説明

再帰的な質量分析に関するデータのコレクションのためのシステムおよび方法

粒子検出器または他の質量分析器を備えている質量分光計を使用して、データを収集するためのシステム、方法、およびコンピュータプログラミングが提供される。検出されたデータを格納するためのデータレコードを含んでいるツリーまたはアレイ構造のようなデータのコレクションは、揮発性または持続性のメモリに維持される。データは質量分析器から受信される。コレクションが、新たに獲得されたデータ信号に対応するデータレコードを含んでいるかどうかが決定される。コレクションが、新たに受信された記録に対応する記録を含んでいない場合には、新たな記録が増加される。いずれにせよ、受信されたデータレコードに対応する記録は、新たに獲得された信号の受信を反映するために更新される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、「System and Method for Data Collection in Recursive Mass Analysis」と題される、2005年6月3日出願の米国特許仮出願第60/686,918号の利益を主張する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、一般に、データのコレクションに関し、さらに詳細には、粒子の再帰的な質量分析に関するデータのコレクションおよび処理のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
質量分析は、質量分光分析とも呼ばれ、分子の質量測定を可能にする機器的アプローチである。質量分光計は、無機化学、有機化学、および有機生物化学の分析における多種多様な用途に対してとても重用になってきた。例としては、地質サンプルの年代特定、薬物テスト、および薬物の発見、石油産業、化学産業、および医薬産業におけるプロセス監視、表面分析、および未知のものの構造識別を含む。さらに、質量分析は継続的に改良されており、近年、分子生物学への用途において飛躍的に進歩しており、現在では、タンパク質、DNA、そしてウイルスでさえも分析することが可能である。
【0004】
質量分析システムは、一般的には、イオン源と、質量分析器と、コンピュータ、プロセッサ、または他のコントローラと結合されているか、またはそれらと一体のデータ収集デバイスとを含む。このようなデバイスの組み合わせは、質量電荷比(m/z)に従って、分子サイズの粒子をイオン化すること、分離すること、および測定することによって、質量分析計が化合物の分子重さを決定することを可能にする。イオンは、電荷の損失または獲得(例えば、電子放出、プロトン化、または脱プロトン化)のいずれかを誘発することによって、イオン化源において生成され得る。いったん、イオンが形成されると、イオンは質量分析器に導かれ、検出され得る。質量分光計を使用した、質量のイオン化および検出は、分子の重量情報を提供し得る質量電荷比(「m/z」)スペクトルを生成するために使用され得る。
【0005】
高解像度の質量分光計は、一般的には、非常に多くの数の可能な質量電荷比のイオンを検出し得る。一般的には、非常の多くの数の値域または独自のアドレスを有する大規模なアレイ型データ構造内の揮発性または持続性のメモリ内に、スキャンの間に収集されたデータが格納され、各値域は分光計によって検出され得る可能な質量電荷比に対応する識別子に関連する。データがスキャンの間に受信されるにつれて、検出された質量電荷比に対応する値域は、検出を反映するように増加される。このアプローチは、可能な最大のスペクトルを保持するために、充分なメモリの使用を可能にし、実際、充分なメモリの使用を必要とする。しかしながら、一般的なスキャンにおいて、全スペクトル範囲の20%だけが実際に検出されている。従って、スキャンは概して圧縮処理が続き、該圧縮処理において、スキャン結果を有するアレイは、圧縮されることにより、所望の閾値を下回る強度の値を保持する値域、例えば、対応するm/z比に関連するイオンが検出されていない値域を消去する。
【0006】
