芯体の軸方向を水平にして、芯体を5rpm以上60rpm以下で回転させるのがよい。乾燥後は芯体を垂直にしてもよい。
【0068】
次に、最外層形成用塗布液として、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子、フッ素樹脂粒子、及びカーボンブラックを溶媒中に分散させた溶液(分散液)を準備する。
具体的には、例えば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子、フッ素樹脂粒子、カーボンブラックを溶媒に添加し、攪拌処理を行って分散液を準備してもよく、予めそれぞれの粒子の分散液を調製し、これら分散液を混合して準備してもよい。
【0069】
ここで、使用する溶媒としては、例えば、水、エーテル系溶媒(例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等)、アルコール系溶媒(例えばメタノール、エタノール、ブタノール等)、セロソルブ系アルコール(例えばブチルセロソルブ等)、エステル系溶媒(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルエステル等)、ケトン系溶媒(例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)等が挙げられる。
【0070】
また、各粒子を分散させるための分散剤を溶液(分散剤)中に添加してもよい。
例えば、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子、及びカーボンブラック(粒子状の導電材料)を分散させる分散剤としては、低分子量でも高分子量のものでもよく、またカチオン系、アニオン系、非イオン系から選ばれるいずれの種類の分散剤が挙げられるが、特に、非イオン系高分子が望ましい。
非イオン系高分子としては、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(N,N’−ジエチルアクリルアジド)、ポリ(N−ビニルホルムアミド)、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリ(N−ビニルフタルアミド)、ポリ(N−ビニルコハク酸アミド)、ポリ(N−ビニル尿素)、ポリ(N−ビニルピペリドン)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ(N−ビニルオキサゾリン)等が挙げられ、単独又は複数の非イオン系高分子を添加してもよい。
本分散剤の添加量は、層を構成する成分全体に対して100質量部に対して、例えば、0.2質量部以上3質量部以下であることがよい。
【0071】
また、例えば、フッ素樹脂粒子を分散させるための分散剤としては、例えば、フッ素系グラフトポリマーが挙げられる。
フッ素系グラフトポリマーとしては、分子鎖の片方の末端に重合性の官能基を有するマクロモノマーと、フッ化アルキル基を有する重合性フッ素系モノマーと、の共重合体が挙げられる。
フッ素系グラフトポリマーとして具体的には、例えば、マクロマーとして、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン化合物等の重合体又はそれらの共重合体と、フッ素系モノマーとして、パーフルオロアルキルエチルメタクリレート、パーフルオロアルキルメタクリレート等との、グラフト共重合体が挙げられる。
マクロモノマーと重合性フッ素系モノマーとの重合比は、例えば、フッ素系グラフトポリマー中のフッ素含有量として10質量%以上50質量%以下(望ましくは10質量%以上40質量%以下、より望ましくは10質量%以上30質量%以下)となる重合比であることがよい。
フッ素系グラフトポリマーの分子量は、例えば、数平均分子量で5000以上20000以下であることよく、望ましくは5000以上17500以下、より望ましくは5000以上12000以下である。
フッ素系グラフトポリマーの量は、例えば、層を構成する成分全体に対して100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることがよい。
【0072】
次に、最外層形成用塗布液を形成した基材層となる皮膜上に塗布して、最外層形成用塗布液の塗膜を形成する。
塗布液の円筒状金型への塗布方法は、特に制限はなく、基材層形成用塗布液の塗布方法と同様である。
【0073】
次に、最外層形成用塗布液の塗膜を乾燥させ、最外層となる皮膜(熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子、フッ素樹脂粒子、及びカーボンブラックの層状の混合物)を形成する。
【0074】
次に、基材層12及び最外層11となる皮膜に対して、加熱処理を行う。
