説明

再プログラム化成熟成体細胞を用いる治療

逆分化、分化転換又は再分化細胞などの再プログラム化細胞を用いて患者における種々の疾患、障害又は状態を治療する方法。本方法は、患者からコミット細胞を得るステップ、コミット細胞を逆分化させて、逆分化標的細胞を得るステップ、及び逆分化細胞を患者に投与するステップを含む。特定の実施形態において、本方法は、患者からコミット細胞を得るステップ、コミット細胞を分化転換させて、分化転換標的細胞を得るステップ、及び分化転換標的細胞を患者に投与するステップを含む。逆分化又は分化転換標的細胞は、患者における組織又は細胞を修復又は補充する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〈参照による組み込み〉
本願明細書で引用した文書において引用又は参照されたすべての文書、並びに本願明細書で、又は参照により本願明細書に組み込まれている文書で言及された製品に関する製造業者の指示書、説明書、製品仕様書及び製品シートは、参照により本願明細書に組み込まれており、本発明の実施において用いることができる。
【0002】
逆分化、分化転換又は再分化細胞などの再プログラム化細胞を用いて患者における種々の疾患、障害又は病気を治療する方法。本方法は、患者からコミット細胞(committed cells)を得ること、コミット細胞を逆分化させて、逆分化標的細胞を得ること、及び逆分化細胞を患者に投与することを含む。特定の実施態様において、本方法は、患者からコミット細胞を得ること、コミット細胞を分化転換させて、分化転換標的細胞を得ること、及び分化転換標的細胞を患者に投与することを含む。逆分化又は分化転換標的細胞は、患者における組織又は細胞を修復又は補充する。
【背景技術】
【0003】
幹細胞は、体細胞分裂によりそれら自身を再生し、様々な特殊化細胞型に分化する能力を特徴とする。哺乳類幹細胞の大まかな二つの型は、胎盤胞内部細胞塊から単離される胚性幹細胞及び成体組織に見いだされる成体幹細胞である。発生中の胚においては、幹細胞は、特殊化胚組織のすべてに分化し得る。成体生物においては、幹細胞及び前駆細胞は、特殊化細胞を補充し、血液、皮膚又は腸組織などの再生器官の正常なターンオーバーを維持する。
【0004】
幹細胞は発生中の胚には豊富であるが、幹細胞の量は、発生が進むにつれて減少する。これに反して、成体生物は、特定の身体区画に限定されている、限られた数の幹細胞を含む。
【0005】
幹細胞の治療への応用は、多数の疾患又は障害の療法を変化させる可能性を有する。骨髄移植などのいくつかの成体幹細胞療法は既に存在しているが、医療研究者は、とりわけ、癌、パーキンソン病、脊髄損傷、筋委縮側索硬化症、多発性硬化症及び筋損傷などのより多様な疾患を治療するために幹細胞を用いることを予期している。そのような療法は、疾患を治療するのに必要な細胞型に分化する幹細胞の能力を活用するものであり得る。
【0006】
しかし、幹細胞を用いるそのような病気の治療の成功に関する不確定性、及び、幹細胞を得ることができる容易さに関する懸念が存在する。例えば、造血幹細胞は、伝統的には骨髄、成長因子動員末梢血又は臍帯血(胎盤)からの単離により抽出される。造血幹細胞はまた、体外受精法を用いて得られる胚から抽出される胚性幹(ES)細胞から調製することができる。しかし、これらの資源からの抽出は、煩雑であり、時として危険であり、倫理的問題に直面する可能性がある。さらに、これらの資源から得られる幹細胞の数は限られている。さらに、幹細胞は、病気を治療するのに必要な細胞への分化の困難を経験する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国出願第08/594,164号
【特許文献2】米国特許第6,090,625号
【特許文献3】米国出願第09/742,520号
【特許文献4】米国特許第7,112,440号
【特許文献5】米国出願第10/140,978号
【特許文献6】米国特許第7,220,412号
【特許文献7】米国出願第10/150,789号
【特許文献8】米国特許第7,410,773号
【特許文献9】米国出願第09/853,188号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vettese-Dadey、The Scientist、1999年、13巻、21頁
【非特許文献2】Nisitaniら、Int Immuno、1994年、6巻、909〜916頁
【非特許文献3】Le Page、New Scientist、2000年12月16日
【非特許文献4】Bischoff、Dev Biol、1986年、115巻、129〜39頁
【非特許文献5】Nakafuku及びNakamura、J Neurosci Res、1995年、41巻、153〜168頁
【非特許文献6】Metcalf、Nature、1989年、339巻、27〜30頁
【非特許文献7】Potocnikら、EMBO J、1994年、13巻、5274〜83頁
【非特許文献8】Andrewsら、Hybridoma、1984年、3巻、347〜361頁
【非特許文献9】Kannagiら、EMBO J、1983年、2巻、2355〜2361頁
【非特許文献10】Foxら、Dev Biol、1984年、103巻、263〜266頁
【非特許文献11】Ozawaら、Cell Differ、1985年、16巻、169〜173頁
【非特許文献12】J Neurosci、985巻、3310頁
【非特許文献13】Eavesら、J Tiss Cult Meth、1991年、13巻、55〜62頁
【非特許文献14】Kreissegら、J Hematother、1994年、3巻、263〜89頁
【非特許文献15】Korblingら、Bone Marrow Transplant、1994年、13巻、649〜54頁
【非特許文献16】Visserら、Blood Cells、1980年、6巻、391〜407頁
【非特許文献17】Groganら、Blood Cells、1980年、6巻、625〜44頁
【非特許文献18】Urbankovaら、J Chromatogr B Biomed Appl、1996年、687巻、449〜52頁
【非特許文献19】Deryuginaら、Crit Rev Immunology、1993年、13巻、115〜150頁
【非特許文献20】Dexterら、J Cell Physiol、1977年、91巻、335頁
【非特許文献21】Dexterら、Acta Haematol、1979年、62巻、299頁
【非特許文献22】Lebkowskiら、Transplantation、1992年、53巻、1011〜9頁
【非特許文献23】Lebkowskiら、J Hematother、1993年、2巻、339〜42頁
【非特許文献24】Haylockら、Immunomethods、1994年、5巻、217〜25頁
【非特許文献25】Youngら、Blood、2006年、108巻、2509〜2519頁
【非特許文献26】Bacigalupoら、Hematology、2007年、23〜28頁
【非特許文献27】Locasciulliら、Haematologica、2007年、92巻、11〜18頁
【非特許文献28】Gottdienerら、Arch Intern Med、1981年、141巻、758〜763頁
【非特許文献29】Sandersら、Semin Hematol、1991年、28巻、244〜249頁
【非特許文献30】Elhasidら、Leukemiaら、2000年、14巻、931〜934頁
【非特許文献31】Locatelliら、Bone Marrow Transplant、1996年、18巻、1095〜101頁
【発明の概要】
【0009】
本発明は、患者における組織を修復するため、又は、組織若しくは細胞を補充するための再プログラム化細胞の使用に関する。例えば、本発明は、患者における組織を修復するため又は組織若しくは細胞を補充するための、分化又はコミット細胞の逆分化により得られた逆分化細胞の使用に関する。本発明はまた、患者における組織を修復するため、又は、組織若しくは細胞を補充するための、分化又はコミット細胞の分化転換により得られた分化転換細胞の使用に関する。
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本出願は、患者から得られるコミット又は体細胞を、異なる系譜の細胞を結果として生じるように再プログラムすることができ、これらの再プログラム化細胞を患者に投与して組織又は細胞を修復又は補充することができるという出願者らの発見に一部基づいている。再プログラミングの方法の例としては、逆分化及び分化転換などがある。
【0011】
したがって、出願者らは、コミット細胞が、異なる系譜の細胞を結果として生じるように再プログラミングを受け得ることを発見した。例えば、コミット細胞は、逆分化細胞、例えば、多能性幹細胞などのさほど分化していない細胞を結果として生じるように逆分化を受けることができ、これらの逆分化細胞を患者に投与して組織又は細胞を修復又は補充することができる。他の例として、患者から得られるコミット細胞は、分化転換細胞、例えば、コミット細胞と異なる系譜の細胞を結果として生じるように分化転換を受けることができ、これらの分化転換細胞を患者に投与して組織又は細胞を修復又は補充することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、再プログラム化細胞を患者に投与することにより患者における組織又は細胞系譜の細胞を修復又は補充する方法を含む。特に、本発明は、(i)コミット細胞を得る、(ii)コミット細胞を逆分化させて、逆分化標的細胞を得る、及び、(iii)逆分化標的細胞を患者に投与する、を含み、逆分化標的細胞が当該細胞系譜の細胞に再分化して、患者における組織又は細胞系譜の細胞を修復又は補充する方法を含む。これらの再分化細胞は、コミット細胞と同じ細胞系譜のもの又は異なる細胞系譜のものであり得る。
【0013】
本発明はまた、(i)コミット細胞を得るステップ、(ii)コミット細胞を分化転換させて、分化転換標的細胞を得るステップ及び(iii)分化転換標的細胞を患者に投与するステップを含む、患者における組織又は細胞系譜の細胞を修復又は補充する方法を含む。
【0014】
いくつかの実施態様において、患者は、骨髄不全、血液学的疾患、再生不良性貧血、ベータ地中海貧血、糖尿病、運動ニューロン病、パーキンソン病、脊髄損傷、筋ジストロフィー、腎疾患、多発性硬化症、うっ血性心不全、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、頭部外傷、脊髄損傷、肺疾患、うつ病、非閉塞性無精子症、男性更年期、閉経及び不妊症、若返り、強皮症潰瘍、乾癬、しわ、肝硬変、自己免疫疾患、脱毛、網膜色素変性、結晶状ジストロフィー/失明、糖尿病、および不妊症を含むが、これらに限定されない疾患、障害又は病気に罹患していてよい。したがって、いくつかの実施態様において、再プログラム化細胞は、患者における再生不良性貧血、白血病、リンパ腫又はヒト免疫不全ウイルスを治療する骨髄細胞であり得る。
【0015】
いくつかの実施態様において、逆分化細胞、分化転換細胞又は再分化細胞などの再プログラム化標的細胞は、多能性幹細胞、多能性生殖細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、間葉幹細胞、内胚葉及び神経外胚葉幹細胞、生殖細胞、胚外、胚性幹細胞、腎細胞、肺胞上皮細胞、内胚葉細胞、ニューロン、外胚葉細胞、島細胞、腺房細胞、卵母細胞、精子、造血細胞、肝細胞、皮膚/ケラチノサイト、メラノサイト、骨/骨細胞、毛/真皮乳頭細胞、軟骨/軟骨細胞、脂肪細胞(fats cells)/脂肪細胞(adipocytes)、骨格筋細胞、内皮細胞、心筋/心筋細胞及び栄養膜(tropoblasts)を含み得るが、これらに限定されない。
【0016】
特定の実施態様において、コミット細胞を血液又は骨髄を含む関連組織から得る。コミット細胞は、全血から得ることができ、および/又はアフェレーシスにより得ることができる。血液は、動員又は非動員血液であってよい。そのようなコミット細胞は、T細胞、B細胞、好酸球、好塩基球、好中球、巨核球、単球、赤血球、顆粒球、肥満細胞、リンパ球、白血球、血小板及び赤血球を含むが、これらに限定されない。或いは、コミット細胞は、中枢神経系若しくは末梢神経系からのニューロン組織、筋組織、又は皮膚の表皮及び/若しくは真皮組織から得ることができる。
【0017】
特定の実施態様において、コミット細胞を患者の血液又は組織から得る。いくつかの実施態様において、コミット細胞が得られる患者と、逆分化標的細胞又は分化転換標的細胞などの再プログラム化標的細胞が投与される患者は、同じ患者である。
【0018】
いくつかの実施態様において、コミット細胞を作用物質と接触させることにより、コミット細胞を逆分化させる。例えば、コミット細胞を作用物質とともにインキュベートすることができる。特定の実施態様において、作用物質は、コミット細胞の表面における抗原の捕捉、認識又は提示を媒介する受容体に連結する(engage)。受容体は、MHCクラスI抗原又はMHCクラスII抗原であり得る。いくつかの実施態様において、クラスI抗原は、HLA-A受容体、HLA-B受容体、HLA-C受容体、HLA-E受容体、HLA-F受容体又はHLA-G受容体であり、前記クラスII抗原は、HLA-DM受容体、HLA-DP受容体、HLA-DQ受容体又はHLA-DR受容体である。
【0019】
特定の実施態様において、作用物質は、受容体に対するモノクローナル抗体などの、受容体に対する抗体であり得る。いくつかの実施態様において、抗体は、モノクローナル抗体CR3/43又はモノクローナル抗体TAL 1B5である。さらなる実施態様において、作用物質は、MHCクラスI+及び/又はMHCクラスII+発現などのMHC遺伝子発現を調節する。
【0020】
いくつかの実施態様において、逆分化細胞は、個別のステップにおける再分化を受け得る。例えば、逆分化細胞を、塩基性線維芽細胞増殖因子、表皮増殖因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、幹細胞因子、インターロイキン1、3、6及び7、塩基性線維芽細胞増殖因子、表皮増殖因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチン、幹細胞因子並びに骨形成タンパク質を含むが、これらに限定されない成長因子と接触させることにより、逆分化細胞を再分化させることができる。得られた再分化標的細胞は、次に患者に投与することができる。
【0021】
本発明の実施態様において、コミット細胞は、コミット細胞を特定の培養条件で培養することにより分化転換させることができる。例えば、コミット細胞は、特定の種類の培養培地中で逆分化剤とともに培養することができる。これらの培養培地の例としては、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)等がある。組織培養培地は、ビタミン及び/又はミネラル補給剤、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、β-メルカプトエタノール等の分化促進剤も含み得る。さらに、さらなる培養条件は、キレート剤若しくは抗生物質を用いること、特定の温度又は二酸化炭素若しくは酸素レベルで培養すること、及び特定の容器中で培養することを含む。培養条件は、生ずる分化転換標的細胞の種類を決定し得る。
【0022】
本発明の1つの態様は、したがって、標的細胞を得る方法である。方法は、コミット細胞を得ることと、次にコミット細胞を再プログラミングすることとを含み得る。これらの方法は、本願書で記載したである。いくつかの実施形態において、方法は、コミット細胞を逆分化させることを含み得る。他の実施形態において、方法は、コミット細胞を分化転換させるを含み得る。他の実施形態において、方法は、コミット細胞を逆分化させることと、次に逆分化細胞を再分化させることとを含み得る。
【0023】
本発明の他の態様は、患者における組織若しくは細胞系譜の細胞を修復若しくは補充するための、又は疾患若しくは組織損傷を治療するための薬剤の調製における1つ若しくは複数の再プログラム化標的細胞の使用である。
【0024】