例えば、飛行時間(TOF)式質量分析に適合された分光計を使用する一般的なスキャンの間、分光計は最大で500,000の値域のアレイを維持する。次に、これは、500,000回のスキャン後の繰り返しとなることにより、より管理しやすい質量強度の対のリストにアレイを圧縮し、該質量強度の対のリストは、格納のためにほとんどメモリを必要としない。スキャンが複数のセグメントにおいてか、または高速で獲得されることを必要とする場合に、スキャンに関する格納および処理の需要は劇的に増加し得る。例えば、スキャンが3つのセグメントを有し、従来技術を使用して、0.3秒の間隔で繰り返し獲得されなければならない場合には、事実上、3*500,000/0.3回のスキャン後の繰り返しがアレイを圧縮するために行われる。そのような大きさのアレイを含む圧縮は、比較的に大量のプロセッサリソースを必要とし得、従って、スキャンの間に比較的に長い時間を課し得る。従って、このようなスキャン後の処理は、例えば、スキャンの機会の喪失となり得、関心の化合物は失われるかもしれない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、質量分光計を使用する質量分析において獲得されたデータのコレクション、格納、および他の処理のために有益であるシステム、方法、およびコンピュータプログラミングを提供する。
【0008】
本発明の局面に従って、粒子検出器または他の質量分析器を備えている質量分光計を使用してデータを収集する方法が提供される。検出されたデータを格納するための値域を含むツリーまたはアレイ構造のようなデータのコレクションは、揮発性または持続性のメモリに維持されている。データは検出器から受信される。コレクションが受信されたデータレコードに対応する値域を含んでいるかどうかが決定される。コレクションが受信されたデータレコードに対応する値域を含まない場合には、データレコードに対応する値域が増加される。いずれにしても、受信されたデータレコードに対応する値域が、その受信を反映するように更新される。
【0009】
関連する局面において、本発明は、複数のデータレコードを備えているデータセットにおいて、質量分析器によって獲得されたデータを記録する方法を提供する。データレコードは、対応する質量関連のデータ信号およびカウンタに関連する固有の識別子を備えている。方法は、質量分析器に通信するように連結されているデータプロセッサによって実行されており、質量関連のデータ信号を受信することと、質量分析器によって検出されたイオンの質量電荷比および/または飛行時間のような質量関連のデータ信号に関連する固有の識別子を決定することとを包含する。質量関連のデータ信号に関連する固有の識別子が、既存のデータレコードの固有の識別子に対応する場合には、例えば、データプロセッサによって受信された対応するデータ信号の数が数えられ得るように、既存のデータレコードに関連するカウンタが増加される。新たに獲得されたデータ信号に関連する識別子が、既存のデータレコードの識別子に対応しない場合には、新たな識別子を備えている新たなデータレコードが作成される。このように作成されたデータは、データプロセッサに関連する揮発性および/または持続性のメモリに格納され得る。
【0010】
他の局面において、本発明は、このような方法に従ってデータセットを作成するコンピュータプログラミング媒体およびシステムを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ここで、単なる例示によって、かつ、添付の図面を参考にして記述される。
【0012】
図1は、本発明を実装することにおける使用に適した質量分析システム10の基本構成要素を示す。システム10は、例えば、液体クロマトグラフィーカラム12を含むイオン源12を備えており、該イオン源12は、多段階の質量分析を行うことが可能である質量分光計14に結合されている。本発明は、MSおよびMS/MSまたは他のマルチMSの能力を有する、適切に制御された任意のシステム(例えば、3Dトラップまたは飛行時間(TOF)式の分析器)を使用して実装され得るということを当業者は理解するが、このようなシステムの例は、MDS Sciexによって販売されているQSTAR(登録商標)、API3000TMおよびAPI4000TMLC/MS/MSシステムを含む。データ獲得コントローラ54は、単一または複数のLC/MSの実行からの情報の抽出の最大効率ために、MS/MSに対してMSの自動化された獲得を可能にする。
【0013】