本加熱処理は、基材層12となる皮膜のポリアミック酸がイミド化する条件(温度・時間)、及び最外層11となる皮膜のポリイミド系樹脂粒子が溶融又は軟化する条件(温度・時間)で行う。通常は、基材層となる皮膜のポリアミック酸がイミド化反応が生じる条件で行えば、最外層となる皮膜のポリイミド系樹脂粒子が溶融又は軟化する条件となる。
そして、本加熱処理を行った後、皮膜を芯体から抜き取る。これにより、基材層12及び最外層11の積層体である無端ベルト10が得られる。
【0075】
ここで、イミド化する加熱条件としては、例えば250℃以上450℃以下(望ましくは300℃以上350℃以下)で、20分間以上60分間以下加熱することで、イミド化反応が起こり、ポリイミド樹脂の皮膜が形成される。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。
【0076】
なお、基材層12と最外層11との密着性の観点から、基材層12となる皮膜のポリアミック酸がイミド化する加熱処理と、最外層11となる皮膜のポリイミド系樹脂粒子が溶融又は軟化する加熱処理と、を同時に行うことからよいが、基材層12となる皮膜に対してイミド化する加熱処理(焼成)を行って基材層12を形成した後、最外層形成用塗布液を塗布し、最外層11を形成してもよい。
【0077】
以上説明した本実施形態に係る無端ベルト10は、基材層12と最外層11との2層構成の積層体とし、最外層11としてフッ素樹脂粒子を含むポリイミド系樹脂層を適用した形態について説明したが、これに限られず、フッ素樹脂粒子を含むポリイミド系樹脂層の単層構成であってもよく、フッ素樹脂粒子を含むポリイミド系樹脂層を有する2層以上の積層体であってもよい。具体的には、例えば、図3に示すように、基材層12の内周面に最内層13を設け、最内層13としてフッ素樹脂粒子を含むポリイミド系樹脂層を適用した形態(又は最外層11を設けず、基材層12の内周面に最内層13を設けた形態)が挙げられる。
また、基材層12を複数層としてもよく、基材層12と最外層11との間、基材層12と最内層13との間に、中間層(例えば無端ベルト10を電磁誘導加熱方式の加熱ベルトとして適用する場合、金属発熱層等)等を設けた形態であってもよい。
【0078】
(円筒状成形体ユニット)
図5は、本実施形態に係る円筒状成形体ユニットを示す概略斜視図である。
本実施形態に係る円筒状成形体ユニット130(以下、無端ベルトユニットと称する)は、図5に示すように、上記本実施形態に係る無端ベルト10を備えており、例えば、無端ベルト10は対向して配置された駆動ロール131及び従動ロール132により張力がかかった状態で掛け渡されている(以下、「張架」という場合がある。)。
ここで、本実施形態に係る無端ベルトユニット130は、無端ベルト10を中間転写体として適用させる場合、無端ベルト10を張架するロールとして、感光体(像保持体)表面のトナー像を無端ベルト10上に一次転写させるためのロールと、無端ベルト10上に転写されたトナー像をさらに記録媒体に二次転写させるためのロールが配置される。
なお、無端ベルト10を張架するロールの数は限定されず、使用態様に応じて配置すればよい。このような構成の無端ベルトユニット130は、装置に組み込まれて使用され、駆動ロール131,従動ロール132の回転に伴って無端ベルト10も張架した状態で回転する。
【0079】
(画像形成装置用部材)
本実施形態に係る無端ベルトは、画像形成装置用部材(本実施形態に係る画像形成用部材)として利用し得る。
画像形成装置用部材としては、例えば、中間転写体(中間転写ベルト)、記録媒体搬送転写部材(記録媒体搬送ベルト)、記録媒体搬送部材(記録媒体搬送ベルト)、定着部材(定着ベルト:加熱ベルトや加圧ベルト)等が挙げられる。
なお、本実施形態に係る無端ベルトは、画像形成装置用部材以外にも、例えば、搬送ベルト、駆動ベルト、ラミネートベルト、電気絶縁材、配管被覆材、電磁波絶縁材、熱源絶縁体、電磁波吸収フィルム等にも利用し得る。
【0080】
(画像形成装置)
本実施形態に係る画像形成装置は、本実施形態に係る無端ベルトで構成された画像形成装置用部材(本実施形態に係る画像形成用部材)を備えて構成される。
例えば、本実施形態に係る画像形成装置は、中間転写体(中間転写ベルト)、記録媒体搬送転写部材(記録媒体搬送ベルト)、記録媒体搬送部材(記録媒体搬送ベルト)、定着部材(定着ベルト:加熱ベルトや加圧ベルト)等の画像形成装置用部材として、本実施形態に係る無端ベルト10を備える。
【0081】
