説明

再分散可能なエポキシ粉体

【課題】優れた再分散性およびセメント用途での優位な安定性の双方を示すポリマー粉体を提供する。
【解決手段】水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)が、少なくとも50℃のガラス転移温度(T)を有する熱硬化性エポキシ樹脂と、熱硬化性エポキシ樹脂の重量を基準にして少なくとも2重量%のコロイド安定化剤の量の、前記エポキシ樹脂のTgより高い温度で前記エポキシ樹脂を分散させることができるコロイド安定化剤との水性混合物を乾燥させることにより製造される。このRDPは場合によっては硬化剤を含むことができ、かつ水と混合される場合にセメント材料によって、固化、硬化または架橋されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物に使用するための、エポキシ樹脂およびコロイド安定化剤から製造される再分散可能なポリマー粉体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用途においては、モルタルはセメント、砂および有機ポリマーを用いて製造されうる。輸送コストを低減させるために、このポリマーは再分散可能なポリマー粉体として乾燥形態で輸送されかつ添加されうる。再分散可能なポリマー粉体は、セメント系接着剤配合物の接着性を向上させるための結合剤として使用される。このポリマーの粉体形態は、自由流動性粉体を得るために液体ポリマー組成物を噴霧乾燥することによって一般的に製造される。それが添加される適用配合物、例えば、コンクリートにおいてその機能を発揮させるために、適用配合物においてそのポリマー粉体が容易に再分散可能であることが望まれる。
【0003】
酢酸ビニル/エチレンコポリマー、様々なアクリル系ポリマー、スチレン/ブタジエンコポリマー、および酢酸ビニル/ベルサチン酸(versatic acid)ビニルエステルコポリマーなどのエマルションポリマーから製造された再分散可能なポリマー粉体が、セメント系組成物の機械的特性を向上させるために、様々な建築用途、例えば、セメントベースのタイル接着剤(CBTA)および自己平坦化床用コンパウンド(SLFC)において広く使用されている。セメント系組成物の水力学的安定性(hydraulic stability)、圧縮、耐摩耗性、耐溶媒性、並びに化学物質耐性および耐汚染性のような機械的および化学的特性をさらに向上させるために、架橋性ポリマーから再分散可能なポリマー粉体を製造することが望ましいであろう。
【0004】
エポキシは、コンクリートをはじめとするセメント系材料に靭性、低減された水浸透性、速硬化性、並びに化学物質耐性および耐汚染性を付与するために使用される架橋性ポリマーである。エポキシはコンクリートおよびセメントモルタルの修復、並びに下塗り(render)またはコーティングにも使用される。エポキシ官能基は、グリシジルメタクリラートおよび重合性エポキシ官能性モノマーの使用より、または重合工程の前もしくは後で非常に低分子量の液体エポキシをアクリル系ラテックスとブレンドすることによるなどして、エマルションポリマーに組み込まれてきた。しかし、エポキシ官能基含有量は低く、架橋性ポリマーによって潜在的に与えられうる望ましい特性について得るところがほとんどない。別のアプローチは、水系エポキシエマルションまたは液体エポキシ樹脂、およびセメントと一緒にするための水系硬化剤を使用することであって、これは3パートシステムであるが、輸送、混合、ポットライフ、装置汚染などの観点から取り扱うのが困難である。液体エポキシ樹脂または液体エポキシエマルションの乾燥は、乾燥助剤およびケーキング防止剤(anti−caking agent)を使用してさえ、粉体の代わりに再分散が不可能な塊を生じさせることが見いだされてきた。
【0005】
ワーナー(Warner)らへの米国特許第4,123,403号は連続押出プロセスによる、制御された粒子サイズを有する水性エポキシ樹脂マイクロ懸濁物の製造を開示する。分散されるこのポリマーは、通常は固体で、例えば、約20℃を超えて、好ましくは約50℃〜約200℃で、特に約80℃〜約200℃で溶融する熱可塑性樹脂であることができ、その分解点がその融点よりも幾分か高い温度である熱可塑性樹脂であり得る。分散されるこのポリマーは純粋なポリマーである必要はなく、例えば、熱可塑化されたポリマーは従来の添加剤、例えば、顔料、染料、充填剤、安定化剤、難燃剤、乳化剤などを含むことができることが開示されている。好ましい乳化剤は、ポリビニルアルコール(好ましくは少なくとも約50,000、特に少なくとも約100,000の分子量を有する)のような保護コロイドとして機能するものである。この機械的分散は樹脂の融点より少なくとも20℃、特に少なくとも40℃上の温度で行われることができ、この場合、融点はこの樹脂が固体から流動可能な粘稠液体への相変化を受ける温度として定義される。ろ過、遠心分離、蒸発および噴霧乾燥によるような従来の方法でマイクロ懸濁物を脱水することにより、水性ポリマーマイクロ懸濁物から微細分割されたポリマー粉体が得られうることが開示される。その粉体は静電塗装または印刷プロセスに、およびペーパーコーティングにおけるプラスチック顔料として使用されうることが開示されている。
【0006】
ワーナーらの特許の実施例1においては、約120kgmol−1の88%加水分解されたポリビニルアルコールの水溶液が、72℃の軟化点を有する固体エポキシ樹脂に対して5.7重量%のポリビニルアルコールで使用され、かつ約102℃のポリマー連続からポリマー不連続への変換温度で機械的分散プロセスが行われる。冷却後の分散された固体ポリマー粒子の体積平均粒子直径は約0.55ミクロンである。しかし、この樹脂は72℃の軟化点を有するが、ガラス転移温度は有意により低く、製造されたポリマー粒子は劣った再分散性を示したであろう。さらに、ワーナーらはセメント系組成物における噴霧乾燥された再分散可能なポリマー粉体の使用を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,123,403号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明においては、噴霧乾燥助剤またはコロイド安定化剤としてのポリビニルアルコールと共に、高いガラス転移温度(T)を有する熱硬化性または架橋性エポキシ樹脂を使用することが予想外にも、優れた再分散性およびセメント用途での有意な安定性の双方を提供することが驚くべきことに見いだされた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は少なくとも50℃、好ましくは少なくとも55℃、より好ましくは少なくとも60℃、例えば、60℃〜150℃、概して、60℃〜125℃のガラス転移温度(T)を有する熱硬化性エポキシ樹脂、並びに前記熱硬化性エポキシ樹脂の重量を基準にして少なくとも2重量%、好ましくは5重量%〜35重量%、より好ましくは6重量%〜25重量%のポリビニルアルコールの量でポリビニルアルコールを含むコロイド安定化剤の共乾燥(co−dried)混合物を含んでなる再分散可能なポリマー粉体(RDP)を提供する。本発明に従って、このRDPは硬化剤(curing agent、hardener)を含んでいても良く、または含んでいなくても良い。ある実施形態においては、硬化剤は、噴霧乾燥の前ではなく、噴霧乾燥によって製造される架橋性エポキシ粉体との乾燥混合によってシステムに配合されうる。本発明に従って、このRDPは水と混合される際にセメント材料によって、固化され、硬化され、または架橋されうる。本発明の水に再分散可能なポリマー粉体は、予想外に優れた再分散性およびセメント系配合物における良好な安定性を示す。熱硬化性エポキシ樹脂は0.05μm〜5μm、好ましくは0.1μm〜3μm、最も好ましくは0.15μm〜2μmの平均粒子サイズを有することができる。
【0010】