本発明のさらに他の態様は、それを必要とする患者における疾患又は組織損傷を治療する方法である。特定の実施形態において、方法は、コミット細胞を得ることと、コミット細胞を再プログラミングして再プログラム化標的細胞を得ることと、再プログラム化標的細胞を患者に投与することとを含む。いくつかの実施態様において、標的細胞は、逆分化、分化転換及び/又は再分化により再プログラムし得る。特定の実施態様において、標的細胞は、逆分化標的細胞、分化転換標的細胞及び/又は再分化標的細胞である。コミット細胞を得る、及びコミット細胞を再プログラミングする過程は、本願書で記載するとおりである。
【0025】
いくつかの実施態様において、逆分化標的細胞、分化転換標的細胞又は再分化標的細胞などの再プログラム化標的細胞は、注射、移植又は注入により投与され得る。これらの細胞は、非経口、筋肉内、静脈内、皮下、眼内、経口、経皮注射又は脊髄液内注射により投与され得る。特定の実施態様において、逆分化標的細胞又は分化転換標的細胞を医薬組成物の状態で投与する。医薬組成物は、逆分化標的細胞又は分化転換標的細胞及び少なくとも1つの医薬として許容可能な賦形剤を含んでいてよい。
【0026】
本発明の1つの態様は、逆分化標的細胞又は分化転換標的細胞などの再プログラム化標的細胞を投与するための医薬組成物である。医薬組成物は、1つ又は複数の種類の標的細胞及び少なくとも1つの医薬として許容可能な担体を含んでいてよい。任意で、医薬組成物は、患者への投与に適するアジュバント及び/又は他の賦形剤を含んでいてよい。
【0027】
本発明の他の態様は、(i)コミット細胞を得ることと、(ii)コミット細胞を再プログラミングして再プログラム化標的細胞を得ることと、(iii)任意で、再プログラム化標的細胞を1つ又は複数の医薬賦形剤と混ぜ合わせるステップとを含む、医薬組成物又は薬剤を調製する方法である。いくつかの実施態様において、再プログラム化標的細胞を1つ又は複数の医薬賦形剤と混ぜ合わせる。他の実施態様において、再プログラム化標的細胞を1つ又は複数の医薬賦形剤と混ぜ合わせない。コミット細胞を得る、及びコミット細胞を再プログラムする方法は、本願書で記載したとおりである。
【0028】
本開示並びに特に特許請求の範囲及び/又はパラグラフにおいて、「含む(comprises)」、「含まれる(comprised)」、「を含む(comprising)」及び同類のものなどの用語は、米国特許法においてそれに割り当てられた意味を有し得るものであり;例えば、それらは、「含む(includes)」「含まれる(included)」、「を含む(including)」及び同類のものの意味を有し得、「実質的に〜からなる(consisting essentially of)」及び「実質的に〜からなる(consists essentially of)」などの用語は、米国特許法においてそれに割り当てられた意味を有し、例えば、それらは、明確に列挙されていない構成要素を考慮に入れるが、先行技術で見いだされる又は本発明の基本的若しくは新規な特徴に影響を及ぼす構成要素を除外することが注意される。
【0029】
これら及び他の実施態様は、以下の詳細な説明により開示され、又はそれから明らかであり、含まれる。
【0030】
例として示すが、述べた特定の実施態様に本発明を単に限定することを意図するものでない以下の詳細な説明は、添付図面と併せて最も十分に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】再プログラミングの誘導の前(上パネル)及び後(下パネル)のアフェレーシスで得た単核細胞の免疫表現型検査を示す図である。細胞は、免疫グロブリンG1(IgG1)イソタイプ対照及びCD34又はCD19それぞれについてR-フィコエリトリン(RPE)Cy-5又はフィコエリトリン(PE)(垂直軸記号)に結合させたモノクローナル抗体で標識した。細胞はまた、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)(水平軸記号)に結合させたCD45、CD38、CD61及びIgG1イソタイプ対照モノクローナル抗体で染色した。下パネルにCD45及びCD19などの白血球成熟マーカーの減少を伴うCD34及びCD34CD38細胞の相対数の増加により示される造血幹細胞の増加を示す。
【図2a】自己HRSCの注入後(1日、2日、3日、6日及び14日後)の重度再生不良貧血患者の末梢血試料の連続免疫表現型検査を示す図である。細胞は、CD34及びCD45(第2の水平パネル)並びにCD34及びCD38(第3の水平パネル)に対するモノクローナル抗体で標識した。一番上の水平パネルは、前方及び側方散乱を示し、自己HRSCのフローサイトメトリー、骨髄スミア及びトレフィン(tehphin)切片である。1日目〜14日目は、顆粒球を示唆する大きい前方及び側方散乱を有する細胞の増加を示し、1日目〜3日目は、循環CD34造血幹細胞の相対数の増加を示す。
【図2b】自己ヒト再プログラム化幹細胞(HRSC)の注入後(1日、2日、3日、6日及び14日後)の重度再生不良貧血患者の末梢血試料の連続免疫表現型検査を示す図である。細胞は、CD34及びCD61(第1の水平パネル)、CD19及びCD3(第2の水平パネル)並びにCD33&13及びCD7(第3の水平パネル)に対するモノクローナル抗体で標識した。FACScanプロットは、CD33&13とCD7を同時発現する細胞の相対数の増加により示されるように、前駆細胞を含むCD33&13を発現する細胞の徐々の増加により示される骨髄系細胞の数の増加を示す。また、CD19及びCD3リンパ球の相対数の増加により示されるように、リンパ球の相対数の徐々の増加があった。
【図3】自己HRSCの注入前及び後の重度再生不良貧血患者の骨髄解析を示す図である。治療の前及び後の骨髄スミア(a及びb)は、赤血球の増加を示し、治療の前及び後のトレフィン(trephine)切片(c及びd)は、骨髄細胞性の増加を示し、HRSCの注入後の骨髄のクローン解析は、コロニー形成単位巨核球(e)、コロニー形成単球(f)、コロニー形成顆粒球及びマクロファージ(g)、並びにコロニー形成骨髄球及び赤血球(h)、並びにバースト形成赤血球(i)の増殖の増大を示す。
【図4】遺伝的異常を示さない自己HRSCの注入の4年後の重度再生不良貧血患者の末梢血試料の核型分析及びg分染法を示す図である。
【図5】自己再プログラム化細胞による治療後の地中海貧血患者における絶対平均胎児性ヘモグロビンレベルの増加を示す図である。
【図6】自己再プログラム化細胞による治療後の地中海貧患者におけるフェムトリットルで表した赤血球の平均サイズを示す平均赤血球容積の増加を示す図である。
【図7】自己再プログラム化細胞による治療後の地中海貧血患者におけるピコグラムで表した赤血球1個当たりのヘモグロビンの重量である平均赤血球ヘモグロビンの増加を示す図である。
【図8】自己再プログラム化細胞による治療後の地中海貧血患者における1ミリリットル当たりのナノグラムで表した血清フェリチンレベルの低下を示す図である。
【図9】自己再プログラム化細胞による治療後の糖尿病を有する患者における空腹時及び混合食摂取後のCペプチドレベルの増加を示す図である。
【図10】自己再プログラム化細胞による治療後の糖尿病患者におけるグリコシル化ヘモグロビン(HbA1C)レベルの低下を示す図である。
【図11】自己再プログラム化細胞による治療後の筋ジストロフィー患者におけるクレアチンホスホキナーゼ(CPK)及び乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)レベルの低下を示す図である。
【図12】自己再プログラム化細胞による治療後の筋ジストロフィー患者における肝酵素アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルの低下を示す図である。
【図13】自己再プログラム化細胞による治療後の腎疾患の12例の患者におけるミクロアルブミン尿レベルの低下を示す図である。
【図14】自己再プログラム化細胞による治療後の糖尿病に起因する腎疾患の12例の患者におけるグリコシル化ヘモグロビン(HbA1C)レベルの低下を示す図である。
【図15a】幹細胞療法後の病変強調の低下を示す、自己再プログラム化細胞による治療の前(左のスキャン)及び3ヵ月後(右のスキャン)の多発性硬化症患者の脳の磁気共鳴画像法(MRI)スキャンを示す図である。
【図15b】自己再プログラム化細胞による治療の前(左のスキャン)及び3ヵ月後(右のスキャン)の患者の脳の異なる部分のMRIスキャンを示す図である。治療前を示すスキャンにおいて、矢印は脳内の病変を示しているが、治療後を示すスキャンにおいて、矢印は病変の改善を示している。
【図16a】自己再プログラム化細胞による治療の前(上のスキャン)及び6ヵ月後(下のスキャン)の多発性硬化症患者の脳の磁気共鳴画像法(MRI)スキャンを示す図である。
【図16b】自己再プログラム化細胞による治療の前(上のスキャン)及び6ヵ月後(下のスキャン)の多発性硬化症患者の脳の追加のMRIスキャンを示す図である。治療前を示すスキャンにおいて、矢印は脳内の病変を示しているが、治療後を示すスキャンにおいて、脳室及び溝の拡大の減少により示されているように、矢印は脳萎縮の減少を伴う病変の改善を示している。
【図17a】自己再プログラム化細胞による治療の前(左のスキャン)及び6ヵ月後(右のスキャン)の多発性硬化症患者の矢状断面磁気共鳴画像法(MRI)スキャンを示す図である。
【図17b】自己再プログラム化細胞による治療の前(左のスキャン)及び6ヵ月後(右のスキャン)の患者の脊髄の横断面MRIスキャンを示す図である。治療前を示すスキャンにおいて、矢印は脊髄上の病変を示しているが、治療後を示すスキャンにおいて、矢印は病変の改善を示している。
【図18a】自己再プログラム化細胞による治療後のC型肝炎に感染した患者における肝酵素アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルの低下を示す図である。
【図18b】自己再プログラム化細胞による治療後のC型肝炎に感染した患者におけるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルの低下を示す図である。
【図19a】自動車事故による頭部外傷を有する患者の脳の磁気共鳴画像法(MRI)スキャンを示す図である。治療前(上のスキャン)に、脳室は、広範な血腫による拡大及び位置ずれを示している。自己再プログラム化細胞による治療後(下のスキャン)に、脳室は、血腫の改善による脳室及び溝の拡大の減少などの脳萎縮パラメーターの低下を示している。
【図19b】治療前(上のスキャン)及び後(下のスキャン)の患者の脳の追加のMRIスキャンを示す図である。
【図20】自己再プログラム化細胞による治療の前(左のX線写真)及び後(右のX線写真)の肺疾患を有する患者の胸部X線写真である。治療後に、患者は、低吸収域の減少により示されるように肺容積の改善及び病変サイズの減少を示している。
【図21】非閉塞性無精子症を有し、自己再プログラム化細胞により治療した患者における卵胞刺激ホルモン(fsh)、黄体化ホルモン(lh)、プロゲステロン(pro)及びテストステロン(test)の性ホルモンレベルを示す図である。レベルは、超音波により測定された精巣サイズの増加(データは示さず)に伴う遊離テストステロンの有意な増加を示している。
【図22】自己再プログラム化細胞による治療の前(上パネル)及び後(下パネル)の視力障害に罹患した患者における網膜感度及び視力障害を示す図である。網膜感度結果において、オレンジ色の部分は、網膜感度の低下を示す。視力障害結果において、白色部分は、正常な視覚を示し、ピンク色、オレンジ色及び黒色部分は、視力障害の増加を示す。治療後に、治療前の網膜感度結果におけるオレンジ色の部分が治療後に緑及び白色になり、治療前の視力障害結果における黒色部分が治療後に白色になったことから、患者は、視野の改善を経験した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
〈定義〉
本願明細書で用いているように、「コミット細胞」は、分化特性を示す細胞である。これらの細胞は、成熟し、特殊化されているとしばしばみなされる。例としては、白血球、赤血球、上皮細胞、ニューロン及び軟骨細胞などがある。
【0033】
本願明細書で用いているように、「非コミット細胞」は、成熟分化特性を示さない細胞である。これらの細胞は、未成熟であるとしばしばみなされ、特殊化されていない。非コミット細胞の一例は、自己再生(無制限の分裂)及び分化(特殊化)の能力がある未成熟細胞である幹細胞である。
【0034】
本願明細書で用いているように、「再プログラミング」は、最初の細胞系譜のコミット細胞が異なる細胞型の細胞に変化させられる過程を意味する。この異なる細胞型は、異なる細胞系譜のものであり得る。再プログラミングは、逆分化、分化転換又は再分化などの過程で起こり得る。
【0035】
本願明細書で用いているように、「再プログラム化細胞」は、コミット細胞の再プログラミングを受けた細胞である。再プログラム化細胞は、逆分化細胞、分化転換細胞及び/又は再分化細胞を含み得る。
【0036】
本願明細書で用いているように、「逆分化」は、コミット細胞、すなわち、成熟特殊化細胞がより原始的な細胞ステージに戻る過程である。「逆分化細胞」は、コミット細胞の逆分化によって生ずる細胞である。
【0037】
本願明細書で用いているように、「分化転換」は、最初の細胞系譜のコミット細胞が異なる細胞型の他の細胞に変化させられる過程である。いくつかの実施態様において、分化転換は、逆分化と再分化の組合せであり得る。「分化転換細胞」は、コミット細胞の分化転換によって生ずる細胞である。例えば、全血細胞などのコミット細胞をニューロンに分化転換させることができる。
【0038】
本願明細書で用いているように、「再分化」は、非コミット細胞又は逆分化細胞がより成熟した特殊化細胞に分化する過程を意味する。「再分化細胞」は、非コミット細胞又は逆分化細胞の再分化によって生ずる細胞である。再分化細胞が逆分化細胞の再分化により得られる場合、再分化細胞は、逆分化を受けたコミット細胞と同じ又は異なる系譜のものであり得る。例えば、白血球などのコミット細胞は、逆分化させて多能性幹細胞などの逆分化細胞を生じさせることができ、次に逆分化細胞を再分化させて、白血球(コミット細胞)と同じ系譜のリンパ球を生じさせるか、又は再分化させて、白血球(コミット細胞)と異なる系譜のニューロンを生じさせることができる。
【0039】
本願明細書で用いているように、「標的細胞」は、組織又は細胞を修復又は補充するために患者への投与のために得られる細胞である。例えば、標的細胞は、逆分化標的細胞又は分化転換標的細胞などの再プログラム化標的細胞であってよく、それにより、逆分化又は分化転換標的細胞が患者に投与される。
【0040】
〈コミット細胞〉
上述のように、本発明のコミット細胞は、分化特性を示す細胞である。コミット細胞は、抗原提示、捕捉又は認識に関連する構成要素を含み得る。例えば、コミット細胞は、MHCクラスI+及び/又はMHCクラスII+細胞であり得る。
【0041】
コミット細胞は、未分化細胞に由来又は未分化細胞から誘導できる細胞であってもよい。したがって、1つの実施態様において、コミット細胞は、未分化細胞でもある。したがって、例として、コミット細胞は、多能性幹細胞と比較して分化しているリンパ系幹細胞又は骨髄系幹細胞であり得る。
【0042】
コミット細胞は、骨髄若しくは臍帯血を含む血液若しくは関連組織、中枢神経系若しくは末梢神経系からのニューロン組織、筋組織、又は皮膚の表皮及び/若しくは真皮組織(すなわち、口内掃爬による)などの生物学的材料由来であり得る。生物学的材料は、生後起源のものであり得る。
【0043】
生物学的材料は、組織の種類に適する当技術分野で公知の方法を用いて得ることができる。例として、切除、針吸引、スワビング及びアフェレーシスを含むが、これらに限定されない。
【0044】
特定の実施形態において、コミット細胞は、全血又は血漿若しくはバフィーコートなどのその処理産物由来であり、その理由は、対象からのそれらの除去を最低限の医学的監督により行うことができるからである。血液試料は、一般的にヘパリン又はクエン酸塩などの抗凝固剤で処理する。生物学的試料中の細胞を処理して、特定の細胞型を富化し、特定の細胞型を除去し、又は組織塊から細胞を解離することができる。細胞を精製し、分離するための有用な方法は、遠心分離(密度勾配遠心分離)、フローサイトメトリー及びアフィニティクロマトグラフィー(細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体を含む磁気ビーズの使用又はパンニングなど)(Vettese-Dadey、The Scientist、1999年、13巻、21頁参照)などである。例として、Ficoll-Hypaque分離は、リンパ球及び単球などの単核細胞を残すために赤血球及び顆粒球を除去するのに有用である。
