説明

再充填インク、インクカートリッジの再生方法、再生インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法

【課題】初期充填インクを使い切った後の、毛細管力による負圧発生によりインクを保持しうるポリオレフィンのインク保持部材を具備するインクカートリッジに、均一に効率良く十分な量を再充填できる再充填インクを提供すること。
【解決手段】毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに、予め充填されていた、特定構造の色材を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに再充填される再充填インクであって、少なくとも、色材、並びに水及び水溶性有機化合物から構成される水性媒体を含有し、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴とする再充填インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうるインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに再充填される再充填インクに関する。また、本発明は、再充填インクをインクカートリッジに再充填してインクカートリッジを再生するインクカートリッジの再生方法、再充填インクが再充填された再生インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク小滴を普通紙や光沢メディアなどの記録媒体に付与して画像を形成する記録方法であり、その低価格化、記録速度の向上により、急速に普及が進んでいる。また、インクジェット記録方法は、得られる画像の高画質化が進んだことに加えて、デジタルカメラの急速な普及に伴い、銀塩写真に匹敵する画像の出力方法として広く一般的になっている。
【0003】
近年、インクジェット記録方法は、インク滴の極小化や、多色インクの導入に伴う色域の向上などにより、今まで以上に得られる画像の高画質化が進んでいる。しかしその反面、色材やインクに対する要求はより大きくなり、発色性の向上や、目詰まり、吐出安定性などの信頼性においてより厳しい特性が要求されている。
【0004】
また、インクジェット記録方法の問題点としては、得られた記録物の画像保存性に劣ることが挙げられる。一般に、インクジェット記録方法で得られた記録物は、銀塩写真と比較して、その画像保存性が低い。具体的には、記録物が、光、湿度、熱、空気中に存在するオゾンガスなどの環境ガスに長時間さらされた際に、記録物上の色材が劣化し、画像の色調変化や褪色が発生し易いといった問題がある。
【0005】
これに対し、画像保存性(画像の堅牢性)を向上させるために、従来から数多くの提案がなされている。例えば、インクジェット用インクの色材として、特許文献1に記載されている化合物(後述する一般式(I)で表される化合物を含む)を使用することにより、堅牢性に優れ、さらに発色性に非常に優れた画像が得られることがわかっている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−143989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、堅牢性と発色性に優れた色材である、後述する一般式(I)で表される化合物を含有するインクを用いて、インクジェット記録方法により種々の記録評価を行ったところ、以下の課題があることを見出した。
【0008】
先ず、毛細管力による発生負圧によりインクを保持する、ポリプロピレンで構成されるインク保持部材を具備してなるインクカートリッジ(図1〜3参照)に、後述する一般式(I)で表される化合物を含有するインクを充填し、記録を行った。そして、このインクを記録により使い切った後(以後、「使い切り」と表す場合もある)、再度、このインクカートリッジに、インクを再充填することを試みた。なお、この場合における「一般式(I)で表される化合物を含有するインク」を、以後、「初期充填インク」と表す場合もある。
【0009】
しかし、この場合、初期充填インクを記録により使い切った使い切りのインクカートリッジへのインクの再充填がスムーズに行かず、十分な量の再充填インクを再充填できないことがわかった。本発明者らが、効率的な再充填インクの再充填が困難である原因を検討したところ、破泡性の低い泡がインク保持部材の中で発生し、存在していることが原因であることがわかった。そして、この泡によって、インク保持部材中の、インクが充填されるべき空間が占有されることにより、再充填インクが充填される空間が不足し、再充填インクのスムーズな再充填が困難となることがわかった。
【0010】
なお、ここで用いているインク保持部材の材質である、ポリプロピレンやポリエチレンのようなポリオレフィンは、化学的な安定性や、耐薬性・耐溶剤性に優れた材料である。また、ポリオレフィンは、良好な成型性とリサイクル性を有する優れた材料でもある。しかし、材質がポリオレフィンである、前記構成のインク保持部材に充填された初期充填インクを、記録により使い切った場合、インク保持部材の中は、非常に泡立ち易く破泡性が低い、残存性の高い泡が発生する課題が本発明者らの検討で見出された。
【0011】
この泡の発生と、この泡の破泡性の低さの原因は、推定の段階であるが、本発明者らは、以下のように考えている。すなわち、前記したように、ポリオレフィンから構成された前記構成のインクカートリッジを用い、初期充填インクを使い切った場合においては、特に一般式(I)で表される化合物の分子膜で形成された破泡性の低い泡が大量に発生し易いと推定している。
【0012】
そこで、本発明者らは、再充填インクとして、素早い破泡効果を持つだけでなくインク保持部材に素早く再充填インクを浸透させる効果を併せ持つインクが必要であるとの認識に至った。しかし、現在までのところ、上述したような、使い切りのインクカートリッジに泡が発生したために再充填インクを再充填できないという課題を解決する再充填インクについての検討はなされていない。
【0013】
一方で、インクカートリッジの再生の技術分野においては、従来から使用済みのインクカートリッジにインクを再充填させてインクカートリッジを再利用できるようにするための検討がなされている。
【0014】
例えば、インクカートリッジの再生方法の1つとして、力学的な再充填の際に発生するインク内気泡により阻害されるインクカートリッジへのインク再充填性を向上させるために、特開平9−227813号公報に記載の方法が提案されている。具体的には、エタノールを含有し、かつ色材を含有しないインクをインクカートリッジに予め充填した後、色材を含むインクを充填することにより、インクの再充填を行う方法が提案されている。そして、この方法によれば、インクの再充填の際に生じる気泡発生を予め防ぐことができ、効果的なインクの再充填を行うことができると提案されている。
【0015】
しかし、実際に、特開平9−227813号公報に記載された方法を用いたところ、最初に充填したインクと、後から充填したインクとが、均一に混ざらず、濃度ムラが発生し、インクをインクカートリッジに、均一かつ有効に入れることは非常に困難であった。また、インクを均一にするため、インクカートリッジを振動させたが、十分な均一とならないうちに泡が発生した。つまり、この方法では、泡を発生させず均一にインクをインクカートリッジに再充填させることは困難であり、前記課題を解決するには、不十分であった。
【0016】
したがって、本発明の目的は、初期充填インクを使い切った後の、毛細管力による負圧発生によりインクを保持しうるポリオレフィンのインク保持部材を具備するインクカートリッジに、均一に効率良く十分な量を再充填できる再充填インクを提供することにある。また、本発明の目的は、さらに、インクの吐出不良やノズル詰まりが生じにくい再充填インクを提供することにある。また、本発明の目的は、この再充填インクをインクカートリッジに再充填してインクカートリッジを再生するインクカートリッジの再生方法、再充填インクが再充填された再生インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち本発明の再充填インクは、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに、予め充填されていた、下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに再充填される再充填インクであって、少なくとも、色材、並びに水及び水溶性有機化合物から構成される水性媒体を含有し、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴とする。

