説明

冊子用セキュリティ用紙及びその製造方法並びにパスポート

【課題】中綴じ製本に使用する用紙であって、偽造パスポート等の発見に極めて効果的な冊子に用いられるセキュリティ用紙及びその製造方法を提供する。
【解決手段】2層又は3層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙1であって、セキュリティ用紙1の表面に少なくとも1つのウインドウスレッド10のラインが設けられるとともに、そのセキュリティ用紙1の裏面にも少なくとも1つのウインドウスレッド10のラインが設けられている。表面と裏面にそれぞれ設けられたウインドウスレッド10のラインは、セキュリティ用紙1の中心線6に対して左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けられたラインであって、表裏両面の各最外層に設けられた断続的な窓開き部11と、各最外層の下層に設けられて前記窓開き部11で露出するスレッド12とが同一方向に延びるラインである。なお、セキュリティ用紙がパスポート用の中綴じ製本用紙であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冊子用セキュリティ用紙及びその製造方法並びにパスポートに関する。更に詳しくは、中綴じ製本に使用する冊子用セキュリティ用紙及びその製造方法、並びにその用紙を中綴じ製本してなるパスポートに関する。
【背景技術】
【0002】
高いセキュリティが要求されるパスポート(旅券)、通帳、身分証明書、記録証明書等の冊子は、最終製品形態が複数枚の用紙で構成され、背糊製本や中綴じ製本によって得られている。背糊製本は、用紙の表裏の向きを統一して背閉じ(背糊)する製本態様である。この背糊製本は、糊で紙の端を留めているだけで容易に剥がすことができるため、ページの差し替え等の改ざんや偽造が簡単にできてしまうという問題がある。
【0003】
中綴じ製本は、図11に示すように、複数枚の見返しページ用紙121や本文ページ用紙122を丁合して平重ねした後、その中心線123に沿って糸綴じを施し、次に背側の糸目を隠蔽するように表紙124を貼り付け、さらに綴じ糸126を折り線とする折り目をプレス125し、表紙124が外側となるように二つ折りして冊子とする方法である。中綴じ製本で得られた冊子120は、どのページでも開閉が容易であり、どのページでも平面性がよく、パスポートや通帳等の冊子の記載事項を確認したり、機械読み取りしたり、記帳したりする際に好都合である。さらに、中綴じ製本で得られた冊子120は、ページの抜き取り、差し替え等の改ざんや偽造が困難であり、高いセキュリティが要求されるパスポートや通帳等の偽造対策として利用されている。
【0004】
具体的には、先ず、図11(A)に示すように、見返しページ用紙121の上に本文ページ用紙122を所定の順序で丁合して平重ねする。このとき、最下層の見返しページ用紙121は、後の工程で供給される表紙124と貼り合わされる。次に、図11(B)に示すように、中心線123に沿って綴じ糸126で糸綴じする。糸綴じは、通常、ミシン縫いで行われる。次に、図11(C)に示すように、表紙124を見返しページ用紙121の下に置き、見返しページ121と表紙124とを接着剤で貼り合わせる。見返しページ用紙121の下側に露出している糸は、表紙124で隠蔽される。また、最上部の本文ページ用紙122はセンターページと呼ばれ、綴じ糸126が露出する。次に、図11(D)に示すように、プレス125によるスジ押し工程により、綴じ糸126に沿った線状の折り目を付与する。この場合、工程的に言えば個々の紙に折り易くする筋押しを入れて製本後に折り目を付与する。次に、図11(E)に示すように、表紙124を外側として二つ折りした後、断裁して、中綴じ冊子120が得られる。なお、図11(E)では、部分的に開いた形態を示しており、見返しページ121と表紙124は貼り合わされて一体になっている。
【0005】
パスポートはこうした中綴じ製本で得られているが、近年、中綴じ製本されたパスポートであっても偽造や模造の被害が各国で発生しており、各国政府はその対策に苦慮している。偽造方法の一つに、本物のパスポートの綴じ糸を切断したりほどいたりしてばらばらにし、本文ページ用紙やIDページを偽造品と差し替え、再び各ページを綴じ合わせるという方法がある。また、綴り糸を解かずにページを抜き取り、わからないように新しいページを追加する等の偽造手法も主流となってきている。この場合、抜き取るページは製本部に合わせて切り取り、新しく入れる紙はページを糸に合わせて差込み、さらに反対側の追加する用紙を貼り合わせるようである。
【0006】
この偽造方法を防ぐための製本方法として、本文ページ用紙を糸綴じした後、綴じ糸の上から接着剤を塗布して、綴じ糸の毛細管作用で糸目や刺し孔に接着剤を含浸させ、その後その接着剤を硬化して、上記糸目を隠蔽するように表紙を貼り付ける方法が提案されている(特許文献1,2を参照)。こうして製本された冊子は、綴じ糸、糸目及び刺し孔に含浸した接着剤が硬化するので、綴じ糸をほどいたり切断したりすることが困難であり、偽造防止に非常に有効であるとされている。
【0007】
また、特許文献1,2で提案された冊子をさらに改善した例として、転写シールを糸綴じ部に転写貼付して綴じ糸を強固に固定した冊子が提案されている(特許文献3を参照)。この例によれば、綴じ糸を切断して冊子をばらばらにすることを防ぎ、偽造ページを差し替えるのをし難くして偽造防止性を高めている。
【0008】
綴じ糸部の固定を強化して偽造ページの差し替えをし難くした上記特許文献1〜3に記載の冊子は、偽造・改ざん防止対策としてある程度の効果は有するものの、近年では、より一層の偽造・改ざん防止対策が要求されている。
【0009】
ところで、図12に示すように、紙幣や有価証券等の用紙104には、セキュリティの付与を目的としてウインドウスレッド110が設けられているものがある。ウインドウスレッド110は、用紙104の抄紙工程(用紙の製造工程)で、用紙104の片面又は両面の開口部111に、スレッド112が破線状に露出するように挿入されている(特許文献4〜6)。なお、符号113は、スレッド112が紙層内に隠れている遮蔽スレッドである。製造された用紙104はウインドウスレッド用紙と呼ばれ、偽造が困難な複雑な用紙構造となっており、紙幣や有価証券等の偽造防止に有効であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−172796号公報
【特許文献2】特許第2935836号公報
【特許文献3】特願2010−23270号公報
【特許文献4】特開平8−311800号公報
【特許文献5】特開平9−316796号公報
【特許文献6】特開2005−232617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
中綴じ冊子として作製されたパスポートは、どの査証(VISAS)ページを見開いた場合であっても同様のページ態様になっていることが偽造パスポートを容易に発見するためには効果的である。しかしながら、中綴じ製本で作製されたパスポートに、紙幣や有価証券等で利用されている態様のウインドウスレッド用紙を適用した場合、次のような問題がある。
【0012】
(ア)紙幣や有価証券等では、通常、片面に1本のウインドウスレッド110が形成されたウインドウスレッド用紙104Aが用いられている。こうしたウインドウスレッド用紙104Aを中綴じ製本してパスポート101Aを作製した場合、パスポート101Aの中間部(図13(A))を見開いた場合のページ態様と、前半部(図13(B))を見開いた場合のページ態様と、後半部(図13(C))を見開いた場合のページ態様とが異なったものとなる。具体的には、パスポート101Aの中間部を見開いた場合のページ態様は、図13(A)に示すように、左側のページはウインドウスレッド110を有さないページ態様であり、右側のページはウインドウスレッド110を有するページ態様である。また、パスポート101Aの前半部を見開いた場合のページ態様は、図13(B)に示すように、左側のページと右側のページはいずれもウインドウスレッド110を有さないページ態様である。また、パスポート101Aの後半部を見開いた場合のページ態様は、図13(C)に示すように、左側のページはウインドウスレッド110を有するページ104Aの裏面のページ態様であり、右側のページはウインドウスレッド110を有するページ態様である。
【0013】