【0045】
血液から得ることができるコミット細胞の例は、CFC-T細胞、CFC-B細胞、CFC-Eosin細胞、CFC-Bas細胞、CFC-Bas細胞、CFC-GM細胞、CFC-M、CFC-MEG細胞、BFC-E細胞、CFC-E細胞、T細胞、B細胞、好酸球、好塩基球、好中球、単球、巨核球及び赤血球を含むが、これらに限定されない。
【0046】
血液由来のコミット細胞は、特定の抗原のそれらの発現により同定することができる。例えば、B細胞は、CD19+、CD21+、CD22+及びDR+細胞である。T細胞は、CD2+、CD3+、及びCD4+又はCD8+細胞である。未熟リンパ球は、CD4+及びCD8+細胞である。活性化T細胞は、DR+細胞である。ナチュラルキラー細胞(NK)は、CD56+及びCD16+である。Tリンパ球は、CD7+細胞である。白血球は、CD45+細胞である。顆粒球は、CD13+及びCD33+細胞である。単球マクロファージ細胞は、CD14+及びDR+細胞である。
【0047】
特定の実施形態において、コミット細胞は、Bリンパ球(活性化又は非活性化)、Tリンパ球(活性化又は非活性化)、マクロファージ単球系譜の細胞、クラスI若しくはクラスII抗原を発現する能力がある有核細胞、クラスI若しくはクラスII抗原を発現するように誘導することができる細胞又は除核細胞(すなわち、核を含まない細胞-赤血球など)であり得る。
【0048】
代替実施形態において、コミット細胞は、CD56及び/又はCD16細胞表面受容体をそれぞれが発現する、大顆粒リンパ球、ヌルリンパ球及びナチュラルキラー細胞を含む細胞の群のいずれか1つから選択することができる。
【0049】
コミット細胞は本質的に初代培養であるので、生存を維持するための適切な栄養物を細胞の集団に補給することが必要であり得る。適切な培養条件は、当業者に公知である。とはいえ、細胞集団の処理は、患者からの生物学的試料の除去後できる限り速やかに、一般的に12時間以内に、好ましくは2〜4時間以内に開始することが好ましい。細胞の生存は、トリパンブルー排除又はヨウ化プロピジウムなどの周知の手法を用いて確認することができる。
【0050】
〈逆分化細胞〉
逆分化は、再プログラミング過程の一種であり、それにより、細胞の構造及び機能が、より特殊化されていない細胞を生ずるように漸進的に変化する。逆分化は、自然に起こり得るものであり、細胞は、組織損傷に反応してin vivoで限られた逆分化を受け得る。或いは、逆分化は、すべてが参照により本願明細書に組み込まれている、米国出願第08/594,164号、現在米国特許第6,090,625号;米国出願第09/742,520号、現在米国特許第7,112,440号;米国出願第10/140,978号、現在米国特許第7,220,412号;米国出願第10/150,789号、現在米国特許第7,410,773号;米国出願第09/853,188号に記載されている方法を用いて誘導することができる。
【0051】
本発明の逆分化細胞は、多能性幹細胞、リンパ系幹細胞、骨髄系幹細胞、神経幹細胞、骨格筋衛星細胞、上皮幹細胞、内胚葉幹細胞、間葉幹細胞及び胚性幹細胞を含むが、これらに限定されない。
【0052】
特定の実施形態において、コミット細胞は、血液由来であり、造血細胞系譜の逆分化細胞を生ずるように逆分化させる。これらの逆分化細胞の例は、多能性幹細胞、リンパ系幹細胞及び骨髄系幹細胞を含むが、これらに限定されない。
【0053】
コミット細胞は、細胞に作動可能に連結する作用物質と細胞を接触させることによって逆分化させることができる。作用物質により作動可能に連結された細胞が逆分化過程を経て進化し、最終的に未分化の状態になることを可能にするように、細胞をインキュベートする。
【0054】
接触ステップは、作用物質がコミット細胞上の表面抗原と連結することを含み得る。作用物質は、コミット細胞との直接的連結又は間接的連結の状態で作用し得る。直接的連結の例は、コミット細胞が、B細胞上に認められ得るような相同領域(同じ又は類似配列を有することが一般的に認められる領域)を有するβ鎖などのその細胞表面上の少なくとも1つの細胞表面受容体を有する場合であり、作用物質は、細胞表面受容体に直接的に連結する。他の例は、コミット細胞が、T細胞上に認められ得るような相同領域を有するα鎖などのその細胞表面上の細胞表面受容体を有する場合であり、作用物質は、細胞表面受容体に直接的に連結する。
【0055】
間接的連結の例は、コミット細胞がその細胞表面上に少なくとも2つの細胞表面受容体を有し、受容体の1つとの作用物質の連結が他の受容体に影響を及ぼし、次にこれがコミット細胞の逆分化を誘導する場合である。
【0056】
コミット細胞を逆分化させるための作用物質は、化合物又は組成物であり得る。例えば、作用物質は、コミット細胞の表面上の細胞表面受容体に連結する能力を有し得る。特定の実施形態において、作用物質は、コミット細胞の表面上に存在する受容体に作動可能に連結し、コミット細胞により発現されることができる受容体のような、その受容体は、コミット細胞により発現され得る。
【0057】
例えば、作用物質は、1つ若しくは複数のサイクリックアデノシン一リン酸(cAMP)、CD4分子、CD8分子、T細胞受容体の一部若しくはすべて、リガンド(固定若しくは遊離)、ペプチド、T細胞受容体(TCR)、抗体、交差反応性抗体、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を含み得るが、これらに限定されない。造血成長因子、例えば、エリスロポエチン及び顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)などの成長因子も用いることができる。
【0058】
作用物質が抗体、交差反応性抗体、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である場合、作用物質は、次のもののいずれか1つ若しくは複数のものに対する抗体、交差反応性抗体、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれか1つ若しくは複数のものであり得る:MHCクラスII抗原のベータ鎖、MHC HLA-DR抗原のβ鎖、MHCクラスI若しくはクラスII抗原のα鎖、HLA-DR抗原のα鎖、MHCクラスII抗原又はMHCクラスI抗原のα及びβ鎖。抗体の例は、CR3/43(Dakoにより供給される)である。
【0059】
「抗体」という用語は、Fab、F(ab')2及びscFv抗体などの結合活性を保持している種々の断片(タンパク質分解切断又は組換え技術により得られたかどうかにかかわりなく)及び誘導体、並びにその模倣体又は生物学的等価体を含み得る。また、抗体として含まれるものは、結合を増強するためにアミノ酸配列の一部が例えば、アミノ酸残基の置換により修飾された、又は有害な免疫反応の可能性を低減するためにその細胞が本発明の方法により処理することが望まれる生物体に対する抗体が異なる種において調製された(これの例は「ヒト化マウスモノクローナル抗体」である)、遺伝子組換え変異体である。
【0060】
コミット細胞の逆分化細胞への転換を行うために用いる作用物質は、好ましくはコミット細胞の細胞外で作用し得る。例えば、コミット細胞は、作用物質により作動可能に連結できる受容体を含み得、作用物質は、受容体に作動可能に連結する。
【0061】
例えば、受容体は、細胞表面受容体であり得る。細胞表面受容体の特定の例は、MHCクラスI及びクラスII受容体を含むが、これらに限定されない。受容体は、MHCクラスI及びクラスII受容体の場合のように、α成分及び/又はβ成分を含み得る。
【0062】
受容体は、相同領域を有するβ鎖、例えば、少なくともHLA-DRのβ鎖の相同領域を含み得る。
【0063】
或いは、又はさらに、受容体は、相同領域を有するα鎖、例えば、HLA-DRのα鎖の少なくとも相同領域を含み得る。受容体は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)のクラスI又はクラスII抗原であり得る。特定の実施形態において、細胞表面受容体は、HLA-DR受容体、DM受容体、DP受容体、DQ受容体、HLA-A受容体、HLA-B受容体、HLA-C受容体、HLA-E受容体、HLA-F受容体又はHLA-G受容体を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、細胞表面受容体は、HLA-DR受容体であり得る。
【0064】
作用物質は、受容体に対するモノクローナル抗体などの受容体に対する抗体であり得る。
【0065】
作用物質の例は、MHCクラスI+及び/又はMHCクラスII+発現などのMHC遺伝子発現を調節するものであり得る。
【0066】
特定の実施形態において、作用物質は、生体応答調節剤とともに用いることができる。生体応答調節剤の例は、アルキル化剤、免疫調節剤、成長因子、サイトカイン、細胞表面受容体、ホルモン、核酸、ヌクレオチド配列、抗原又はペプチドを含むが、これらに限定されない。例えば、アルキル化剤は、シクロホスファミドであるか、又はそれを含んでいてよい。
【0067】
他の生体応答調節剤は、MHCクラスI及び/又はMHCクラスII抗原の発現を上方制御することができ、いくつかの実施形態において、MHC受容体に結合する作用物質がより効率的に作用することを可能にし得る化合物を含み得る。
【0068】
あらゆる細胞型をMHCクラスI及び/又はMHCクラスII抗原を発現するように作ることができるので、これは、それらがMHCクラスI及び/又はMHCクラスII抗原を構成的に発現するか否かにかかわりなく、様々な細胞型を逆分化させる方法を提供し得る。
【0069】
コミット細胞は、一般的に作用物質とともに少なくとも2時間、一般的に2時間から24時間、好ましくは2時間から12時間インキュベートする。インキュベーションは、一般的にほぼ室温又は例えば約22℃から、33℃を含んで、約37℃までの温度で行う。逆分化処置の進行は、試料の一定分量を除去し、顕微鏡及び/又はフローサイトメトリーを用いて細胞を検査することにより、定期的に確認することができる。或いは、装置は、逆分化処置の進行をオンラインでモニタリングする追跡手段を含み得る。
【0070】
逆分化剤の使用に加えて、コミット細胞は、自己血漿若しくは血清中で、又は胎児血清若しくはウマ血清中で培養することができる。場合によって、コミット細胞は、抗凝固剤、キレート剤又は抗生物質とともに培養することができる。細胞をインキュベートする温度範囲は、18〜40℃に拡大することができ、4〜10%CO2及び/又は10〜35%O2も含み得る。さらに、インキュベーションは、被覆された又は非被覆の血液バッグ、組織培養バッグ又はプラスチック容器中で行うことができる。
【0071】
特定の型の逆分化細胞は、特定の培養条件を用いて逆分化させることによって得ることができる。例えば、コミット細胞をダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、非必須アミノ酸(NEAA)、L-グルタミン(L-glu)及びβ-メルカプトエタノール(2βME)中で逆分化剤とともに培養することにより、コミット細胞を多能性細胞に逆分化させることができる。コミット細胞は、最初にキレート剤に曝露することもできる。
【0072】
他の例として、間葉細胞を得るために、コミット細胞を、DMEM(低グルコース)及びL-glu又はDMEM(低グルコース)、L-glu、2βME及びNEAAを用いて逆分化剤とともに培養することができる。さらに、抗生物質ゲンタマイシンも細胞培養に用いることができる。
【0073】
〈分化転換細胞〉
分化転換細胞は、コミット細胞を逆分化剤とともに組織培養培地を用いて培養することによって得られる。コミット細胞は、それにより分化転換を受け、コミット細胞が他の細胞型の細胞に転換され、いくつかの実施形態において、コミット細胞が異なる系譜の細胞に転換される。
【0074】
分化転換により得られる標的細胞の型は、培養条件に依存する。これらの条件は、組織培養培地の種類、各種分化促進剤の存在/非存在、各種血清の存在/非存在、インキュベーション温度、酸素又は二酸化炭素の存在/非存在及びインキュベーションに用いる容器又は器の種類によって異なる。
【0075】
分化転換に用いる組織培養培地の例は、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イーグル最少必須(EME)培地、アルファ-最少必須培地(α-MEM)、Roswell Park Memorial Institute(RPMI;培地が開発された場所)1640、Ham-F-12、E199、MCDB、レイボヴィッツL-15、ウィリアムE培地又は商業的に製剤化された組織培養培地を含むが、これらに限定されない。
【0076】
分化促進剤は、抗凝固剤、キレート剤及び抗生物質を含む。そのような薬剤の例は、次のものの1つ又は複数のものであり得る:A(レチノール)、B3、C(アスコルビン酸)、アスコルビン酸2-リン酸、D2、D3、K、レチノイン酸、ニコチンアミド、亜鉛又は亜鉛化合物、及びカルシウム又はカルシウム化合物などのビタミン及びミネラル又はそれらの誘導体;ヒドロコルチゾン及びデキサメタゾンなどの天然又は合成ホルモン;L-グルタミン(L-glu)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、プロリン及び非必須アミノ酸(NEAA)などのアミノ酸又はその誘導体;β-メルカプトエタノール、ジブチルサイクリックアデノシン一リン酸(db-cAMP)、モノチオグリセロール(MTG)、プトレシン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒポキサンチン、アデニン、フォルスコリン、シロスタミド及び3-イソブチル-1-メチルキサンチンなどの化合物又はその誘導体;5-アザシチジンなどのヌクレオシド及びその類似体;アスコルビン酸、ピルベート、オカダ酸、リノール酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、抗凝固剤クエン酸デキストロース製剤A(ACDA)、EDTA二ナトリウム、酪酸ナトリウム及びグリセロホスフェートなどの酸又はその塩;G418、ゲンタマイシン、ペントキシフィリン(1-(5-オキソヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン)及びインドメタシンなどの抗生物質又は薬物;並びに組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)などのタンパク質。
【0077】
これらの分化促進剤は、特定の型の標的細胞を得るために用いることができる。例えば、ビタミンB3は、島細胞などの腺房細胞又はヒドロコルチゾンを得るために用いることができ、デキサメタゾンは、間葉起源又は上皮起源(例えば、腎上皮細胞、皮膚及び真皮乳頭細胞などの関連構造)の細胞を得るために用いることができ、β-メルカプトエタノールは、CNSの補助細胞を含む、ニューロン細胞などの外胚葉細胞を得るために用いることができる。
【0078】
培養培地は、自己血漿;血小板;胎児採血などの血清;又はウマ血清などの哺乳類起源の血清を含み得る。さらに、転換過程は、血液バッグ、スカホールド、組織培養バッグ又はプラスチック組織培養容器内で起こり得る。組織培養容器は、付着性若しくは非付着性組織培養容器であってよく、又は調製すべき要求される型の組織若しくは特殊化細胞によって、付着若しくは浮揚を促進するゼラチン、コラーゲン、マトリゲル若しくは細胞外マトリックスなどの物質で被覆されているか、若しくは非被覆であり得る。
【0079】
さらなる培養条件は、約10〜約60℃又は約18〜約40℃であり得る温度;約0〜約20%、又は約4〜約10%であり得る二酸化炭素(CO2)のレベル;及び約0〜約50%、又は約10〜約35%であり得る酸素(O2)を含む。
【0080】
標的細胞を得るため及び逆分化剤と併せて用いる方法の例をTable1(表1)に示す。
【0081】
【表1A】