(一般式(I)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0018】
また、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジの再生方法は、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに、予め充填されていた、下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに、再充填インクを再充填してインクカートリッジを再生するインクカートリッジの再生方法であって、前記再充填インクが、色材、並びに水及び水溶性有機化合物で構成される水性媒体を含有するものであり、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴とする。

(一般式(I)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0019】
また、本発明の別の実施態様にかかる再生インクカートリッジは、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに、予め充填されていた、下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに、再充填インクを再充填させてなる再生インクカートリッジであって、前記再充填インクが、色材、並びに水及び水溶性有機化合物で構成される水性媒体を含有するものであり、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴とする。

(一般式(I)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0020】
また、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方法で吐出する工程を有するインクジェット記録方法であって、該インクが、上記本発明の再生インクカートリッジのインク収容部に収容されたインクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、初期充填インクを使い切った後の、毛細管力による負圧発生によりインクを保持しうる、ポリオレフィンで構成されるインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに、効率良く十分な量を再充填できる再充填インクを提供することができる。また、本発明によれば、さらに、インクの吐出不良やノズル詰まりが生じにくい再充填インクを提供することができる。また、本発明によれば、この再充填インクをインクカートリッジに再充填してインクカートリッジを再生するインクカートリッジの再生方法、再充填インクが再充填された再生インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明においては、色材が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上「塩を含有する」と表現する。
【0023】
また、本発明の最充填インクは、毛細管力による負圧発生によりインクを保持しうるインク保持部材を具備してなる一般的なインクカートリッジ、及びそれらを用いた記録全般に対して効果が発揮される。特に、インクジェット記録方法に用いられるインクカートリッジに対して、より効果が発揮されるため好ましい。以下、本発明の最充填インクをインクジェット用インクとして用いた場合について説明する。
【0024】
ここで、本発明における「使い切り」状態とは、インク消費後もインクカートリッジの内部に残存するインクを毛細管力により発生する負圧で保持し、インクジェット記録装置にインクカートリッジを装着してもインクを実質的に供給できない状態をも含む。
【0025】
そして、本発明において、インク保持部材は、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうるが、この毛細管力は、インクカートリッジに十分な量のインクが供給されている状態から、インクを消費した後の、「使い切り」状態まで持続するものである。つまり、インク保持部材は、インクカートリッジに収容されたインクを使用することができない状態、すなわち、「使い切り」状態であっても、毛細管力により発生する負圧により、所定量のインクを保持していることになる。
【0026】
以下、本発明者らが、本発明の再充填インクを見出した経緯について説明する。
先ず、本発明者らは、下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、再充填インクの再充填が困難となったインクカートリッジに、容易かつ簡便に、再充填可能な再充填インクを見出すべく検討を行った。具体的には、ポリオレフィンで形成される、前記構成のインク保持部材(微細経路)を具備するインクカートリッジに、予め充填されていた初期充填インクを使い切った後、容易かつ簡便に、再充填することができる再充填インクを見出すべく検討を行った。その結果、この構成のインクカートリッジに、効率良く再充填インクを再充填させるためには、再充填インクを、少なくとも、色材、並びに水及び水溶性有機化合物から構成される水性媒体を含有するインクとすること。さらに、この再充填インク中の、全水溶性有機化合物を水に溶解した水溶液(前記水性媒体)の表面張力を45mN/m以下とし、前記水溶性有機化合物を炭素数3乃至8のアルカンジオールを含む構成とすることが、効果的であることを見出した。