本実施形態に係る画像形成装置は、例えば、電子写真複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ、これらの複合装置といった電子写真方式の画像形成装置が挙げられ、具体的には、例えば、現像装置内に単色のトナーのみを収容する通常のモノカラー画像形成装置、像保持体上に保持されたトナー像を中間転写体に順次一次転写を繰り返すカラー画像形成装置、各色毎の現像装置を備えた複数の像保持体を中間転写体上に直列に配置したタンデム型カラー画像形成装置が挙げられる。
【0082】
本実施形態の画像形成装置の具体的構成としては、例えば、像保持体と、像保持体表面を帯電する帯電手段と、像保持体表面を露光し静電潜像を形成する露光手段と、像保持体表面に形成された静電潜像を現像剤にて現像し、トナー像を形成する現像手段と、像保持体表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写手段と、記録媒体表面に転写されたトナー像を定着する定着手段と、備えたものが挙げられ、必要に応じてその他公知の手段を更に備えていてもよい。
【0083】
そして、本実施形態に係る画像形成装置としては、例えば、転写手段が中間転写体と像保持体に形成されたトナー像を中間転写体に一次転写する一次転写手段と中間転写体に転写されたトナー像を記録媒体に二次転写する二次転写手段とを備え、当該中間転写体として上記本実施形態に係る無端ベルト10を備える構成が挙げられる。
【0084】
また、本実施形態に係る画像形成装置としては、例えば、転写手段が記録媒体を搬送するための記録媒体搬送転写部材(記録媒体搬送転写ベルト)と像保持体に形成されたトナー像を記録媒体搬送転写部材により搬送された記録媒体に転写するための転写手段とを備え、当該記録媒体転写体として上記本実施形態に係る無端ベルトを備える構成が挙げられる。
【0085】
また、本実施形態に係る画像形成装置としては、例えば、定着手段として、互いに押圧するように対向配置された一対の定着部材を少なくとも備え、一対の定着部材の少なくともいずれか一方の定着部材(定着ベルト:加熱ベルトや加圧ベルト)として上記本実施形態に係る無端ベルトを備える構成が挙げられる。
【0086】
その他、本実施形態に係る画像形成装置としては、例えば、記録媒体収納容器から画像形成部を経て装置外部へ、記録媒体を搬送する経路において配置される記録媒体搬送部材を備え、記録媒体搬送部材として上記本実施形態に係る無端ベルトを備える構成も挙げられる。
【0087】
以下、本実施形態の画像形成装置の具体例を図面を用いてより詳細に説明する。
なお、以下に示す具体例において、定着手段としては、一対の定着ロールを備えたものが用いられているが、少なくとも一方の定着ロールを定着ベルトに置き換え、当該定着ベルトとして本実施形態に係る無端ベルトを備えたものでもよい。
【0088】
図6は、本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。本画像形成装置は、中間転写体(中間転写ベルト)として本実施形態に係る無端ベルトを用いている。
【0089】
図6に示す画像形成装置100は、感光体(像保持体の一例)101Y、101M、101C、101BKを備えており、矢線A方向への回転に伴いその表面には周知の電子写真プロセス(図示せず)によって画像情報に応じた静電潜像が形成される(なお、図6中、帯電装置、露光装置およびクリーニング装置等は不図示)。
【0090】
そして、この感光体101Y、101M、101C、101BKの周囲には、それぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(BK)の各色に対応した現像装置105〜108が配設されており、感光体101Y、101M、101C、101BKに形成された静電潜像をそれぞれの現像装置105〜108で現像してトナー像が形成される。
従って、例えば、感光体101Yに書き込まれた静電潜像はイエローの画像情報に対応したものであり、この静電潜像はイエロー(Y)のトナーを内包する現像装置105で現像され、感光体101Y上にはイエローのトナー像が形成される。
【0091】
中間転写ベルト102は感光体101Y、101M、101C、101BKの表面に接触されるように配置されたベルト状の中間転写ベルトであり、背面ロール117及び支持ロール118〜119により張力を付与されつつ矢線B方向へ回転する。
【0092】
感光体101Y、101M、101C、101BKに形成された未定着トナー像は、感光体101Y、101M、101C、101BKと上記中間転写ベルト102とが接するそれぞれの一次転写位置で、順次感光体101Y、101M、101C、101BKから中間転写ベルト102の表面に各色のトナー像が重ね合わされて転写される。
【0093】
