説明

再充填可能な長期抗真菌性義歯材料

官能性ポリマー成分を含むポリマーおよびコポリマーが従来の義歯材料のように使用され得る。真菌感染症に対抗すべく、抗真菌材料が延長された期間にわたって官能性ポリマー成分からゆっくり溶出されるように抗真菌材料は官能性ポリマー成分に放出可能に結合され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2010年2月19日出願の、「RECHARGEABLE LONG−TERM ANTIFUNGAL DENTURE MATERIALS」と題された米国仮出願第61/306,219号の利益を請求する。上記米国仮出願は、参考によって本明細書に全体として組み込まれる。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の説明)
本発明は、助成金番号5R03DE018735−02のもとに、国立衛生研究所から認定された米国政府支援によって行われた。米国政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0003】
義歯は、場合によって、いくつかまたはさらには全ての歯を失った患者の栄養状態、言語能力、外観および生活の質に利益をもたらす。しかしながら、義歯材料でのカンジダ・アルビカンス(Candida alibicans)の定着およびバイオフィルム形成が、定着している微生物によって生じる微生物抗原、毒素および酵素に対する非特異性炎症反応である、カンジダ関連義歯性口内炎(CADS)を導く恐れがある。
【0004】
CADSは、義歯装着者の67%までに影響を及ぼす一般的な再発性疾患である。口腔衛生の低さ、炭水化物摂取量の高さ、唾液流量の低下、連続的な義歯装着、老化、栄養失調、免疫抑制、放射線治療、真性糖尿病、そして、おそらく抗生物質による治療などの要因は、CADSに対する感染性を増大させることが知られている。健康な人であれば、CADSを容易に抑制することができる。しかしながら、衰弱しているか、免疫不全状態であるか、または全身性疾患を患う患者では、CADSは慢性症状となることがあり、さらには、定着したカンジダ・アルビカンスおよび他の種が、齲蝕、根面齲蝕、歯周病、口腔および全身性(例えば、胃腸および胸膜肺)感染症を引き起こす恐れがあり、さらには死に至る可能性がある。
【0005】
CADSの管理には、義歯のクリーニングおよび消毒、適切な義歯装着習慣、組織調整材またはソフトライナーの使用、ならびに局所性または全身性抗真菌治療が含まれる。しかしながら、これらの方法のいずれによっても、カンジダ・アルビカンスの定着およびバイオフィルム形成を完全に予防または排除することは不可能であり、再感染率は、特に免疫不全状態または医学的に障害がある人で高い。
【0006】
CADSは、カンジダ・アルビカンスの定着およびバイオフィルム形成と密接に関連しているため、抗真菌性義歯の使用は、病気を抑制するための魅力的な選択肢となる可能性がある。抗真菌性義歯を製造するための一般的な原理は、器具から溶出して、微生物成長を弱める抗真菌薬に、義歯材料を含浸することである。義歯表面付近で、一般に、感受性種に必要とされる最小阻害濃度(MIC)および殺真菌濃度(MFC)を越える、高い抗真菌濃度に(少なくとも最初は)達する。短期使用(例えば、数日〜数週間)でのこれらの抗真菌性義歯の有効性および安全性は、多くの調査において確認されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、現在のほとんどの抗真菌性義歯材料は、長期間CADSを抑制することができない。抗真菌性義歯の長期的使用のための主要な難問は、十分な抗真菌薬を補綴に組み込むため、そして抗真菌剤放出速度を制御するための戦略が不足していることである。最も単純な方法は、義歯材料に直接抗真菌薬を添加することであるが、この方法では、主に、高い薬剤含有量が義歯の物理的特性にダメージを与える可能性があるという理由のため、薬剤含有量は一般に低い。
【0008】
さらには、薬剤が単に義歯中に分散し、それらを「保持」するような特異性相互作用がないことから、抗真菌薬は最初の数時間または数日で迅速に放出される。特異性相互作用を導入するため、側鎖中に陰イオン官能基を有する新規ポリマー材料が合成された。これらは抗真菌薬と結合することができ、その後、ゆっくり放出することができる。この方法によって放出速度は低下するが、吸着された抗真菌薬の量が低いため、抗真菌期間を改善することはできない。