コントローラ54は、質量分光計14によって獲得されるか、または提供されるデータ信号を受信すること、格納すること、および/またはそうでなければ処理することと、質量分光計14によって実行される動作の制御のために適合されたコマンド信号を提供することとに適合されている。コントローラ54は、MSシステム10を制御することに適したユーザインターフェースをさらに提供し得、該ユーザインターフェースは、例えば、ユーザからシステムコマンドを受け取り、それを実装し、出力を表示または制御することなどに適した例示的な入/出力デバイスを含む。特に、コントローラ54は、質量分光計14によって獲得されたデータを処理することと、質量分光計によって行われる質量分析を制御するのに用いるコマンド信号を質量分光計14に提供することとに適合され得、該コマンド信号は、そのようなデータの処理によって生成される情報に少なくとも部分的には基づいて決定される。
【0014】
コントローラ54は、本明細書において記述されている目的を達成することにおける使用に適した任意のデータ獲得および処理のシステムまたはデバイスを備え得る。コントローラ54は、適切にプログラムされているか、もしくは適切にプログラム可能な一般的な目的もしくは特定の目的のコンピュータ、または関連するプログラミング、ならびにデータの獲得および制御のデバイスを有する他の自動データ処理装置を備え得る。コントローラ54は、例えば、質量分析器14によって行われるイオン検出スキャンを制御および監視することと、例えば、本明細書において記述されているような、液体クロマトグラフィ(LC)カラム12によって提供されるイオンの質量分析器14によるそのような検出を表すデータを獲得および処理することとに適合されている。
【0015】
従って、コントローラ54は、適切に符号化された構築プログラミングによって自動的および/または対話的な制御に適合された1つ以上の自動的なデータ処理チップを備え、該プロセッサ54は、1つ以上のアプリケーションおよびオペレーティングシステムのプログラム、ならびに必要であるか、もしくは望ましい任意の揮発性または持続性のストレージ媒体を含む。当業者には理解されるように、本発明を実装することに適した多種多様なプロセッサおよびプログラミング言語が、今や、購入可能となり、かつ、今後開発されていくことは疑いない。適切なプロセッサおよびプログラミングを備えているコントローラの例は、MDS Sciex of Ontario、Canadaによって販売されているQSTAR(登録商標)、API3000TMまたはAPI4000TMLC/MS/MSシステムに組み込まれているものである。
【0016】
本発明を実装することにおける使用に適したイオン源は、本明細書において開示されている目的と矛盾しない任意のLCカラムまたは他のイオン源12を備え得る。例えば、当業者には明白であるように、任意の液体クロマトグラフィまたは他の持続放出イオン源が役立つ。様々な特性のイオンの持続性または他の流れを生成するLCカラムおよび他のイオン源と組み合わせて実装されるときに、本発明は特に効果的である。
【0017】
質量分光計14は、本明細書において開示されている目的と矛盾しない任意のイオン検出器および/または他の質量分析器を備え得る。例えば、当業者には明白であるように、3Dイオントラップ、TOF検出器、および他のタイプの質量分光計が役立つ。本発明は、イオン群の繰り返しのもしくは再帰的なスキャンまたは他のサンプリングが可能である質量分光計と組み合わせにおいて特に有益である。
【0018】
質量分光計14は検出器を備えており、該検出器は、検出されたイオンに従って、質量分光計14がデータ信号の信号を生成することを可能にする。そのようなデータ信号は、質量分光計14に含まれる質量分析器によって検出されたイオンの特性に直接的または間接的に対応する質量関連の信号を概ね含む。例えば、TOFプロセスが質量分析のために使用される実施形態に従って、様々なイオンが様々なときに検出器に到達する。例えば、より小さいイオンの速度がより速いので、より小さいイオンが最初に検出器に到達し得、より大きいイオンは時間が長くかかり得る。従って、m/zは、TOF質量分析器内のイオンの飛行時間を表す質量関連のデータ信号の使用を通じて、検出器へのイオンの到達時間に従って決定され得る。
【0019】