この一次転写位置において、中間転写ベルト102の裏面側には中間転写ベルト102の不必要な領域へ転写電界が作用するのを抑制するための遮蔽部材121〜124により転写前接触領域への帯電を防止した一次転写装置109〜112としてコロナ放電器が配設されており、この帯電装置109〜112にトナーの帯電極性と逆極性の電圧を印加することで、感光体101Y、101M、101C、101BK上の未定着トナー像は中間転写ベルト102外周面に静電的に転写される。この一次転写装置109〜112は、静電力を利用したものであれば、コロナ放電器に限らず電圧が印加されたロールやブラシなどでもよい。
【0094】
このようにして中間転写ベルト102に一次転写された未定着トナー像は、中間転写ベルト102の回転に伴って記録媒体103の搬送経路に面した二次転写位置へと搬送される。二次転写位置では二次転写ロール120と中間転写ベルト102の裏面側に接している背面ロール117とが中間転写ベルト102を挟んで配設されている。
【0095】
送りロール126によって給紙部113から搬出された記録媒体103は、この二次転写ロール120と中間転写ベルト102との接触部に挿通される。この時、上記二次転写ロール120と背面ロール117との接触部に電圧を印加しており、中間転写ベルト102に保持された未定着トナー像は上記二次転写位置において記録媒体103に転写される。
【0096】
そして、未定着トナー像が転写された記録媒体103は中間転写ベルト102から剥がされ、搬送ベルト115によって加熱ロール127と加圧ロール128とが対向して設けられた定着装置の加熱ロール127と加圧ロール128との接触部に送り込まれて未定着トナー像の定着処理がなされる。このとき、二次転写工程と定着工程とを同時に行う転写同時定着工程の装置構成とすることも可能である。
【0097】
中間転写ベルト102は、クリーニング装置116が備えられている。このクリーニング装置116は中間転写ベルト102と接離自在に配設されており、二次転写される迄、中間転写ベルト102から離間している。
【0098】
図7は、他の本実施形態の画像形成装置を示す概略構成図である。本画像形成装置は、記録媒体搬送部材(記録媒体搬送ベルト)として本実施形態に係る無端ベルトを適用した形態である。
【0099】
図7に示す画像形成装置200は、感光体、帯電装置、現像装置および感光体清掃部材を備えた画像形成ユニット200Y、200M、200C、200Bkと、記録媒体搬送転写ベルト206と、転写ロール207Y、207M、207C、207Bkと、記録媒体搬送ロール208と、定着装置209とを備えている。
【0100】
画像形成ユニット200Y、200M、200C、200Bkは、矢印A方向(時計回り方向)に回転する像保持体である感光体201Y、201M、201C、201Bkが備えられている。感光体201Y、201M、201C、201Bkの周囲には、帯電装置202Y、202M、202C、202Bkと、露光装置203Y、203M、203C、203Bkと、各色現像装置(イエロー現像装置204Y、マゼンタ現像装置204M、シアン現像装置204C、ブラック現像装置204Bk)と、感光体クリーニング装置205Y、205M、205C、205Bkとがそれぞれ配置されている。
【0101】
画像形成ユニット200Y、200M、200C、200Bkは、記録媒体搬送転写ベルト206に対して4つ並列に、画像形成ユニット200Bk、200C、200M、200Yの順に配置されているが、画像形成ユニット200Bk、200Y、200C、200Mの順等、画像形成方法に合わせて順序を設定する。
【0102】
記録媒体搬送転写ベルト206は、支持ロール210、211、212、213によって、矢印B方向(反時計回り方向)に感光体201Bk、201C、201M、201Yと同じ周速度をもって回転可能になっており、支持ロール212、213の中間に位置するその一部が感光体201Bk、201C、201M、201Yとそれぞれ接するように配置されている。記録媒体搬送転写ベルト206は、クリーニング装置214が備えられている。
【0103】
転写ロール207Bk、207C、207M、207Yは、記録媒体搬送転写ベルト206の内側であって、記録媒体搬送転写ベルト206と感光体201Bk、201C、201M、201Yとが接している部分に対向する位置にそれぞれ配置され、感光体201Bk、201C、201M、201Yと、記録媒体搬送転写ベルト206を介してトナー画像を記録媒体Pに転写する転写領域を形成している。
【0104】
定着装置209は、記録媒体搬送転写ベルト206と感光体201Bk、201C、201M、201Yとのそれぞれの転写領域を通過した後に搬送できるように配置されている。
【0105】
記録媒体搬送ロール208により、記録媒体Pは記録媒体搬送転写ベルト206に搬送される。
【0106】