(一般式(I)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0027】
これは、先ず、再充填インク中に、炭素数3乃至8のアルカンジオールが含有されている場合、再充填インクは、一般式(I)で表される化合物を含有する低破泡性かつ残存性のある泡に対して、優れた破泡効果を発揮するためであると考えられる。
【0028】
そして、このことは、炭素数3乃至8のアルカンジオールが、一般式(I)で表される化合物への親和性や溶解性が低いために、これを含有する再充填インクは、インク保持部材中に残存している低破泡性の泡を素早く破泡させることが可能となると推定される。
【0029】
さらに、上記アルカンジオールを含む全水溶性有機化合物を水に溶解した水溶液(前記水性媒体)の表面張力が45mN/m以下である場合、再充填インクは、ポリオレフィンから構成されるインク保持部材に対して濡れ性が飛躍的に向上する。そして、この濡れ性向上によって、再充填インクによる、インク保持部材中に残存していた泡の破泡効果をさらに促進させることができ、再充填インクが微細経路を有するインク保持部材部分に素早く浸透し、良好な再充填効果を有するようになると推定した。
【0030】
なお、水溶性のアルカンジオールは、インクカートリッジやノズルや記録ヘッドの部材に対する接液性が非常に良好な水溶性有機化合物である。また、インクカートリッジやノズルや記録ヘッドの部材を溶解させるなどの影響を与えにくいことからも、再充填インクに適用するのに、非常に優れている水溶性有機化合物であるといえる。
【0031】
以上をまとめると、本発明の再充填インクは、以下の構成を有することを特徴とするものである。すなわち、本発明の再充填インクは、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに充填される再充填インクである。また、本発明の再充填インクは、前記インクカートリッジに予め充填されていた上記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに再充填されるものである。また、本発明の再充填インクは、少なくとも、色材、並びに水及び水溶性有機化合物から構成される水性媒体を含有するものである。さらに、本発明の再充填インクを、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が、炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むものである。
【0032】
<インクカートリッジ>
次に、本発明の再充填インクを充填させるのに用いられるインクカートリッジについて説明する。
本発明において、インクカートリッジの形状は、例えば、図1のようなインク収容部の一部に負圧発生機構としてインク保持部材を有する形態、図2のようなインク収容部の全体に負圧発生機構としてインク保持部材を有する形態。さらには、図3のようなインクを吐出する記録ヘッドを有する形態とすることができる。また、これらを組み合わせた構成としてもよい。
【0033】
なお、本発明において、インクカートリッジを構成するインク保持部材の材料は、前記した通り、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンである。ポリプロピレンやポリエチレンのようなポリオレフィンを用いる有利な点は、化学的安定性に優れ、耐薬性・耐溶剤性に優れている上、良好な成型性とリサイクル性を有する材料であること、また、本発明の再充填インクに対して濡れ性が良好であることにある。
【0034】
図1はインク収容部の一部に負圧発生機構としてインク保持部材を有するインクカートリッジの概略説明図である。図1において、インクカートリッジ100は、上部で大気連通口112を介して大気に連通し、下部でインク供給口114に連通する。また、インクカートリッジ100は、その内部に、インク保持部材を収容するインク保持部材収容室134、及びインクを収容する、実質的に密閉されたインク収容室136、を隔壁138で仕切る構造を有する。インク保持部材収容室134及びインク収容室136は、インクカートリッジ100の底部付近で隔壁138に形成された連通部140、及びインク供給動作時にインク収容室136への大気導入を促進するための大気導入路150を介してのみ連通されている。インク保持部材収容室134を形成するインクカートリッジ100の上壁には、内部に突出する形態で複数個のリブが一体に形成され、インク保持部材収容室134に圧縮状態で収容されるインク保持部材と当接している。このリブにより、上壁とインク保持部材の上面との間にエアバッファ室が形成されている。また、インク供給口114を備えたインク供給筒には、インク保持部材より毛細管力が高く、かつ物理的強度が大きい圧接体146が設けられており、インク保持部材と圧接している。
【0035】
インク保持部材収容室134には、インク保持部材として、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンの繊維から構成される第1のインク保持部材132B及び第2のインク保持部材132A、の2つの毛細管力発生型のインク保持部材を収容している。境界層132Cは、この2つのインク保持部材の境界層であり、境界層132Cの仕切壁138との交差部分は、連通部140を下方にしたインクカートリッジの使用時の姿勢において、大気導入路150の上端部より上方に存在している。また、インク保持部材内に収容されるインクは、インクの液面Lで示されるように、上記境界層132Cより上方まで存在している。
【0036】
ここで、第1のインク保持部材132Bと第2のインク保持部材132Aの境界層132Cは圧接しており、インク保持部材の境界層132C近傍は、他の部位と比較して圧縮率が高く、毛細管力が強い状態となっている。すなわち、第1のインク保持部材132Bの毛細管力をP1、第2のインク保持部材132Aの毛細管力をP2、インク保持部材同士の界面の持つ毛細管力をPSとすると、P2<P1<P3となっている。
【0037】
図2は、インク収容部T21の全体に負圧発生機構としてインク保持部材を有するインクカートリッジの概略説明図である。図2に示す形態のインクカートリッジは、負圧発生機構としてスポンジなどのインク保持部材(網線で示す部材)T22を、その内部に、ほぼくまなく配置し、記録ヘッドへ供給するインクをインク保持部材に保持させることでインクを収容させるものである。インクカートリッジの上部には大気連通口T23が設けられており、下部には記録ヘッドのインク供給口T24が設けられている。
【0038】
図3は、ノズルが接続されているインクカートリッジの外観斜視図である。図3に示す形態のインクカートリッジは、インク収容部T31及びインクを吐出させるノズルT32を備えている。また、インク収容部T31には、インクを収容するための負圧発生機構を有する部材が収容されている。
【0039】
<初期充填インク>
次に、本発明における「初期充填インク」について説明する。
本発明者らは、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持するインク保持部材(微細経路)を具備してなるインクカートリッジが、初期充填インクを収容し、使い切った後において、スムーズで効率の良い再充填インクの再充填が困難であることを見出した。なお、「初期充填インク」とは、前記した通り、少なくとも、下記一般式(I)で表される化合物(染料)を含有するインクである。以下、初期充填インクの構成成分について詳細に説明する。
【0040】
(色材:一般式(I)で表される化合物)
初期充填インクに用いられる色材は、下記一般式(I)で表される化合物を含むことが必要である。
【0041】