本発明のある形態においては、水に再分散可能なポリマー粉体を得るために、再分散可能なポリマー粉体は熱硬化性エポキシ樹脂、およびPVOHを含むコロイド安定化剤の水性混合物を乾燥させることにより製造されうる。熱硬化性エポキシ樹脂の水性分散物は機械的分散によって、または溶融混練によって、または何らかの他の高剪断混合技術によって提供されることができ、そしてコロイド安定化剤は、熱硬化性エポキシ樹脂の水性分散物の形成前および/または形成中に、熱硬化性エポキシ樹脂と混合されうる。水性分散物が形成された後で、追加の安定化剤が水性分散物に後添加されうる。次いで、水に再分散可能なポリマー粉体を得るために、熱硬化性エポキシ樹脂およびコロイド安定化剤の水性分散物が噴霧乾燥されうる。熱硬化性エポキシ樹脂の水性分散物、および再分散可能なポリマー粉体は、熱硬化性エポキシ樹脂の硬化、架橋または固化なしに、および熱硬化性エポキシ樹脂のための硬化剤を使用することなく得られる。少なくとも50℃のガラス転移温度(T)を有する熱硬化性エポキシ樹脂との、コロイド安定化剤としてのPVOH、好ましくは部分的に加水分解されたPVOHの使用は、セメントベースの組成物において良好な安定性を達成しつつ、噴霧乾燥に悪影響を及ぼすことなく熱硬化性エポキシ樹脂に優れた再分散性をもたらす。
【0011】
本発明の別の形態においては、乾燥混合配合物、またはセメントベースのタイル接着剤のようなセメント組成物は、熱硬化性エポキシ樹脂から製造される水に再分散可能なポリマー粉体とセメント材料とを混合して、乾燥形態において良好な安定性を示す、乾燥モルタル混合物のような組成物を得ることによって製造されうる。乾燥混合組成物が水と混合される前ではなく水と混合される際に、架橋性エポキシ樹脂または再分散可能なポリマー粉体がセメント材料によって硬化、架橋、または固化されうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
他に示されない限りは、全ての温度および圧力単位は、室温および標準圧力(STP)である。示される全ての範囲は包括的でありかつ組み合わせ可能である。
【0013】
挿入語句を含む語句全体はその挿入事項を含むものおよびそれを含まないもののいずれかまたは両方を示す。例えば、語句「(メタ)アクリラート」は、選択的に、アクリラート、メタクリラートおよびこれらの混合物を含む。
【0014】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、語句「分子量」は従来の方法で測定されるような数平均分子量をいう。数平均分子量は通常の算術平均または個々の巨大分子の分子量の平均である。それはn個のポリマー分子の分子量を測定し、その重量を合計し、そしてnで割ることによって決定される。ポリマーの数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィ、粘度測定法(マークホウインク:Mark−Houwink式)、および蒸気圧浸透圧法または末端基決定のような全ての束一的方法によって決定されうる。ポリビニルアルコールについては、PVOH分子量は、他に示されない限りは、再アセチル化された標本についての静的光散乱(絶体方法)と組み合わせられたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって決定されるモル質量の平均重量、Mw、を意味する。Mw値の精度は±15%と見積もられる。エポキシ樹脂については、他に示されない限りは、分子量は式量を意味する場合がある。
【0015】
本明細書において使用される場合、用語「ポリマー」とは、選択的に、コポリマー、ターポリマー、テトラポリマー、ペンタポリマーなどの1種以上の異なるモノマーから製造されたポリマーであって、かつランダム、ブロック、グラフト、シーケンシャル(sequential)またはグラジェントポリマーのいずれかであることができるポリマーをいう。
【0016】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、測定ガラス転移温度(T)が使用される。本明細書において使用される場合、用語「計算T」とは、フォックス式(T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.,第1巻、第3号、第123ページ(1956年))を用いることによって計算されたポリマーのTをいう。本明細書において使用される場合、用語「測定T」とは、示差走査熱量測定法すなわちDSCを用いて測定されるTである(加熱割合10℃/分、Tは変曲の中点を採用する)。
【0017】
本明細書において使用される場合、語句「重量%」は重量パーセントを表す。
【0018】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、語句「平均粒子サイズ」は、レーザー光散乱によって決定される、粉体粒子の分布において、その分布における粒子の50重量%がその粒子より小さくかつその分布における粒子の50重量%がその粒子より大きいような、粒子直径または粒子の最大寸法をいう。粒子サイズ分布は、ベックマンコールター(カリフォルニア州、ブレア)の製品であるコールターLS230粒子サイズ分析装置を、製造者の推奨する手順で用いてレーザー散乱によって測定されうる。レーザー散乱および偏光散乱強度差を介して粒子からの散乱光が角度の関数として集められ、次いで粒子サイズ分布に変換される。
【0019】
本発明者は、ポリビニルアルコール、好ましくは部分的に加水分解されたポリビニルアルコールを熱硬化性エポキシ樹脂の重量を基準にして少なくとも2重量%のポリビニルアルコールの量で含むコロイド安定化剤と、少なくとも50℃のガラス転移温度(T)を有する熱硬化性で硬化されていないエポキシ樹脂との使用によって、エポキシ樹脂と共に概して使用されるエポキシ硬化剤によるのではなく、水の添加の際にセメント材料によって架橋、硬化または固化されうる架橋性で再分散可能なポリマー粉体が製造されうることを見いだした。セメント材料によるエポキシの硬化が好まれるが、アミン、メルカプタンまたは無水物硬化剤のようなエポキシ硬化剤をセメント−エポキシ粉体混合物に添加することが可能である。本発明の再分散可能なエポキシ粉体は噴霧乾燥によって製造されることができ、優れた再分散性を示すことができ、かつ機械的および化学的特性、例えば、セメント系組成物の水力学的安定性、圧縮、耐摩耗性、耐溶媒性、並びに化学物質耐性および耐汚染性を向上させることができる。
【0020】
本発明の意味の範囲内では、ここでの使用のためのエポキシ樹脂はポリヒドロキシ化合物、例えば、モノマー系ポリヒドロキシ化合物、例えば、ポリヒドロキシ炭化水素、またはヒドロキシル官能性オリゴマーのポリグリシジルエーテルである。好ましくは、ポリグリシジルエーテルは少なくとも2つのヒドロキシル基を有するオリゴマーまたはポリマー系化合物である。概して、エポキシ樹脂は、モノマー系ポリヒドロキシ化合物、例えば、ポリヒドロキシ炭化水素またはヒドロキシル官能性オリゴマーのようなポリヒドロキシ化合物と、エピハロヒドリン、例えば、エピクロロヒドリンとの反応生成物である。望まれる場合には、ポリヒドロキシ炭化水素は1以上の非干渉性置換基、例えば、ハロゲン原子、エーテル基、低級アルキルなどで置換されうる。ポリヒドロキシ炭化水素の例には、多価フェノールおよび多価アルコールが挙げられる。モノマー系ポリヒドロキシ化合物の具体的な非限定的な例はレゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールAP(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン)、ビスフェノールF、ビスフェノールK、テトラブロモビスフェノールA、テトラメチルビフェノール、テトラメチル−テトラブロモビフェノール、テトラメチルトリブロモビフェノール、テトラクロロビスフェノールA、4,4’−スルホニルジフェノール、4,4−オキシジフェノール、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオリン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、および4,4’−ジヒドロキシ−α−メチルスチルベンである。