画像形成ユニット200Yにおいては、感光体201Yを回転駆動させる。これと連動して帯電装置202Yが駆動し、感光体201Yの表面を所定の極性・電位に帯電させる。表面が帯電された感光体201Yは、次に、露光装置203Yによって像様に露光され、その表面に静電潜像が形成される。
【0107】
続いて該静電潜像は、イエロー現像装置204Yによって現像される。すると、感光体201Yの表面にトナー画像が形成される。なお、このときのトナーは一成分系のものでもよいし二成分系のものでもよいが、ここでは二成分系トナーである。
【0108】
このトナー画像は、感光体201Yと記録媒体搬送転写ベルト206との転写領域を通過すると同じに、記録媒体Pが静電的に記録媒体搬送転写ベルト206に吸着して転写領域まで搬送され、転写ロール207Yから印加される転写バイアスにより形成される電界により、記録媒体Pの外周面に順次、転写される。
【0109】
この後、感光体201Y上に残存するトナーは、感光体クリーニング装置205Yによって清掃・除去される。そして、感光体201Yは、次の転写サイクルに供される。
【0110】
以上の転写サイクルは、画像形成ユニット200M、200C、200Bkでも同様に行われる。
【0111】
転写ロール207Bk、207C、207M、207Yによってトナー画像を転写された記録媒体Pは、さらに定着装置209に搬送され、定着が行われる。以上により記録媒体上に所望の画像が形成される。
【0112】
ここで、記録媒体としては、通常は、紙製の記録媒体(いわゆる用紙)や、プラスチックフィルムで構成された記録媒体(いわゆるOHPシート)などの比較的柔軟性の高い材料で構成されたシート状の部材が用いられるが、比較的剛性の高い材料で構成された板状の部材(例えば、厚みのあるプラスチック製のカードなど)も記録媒体として利用してもよい。
【0113】
なお、本実施形態に係る画像形成装置では、電子写真方式の画像形成装置について説明したが、これに限られず、電子写真方式以外の公知の画像形成装置(例えば、用紙搬送用の無端ベルトを備えたインクジェット記録装置など)であってもよい。
【実施例】
【0114】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0115】
[調製例1:熱可塑性ポリイミド系樹脂塗布液(A−1)の調製]
熱可塑性ポリイミド樹脂として三井化学社製AURUM溶融成型ペレットを、Retsch社 製超遠心粉砕機ZM200を用いて、8000rpmにて粉砕処理を行った。粉砕後の熱可塑性ポリイミド樹脂粒子の体積平均粒径は、50μmであった。
熱可塑性ポリイミド樹脂粒子200g、フッ素樹脂粒子としてPTFE粒子(ダイキン化成ルブロンL−2:体積平均粒径3μm)200g、及び導電材料としてカーボンブラック(デグザ社製SB−4)80gを、ポリリン酸ナトリウム1gを溶解させたイオン交換水200ml、イソプロピルアルコール200ml中に徐々に加えながら混合した。この溶液に対して、ハイフレクックスディスパーサー(株式会社エスエムテー社製)を用いて、500rpm×10分間分散処理を行って、熱可塑性ポリイミド樹脂塗布液(A−1)を調整した。
【0116】
[調製例2:熱可塑性ポリアミドイミド樹脂塗布液(B−1)の調製]
熱可塑性ポリアミドイミド樹脂として、ソルベイアドバンストポリマーズ社製トーロン4203の溶融成型ペレットを、Retsch社製超遠心粉砕機ZM200を用いて、8000rpmにて粉砕処理を行った。粉砕後の熱可塑性ポリイミド粒子の体積平均粒径は、60μmであった。
熱可塑性ポリアミドイミド粒子200g、フッ素樹脂粒子としてPTFE粒子(ダイキン化成ルブロンL−2:体積平均粒径3μm)200g、及び導電材料としてカーボンブラック(デグザ社製SB−4)80gを、ポリリン酸ナトリウム1gを溶解させたイオン交換水200ml、イソプロピルアルコール200ml中に徐々に加えながら混合した。この混合液に対して、ハイフレクックスディスパーサー(株式会社エスエムテー社製)を用いて、500rpm×10分間分散処理を行って、熱可塑性ポリアミドイミド樹脂塗布液(B−1)を調整した。
【0117】
[調製例3:熱可塑性ポリエーテルイミド樹脂塗布液(C−1)の調製]
熱可塑性ポリエーテルイミド樹脂として、GEプラスチックス社製ULTEMの溶融成型ペレットを、Retsch社製超遠心粉砕機ZM200を用いて、8000rpmにて粉砕処理を行った。粉砕後の熱可塑性ポリエーテルイミド粒子の体積平均粒径は、40μmであった。
熱可塑性ポリエーテルイミド樹脂粒子200g、フッ素樹脂としてPTFE粒子(ダイキン化成ルブロンL−2:体積平均粒径3μm)200g、及び導電材料としてカーボンブラック(デグザ社製SB−4)80gを、ポリリン酸ナトリウム1gを溶解させたイオン交換水200ml、イソプロピルアルコール200ml中に徐々に加えながら混合した。ハイフレクックスディスパーサーを用いて、500rpm×10分間分散処理を行って、熱可塑性ポリエーテルイミド樹脂塗布液(C−1)を調整した。