【0082】
【表1B】

【0083】
【表1C】

【0084】
【表1D】

【0085】
特に、Table1(表1)で各細胞型について述べた培養条件について、対応する培養培地による培養条件のその後の希釈による逆分化剤の使用の中止により、より一層の分化転換がもたらされる。
【0086】
培養中、様々な分化促進剤を任意で含む培養培地を、逆分化剤を含まないより多くの培地の添加により希釈することができる。理論により拘束されるものでないが、細胞は密度がより低くなり、増殖刺激因子は濃度がより低くなるため、希釈によって分化が増大すると思われる。したがって、培地の添加が、分化転換をさらに促進する可能性があり、当該細胞系譜内のどのような型の細胞が得られるかに影響する。例えば、標的細胞がニューロンである場合、培養培地の添加により、ニューロン前駆細胞よりもむしろより成熟したニューロン(両方が同じ系譜内である)への発生の変化がもたらされる。他の例として、前方分化骨格筋前駆細胞は、血清濃度を徐々に低下させることにより達成される培養培地の連続希釈によってのみ分化する。
【0087】
〈再分化細胞〉
逆分化細胞は、逆分化細胞を標的細胞型に再コミット又は再分化させることにより標的細胞を得るのに用いることができる。これは、逆分化細胞を成長因子と接触させることにより行うことができる。例えば、レチノイン酸が幹細胞を神経細胞に分化させるのに用いられている。メチルセルロースとそれに続く骨髄間質系及びIL-7との共培養が幹細胞をリンパ球前駆細胞に分化させるのに用いられている(Nisitaniら、Int Immuno、1994年、6巻、909〜916頁)。Le Page (New Scientist、2000年12月16日)は、幹細胞を肺上皮細胞に分化させることができることを教示している。Bischoff (Dev Biol、1986年、115巻、129〜39頁)は、筋衛星細胞を成熟筋線維にどのようにして分化させるかを教示している。神経前駆細胞は、塩基性線維芽細胞増殖因子及び表皮増殖因子を用いて拡大させることができる(Nakafuku及びNakamura、J Neurosci Res、1995年、41巻、153〜168頁)。造血幹細胞は、GM-CSF、エリスロポエチン、幹細胞因子及びインターロイキン(IL-1、IL-3、IL-6)を含む多くの成長因子を用いて拡大させることができる。これらの様々な因子の総説についてはMetcalf (Nature、1989年、339巻、27〜30頁)を参照。
【0088】
Potocnikら(EMBO J、1994年、13巻、5274〜83頁)は、低酸素(5%)条件を用いた幹細胞の造血細胞への分化さえ示した。
【0089】
再分化細胞は、逆分化細胞が得られたコミット細胞と同じ系譜のものであり得る。或いは、再分化細胞は、逆分化細胞が得られたコミット細胞と異なる系譜のものであり得る。例えば、Bリンパ球は、CD34+CD38-HLA-DR-幹細胞に逆分化させることができる。この幹細胞は、その後、B細胞系譜(同じ系譜)又はリンパ球系譜(異なる系譜)に沿って再分化又は再コミットさせることができる。
【0090】
〈標的細胞〉
本発明の標的細胞は、上述のように逆分化、分化転換又は再分化により得ることができる再プログラム化細胞である。本発明によれば、標的細胞は、多能性幹細胞、リンパ系幹細胞、骨髄系幹細胞、神経幹細胞、骨格筋衛星細胞、上皮幹細胞、内胚葉及び神経外胚葉幹細胞、生殖細胞、非胚性及び胚性幹細胞、間葉幹細胞、腎細胞、肺胞上皮細胞、内胚葉細胞、ニューロン、外胚葉細胞、島細胞、腺房細胞、卵母細胞、精子、造血細胞、肝細胞、皮膚/ケラチノサイト、メラノサイト、骨/骨細胞、毛/真皮乳頭細胞、軟骨/軟骨細胞、脂肪細胞(fat cells)/脂肪細胞(adipocytes)、骨格筋細胞、内皮細胞、心筋/心筋細胞及び栄養膜(tropoblasts)を含み得るが、これらに限定されない。
【0091】
上述のように、コミット細胞及び/又は逆分化細胞を特定の条件下で培養して、逆分化及び/又は分化転換及び/又は再分化を誘導し、標的細胞を得る。コミット細胞及び/又は逆分化細胞を培養する期間は、特定の時間により調節せずに、標的細胞が生成したという判定により調節する。
【0092】
逆分化、分化転換又は再分化標的細胞の生成又は数の変化の判定は、系譜関連マーカー若しくは転写因子の発現を下方制御するコミット細胞の相対数の変化、及び/又は標的細胞に特有の細胞表面マーカーを有する細胞の相対数の変化をモニターすることにより行うことができる。或いは、又はさらに、コミット細胞(標的細胞でない)に特有な細胞表面マーカーを有する細胞の数の減少をモニターすることができる。例えば、標的細胞は、POU5F1(OCT-4)、TERT、KLF4、UTF1、SOX2、Nanogなどの多くのステージ固有のマーカー又はステージ固有の胚性マーカー3及び4(SSEA-3及びSSEA-4)、高分子量糖タンパク質TRA-1-60及びTRA-1-81並びにアルカリホスファターゼによって特徴づけられる胚性幹細胞であり得る(Andrewsら、Hybridoma、1984年、3巻、347〜361頁;Kannagiら、EMBO J、1983年、2巻、2355〜2361頁;Foxら、Dev Biol、1984年、103巻、263〜266頁;Ozawaら、Cell Differ、1985年、16巻、169〜173頁)。それらはまた、存在が分化の指標である、SSEA-1を発現しない。神経上皮幹細胞のNesteinなどの他のマーカーが他の種類の幹細胞について公知である(J Neurosci、985巻、3310頁)。間葉幹細胞は、例えば、SH2、SH3、CD29、CD44、CD71、CD90、CD106、CD120a及びCD124について陽性であり、CD34、CD45及びCD14について陰性である。多能性幹細胞は、CD34+DR-TdT-細胞である(他の有用なマーカーはCD38-及びCD36+である)。リンパ系幹細胞は、DR+、CD34+及びTdT+細胞である(CD38+でもある)。骨髄系幹細胞は、CD34+、DR+、CD13+、CD33+、CD7+及びTdT+細胞である。
【0093】
標的細胞のさらなる細胞マーカーは、マイクロアレイ解析により発見することができる。当解析は、逆分化させ、且つ/又は分化転換させ、且つ/又は再分化させた標的細胞からRNAを単離すること、単離RNAを色素で標識すること、及び単離RNAをマイクロアレイにハイブリダイズさせることを含む。マイクロアレイは、全ゲノムを表す遺伝子若しくはオリゴヌクレオチドを含み得、又は特定の器官系、組織系、疾患、病状等に対し、特異的な遺伝子若しくはオリゴヌクレオチドを含み得る。遺伝子/オリゴヌクレオチドが高いシグナル強度を示し、それにより標的細胞中で上方制御又は下方制御される、細胞マーカーを同定することができる。この情報は、マイクロアレイ解析により同定されたマーカー、又はマーカー群若しくはマーカーパターンの存在に基づいて標的細胞を確定するのに適用することができる。
【0094】
標的細胞の確認は、CFCアッセイなどの多くのin vitroアッセイを用いて実施することもできる(実施例も参照)。非常に原始的な造血幹細胞は、長期培養開始細胞(LTC-IC)アッセイを用いてしばしば測定される(Eavesら、J Tiss Cult Meth、1991年、13巻、55〜62頁)。LTC-ICは、造血を5〜12週間持続させる。
【0095】
中枢神経系、膵臓、肝臓、腎臓、皮膚等の細胞のような他の細胞型については、当技術分野で公知の手法である免疫組織化学、フローサイトメトリー、マイクロアレイ又は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により特徴づけられるような標的細胞が出現するまで、細胞培養が持続し得る。これは、機能アッセイ、例えば、免疫不全宿主への移植又は本願明細書で観察されたような基礎臨床状態の矯正若しくは改善も含み得る。
【0096】
標的細胞は、標的細胞における新たな系譜特異的な転写因子、タンパク質及びシグナルの獲得を示すマイクロアレイ又はRT-PCRにより同定することができる。例えば、外胚葉系譜の標的細胞に転換された逆分化幹細胞は、Nestin、Criptol、isI1、LHX1及び/又はEN1などの遺伝子を発現する可能性があり、ニューロンにさらに分化する場合、神経フィラメント(NF)を発現する。他方で、内胚葉系譜の標的細胞に転換された細胞は、sox7、sox17、Nodal、PDX1及び/又はFOXA2などの遺伝子を発現する可能性があるが、膵島細胞にさらに分化した標的細胞は、インスリン(INS)及びneurog3(NGN3)などの遺伝子を発現し得る。特に、所望の標的細胞への転換は、転換を受けた最初の開始集団に関連する成熟転写因子の下方制御を伴う可能性がある。
【0097】
さらに、標的細胞の生成の確認は、標的細胞の特定の構造的及び/又は形態学的特性、例えば、細胞の形状、大きさ等を認識することにより見いだされ得る。これらの特性は、本発明の標的細胞について当技術分野で公知である。
【0098】
所望の細胞型の相対数が、例えば、低くて0.1%又は高くて5%であり得る、適切なレベルに増加したならば、得られた改変細胞集団を多くの方法で用いることができる。生成した標的細胞、例えば、多能性幹細胞の数に関して、幹細胞の増殖能力を認識することが重要である。ある種の状況下で、生成した幹細胞又は他の逆分化細胞の数が低いと思われることがあり得るが、わずか50個の多能性造血幹細胞がドナーマウスにおける全造血系を再構成し得ることが試験で示された。したがって、治療上の有用性は、多数の細胞の形成を必要としない。
【0099】
コミット細胞の逆分化、分化転換又は再分化標的細胞への転換は、患者への医薬として許容される担体又は希釈剤と混合した作用物質の投与によってin vivoでも行うことができる。しかし、多くの場合、逆分化、分化転換又は再分化をin vitro/ex vivoで行うことが好ましい。
【0100】
in vitroで得られた細胞の処理集団は、最小限の処理でその後用いることができる。例えば、それらは、医薬として許容される担体又は希釈剤と単に混合し、幹細胞を必要とする患者に投与することができる。
【0101】
しかし、逆分化、分化転換又は再分化標的細胞の細胞集団を富化すること或いは細胞集団から細胞を精製することが望ましいことがあり得る。これは、好都合には多くの方法を用いて行うことができる(Vettese-Dadey--The Scientist、1999年、13巻参照)。例えば、細胞は、クロマトグラフィー及び/又はフローサイトメトリーを用いて細胞表面マーカーに基づいて精製することができる。それにもかかわらず、集団に存在する他の細胞(例えば、間質細胞)が幹細胞の生存及び機能を維持する可能性があるので、逆分化、分化転換又は再分化標的細胞を細胞集団から広範に精製することは、しばしば必要でも望ましくもない。
【0102】
フローサイトメトリーは、混合集団内の細胞を特徴づけるため並びに細胞を選別するために、十分に確立され、信頼でき、且つ強力な手法である。したがって、精製又は単離手段は、フローサイトメーターを含み得る。フローサイトメトリーは、光線で問い合せるとき識別することができる、懸濁液中の粒子の物理的特性に基づいて作動する。そのような粒子は、もちろん細胞であり得る。物理的特性は、細胞の大きさ及び構造又は、近年非常に一般的になった、蛍光分子に結合させたモノクローナル抗体により結合された細胞表面マーカーを含む。
【0103】
Kreissegら(J Hematother、1994年、3巻、263〜89頁)は、「抗CD34モノクローナル抗体が入手できるため、多パラメーターフローサイトメトリーが造血幹及び前駆細胞の測定のための最適なツールになった」と述べている。Kreissegは、フローサイトメトリーによるCD34発現細胞の定量化及び特徴づけのための一般的な手法をさらに述べている。さらに、Korblingら(Bone Marrow Transplant、1994年、13巻、649〜54頁)は、免疫吸着とそれに続くHLA-DR発現に基づくフローサイトメトリーによるCD34+細胞の精製を教示している。上述のように、CD34+は、幹細胞/前駆細胞に関連する有用なマーカーである。他の物理的特性に基づいて幹細胞を選別するためのフローサイトメトリー技術も利用できる。例えば、Visserら(Blood Cells、1980年、6巻、391〜407頁)は、幹細胞は、それらのサイズ及び構造化(structuredness)の程度に基づいて単離することができることを教示している。Groganら(Blood Cells、1980年、6巻、625〜44頁)も「生存幹細胞は、単純造血組織から高及び検証可能純度で選別することができる」ことを教示している。
【0104】
細胞表面マーカー又は他の物理的特性の存在に基づいて細胞を選択すること(正の選択)と同様に、細胞集団は、負の基準を用いて富化し、精製することができる。例えば、CD4、CD8、CD42及びCD3などの系譜特異的マーカーを有する細胞は、フローサイトメトリー又はアフィニティクロマトグラフィーにより細胞集団から除去することができる。
【0105】
細胞を精製する非常に有用な技術は、磁気ビーズに結合させた抗体又は他のアフィニティリガンドの使用を含む。ビーズを細胞集団とともにインキュベートし、アフィニティリガンドが結合するCD34などの細胞表面マーカーを有する細胞を捕捉する。細胞を含む試料管を、ビーズが管の側面に誘引される磁気試料濃縮装置に入れる。1回又は複数回の洗浄段階の後、対象の細胞が他の細胞から部分的又は実質的に完全に精製される。負の選択方式で用いる場合、液相を捨てることによりビーズに結合した細胞を洗浄する代わりに、液相を保持し、その後、ビーズに結合した細胞を細胞集団から効率的に除去する。
【0106】
これらのアフィニティリガンドに基づく精製方法は、適切なマーカーが特徴づけられた又は特徴づけられ得る細胞型について用いることができる。Urbankovaら(J Chromatogr B Biomed Appl、1996年、687巻、449〜52頁)は、重力場流動分画によるマウス骨髄懸濁液からの造血幹細胞のミクロ調製法を教示している。Urbankovaらはさらに、幹細胞が骨髄中の他の細胞より大きく、したがって、それらを混合物から分離することが可能であるため、この方法をマウス骨髄からの幹細胞の特徴づけに用いたことをコメントしている。したがって、細胞表面マーカー以外の物理的パラメーターを幹細胞を精製/富化するために用いることができる。
【0107】
本発明の方法により生成した逆分化、分化転換若しくは再分化標的細胞などの再プログラム化標的細胞及び/又は逆分化、分化転換若しくは再分化標的細胞などの精製再プログラム化標的細胞を含む細胞集団は、公知の技術を用いてin vitroで維持することができる。一般的に、細胞に適切な増殖環境を与えるためにFBSなどの哺乳類血清、及び任意でで自己血漿を添加した、ハンクス、RPMI 1640、ダルベッコ最少必須培地(DMEM)又はイスコフ改変ダルベッコ培地などの最少増殖培地を用いる。幹細胞は、間質細胞の層などのフィーダー層上で培養することができる(Deryuginaら、Crit Rev Immunology、1993年、13巻、115〜150頁参照)。間質細胞は、前駆細胞を未分化状態に維持する因子を分泌すると考えられている。幹細胞用の長期培養システムは、Dexterら(J Cell Physiol、1977年、91巻、335頁)及びDexterら(Acta Haematol、1979年、62巻、299頁)により記載されている。
【0108】
例えば、Lebkowskiら(Transplantation、1992年、53巻、1011〜9頁)は、ヒトCD34+造血細胞は、ポリスチレン表面上に共有結合により固定化されたモノクローナル抗体の使用に基づく技術を用いて精製することができること、及びこの方法により精製されたCD34+細胞は、85%を超える生存率で維持することができることを教示している。Lebkowskiら(J Hematother、1993年、2巻、339〜42頁)はまた、ヒトCD34+細胞をどのようにして単離し、培養するかを教示している。各種方法の総説についてはHaylockら(Immunomethods、1994年、5巻、217〜25頁)も参照のこと。
【0109】
幹細胞を含む細胞集団及び幹細胞を含む精製調製物は、将来の使用に備えて凍結/凍結保存することができる。細胞を凍結し、その後それらを復活させるための適切な技術は、当技術分野で公知である。
【0110】
1つの態様において、逆分化、分化転換又は再分化は、バフィーコート血液試料からの又はバフィーコート血液試料中の細胞に起こる。「バフィーコート」という用語は、未凝固血液を遠心分離又は放置したときに赤血球の層と血漿の層の間に生ずる白血球の層を指す。
【0111】
〈治療の方法〉