ヒドロキシル官能性オリゴマーの例には、フェノール−ホルムアルデヒドノボラック樹脂、アルキル置換フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、クレゾール−ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール樹脂およびジシクロペンタジエン−置換フェノール樹脂が挙げられる。ポリグリシジルエーテルはエピハロヒドリン、好ましくは、エピクロロヒドリンをポリヒドロキシ化合物、例えば、ハロゲン化ポリヒドロキシ化合物と、所望の生成物を製造するような条件下で反応させることによって従来の方法で製造されうる。この製造は当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第5,118,729号を参照)。上記基本反応物質が他の化合物で置換えられたエポキシ樹脂のような修飾エポキシ樹脂も用語「エポキシ樹脂」に包含される。エチレン性不飽和エポキシ化合物を含むモノマー混合物のフリーラジカル重合によって得られるオリゴマーおよびポリマーは本明細書におけるエポキシ樹脂の定義に含まれない。
【0021】
本発明に従って、エポキシ樹脂を製造するために使用されるポリヒドロキシ化合物はポリヒドロキシ炭化水素、好ましくは、芳香族ジヒドロキシ化合物、例えば、ビスフェノールAおよび/またはビスフェノールFである。フェノール−ホルムアルデヒドノボラックのようなオリゴマー化合物がポリヒドロキシ化合物として使用されうる。本発明における使用に好ましいエポキシ樹脂の例には、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルのオリゴマー、典型的には、エピクロロヒドリンとビスフェノールAとの反応生成物であるビスフェノールAのジグリシジルエーテル;ビスフェノールFのジグリシジルエーテルのオリゴマー、典型的には、エピクロロヒドリンとビスフェノールFとの反応生成物であるビスフェノールFのジグリシジルエーテル;ビスフェノールAおよびFのジグリシジルエーテルのオリゴマー、典型的には、エピクロロヒドリンとビスフェノールAおよびFの混合物との反応生成物であるビスフェノールAおよびFの混合ジグリシジルエーテル;フェノール−ホルムアルデヒドノボラック、典型的には、エピクロロヒドリンとフェノールホルムアルデヒドノボラックとの反応生成物;並びに、エポキシ官能性界面活性剤で、典型的には、エポキシ官能性非イオン性もしくはエポキシ官能性アニオン性界面活性剤、および/またはポリ(アルキレングリコール)エポキシド、典型的にはポリ(プロピレングリコール)エポキシドもしくはポリ(エチレングリコール)エポキシドで修飾されたエポキシ樹脂、例えば、このように修飾されたビスフェノールAベースのエポキシ樹脂のような修飾エポキシ樹脂が挙げられる。本発明の実施形態においては、熱硬化性エポキシ樹脂はビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの線状非架橋ポリマーであって、末端エポキシド基を有する当該ポリマーである。本明細書において使用されうる熱硬化性エポキシ樹脂の具体例は、D.E.R.664U、中程度の分子量の固体エポキシ樹脂、これはエピクロロヒドリンとビスフェノールAとの固体反応生成物であり、100℃〜110℃の軟化点を有し、米国、ミシガン州、ミッドランドのザダウケミカルカンパニーから市販されている。
【0022】
好ましくは、エポキシ樹脂のエポキシド当量は、ASTM D1652に従って決定して、600g/eq〜15,000g/eq、より好ましくは800g/eq〜10,000g/eq、最も好ましくは850g/eq〜5,000g/eqであり得る。
【0023】
モノマー、コモノマーまたは化合物、並びにその重量比率および量は、少なくとも50℃、好ましくは少なくとも55℃、より好ましくは少なくとも60℃、例えば、60℃〜150℃、一般的に60℃〜125℃のガラス転移温度(T)を有する熱硬化性エポキシ樹脂を製造するように選択されうる。エポキシ樹脂のTが50℃未満である場合には、噴霧乾燥された粉体の再分散性が低下し、塊状化が起こる傾向があることが見いだされた。このTがセメント組成物に使用するには高すぎる場合には、可撓性および膜形成特性(特に低い温度で)などの最終使用特性は劣っている場合がある。コポリマーのTは示差走査熱量測定(DSC)による既知の方法で決定されうる。
【0024】
本発明に従うポリマー組成物は単一種のエポキシポリマー、または上述のさまざまなエポキシポリマーの混合物もしくはブレンドを含むことができることが理解される。
【0025】
本発明に従って、コロイド安定化剤にはポリビニルアルコール(PVOH)単独、または噴霧乾燥に悪影響を及ぼさない他の従来のコロイド安定化剤と組み合わせたポリビニルアルコールが挙げられうる。本発明の他の実施形態においては、高温で界面活性剤として機能し、かつエポキシ樹脂のTより高い温度、例えば、100℃より高い温度で水中でエポキシ樹脂を分散可能な非PVOHコロイド安定化剤が、PVOHを伴うことなく使用されうる。本発明において好ましくは使用されうるPVOHは2±0.5mPa・s〜18±0.5mPa・s(20℃での4%水溶液)、またはそれより高い範囲の粘度DIN53015、87.7±1.0mol%の加水分解度(鹸化度)、140±10mgKOH/gのエステル価DIN53401、10.8±0.8w/w%の残留アセチル含量、および0.5%の最大灰含量(NaOとして計算)を有することができ、例えば、MOWIOL(モウイオール)4−88、MOWIOL8−88、MOWIOL13−88、およびMOWIOL18−88で、これらはそれぞれ、ドイツ国フランクフルトアムマインD−65926のクラレヨーロッパGmbH、PVA/PVB部門から市販されている。本発明において、その低粘度および使用についての良好な安定性のために特に好ましい市販のPVOHはMOWIOL4−88であり、これは粒状形態で部分的に加水分解されており、4±0.5mPa・s(20℃での4%水溶液)の粘度DIN53015、87.7±1.0mol%の加水分解度(鹸化度)、140±10mgKOH/gのエステル価DIN53401、10.8±0.8w/w%の残留アセチル含量、および0.5%の最大灰含量(NaOとして計算)を有するPVOH(ポリビニルアルコール)である。好ましくは、エポキシ樹脂の優れた分散性および再分散性を達成するためのコロイド安定化剤として使用されるPVOHは部分的に加水分解されたPVOH、例えば、MOWIOL4−88およびMOWIOL18−88である。
【0026】
コロイド安定化剤、例えば、ポリビニルアルコール単独、または他のコロイド安定化剤と組み合わせたポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールが熱硬化性エポキシ樹脂の重量を基準にして少なくとも2重量%、好ましくは5重量%〜35重量%、より好ましくは6重量%〜25重量%であるような量で使用されうる。ポリビニルアルコールの量が2重量%未満である場合には、噴霧乾燥された粉体の再分散性が低下し、そして塊状化が起こりうることが見いだされた。
【0027】