(一般式(I)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0042】
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、下記の例示化合物1や2が挙げられる。勿論、本発明は、これらに限られるものではない。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。
【0043】

【0044】

【0045】
本発明において、初期充填インク中における一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。上記含有量が0.1質量%未満であると十分な画像濃度が得られない場合があり、上記含有量が0.1質量%を超えると記録ヘッドの吐出口の固着回復性が得られないなど、良好なインクジェット特性が得られない場合がある。
【0046】
〔一般式(I)で表される化合物の検証方法〕
色材がインク中に含まれているか否かの検証には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた下記(1)〜(3)の検証方法が適用できる。
(1)ピークの保持時間
(2)(1)のピークについての極大吸収波長
(3)(1)のピークについてのマススペクトルのM/Z(posi)、M/Z(nega)
【0047】
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下に示す通りである。先ず、純水で約1,000倍に希釈した液体(インク)を調製し、測定用サンプルとした。そして、該サンプルについて、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーでの分析を行い、ピークの保持時間(retention time)、及び、ピークの極大吸収波長を測定した。
・カラム:SunFire C18(日本ウォーターズ製)2.1mm×150mm
・カラム温度:40℃
・流速:0.2mL/min
・PDA:200nm〜700nm
・移動相及びグラジエント条件:下記表1
【0048】

【0049】
また、マススペクトルの分析条件は以下に示す通りである。得られたピークについて、下記の条件でマススペクトルを測定し、最も強く検出されたM/Zをposi、negaそれぞれに対して測定する。
・イオン化法
・ESI
キャピラリ電圧:3.5kV
脱溶媒ガス:300℃
イオン源温度:120℃・検出器
posi:40V 200〜1500amu/0.9sec
nega:40V 200〜1500amu/0.9sec
【0050】
上記した方法及び条件下で、一般式(I)で表される化合物の代表例である例示化合物1について測定を行った。その結果、得られた保持時間、極大吸収波長、M/Z(posi)、M/Z(nega)の値を下記表2に示した。未知のインクについて、上記したと同様の方法及び条件下で測定を行って、得られた測定値が下記表2に示す値に該当する場合、本発明において用いる化合物に該当する化合物を含有しているものと判断できる。
【0051】

【0052】
(色材:その他の色材)
本発明において、初期充填インクには、上記一般式(I)で表される化合物の他に、必要に応じて、その他の色材を併用して含有させてもよい。一般式(I)で表される化合物と組み合わせて好適に使用することができる色材としては、下記一般式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0053】

(一般式(II)中、R5はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、シクロヘキシル基、モノアルキルアミノアルキル基、又はジアルキルアミノアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、Xは連結基である。)
【0054】
上記一般式(II)における連結基Xは、下記の構造式からなることが好ましい。また、下記の構造式において、「*」を付した結合手は、各窒素原子の結合手を意味し、各窒素原子と2つの異なるトリアジン環は直接結合している。
【0055】

(上記構造式中、nは2乃至8の数であり、好ましくは2乃至6の数、さらに好ましくは2であり、*は2つのトリアジン環との結合部位である。)
【0056】
上記一般式(II)で表される化合物の具体例としては、下記の例示化合物3が挙げられる。勿論、本発明は、これに限られるものではない。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。
【0057】