【0009】
短い抗真菌期間に加えて、抗真菌剤放出のパターンをさらに最適化する必要がある。現在のシステムでは、定着または感染症が存在するかどうかに関係なく、経時的に速度が低下しながら、抗真菌薬が放出される。補綴が微生物または感染症の存在に感応して、したがって、薬剤放出を開始するか、または停止することができるのであれば、CADS抑制に関するそれらの有効性は大幅に向上する。残念なことに、これは実際には達成されていない。
【0010】
そのうえ、複合薬、薬剤変化または薬剤ローテーションは、真菌感染症の治療において、阻害能力を高めて、そして微生物薬剤耐性を低下させるための強力なツールとなることが可能であるが、この方法は、抗真菌性義歯の開発において採用されなかった。それよりも、現在のシステムでは、通常、1種または2種の抗真菌薬が使用され、そして、一旦抗真菌性義歯が製造されたら、義歯中の抗真菌薬の構造および量は一定であり、そして、たとえ病気や患者の症状がそのような変化の正当な理由となっても、実際の適用では変更不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
いくつかの実施形態において、本発明は、官能性ポリマー成分を有するポリマー基質を含む抗菌性歯科補綴に関する。抗真菌薬(単一の抗真菌薬または2種以上の抗真菌薬の組み合わせであり得る)は、延長された期間にわたって官能性ポリマー成分から抗真菌薬がゆっくり溶出されるように官能性ポリマー成分に放出可能に結合される。
【0012】
いくつかの実施形態において、本発明は、再充填可能なポリマー歯科補綴を有する患者における真菌感染症を低下させる方法に関する。一旦真菌感染が患者に検出されたら、再充填可能なポリマー歯科補綴を抗真菌薬(単一の抗真菌薬または2種以上の抗真菌薬の組み合わせ)で充填する。抗真菌薬は、延長された期間にわたって歯科補綴から溶出される。一旦真菌感染症が十分に低下したら、残存する抗真菌薬を除去してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態による抗真菌剤送達システムの模式図である。
【図2】A、Bは実験結果を示す電子画像である。
【図3】A−Dは実験結果を示す電子画像である。
【図4】A、Bは実験結果のグラフ図である。
【図5】A−Bは実験結果のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
いくつかの実施形態において、官能性ポリマーは、従来の義歯材料に共有結合され得る。いくつかの実施形態において、官能性ポリマーは、義歯材料を形成する他のポリマー材料と共重合され得る。この場合、官能性ポリマーは、抗真菌薬と結合可能であって、次いで、延長された期間にわたって抗真菌薬をゆっくり放出することが可能なポリマーと定義されることがある。
【0015】
いくつかの実施形態において、官能性ポリマーは、陽イオン抗真菌剤とイオン結合を形成する陰イオンポリマーであり得る。いくつかの実施形態において、PVPなどのポリマーは、極性の抗真菌剤と双極子−双極子相互作用を形成したものであり得る。PVPなどのポリマーは、水素原子を提供可能な抗真菌剤と水素結合を生成し得る。いくつかの実施形態において、官能性ポリマーは、抗真菌薬とファンデルワールス相互作用を形成し得る。適切なポリマーの実例であるが非限定的な例には、ポリアクリル酸(PAA)およびポリ(メタクリル酸)(PMAA)が挙げられ、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのピロリドン基を含有するポリマーは、従来の義歯材料に共有結合されてもよく、または共重合されてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態において、抗真菌薬は、単一の抗真菌薬であるかまたは2種以上の抗真菌薬の組み合わせであり得る。適切な抗真菌薬の実例であるが非限定的な例は、ミコナゾールである。適切な抗真菌薬のもう1つの実例であるが非限定的な例は、グルコン酸クロルヘキシジンである。
【0017】
認識されるように、これらの実施形態は、多数の利点および利益を提供する。例えば、場合によっては、酸性基またはピロリドン基を含むポリマーは、コーティングされても、グラフト化されても、または別の方法で義歯または同様の歯科補綴に固定され得る。感染症が存在しない場合、義歯は抗真菌薬を添加せずに使用されてもよい。CSDS感染症などの感染症が見られる場合、義歯に適切な抗真菌薬が充填され得る。一旦感染症が排除されたら、抗真菌薬をクエンチしてもよく、あるいは、別の方法で義歯材料から除去してもよい。いくつかの実施形態において、抗真菌薬は長期放出を示し、再充填可能であり得る。場合によっては、例えば、より良好に特定の感染症に対抗すべく、抗真菌薬を異なる抗真菌薬と交換し得る。