ポリビニルアルコールと共に使用されうる他の保護コロイドの例は、ポリビニルアセタール;ポリビニルピロリドン;水溶性形態の多糖、例えば、デンプン(アミロースおよびアミロペクチン)、セルロース並びにそれらのカルボキシメチル、メチル、ヒドロキシエチルおよびヒドロキシプロピル誘導体;タンパク質、例えば、カゼインもしくはカゼイナート、ダイズタンパク質、ゼラチン;リグニンスルホナート;合成ポリマー、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリラートとカルボキシル官能性コモノマー単位とのコポリマー、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルスルホン酸およびこれらの水溶性コポリマー;メラミンホルムアルデヒドスルホナート、ナフタレンホルムアルデヒドスルホナート、並びにスチレンマレイン酸およびビニルエーテルマレイン酸コポリマーである。しかし、本発明におけるコロイド安定化剤としての使用にはポリビニルアルコール単独での使用が好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂は一般的には水性分散物として製造されない。機械的分散または溶融混練のような周知の方法および装置によって、または高剪断技術の何らかの他の方法および装置によって、液体または半固体または固体のエポキシ樹脂を水性分散物に変換することがむしろ必要である。使用される方法および装置は熱および/または剪断を提供することができ、50℃以上のTを有するエポキシを加熱して、水性分散物を製造するための液体エポキシを製造することができる。安定な水性エポキシ樹脂分散物を製造する典型的な方法は、ミカルスキー(Michalski)らへの米国特許出願公開第2010/0174016号に、特に段落0028〜0029に、およびモネラ(Monela)らへの米国特許出願公開第2007/0292705号に、特に段落0030に記載されており、これらの開示はその全体が本明細書にそれぞれ組み込まれる。ここで適用されうる機械的分散の方法は、例えば、米国特許第3,360,599号、第3,503,917号、第4,123,403号、第5,037,864号および第5,539,021号にも開示され、これらの開示はその全体が参照によって本明細書にそれぞれ組み込まれる。エポキシ樹脂分散物の製造のために界面活性剤が必要とされる場合がある。使用されうる典型的な界面活性剤は米国特許出願公開第2010/0174016号に開示されている。使用されうる典型的な機械式分散装置は加圧高剪断装置、例えば、高剪断混合ブレード、例えば、コーレス(Cowles)ブレードを備えたPARR反応器(イリノイ州モリンのザパーインスツルメントカンパニーによって製造)、改変押出機システム、またはローターステーター装置である。エポキシ樹脂およびPVOHの水性分散物を製造するために、例えば、1825rpm以下の混合速度を可能にする任意の滑車システムを備えた、鋸歯状の歯を備えた攪拌ブレードまたはコーレスブレード、並びに加熱および冷却装置を備えたPARRステンレス鋼圧力反応器が使用されうる。エポキシ樹脂およびPVOHの水溶液はこのPARR圧力反応器内に入れられうる。エポキシ樹脂をそのTより高い温度、例えば、100℃以上まで加熱し液体エポキシを生じさせるために、反応器は密閉され、加熱されうる。この温度に到達した後で、この混合物はエポキシ樹脂とPVOH溶液の充分な混合を可能にするのに充分な時間量にわたって、例えば、約1825rpmで攪拌されることができる。実質的に均質な混合物を得るために、HPLCポンプを用いてこの混合物に水が添加されうる。実質的に均質な分散物を得るために、反応器を空気および水で、例えば、50℃の温度まで冷却しつつ、この冷却プロセス中に攪拌が維持されつつ、水の添加が続けられうる。得られる分散物は190μmフィルタを通したろ過によって集められることができる。また、本発明に従って、エポキシ樹脂およびポリビニルアルコール(PVOH)の押出によってエポキシ分散物が製造されうる。例えば、ポリビニルアルコールの水溶液が、ベルスドルフ(Bersdorff)押出機のような押出機の当初水(IA)インジェクタに送達されうる。ロス−イン−ウエイトフイーダー(loss−in−weight−feeder)を用いて、エポキシ樹脂はこの押出機に供給されうる。エポキシ樹脂フレークがフィードスロートの底部でケーキングするのを妨げ、かつ溶融シールが破れるのを妨げるために、押出機の溶融ゾーンはエポキシ樹脂の軟化温度より低く維持されることができる。バレル温度はエポキシ樹脂のTよりも実質的に上に設定されることができ、例えば、61℃のTを有するエポキシ樹脂について、それは全て130℃に初期設定されることができ、その後に低下されうる。例えば、最も少量のグリットを生じさせるために、75℃の溶融ゾーン温度、110℃の乳化ゾーンおよび100℃の希釈ゾーンが使用されうる。
【0029】
本発明に従って、熱硬化性エポキシ樹脂は0.05μm〜5μm、好ましくは0.1μm〜3μm、最も好ましくは0.15μm〜2μmの平均粒子サイズを有しうる。エポキシ樹脂分散物の固形分量は一般的に30重量%〜75重量%でありうる。
【0030】
本発明の実施形態においては、熱硬化性エポキシ樹脂の水性分散物の形成前および/または形成中に、コロイド安定化剤が熱硬化性エポキシ樹脂と混合されうる。また、熱硬化性エポキシ樹脂の水性分散物の形成前および/または形成中に、界面架橋剤が熱硬化性エポキシ樹脂と混合されうる。水性分散物が形成された後で、追加の安定化剤がこの水性分散物に添加されうる。例えば、本発明の実施形態においては、コロイド安定化剤の全部もしくは一部分が、水性分散物の形成前に、熱硬化性エポキシ樹脂と混合されることができ、コロイド安定化剤の残りの部分、または前に添加されたコロイド安定化剤と同じかまたは異なっている追加のコロイド安定化剤が、この樹脂の水性分散物の形成後に、熱硬化性エポキシ樹脂と混合されることができる。
【0031】
本発明に従って、噴霧乾燥される水性分散物中の熱硬化性エポキシ樹脂は0.05μm〜5μm、好ましくは0.1μm〜3μm、最も好ましくは0.15μm〜2μmの平均粒子サイズを有しうる。
【0032】
本発明の再分散可能なポリマー粉体は、熱硬化性エポキシ樹脂、ポリビニルアルコールを含むコロイド安定化剤、および任意成分を含む水性分散物から製造される。本発明において得られる水性分散物は、一般的には、水性媒体中のポリマー微小粒子の安定分散物またはエマルションと称されるが、概して、30重量%〜75重量%、例えば、35重量%〜65重量%、好ましくは40重量%〜60重量%の固形分量を有しうる。
【0033】
再分散可能なポリマー粉体を製造するために、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥または流動床乾燥によって水性分散物が乾燥させられる。好ましくは水性分散物は噴霧乾燥させられる。噴霧乾燥される分散物の固形分量は、一般的に、分散物の全重量を基準にして25重量%〜65重量%、例えば、35重量%〜55重量%、好ましくは40重量%〜50重量%でありうる。本発明の実施形態においては、コロイド安定化剤は分散プロセスの際に、例えば、機械的分散の際にすでに含まれているので、噴霧乾燥のために追加のコロイド安定化剤を分散物に添加することは必須でない場合がある。別の実施形態においては、噴霧乾燥は、分散物を形成するための分散プロセス中で、ポリビニルアルコールを含むコロイド安定化剤の添加後に行われることができ、次いで噴霧乾燥のために、追加のPVOHおよび/または任意の追加の1種以上の保護コロイドが、分散物に対する噴霧助剤として、PVOH含有分散物に添加されうる。噴霧乾燥のために分散物に添加される追加のコロイド安定化剤は、好ましくは、水溶液の形態である。添加は、均質な分散物混合物が得られる限りは、任意の様式で進行しうる。望まれる場合には、界面活性剤および脱泡剤、並びに充填剤のようなさらなる添加剤が使用されることができ、このさらなる添加剤は、好ましくは乾燥前の水性分散物に従来の量で添加される。例えば、消泡剤はポリマー粒子の重量を基準にして1.5重量%以下の量で使用されうる。本発明の実施形態においては、従来の高流動化剤(superplasticizer)が水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)の重量を基準にして少なくとも0.01重量%、好ましくは5重量%〜15重量%の量で使用されうる。