図2を参照すると、コントローラ54と、質量分析器14の質量検出器50に対するコントローラ54の関係が、さらに詳細に示されている。例示的な実施形態において、質量分光計14の検知器50は4つのアノードの検出器を備えており、各アノードは、50、50、50および50として示されており、多くの場合に、TOS質量分析器、制約フラクション弁別器(CFD)62、時間デジタル変換器(TDC)66および信号収集デバイス58に組み込まれる。1つ以上のイオンが4つのアノード50〜50のうちの任意のものに衝突したときには、イオンは、対応するパルス、すなわち、質量関連のデータ信号を生成する電気カスケードを引き起こし、該対応するパルスは制約フラクション弁別器(CFD)62を通って送信され得る。別の実施形態において、検出器50は、移動する電荷によって生成される電流を誘導することによって動作し得ることにより、このような信号を生成する。さらに別の実施形態において、検出器50は電子増倍管またはシンチレーションカウンタを含み得、このような信号を提供する第2の電子のカスケードに、入射イオンの運動エネルギーを変換し得る。これらまたは他のすべての適切なタイプの検出器が、意図されている発明の範囲内にある。
【0020】
NIM、TTL、および他のパルスが、本発明を実装することにおける使用に適したデータ信号を提供することに非常に役立つということが分かっている。NIM信号は、例えば、−0.8ボルトで発信され、TTL信号は、概ね、+5ボルトの信号を提供する。
【0021】
本発明に従ったシステムを使用してここで行われる様々なタイプの分析に関しては、特に、高速が必要とされる場合に、NIMパルスが特に有効であるということが分かっている。従って、現在実装されている実施形態において、CFD62からの出力信号は、時間デジタル変換器(TDC)66に伝送される1〜15ナノ秒のNIMパルスである。他の実施形態において、CFD62の質量関連の信号出力62は異なる形式を取り得る。TDC66は、短い(先入れ先出し)FIFOキューQにおける質量分析器46における推進パルスに関する到着時間を格納する。
【0022】
本発明を実装することにおける使用に適した様々なCFDが今や市販されている。一例としては、約5〜20ナノ秒のパルス幅または信号の持続期間を提供するthe Ortec 975 Quad CFDである。本明細書において記述されているタイプの機器を使用する様々なタイプの分析に関しては、15ナノ秒のパルスが非常に役立つことが分かっている。
【0023】
本発明を実装することにおける使用に適した様々なTDCが現在市販されている。成功裏に使用されている一例は、Ionwerksによって提供されている。特に、適切なハードウェアまたはデジタル信号処理(DSP)の閾値化が、質量分析器によって提供されているデータ信号に適用される場合には、ADCがまた本発明の実装における使用に適しているということに留意されたい。
【0024】
示されている例において、接続部70は、信号収集デバイス58に位置付けされているか、またはそれと通信するように関係付けられている(すなわち、通信するように連結されている)入力デバイス74にTDC66におけるFIFOキューから、到着時間の信号を送信する。本実施形態において、入力デバイス74はHotLink高速シリアルコントローラを備えており、接続部70は、適切に装備された周辺機器を演算デバイスに接続するように動作可能であるHotLink高速シリアルケーブルを備えている。他の実施形態において、入力デバイス74は、他のタイプの入力コントローラ、例えば、FireWire、ユニバーサルシリアルバス(USB)または高速パラレルポートのコントローラを備え得、接続部70は、使用される入力デバイスのタイプに適した他のタイプのケーブルまたは接続部を含み得る。再び図2を参照すると、キューQに格納されている飛行時間を表している単一の質量関連のデータ信号が楕円形Aとして表されており、システム内での動きが点線の矢印で示されている。本実施形態において、デジタル化されたデータはイオンの到着時間を示す値を含み、図2において、楕円Aとして表されている。
【0025】
ここで図3を参照すると、データ収集デバイス58を実装することにおいて有益な内部構成要素のブロック図が示されている。本実施形態において、収集デバイス58は、Dell corporation of Round Rock、 Texasによって製造されているDell Precision 670のような標準規格のデュアルプロセッサマイクロコンピュータを備えている。他の実施形態において、他のタイプの装置、例えば、単一もしくは複数のプロセッサマイクロコンピュータ、ミニコンピュータ、または特定の目的に専用の電子ボードが収集デバイス58として使用され得るということに留意されたい。本明細書において開示される目的を達成することにおける使用に適した任意のコンピュータまたは他のデータプロセッサが役立つ。
【0026】