【0018】
いくつかの実施形態において、例えば、高リスク患者に関して、CADS感染症などの感染症が存在しない場合、ポリ(アクリル酸)などのポリマーでコーティングされた義歯などの歯科補綴を、従来の義歯のように装着してもよい。CADSが生じた場合、1種またはそれ以上の抗真菌剤を義歯に充填することができる。一旦合併症が治療されたら、陽イオン抗真菌剤に対して義歯に共有結合したポリ(アクリル酸)分子と競争するクエンチング溶液で薬剤含有義歯を洗浄することができる。さらなる薬剤放出が必要でない場合、そのような処理を数回サイクルすることによって、結合した薬剤が「洗浄除去」されて、治療的な効果がクエンチされて、そして従来の義歯のようにその器具を連続的に使用することができる。CADSが再発した場合、薬剤を再充填して、治療を再開することができる。
【0019】
図1に、全体的なプロセスを概略的に示す。いくつかの実施形態において、示されるように、抗真菌剤は陽イオンであり、したがって、陰イオンポリマーにイオン結合され得る。いくつかの実施形態において、図1に例示されるように、負に帯電したポリマーは、陽イオン抗真菌剤とイオン性錯体を形成することとなる。他の実施形態において、上記されたように、PVP(ポリビニルピロリドン)などのポリマーは、抗真菌薬と強い双極子−双極子相互作用、水素結合および/またはファンデルワールス相互作用を形成することができる。強い相互作用によって、義歯に薬剤が「保持されて」、薬剤は徐々に放出され、持続的な薬剤放出効果(例えば、数週間から数カ月)が達成される。このような独特な「クリックオン(click−on)、クリックオフ(click−off)抗真菌剤送達技術によって、再発性CADSおよび他の関連疾患の管理に対する相当な適応性がもたらされる。
【0020】
いくつかの実施形態において、官能性ポリマーは義歯に共有結合されており、したがって、薬剤と一緒に放出されることはない。したがって、最初の充填後にCADSが治療されていない場合、放出された薬剤は、イオン性錯体形成(図1を参照のこと)、双極子−双極子相互作用、水素結合および/またはファンデルワールス相互作用によって繰り返し再充填可能であり、重篤なCADSおよび他の歯科合併症の管理において長期的治療効果を達成する有意な機会が与えられる。いくつかの実施形態において、義歯または他の歯科器具が患者の口腔内で使用されない場合、抗真菌剤は再充填される。
【0021】
いくつかの実施形態において、初期の充填において様々な種類の抗真菌剤を1つの系に組み合わせることができ、これらはその後の再充填処理において変更および/または交換することができる。いくつかの場合には、この特徴によって阻害能力が有意に高まり、毒性が低下し、薬剤耐性を発現させるリスクが最小化し、臨床疾患状態および/または患者のニーズに応じて相当な適応性がもたらされるであろう。
【0022】
本発明の有用性について、本明細書には義歯などの歯科器具に関して記載したが、本発明が様々な医療用器具あるいは種々の感染症予防または治療器具に適用可能であり得ることは明白であろう。
【0023】
実施例1
本実施例において、硬化の工程で10重量%のアクリル酸(ガラスイオノマー調製用モノマー)をジメタクリル酸ウレタン(UDMA)と共重合させ、義歯樹脂を製造した。アルミニウム金型中、アクリル酸(AA)およびUDMAのフリーラジカル共重合によって、義歯材料ディスク(直径13ミリメートル、厚さ1ミリメートル)を作成した。重合は、3時間、70℃で、実験室熱硬化装置で実行した。試験片を視覚的に検査し、空隙がないことは保証された。
【0024】
そのようにして形成された樹脂ディスクを一晩、室温で2%ミコナゾールエタノール溶液に浸漬した。一方、アクリル酸を含まないUDMAディスクを対照として用いた。得られたディスクを蒸留水で完全に洗浄して、結合していない薬剤を除去し、真空下で乾燥させ、そして自動ソックスレー抽出装置を使用してエタノールで抽出して、結合した薬剤を除去し、UV−VIS分光光度計を使用して、λ=220nmで吸光度を測定することによって、結合したミコナゾールを定量した。
【0025】