(イ)一方、片面に2本のウインドウスレッド110が左右対称に形成されたウインドウスレッド用紙104Bを中綴じ製本してパスポート101Bを作製した場合、パスポート101Bの中間部(図14(A))を見開いた場合のページ態様と、前半部(図14(B))を見開いた場合のページ態様と、後半部(図14(C))を見開いた場合のページ態様とが異なったものとなる。具体的には、パスポート101Bの中間部を見開いた場合のページ態様は、図14(A)に示すように、左側のページと右側のページのいずれもウインドウスレッド110を有するページ態様である。また、パスポート101Bの前半部を見開いた場合のページ態様は、図14(B)に示すように、左側のページはウインドウスレッド110を有するページ態様であり、右側のページはウインドウスレッド110を有するページ104Bの裏面のページ態様である。また、パスポート101Bの後半部を見開いた場合のページ態様は、図14(C)に示すように、左側のページはウインドウスレッド110を有するページ104Bの裏面のページ態様であり、右側のページはウインドウスレッド110を有するページ態様である。
【0014】
上記(ア)(イ)で説明したように、従来のウインドウスレッド用紙104A,104Bを中綴じ製本してパスポート101A,101Bを作製した場合には、パスポート101A,101Bの査証(VISAS)ページを見開いたとき、全てのページにおいて同様の態様になっていないため、パスポートの検閲時において、その態様の相違が、パスポートの前半部、中間部及び後半部の相違であるか、偽造の結果の相違であるか等を視覚的に瞬時に判別できないという難点がある。そのため、偽造パスポート等の発見に極めて効果的であるとは言いきれないものであった。
【0015】
また、パスポートの他、通帳、身分証明書、記録証明書等の冊子に図12〜図14に示すような構造を採用しても、上記の問題は生じうる。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、中綴じ製本に使用する用紙であって、偽造パスポート等の発見に極めて効果的な冊子に用いられるセキュリティ用紙及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのセキュリティ用紙を中綴じ製本してなるパスポートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明に係るセキュリティ用紙は、2層又は3層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙であって、前記セキュリティ用紙の表面に少なくとも1つのウインドウスレッドのラインが設けられるとともに、前記セキュリティ用紙の裏面にも少なくとも1つのウインドウスレッドのラインが設けられ、前記表面と裏面にそれぞれ設けられた前記ウインドウスレッドのラインは、該セキュリティ用紙の中心線に対して左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けられたラインであって、前記表裏両面の各最外層に設けられた断続的な窓開き部と、前記各最外層の下層に設けられて前記窓開き部で露出するスレッドとが同一方向に延びるラインであることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、2層又は3層の紙層で構成されたセキュリティ用紙の表面と裏面には、ウインドウスレッドのラインが、中心線に対する左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ対ラインとして少なくとも1対設けられているので、このセキュリティ用紙を中綴じ製本して例えばパスポートを作製した場合に、パスポート等を見開いたときの左右のページ態様がいずれのページでも同じになる。その結果、例えばパスポートの検閲時において、そのページ態様が同じであるか異なるかが瞬時且つ容易に判別できるので、偽造の疑いのあるパスポート等の発見に極めて効果的である。なお、左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けられた対ラインは、中綴じ製本の際に折る中心線の右側にウインドウスレッドのラインが設けられている場合においては中心線の左側にはウインドウスレッドのラインは設けられておらずに遮蔽スレッドが設けられている。なお、遮蔽スレッドの形成位置は、裏面においてはウインドウスレッドのラインが設けられている位置である。
【0019】
本発明に係るセキュリティ用紙において、前記セキュリティ用紙がパスポート用の中綴じ製本用紙であることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、セキュリティ用紙がパスポート用の中綴じ製本用紙であるので、このセキュリティ用紙で中綴じ製本されてなるパスポートは、どのページを見開いたときであっても左右のページ態様がいずれのページでも同じになる。その結果、パスポートの検閲時において、そのページ態様が同じであるか異なるかが瞬時且つ容易に判別できるので、偽造の疑いのあるパスポートの発見に極めて効果的である。
【0021】
本発明に係るセキュリティ用紙において、前記セキュリティ用紙の表面と裏面にそれぞれ2つ以上のウインドウスレッドのラインが設けられ、(ア)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインが設けられている、又は、(イ)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインが設けられ且つ前記中心線から他方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインが設けられている、ように構成できる。
【0022】
この発明によれば、偽造が困難なウインドウスレッドのラインが、セキュリティ用紙の表面と裏面にそれぞれ2つ以上設けられているので、セキュリティの高い安全なセキュリティ用紙として供給できる。
【0023】
上記課題を解決するための本発明の第1態様に係るセキュリティ用紙の製造方法は、2層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙を、多槽式円網抄紙機を用いて製造するセキュリティ用紙の製造方法であって、窓開き部を有する第1紙層を抄紙する第1抄紙工程と、該第1抄紙工程後に第2紙層を抄紙する工程であって、前記第1紙層が有する窓開き部に第1スレッドをすき入れるとともに、前記第2紙層に窓開き部を形成し且つ該窓開き部に第2スレッドをすき入れして第2紙層を形成する第2抄紙工程と、を有し、すき入れられた前記第1スレッドと前記第2スレッドとを、前記セキュリティ用紙の表面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッドのラインと、前記セキュリティ用紙の裏面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッドのラインとし、該各ウインドウスレッドのラインを前記セキュリティ用紙の中心線に対する左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けることを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、2層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙を多槽式円網抄紙機で製造する。そして、その抄紙機で上記第1抄紙工程と上記第2抄紙工程とを経ることにより、セキュリティ用紙の表面と裏面のそれぞれに、偽造が困難なウインドウスレッドのラインを少なくとも1つ設けることができる。その結果、セキュリティの高い安全なセキュリティ用紙を効率的に製造できる。
【0025】
本発明の第1態様に係るセキュリティ用紙の製造方法において、前記第1抄紙工程で用いる円網抄紙機が、前記窓開き部に対応する透かし形成部を設けた円網シリンダーを有し、前記窓開き部の中にすき入れする第1スレッドを、前記第2抄紙工程で用いる円網抄紙機が有する円網シリンダーに供給するとともに、前記第2抄紙工程で用いる円網抄紙機が、前記窓開き部に対応する透かし形成部を設けた円網シリンダーを有し、前記窓開き部の中にすき入れする第2スレッドを、該第2抄紙工程で用いる円網抄紙機が有する円網シリンダーに供給するように構成する。
【0026】