【0058】
本発明においては、初期充填インク中に、さらに以下の挙げるような染料や顔料などの色材を併用して含有させてもよい。
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230など。C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289など。C.I.フードレッド:87、92、94など。C.I.ダイレクトバイオレット:107など。C.I.ピグメントレッド:2、5、7、12、48:2、48:4、57:1、112、122、123、168、184、202など。
【0059】
これまでに挙げたその他の色材のなかでも、一般式(II)で表される化合物を使用することがより好ましく、中でも、例示化合物3を使用することが特に好ましい。これは、一般式(II)で表される化合物と一般式(I)で表される化合物との組み合わせ、特には、例示化合物3と一般式(I)で表される化合物との組み合わせによって、非常に優れた画像の堅牢性と発色性の両立が可能となるためである。
【0060】
なお、本発明において、一般式(I)で表される化合物と、その他の色材とを併用して初期充填インクに含有させる場合、一般式(I)で表される化合物の含有量と、その他の色材の含有量の合計(質量%)は、以下の範囲であることが好ましい。すなわち、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。色材の合計含有量が0.1質量%未満であると十分な画像濃度が得られない場合がある。また、色材の合計含有量が10.0質量%を超えると記録ヘッドの吐出口の固着回復性が得られないなど、良好なインクジェット特性が得られない場合がある。
【0061】
(水性媒体)
本発明において、初期充填インクには、水又は水及び水溶性有機化合物の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。初期充填インク中における水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0062】
水溶性有機化合物は、水溶性であれば特に制限はなく、以下に挙げるようなものを1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。初期充填インク中における水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下、さらには10.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機化合物の含有量が上記した範囲より少ないと、初期充填インクをインクジェット記録装置に用いる場合に吐出安定性などの信頼性が得られない場合がある。また、水溶性有機化合物の含有量が上記した範囲より多いと、インクの粘度が上昇して、インクの供給不良が起きる場合がある。
【0063】
水溶性有機化合物は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2ブタノール、第3ブタノールなどの炭素数1乃至8程度の1価又は多価のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オンなどのケトン類又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。平均分子量が200乃至2,000、具体的には、平均分子量が200、400、600、1,000、及び2,000などの、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキシレングリコール、チオジグリコールなどのグリコール類。グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類など。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリンなどの複素環類。ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類。尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体類。
【0064】
(その他の添加剤)
さらに、上記した成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、キレート化剤、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、消泡剤、及び、水溶性ポリマーなどの添加剤を初期充填インクに含有させてもよい。
【0065】
<再充填インク>
本発明者らは、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持するインク保持部材(微細経路)を具備してなるインクカートリッジに収容された前記の初期充填インクを使い切った後、本発明の再充填インクを用いれば、以下の効果が得られることを見出した。すなわち、インク保持部材中に発生した泡を破泡させ、また、インク保持部材への良好なインクの浸透性が得られることにより、インクカートリッジへの再充填インクの再充填がスムーズとなり、効率良く再充填インクを再充填できることを見出した。本発明の再充填インクは、少なくとも、色材、並びに水及び水溶性有機化合物で構成される水性媒体を含有するものである。そして、インク中における全水溶性有機化合物を水に溶解した水溶液(前記水性媒体)の表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴としている。以下、本発明の再充填インクに含まれる構成成分について詳細に説明する。
【0066】
(炭素数3乃至8のアルカンジオール)
本発明において、水溶性有機化合物である炭素数3乃至8のアルカンジオールとしては、アルキル鎖が直鎖や分岐のいずれのものも用いることができ、2つの水酸基が置換する炭素原子もいずれの位置のものであってもよい。本発明においては、特に、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、及び2−メチル−2,4−ペンタンジオールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。さらには、1,2−ヘキサンジオール及び1,2−ペンタンジオールの少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0067】
本発明において、再充填インク中における炭素数3乃至8のアルカンジオールの含有量の、該再充填インク中における全水溶性有機化合物の含有量に対する比率は、質量基準で、10.0%以上80.0%以下であることが好ましい。前記質量比率が10.0%以上であると再充填インクの再充填性向上の効果がより高くなり、また、80.0%を超えると水溶性有機化合物に対する色材の溶解性が低くなり、固着回復性が低下する場合がある。なお、記録ヘッドを長期間放置しておくと、吐出口からインクが蒸発することで、記録ヘッドの微細なノズルやインクカートリッジのインク供給口で色材が固着して目詰まりを起こし、元の状態への回復が困難となるため、良好な記録画像が得られない場合がある。そして、固着が発生した状態から、目詰まりを解消させ、元の記録画像品位に回復させる性能のことを固着回復性と呼ぶ。
【0068】
(再充填インクの水性媒体)
再充填インクには、水及び水溶性有機化合物から構成される水性媒体を用いることができる。なお、再充填インクに含有させる水性媒体を構成する水溶性有機化合物には、上記で説明した炭素数3乃至8のアルカンジオールも含まれる。再充填インク中における水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0069】
炭素数3乃至8のアルカンジオール以外の水溶性有機化合物は、水溶性であれば特に制限はなく、以下に挙げるようなものを1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。再充填インク中における水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下、さらには10.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この場合の含有量は、上記で説明した炭素数3乃至8のアルカンジオールの含有量を含む、全水溶性有機化合物の含有量の値である。全水溶性有機化合物の含有量が上記した範囲より少ないと、再充填インクをインクジェット記録装置に用いる場合に吐出安定性などの信頼性が得られない場合がある。また、全水溶性有機化合物の含有量が上記した範囲より多いと、インクの粘度が上昇して、インクの供給不良が起きる場合がある。
【0070】
炭素数3乃至8のアルカンジオール以外の水溶性有機化合物は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2ブタノール、第3ブタノールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オンなどのケトン類又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。平均分子量が200乃至2,000、具体的には、平均分子量が200、400、600、1,000、及び2,000などの、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキシレングリコール、チオジグリコールなどのグリコール類。グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類など。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリンなどの複素環類。ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類。尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体類。
【0071】