アクリル酸を含まない対照ディスクでは、8.2±0.7μg/cmのミコナゾール(n=5)が吸着したことがわかった。毎日浸漬溶液を交換して、37℃で人工唾液に3日間浸漬した後、全ての吸着した薬剤は放出し、最初のUDMA樹脂が、低い薬剤結合能力および短い薬剤放出期間を有することを示唆する。対照的に、10重量%のアクリル酸と共重合されたUDMAディスクでは、59.8±2.5μg/cm(n=5)の劇的に増加した結合能力が示された。これは、コポリマーのアクリル酸成分とミコナゾールとの間でのイオン性錯体の形成の結果であると考えられる。
【0026】
実施例2
本実施例において、カルボキシレート基を含有する官能性ポリマーをポリメタクリレート樹脂にコーティングし、義歯樹脂を製造した。特に、Aldrichから購入し、1:0.016のメタクリル酸メチル:メタクリル酸供給比および34,000の分子量を有する10%のポリ(メタクリル酸メチル−co−メタクリル酸)(MMA−co−MAA)をエタノール中に溶解した。従来のPMMA系熱重合アクリル樹脂を表し、義歯床の製造に一般に使用される、アクリル義歯樹脂調合物(Lucitone 199)をDentsply Intlから購入した。製造業者の調合法に基づき、モノマーを粉末と混合し、製造業者の推奨(73℃で90分、次いで30分間100℃の熱湯)に伴って、樹脂およびディスク(直径13mm)を無菌で製造した。試験片を視覚的に検査し、空隙がないことを保証した。
【0027】
MMA−co−MAA溶液をブラシでディスクにコーティングした(ディスク対コーティング溶液の重量比は10:1であった)。コーティングされたディスクを、3日間、乾燥用の換気フード中に置いた。その後、ディスクを一晩室温で10%ジグルコン酸クロルヘキシジン(CG)水溶液に浸漬した。得られたディスクを蒸留水で完全に洗浄して結合していない薬剤を除去し、真空下で乾燥させ、そして結合した薬剤を除去すべく自動ソックスレー抽出装置を使用して水で抽出し、UV−VIS分光光度計でλ=260nmの吸光度を測定することによって、結合したCGを定量した。
【0028】
官能性ポリマーを含まない対照ディスク(コーティングされていないアクリルディスク)では、3.2±0.1μg/cmのCG(n=5)が吸着したことがわかった。毎日浸漬溶液を交換して、37℃で人工唾液に3日間浸漬した後、全ての吸着した薬剤は放出し、最初のアクリル樹脂が、低い薬剤結合能力および短い薬剤放出期間を有することを示唆する。対照的に、官能性ポリマー(MMA−co−MAA)でコーティングされたアクリルディスクでは、36.7±5.9μg/cm(n=5)という劇的に増加した結合能力が示された。これは、コポリマーのアクリル酸成分とCGとの間での強い相互作用の形成の結果であると考えられる。
【0029】
実施例3
本実施例において、ピロリドン基を含有する官能性ポリマーをUDMA樹脂にコーティング/グラフト化して、義歯樹脂を製造した。UDMAディスクを実施例1と同様に作成した。アセトン中、8%のUDMA、12%のビニルピロリドンおよび0.05%のAIBNを含有する溶液を、UDMAディスクの両面にコーティングした(ディスク対コーティング溶液の重量比は10:5であった)。ディスクを4時間、換気フード中に置き、その後、2時間80℃、次いで、2時間100℃のオーブンで硬化した。ディスクを、一晩、室温で5%ミコナゾールエタノール溶液に浸漬した。
【0030】
得られたディスクを蒸留水で完全に洗浄して、結合していない薬剤を除去し、真空下で乾燥させ、そして自動ソックスレー抽出装置を使用してエタノールで抽出して、結合した薬剤を除去し、UV−VIS分光光度計でλ=220nmの吸光度を測定することによって、結合したミコナゾールを定量した。
【0031】
官能性ポリマーを含まない対照ディスク(コーティング/グラフト化されていないUDMAディスク)では、7.4±1.2μg/cmのミコナゾール(n=5)が吸着したことがわかった。毎日浸漬溶液を交換して、37℃で人工唾液に3日間浸漬した後、全ての吸着した薬剤は放出し、最初のUDMA樹脂が、低い薬剤結合能力および短い薬剤放出期間を有することを示唆する。
【0032】
対照的に、ピロリドン基を含有する官能性ポリマーでコーティング/グラフト化されたUDMAディスクでは、47.3±3.6μg/cmのピロリドン(n=5)の劇的に増加した結合能力が示された。これは、コポリマーのピロリドン成分とミコナゾールとの間での強い双極子−双極子相互作用、水素結合、および/またはファンデルワールス相互作用の形成の結果であると考えられる。