本発明の第1態様に係るセキュリティ用紙の製造方法において、前記第1スレッドと前記第2スレッドとをそれぞれ2つすき入れし、前記セキュリティ用紙の表面と裏面にそれぞれ2つ以上のウインドウスレッドのラインを設け、(ア)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインを設ける、又は、(イ)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインを設け且つ前記中心線から他方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインを設ける、ように構成する。
【0027】
この発明によれば、偽造が困難なウインドウスレッドのラインを、セキュリティ用紙の表面と裏面にそれぞれ2つ以上設けるので、セキュリティの高い安全なセキュリティ用紙を効率的に製造できる。
【0028】
上記課題を解決するための本発明の第2態様に係るセキュリティ用紙の製造方法は、3層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙を、多槽式円網抄紙機を用いて製造するセキュリティ用紙の製造方法であって、窓開き部を有する第1紙層を抄紙する第1抄紙工程と、該第1抄紙工程後に第2紙層を抄紙する工程であって、前記第1紙層が有する窓開き部に第1スレッドをすき入れして前記第2紙層を形成する第2抄紙工程と、該第2抄紙工程後に第3紙層を抄紙する工程であって、該第3紙層に窓開き部を形成し且つ該窓開き部に第2スレッドをすき入れして第3紙層を形成する第3抄紙工程と、を有し、すき入れられた前記第1スレッドと前記第2スレッドとを、前記セキュリティ用紙の表面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッドのラインと、前記セキュリティ用紙の裏面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッドのラインとし、該各ウインドウスレッドのラインを前記セキュリティ用紙の中心線に対する左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けることを特徴とする。
【0029】
この発明によれば、3層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙を多槽式円網抄紙機で製造する。そして、その抄紙機で上記第1’抄紙工程と上記第2’抄紙工程と上記第3’抄紙工程とを経ることにより、セキュリティ用紙の表面と裏面に、偽造が困難なウインドウスレッドのラインを少なくとも1つ設けることができる。その結果、セキュリティの高い安全なセキュリティ用紙を効率的に製造できる。
【0030】
本発明の第2態様に係るセキュリティ用紙の製造方法において、前記第1抄紙工程で用いる円網抄紙機が、前記窓開き部に対応する透かし形成部を設けた円網シリンダーを有し、前記窓開き部の中にすき入れする第1スレッドを、前記第2抄紙工程で用いる円網抄紙機が有する円網シリンダーに供給するとともに、前記第3抄紙工程で用いる円網抄紙機が、前記窓開き部に対応する透かし形成部を設けた円網シリンダーを有し、前記窓開き部の中にすき入れする第2スレッドを、該第3抄紙工程で用いる円網抄紙機が有する円網シリンダーに供給する、ように構成する。
【0031】
本発明の第2態様に係るセキュリティ用紙の製造方法において、前記第1スレッドと前記第2スレッドとをそれぞれ2つすき入れし、前記セキュリティ用紙の表面と裏面にそれぞれ2つ以上のウインドウスレッドのラインを設け、(ア)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインを設ける、又は、(イ)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインを設け且つ前記中心線から他方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインを設けるように構成する。
【0032】
この発明によれば、偽造が困難なウインドウスレッドのラインを、セキュリティ用紙の表面と裏面にそれぞれ2つ以上設けるので、セキュリティの高い安全なセキュリティ用紙を効率的に製造できる。
【0033】
以上、本発明に係るセキュリティ用紙の製造方法によれば、セキュリティ用紙の表裏両面にウインドウスレッドのラインを形成する。表裏両面へのウインドウスレッドのラインの形成は、最低2つの抄紙工程(抄紙機)が必要であり、用紙強度の観点からは3つの抄紙工程で形成する3層構成のセキュリティ用紙を提供でき、一方、工数削減とコストダウンの観点からは2つの抄紙工程で形成する2層構成のセキュリティ用紙を提供できる。なお、ウインドウスレッドのラインは、最終的に形成する紙層(最外紙層)以外の紙層を形成し、該紙層と最外紙層とを重ね合わせる際に、最外紙層の窓開き部に位置するようにスレッドを紙層間に挿入する。これによって、最外紙層の窓開き部内にスレッドをすき入れでき、窓開き部でスレッドが露出するように構成できる。
【0034】
上記課題を解決するため本発明に係るパスポートは、上記本発明に係るセキュリティ用紙で中綴じ製本されてなることを特徴とする。
【0035】
この発明によれば、上記本発明に係るセキュリティ用紙を中綴じ製本してなるものであるので、どのページを見開いたときであっても同一のページ態様になっている。その結果、パスポートの検閲時において、そのページ態様が同じであるか異なるかが瞬時且つ容易に判別できるので、偽造の疑いのあるパスポートの発見に極めて効果的である。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係るセキュリティ用紙によれば、得られたセキュリティ用紙を中綴じ製本して例えばパスポートを作製した場合に、パスポート等を見開いたときの左右のページ態様がいずれのページでも同じになる。その結果、例えばパスポートの検閲時において、そのページ態様が同じであるか異なるかが瞬時且つ容易に判別できるので、偽造の疑いのある紙幣、小切手、株券、債券、商品券、カード、機密文書、パスポート、身分証明書等の発見に極めて効果的である。
【0037】
本発明に係るセキュリティ用紙の製造方法によれば、2層又は3層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙を多槽式円網抄紙機で製造するので、その抄紙機で第1抄紙工程と第2抄紙工程と(必要に応じて第3抄紙工程と)を経ることにより、セキュリティ用紙の表裏に、偽造が困難なウインドウスレッドのラインを少なくとも1つ設けることができる。その結果、セキュリティの高い安全なセキュリティ用紙を効率的に製造できる。
【0038】
本発明に係るパスポートによれば、どのページを見開いたときであっても左右のページ態様が対称となり、その結果、パスポートの検閲時において、そのページ態様が同じであるか異なるかが瞬時且つ容易に判別できるので、偽造の疑いのあるパスポートの発見に極めて効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る実施形態のパスポートの一例を示す模式的な説明図である。
【図2】図1に示すパスポートを開いた状態の模式的な説明図である。
【図3】ウインドウスレッドが設けられたセキュリティ用紙の一例を示す模式的な表面図、裏面図、A−A断面図及びB−B断面図である。
【図4】ウインドウスレッドが設けられたセキュリティ用紙の他の一例を示す模式的な表面図、裏面図、A−A断面図及びB−B断面図である。
【図5】ウインドウスレッドが設けられたセキュリティ用紙のさらに他の一例を示す模式的な表面図、裏面図、A−A断面図及びB−B断面図である。
【図6】セキュリティ用紙の製造方法を実施する製造装置の一例を示す説明図である。
【図7】2槽の抄紙機を備えた製造装置の説明図である。
【図8】セキュリティ用紙の製造方法を実施する製造装置の他の一例を示す説明図である。
【図9】3槽の抄紙機を備えた製造装置の説明図である。
【図10】セキュリティ用紙が製造工程中で流れる方向と、そのセキュリティ用紙に設けられたウインドウスレッドのライン方向を示す模式的な説明図である。
【図11】中綴じ製本の工程を示す模式的な説明図(A〜D)と、得られた中綴じ冊子を示す模式的な説明図(E)である。
【図12】ウインドウスレッドが設けられた一般的な紙幣や有価証券等の一例を示す模式的な表面図、裏面図、A−A断面図及びB−B断面図である。
【図13】一般的なウインドウスレッド用紙を用いて中綴じ製本したパスポートの一例を示す模式的な説明図である。