逆分化標的細胞、分化転換標的細胞又は再分化標的細胞などの本発明の再プログラム化標的細胞は、本発明の組成物を製造するために様々な成分と混合することができる。組成物は、医薬組成物(ヒト又は動物に使用するためのものであり得る)を製造するために1つ又は複数の医薬として許容される担体又は希釈剤と混合することができる。適切な担体及び希釈剤は、等張性生理食塩溶液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水を含むが、これに限定されない。本発明の組成物は、直接注射により投与することができる。組成物は、非経口、筋肉内、静脈内、皮下、眼内、経口、経皮投与、又は脊髄液内注射用に製剤化することができる。
【0112】
標的細胞を含む組成物は、注射又は移植により送達することができる。細胞は、懸濁液で又は天然及び/若しくは合成生分解性マトリックスなどの支持マトリックスに埋め込んで送達することができる。天然マトリックスは、コラーゲンマトリックスを含むが、これに限定されない。合成生分解性マトリックスは、ポリ無水物及びポリ乳酸を含むが、これらに限定されない。これらのマトリックスは、in vivoでの脆弱な細胞の支持体となり得る。
【0113】
組成物は、本発明の逆分化、分化転換又は再分化標的細胞、及び少なくとも1つの医薬として許容される賦形剤、担体又は媒体も含み得る。
【0114】
送達は、制御送達によるものであってよい、すなわち、数分から数時間又は数日までであり得るある一定の期間にわたって送達することもできる。送達は、全身的(例えば、静脈内注射による)であるか、又は対象の特定の部位に導くものであってよい。細胞は、リポソーム輸送を用いてin vivoで導入することができる。
【0115】
標的細胞は、1kg当たり1x105〜1x107個の細胞の用量で投与することができる。例えば、70kgの患者には組織の再構成のために14x106個のCD34+細胞を投与することができる。用量は、本願書で示した標的細胞のいずれかの組合せであり得る。
【0116】
本発明の方法は、様々な疾患、状態又は障害を治療するために用いることができる。そのような状態は、骨髄不全、血液学的疾患、再生不良性貧血、ベータ地中海貧血、糖尿病、運動ニューロン病、パーキンソン病、脊髄損傷、筋ジストロフィー、腎疾患、肝疾患、多発性硬化症、うっ血性心不全、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、頭部外傷、肺疾患、うつ病、非閉塞性無精子症、男性更年期、閉経及び不妊症、若返り、強皮症潰瘍、乾癬、しわ、肝硬変、自己免疫疾患、脱毛、網膜色素変性、結晶状ジストロフィー/失明又は組織変性に関連する障害を含むが、これらに限定されない。
【0117】
再生不良性貧血は、汎血球減少と骨髄細胞減少を特徴とする、まれであるが、致命的骨髄障害である(Youngら、Blood、2006年、108巻、2509〜2519頁)。この障害は、骨髄不全としたがって造血機能障害につながる、Th1サイトカイン、特に造血幹細胞区画を標的とするγ-インターフェロンを発現する活性化I型細胞傷害性T細胞による免疫媒介性病態生理によって引き起こされ得る(Bacigalupoら、Hematology、2007年、23〜28頁)。このアプローチを高齢患者又は家族ドナーを欠く患者に拡大することは依然として大きな課題であるが、大多数の再生不良性貧血患者は、HLA適合同胞から得られる幹細胞の移植により治療することができる(Locasciulliら、Haematologica、2007年、92巻、11〜18頁)。HLA適合同種幹細胞移植後の妥当な生存率にもかかわらず、この処置は、移植片対宿主病(GVDH)を予防するために用いられる免疫抑制療法に起因するいくつかの潜在的リスクを有する。例えば、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)を含む又は含まない高用量シクロホスファミドは、長期の免疫抑制をもたらし、患者に日和見感染が生ずる可能性を増大させる。他の潜在的リスクは、幹細胞移植後に数週間又は数ヵ月続く可能性がある移植不全である(Gottdienerら、Arch Intern Med、1981年、141巻、758〜763頁;Sandersら、Semin Hematol、1991年、28巻、244〜249頁)。さらに、移植不全のリスクは、幹細胞移植の前に受けた輸血の回数とともに増大する。
【0118】
地中海貧血は、ヘモグロビンを構成するグロブリン鎖の1つの合成率の低下を特徴とする遺伝性常染色体劣性血液疾患である。したがって、調節遺伝子の突然変異にしばしば起因する正常グロブリンタンパク質の産生不足があり、これが、異常なヘモグロビン分子の形成をもたらし、貧血を引き起こす。異なる種類の地中海貧血は、それぞれアルファグロブリン、ベータグロブリン及びデルタグロブリンの産生に影響を及ぼす、アルファ地中海貧血、ベータ地中海貧血及びデルタ地中海貧血を含む。治療法は、慢性輸血、鉄キレート化、脾臓摘出術及び同種造血細胞移植などである。しかし、慢性輸血は、HLA適合骨髄ドナーの欠如のため、ほとんどの患者に利用可能でなく、一方、同種造血細胞移植は、感染及び移植片対宿主病などの多くの合併症の可能性を伴う。
【0119】
糖尿病は、異常に高い血糖値(高血糖)をもたらす症候群である。糖尿病は、体内のインスリン分泌又はインスリン作用の欠損に起因する高血糖値をもたらす疾患群を指す。糖尿病は、一般的に2つの類型、すなわち、インスリンの産生の減少を特徴とする1型糖尿病又はインスリンの作用に対する抵抗を特徴とする2型糖尿病に分けられる。両方の型が、糖尿病に一般的に関連する症状、例えば、過度の尿の産生、結果として生じる代償的口渇及び液体摂取の増加、視力障害、説明のつかない体重減少、嗜眠並びにエネルギー代謝の変化を主として引き起こす高血糖をもたらす。糖尿病は、療法のない慢性疾患とみなされている。治療選択肢は、インスリン注射、運動、適切な食事、又は2型糖尿病を有する患者については、いくつかの薬物療法、例えば、膵臓によるインスリン分泌を促進する、肝臓により産生されるグルコースを減少させる、インスリンに対する細胞の感受性を増大させる等の薬物療法に限られている。
【0120】
運動ニューロン病は、運動ニューロンを侵す神経障害の群を指す。そのような疾患は、筋委縮側索硬化症(ALS)、原発性側索硬化症(PLS)及び進行性筋委縮症(PMA)を含む。ALSは、筋への伝達を停止させ、それらの衰弱と最終的な委縮をもたらす、上位及び下位運動ニューロンの両方の変性を特徴とする。PLSは、平衡困難、脚の衰弱及び硬直、攣縮並びに会話障害を引き起こす、上位運動ニューロンのみを侵すまれな運動ニューロン病である。PMAは、筋委縮、線維束性収縮及び衰弱を引き起こし得る、下位運動ニューロンのみを侵すALSのサブタイプである。運動ニューロン病に対する公知の療法は存在しない。ALSの影響を改善するよりもむしろ進行を減速させるが、運動ニューロンの損傷を減少させると考えられている、リルゾールがALS用の薬物として承認された。PLSについては、攣縮を低減させ得るバクロフェン又は痙攣を低減させ得るキニーネなどの療法のみが症状に対応できる。
【0121】
パーキンソン病(PD)は、黒質内のドーパミン作動性ニューロンの変性に起因する黒質線条体路の喪失を特徴とする神経変性障害である。PDの原因は、不明であるが、運動障害を含む、ドーパミン作動性(チロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性)中脳ニューロンの進行性の死に関連する。したがって、PDは、筋固縮、振戦、運動緩慢及び潜在的に無動を特徴とする。したがって、現在のところパーキンソン病の十分な療法又はパーキンソン病若しくはその症状を予防若しくは治療するための治療法は存在しない。疾患関連運動障害の対症療法は、ジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)の経口投与を含み、運動機能の実質的な改善をもたらし得るが、その効果はドーパミン作動性ニューロンの変性が進行するにつれて低下する。代替戦略は、線条体内に移植された細胞から供給されるドーパミンが失われた黒質線条体細胞の代わりをし得るという着想に基づく神経移植、及びL-DOPAの役割を担う酵素を導入すること、又はTH陽性ニューロンが死ぬことを防ぐ若しくは損傷した黒質線条体系における再生及び機能回復を刺激する可能性がある潜在的神経保護分子を導入することによるなどのドーパミン合成により、罹患線条体におけるドーパミンを補充するために用いることができる遺伝子治療を含む。
【0122】
脊髄損傷は、損傷部位の下の一部若しくはすべての筋又は神経の障害をもたらす、脊髄及び特に神経線維の損傷を特徴とする。そのような損傷は、1つ若しくは複数の椎骨を骨折させ、脱臼させ、破砕し、若しくは圧迫する脊椎の外傷により、又は関節炎、癌、炎症若しくは椎間板変性により引き起こされる非外傷性損傷により起こり得る。脊髄損傷後の療法は、神経細胞の損傷を減少させ、損傷部位の炎症を低減するコルチコステロイドであるメチルプレドニゾロンなどの薬物療法又は疼痛及び筋攣縮を制御する薬物療法、並びに脊椎の固定化又は脱出した椎間板若しくは脊椎を損傷させている可能性がある物体を除去するための手術を含み得るが、脊髄の損傷を逆転させる公知の手段は存在しない。
【0123】
筋ジストロフィー(MD)は、骨格筋を衰弱させる一連の遺伝性筋疾患である。MDは、進行性筋衰弱、筋タンパク質の欠損、筋細胞のアポトーシス及び組織委縮を特徴とし得る。特に9つの疾患、すなわち、デュシェン型、ベッカー型、肢帯型、先天性、顔面肩甲上腕型、筋強直性、眼球咽頭型、遠位型及びエメリードレフュス型はMDと分類されているが、MDの特性を示す疾患は100種以上存在する。MDに対する公知の療法は存在せず、特異的療法も存在しない。理学療法は、筋緊張を維持する可能性があり、手術は、生活の質を改善するために用いることができる。さらに、筋強直のような症状は、薬物により治療することができるが、長期の療法は存在しない。
【0124】
腎疾患は、腎臓に損傷を与え、血液からの廃棄物及び過剰な水の除去、電解質、血圧、酸塩基平衡の調節並びにグルコース及びアミノ酸の再吸収を含む、機能を果たす腎臓の能力を低下させる状態を指す。他の原因は腎臓における糸球体腎炎、ループス並びに奇形及び閉塞などであるが、腎疾患の2つの主な原因は、糖尿病及び高血圧である。腎疾患に対する療法は存在せず、したがって、療法は、血糖及び高血圧を制御し、食事をモニタリングすることなどにより、疾患の進行を遅くし、疾患の原因を治療すること;例えば、体液貯留、貧血、骨疾患に対処することにより、疾患の合併症を治療すること;透析又は移植などにより、失われた腎機能を補うことに焦点を合わせる。
【0125】
多発性硬化症は、免疫系が中枢神経系を攻撃して、脱髄をもたらす、自己免疫状態である。MSは、身体自体の免疫系がニューロン軸索を包む髄鞘を攻撃し、損傷を与えるので、脳及び脊髄における神経細胞が互いに連絡する能力を侵す。髄鞘が失われるとき、軸索は、シグナルをもはや効果的に伝達することができない。これは、通常、身体及び認識障害に進行する様々な神経症状につながり得る。MSに対する公知の療法は存在せず、治療は、発作(MS症状の突然の発症又は悪化)の後に機能を回復し、新たな発作を予防し、障害を予防することを試みるものである。例えば、コルチコステロイドによる治療は、発作を終了させる助けとなり得るが、最初の発作時のインターフェロンによる治療は、臨床的MSが発展する可能性を低減することが示された。
【0126】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、免疫系が機能しなくなり始める状態である、後天性免疫不全症候群(AIDS)をもたらし得るレンチウイルスである。HIVは、Tヘルパー細胞、マクロファージ及び樹状細胞などのヒト免疫系における不可欠な細胞に主として感染する。HIV感染は、感染細胞の直接的なウイルスによる殺滅により、感染細胞のアポトーシスの率の増加により、又は感染細胞を認識するCD8細胞傷害性リンパ球による感染CD4+T細胞の殺滅により、CD4+T細胞の低いレベルをもたらす。現在、HIV又はAIDSに対するワクチンも療法も存在しない。HIV感染の治療は、高度に活性な抗レトロウイルス療法、すなわちHAARTからなる。現在のHAARTオプションは、少なくとも2種類の抗レトロウイルス薬の少なくとも3剤からなる配合剤(又は「カクテル」)である。一般的に、これらのクラスは、2つのヌクレオシド類似体逆転写酵素阻害剤(NARTI又はNRTI)プラスプロテアーゼ阻害剤又は非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)である。
【0127】
うっ血性心不全は、心臓が身体の他の器官に十分な血液を送り出すことができない状態を指す。この状態は、冠動脈疾患、心筋梗塞により引き起こされる心臓上の瘢痕組織、高血圧、心臓弁膜症、心臓欠陥及び心臓弁感染に起因し得る。治療プログラムは、一般的に安静、適切な食事、日常活動の変更、及びアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ベータ遮断薬、ジギタリス、利尿薬、血管拡張薬などの薬物からなる。しかし、治療プログラムは、心臓の損傷又は状態を逆転させない。
【0128】
C型肝炎は、C型肝炎ウイルスにより引き起こされる肝臓における感染症である。C型肝炎は、瘢痕化(線維症)及び高度瘢痕化(硬変)に進行し得る。硬変は、肝不全及び肝臓癌などの他の合併症をもたらし得る。現在の療法は、ペグ化インターフェロンアルファ及び抗ウイルス薬リバビリンの合剤の使用を含む。成功率は、ウイルスの遺伝子型によって50〜80%の範囲で変化し得る。
【0129】
頭部外傷は、脳の損傷を引き起こす可能性がある又は可能性がない頭部の外傷を指す。頭部外傷の一般的原因は、交通事故、家内及び業務事故、転倒並びに襲撃を含む。頭蓋の骨折、頭皮の裂傷、硬膜下血腫(硬膜の下の出血)、硬膜外血腫(硬膜と頭蓋骨の間の出血)、脳挫傷(脳の打撲)、脳震盪(外傷による機能の一時的な喪失)、昏睡又は死亡などの様々な種類の問題が頭部外傷により生じ得る。頭部外傷の治療は、外傷の種類によって異なる。脳が損傷している場合、それを修復する速やかな手段は存在せず、しばしば損傷が利用可能な治療手段では不可逆性となり得る。
【0130】
肺疾患は、肺、胸腔、気管支、気管、上気道並びに呼吸のための神経及び筋を含む、呼吸器系の疾患の広義語である。肺疾患の例としては、気管支が狭くなる閉塞性肺疾患;肺がコンプライアンスを失い、不完全な肺拡張及び肺の硬化の増大を引き起こす、拘束性又は線維性肺疾患;一般的な感冒又は肺炎により引き起こされ得る、気道感染;癌により引き起こされるものなどの呼吸器腫瘍;胸腔疾患;及び肺循環に影響を与える肺血管疾患などがある。肺疾患の治療法は、疾患の種類によって異なるが、コルチコステロイド及び抗生物質などの薬物療法、酸素、機械的人工換気、放射線療法及び手術を含み得る。
【0131】
うつ病は、低い自負心及び通常楽しめる活動での興味や喜びの喪失を伴う低い気分状態を特徴とする精神障害である。生物学的には、うつ病は、セロトニンの源である脳幹上部の小さい核の群である縫線核;睡眠/覚醒サイクルなどの生物学的リズムを制御する視交差上核;種々のストレッサーに対する身体の反応時に活性化される構造の連鎖である視床下部-下垂体-副腎軸;脳の「報酬」回路に関与するとみなされている腹側被蓋領域;報酬、笑い、喜び、耽溺及び恐怖に役割を果たすと考えられる側坐核;並びに否定的な経験により活性化される前帯状皮質を含む脳の複数の部位における活性の変化を伴う。うつ病の療法は、脳内の細胞外セロトニンの量を増加させる抗うつ薬、運動及び心理療法である。しかし、これらの療法の有効性は、疑問視され続けている。
【0132】
非閉塞性無精子症は、精子形成に関連する問題に起因して精液中に測定可能なレベルの精子を有さない男性の病的状態である。これは、ホルモンの不均衡によってしばしば引き起こされ、その不均衡を回復させる薬物を用いて治療することができる。
【0133】
男性更年期は、テストステロン及びデヒドロエピアンドロステロンのホルモンの産生の減少に関係する中年男性で経験される閉経様の状態である。療法は、ホルモン補充療法及び運動を含む。
【0134】
強皮症は、結合組織に影響を及ぼす慢性自己免疫疾患である。皮膚の硬化は、全身の結合組織に影響を及ぼし得るが、当疾患の最も明らかな徴候である。強皮症に対する公知の療法は存在しない。
【0135】
乾癬は、皮膚に出現する赤色の落屑性斑を引き起こす慢性自己免疫疾患である。その原因は、乾癬であり、皮膚細胞の過剰な増殖に関連する。1つの仮説は、真皮に移動し、皮膚細胞の速やかな産生を誘導するサイトカインの放出を誘発するT細胞に関連づけられることを示唆している。乾癬の療法は、T細胞を標的とする薬物を含む。
【0136】
網膜色素変性は、光受容器又は網膜色素上皮が異常であり、失明をもたらす進行性網膜ジストロフィーの一種である。網膜色素変性を治療するための療法は、限られている。
【0137】
本願明細書で述べた状態は、標的細胞の特定の型又は型の組合せを用いて治療することができる。好ましい実施形態において、本願明細書で述べた疾患は、Table 2(表2)に概要を示す細胞型の注入により治療することができる。
【0138】
【表2】