上記で挙げた炭素数3乃至8のアルカンジオール以外の水溶性有機化合物の中でも、色材に対する親和性に優れ、色材の溶解性に優れるものを用いることが特に好ましい。これは、このような水溶性有機化合物が、インクの乾燥による色材の析出を抑えることができ、記録ヘッドなどにおける目詰まりを抑制することができるためである。このような水溶性有機化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。すなわち、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、2−ピロリドン、及びプロピレングリコールなどが挙げられる。本発明においては、これらの特定の水溶性有機化合物から1種又は2種以上を使用することが特に好ましい。
【0072】
(水性媒体の表面張力)
本発明の再充填インクは、再充填インク中の水及び水溶性有機化合物から構成される水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であることが必要である。これは、一般式(I)で表される化合物を含有する初期充填インクを使い切った、毛細管力による負圧発生によりインクを保持しうるインク保持部材を具備してなるインクカートリッジへのインクの再充填性を向上させるためである。より再充填性を向上するためには、前記水性媒体の25℃における表面張力が34mN/m以下であることが特に好ましい。本発明においては、炭素数3乃至8のアルカンジオールと、必要に応じて使用する前記したその他の水溶性有機化合物により、水性媒体の表面張力が上記範囲内となるように構成することが好ましい。一方、前記水性媒体の表面張力の下限は、20mN/m以上、さらには26mN/m以上であることが好ましい。なお、本発明においては、水性媒体を構成する水溶性有機化合物には界面活性剤は含まないものとする。
【0073】
なお、組成が未知のインク中に含有されている水溶性有機化合物の種類やその含有量は、ガスクロマトグラフィ(GC/MS)などにより分析することができる。具体的には、例えば、組成が未知のインク1gを分取して、メタノールで所定の倍率に希釈したサンプルを、GC/MS(商品名:TRACE DSQ;ThermoQuest製)などを用いて分析する。これにより、インク中に含有される水溶性有機化合物の種類やその含有量を同定することができる。また、組成が未知のインク中に含有されている水の含有量は、カールフィッシャー水分計などにより、常法にしたがって同定することができる。このようにして求めた水溶性有機化合物の種類やその含有量及び水の含有量から、インクの水性媒体と同様の組成を有する水溶液を調製する。そして、得られた前記水溶液の表面張力を温度25℃、湿度50%の環境下で測定する。表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計(CBVP−Z型;協和界面科学製)を用いて、白金プレートを用いたプレート法により行うことができる。なお、本発明は、上記で挙げた測定方法や測定装置などに限られるものではなく、いずれの方法も用いることができる。
【0074】
(色材)
また、本発明において、前記再充填インクに用いる色材としては、どのようなものであってもよい。具体的には、マゼンタの色相を有する色材であることが好ましく、さらには、前記一般式(I)で表される化合物及び/又は前記一般式(II)で表される化合物、又は、これらと同様の色相を有する色材、さらには、これらを組み合わせて用いることが好ましい。
【0075】
詳細には、以下の挙げるような染料や顔料などの色材を使用することができる。勿論、本発明は、以下に挙げるものに限られるわけではない。C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230など。C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289など。C.I.フードレッド:87、92、94など。C.I.ダイレクトバイオレット:107など。C.I.ピグメントレッド:2、5、7、12、48:2、48:4、57:1、112、122、123、168、184、202など。
【0076】
(その他の添加剤)
さらに、上記した成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、キレート化剤、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、消泡剤、及び、水溶性ポリマーなど、種々の添加剤を再充填インクに含有させてもよい。
【0077】
なお、本発明の再充填インクを構成する成分は、インク保持部材に残存する泡を破泡し、インク保持部材(微細経路)への浸透を良好にするものであり、スムーズなインクの再充填が可能とするものであること。さらには、インクカートリッジの各部材の材質に対してインクジェット特性を低下させることがないようなものであれば、どのような物質を用いてもよい。
【0078】
<インクカートリッジの再生方法及び再生カートリッジ>
本発明のインクカートリッジの再生方法は、以下の構成を有する。すなわち、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなるインクカートリッジを用いる。また、この構成のインクカートリッジに、予め充填されていた、前記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに、再充填インクを再充填してインクカートリッジを再生するインクカートリッジの再生方法である。そして、前記再充填インクが、色材、並びに水及び水溶性有機化合物で構成される水性媒体を含有するものであること。さらに、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴としている。
【0079】
また、本発明の再生インクカートリッジは、以下の構成を有するものである。すなわち、毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなる構成を有する。また、この構成のインクカートリッジに、予め充填されていた、前記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに、再充填インクが再充填されてなる再生インクカートリッジである。そして、前記再充填インクが、色材、並びに水及び水溶性有機化合物で構成される水性媒体を含有するものであること。さらに、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴としている。
【0080】
本発明において、前述の初期充填インクを記録により使い切った前記構成のインクカートリッジに、前述の本発明の再充填インクを再充填する再充填方法を以下に具体的に述べる。
【0081】
具体的な方法として、以下の再充填方法(1)、(2)を、図1を用いて説明する。
再充填方法(1):インク収容室136の上部にある、インクカートリッジ製造時のインク充填口113に穴を開け、注射器を用いて本発明の再充填インクを再充填し、最後にインク収容室136上部に開けられた穴を栓などで塞いで再充填インクを再充填する方法。
再充填方法(2):本発明の再充填インクをインク供給口114から滴下して再充填する方法。しかし、簡便な方法であれば、これらの方法に限定されるものではない。本発明の再充填インクを用いてインクカートリッジに再充填を行えば、いずれの方法でも、簡便かつ効率的に、再生カートリッジを作製することができる。
【0082】
<記録媒体>
本発明において、インクカートリッジに充填されるインクを用いて画像を形成する際に用いる記録媒体は、インクを付与して記録を行う記録媒体であればいずれのものでも使用することができる。
【0083】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方法で吐出する工程を有するインクジェット記録方法であって、該インクが、前記した本発明の再生インクカートリッジのインク収容部に収容されたインクであることを特徴としている。インクジェット記録方法は、インクに力学的エネルギーを作用させてインクを吐出させる記録方法、及びインクに熱エネルギーを作用させてインクを吐出させる記録方法などがある。本発明においては、いずれの方法でも好ましく用いることができる。
【0084】
<記録ユニット>
本発明において、インクカートリッジに充填される水性のインクを用いて記録を行うのに好適な記録ユニットは、これらのインクを収容するインク収容部と、記録ヘッドとを備えた記録ユニットが挙げられる。特に、前記記録ヘッドが、記録信号に対応した熱エネルギーをインクに作用させ、前記エネルギーによりインク液滴を発生させる記録ユニットが挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、特に指定のない限り、実施例、比較例のインク成分は、質量基準である。
【0086】
<初期充填インクの調製及び初期充填インクカートリッジの作製>
下記表3に示す各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルターにて加圧ろ過を行って、初期充填インクを調製した。得られた初期充填インク12gを、図1の構成を有する、空のインクカートリッジに充填し、初期充填インクカートリッジを作製した。なお、下記表3中の例示化合物1は、前記において、一般式(I)で表される化合物の具体例として記載した化合物のことを示す。
【0087】
<使い切りインクカートリッジの作製>
上記で得られた初期充填インクカートリッジを、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP8600;キヤノン製)に搭載した。記録条件を、温度23℃、相対湿度55%とした。そして、記録媒体(商品名:プロフェッショナルフォトペーパーPR−101;キヤノン製)に、記録デューティが100%であるベタ画像を、上記カートリッジ中の初期充填インクを使い切るまで記録することにより、使い切りインクカートリッジを作製した。
【0088】
<再充填インクの調製>
下記表3に示す各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルターにて加圧ろ過を行って、実施例及び比較例の各再充填インクをそれぞれ調製した。
【0089】