【0033】
実施例4
59.8±2.5μg/cmのミコナゾールを含有する実施例1のディスクの抗真菌効果を阻害研究の領域で試験し、そして最初のUDMAディスクを対照として使用した。簡潔に、5.3×10CFU/mLのカンジダ・アルビカンス(ATCC 10231)を植菌したYMアガープレートに、対照および薬剤含有ディスクを個々に配置した。次いで、プレートを48時間、37℃で培養した。図2Aに示すように、対照ディスクは、あらゆる阻害領域を示さなかった。しかしながら、ミコナゾール含有ディスクは、5.0±0.4mmの明白な領域を提供し(図2B)、強力な抗真菌効果を示す。
【0034】
実施例5
抗バイオフィルム活性を試験するため、実施例1で作成された59.8±2.5μg/cmのミコナゾールを含有するPAA系UDMAディスクを、37℃で、絶えず振盪させて、5.3×10CFU/mLのカンジダ・アルビカンスYMブロス懸濁液10mLに浸漬した(対照として最初のUDMA樹脂ディスク)。SEM研究によって、1日培養の後、散乱したカンジダ・アルビカンスの細胞が最初のUDMAディスクに付着していること(図3A)、そして3日後に、定着したカンジダ・アルビカンスの層でディスク表面が被覆されていること(図3B)が示され、バイオフィルム形成を示唆する。他方、PAA系薬剤含有ディスクでは、非常によりクリアな表面が示され、そして付着細胞/バイオフィルムを観察することはできなかった(図3Cおよび3D)。
【0035】
実施例6
抗真菌期間を判定するため、実施例1のプロセスによって作成した、59.8±2.5μg/cmのミコナゾールを含有する、一連の新たに作成されたPAA系UDMAディスクを、個々に、絶えず振盪させて(60rpm)、37℃で10mLの人工唾液に浸漬した。浸漬溶液を毎日交換し、そして放出されたミコナゾールの濃度を、220nmのUV−VIS分析によって求めた。図4Aに示すように、結合したミコナゾールは、持続する放出挙動を示した。7日間の放出後、ディスク表面は、37.1±2.2μg/cmのミコナゾールを含有し、14日間の放出後、ディスク表面には、32.1±2.5μg/cmのミコナゾールが残存し、30日後、残存する薬剤の含有量は、25.96±1.8μg/cmであり、そしてさらには60日後、ディスクはなお20.4±2.1μg/cmの結合された薬剤(n=5)を有していた。
【0036】
上記放出の研究と平行して、定期的に、ディスクのいくつかを浸漬溶液から採取し、阻害領域の試験を受けさせ、抗真菌能力に及ぼす薬剤放出の効果を判定した。図4Bに示すように、放出期間の増加(したがって、ディスクに残存する薬剤含有量の減少)とともに、阻害領域の径は減少した。7日間の放出後、阻害領域は5.0±0.4mm(図3Bを参照のこと)から2.6±0.16mm(n=5)まで減少し、14日間の放出後、阻害領域は2.0±0.2mmであり、30日後、領域は1.2±0.15mmであり、そして60日後、領域径は0.4±0.1mmであった。さらに長期の放出期間では、ディスクはいかなる阻害領域ももたらすことができず、これは、25.96±1.8μg/cmが、試験するカンジダ・アルビカンス細胞に対して阻害領域を提供することができる、ディスクに結合されたミコナゾールの最小阻害含有量(MIC)であることを示唆する。
【0037】
実施例7
60日放出研究終了後、ディスクを一晩、室温で、2%ミコナゾールエタノール溶液で再び処理した。自動ソックスレー抽出装置による抽出後、UV−VIS研究によって、再充填されたディスクには62.1±3.2μg/cmのミコナゾールが含まれていることが示された。これは、試験カンジダ・アルビカンス(n=5)に対して5.2±0.6mmの阻害領域を生じることができる。薬剤含有ディスクからのミコナゾールの放出パターンは回復し、そして試験カンジダ・アルビカンス細胞に対する阻害領域径に及ぼす薬剤放出期間の効果は本質的に不変であった。これは、放出された薬剤を完全に再充填して、最初の抗真菌効果を再生することが可能であることを示唆している。
【0038】
実施例8