【図14】他のウインドウスレッド用紙を用いて中綴じ製本したパスポートの他の一例を示す模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明に係るセキュリティ用紙、その製造方法及びパスポートの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明の範囲は、その技術的思想を有する範囲を包含し、以下に示す実施形態のみに限定されない。
【0041】
[セキュリティ用紙]
本実施形態に係るセキュリティ用紙4は、図1及び図2に示すように、中綴じ製本してパスポート1や通帳等を作製するのに好ましく用いることができる。図1及び図2に示すパスポート1は、通常のパスポートと同様の中綴じ手段、例えば図11で説明した中綴じ手段によって製本される。すなわち、複数枚のセキュリティ用紙4を丁合して平重ねした後、その中心線6に沿って糸綴じを施して中綴じ部5とし、次に表紙2,3を貼り付け、中綴じ部5で二つ折りして製本される。なお、図2に示す符号7は、ICチップを含むIC封止ページを表したものである。ここで、ICチップの配置は、この実施形態に限られず、ICチップを表紙と見返しとの間に設けたり、本文の2枚目〜3枚目にカード状にして挟み込んでもよい。
【0042】
こうしたパスポート1は、見開いたときのページ態様がいずれのページでも同一のものとなっている。すなわち、図1及び図2から分かるように、見開いたときの右側のページではウインドウスレッド10のラインがページの縦方向(中綴じ用の中心線6に平行)に延びており、左側のページでは遮蔽スレッド13のラインが最外紙層の下に隠れるようにしてページの縦方向に延びている。その結果、入国時等におけるパスポートの検閲時等において、そのページ態様が同じであるか異なるかが瞬時且つ容易に判別でき、偽造の疑いのあるものを極めて効果的に抽出することができる。本発明に係るセキュリティ用紙4は、それ自体で紙幣、地域振興券、小切手、株券、債券、商品券、カード、機密文書、身分証明書、年金手帳、納金受領押印冊子等に適用できるが、好ましくは、パスポート1や通帳等で用いる中綴じ製本用の用紙として利用できる。なお、そのセキュリティ用紙4で冊子を作成した場合には、そのセキュリティ用紙4を一枚ずつ剥がせるように、セイキュリティ用紙4に必要に応じてミシン目を入れてもよい。
【0043】
ここで、「ウインドウスレッド10」とは、断続的に設けられた窓開き部11と、その窓開き部11内で露出したスレッド12とで構成された態様のことをいい、「スレッド12」とは、窓開き部11で露出したスレッドのことをいい、「遮蔽スレッド13」とは、窓開き部11以外で紙層の下に隠れたスレッドのことをいう。「ウインドウスレッド10のライン」とは、図1に示すパスポート1の右側ページのように、ウインドウスレッド10がライン状に一方向(縦方向)に断続的に並んでいることを意味し、「縦方向」とは、図1のパスポート1の例では、パスポート1を左右ページに見開いたときの上下方向のことを指す。「断続的に設けられる」とは、窓開き部11が遮蔽スレッド部を間に挟んで一方向に間欠的に設けられることを意味し、「断続的」とは、一定間隔と不定間隔の両方を含む。なお、図1の例では、窓開き部11は一定間隔で断続的に設けられている。
【0044】
(基本構成)
セキュリティ用紙4の基本構成について図3〜図5に示す三つの形態を例示して説明する。
【0045】
図3に示す第1形態のセキュリティ用紙4Aは、2層の紙層(第1紙層、第2紙層(最外紙層))で構成された用紙であって、中綴じ用の中心線6に対する対称位置に「ウインドウスレッド10のライン」と「遮蔽スレッド13」とが各1つ設けられている形態である。図3(A)に示すように、セキュリティ用紙4Aの表面には、右側ページにウインドウスレッド10のラインが設けられ、左側ページに遮蔽スレッド13のラインが設けられている。一方、図3(B)の裏面では表面の逆になっており、遮蔽スレッド13が設けられた位置の裏面にウインドウスレッド10のラインが設けられている。
【0046】
図4に示す第2形態のセキュリティ用紙4Bは、第1形態と同様、2層の紙層(第1紙層、第2紙層(最外紙層))で構成された用紙であって、中綴じ用の中心線6に対する対称位置に「ウインドウスレッド10のライン」と「遮蔽スレッド13」とが各2つ設けられている形態である。図4(A)の表面では、右側ページにウインドウスレッド10のラインと遮蔽スレッド13のラインが各1つ設けられ、左側ページにもウインドウスレッド10のラインと遮蔽スレッド13のラインが各1つ設けられている。このとき、ウインドウスレッド10のラインは各ページの同方向(図4の例では遮蔽スレッド13のラインの右側)に設けられており、遮蔽スレッド13のラインは各ページの同方向(図4の例ではウインドウスレッド10のラインの左側)に設けられている。一方、図4(B)の裏面では表面の逆になっており、遮蔽スレッド13が設けられた位置の裏面にウインドウスレッド10のラインが設けられている。
【0047】
図5に示す第3形態のセキュリティ用紙4Cは、3層の紙層(第1紙層、第2紙層、第3紙層(最外紙層))で構成された用紙であって、図3の場合と同様、中綴じ用の中心線6に対する対称位置に「ウインドウスレッド10のライン」と「遮蔽スレッド13」とが設けられている形態である。図5(A)の表面では、右側ページにウインドウスレッド10のラインが設けられ、左側ページに遮蔽スレッド13のラインが設けられており、図5(B)の裏面では表面の逆になっており、遮蔽スレッド13が設けられた位置の裏面にウインドウスレッド10のラインが設けられている。この第3形態では、上記した第1,第2形態の場合とは異なり、窓開き部11を有さない第2紙層(中間層)32が第1紙層31と第3紙層33との間に設けられている。
【0048】
このように、本実施形態に係るセキュリティ用紙4は、表面と裏面のそれぞれにおいて、中綴じ用の中心線6に対する対称座標位置に「ウインドウスレッド10のライン」と「遮蔽スレッド13」とが少なくとも各1つ設けられていることを基本構成としている。言い換えれば、ウインドウスレッド10のラインとしては、セキュリティ用紙4の表裏両面に2つ以上設けられており、中綴じ製本した後の各ページ(各面)には少なくとも1つ設けられていることを基本構成としている。したがって、こうした基本構成を有するセキュリティ用紙4であれば、図3〜図5に示すセキュリティ用紙4A〜4C以外の形態であっても本発明に係るセキュリティ用紙4に包含される。
【0049】
その他の変形例としては、例えば図4に示すように、中綴じ製本した後の各ページに2つ以上設けられた形態であってもよいし、図4に示すものとは異なり、表面の右側ページにウインドウスレッド10のラインが2つ設けられ、表面の左側ページに遮蔽スレッド13のラインが2つ設けられている形態であってもよい。さらにそれ以外の形態であってもよい。つまり、本発明に係るセキュリティ用紙4では、表面と裏面にそれぞれ2つ以上のウインドウスレッド10のラインが設けられ、(ア)中心線6から一方の側(例えば右側ページ)の表面に2つ以上のウインドウスレッド10のラインが設けられ且つ中心線6から他方の側(例えば左側ページ)の裏面に2つ以上のウインドウスレッドのラインが設けられている、又は、(イ)中心線6から一方の側(例えば右側ページ)の表面に2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインが設けられ且つ中心線6から他方の側(例えば左側ページ)の表面に2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインが設けられているものであってもよい。
【0050】
(紙層)
紙層は、セキュリティ用紙4の構成要素であり、例えば図3及び図4に示すセキュリティ用紙4A,4Bの場合には2層で構成され、図5に示すセキュリティ用紙4Cの場合には3層で構成されている。これら2層又は3層の各紙層は、同じ材質からなる層であってもよいし異なる材質からなる層であってもよい。
【0051】
紙層の構成材料としては、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の木材パルプ;麻、綿、藁を原料とした非木材パルプ;等を挙げることができる。紙層は後述する抄紙機で抄紙されて形成される。その抄紙機への供給原料は、前記した材料を適宜混合して叩解し、これに填料、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、サイズ剤、定着剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、消泡剤、染料、着色顔料及び蛍光剤等から任意に選択された添加剤を適宜加えて所定の粘度となるように調整される。こうして調整された供給原料を抄紙機に供給して各紙層が抄紙される。