図3に図示されている実施形態において、デバイス58は少なくとも1つのプロセッサ78を含む。プロセッサ78は、読み取り専用メモリ(「ROM」)82に接続されており、該読み取り専用メモリ82は、複数のアプリケーションをプロセッサ78に実行させることにおける使用に適したプログラミング媒体を格納し得ることにより、該複数のアプリケーションは、本明細書において開示された様々な機能を実行することをデバイス58が可能にする。プロセッサ78はまた、ランダムアクセスメモリユニット(「RAM」)86と、デバイス58の様々な不揮発性の格納機能を果たす持続性格納デバイス90とに接続されている。プロセッサ78は、ディスプレイ94を含む様々な出力装置に出力信号を送信し得る。プロセッサ78は、本明細書において開示されているプロセッサを実装することにおける使用に適した任意のデジタル信号プロセッサを備え得る。
【0027】
デバイス58はまた、上で記述されたように、接続部70からコントローラ74を介してデータを受信し得ることにより、例えば、プロセッサ78は、TDC66および/またはCFD62のような任意の中間デバイスを介して、質量分析器14の検出器50に通信するように連結されている。従って、コントローラ54および/またはプロセッサ78は、特に、質量分析器14から受信された質量関連のデータ信号をRAM86に直接的に送信するために動作可能である。一部の実施形態において、コントローラ54は、プロセッサ78を通過することなく、RAM86に直接的にデータ信号を送信するために動作可能である。本実施形態において、コントローラ54はさらに、ダイレクトメモリアクセス(DMA)プロトコルを使用して、メモリに直接的にアクセスするために動作可能である。他の実施形態において、他のプロトコルがRAM86に直接的にアクセスするために使用され得る。従って、本実施形態において、コントローラ54は、接続部70を介して時間データAを受信する。再び図3を参照すると、コントローラ54は、メモリ60内に存在し得る先入れ先出し(FIFO)バッファBにデータAを移動するために動作可能である。本実施形態において、バッファBは2メガバイトであるが、他の実施形態において、スキャンの長さ、バッファBへのデータの到達速度、およびバッファBからのデータの除去の速度のような様々なパラメータに従って、バッファBのサイズは変更され得る。これらすべてまたは他のバリエーションは、本発明の範囲内となる。
【0028】
従って、当業者には明らかであるように、プロセッサ78は、質量分析器14から質量関連のデータ信号を受信し、データ信号の特性に対応する固有の識別子を決定し得る。例えば、当業者には周知である適切な機械的な関係を使用して、TOF質量分析器内の飛行時間を表しているデータ信号は、質量電荷比を表す値に変換され得、別個のそれぞれのm/z比は、本明細書において記述されているように、そのm/z比に対応する記録データに関連する固有の識別子として有益であり、質量分析器14によって検出されたm/z比のイオンの数、または電荷強度を決定することに有益である。
【0029】
ここで図4を参照すると、デバイス58はまた、RAM86内で、データのコレクションまたはセットCをアセンブルし、かつ、維持しており、該データのセットCは、例えば、本明細書において記述されているように、質量分光計14によって提供されるか、またはそこから獲得されるデータ信号に対応または関連するデータレコードを含む。バッファBからのデータ信号は、例えば、イオンスキャンの手順の間に質量分光計14からセットCに送信され得る。本実施形態において、各スキャンは、一般的には、約100ミリ秒から2000ミリ秒の間で持続する。従って、本実施形態において、セットまたはコレクションCは、100ミリ秒から2000ミリ秒までの間のスキャンの間に分光計14によって収集され得るm/zスペクトルに対応する、イオンの到着時間を表すスペクトル値を含む。さらに、本実施形態において、分光計14の解像度は、イオンがスキャンにおいて検出され得る、最大で5,000,000の固有の可能な到着時間の値となり得るようなものである。
【0030】
