説明

再構成ヒト乳房腫瘍モデル

組み換えヒト乳房腫瘍モデルを開示する。マウスに組み込まれるモデルは、自発的に生じる実際の腫瘍を提供し、それによって、天然に起こる乳癌を模倣する。腫瘍は、宿主マウスに移植したヒト乳房上皮細胞から発生したヒト乳房組織から生じるため、遺伝子的にヒトの腫瘍である。移植の前に、乳房上皮細胞を遺伝子的に改変して、(a)組み換えヒト癌遺伝子及びSV40er、又は(b)組み換えヒト癌遺伝子、p53経路を阻害する導入遺伝子若しくはshRNA、及びRb経路を阻害する導入遺伝子若しくはshRNAを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、米国特許出願第11/006,413号(2004年12月7日出願)及び米国特許出願第11/170,338号(2005年6月28日出願)の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明の分野は、分子生物学及び腫瘍学である。
【背景技術】
【0003】
従来のヒト−マウス異種移植モデルは、ヒト癌細胞をインビボで扱える利点を提供する。しかし不都合なことは、ヒト細胞が長年にわたり、別個の細胞系(NCI60パネル)として培養中に維持されてきたことである。このことは、原発性腫瘍細胞と比較すると、異種移植細胞の間の特性及び挙動に有意な差をもたらす可能性がある。原発性腫瘍細胞を扱う必要性に対処するため、マウスに自然発生腫瘍をもたらすインビボモデルが開発されてきた。例えば、特許文献1を参照のこと。しかし、これらのモデルにおける腫瘍細胞はマウスの腫瘍細胞である。したがって、ヒトの癌研究において、種を越えた実験結果の推定が依然として必要である。
【特許文献1】米国特許第6,639,121号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
遺伝子的にヒトの乳房腫瘍をマウスに生じる技法が発見された。この発見に基づいて、本発明は、再構成ヒト乳房腫瘍モデルを含むマウスを特徴とする。
【0005】
モデルは、少なくとも一つの自然発生腫瘍を含む。腫瘍は、複数のヒト乳房上皮細胞(HMEC)を含む。一部の実施形態において、HMECは、組み換えヒト癌遺伝子、例えばKRAS、及び組み換えSV40初期領域(SV40er)を含む。別の実施形態において、HMECは、組み換えヒト癌遺伝子、例えばKRAS、又はp53経路を阻害する導入遺伝子若しくはshRNA、及びRb経路を阻害する導入遺伝子若しくはshRNAを含む。p53経路を阻害する代表的な導入遺伝子は、p53R175Hのような、ヒトp53不能突然変異をコードする導入遺伝子である。ヒトRb経路は、例えば、組み換えサイクリンD1(CCND1)遺伝子の発現又は過剰発現により阻止又は阻害される可能性がある。
【0006】
好ましくは、腫瘍成長部位は、マウスの乳房脂肪パッド、マウスの生殖腺脂肪パッド、マウスの腎臓莢膜、又はマウスの皮下部位、例えば側腹部の皮下部位である。本発明の一部の実施形態において、モデルは又、複数のヒト線維芽細胞、例えばヒト乳房線維芽細胞も含む。ヒト線維芽細胞の一部又は全ては、腫瘍の中に位置することができる。ヒト線維芽細胞は、癌腫関連線維芽細胞、又は遺伝子操作された線維芽細胞、例えば不死化線維芽細胞、並びに始原ヒト線維芽細胞であってもよい。
【0007】
本発明に従ってヒト乳房上皮細胞に導入できるヒト癌遺伝子の例には、K−RAS、H−RAS、N−RAS、EGFR、MDM2、RhoC、AKT1、AKT2、MEK(MAPKKとも呼ばれる)、c−myc、n−myc、β−カテニン、PDGE、C−MET、PIK3CA、CDK4、サイクリンB1、サイクリンD1、エストロゲン受容体遺伝子、プロゲステロン受容体遺伝子、erbB1、erbB2(HER2とも呼ばれる)、erbB3、erbB4、TGFα、TGF−β、ras−GAP、Shc、Nck、Src、Yes、Fyn、Wnt、Bcl、及びBmi1が挙げられる。好ましいヒト癌遺伝子は、KRAS、ErB2、及びサイクリンD1である。
【0008】
本発明の一部の実施形態において、組み換えヒト癌遺伝子は、誘導性プロモーターに作動可能に連結される。有用な誘導性プロモーターの例には、テトラサイクリン誘導性プロモーター、メタロチオネインプロモーター、IPTG/lacIプロモーター系、エクジソンプロモーター、及びミフェプリストン誘導性プロモーターが挙げられる。好ましい誘導性プロモーターは、テトラサイクリン誘導性プロモーターである。
【0009】