【0052】
(窓開き部)
窓開き部11は、セキュリティ用紙4の構成要素であり、スレッド12とともにウインドウスレッド10を構成する。窓開き部11は、紙層が設けられていない所定の大きさの開口部位である。そして、セキュリティ用紙4の表面の最外紙層と裏面の最外紙層とにそれぞれ一定の方向に断続的に設けられている。
【0053】
窓開き部11の大きさは任意に設定されるが、例えば一辺が5mm〜15mmの正方形又は長方形である。この窓開き部11の中には、幅0.8mm〜6mm程度のスレッド12が露出している。窓開き部11は、例えば5mm〜10mmの一定間隔(ピッチ)で断続的に設けられていてもよいし、その寸法範囲で不定間隔で断続的に設けられていてもよい。
【0054】
(スレッド)
スレッドには、窓開き部11で露出したスレッド12と、窓開き部11以外で紙層の下に隠れた遮蔽スレッド13がある。これらのスレッド12,13は、同じスレッドで形成されるものであり、そのスレッドがセキュリティ用紙4を構成する紙層にすき入れて形成される。スレッドは、セキュリティ性のよい各種のものを挙げることができ、特に限定されない。通常、基材上に各種の膜が設けられたものを挙げることができる。
【0055】
基材はスレッドの構成要素であり、例えば、耐溶剤性及び/又は耐熱性のある樹脂フィルムを使用できる。樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、セルロース系樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等を挙げることができる。基材の厚さは特に限定されないが、4μm〜20μm程度が好ましい。また、基材を漉き入れる場合の厚さとしては、紙の厚さが80μm〜150μmのため、20μm〜40μmの厚さが望ましい。
【0056】
スレッドとしては、例えば、金銀糸用スレッド、ホログラムスレッド、磁気スレッド、蛍光発色スレッド、絵柄スレッド等の従来から偽造防止用に提案されているスレッドを使用できる。これらの各スレッドは、基材上に塗布法や印刷法等の湿式法;真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーテイング法等のPVD法;CVD法;等の各種成膜手段で膜を成膜して得られる。湿式法で膜を形成する場合の厚さは、通常通常0.3μm〜30μmであり、好ましくは1.0μm〜10μmである。一方、PVD法やCVD法で膜を形成する場合の厚さは、10nm〜1000nmであり、好ましくは10nm〜300nmである。
【0057】
例えば金銀糸用のスレッドは、基材である樹脂フィルム上に金属アルミニウム膜を真空蒸着し、その蒸着面に保護を目的とした樹脂を塗工してマイクロスリッターでスリットすることで製造される。このとき、塗工する樹脂を黄色に着色することで金色のスレッドを製造できる。スレッドには感熱接着剤を塗工しておくことが好ましい。これによって、後述する抄紙機の乾燥ゾーンの熱で感熱接着剤が機能しスレッドと紙層との接着がより一層確実になる。
【0058】
ホログラムスレッドは、ホログラムや回折格子等の光回折構造を有するスレッドである。このホログラムスレッドは、製造のために高度な技術を要することから、偽造防止手段として好ましい。光回折構造の作製方法として、被写体にレーザ光と参照光を照射し、感光材に干渉縞を形成させる方法や、電子線描画による方法がある。また、光回折構造を媒体上に形成する方法として、熱転写によって形成する方法や、ラベルにして貼付する方法がある。
【0059】
磁性スレッドは、セキュリティ性のある磁気データが付与されたスレッドである。上記のスレッドと同様、基材上に磁性膜を印刷法や真空成膜法(真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーテイング等)で成膜して得ることができる。磁性膜の構成材料としては、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる1又は2以上の鉄族材料を主成分とし、これにほう素、炭素、マグネシウム、アルミニウム、珪素、燐、硫黄、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブテン、パラジウム、銀、インジウム、錫、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、鉛から選ばれる1又は2以上の材料を添加して構成される。
【0060】
真空成膜法は、上記の材料を蒸発源又はターゲットとして用いて成膜する。一方、印刷法では、強磁性材料を顔料として含み、その顔料を分散するバインダー及び溶剤を配合した印刷インキが用いられる。含量である強磁性材料は、10nm〜数十μmの粒径のものを用いることができる。得られた磁性スレッドに磁気データを付与する方法は、レーザ加工、エッチング法、リフトオフ法等の薄膜除去手段により部分的に磁性膜を除去してパターン化して行われる。
【0061】
なお、得られたスレッドにおいて、各種の膜が設けられていない側の基材面には、必要に応じて、接着剤層が設けられている。接着剤層としては、スレッドを紙層にすき入れる際に、紙層との接着強度を高めるように作用するものである。通常は、でんぷん、カゼイン、カルボキシメチルセルローズ(CMC)等からなる水溶性接着剤や抄造時に水で流れないようにした溶剤系接着剤、ホットメルト型接着剤が好ましく用いられる。スレッドには、接着剤(中心は熱接着剤(ヒートシール剤))が、表裏に塗られており、脱落を防止している。さらに、スレッドの入った用紙の表面にPVA等をコーティングして脱落防止のために接着強度を強める方法もある。
【0062】
以上、本実施形態に係るセキュリティ用紙4は、2層又は3層の紙層で構成されたセキュリティ用紙の表面と裏面に、それぞれウインドウスレッド10のラインが中心線6に対する左右対称位置に対ラインとして少なくとも1対設けられている。このセキュリティ用紙4を中綴じ製本して例えば図1に示すパスポート1を作製した場合に、パスポート等を見開いたときの左右のページ態様が対称となる。その結果、例えばパスポート1の検閲時において、そのページ態様が同じであるか異なるかが瞬時且つ容易に判別できるので、偽造の疑いのあるパスポート等の発見に極めて効果的である。
【0063】
[セキュリティ用紙の製造方法]
本実施形態に係るセキュリティ用紙の製造方法は、2層又は3層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙4を、多槽式円網抄紙機を用いて製造する方法である。図6及び図7は、2層の紙層で構成されたセキュリティ用紙4A,4B(図3及び図4を参照)を2槽式円網抄紙機40Aを用いて製造する説明図であり、図8及び図9は、3層の紙層で構成されたセキュリティ用紙4C(図5を参照)を3槽式円網抄紙機40Bを用いて製造する説明図である。
【0064】
(円網抄紙機)
円網抄紙機40(40A,40B)は、図6及び図8に示すように、パルプ槽62,65,68に浸漬した回転円筒金網(円網シリンダー61,64,67という。)の金網面に、紙原料を槽から汲みあげる方法で紙層を抄造する装置である。この金網面に、図7及び図9に示すように、透かし形成部材71,72(例えばテープ等)を所定の大きさと間隔で接合させて網目を塞いでおけば、ウインドウスレッド10を構成する窓開き部11を形成できる。なお、透かしは、白透かしであってもよく、あるいは階調性のある透かし等であってもよい。
【0065】
抄紙機40は、通常、ワイヤーパート42とプレスパート44とドライヤーパート46とリールパート48とから構成されている。ワイヤーパート42は、セキュリティ用紙4を抄造すると同時にスレッドをすき入れる部分であり、プレスパート44は、抄き合わされたセキュリティ用紙4を加圧して脱水する部分であり、ドライヤーパート46は、抄造後のセキュリティ用紙4を乾燥する部分であり、リールパート48は、セキュリティ用紙4を巻き上げする部分である。
【0066】
ワイヤーパート42は、図6に示す2槽式円網抄紙機40Aでは、フェルト91が供給される上流側から、第1円網シリンダー61及び第1紙原料槽62を備える第1抄紙機51と、第2円網シリンダー64及び第2紙原料槽65を備える第2抄紙機52とが縦列に配置されている。一方、図8に示す3槽式円網抄紙機40Bでは、ワイヤーパート42は、フェルト91が供給される上流側から、第1円網シリンダー61及び第1紙原料槽62を備える第1抄紙機51と、第2円網シリンダー64及び第2紙原料槽65を備える第2抄紙機52と、第3円網シリンダー67及び第3紙原料槽68を備える第3抄紙機53とが縦列に配置されている。