【0090】

【0091】

【0092】
<再充填インクカートリッジの作製>
上記で得られた実施例及び比較例の各再充填インクを、上述の再充填方法(1)により使い切りインクカートリッジに再充填し、再充填インクカートリッジをそれぞれ作製した。具体的には、インク収容室136の上部にあるインクカートリッジ製造時のインク充填口113に穴を開け、注射器を用いて再充填インクをインクカートリッジに再充填し、その後、穴を栓で塞いで、再充填インクカートリッジを作製した(図1参照)。
【0093】
<再充填インクの評価>
得られた再充填インクカートリッジを用いて、再充填インクの再充填性(再充填性)を以下の2つの観点で評価した。
【0094】
(再充填性の評価方法(1):再充填インクの充填率)
再充填インクの充填率を以下に示す式で求め、下記の評価基準により再充填インクの充填率の評価を行った。下記式中、aは使い切りインクカートリッジに再充填インクを再充填したとき、再充填できたインクの体積(mL)であり、bはインクカートリッジの容量(mL)である。評価結果を下記表4に示す。

AA:充填率が95%以上であった。
A:充填率が93%以上95%未満であった。
B:充填率が90%以上93%未満であった。
C:充填率が90%未満であった。
【0095】
(再充填性の評価方法(2):再充填のし易さ)
再充填のし易さは、下記の評価基準により評価を行った。評価結果を下記表4に示す。
AA:非常にスムーズに再充填でき、何の違和感もなく簡便に再充填インクを再充填できた。
A:AAほどはスムーズに感じなかったものの、簡便に再充填インクを再充填できた。
B:Aほどはスムーズに感じなかったものの、再充填インクを再充填できた。
C:非常に再充填しにくく、再充填インクが中々入らなかった。
【0096】
<固着回復性の評価>
上記で得られた再充填インクカートリッジを、改造したインクジェット記録装置(PIXUS iP8600;キヤノン製)に搭載した後、記録し、記録装置から、カートリッジホルダーがついたヘッドキャリッジのまま記録ヘッドを取り外した。この取り出した記録ヘッドを、30℃の恒温槽中で14日間保存し、常温に取り出した直後に回復操作(吸引操作)を行った後記録を行い、下記の評価基準により固着回復性の評価をした。評価結果を下記表4に示す。なお、比較例の各インクは吐出できなかったため、固着回復性の評価は行えなかった。
A:回復操作5回以下で正常な記録状態に戻った。
B:回復操作6〜10回で正常な記録状態に戻った。
C:回復操作11回で不吐出又は記録の乱れがあった。
【0097】