【0034】
噴霧乾燥は従来の噴霧乾燥システムにおいて行われることができ、例えば、分散物は、加熱されうる乾燥ガス流れ中の単一、2もしくは多流体ノズル、または回転ディスクを用いて霧化されうる。一般的には、空気、窒素または窒素富化空気が乾燥ガスとして使用され、乾燥ガス温度は、一般的には、250℃を超えない。乾燥温度は好ましくは110〜180℃、より好ましくは130〜170℃である。生成物出口温度は、プラント、ポリマー組成物のTおよび望まれる乾燥の程度に応じて、一般的には、30℃〜120℃、好ましくは40℃〜90℃であり得る。
【0035】
貯蔵安定性を増大させるために、例えば、ケーキングおよびブロッキングを防止し、および/または粉体の流動特性を向上させるために、ケーキング防止剤(ブロッキング防止剤)がポリマー粉体に添加されうる。粉体が依然として微細に分散されている限りは、例えば、乾燥ガス中に依然として懸濁されている限りは、この添加は好ましくは行われる。ケーキング防止剤は好ましくは鉱物由来である。それは好ましくはポリマー系構成成分の全重量を基準にして40重量%以下の量で添加される。ケーキング防止剤の例には、これに限定されないが、カオリン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、石膏、シリカおよびシリケート、並びにこれらの混合物が挙げられる。ケーキング防止剤の粒子サイズは、好ましくは100nm〜10μmの範囲である。好ましいケーキング防止剤はカオリンである。
【0036】
再分散可能な粉体の粒子サイズ分布のX50サイズは乾燥条件および乾燥装置に応じて変化する。X50はマイクロメートル単位でのメジアン直径を表し、これは粒子の50重量%がこの直径より小さいことを意味する。水に再分散可能な生じたポリマー粉体は好ましくは5〜100マイクロメートル、好ましくは20〜90マイクロメートル、最も好ましくは50〜80マイクロメートルのX50粒子サイズ直径を有する。粉体の粒子サイズ分布は、1.8〜350μmの測定範囲で、圧縮空気で粉体を分散させて、粒子サイズ分析装置「シンパテックへロス(Sympatec Helos)」を用いるレーザー回折によって測定されうる。
【0037】
粉体中のポリマー粒子の重量、例えば、粉体中の本明細書に記載される熱硬化性エポキシ樹脂の重量は、水に再分散可能なポリマー粉体の全重量の、好ましくは40重量%〜95重量%、より好ましくは65重量%〜85重量%でありうる。
【0038】
再分散可能なポリマー粉体は、5〜100マイクロメートルの平均粒子サイズ、例えば、10μm〜25μm粒子サイズを有することができ、このポリマー粉体は脱イオン水中に容易に分散されることができて、もとの熱硬化性エポキシ樹脂粒子サイズ分布、例えば、0.05μm〜5μm、好ましくは0.1μm〜3μm、最も好ましくは0.15μm〜2μmを提供することができる。
【0039】
本発明の再分散可能なポリマー粉体は水中に容易に再分散されることができ、かつエポキシ樹脂の反応性は乾燥プロセスの際の高温によって悪影響を受けない。ポリマー粉体の容易な再分散性、およびエポキシ樹脂硬化剤を添加する必要なしでアルカリ条件下でのエポキシ樹脂の硬化の可能性は、様々な建築材料の水力学的安定性ならびに他の機械的および化学的特性、例えば、圧縮、耐摩耗性、並びに化学物質および溶媒耐性を向上させるための様々な建築材料への添加剤としてそのポリマー粉体を理想的にする。本発明の実施形態においては、セメント材料による再分散可能なエポキシ粉体の硬化が好まれるが、多官能性アミン、メルカプタン、多官能性酸もしくは酸無水物のような硬化剤が、噴霧乾燥された粉体と乾燥混合されて良いし、または従来の有効な硬化量でセメント−エポキシ粉体に組み込まれても良い。
【0040】
建築材料は、一般的に、無機水硬性結合剤を含む。よって、本発明は無機水硬性結合剤および上述の再分散可能な粉体を含む組成物にも関する。典型的には、無機水硬性結合剤はセメントまたは硫酸カルシウム半水和物(石膏)、好ましくはセメントである。好適なセメントの例には、ポルトランドセメント、アルミナセメント、ポゾランセメント、スラグセメント、マグネシアセメント、およびホスファートセメントが挙げられる。再分散可能なポリマー粉体中のエポキシ樹脂は、アミン、メルカプタン、無水物または酸硬化剤などのエポキシ樹脂硬化剤の添加なしに、好ましくは、セメント材料によって硬化されるので、無機水硬性結合剤および再分散可能な粉体を含む組成物は、エポキシ樹脂のためのアミン硬化剤のような硬化剤を含まないことが可能である。
【0041】
本再分散可能なポリマー粉体の形態でエポキシ樹脂を建築材料に添加する能力は、すぐに使える乾燥混合物である組成物を提供する。最終使用者のための1コンポーネントシステムを生じさせるために、再分散可能なポリマー粉体は水硬性結合剤および追加の成分、例えば、砂などとすでに混合されていて良い。建築現場で、水だけが添加されなければならず、かつ他の材料の面倒な添加は必要ではない。本発明の実施形態においては、無機水硬性結合剤および再分散可能な粉体を含む組成物は、水の添加の後で少なくとも11のpHをもたらしうる。次いで、アルカリ環境は組成物中に含まれるエポキシ樹脂の硬化を引き起こす。PVOHの他に、エポキシ樹脂の分散を助けるために、追加の界面活性剤、例えば、サウスカロライナ州グリーンビル29606のエトックスケミカルズLLCから入手可能な高温活性界面活性剤であるE−スパース(E−SPERSE)100が使用されうる。
【0042】
本発明の硬化剤を含まない組成物は、貯蔵中に望ましくなく反応しうる追加の硬化剤が存在しないので、優れた貯蔵安定性を示す。本発明の再分散可能なポリマー粉体が使用されうる典型的な建築材料は、無機水硬性結合剤を含み硬化剤非含有の1コンポーネント型乾燥混合物、好ましくは、硬化剤非含有の1コンポーネント型セメント含有乾燥混合物である。再分散可能なポリマー粉体が使用されうるより具体的な建築材料の実例には、モルタル、タイルもしくはボード接着剤、石膏もしくはセメントプラスターもしくは下塗り、装飾下塗り、自己平坦化床用組成物、1コンポーネント型シーラントおよび外断熱仕上げシステムが挙げられる。本発明の再分散可能なポリマー粉体を含む材料から得られる対応する硬化した建築材料は、水に浸漬した後でも良好な接着強度(耐水性)を示し、化学物質耐性および耐汚染性を示す。
【0043】
本発明の水に再分散可能なポリマー粉体組成物は様々な用途を有する。本発明の実施形態においては、本発明の再分散可能な熱硬化性エポキシ樹脂ポリマー粉体組成物は、1種以上のアクリル系の再分散可能なポリマー粉体(RDP)、VAE RDP、VAE/VeoVA RDP、ポリウレタンRDP、ポリオレフィン分散物ベースのRDPおよびこれらの混合物とのブレンドで使用されうる。本発明の粉体は建築材料、パーソナルケア(personal care)組成物、医薬組成物および農業用組成物のような様々な組成物における機能的添加剤として、高塩濃度用途または環境、例えば、海洋油井セメンチング、石油およびガス掘削およびセメンチングにおいて、並びに硬水中で使用されうる。粉体のさらなる用途は、例えば、廃棄物、石炭スラグ汚染物質、土壌、土壌浸食制御のような、バルク材料の積み重なりのための合成カバーのための組成物のような廃棄物管理用途であり、これは水の浸透、邪魔な砂埃、臭気および鳥への親和性を最小限にする。この粉体は、噴霧可能であり、安価で広く入手可能でかつ環境に優しいリサイクルされた材料を使用し、プラスチックおよびガラス廃棄物に対して良好な付着性を有し、かつ短時間で形成/硬化しうる代替的埋立地カバーに、並びに接着向上混合物に使用されうる。この粉体は発泡体、例えば、ポリウレタン発泡体の製造に使用されることも可能である。
【0044】