【0067】
上流側から供給されたフェルト91上には、第1抄紙機51から順次紙層が形成される。図6に示す2槽式円網抄紙機40Aでは、第1紙層21と第2紙層22とが順次積層され(図3及び図4を参照)、図8に示す3槽式円網抄紙機40Bでは、第1紙層31と第2紙層32と第3紙層33とが順次積層される(図5を参照)。各紙層が形成されたフェルト91は、各円網シリンダー61,64,67に対向して設けられた圧搾ローラ63,66,69と、ガイドローラ93とで搬送される。
【0068】
スレッドは、図6に示す2槽式円網抄紙機40Aでは、第1抄紙機51と第2抄紙機52との間に、第1スレッド12Aと第2スレッド12Bの2系統で供給される。一方、図8に示す3槽式円網抄紙機40Bでは、第1抄紙機51と第2抄紙機52との間に第1スレッド12Aが供給され、第2抄紙機52と第3抄紙機53との間にもう第2スレッド12Bが供給される。
【0069】
各円網シリンダー61,64,67は、各紙原料槽62,65,68に回転可能に軸支され、フェルト91を挟んで圧搾ローラ63,66,69と接する。各紙原料槽62,65,68は、上部が開放された筐体状をなしており、その壁には紙原料供給口(図示しない)が設けられている。
【0070】
各円網シリンダー61,64,67は、網目状をなした円筒からなる。網目は、円筒の周縁部に渡された支持棒に針金を螺旋状に巻いて形成したものであっても、金網を巻いて形成したものであってもよい。
【0071】
(2槽式円網抄紙機でのセキュリティ用紙の製造方法)
最初に、抄紙工程の原理を説明する。各抄紙機51,52を構成する各紙原料槽62,65には、パルプ原料及び必要な添加剤で調整された紙原料が供給される。供給された紙原料は、円網シリンダー61,64が回転することにより、その円網シリンダー61,64の網目により濾過作用を受ける。これにより、紙原料は円網シリンダー61,64の網目上に止まり、水は円網シリンダー61,64の円筒内へ流入し、網目上に紙層が形成される。網目上に形成された紙層は、上流側から供給されるフェルト91上に転写して紙層が形成される。
【0072】
準備工程として、第1抄紙機51を構成する第1円網シリンダー61の網面に、セキュリティ用紙4A,4Bの窓開き部11Aに相当する部分の網目を塞ぐ透かし形成部71を形成する。さらに、第2抄紙機52を構成する第2円網シリンダー64の網面にも、セキュリティ用紙4A,4Bの窓開き部11Bに相当する部分の網目を塞ぐ透かし形成部72を形成する。透かし形成部71,72としては、例えば網面に樹脂を部分的に塗工したり、所定の形状の樹脂板を貼合したり、金属板を貼合したりする等の細工によって形成できる。形成した透かし形成部71,72では水が通らず、網の内側から吸水できないので、その透かし形成部71,72にはパルプが付着しない。その結果、抄紙してなる紙層には窓開き部11A,11Bが形成されることになる。一方、透かし形成部71,72を設けない部分は水が通り、網の内側から吸水できるので、その透かし形成部71,72を設けない部分にはパルプが付着して紙層21,22となる。
【0073】
第1抄紙工程は、図6及び図7に示すように、上記準備工程の後、上流側から供給されたフェルト91上に、窓開き部11Aを有する第1紙層(湿紙)21を抄紙する工程である。上記原理で抄紙された第1紙層21には、窓開き部11A(図3及び図4を参照)が断続的に且つ第1紙層21の流れ方向に形成されている。
【0074】
第2抄紙工程は、図6及び図7に示すように、(ア)第1抄紙工程後に第2紙層22を抄紙するサブ工程と、(イ)第1紙層21が有する窓開き部11Aに第1スレッド12Aをすき入れてウインドウスレッド10Aを形成するサブ工程と、(ウ)第2紙層22に窓開き部11Bを形成し且つその窓開き部11Bに第2スレッド12Bをすき入れしてなるウインドウスレッド10Bを有する第2紙層22を形成するサブ工程とを有する。
【0075】
(ア)の第2紙層22の抄紙は、図6及び図7に示すように、第2紙層22を第1紙層21上に設けるサブ工程であり、第2円網シリンダー64に透かし形成部が無い部分で行われる。
【0076】
(イ)の第1スレッド12Aをすき入れは、図6及び図7に示すように、第1抄紙工程で形成した第1紙層21の窓開き部11Aに第1スレッド12Aをすき入れするサブ工程である。このサブ工程では、第1紙層21と第2円網シリンダー64との間に第1スレッド12Aをすき入れるが、詳しくは、第1スレッド12Aを、第1紙層21に断続的に形成された窓開き部11A上と、第2円網シリンダー64との間に供給してすき入れる。こうして、第1紙層21に形成された窓開き部11Aでは、図3(C)及び図4(C)に示すように、第1スレッド12Aが露出したウインドウスレッド10Aとなり、第1紙層21の窓開き部11A以外の部位では、図3(D)及び図4(D)に示すように、第1スレッド12Aは第1紙層21を最外層としてその最外層に隠蔽された遮蔽スレッド13Aとなる。
【0077】
(ウ)の第2紙層22への窓開き部11Bの形成、及び、その窓開き部11Bへの第2スレッド12Bのすき入れは、図6及び図7に示すように、第2紙層22に窓開き部11Bを形成するとともに、その窓開き部11Bに第2スレッド12Bをすき入れするサブ工程である。このサブ工程では、第2円網シリンダー64に透かし形成部72が設けられた部位で窓開き部11Bが形成される。この窓開き部11Bは、第2円網シリンダー64の外周に設けられた透かし形成部72に対応した部位に断続的に形成される。その窓開き部11Bへの第2スレッド12Bのすき入れは、第2紙層22と第2円網シリンダー64との間に第2スレッド12Bを供給して行うが、詳しくは、第2スレッド12Bを、第1紙層21上であって第2紙層22に断続的に形成されることになる窓開き部11Bと、第2円網シリンダー64との間にすき入れる。こうして、第2紙層22に形成された窓開き部11Bでは、図3(C)及び図4(C)に示すように、第2スレッド12Bが露出したウインドウスレッド10Bとなり、第2紙層22の窓開き部11B以外の部位では、図3(D)及び図4(D)に示すように、第2スレッド12Bは第2紙層22を最外層としてその最外層に隠蔽された遮蔽スレッド13Bとなる。
【0078】
こうして、2層構成からなるセキュリティ用紙4A,4Bの連続紙が抄紙される。なお、特に2層のセキュリティ用紙4A,4Bの場合は、窓開き部11A,11Bに相当する箇所を裏面から透かして見たとき、その周囲と比較して明るく透けて見える。このため、その部分を「透かし」と呼んでいる。特に2層のセキュリティ用紙4A,4Bでは、この透かしを積極的に利用して偽造防止効果をより高めることができる。
【0079】
2層構成からなるセキュリティ用紙4A,4Bの連続紙95(図10参照)は、図6に示すように、フェルト91に付着した状態で周回し、次工程のフェルト92へ移され、プレスパート44へと導かれる。プレスパート44では、一対のプレスローラ(図示しない)の間を移動する際に圧縮され脱水される。次いで、ドライヤーパート46へ導かれたセキュリティ用紙4A,4Bの連続紙95は、ドライヤーシリンダ(図示しない)上を移動することにより乾燥し、リールパート48の巻取ローラ(図示しない)により巻き取られ、図10に示すように、セキュリティ用紙4A,4Bの連続紙95となる。なお、図10中の矢印は、セキュリティ用紙4A,4Bの連続紙95の長尺方向を指している。また、符号4は、その後に切断される部位を示しており、その切断によってセキュリティ用紙4A,4Bが得られる。
【0080】
以上のように、2槽式円網抄紙機40Aでのセキュリティ用紙4A,4Bの製造方法により、2層構成からなるセキュリティ用紙4A,4Bを製造できる。図3に示すセキュリティ用紙4Aは、第1スレッド12Aが窓開き部11Aで露出するウインドウスレッド10Aと、第2スレッド12Bが窓開き部11Bで露出するウインドウスレッド10Bとが、セキュリティ用紙の表面側に1つ、裏面側に1つ設けられている態様である。そのため、図10中の破線で示すように、切断領域内に、一方の面(表面又は裏面)に形成されたウインドウスレッド10Aと、他の面(裏面又は表面)に形成されたウインドウスレッド10Bとをそれぞれ1つ有するように切断される。このとき、すき入れられた第1スレッド12Aと第2スレッド12Bとを、セキュリティ用紙の表面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッド10Aのラインと、セキュリティ用紙の裏面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッド10Bのラインとし、その各ウインドウスレッド10A,10Bのラインをセキュリティ用紙4の中心線6に対する左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けられるように切断する。