【0118】
[調製例4〜7:熱可塑性ポリイミド樹脂塗布液(A−3〜A−6)の調製]
調製例1において、ポリイミド系樹脂種、フッ素樹脂種、カーボンブラック、これらの配合量(配合比)を表1〜2に従って変更した以外は、調製例1と同様に処理を行い、熱可塑性ポリイミド樹脂塗布液(A−3〜A−6)を調整した。
【0119】
[調整例8:熱可塑性ポリイミド樹脂塗布液(A−2)の調整]
熱可塑性ポリイミド樹脂溶解溶液として、DIC社製ポリイミドワニスユニディックV8004(固形分率22質量%)300g(樹脂分量66g)中に、PTFE粒子(ダイキン化成ルブロンL−2:体積平均粒径3μm)66g、及び導電材料としてカーボンブラック(デグザ社製SB−4)26.6gを徐々に加えながら混合した。この溶液に対して、ハイフレクックスディスパーサー(株式会社エスエムテー社製)を用いて、500rpm×10分間分散処理を行って、熱可塑性ポリイミド樹脂塗布液(A−2)を調整した。
【0120】
[調整例9:熱可塑性ポリアミドイミド樹脂塗布液(B−2)の調整]
熱可塑性ポリアミドイミド樹脂溶解溶液として、東洋紡社製ポリアミドイミドワニスバイロマックスHR16NN(固形分率14質量%)500g(樹脂分量70g)中に、フッ素樹脂粒子としてPTFE粒子(ダイキン化成ルブロンL−2:体積平均粒径3μm)70g、及び導電材料としてカーボンブラック(デグザ社製SB−4)28gを徐々に加えながら混合した。この溶液に対して、ハイフレクックスディスパーサー(株式会社エスエムテー社製)を用いて、500rpm×10分間分散処理を行って、熱可塑性ポリイミド樹脂塗布液(B−2)を調整した。
【0121】
[調製例10〜13:熱可塑性ポリイミド樹脂塗布液(A−7〜A−10)の調製]
調製例1において、ポリイミド系樹脂種、フッ素樹脂種、カーボンブラック、これらの配合量(配合比)を表1〜2に従って変更した以外は、調製例1と同様に処理を行い、熱可塑性ポリイミド樹脂塗布液(A−7〜A−10)を調整した。
【0122】
[調整例14:熱硬化性ポリイミド樹脂塗布液(G−1)]
熱硬化性ポリイミド樹脂(その前駆体溶液となるポリアミック酸溶液)として、宇部興産社製ポリイミドワニス(商品名;U−ワニス−A:固形分20質量%)1000g(樹脂固形分400g)中に、カーボンブラック120gを徐々に加えながら混合した。この溶液に対して、ハイフレクックスディスパーサーを用いて、500rpm×10分間分散処理を行って、熱硬化性ポリイミド樹脂塗布液(G−1)を調整した。
【0123】
[調整例15:熱硬化性ポリイミド樹脂塗布液(G−2)]
熱硬化性ポリイミド樹脂(その前駆体溶液となるポリアミック酸溶液)として、宇部興産社製ポリイミドワニス(商品名;U−ワニス−A:固形分20質量%)1000g(樹脂固形分400g)中に、フッ素樹脂としてPTFE粒子(ダイキン化成ルブロンL−2:体積平均粒径3μm)200g、及びカーボンブラック40gを徐々に加えながら混合した。この溶液に対して、ハイフレクックスディスパーサーを用いて、500rpm×10分間分散処理を行って、熱硬化性ポリイミド樹脂塗布液(G−2)を調整した。
【0124】
[実施例1:無端ベルト(ST−1)製造]
外径90mm、長さ450mmのSUS材料製筒型金型を用意し、その外表面にシリコーン系離型剤を塗布・乾燥処理を行った(離型剤処理)。離型剤処理を施した円筒型金型を周方向に10rpmの速度で回転させながら、円筒型金型端部より、基材層形成用塗布液としての熱硬化性ポリイミド樹脂塗布液(G−1)を、口径1.0mmディスペンサーより吐出しながら、金型上に設置した金属ブレードにて一様の圧力で押し付けながら塗布を行った。ディスペンサーユニットを円筒型金型の軸方向に100mm/分の速度で移動させることによって円筒型金型上に螺旋状に塗布液を塗布した。塗布後、ブレードを解除して円筒状金型を2分間回転し続けレベリングを行った。
その後、塗膜を形成した円筒状金型を乾燥炉中で150℃空気雰囲気下、10rpmで回転させながら、30分乾燥処理を行った。乾燥後、塗膜より溶媒が揮発することで塗膜は自己支持性を有するポリアミック酸の皮膜(基材層となる皮膜)と変化した。
【0125】
乾燥処理後次いで、ポリアミック酸の皮膜を形成した円筒型金型を周方向に10rpmの速度で回転させながら、円筒型金型端部より、最外層形成用塗布液としての熱可塑性ポリイミド系樹脂塗布液(A−1)を、口径1.0mmディスペンサーより吐出しながら、金型上に設置した金属ブレードにて一様の圧力で押し付けながら塗布を行った。ディスペンサーユニットを円筒型金型の軸方向に100mm/分の速度で移動させることによって円筒型金型上に螺旋状に塗布液を塗布した。塗布後、ブレードを解除して円筒状金型を2分間回転し続けレベリングを行った。