当業者には理解されているように、いったん当業者が本開示を熟知すると、データセットCは多種多様な方法で実装され得る。1つの現在実装されている実施形態において、例えば、データセットCは2分木の形式で実装される。例えば、コレクションCは、SGI Inc.によって公開されているStandard Template Libraries(STL)において提供される2分木テンプレートを使用して実装され得る。図5に示されているように、2分木のコレクションCの各ノードまたはデータレコードは、質量分光計14から獲得される質量関連のデータ信号の特性、すなわち、示されている例において、質量電荷比および累積的な信号強度を含む質量強度の対に対応する2つの要素を備えている。図示された実施形態において、左側の要素は到着時間の値を表す値を含み、該到着時間の値はm/z比に対応しており、鍵、すなわち、固有のデータ信号識別子としても使用される。右側の要素は、その到着時間の値に関連するイオンの数を格納する。本実施形態において、2分木のコレクションにおけるデータは、鍵または固有の識別子、例えば、m/z比に従った順序方式で、既知の2分木プロトコルに従って格納される。例えば、ノードのうちの左側の子孫または子供は、右側の子孫よりも大きい鍵の値を有する。しかしながら、他の実施形態において、ハッシュ表のような他のデータ構造およびリンクされたリストがまた使用され得るということに留意されたい。本明細書において開示されている目的および処理と矛盾しない全てのデータ構造は本発明の範囲内にあると考えられる。
【0031】
ここで図6を参照すると、質量分光計のスキャンを使用してデータを収集する方法は、概略的に、200で示されている。本方法に関する説明を助けるために、方法200は、本明細書において記述されているような、分光計を含むシステム10によって実行されるということが想定されている。さらに、方法200に関する以下の記述は、システム30とその様々な構成要素に関するさらなる理解をもたらす。しかしながら、システム10および/または方法200は変更され得、本明細書に記述されている通りに互いに協働して働く必要はないということと、このようなバリエーションは本発明の範囲内となるということとが理解されるべきである。
【0032】
スキャンの開始において、2分木データセットCは空である。スキャンの間またはスキャンが完了したあとの任意のときに、例えば、全てのスキャンデータが適切なバッファに格納された場合に、方法200の実行が開始し得る。本実施形態において、データがバッファBにおいて利用可能であるとすぐに、方法200は開始する。しかしながら、本方法の説明を単純化するために、スキャンはすでに開始しており、コレクションCは多数のデータポイントをすでに受信しており、図5に示されているポイントまで完成されているということが想定されている。
【0033】
図6を再び参照すると、210において、質量関連のデータ信号は、プロセッサ78によって、質量分析器14から受信される。図7に示されているように、本実施形態において、データ信号Aは到達時間値875,000を表しており、プロセッサ78によってバッファBから読み取られ、受信データとなる。215において、対応するデータレコードの固有の識別子として、データセット内で使用され得る時間値875,000に対応する情報を含む任意のデータレコードが、データセットC内にすでに存在するかどうかが決定される。特に、コレクションCが検索されることにより、鍵の値または固有の識別子875,000に対応するノードまたはデータレコードが存在するかどうかを決定する。現在の例において、このようなノードが存在していない場合には、プロセッサ78は方法200のステップ220に進む。
【0034】
220において、対応するデータレコードが既存のデータセット内で発見されない場合には、新たなノードが加えられる。特に、図8に示されているように、時間値(従って鍵)875,000に対応するノードが加えられる。また、図8に示されているように、新たに作成されたデータレコード804は最初の値1を有する関連するカウンタの値を含む。225において、新たに作成されたデータ信号に対応するノード804は更新される。特に、図9に示されているように、対応する時間、m/z、または他の質量関連の値を有するイオンが受信されたことを反映するように、ノードのカウンタが増加される。
【0035】
方法200の別の実行において、210において受信されたデータ信号は時間値250,000に対応するということが想定されている。従って、図9に示されているように、215の実行の間に、受信データに対応するデータレコードまたはノード806がすでに存在しているということが決定され、方法200の実行から225に進み、つまり、220の実行をとばす。次に、225の実行は、図10に示されているように、値17から値18への、ノード250,000における計数値の増加をもたらし得る。
【0036】