【0139】
例として、患者は、以下のステップにより上述のような状態について治療することができる。
1)フィステルカニューレを患者の腕に挿入する;
2) COBE(登録商標)Spectra Device(Gambro PCT)などの自動システムを用いてアフェレーシスにより白血球を採取する;
3)自己逆分化幹細胞を患者の白血球から生成させる;
4)自己逆分化幹細胞を洗浄し、次いで、患者に静脈内注入する;
5)血液検査の実施及び損傷部位の評価を含め、患者の経過をモニターする。
【0140】
本発明は、本発明をさらに例示し、本発明の範囲を限定するものでもなく、限定すると解釈すべきでもない、以下の非限定的な実施例によりさらに説明することとする。
【0141】
〈実施例〉
〈実施例1〉
〈材料及び方法〉
この臨床試験では、再生不良性貧血を有する4例の患者への造血誘導培養条件に曝露した後の自己3時間再プログラム化細胞の1回量の注入の安全性を評価した。
【0142】
この臨床試験は、King Edward Memorial(KEM)病院の倫理委員会により承認され、Institute of Immunohematology(IIH)と共同で実施された。患者は、Table 3(表3)に概説する基準を満たすことが要求された。結果として、重度(3例の男性)及び低形成(1例の女性)貧血を有する4例の患者が試験に登録された。これらの4例の患者は、IIH/KEMスタッフにより選択され、モニターされた。患者の臨床及び治療歴をTable 4(表4)に記載し、一方それらのCD34+細胞注入量をTable 5(表5)に示す。
【0143】
【表3】

【0144】
患者に8g/dl超のヘモグロビンレベル及び50000超の血小板数を維持するために2単位の照射済み濃厚赤血球及び4単位の血小板数を輸注した。Cobe Spectraアフェレーシス装置及び白血球分離キット(両方をGambro BCTから入手)を用いて患者の総血液量の2〜3倍を処理することにより、患者にアフェレーシスを施した。アフェレーシスは、静脈アクセス用の単腔カテーテルを用いた頚及び肘前静脈カテーテル挿入を必要とした。
【0145】
150〜200mlのバフィーコートの採取後にCD34の分析のために一定分量の細胞を無菌的に採取した。その後、バフィーコートを造血誘導培養条件下で再プログラミングに供した。手短かに述べると、再プログラミング処置には30mlのイスコフ改変培地で希釈した1000μgの精製CR3/43(TriStem Corp.向けにDakoCytomationにより特別に調製された)の白血球バッグ中への無菌的添加を必要とした。次いで、バッグを37℃及び5%CO2に維持した無菌組織培養インキュベーター中で3時間インキュベートした。再プログラミング工程の完了後、転換細胞をCD34+細胞含量について分析した。その後、細胞をcobe細胞プロセッサ2991を用いて生理食塩溶液で2回洗浄した。撹拌し、生理食塩溶液に再懸濁した後、細胞懸濁液を、注入セットを用いて重力下で頸静脈を介して患者に注入した。自己再プログラム化細胞の注入前及び後に患者のCBC数を含むバイタルサインを連続的にモニターした。
【0146】
【表4】

【0147】
すべての臨床モニタリングは、IIH/KEMスタッフにより行われた。輸注の必要性は、いずれかの単位の血液製剤の投与後に得られた輸注記録から注入の前及び後に判断した。輸注単位は、患者及び証人としての親族から同意を得た後にのみ用いる。患者に輸注する前に、すべての血液製剤をTata Memorial病院で照射した。患者に再プログラム化細胞の注入の前及び後に患者の健康状態に関する質問もした。すべての患者が患者の状態並びにすべての臨床検査及び臨床フォローアップのコピー又は原簿を所持していた。これらの患者のモニタリングの期間は、最初は2年間に設定したが、延長した。注入後最初の1ヵ月間は、患者を病院内の滅菌陽圧室内に滞在させた。
【0148】
【表5】

【0149】
100万個の細胞をモノクローナル抗体の以下のパネル(すべてDakoCytomation製)で製造業者の指示に従って染色した。
イソタイプ陰性対照IgG1-FITC、IgG1-PE-Cy5及びIgG1-RPEコンジュゲートからなるパネル1
抗ヒトCD45-FITC及びCD34-RPE-Cy5からなるパネル2
抗ヒトCD38-FITC及びCD34-RPE-Cy5からなるパネル3
CD61-FITC及びCD34-RPE-Cy5からなるパネル4
CD33/13RPE及びCD7-FITCからなるパネル5
CD45及びグリコフォリン-A-RPEからなるパネル6
CD3-FITC及びCD19-RPEからなるパネル7
【0150】
細胞の解析は、BD cell Questソフトウエアを用いてFACSCaliberシステム(BD bioscience)で実施した。
【0151】
クローンアッセイのために、再プログラム化細胞の注入の前後の患者の骨髄単核細胞(MNC)を、製造業者の指示(Stem Cell Technologies)に従って組換え成長因子を添加したmethocult GFH4434中に播種した。造血細胞コロニーへの分化を位相差倒立顕微鏡法を用いて経時的に評価し、採点した。
【0152】
患者のCBC、肝酵素及びヘモグロビン変異体を処置の前及び後に連続的にモニターした。病院から退院後に、患者、CBC、肝酵素及びヘモグロビン変異体並びに末梢血核型分析及びG分染が再確認の目的のために独立施設によりモニターされた。これらの試験は、自己再プログラム化細胞の注入後に頻繁に実施された。
【0153】
末梢血試料及び骨髄細胞は、自己再プログラム化細胞の注入の前及び後に解析した。この試験は、最初の年は6ヵ月間隔で、自己再プログラム化幹細胞療法の開始後2年以後は年1回繰り返した。さらに、再プログラム化細胞を注入の前に細胞の安定性を調べるために解析したが、これは、3時間の転換ステップの後、並びに転換細胞の最長1ヵ月の長期培養の確立後にも実施した。核型分析及びG分染は、第3の独立施設によりモニターされた。
【0154】
骨髄スミア及びトレフィン切片は、自己再プログラム化細胞の注入の前及び後に実施した。この試験は、自己再プログラム化細胞の注入後14〜20日に、その後は年1回実施した。
【0155】
再プログラム化細胞の注入の前及び後にカムコーダに接続した顕微鏡を用いてすべてのスミア及びトレフィン切片をスキャンして、生着の記録を評価し、保持した。
【0156】
〈結果〉
すべての患者がアフェレーシス及び単回再プログラム化細胞注入処置に耐え、有害事象はなかった。患者A及び患者Dは、再プログラム化造血幹細胞(RHSC)の単回注入後に輸血非依存性になった(表6及び7参照)。血小板、好中球及び赤血球の生着が患者A及び患者Dにおいてそれぞれ注入の3及び6日後に起こった。胎児性ヘモグロビンスイッチングが患者A及び患者Dに認められた(表4及び5参照)が、患者B及び患者Cには認められなかった(データは示さず)。注入前、HCV陰性であった(ELISAにより測定したとき)にもかかわらず肝酵素が患者A及び患者Dで上昇した。肝酵素は、RHSCの注入後に正常化し始め、RHSCの注入4年後に正常レベルに達した。患者B及び患者Cは、それぞれ注入2年後及び6ヵ月後に死亡した。胎児性Hbスイッチングが患者001及び004に認められた(表6及び7参照)。これらの2例の患者は、自己HRSCの単回注入後に長期の生着を示した。
【0157】
【表6】