その後、ポリアミック酸の皮膜上に上記塗膜を形成した円筒状金型を乾燥炉中で150℃空気雰囲気下、10rpmで回転させながら、30分乾燥処理を行った。これにより、ポリアミック酸の皮膜上に、最外層となる皮膜(各粒子の層状の混合物)を形成した。
【0126】
乾燥後、クリーンオーブン中で、250℃、30分間加熱処理を行い、溶媒を留去すると共に基材層となる皮膜(ポリアミック酸の皮膜)のイミド化反応を完了させると共に、最外層となる皮膜中の熱可塑性ポリイミド樹脂粒子を溶融又は軟化させた。
その後、金型を25℃にして、金型から皮膜樹脂を取り外し、基材層と最外層とが積層された目的の無端ベルト(ST−1)を得た。
【0127】
[実施例2〜7,比較例1〜7:無端ベルト(ST−2)〜(ST−7)、(RT−1)(RE−2)〜(RE−7)の製造]
使用する基材層形成用塗布液、及び最外層形成用塗布液を、表3〜4に従って変更した以外は、実施例1と同様にして無端ベルト(ST−2)〜(ST−7)、(RT−1)(RE−2)〜(RE−7)を得た。
【0128】
[評価]
各例で得られた無端ベルトにつき、以下の評価を行った。その結果を表3〜4に示す。
【0129】
(表面性状)
得られた無端ベルトの表面を、ボイドの有無、膜収縮の有無について目視にて観察した。各評価は、下記基準により評価した。
−ボイド−
○:表面にボイドが発生していないもの
△:表面に1mm以下のボイド1〜10個が発生しているもの
×:表面に1mm以下のボイド11個以上、もしくは、1mm以上のボイドが発生しているもの
−膜収縮−
○:表面に膜収縮が発生していないもの
×:表面に膜収縮が発生しているもの
【0130】
(膜厚)
得られた無端ベルトから試験片をランダムに10箇所切りだし、フィルム厚み計を用いて膜厚を測定した。無端ベルトで、基材層の表面に表面層を塗布しなかった端部の膜厚を基材層膜厚とし、基材層表面に最外層を形成した部位の膜厚を総膜厚とした。最外層の膜厚は、総膜厚より基材層膜厚を減じることで算出した。
【0131】
(耐磨耗性試験)
耐磨耗性試験は、下記の方法によって求めた。作製した無端ベルトを100mm角程度に切り、その小片を瞬間接着剤で硝子版に固定した。この試料をスクラッチテスタCSR−101(株式会社レスカ製)回転式試料台上にセットした。10φプローブにナイロン布を設置し、試料表面を2kg荷重、200rpmで回転しながらこすった。2000回転後の磨耗量を、触針式膜厚計アルファステップ500KLAテンコールにて未試験部分との膜厚差により評価した。試験後の膜厚は5μm減じていたものの使用には問題ないレベルであった。
【0132】
(耐折れ特性)
得られた無端ベルトから切り出した10片の試料を、MIT試験機により引張り荷重1.0kg、屈折角度135°の条件で100回繰り返し折り曲げを行い、最外層の破壊の起こった枚数にて評価した。
【0133】
(印字画質)
富士ゼロックス社製DocuCentreColor2220改造機(プロセス速度:250mm/sec、一次転写電流:35μAに改造)を使用し、得られた無端ベルトを中間転写ベルトとして搭載して、高温高湿(28℃85%RH)及び低温低湿(10℃15%RH)で、富士ゼロックス社製DocuCentreColor2220等のカラートナー(シアントナー、マゼンタトナー)を用い、Cyan、Magentaの50%ハーフトーンを富士ゼロックス社製C2紙に出力し、以下の規準で濃度ムラ及び斑点欠陥を目視で以下の基準で評価した。
【0134】
−濃度ムラ−
10枚目の印字試料の印字部を3×3=9等分に分割してそれぞれの色度を色彩色度計CR−210(ミノルタ社製)を用いて測定して色度の最大と最小との差である色差ΔEを求めた。「○」以上を合格とした。
◎:色差ΔEが0.3未満である(濃度ムラが確認されない)。
○:色差ΔEが0.3以上0.5未満である。
△:色差ΔEが0.5以上1.0未満である。
×:色差ΔEが1.0以上である。
【0135】
−斑点欠陥−
10枚目の印字試料における印字部内の斑点を目視観察し、以下の基準で評価した。「○」以上を合格とした。
◎:0.5mm未満の大きさの斑点が10個未満である。
○:0.5mm未満の大きさの斑点が10個以上50個未満発生した。
△:0.5mm未満の大きさの斑点が50個以上100個未満発生した。又は、0.5mm以上1.0mm未満の大きさの斑点が50個未満発生し、1.0mm以上の大きさの斑点が発生しなかった。
×:0.5mm未満の大きさの斑点が100個以上発生した。又は、0.5mm以上1.0mm未満の大きさの斑点が50個以上発生した。又は、1.0mm以上の大きさの斑点が1個以上発生した。
【0136】
(通紙テスト後のベルト性状)