方法200の実行は、バッファBにデータ信号が存在するだけ多くの回数を繰り返され得る。例示的な実施形態において、データ信号は5ミリ秒毎にバッファBから受信される。しかしながら、当業者には明らかであるように、方法200の実行の頻度は、スキャン速度、処理速度および接続速度のような様々なパラメータに従って調節され得る。これらまたは他のバリエーションが本発明の範囲内となる。
【0037】
他の局面において、本発明は、本明細書において記述されている方法およびプロセスに従って、質量分析器によって獲得されたデータを1つ以上のデータプロセッサに記録させることに適合されているコンピュータプログラミング媒体を提供する。当業者には明白であるように、多種多様なプログラミング言語および構造が使用され得ることにより、本発明を実装する。例えば、アセンブリ言語コードまたは高級言語、例えば、Cバリアント、FORTRAN、またはCOBOLのうちの任意のものなどが使用され得ることにより、適切に適合された機械命令を備えている多種多様な適切なルーチン、モジュールおよびアプリケーションを実装する。当業者たちが本開示に熟知するようになると、適切な言語とプログラミング構造の組み合わせの選択は当業者には困難ではない。
【0038】
本発明の様々な特徴および構成要素の特定の組み合わせが本明細書において記述されているが、開示された特徴および構成要素のサブセット、および/またはこれらの特徴および構成要素の代替的な組み合わせが、要望に応じて利用され得るということが当業者には明白である。例えば、スキャンは複数のセグメントを備え得、それぞれが異なるコレクションCを必要としている。さらに、分光計14は複数の検出器を含み得、4極子分光計の場合のように、それぞれが、1つのコントローラ内の別個のチャンネルか、または別個のコントローラ内の1つのチャンネルにデータを供給する。つぎにこれらのチャンネルのそれぞれが、異なるバッファにデータを供給し得、異なるバッファからのデータは、異なるコレクションCに収集され得る。従って、スキャンは複数のデータコレクションCを生じ得る。例えば、分光計が4つの検出器を有し、スキャンが3つのセグメントで完了する場合には、合計で12個の別個のコレクションCがスキャンごとに生成される。
【0039】
さらなるバリエーションにおいて、検出されたデータ信号は、単一のイオン、または同時に検出された一群のイオンによってもたらされる検出器の反応を表す強度の値を含み得る。従って、コレクションCに送信されるデータ信号Aは、ノード804のカウンタを増加する値に対応する増加関連値を有し得る。
【0040】
バッファの存在しないことがあり得るさらに別のバリエーションにおいて、データが入力デバイス74によって受信されると、方法200がデータに適用され得る。
【0041】
本発明の上で記述された実施形態は、本発明の例示であることが意図されており、本発明の範囲を逸脱することなく、そこに代替および改変が当業者によって加えられ得、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみによって定義される。従って、本発明は、上で述べられた厳密な実施形態、または方法論もしくは構成には限定されない。プロセス自体に必要とされるか、またはプロセス自体に内在する範囲を除いて、図面を含む本開示において記述された方法またはプロセスのステップまたは段階に関する特定の順序は、意図または暗示されていない。多くの場合において、記述された方法の目的、効果、または趣旨を変えることなく、プロセスのステップの順序は変更され得る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明を実装することにおける使用に適した質量分析システムの概略的ブロック図である。
【図2】図2は、本発明を実装することにおける使用に適したコントローラの概略的ブロック図である。
【図3】図3は、本発明を実装することにおける使用に適した構成要素の概略的ブロック図である。
【図4】図4は、本発明を実装することにおける使用に適した構成要素の概略的ブロック図である。
【図5】図5は、本発明に従ったデータセットの概略図である。
【図6】図6は、本発明に従ったデータを収集する方法の概略的流れ図である。
【図7】図7は、本発明を実装することにおける使用に適した構成要素の概略的ブロック図である。
【図8】図8は、本発明に従ったデータセットの概略図である。
【図9】図9は、本発明に従ったデータセットの概略図である。