再充填する際に、ミコナゾールを他の陽イオン抗真菌剤に変更することができた。本研究において、60日間のミコナゾール放出後、実施例1で作成されたディスクを蒸留水で完全に洗浄し、空気乾燥させ、次いで、一晩、室温で、5重量%のグルコン酸クロルヘキシジン(CG)水溶液に浸漬した(最初のUDMA樹脂を対照として使用した)。得られたディスクを蒸留水で完全に洗浄し、結合していない薬剤を除去して、空気乾燥させ、そして自動ソックスレー抽出装置を使用して蒸留水で抽出し、結合したCGを除去した。抽出溶液のCG含有量は、UV−VIS分光光度計によってλ=260nmで定量した。検出可能なCGを、最初のUDMAディスクから抽出することはできなかった。しかしながら、PAA系ディスクは、45.73±2.1μg/cmのCG(n=5)を含有していた。抗真菌期間および阻害領域の試験(実験詳細については実施例2〜4を参照のこと)において、新規のCG含有ディスクは、図5に示すように、最初のミコナゾール含有ディスクよりも短い抗真菌期間および小さい阻害領域を示した。
【0039】
1日放出後、再充填されたディスクのCG含有量は、45.73±2.1μg/cmから38.15±1.0±g/cmまで減少し、そしてディスクは2.0±0.2mmの阻害領域を生じた(n=5、図5Aおよび図5B)。7日間放出後、ディスクには25.11±0.6μg/cmのCGが含まれ、そして阻害領域径は0.2±0.05mmであった。放出期間を14日まで延長した場合、ディスクにはなお19.55±0.3μg/cmのCGが含まれたが、試験カンジダ・アルビカンス細胞に対する明白な阻害領域は検出されることができなかった。これらの現象は、CGの高い水溶性(したがって、より迅速な薬剤放出)および比較的低い抗真菌能力によって生じる可能性があった。それにもかかわらず、14日間放出後、ディスクを一晩、室温で、5重量%のCG水溶液で再び再充填した。最初のCGの96%より多くが再充填され、そして薬剤放出挙動および阻害能力の領域は再び再生した。
【0040】
実施例9
対照として細胞のみの試料および最初のUDMA樹脂ディスクを使用して、bald/cマウス3T3線維芽細胞(ATCC)に対するトリパンブルー(trypan blue)アッセイによって、PAA含有樹脂ディスクの生体適合性をあらかじめ評価した。結果を表1にまとめた。
【0041】
【表1】

トリパンブルーアッセイによって実証されるように、マウス3T3線維芽細胞の生存能力は、3日間接触後の10%のPAAを含むUDMA樹脂ディスクの存在によって、有意に影響を受けなかった。PAA系樹脂に暴露された全ての細胞のうち、少数のみがトリパンブルーで染色された核を有し(細胞死を示す)、そして位相差顕微鏡検査によって観察した時に、染色された細胞は、染色されていない細胞と同じ径であり、同じ形状であった(画像は示さず)。最初のUDMA樹脂ディスクおよびPAA系UDMAディスクに暴露された細胞の培養物は、同等の割合の染色された細胞および無傷の細胞モルフォロジーを示し、そして対照と試験群との間では、3日間暴露された培養物におけるトリパンブルーで染色可能な細胞の割合についての有意差はない(95%信頼水準)。これは、PAA含有実験樹脂の良好な生体適合性を示す。
【0042】
本発明の範囲を逸脱することなく、考察された例示的な実施形態に、様々な変更および追加を実施することができる。例えば、上記の実施形態は特定の特徴を言及するが、本発明の範囲は、特徴の異なる組み合わせを有する実施形態、および上記の特徴の全てを含まない実施形態も含む。
【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能性ポリマー成分を有するポリマー基質と、
延長された期間にわたって前記官能性ポリマー成分から抗真菌薬がゆっくり溶出されるように前記官能性ポリマー成分に放出可能に結合された抗真菌薬と
を備える抗菌性の歯科補綴。
【請求項2】
前記官能性ポリマー成分が、イオン相互作用、双極子−双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合、または疎水性相互作用のうちの1以上を含む特異性相互作用によって前記抗真菌薬と結合する、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項3】
前記官能性ポリマー成分が、前記ポリマー基質にコーティングされるか、またはグラフト化されたものである、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項4】
前記歯科補綴を製造した後に、前記抗真菌薬が前記官能性ポリマー成分に放出可能に結合され得る、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項5】
前記抗真菌薬が、その場で充填されそして特定の真菌感染症に応じて選択され得る、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項6】