好ましくは、水に再分散可能なポリマー粉体は、無機水硬性結合剤をさらに含むことができる硬化性組成物における添加剤として使用されうる。無機結合剤の例には、セメント、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、ポゾランセメント、スラグセメント、マグネシアセメントおよびホスファートセメント;半水石膏および水ガラスが挙げられる。本発明に従ったポリマー組成物の実例的用途は、タイル接着剤、建築用接着剤、下塗り、目地モルタル、プラスター、小手塗り用組成物、充填用組成物、例えば、床充填用組成物(例えば、自己平坦化床用コンパウンド)、コンクリート修復目地材、目地モルタル、テープ目地材コンパウンド、コンクリート、耐水膜用途、クラック隔離(crack isolation)膜用途、およびセラミック処理のための添加剤である。特に、硬化性組成物における、例えば、セメントベースのタイル接着剤における、または外断熱複合体システムにおける本明細書に記載される水に再分散可能なポリマー粉体の使用は、当初高接着強度、水浸漬後の高接着強度(耐水性)、化学物質耐性、耐汚染性、および水和した硬化性組成物の最終適用前の特定の「オープンタイム」を可能にした後の高接着強度を伴う組成物を生じさせる。本発明の実施形態においては、水に再分散可能なポリマー粉体は、例えば、シリカ、アルミナ、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物のような原料のスリップキャスティングのための結合剤として使用されうる。
【0045】
水に再分散可能なポリマー粉体の好ましい用途は、セメント系もしくは水硬性組成物、または高pH、例えば、少なくとも11のpH、例えば、11.5〜13.5のpHを示す他の組成物におけるものである。本発明の再分散可能なポリマー粉体はモルタル修復またはグラウト組成物、タイル接着剤、例えば、セメントベースのタイル接着剤において使用されうる。セメントベースのタイル接着剤は、概して、水硬性結合剤として、5〜50重量部のセメント、好ましくはポルトランドセメント;主充填剤として40〜70重量部のケイ砂(好ましくは0.1mm〜0.5mmの粒子サイズを有する)、および(タイル接着剤の乾燥重量を基準にして)0.1重量%〜10重量%、好ましくは1重量%〜6重量%の本発明に従う再分散可能なポリマー粉体組成物を含むことができる。さらなる任意成分には、レオロジー、水保持、耐スリップ性を制御しかつ作業性を向上させるための、1種以上のセルロースエーテル(タイル接着剤の乾燥重量を基準にして全量で好ましくは0.05重量%〜1重量%、より好ましくは0.2重量%〜0.5重量%);コンシステンシーおよび作業性を向上させるための微細共充填剤として30μm〜60μmの粒子サイズを有する石英または石灰石粉体;並びに耐スリップ性を向上させるためのセルロースまたは鉱物繊維が挙げられる。
【0046】
水に再分散可能なポリマー粉体の別の用途は自己平坦化床用コンパウンドSLFCである。この粉体は基体への接着性、可撓性、耐摩耗性および老化特性を向上させるために添加されうる。SLFCは概して、CBTAに使用されるのと同じ量の同じ成分を含むことができる。遅延剤または抑制剤、例えば、スイス国ファキコンのニューケムAGから入手可能なセンスパース(Censperse)PC13のようなクエン酸三ナトリウム(クエン酸トリNa)が、SLFC中に概して使用される従来の量で使用されうる。SLFCは硫酸カルシウム(石膏)、促進剤、例えば、炭酸リチウム、および液化剤(liquefier)、分散剤または高流動化剤、例えば、水溶性コポリマー分散剤、例えば、修飾されたポリカルボキシラート技術に基づき、ジョージア州ケネソーのBASFコンストラクションポリマーズによって製造されるメルフラックス(MELFLUX)2651Fを、従来の量で含むことも可能である。別の実施形態においては、水に再分散可能なポリマー粉体は外断熱システムETICSにおいて、特に、断熱板層上の接着剤として、水吸収を低減させかつ外断熱システムの耐衝撃性を向上させるために使用されうる。
【0047】
さらに、本発明に従う水に再分散可能なポリマー粉体は紙製品、板紙製品、カーペット裏当て、塗料もしくはコーティングにおいて、または木材、紙もしくは布地コーティングまたは含浸組成物のための結合剤において、好ましくは、無機水硬性結合剤の実質的な量の非存在下で、より好ましくは、無機水硬性結合剤のあらゆる量の非存在下で使用されうる。例えば、水に再分散可能なポリマー粉体はコーティング組成物および接着剤において単独の結合剤として使用されうる。本発明の実施形態においては、水に再分散可能なポリマー粉体は自動車用途に使用されうる。
【0048】
以下の実施例は例示目的だけのために提供され、特許請求の範囲を限定することを意図していない。他に示されない限りは、全ての部およびパーセンテージは重量基準であり、全ての温度は℃単位であり、並びに異なることが他に示されていない限りは全ての圧力はbarまたは気圧である。
【実施例】
【0049】
実施例1
再分散可能なポリマー粉体はまず、熱硬化性で架橋されておらず硬化されていないエポキシ樹脂の水性分散物を製造することにより製造された。この水性分散物はa)50gのD.E.R.664Uエポキシ樹脂、並びにb)35gのMOWIOL(モウイオール)4−88ポリビニルアルコール溶液(不揮発性物質含量、NV=28重量%)(これは、エポキシ樹脂の重量を基準にして約19.6重量%のPVOHである)を、鋸歯状の歯を備えた攪拌ブレードを有する300mlのPARR反応器に入れることにより調製された。
【0050】
D.E.R.664Uは中程度の分子量の固体エポキシ樹脂であり、これはエピクロロヒドリンとビスフェノールAとの固体反応生成物であり、61℃のガラス転移温度を有し、米国ミシガン州ミッドランドのザダウケミカルカンパニーから市販されている。このD.E.R.664UはASTM D−1652で測定して875g/eq〜955g/eqのエポキシド当量、ASTM D−1652で測定して4.9%〜5.2%のエポキシドパーセンテージ、ASTM D−1652で測定して1140mmol/kg〜1220mmol/kgのエポキシド基含量、ASTM D−445で測定して25℃で500cSt〜900cStの溶液粘度(ジエチレングリコールモノブチルエーテル中40重量%)、ASTM D−445で測定して150℃で4,000cSt〜8,000cStの溶融粘度、ASTM D−3104で測定して100℃〜110℃の軟化点、ASTM D−1209で測定して100マックス(Max.)の色(白金コバルト)(ジエチレングリコールモノブチルエーテル中40重量%)および24ヶ月の貯蔵寿命を有する。
【0051】
モウイオール(MOWIOL)4−88は修飾されていないPVOHである。これはドイツ国フランクフルトアムマインD−65926のクラレヨーロッパGmbH、PVA/PVB部門から市販されている、部分的に加水分解された粒状形態のPVOH(ポリビニルアルコール)である。このモウイオール4−88は4±0.5mPa・s(20℃での4%水溶液)の粘度DIN53015、87.7±1.0mol%の加水分解度(鹸化度)、140±10mgKOH/gのエステル価DIN53401、10.8±0.8w/w%の残留アセチル含量、および0.5%の最大灰含量(NaOとして計算)を有する。
【0052】
この反応器は密閉されそして140℃に加熱され、その温度を達成した後で、この混合物は2〜3分間攪拌されて、エポキシおよびPVOH溶液を約1810rpmで一緒に混合し、実質的に均質な混合物を得た。この混合物に、HPLCポンプを用いて2ml/分の速度で20分間にわたって水が添加された。次の6.5分間にわたって、加熱マントルが取り外されて、冷却のためにPARR反応器の外側に空気の流れが導入されて、この水添加速度は10ml/分に上げられた。水の添加は攪拌を伴い、実質的に均質な混合物を得た。全ての水の添加後に、温度は約95℃に低下した。反応器は室温まで冷却され、再分散可能な粉体を製造するために生成物が取り出された。最終的な熱硬化性エポキシ分散物は表1に示される組成を有していた。