【0158】
【表7】

【0159】
造血再プログラミングの誘導の前及び3時間後にアフェレーシスで得た単核細胞のフローサイトメトリーを図1に示す。造血再プログラミングの後に発生したCD34陽性細胞の数をTable 4(表4)に示す。造血再プログラミングの前及び後にアフェレーシスで得た単核細胞の代表的なフローサイトメトリーは、CD45、CD38及びCD7の発現を伴う及び伴わないCD34陽性細胞の数の有意な増加を示している(図1)。注入後、CD34細胞は、末梢血を3〜6日間循環し、その後、前方及び側方の高散乱を有するCD7を含む又は含まないCD33&13を発現する細胞の有意な増加により示された(図2参照)ように持続可能なレベルで骨髄球に分化した。再プログラミングのこのパターンは、すべての患者で認められた。
【0160】
メチルセルロース細胞培養への播種後の自己HRSCの注入前の患者骨髄穿刺液からほとんどコロニーは形成しなかった(図3参照)。低形成貧血に罹患していた患者Bにおけるクローンアッセイのみが造血の抑制を示した。しかし、注入の14日〜20日後に患者から得られたすべての骨髄穿刺液は、赤血球バースト形成細胞(BFU-赤血球)の数がわずかに上昇した正常範囲の様々な造血コロニーを生じさせた。自己HRSCの注入の14〜20日後の骨髄スミア及びトレフィン切片(図3参照)は、ベースラインと比較してすべての患者で成熟及び未熟巨核球を含む様々な分化段階の骨髄球の数の有意な増加を示した。様々な分化段階の赤血球の過形成もすべての試料で認められた。
【0161】
すべての患者における自己HRSCの注入の前及び後(患者A及び患者D最長4年間を超えて)に得られた末梢血又は骨髄試料中の核型分析及びG分染パターンの変化はなかった(図4参照)。
【0162】
再生不良性貧血患者への自己HRSCの注入後、原始(CD38陰性)及びコミット(CD38陽性)CD34細胞は、骨髄球への再プログラミングの前に3日間末梢循環を循環した(図2)。骨髄系細胞の生着は、患者A、患者B及び患者DにおいてHRSCの注入の3日後に起こった。他方で、フローサイトメトリーにより解析したとき患者003では骨髄系細胞の生着が20日目に起こった。前条件づけ処置なしにHRSCの単回注入により、再生不良性貧血を有する4例の患者のうちの2例の長期生着がもたらされる。患者A及び患者Bは、HRSCの注入後に輸血なしに長期生着を示した。そのような患者における好中球、赤血球及び血小板の生着は、HbFスイッチング又はHbFヘモグロビンレベルの増加を伴っていた(表6及び7参照)。これは、死亡した他の2例の患者では認められなかった。これらの2例の患者におけるHbFスイッチングは、注入HRSCの若年性Hb表現型への再プログラミング能力と、したがって、臍帯血幹細胞移植について認められたような生着及び再構成(Elhasidら、Leukemiaら、2000年、14巻、931〜934頁;Locatelliら、Bone Marrow Transplant、1996年、18巻、1095〜101頁)を確認するものである。
【0163】
染色体数及び分染の保存を伴う長期生着は、クローン発生が従来の療法によってはまれな事象ではない血液学的疾患におけるHRSCの注入の安全性を明確に反映するものである。
【0164】
重要なことに、自己HRSCは、同系幹細胞について認められたのと同様に、免疫抑制療法の使用なしで重度再生不良性貧血患者の一部における長期生着及び生存率の能力があった。
【0165】
要約すると、注入の14日後に、注入患者の骨髄の解析により、骨髄細胞性並びに様々な分化段階の骨髄細胞、赤血球及び巨核球系譜の増加と重度再生不良性貧血の優勢な占有物である脂肪細胞及び間質細胞の減少が示された。骨髄中の赤血球量の有意な増加とヘモグロビンレベル並びに網状赤血球数の対応する増加があった。注入後に胎児性ヘモグロビン--鎌状赤血球貧血及びベータ地中海貧血の改善における重要な成分--並びに胎児性ヘモグロビン発現赤血球の着実な増加もあった。さらに、赤血球サイズ、ヘモグロビン含量及び濃度によって決定される赤血球指数の有意な改善があった。再プログラム化細胞は、注入後に正常な核型及び遺伝的安定性を示した。最後に、生着及び長期再増殖が再生不良性貧血に罹患したさらに3例の患者で認められた。
【0166】
〈実施例2〉
〈材料及び方法〉
自己再プログラム化造血細胞(標的細胞)を、ベータ地中海貧血を有する21例の患者において試験した。19例の患者が重症型ベータ地中海貧血を有し、2例が中等症型ベータ地中海貧血を有していた。中等症型ベータ地中海貧血患者の1例が地中海貧血/Hb E変異体(極東及びインド系の患者に一般的)を有し、他の患者が地中海貧血/鎌状赤血球貧血を有していた。
【0167】
患者の総血液量の2〜3倍を処理することにより、患者にアフェレーシスを施した。上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が得られるまで、白血球を再プログラミングすることにより自己再プログラム化細胞を得た。頸動脈又は腕若しくは大腿の静脈への静脈内注入により、患者に自己再プログラム化細胞を投与した。
【0168】
〈結果〉
ベースラインと比較したとき、バイタルサインモニタリング、心エコー図、骨密度、核型分析及びG分染を含む肝及び腎酵素により測定したときベータ地中海貧血を有する患者における再プログラム化細胞の注入後に毒性又は有害な副作用は認められなかった。ベースラインと比較したとき、再プログラム化細胞の注入の現在ほぼ9ヵ月後に重症型ベータ地中海貧血患者における輸血の必要性の統計的に有意な平均低下(50%)があった。中等症型ベータ地中海貧血である2例の地中海貧血患者(1例は地中海貧血/Hb Eで、他は地中海貧血/鎌状赤血球貧血)は、再プログラム化細胞の注入の現在ほぼ9ヵ月後に輸血非依存性である。
【0169】
再プログラム化細胞の注入後の平均体重及び身長は、ベースラインと比較したとき有意に大きく、脾臓及び/又は肝臓の腫脹を有する患者の臓器サイズは正常化された。絶対平均胎児性ヘモグロビン濃度は、ベースラインと比較したとき再プログラム化細胞の注入後に重症型及び中等症型地中海貧血を有する患者で有意に増加した(図5)。また、赤血球サイズ、ヘモグロビン含量(図6)及び濃度(図7)の改善を反映する平均赤血球指数もベースラインと比較して有意に改善した。
【0170】
最後に、平均血清フェリチン(鉄過剰負荷のバイオマーカー)は、再プログラム化細胞の注入後に地中海貧血患者で有意に低下した(図8)。鉄過剰負荷は、地中海貧血、鎌状赤血球貧血及び移植鉄過剰負荷誘発性障害を有する患者における死亡及び罹患の主要な原因である。
【0171】
〈実施例3〉
〈材料及び方法〉
患者の総血液量の2〜3倍を処理することにより、糖尿病を有する2例の患者にアフェレーシスを施した。上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が発生するまで、アフェレーシスされた白血球を再プログラミングすることにより、自己再プログラム化間葉幹細胞、多能性幹細胞及び島細胞(標的細胞)を得た。頸動脈又は腕若しくは大腿の静脈への静脈内注入により、患者に自己再プログラム化細胞を投与した。
【0172】
〈結果〉
自己再プログラム化細胞の注入後、空腹時及び90分食物摂取刺激Cペプチドにより測定したとき、患者は正常レベルのインスリンを合成していた。この正常レベルのCペプチドは、再プログラム化細胞の注入後3ヵ月まで維持されている(図9)。さらに、血糖制御を示すHbA1Cレベルは、再プログラム化細胞の注入後に正常化した(図10)。例えば、注入前に10%を超えるHbA1Cを有していた患者は、再プログラム化細胞の投与を受けた後、今や5.8%のHbA1Cを有している。さらに、これらの患者の血糖値は、ベースラインと比較したとき注入後に正常レベルに達したように思われる。さらに、糖尿病患者によるインスリン摂取/注射の劇的な減少が再プログラム化細胞の注入後に認められた。
【0173】
〈実施例4〉
〈材料及び方法〉
筋委縮側索硬化症(ALS)を有する4例の患者が自己再プログラム化細胞の投与を受けた。この疾患の診断は、特定のバイオマーカーを含まない。この疾患は、他の類似の障害の臨床的除外により診断される。
【0174】
患者の総血液量の2〜3倍を処理することにより、患者にアフェレーシスを施した。上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が発生するまで、アフェレーシスされた白血球を再プログラミングすることにより、自己再プログラム化多能性幹細胞、肺胞上皮細胞及びニューロン(標的細胞)を得た。頸動脈又は腕若しくは大腿の静脈への静脈内注入により、患者に自己再プログラム化細胞を投与した。
【0175】
〈結果〉
ALSに罹患し、自己再プログラム化細胞を投与した患者において、肺機能試験(PFT)の有意な改善があった。この肺機能試験における機能障害は、早期の死亡につながる原因の1つである。大部分の患者が四肢及び頸部のこわばりがより少ないことを経験し、一部が発語の改善を報告した。他の患者は、歩行能力並びに頭の持ち上げの改善を示した。
【0176】
〈実施例5〉
〈材料及び方法〉
患者の総血液量の2〜3倍を処理することにより、パーキンソン病を有する4例の患者にアフェレーシスを施した。上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が発生するまで、アフェレーシスされた白血球を再プログラミングすることにより、自己再プログラム化多能性幹細胞及びニューロン(標的細胞)を得た。頸動脈又は腕若しくは大腿の静脈への静脈内注入により、患者に自己再プログラム化細胞を投与した。
【0177】
〈結果〉
疾患の震え作用が顕著である患者は、震え及びこの障害を管理するために用いられた従来の薬物の有意な減少を経験したことが顕著である。第1の患者は毎日4錠のシネメット(Sinemet)(ドーパミン調節剤)を服用していたが、注入の4ヵ月後には1日1錠のみを服用している。
【0178】
〈実施例6〉
〈材料及び方法〉
患者の総血液量の2〜3倍を処理することにより、脊髄損傷を有する2例の患者にアフェレーシスを施した。上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が発生するまで、アフェレーシスされた白血球を再プログラミングすることにより、自己逆分化多能性幹細胞及びニューロン(標的細胞)を得た。頸動脈又は腕若しくは大腿の静脈への静脈内注入により、患者に自己再プログラム化細胞を投与した。
【0179】
結果
1例の患者は、追跡不能であった。他の患者は、C5〜C6脊髄損傷により四肢麻痺であった。この患者は、起き上がることもベッドで胴部を回転させることもできなかった。治療後、彼は非常に長時間にわたり背部を伸ばして座ることができ、ベッドで体を回転させることができた。彼は壁に体を押しつけた後に一人で立つこともできた。さらに、彼はつま先を小刻みに動かすことができ、膀胱の感覚を報告している。
【0180】
再プログラム化細胞の注入の前及び後のMRI解析により、再プログラム化細胞の注入の後の病変サイズのわずかな減少が示された。彼は積極的に理学療法を受け始め、以前より概してはるかに良好であると感じた。
【0181】
〈実施例7〉
〈材料及び方法〉
筋ジストロフィー(MD)を有する2例の患者を、上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が発生するまで、アフェレーシスされた白血球を再プログラミングすることにより得られた自己再プログラム化多能性幹細胞、間葉幹細胞及び骨格筋細胞(標的細胞)により治療した。第1の患者は、最も著しく侵されている筋が一般的に股関節及び肩の筋であるMDの一種である帯肢型MDで苦しんでおり、第2の患者は、ネメリン型(nemelin) MDで苦しんでいた。
【0182】
患者の総血液量の2〜3倍を処理することにより、患者にアフェレーシスを施した。自己再プログラム化細胞は、本発明により再プログラミングすることにより得られた。頸動脈又は腕若しくは大腿の静脈への静脈内注入により、患者に自己再プログラム化細胞を投与した。
【0183】
結果
MDに関連する筋委縮は、筋酵素クレアチンホスホキナーゼ(CPK)のレベルをモニターすることにより測定することができる。この酵素は、逆分化幹細胞の注入に反応して減少した(図11)。組織の分解時に上昇する酵素である乳酸デヒドロゲナーゼも減少した(図11)。患者は、両方が肝臓細胞並びに骨格筋の炎症及び損傷に関連する肝酵素アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の減少も経験した。
【0184】
さらに、患者は、再プログラム化細胞の注入前及び後の患者のカメラの記録によって決定される患者の可動性並びにベースラインと比較したときの再プログラム化細胞の注入後の肺機能試験での改善を示した。
【0185】
〈実施例8〉
腎疾患を有する患者を、上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が発生するまで、アフェレーシスされた白血球を再プログラミングすることにより得られた自己再プログラム化多能性幹細胞、間葉幹細胞及び腎臓細胞(標的細胞)により治療した。患者の総血液量の2〜3倍を処理することにより、患者にアフェレーシスを施した。自己再プログラム化細胞は、本発明により再プログラミングすることにより得られた。頸動脈又は腕若しくは大腿の静脈への静脈内注入により、患者に自己再プログラム化細胞を投与した。
【0186】
〈結果〉
自己再プログラム化細胞の注入を受けた患者は、尿量、血清クレアチニン及びBUN又はUREAなどのより健康な腎機能を示唆していた種々の体液マーカーレベルの改善を経験した。例えば、75歳の糖尿男性病患者は、自己再プログラム化細胞による治療の24ヵ月後に腎機能の改善を示した(表8参照)。患者は、酸素を運ぶ赤血球中のタンパク質分子であるヘモグロビン及び成長因子であるインスリン様成長因子1(IGF-1)のレベルの増加を示した。患者は、有機化合物である尿素、筋中のクレアチンリン酸の分解生成物であるクレアチニン、尿中に排泄される有機化合物である尿酸及び骨中に見いだされる鉱物であるリンの減少も示した。これらのマーカーの高い量は、不良な腎機能を示す。さらに、患者は、ヘモグロビンの一形態であり、糖尿病に罹患している人の血漿グルコース濃度の指標として一般的に用いられているグリコシル化ヘモグロビン(HbA1C)の減少を示した。
【0187】
同様に、51歳の糖尿病男性は、治療の12ヵ月後に同様な改善を示した(表8参照)。この患者は、ヘモグロビンのレベルの増加並びにクレアチニン、HbA1C、及び尿素の形の血液中の窒素の量の測定値である血中尿素窒素(BUN)のレベルの低下を示した。
【0188】
【表8】

【0189】
II型糖尿病を有し、自己再プログラム化細胞により治療した12例の患者の解析により、尿中へのアルブミンの漏れに関連し、腎疾患並びに血管内皮機能不全及び心血管疾患の指標である、ミクロアルブミンのレベルの低下が明らかになった(図13)。12例の患者は、HbA1Cのレベルの低下も経験した(図14)。
【0190】
さらに、自己免疫性糸球体腎炎に罹患した45歳の女性が自己再プログラム化細胞による治療後18ヵ月以内に腎機能の改善を示した(Table 9(表9)参照)。
【0191】
【表9】

【0192】
さらに、末期腎疾患に罹患した59歳の女性患者が再プログラム化細胞による治療後にクレアチニンレベル、尿素、ヘモグロビンレベル及び副甲状腺ホルモン(PHT)の改善を示した(表10参照)。自己免疫に罹患している45歳の女性患者における腎機能マーカーレベル。この患者はまた、1ヵ月当たり彼女が参加した血液透析セッションの回数を12セッションから約8セッションに減少させた。
【0193】
【表10】

【0194】
糖尿病に起因する慢性腎不全に罹患した46歳の患者も再プログラム化細胞により治療後にクレアチニンレベル、尿素及びヘモグロビンレベルの改善を示した(表11参照)。患者は、1ヵ月当たり彼が参加した血液透析セッションの回数を12セッションから約5セッションに減少させ、皮下に送達したエポエチンアルファ(EPREX(登録商標))による治療を週2回4000単位から2週ごとに1回4000単位に減少させた。
【0195】
【表11】