【0081】
一方、図4に示すセキュリティ用紙4Bは、第1スレッド12Aが窓開き部11Aで露出するウインドウスレッド10Aと、第2スレッド12Bが窓開き部11Bで露出するウインドウスレッド10Bとが、セキュリティ用紙の表面側に2つ、裏面側に2つ設けられている態様である。そのため、切断領域内に、一方の面(表面又は裏面)に形成されたウインドウスレッド10Aと、他の面(裏面又は表面)に形成されたウインドウスレッド10Bとをそれぞれ2つ有するように切断される。このとき、すき入れられた2つの第1スレッド12Aと2つの第2スレッド12Bとを、セキュリティ用紙の表面に設けられた2つのウインドウスレッド10Aのラインと、セキュリティ用紙の裏面に設けられた2つのウインドウスレッド10Bのラインとし、その各ウインドウスレッド10A,10Bのラインをセキュリティ用紙4の中心線6に対する左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けられるように切断する。
【0082】
この場合においては、(ア)中心線6から一方の側(右側)の表面に2つ以上のウインドウスレッド10Aのラインを設けてもよいし、又は、(イ)図4に示すように、中心線6から一方の側(右側)の表面に2つ以上のウインドウスレッド10Aのラインのうちの1つのライン10Aを設け且つ中心線6から他方の側(左側)の表面に該2つ以上のウインドウスレッド10Aのラインのうちの1つのライン10Aを設けるように構成してもよい。なお、(イ)の態様では、表面に設けられたウインドウスレッド10A,10Aそれぞれは中心線6に対して非対称であるが、表面設けられた各ウインドウスレッド10Aと、裏面に設けられた各ウインドウスレッド10Bとは中心線6に対して対称となっている。
【0083】
なお、2槽式円網抄紙機でのセキュリティ用紙の製造は、スレッド12A,12Bを第2抄紙工程で同時にすき入れするので、異なる抄紙工程でそれぞれすき入れする場合に比べて、スレッド12A,12B相互の位置が相対的なものになって位置ズレが小さくなるというメリットがある。さらに、3槽式円網抄紙機に比べて抄紙機を1台省略できるので、設備的にも工数的にもコストメッリトがある。
【0084】
(3槽式円網抄紙機でのセキュリティ用紙の製造方法)
抄紙工程の原理は、上記した2槽式円網抄紙機でのセキュリティ用紙の製造方法の欄で説明したのと同じであるので、ここではその説明を省略する。なお、3槽式円網抄紙機でのセキュリティ用紙4Cの製造方法においては、上記した2槽式円網抄紙機でのセキュリティ用紙4A,4Bの製造方法での工程と区別するために、各工程に「’」を設けている。
【0085】
準備工程として、第1抄紙機51を構成する第1円網シリンダー61の網面に、セキュリティ用紙4Cの窓開き部11Aに相当する部分の網目を塞ぐ透かし形成部71を形成する。さらに、第3抄紙機53を構成する第3円網シリンダー67の網面にも、セキュリティ用紙4Cの窓開き部11Bに相当する部分の網目を塞ぐ透かし形成部72を形成する。一方、第2抄紙機52を構成する第2円網シリンダー64の網面には、透かし形成部は形成しない。なお、透かし形成部71,72は、上記した2槽式円網抄紙機でのセキュリティ用紙の製造方法の欄で説明したのと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0086】
第1’抄紙工程は、図8及び図9に示すように、上記準備工程の後、上流側から供給されたフェルト91上に、窓開き部11Aを有する第1紙層(湿紙)31を抄紙する工程である。上記原理で抄紙された第1紙層31には、窓開き部11A(図5を参照)が断続的に且つ第1紙層31の流れ方向に形成されている。
【0087】
第2’抄紙工程は、図6及び図7に示すように、第1’抄紙工程後に第2紙層32を抄紙する工程であって、その第1紙層31が有する窓開き部11Aに第1スレッド12Aをすき入れして第2紙層32を形成する工程である。この工程では、図6及び図7に示すように、第1’抄紙工程で形成した第1紙層31の窓開き部11Aへの第1スレッド12Aをすき入れを、第1紙層31と第2円網シリンダー64との間で行う。詳しくは、第1スレッド12Aを、第1紙層31に断続的に形成された窓開き部11A上と、第2円網シリンダー64との間に供給してすき入れる。こうして、第1紙層31に形成された窓開き部11Aでは、図5(C)に示すように、第1スレッド12Aが露出したウインドウスレッド10Aとなり、第1紙層31の窓開き部11A以外の部位では、図5(D)に示すように、第1スレッド12Aは第1紙層31を最外層としてその最外層に隠蔽された遮蔽スレッド13Aとなる。
【0088】
なお、窓開き部11Aがない部分の第1紙層31上には、第2紙層22がそのまま設けられる。
【0089】
第3’抄紙工程は、図8及び図9に示すように、第2’抄紙工程後に第3紙層33を抄紙する工程であって、その第3紙層33に窓開き部11Bを形成し且つその窓開き部11Bに第2スレッド12Bをすき入れして第3紙層33を形成する工程である。
【0090】
この第3’抄紙工程では、第3円網シリンダー67に透かし形成部72が設けられた部位で窓開き部11Bが形成される。この窓開き部11Bは、第3円網シリンダー67の外周に設けられた透かし形成部72に対応した部位に断続的に形成される。その窓開き部11Bへの第2スレッド12Bのすき入れは、第2紙層32と第3円網シリンダー67との間に第2スレッド12Bを供給して行うが、詳しくは、第2スレッド12Bを、第2紙層32上であって第3紙層33で断続的に形成されることになる窓開き部11Bと、第3円網シリンダー67との間にすき入れる。こうして、第3紙層33に形成された窓開き部11Bでは、図5(C)に示すように、第2スレッド12Bが露出したウインドウスレッド10Bとなり、第3紙層33の窓開き部11B以外の部位では、図5(D)に示すように、第2スレッド12Bは第3紙層33を最外層としてその最外層に隠蔽された遮蔽スレッド13Bとなる。
【0091】
こうして、3層構成からなるセキュリティ用紙4Cの連続紙が抄紙される。
【0092】
3層構成からなるセキュリティ用紙4Cの連続紙は、図10に示す2層構成からなるセキュリティ用紙4A,4Bと同様、図8に示すように、フェルト91に付着した状態で周回し、次工程のフェルト92へ移され、プレスパート44へと導かれる。各パートでの処理は、上記した2槽式円網抄紙機でのセキュリティ用紙の製造方法の欄で説明したのと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0093】
以上のように、3槽式円網抄紙機40Bでのセキュリティ用紙4Cの製造方法により、セキュリティ用紙4Cの表面と裏面に、偽造が困難なウインドウスレッドのラインを少なくとも1つ設けることができる。その結果、セキュリティの高い安全なセキュリティ用紙4Cを効率的に製造できる。
【0094】
図5に示すセキュリティ用紙4Cは、第1スレッド12Aが窓開き部11Aで露出するウインドウスレッド10Aと、第2スレッド12Bが窓開き部11Bで露出するウインドウスレッド10Bとが、セキュリティ用紙の表面側に1つ、裏面側に1つ設けられている態様である。そのため、例えば図10中の破線で示すように、切断領域内に、一方の面(表面又は裏面)に形成されたウインドウスレッド10Aと、他の面(裏面又は表面)に形成されたウインドウスレッド10Bとをそれぞれ1つ有するように切断される。これらの切断態様等についても、上記した2槽式円網抄紙機でのセキュリティ用紙の製造方法の欄で説明したのと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0095】
以上、本実施形態に係るセキュリティ用紙4の製造方法によれば、セキュリティ用紙4の表裏両面にウインドウスレッド10のラインを形成する。表裏両面へのウインドウスレッド10のラインの形成は、最低2つの抄紙工程(抄紙機)が必要であり、用紙強度の観点からは3つの抄紙工程で形成する3層構成のセキュリティ用紙4A,4Bを提供でき、一方、工数削減とコストダウンの観点からは2つの抄紙工程で形成する2層構成のセキュリティ用紙4Cを提供できる。なお、ウインドウスレッド10のラインは、最終的に形成する紙層(最外紙層)以外の紙層を形成し、その紙層と最外紙層とを重ね合わせる際に、最外紙層の窓開き部11に位置するようにスレッド12を紙層間に挿入する。これによって、最外紙層の窓開き部11内にスレッド12をすき入れでき、窓開き部11でスレッド12が露出するように構成できる。