【0053】
【表1】

【0054】
D.E.R.664の最終的な熱硬化性エポキシ分散物は、モバイルマイナースプレードライヤー上に備え付けられた2流体ノズルアトマイザーにポンプ移送された。ノズルへの空気圧力は、6kg/hrの空気フローに等しい50%フローで1barに固定された。噴霧乾燥はN環境下で140℃に固定された入口温度で行われ、混合物の供給速度を調節することによって出口温度は50±1℃を目標にされた。同時に、ケーキング防止剤としてカオリン粉体(KaMin Hg90)がチャンバー内に添加され、その量は乾燥粉体の10重量%となるように制御された。この混合物は混合物の全重量を基準にして約33.8重量%の全固形分量を有する。
【0055】
噴霧乾燥によって得られた再分散可能なポリマー粉体は10μm〜20μmの平均粒子サイズを有していた。
【0056】
噴霧乾燥された粉体は脱イオン水中に1%固形分で再分散させられ、そして30秒間で2回ボルテックスされた。次いで、この再分散物はコールターLS230粒子サイズ分析装置の使用によって測定された。この噴霧乾燥自由流動性粉体は収集ジャーに集められたが、限定されたチャンバー堆積物が観察された。噴霧乾燥前のものである、当初分散物における熱硬化性エポキシ樹脂の粒子サイズ分布は約0.3μm〜約12μmの粒子直径の範囲であり、平均粒子直径は約1.5μmであった。噴霧乾燥後でかつ水中にRDPを再分散させた後のものである再分散物の粒子サイズ分布も約0.3μm〜約12μmの粒子直径の範囲であり、平均粒子直径は約1.5μmであった。このデータは、この粉体がもとの熱硬化性エポキシ樹脂またはラテックス粒子サイズ分布に容易に分散されたことを示した。
【0057】
実施例2
実施例1の再分散可能な粉体組成物を使用するセメントベースのモルタル組成物を製造するために使用されうる成分およびその相対量(重量%または重量部、pbw)が以下の表2に示される。セメントベースのモルタル組成物は、表2に示された固体成分を乾燥ブレンドし、次いで水を添加することにより製造されうる。このセメントおよび再分散可能なポリマー粉体は150ml実験室ガラス器具中に入れられることができ、0.5分間にわたってスパチュラで混合されうる。次いで、水が添加されることができ、3分間にわたってスパチュラで攪拌されうる。混合中の温度は21℃でありうる。
【0058】
【表2】

【0059】
水との混合は、このポルトランドセメントがRDPのエポキシ樹脂を固化、硬化、または架橋させて、セメントベースのモルタル配合物の水力学的安定性、並びに圧縮、耐摩耗性、化学物質耐性および耐溶媒性のような他の機械的および化学的特性を良くすることが可能である。
【0060】
実施例3:
PARR反応器中でのエポキシ分散物の製造のためのバッチ形式分散手順は様々な分散物配合物を素早くスクリーニングすることができる。この例においては、様々なポリビニルアルコールおよびその量の効果が試験され、そしてエポキシ樹脂ガラス転移温度(T)が再分散性に及ぼす効果が示される。1825rpmまでの混合速度を可能にする任意の滑車システムを備えたコーレスブレードを伴い、2.625”内径のPARRステンレス鋼圧力反応器(300mL)が使用された。分散物を製造するために、50.0gのエポキシ樹脂および様々な量の様々な種類および量のPVOH(例えば、27重量%の固形分量の18.5gのPVOH モウイオール4−88溶液は5gのPVOHを提供する)がこの300mL PARR圧力反応器に入れられた。この容器内にスターラーアセンブリが組み込まれ、それが自由に回転するまでは手で回された。次いで、このPARR反応器アセンブリはそのリングスタンド上に備え付けられ、そのスターラーの冷却スリーブに水のホースが取り付けられた。熱電対およびスターラーモーターが接続され、そして加熱マントルが所定の場所に持ち上げられ固定された。この混合装置設定に伴って、反応器は密閉され、D.E.R.664Uエポキシ樹脂については150℃に(D.E.R.661エポキシ樹脂については100℃に)加熱され、その温度に到達した後で、エポキシ樹脂およびPVOH溶液の充分な混合を可能にするために、約1825rpmでこの混合物は10分間にわたって攪拌された。この混合物に、HPLCポンプを用いて1ml/分の速度で30分間にわたって水が添加された。次の5分間にわたって、加熱マントルが取り外されて、PARR反応器が空気および水によって冷却されつつ、この水添加速度は10mL/分に上げられた。反応器は水浴中で50℃まで冷却され、冷却プロセス中は攪拌が維持された。得られた分散物は190μmフィルターを通して集められた。
【0061】
実施例1の61℃のTを有するD.E.R.664Uエポキシ樹脂は本発明に従って使用され、わずか41℃のTを有するD.E.R.661は比較例として使用された。D.E.R.661は低分子量の固体エポキシ樹脂であり、これはエピクロロヒドリンとビスフェノールAとの固体反応生成物であり、ASTM D−3104で測定して75℃〜85℃の軟化点、41℃のT、ASTM D−1652で測定して500g/eq〜560g/eqのエポキシド当量、ASTM D−1652で測定して7.7%〜8.6%のエポキシドパーセンテージ、ASTM D−1652で測定して1780mmol/kg〜2000mmol/kgのエポキシド基含量、ASTM D−445で測定して25℃で165cSt〜250cStの溶液粘度(ジエチレングリコールモノブチルエーテル中40重量%)、ASTM D−4287で測定して150℃で400cSt〜800cStの溶融粘度、ASTM D−3104で測定して100℃〜110℃の軟化点、ASTM D−1209で測定して100マックス(Max.)の色(白金コバルト)(ジエチレングリコールモノブチルエーテル中40重量%)および24ヶ月の貯蔵寿命を有する。
【0062】
噴霧乾燥
噴霧乾燥実験のために、2流体ノズルアトマイザーがモバイルマイナースプレードライヤー(GEA Niro)上に備え付けられた。ノズルへの空気圧力は、6kg/hrの空気フローに等しい50%フローで1barに固定された。サイクロンの底のバルブを開放にして、ガラスジャーがサイクロンの下に配置された。エポキシ分散物(30〜40重量%固形分量)がフィードポンプによって、加熱されたチャンバーにポンプ移送された。噴霧乾燥はN環境下で140℃に固定された入口温度で行われ、分散物の供給速度を調節することによって出口温度は50℃を目標にされた。同時に、ケーキング防止剤としてクレイ粉体(KaMin HG−90)がチャンバー内に供給された。ノズルアトマイザーでの高い空気圧力によってポリマー分散物が霧化された。この加熱されたチャンバー内で出口温度に到達する前に水滴は素早く乾燥させられた。真空ファンはこのチャンバーの外に窒素/水分を一定に引き出し、そしてこのサイクロン上に取り付けられたガラスジャー内に最も乾燥したポリマー粉体が回収された。余分なポリマー粉体はベンチレーション前のフィルターに最終的に集められた。この乾燥粉体は10〜30μmの平均粒子サイズを示す。
【0063】
粒子サイズ分析および再分散性決定
この乾燥粉体は脱イオン(DI)水中に1重量%固形分で分散させられ、そして30秒間で2回ボルテックスされた。次いで、この再分散物における粒子サイズはコールターLS230レーザー光散乱粒子サイズ分析装置によって、この装置のソフトウェアによってあらかじめ決定されたエポキシ樹脂モデルを用いて測定された。
【0064】
この乾燥粉体は1重量%固形分でDI水中に分散されて、再分散物を形成する。再分散性は、この再分散物中の2ミクロン未満のエポキシ粒子の体積パーセンテージとして定義される。例えば、再分散物が、この粒子の10体積%が2ミクロン未満(体積)であることを示す場合には、このサンプルの再分散性は10%である。
【0065】