【0196】
〈実施例9〉
〈材料及び方法〉
多発性硬化症を有する患者を自己再プログラム化多能性幹細胞、間葉幹細胞及びニューロン(標的細胞)により治療した。標的細胞は、上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が発生するまで、アフェレーシスされた白血球を再プログラミングすることにより得た。患者の総血液量の2〜3倍を処理することにより、患者にアフェレーシスを施した。自己再プログラム化細胞は、本発明により再プログラミングすることにより得られた。頸動脈又は腕若しくは大腿の静脈への静脈内注入により、患者に自己再プログラム化細胞を投与した。
【0197】
〈結果〉
自己再プログラム化細胞により治療した患者は、脳及び脊髄における病変の減少を示した。病変の減少は治療を受けてから3ヵ月以内に起こり得る(図15a〜b)。脳組織の損傷の減少は、6ヵ月以内に起こった(図16a〜b)。
【0198】
自己再プログラム化細胞により治療した患者は、脊髄病変の除去も示した(図17a〜b)。さらに、これらの患者は、Kurtzke総合障害度評価尺度(EDSS)スコアの改善を示し、寛解を示し、単回注入を受けて以来4年まで従来の療法に参加しなかった。
【0199】
〈実施例10〉
〈材料及び方法〉
HIVを有する女性患者を自己再プログラム化造血幹細胞により治療した。彼女の総血液量の2〜3倍を処理することにより、患者にアフェレーシスを施した。標的細胞は、上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が発生するまで、アフェレーシスされた白血球を再プログラミングすることにより得た。頸動脈又は腕若しくは大腿の静脈への静脈内注入により、患者に自己再プログラム化細胞を投与した。
【0200】
〈結果〉
治療前には、HIV-1及びHIV-2抗体についてのスクリーニング試験により、3.68の試験値が示された。1.0又はそれ以上の値は、陽性であるとみなされる。
【0201】
自己再プログラム化細胞による治療の2ヵ月後に、HIV-1及びHIV-2抗体スクリーニングの試験値は、0.46であり、これは、患者がHIV-1及びHIV-2について陽性結果を示さなかったことを示すものであった。治療後6ヵ月目に、HIV-1及びHIV-2抗体スクリーニングの試験値は、患者がHIVについて陽性結果を示さなかったことをさらに示す0.48であった。
【0202】
〈実施例11〉
自己再プログラム化細胞による治療の効果は、他の状態及び疾患に罹患している患者において示されている。本願明細書で示した標的細胞は、上述のようにそれらの識別特性により示されるような標的細胞が発生するまで、アフェレーシスされた白血球を再プログラミングすることにより得た。
【0203】
うっ血性心不全
うっ血性心不全に罹患した61歳の男性患者に自己再プログラム化心筋細胞、多能性幹細胞、間葉幹細胞及び内皮細胞を注入した。治療は、駆出分画(EF);冠動脈疾患に関連する予測因子である脳ナトリウム利尿ペプチド前駆体レベル(Pro BNP);空腹時血糖値;及びHbA1Cレベルの改善をもたらした表12参照)。さらに、以前に拡張した心臓は、心エコー図により測定したとき左室拡張終期径(LVID/D)、左室収縮終期径(LVID/S)及び拡張終期心室中隔厚(IVSD)の減少によりTable 12(表12)において明らかなように正常に戻った。
【0204】
【表12】

【0205】
〈C型肝炎〉
C型肝炎ウイルス(HCV)に感染し、ベータ地中海貧血を有する13例の患者に自己再プログラム化造血細胞、多能性幹細胞、間葉幹細胞及び肝細胞を注入した。治療の効果は、HCV負荷の低下又はクリアランス(表1)参照)並びに肝酵素、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、国際標準率(血液凝固に関する)などの血液マーカーの改善(表14参照)を示した。特に、患者は、両方が肝臓細胞の炎症及び損傷に関連する肝酵素アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の正常化を経験した(図18a〜b)。
【0206】
【表13】

【0207】
【表14】

【0208】
例えば、C型肝炎ウイルス感染に起因した肝硬変に罹患した44歳の男性患者も肝酵素アラニンアミノトランスフェラーゼ及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、国際標準率(血液凝固に関する)、ビリルビン及びアルブミン並びにランダム血糖の改善を示した(表15参照)。実際、この患者は、再プログラム化細胞による治療の前にアルブミン療法を受けていたが、治療後にはアルブミンの投与を受けなかった。
【0209】
【表15】

【0210】
〈頭部外傷〉
自動車事故による頭部外傷に罹患した患者を自己再プログラム化多能性幹細胞及びニューロンの注入により治療した。治療は、損傷脳組織の修復(図19a〜b)、駆出分画(EF);冠動脈疾患に関連する予測因子である脳ナトリウム利尿ペプチド前駆体レベル(Pro BNP);空腹時血糖値;及びHbA1Cレベルの改善をもたらした(表10参照)。
【0211】
〈肺疾患〉
運動ニューロン病に関連する拘束性肺疾患に罹患した患者を自己再プログラム化多能性幹細胞、間葉幹細胞、肺胞上皮細胞及び内皮細胞の注入により治療した。治療後6ヵ月目に、十分な吸気の後に強制的に吐き出すことができる空気の容積である努力吸気肺活量(FVC)が50%から71%に増加し、一方、1秒に強制的に吐き出すことができる空気の容積である1秒努力呼気容量(FEV1)が64%から68%に増加した。さらに、健常成人で約75〜80%であるFEV1とFVCとの比が100%から82%に低下した。肺のX線スキャンは、治療後の肺腔におけるより低い不透明度を示している(図20)。
【0212】
〈更年期〉
閉経期にある51歳の患者に自己再プログラム化多能性幹細胞、多能性生殖細胞及び卵母細胞を注入により投与した。治療後、患者は、インスリン様成長因子1(IGF-1)、エストラジオール(esterdiaol)及び低密度リポタンパク質(LDL)を含む種々のホルモン及びタンパク質レベルの増加を経験した(表16参照)。
【0213】
【表16】

【0214】
〈うつ病〉
うつ病に罹患した患者を自己再プログラム化多能性幹細胞及びニューロンの注入により治療した。治療後、患者は、インスリン様成長因子1(IGF-1)、コルチゾール及びテストステロンを含む種々のホルモン及びタンパク質レベルの増加を経験した(表17参照)。
【0215】
【表17】

【0216】
〈非閉塞性無精子症〉
非閉塞性無精子症に罹患した患者を自己再プログラム化多能性幹細胞、多能性生殖細胞及び精子の注入により治療した。治療後、患者は、8ヵ月の期間にわたりテストステロンの増加を経験した(図21)。
【0217】
視力障害
除去された良性腫瘍に起因した視力障害に罹患した患者を自己再プログラム化多能性幹細胞及びニューロンの注入により治療した。治療後、患者は、網膜感度の増大及び視力の改善を経験した(図22)。
【0218】
本発明の好ましい実施形態を詳細に述べたが、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、その多くの明らかな変形形態が可能であるので、上のパラグラフにより明示した本発明は上の記述で示した特定の詳細に限定されないことを理解すべきである。
【図3a】

【図3b】

【図3c】

【図3d】

【図3e】

【図3f】

【図3g】

【図3h】

【図3i】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)第1の細胞系譜のコミット細胞を得ることと、(ii)前記コミット細胞を再プログラミングして、再プログラム化細胞を得ることと、(iii)前記再プログラム化細胞を患者に投与することとを含む、患者における組織又は細胞系譜の細胞を補充する方法。
【請求項2】
前記患者が骨髄不全、血液学的疾患、再生不良性貧血、ベータ地中海貧血、運動ニューロン病、パーキンソン病、脊髄損傷、筋ジストロフィー、腎疾患、多発性硬化症、うっ血性心不全、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、頭部外傷、脊髄損傷、肺疾患、うつ病、非閉塞性無精子症、男性更年期、更年期及び不妊症、若返り、強皮症潰瘍、乾癬、しわ、肝硬変、自己免疫疾患、脱毛、網膜色素変性、結晶状ジストロフィー/失明、糖尿病、肝硬変並びに不妊症からなる群から選択される疾患又は障害に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記再プログラム化細胞が多能性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、間葉幹細胞、内胚葉及び神経外胚葉幹細胞、生殖細胞、胚外、胚性幹細胞、腎細胞、肺胞上皮細胞、肺胞内胚葉細胞、ニューロン、外胚葉細胞、島細胞、腺房細胞、卵母細胞、精子、肝細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、骨細胞、真皮乳頭細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、内皮細胞、心筋細胞及び栄養膜からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コミット細胞を全血、骨髄、神経組織、筋組織、表皮又は真皮から得る、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コミット細胞を全血から得る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記コミット細胞をアフェレーシスにより得る、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コミット細胞を動員又は非動員血液から得る、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記コミット細胞がT細胞、B細胞、好酸球、好塩基球、好中球、巨核球、単球、赤血球、顆粒球、肥満細胞、リンパ球、白血球、血小板及び赤血球からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記再プログラミングがコミット細胞の逆分化、分化転換、再分化又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記再プログラミングが逆分化細胞を得るための前記コミット細胞の逆分化を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記コミット細胞を作用物質と接触させることにより前記コミット細胞を逆分化させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記コミット細胞を前記作用物質とともにインキュベートする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記作用物質が前記コミット細胞の表面における抗原の捕捉、認識又は提示を媒介する受容体に連結する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記受容体がMHCクラスI抗原又はMHCクラスII抗原である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記作用物質が前記受容体に対する抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記作用物質が前記受容体に対するモノクローナル抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体がモノクローナル抗体CR3/43及びモノクローナル抗体TAL 1B5からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記逆分化細胞を注射又は移植により投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記逆分化細胞を非経口、筋肉内、静脈内、皮下、眼内、経口、経皮注射又は脊髄液内注射により投与する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記再プログラミングが分化転換細胞を得るための前記コミット細胞の分化転換を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項21】
前記コミット細胞を、1つ又は複数の逆分化剤及び1つ又は複数の分化促進剤を含む組織培養培地中で培養することにより、前記コミット細胞を分化転換させる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記組織培養培地がイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イーグル最少必須(EME)培地、アルファ-最少必須培地(α-MEM)、Roswell Park Memorial Institute(RPMI;培地が開発された場所)1640、Ham-F-12、E199、MCDB、レイボヴィッツL-15、ウィリアムE培地又は商業的に利用可能な培養培地からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記分化促進剤が抗凝固剤、キレート剤又は抗生物質である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記分化促進剤がビタミン、ミネラル又はそれらの誘導体である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記ビタミン、ミネラル又はそれらの誘導体がビタミンA、ビタミンB3、ビタミンC、ビタミンD3、ビタミンK、レチノイン酸、ニコチンアミド、亜鉛又は亜鉛化合物、及びカルシウム又はカルシウム化合物からなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記分化促進剤が天然又は合成ホルモンである、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記天然又は合成ホルモンがヒドロコルチゾン又はデキサメタゾンである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記分化促進剤がアミノ酸又はその誘導体である、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記アミノ酸又はその誘導体がL-グルタミン(L-glu)、エルゴチオネイン(EGT)、プロリン及び非必須アミノ酸(NEAA)からなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記分化促進剤が化合物又はその誘導体である、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記化合物又はその誘導体がβ-メルカプトエタノール、ジブチルサイクリックアデノシン一リン酸(db-cAMP)、モノチオグリセロール(MTG)、プトレシン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒポキサンチン、アデニン、フォルスコリン、シロスタミド及び3-イソブチル-1-メチルキサンチンからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記分化促進剤がヌクレオシド又はその類似体である、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
前記ヌクレオシド又はその類似体が5-アザシチジンである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記分化促進剤が酸又はその塩である、請求項21に記載の方法。
【請求項35】
前記酸又はその塩がアスコルビン酸、ピルベート、オカダ酸、リノール酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTA二ナトリウム、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、抗凝固剤クエン酸デキストロース製剤A(ACDA)、酪酸ナトリウム及びグリセロホスフェートからなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記分化促進剤が抗生物質又は薬物である、請求項21に記載の方法。
【請求項37】
前記抗生物質又は薬物がG418、ゲンタマイシン、ペントキシフィリン(1-(5-オキソヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン)及びインドメタシンからなる群から選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記分化促進剤がタンパク質である、請求項21に記載の方法。
【請求項39】
前記タンパク質が組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記組織培養培地が自己血漿、血小板、血清又は哺乳類起源の血清を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞を血液バッグ、スカホールド、組織培養バッグ又はプラスチック組織培養容器中で培養する、請求項21に記載の方法。
【請求項42】
前記組織培養容器が付着性若しくは非付着性組織培養容器である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記組織培養容器が被覆されているか、又は非被覆である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記組織培養容器が、ゼラチン、コラーゲン、マトリゲル又は細胞外マトリックスからなる群から選択される物質で被覆されている、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記細胞を約18〜約40℃の温度で培養する、請求項21に記載の方法。
【請求項46】
前記細胞を約4〜約10%の二酸化炭素レベルで培養する、請求項21に記載の方法。
【請求項47】
前記細胞を約10〜約35%の酸素レベルで培養する、請求項21に記載の方法。
【請求項48】
(i)コミット細胞を得ることと、(ii)前記コミット細胞を再プログラミングして、再プログラム化標的細胞を得ることと、(iii)前記再プログラム化標的細胞を前記患者に投与することとを含む、それを必要とする患者における疾患又は組織損傷を治療する方法。
【請求項49】
前記標的細胞を医薬組成物の状態で投与する、請求項1から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
請求項49に記載の医薬組成物。
【請求項51】
患者における組織若しくは細胞系譜の細胞を修復若しくは補充するため、又は疾患若しくは組織損傷を治療するための薬剤若しくは医薬組成物の調製における1つ若しくは複数の再プログラム化標的細胞の使用。
【請求項52】
(i)第1の細胞系譜のコミット細胞を得ることと、(ii)前記コミット細胞を再プログラミングすること、再プログラム化標的細胞を得ることを含む、それを必要とする患者に投与するための再プログラム化標的細胞を得る方法。
【請求項53】
請求項52に記載の方法により得られる再プログラム化標的細胞、及び少なくとも1つの医薬として許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項54】
(i)第1の細胞系譜のコミット細胞を得ることと、(ii)前記コミット細胞を再プログラミングして再プログラム化標的細胞を得ることと、(iii)任意で、前記再プログラム化標的細胞を1つ又は複数の医薬賦形剤と混ぜ合わせることとを含む、それを必要とする患者に投与するための薬剤又は医薬組成物を調製する方法。
【請求項55】
請求項54に記載の方法により調製される医薬組成物。

【図4】
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【図15a】
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【図15b】
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【図17a】
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【図17b】
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【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16a】
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【図16b】
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【図18a】
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【図18b】
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【図19a】
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【図19b】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2013−508343(P2013−508343A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534757(P2012−534757)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051396
【国際公開番号】WO2011/048350
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(507237819)トライステム・トレイディング・(キプロス)・リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】TriStem Trading (Cyprus) Limited
【Fターム(参考)】