【符号の説明】
【0096】
1 パスポート
2,3 表紙
4,4A,4B,4C セキュリティ用紙
5 中綴じ部
6 中心線
7 IC封止ページ
10,10A,10B ウインドウスレッド
11,11A,11B 窓開き部
12,12A,12B スレッド
13,13A,13B スレッドが紙層内に隠れている部分
21 最外紙層(第2紙層)
22 第1紙層
31 最外紙層(第3紙層)
32 第2紙層
33 第1紙層
【0097】
40A 2槽式円網抄紙機
40B 3槽式円網抄紙機
42 ワイヤーパート
44 プレスパート
46 ドライヤーパート
48 リールパート
51 第1抄紙機
52 第2抄紙機
53 第3抄紙機
61,64,67 円網シリンダー
62,65,68 紙原料槽
63,66,69 圧搾ロール
71,72 透かし形成部
91,92 フェルト
93,94 ガイドロール
【0098】
101A,101B パスポート
104,104A,104B ウインドウスレッド用紙
110 セキュリティスレッド
111 開口部
112 スレッド
113 遮蔽スレッド
120 中綴じ製本で得られた冊子
121 見返しページ用紙
122 本文ページ用紙
123 中心線
124 表紙
125 プレス
126 綴じ糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層又は3層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙であって、
前記セキュリティ用紙の表面に少なくとも1つのウインドウスレッドのラインが設けられるとともに、前記セキュリティ用紙の裏面にも少なくとも1つのウインドウスレッドのラインが設けられ、
前記表面と前記裏面にそれぞれ設けられた前記ウインドウスレッドのラインは、該セキュリティ用紙の中心線に対して左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けられたラインであって、前記表裏両面の各最外層に設けられた断続的な窓開き部と、前記各最外層の下層に設けられて前記窓開き部で露出するスレッドとが同一方向に延びるラインであることを特徴とするセキュリティ用紙。
【請求項2】
前記セキュリティ用紙がパスポート用の中綴じ製本用紙である、請求項1に記載のセキュリティ用紙。
【請求項3】
前記セキュリティ用紙の表面と裏面にそれぞれ2つ以上のウインドウスレッドのラインが設けられ、
(ア)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインが設けられている、又は、
(イ)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインが設けられ且つ前記中心線から他方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインが設けられている、請求項1又は2に記載のセキュリティ用紙。
【請求項4】
2層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙を、多槽式円網抄紙機を用いて製造するセキュリティ用紙の製造方法であって、
窓開き部を有する第1紙層を抄紙する第1抄紙工程と、
該第1抄紙工程後に第2紙層を抄紙する工程であって、前記第1紙層が有する窓開き部に第1スレッドをすき入れるとともに、前記第2紙層に窓開き部を形成し且つ該窓開き部に第2スレッドをすき入れして第2紙層を形成する第2抄紙工程と、を有し、
すき入れられた前記第1スレッドと前記第2スレッドとを、前記セキュリティ用紙の表面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッドのラインと、前記セキュリティ用紙の裏面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッドのラインとし、該各ウインドウスレッドのラインを前記セキュリティ用紙の中心線に対する左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けることを特徴とするセキュリティ用紙の製造方法。
【請求項5】
前記第1抄紙工程で用いる円網抄紙機が、前記窓開き部に対応する透かし形成部を設けた円網シリンダーを有し、前記窓開き部の中にすき入れする第1スレッドを、前記第2抄紙工程で用いる円網抄紙機が有する円網シリンダーに供給するとともに、前記第2抄紙工程で用いる円網抄紙機が、前記窓開き部に対応する透かし形成部を設けた円網シリンダーを有し、前記窓開き部の中にすき入れする第2スレッドを、該第2抄紙工程で用いる円網抄紙機が有する円網シリンダーに供給する、請求項4に記載のセキュリティ用紙。
【請求項6】
前記第1スレッドと前記第2スレッドとをそれぞれ2つすき入れし、前記セキュリティ用紙の表面と裏面にそれぞれ2つ以上のウインドウスレッドのラインを設け、(ア)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインを設ける、又は、(イ)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインを設け且つ前記中心線から他方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインを設ける、請求項4又は5に記載のセキュリティ用紙の製造方法。
【請求項7】
3層の紙層で構成された中綴じ製本用のセキュリティ用紙を、多槽式円網抄紙機を用いて製造するセキュリティ用紙の製造方法であって、
窓開き部を有する第1紙層を抄紙する第1抄紙工程と、
該第1抄紙工程後に第2紙層を抄紙する工程であって、前記第1紙層が有する窓開き部に第1スレッドをすき入れして前記第2紙層を形成する第2抄紙工程と、
該第2抄紙工程後に第3紙層を抄紙する工程であって、該第3紙層に窓開き部を形成し且つ該窓開き部に第2スレッドをすき入れして第3紙層を形成する第3抄紙工程と、を有し、
すき入れられた前記第1スレッドと前記第2スレッドとを、前記セキュリティ用紙の表面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッドのラインと、前記セキュリティ用紙の裏面に設けられた少なくとも1つのウインドウスレッドのラインとし、該各ウインドウスレッドのラインを前記セキュリティ用紙の中心線に対する左右対称の座標位置の表面と裏面にそれぞれ設けることを特徴とするセキュリティ用紙の製造方法。
【請求項8】
前記第1抄紙工程で用いる円網抄紙機が、前記窓開き部に対応する透かし形成部を設けた円網シリンダーを有し、前記窓開き部の中にすき入れする第1スレッドを、前記第2抄紙工程で用いる円網抄紙機が有する円網シリンダーに供給するとともに、前記第3抄紙工程で用いる円網抄紙機が、前記窓開き部に対応する透かし形成部を設けた円網シリンダーを有し、前記窓開き部の中にすき入れする第2スレッドを、該第3抄紙工程で用いる円網抄紙機が有する円網シリンダーに供給する、請求項7に記載のセキュリティ用紙の製造方法。
【請求項9】
前記第1スレッドと前記第2スレッドとをそれぞれ2つすき入れし、前記セキュリティ用紙の表面と裏面にそれぞれ2つ以上のウインドウスレッドのラインを設け、(ア)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインを設ける、又は、(イ)前記中心線から一方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインを設け且つ前記中心線から他方の側の表面に該2つ以上のウインドウスレッドのラインのうち少なくとも1つのラインを設ける、請求項7又は8に記載のセキュリティ用紙の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセキュリティ用紙で中綴じ製本されてなることを特徴とするパスポート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−237079(P2012−237079A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107970(P2011−107970)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】