DER664U樹脂およびDER66U RDPのガラス転移温度(T)はそれぞれ61℃および59℃であり、DER661樹脂および噴霧乾燥粉体のTはそれぞれ41℃および39℃であった。エポキシ樹脂の種類、PVOHの種類、エポキシ樹脂のT、当初水含量、平均粒子サイズおよびバッチプロセスにおいて製造される分散物の再分散性は表3にまとめられる。
【0066】
【表3】

【0067】
表3の上記分散物は50℃の出口温度で噴霧乾燥された。表3に示されるように、エポキシ樹脂に対して少なくとも7.5重量%のPVOHは良好な分散物を形成し、かつ分散物の品質はPVOHの種類によって影響を受けなかった。表3におけるPVOHの種類は(20℃での4%水溶液の)粘度(mPa・s)、加水分解度(鹸化度)(mol%)によって特徴付けられる。例えば、PVOH4−88は、ドイツ国フランクフルトアムマインD−65926のクラレヨーロッパGmbH、PVA/PVB部門から入手可能なモウイオール4−88のような、(20℃での4%水溶液の)約4mPa・sの粘度、および約88mol%の加水分解度(鹸化度)を有する。また、表3に示されるように、61℃のTを有するD.E.R.664Uを用いて製造された分散物は、100%の再分散性を有する粉体に変換されたが、わずか41℃のTを有するD.E.R.661を用いて製造された分散物はわずか10%の再分散性しか有さない粉体に変換された。
【0068】
実施例4
この実施例においては、エポキシ分散物は実施例1〜3のD.E.R.664Uエポキシ樹脂(61℃のT)およびモウイオール(MOWIOL)18−88ポリビニルアルコール(PVOH)の押出によって製造される。モウイオール18−88はドイツ国フランクフルトアムマインD−65926のクラレヨーロッパGmbH、PVA/PVB部門から市販されている。モウイオール18−88は部分的に加水分解された粒状形態のPVOH(ポリビニルアルコール)であって、18±1.5mPa・s(20℃での4%水溶液)の粘度DIN53015、87.7±1.0mol%の加水分解度(鹸化度)、140±10mgKOH/gのエステル価DIN53401、10.8±0.8w/w%の残留アセチル含量、および0.5%の最大灰含量(NaOとして計算)を有する。固体PVOHはエポキシ樹脂と混和性ではなく、かつ固体PVOHの溶解は遅いので、ポリビニルアルコールの水溶液(18.2%固形分、PVOH18−88)が、D.E.R.664Uを分散させるための当初水(IA)インジェクターに送達された。押出はベルスドルフ(Bersdorff)押出機を用いて行われた。DER664Uはロス−イン−ウエイトフイーダー(loss−in−weight−feeder)によって供給された。エポキシ樹脂フレークがフィードスロートの底部でケーキングするのを妨げ、かつ溶融シールが破れるのを妨げるために、押出機の溶融ゾーンはエポキシ樹脂の軟化温度(100℃)より低い75℃に維持された。PVOH18−88溶液は500mLのイスコ(Isco)シリンジポンプのペアによって送達された。PVOH溶液は非常に粘稠で吸引によってロードできなかったので、PVOH溶液は、高圧となるのを防ぐためにポンプと押出機との間の0.5インチ直径の輸送ラインを用いて空のイスコチューブに注がれた。バレル温度は全て最初に130℃に設定され、その後に下げられた。最も少ない量のグリットを生じさせるために、75℃の溶融ゾーン温度、110℃の乳化ゾーン、および100℃の希釈ゾーンが使用された。ベルスドルフ押出機におけるフロントエンドヒーターは実行中は180℃に設定されたままであった。希釈およびIAヒーターはこの実行には使用されなかった。
【0069】
押出プロセスによって製造された分散物の組成および特性は表4にまとめられる。
【0070】
【表4】

【0071】
水性分散物の噴霧乾燥、粒子サイズ分析および再分散性は実施例3におけるように行われた。分散物は100%の再分散性で粉体に変換された。D.E.R.664U RDPのガラス転移温度(T)は59℃であった。製造された分散物の粒子サイズは典型的には2ミクロン未満である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性エポキシ樹脂と、コロイド安定化剤との共乾燥混合物を含み、水に再分散可能なポリマー粉体(RDP)であって、
前記熱硬化性エポキシ樹脂が少なくとも50℃のガラス転移温度(T)を有し、前記コロイド安定化剤が前記エポキシ樹脂のTより高い温度で前記エポキシ樹脂を分散させることができ、並びに前記コロイド安定化剤の量が前記熱硬化性エポキシ樹脂の重量を基準にして少なくとも2重量%である、水に再分散可能なポリマー粉体。
【請求項2】
前記コロイド安定化剤が前記熱硬化性エポキシ樹脂の重量を基準にして少なくとも2重量%の量のポリビニルアルコールを含む、請求項1に記載の水に再分散可能なポリマー粉体。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールの量が前記熱硬化性エポキシ樹脂の重量を基準にして5重量%〜35重量%であり、前記ポリビニルアルコールが部分的に加水分解されており、並びに前記熱硬化性エポキシ樹脂が少なくとも55℃のガラス転移温度(T)を有する、請求項2に記載の水に再分散可能なポリマー粉体。
【請求項4】
当該水に再分散可能なポリマー粉体がエポキシのための硬化剤を含まない、請求項1に記載の水に再分散可能なポリマー粉体。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂がビスフェノールAまたはビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの線状非架橋ポリマーであって、前記線状非架橋ポリマーが末端エポキシド基を有する、請求項4に記載の水に再分散可能なポリマー粉体。
【請求項6】
少なくとも50℃のガラス転移温度(T)を有する熱硬化性エポキシ樹脂と、コロイド安定化剤との水性混合物を乾燥させて、前記エポキシ樹脂を硬化または固化させることなく水に再分散可能なポリマー粉体を得ることを含み、
前記コロイド安定化剤が前記エポキシ樹脂のTより高い温度で前記エポキシ樹脂を分散させることができ、並びに前記コロイド安定化剤の量が前記熱硬化性エポキシ樹脂の重量を基準にして少なくとも2重量%である、
水に再分散可能なポリマー粉体を製造する方法。
【請求項7】
前記コロイド安定化剤が前記熱硬化性エポキシ樹脂の重量を基準にして少なくとも2重量%の量のポリビニルアルコールを含み、前記熱硬化性エポキシ樹脂が少なくとも55℃のガラス転移温度(T)を有し、並びに前記エポキシ樹脂がビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの線状非架橋ポリマーであって、前記線状非架橋ポリマーが末端エポキシド基を有する、請求項6に記載の水に再分散可能なポリマー粉体を製造する方法。
【請求項8】
前記熱硬化性エポキシ樹脂の機械的分散によってエポキシ樹脂分散物を得て、前記エポキシ樹脂分散物とコロイド安定化剤とを混合することにより前記熱硬化性エポキシ樹脂の水性混合物が得られる、請求項6に記載の水に再分散可能なポリマー粉体を製造する方法。
【請求項9】
セメント材料と請求項1に記載の水に再分散可能なポリマー粉体とを混合することを含む、セメント組成物を製造する方法。
【請求項10】
乾燥混合配合物の重量を基準にして少なくとも0.1重量%の量の請求項1に記載の水に再分散可能なポリマー粉体と、セメント材料とを含む乾燥混合組成物。
【請求項11】
当該乾燥混合組成物が水と混合される場合に、前記再分散可能なポリマー粉体がセメント材料によって硬化され、架橋され、または固化される、請求項10に記載の乾燥混合組成物。

【公開番号】特開2013−6760(P2013−6760A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−118657(P2012−118657)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】