得られた無端ベルトにおける通紙テスト後のベルト性状として、通紙テスト後のベルト破損の有無について、1000枚の通紙テスト後(30%ハーフトーン画像形成後)に測定を行い、通紙前との比較を行った。
【0137】
【表1】

【0138】
【表2】

【0139】
【表3】

【0140】
【表4】

【0141】
上記評価結果から、本実施例は、比較例に比べ、表面性状、耐磨耗性試験、耐折れ特性、印字画質、通紙後のベルト性状の評価につき、良好な結果が得られたことがわかるにつき、良好な結果が得られた。
【0142】
なお、表1〜3中のポリイミド系樹脂種、フッ素樹脂種の符号の詳細は以下の通りである。
−ポリイミド系樹脂−
・PI−1: 三井化学社製AURUM PL450C溶融成型ペレット(熱可塑性ポリイミド樹脂、溶融温度388℃:成型温度390−420℃)
・PI−2: DIC社製ポリイミドワニスユニディックV8004(熱可塑性ポリイミド樹脂)
・PI−3:宇部興産社製ポリイミドワニス(商品名;U−ワニス−A:固形分20%)(熱硬化性ポリイミド樹脂)
・PAI−1: 東洋紡社製ポリアミドイミドワニスバイロマックスHR16NN(熱可塑性ポリアミドイミド樹脂)
・PAI−2: トーロン4205(熱可塑性ポリアミドイミド樹脂、溶融温度290℃:成型温度300-370℃)
・PEI−1: GEプラスチックス社製ULTEM1000(熱可塑性ポリエーテルイミド樹脂、溶融温度350−400℃)
−フッ素樹脂−
・PTFE−1: ルブロンL−2
【符号の説明】
【0143】
10 円筒状成形体(無端ベルト)
11 最外層
12 基材層
12 最内層
100 画像形成装置
101Y、101M、101C、101BK 感光体
102 中間転写ベルト
105〜108 現像器
200 画像形成装置
200Y、200M、200C、200Bk 画像形成ユニット
206 記録媒体搬送転写ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層を有する円筒状成形体。
【請求項2】
前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層が、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが溶媒中に分散された溶液の塗膜に対して、加熱処理を施すことで得られた層である請求項1に記載の円筒状成形体。
【請求項3】
前記円筒状成形体が、2層以上の積層体で構成され、
前記ポリイミド系樹脂の溶融層又は軟化層を、最外層として有する請求項1又は2に記載の円筒状成形体。
【請求項4】
前記円筒状成形体が、2層以上の積層体で構成され、
前記ポリイミド系樹脂の溶融層又は軟化層と接する層が、ポリイミド系樹脂を含んで構成された層である請求項1〜3のいずれか1項に記載の円筒状成形体。
【請求項5】
前記フッ素樹脂粒子の体積平均粒径が、0.5μm以上70μm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の円筒状成形体。
【請求項6】
前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層が、導電材料を含む請求項1に記載の円筒状成形体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の円筒状成形体と、該円筒状成形体を張力がかかった状態で掛け渡す複数のロールと、を備え、画像形成装置に対して脱着される円筒状成形体ユニット。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の円筒状成形体で構成された画像形成装置用部材。
【請求項9】
請求項8に記載の画像形成装置用部材を備える画像形成装置。
【請求項10】
熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とが溶媒中に分散された溶液を、被塗布物上に塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜に対して加熱処理を施して、熱可塑性ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む層状の混合物の前記ポリイミド系樹脂粒子の溶融層又は軟化層を形成する工程を有する円筒状成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−185393(P2012−185393A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49474(P2011−49474)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】