前記官能性ポリマー成分が陰イオンポリマー成分である、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項7】
前記官能性ポリマー成分がピロリドン含有ポリマー成分である、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項8】
前記官能性ポリマー成分がポリ(アクリル酸)を備える、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項9】
前記官能性ポリマー成分がポリ(メタクリル酸)を備える、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項10】
前記抗真菌薬が、陽イオン抗真菌薬を備える、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項11】
前記抗真菌薬が、ミコナゾールを備える、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項12】
前記抗真菌薬が、グルコン酸クロルヘキシジンを備える、請求項1に記載の歯科補綴。
【請求項13】
再充填可能なポリマー歯科補綴を有する患者の真菌感染症を低下させる方法であって、
前記患者の真菌感染症を検出する工程と、
前記再充填可能なポリマー歯科補綴に抗真菌薬を充填する工程と、
延長された期間にわたって前記歯科補綴から前記抗真菌薬を溶出させる工程と、
前記真菌感染症が十分に低下したら、残存する抗真菌薬を除去する工程と
を備える方法。
【請求項14】
前記真菌感染症がカンジダ・アルビカンス感染症を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗真菌薬で前記歯科補綴を再充填する工程をさらに備える、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記歯科補綴が、同一の抗真菌薬で再充填され、また、最初の充填に使用される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記歯科補綴が、最初の充填に使用されたものと異なる抗真菌薬で再充填される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
延長された期間にわたって前記歯科補綴から前記抗真菌薬を溶出する工程が、少なくとも約7日間の前記抗真菌薬の抗真菌有効量を溶出する工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記抗真菌材料の抗真菌有効量は、前記歯科補綴に隣接する領域に、最小阻害濃度か最小殺真菌濃度かまたはそれら両濃度を提供するのに十分なものである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記補綴から前記残存する薬剤を除去する工程が、クエンチング溶液と前記補綴を接触させる工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記補綴から前記残存する薬剤を除去する工程が、イオン相互作用、双極子−双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合、および疎水性相互作用の内の少なくとも一つによって前記結合した薬剤と相互作用を形成可能な薬剤と、前記補綴を接触させる工程を含む、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−520434(P2013−520434A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554051(P2012−554051)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2011/025397
【国際公開番号】WO2011/103397
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(512190756)ザ ユニバーシティ オブ サウス ダコタ (2)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF SOUTH DAKOTA
【Fターム(参考)】