【図10】図10は、本発明に従ったデータセットの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデータレコードを備えているデータセットにおいて、質量分析器によって獲得されたデータを記録する方法であって、該データレコードは、対応する質量関連のデータ信号およびカウンタに関連する固有の識別子を備えており、該方法は、該質量分析器に通信するように連結されているデータプロセッサによって実行され、
a.該質量関連のデータ信号を受信することと、
b.該質量関連のデータ信号に関連する該固有の識別子を決定することと、
c.該質量関連のデータ信号に関連する該固有の識別子が、既存のデータレコードの固有の識別子に対応する場合には、該データレコードに関連するカウンタを増加させることと、
d.そうでない場合には、該固有の識別子および関連するカウンタを備えているデータレコードを作成することと
を包含する、方法。
【請求項2】
持続性のメモリに前記データセットを格納することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記質量関連のデータ信号は、前記質量分析器によって検出されたイオンの質量電荷比を表している、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
a.質量関連のデータ信号を受信することと、
b.該質量関連のデータ信号に関連する固有の識別子を決定することと、
c.該質量関連のデータ信号に関連する該固有の識別子が、既存のデータレコードの固有の識別子に対応する場合には、データレコードに関連するカウンタを増加させることと、
d.そうでない場合には、該固有の識別子および関連するカウンタを備えているデータレコードを作成することと
をデータプロセッサに行わせることによって、複数のデータレコードを備えているデータセットにおいて、該データプロセッサに質量分析器によって獲得されたデータを記録させるように適合されているコンピュータプログラミング媒体。
【請求項5】
前記データプロセッサに、持続性メモリ内にデータセットを格納させるように適合されている、請求項4に記載のプログラミング媒体。
【請求項6】
データを記録することに有益なシステムであって、
イオン源によって提供されるイオンを検出することに適合されている質量分析器と、
プロセッサと、該プロセッサに関連するメモリと
を備えており、該プロセッサは、
a.質量関連のデータ信号を受信することと、
b.該質量関連のデータ信号に関連する固有の識別子を決定することと、
c.該質量関連のデータ信号に関連する該固有の識別子が、既存のデータレコードの固有の識別子に対応する場合には、該データレコードに関連するカウンタを増加させることと、
d.そうでない場合には、該固有の識別子および関連するカウンタを備えているデータレコードを作成することと
に適合されている、システム。
【請求項7】
前記質量関連のデータ信号は、前記質量分析器によって検出されたイオンの質量電荷比を表している、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記質量分析器は、飛行時間式質量分析器を備えている、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記質量関連のデータ信号は、前記質量分析器によって検出されたイオンの飛行時間に対応する、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記イオン源は、液体クロマトグラフィのカラムを備えている、請求項6に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−542729(P2008−542729A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513885(P2008−513885)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000920
【国際公開番号】WO2006/128306
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(505377197)エムディーエス インコーポレイテッド ドゥーイング ビジネス スルー イッツ エムディーエス サイエックス ディヴィジョン (12)
【Fターム(参考)】