【0098】
また、実施例5における1,2−ヘキサンジオールを、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール又は2−メチル−2,4−ペンタンジオールに置き換える以外は、実施例5と同様にして、再充填インクをそれぞれ調製した。得られた再充填インクをそれぞれ実施例13〜15の再充填インクとした。実施例13〜15の再充填インクは、いずれも、再充填インク中の水性媒体の表面張力が45mN/m以下であった。また、実施例13〜15の再充填インクを用いて、前記と同様の方法で、再充填インクカートリッジを作製し、再充填インクの再充填性と固着回復性の評価を行った。得られた評価結果を下記表5に示す。
【0099】
また、実施例5におけるグリセリンを、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール又はプロピレングリコールに置き換える以外は、実施例5と同様にして、再充填インクをそれぞれ調製した。得られた再充填インクをそれぞれ実施例16〜20の再充填インクとした。実施例16〜20の再充填インクは、いずれも、再充填インク中の水性媒体の表面張力が45mN/m以下であった。また、実施例16〜20の再充填インクを用いて、前記と同様の方法で、再充填インクカートリッジを作製し、再充填インクの再充填性と固着回復性の評価を行った。得られた評価結果を下記表5に示す。
【0100】
さらに、前記で得た初期充填インクの組成のうち、色材を例示化合物1(1.5%)と例示化合物3(1.5%)との組み合わせに置き換える以外は、前記初期充填インクと同様の方法で、新たな初期充填インクを調製した。その後、前記と同様の方法で、使い切りインクカートリッジを作製した後、実施例5と同組成の再充填インク(実施例21とした)を充填させて再充填インクカートリッジを作製した。その後、前記と同様の方法で、再充填インクの再充填性と固着回復性の評価を行った。得られた評価結果を下記表5に示す。
【0101】

【0102】
以上の評価結果から、初期充填インクを使い切った後の前記構成のインクカートリッジに再充填を行う、本発明の再充填インクは、インクカートリッジへの再充填性が良好であることが確認された。具体的には、インク中の全水溶性有機化合物を水に溶解した水溶液(水性媒体)の表面張力が45mN/m以下であり、水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含む構成を有する本発明の再充填インクは、再充填性は良好であることが確認された。さらには、炭素数3乃至8のアルカンジオールとしては、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールが好ましいことがわかった。特には、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオールがより好ましいことがわかった。また、再充填インク中における、炭素数3乃至8のアルカンジオールの全水溶性有機化合物に対する含有率が80質量%以下である場合、固着回復性の性能もさらに良好となることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】インク収容部の一部に負圧発生機構として吸収体を有するインクカートリッジの内部構造を示した図である。
【図2】インク収容部の全体に負圧発生機構として吸収体を有するインクカートリッジの内部構造を示した図である。
【図3】記録ヘッドを備えてなるインクカートリッジの外観斜視図である。
【符号の説明】
【0104】
100:インクカートリッジ
112:大気連通口
113:記録時は栓で塞がれているが、初期インクカートリッジを製造する際の元インク充填口
114:インク供給口
132A:第2のインク保持部材
132B:第1のインク保持部材
132C:第1のインク保持部材と第2のインク保持部材の境界層
134:インク保持部材収容室
136:インク収容室
138:仕切壁(隔壁)
140:連通孔(連通部)
146:圧接体
150:大気導入溝(大気導入路)
L:液体−気体界面(インクの液面)
T21:インク収容部
T22:インク保持部材
T23:大気連通口
T24:インク供給口
T31:インク収容部
T32:ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに、予め充填されていた、下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに再充填される再充填インクであって、
少なくとも、色材、並びに水及び水溶性有機化合物から構成される水性媒体を含有し、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴とする再充填インク。

(一般式(I)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【請求項2】
前記再充填インク中における前記炭素数3乃至8のアルカンジオールの含有量の、前記再充填インク中における全水溶性有機化合物の含有量に対する比率が、質量基準で、10.0%以上80.0%以下である請求項1に記載の再充填インク。
【請求項3】
毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに、予め充填されていた、下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに、再充填インクを再充填してインクカートリッジを再生するインクカートリッジの再生方法であって、
前記再充填インクが、色材、並びに水及び水溶性有機化合物で構成される水性媒体を含有するものであり、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴とするインクカートリッジの再生方法。

(一般式(I)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【請求項4】
毛細管力により発生する負圧によりインクを保持しうる、ポリオレフィンから構成されたインク保持部材を具備してなるインクカートリッジに、予め充填されていた、下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを使い切った後、このインクカートリッジに、再充填インクを再充填させてなる再生インクカートリッジであって、
前記再充填インクが、色材、並びに水及び水溶性有機化合物で構成される水性媒体を含有するものであり、前記水性媒体の25℃における表面張力が45mN/m以下であり、前記水溶性有機化合物が炭素数3乃至8のアルカンジオールを含むことを特徴とする再生インクカートリッジ。

(一般式(I)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【請求項5】
記録ヘッドを備えてなる請求項4に記載の再生インクカートリッジ。
【請求項6】
インクをインクジェット方法で吐出する工程を有するインクジェット記録方法であって、該インクが、請求項4又は5に記載の再生インクカートリッジのインク収容部に収容されたインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−163474(P2010−163474A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4416(P2009−4416)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】