本発明は又、再構成ヒト乳房腫瘍モデルを含むマウスの作製方法も提供する。一つの方法には、以下の工程が含まれる:(a)非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞を提供する工程;(b)ヒト乳房上皮細胞を提供する工程;(c)ヒト乳房上皮細胞に組み換えヒト癌遺伝子及び組み換えSV40erを導入する工程;及び(d)非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞及び形質導入ヒト乳房上皮細胞を互いに近接してマウスに移植する工程。
【0010】
代替の方法には、以下の工程が含まれる:(a)非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞を提供する工程;(b)ヒト乳房上皮細胞を提供する工程;(c)ヒト乳房上皮細胞に、(i)組み換えヒト癌遺伝子、例えばKRAS、(ii)p53経路を阻害する導入遺伝子又はshRNA、及び(iii)Rb経路を阻害する導入遺伝子又はshRNAを導入し、それによって、形質導入乳房上皮細胞を形成する工程;及び(d)非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞及び形質導入ヒト乳房上皮細胞を近接してマウスに移植する工程。
【0011】
線維芽細胞及び上皮細胞は、乳房脂肪パッド、生殖腺脂肪パッド、腎臓莢膜、又は皮下部位(例えば側腹部の皮下部位)が含まれるが、これらに限定されない部位に移植することができる。
【0012】
本発明は又、癌関連遺伝子を同定する方法も提供する。該方法には、(a)マウスの再構成ヒト乳房腫瘍モデルにおける自然発生腫瘍から腫瘍細胞を提供する工程(この場合、該腫瘍は、(1)誘導性プロモーターの制御下の組み換えヒト癌遺伝子、及び(2)SV40erを含む複数のヒト乳房上皮細胞を含む);(b)細胞のゲノムに組み込まれる核酸を細胞に導入し、それによって核酸が組み込まれた遺伝子座を標識する工程;(c)誘導性プロモーターのインデューサーが存在しない条件下で細胞を培養する工程;(d)腫瘍形成性が核酸分子の組み込みにより誘導された細胞を同定する工程;及び(e)組み込んだ核酸分子により工程(c)の細胞中で標識された遺伝子を、癌関連遺伝子として同定する工程が含まれる。一部の実施形態において、核酸分子はレトロウイルス配列、例えばモロニーマウス白血病ウイルスを含む。
【0013】
本発明は又、化合物の抗腫瘍効果を試験する方法も提供する。一部の実施形態において、該方法には、(a)組み換えヒト癌遺伝子及び組み換えSV40erを含む複数のヒト乳房上皮細胞を含む自然発生腫瘍を含む再構成ヒト乳房腫瘍モデルを含むマウスを準備する工程;(b)マウスに試験化合物を投与する工程;及び(c)適切な対照と比較して、腫瘍に対する試験化合物の抗腫瘍効果があればその効果を検出する工程が含まれる。
【0014】
代替の実施形態において、該方法には、(a)(i)組み換えヒト癌遺伝子、(ii)p53経路を阻害する導入遺伝子又はshRNA、及び(iii)Rb経路を阻害する導入遺伝子又はshRNAを含有する複数のヒト乳房上皮細胞を含有する自然発生腫瘍を含む再構成ヒト乳房腫瘍モデルを含むマウスを準備する工程;(b)マウスに試験化合物を投与する工程;及び(c)適切な対照と比較して、腫瘍に対する試験化合物の抗腫瘍効果があればその効果を検出する工程が含まれる。
【0015】
本発明は又、マウスにおいてヒト乳房原発性腫瘍を増殖させる方法も提供する。該方法には、(a)腫瘍からヒト乳房上皮細胞を提供する工程;(b)不死化非腫瘍形成性ヒト乳房線維芽細胞を提供する工程;(c)上皮細胞及び線維芽細胞を互いに近接してマウスに移植する工程;及び(d)腫瘍を増殖させる上で十分な時間にわたりマウスを維持する工程が含まれる。上皮細胞及び線維芽細胞は、マウスの乳房脂肪パッド、生殖腺脂肪パッド、腎臓莢膜、又は側腹部皮下の部位に移植することができる。本発明の好ましい実施形態において、上皮細胞及び線維芽細胞は、乳房脂肪パッドに移植される。一部の実施形態において、乳房脂肪パッドには、不死化非腫瘍形成性ヒト乳房線維芽細胞が予め注入される。本発明の一部の実施形態において、上皮細胞及び線維芽細胞は移植の前に混合され、細胞混合物として移植される。
【0016】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が関係する当業者により通例理解されるものと同じ意味を有する。不一致が起こる場合、定義を含めた本発明の明細書が支配する。本明細書に記述される全ての出版物、特許、及びその他の参考文献は、全体が参考として本明細書に組み込まれる。
【0017】
本明細書に記載されるものと同様又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することできるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。材料、方法及び実施例は、説明のためのものであり、限定するものとして意図されていない。本発明のその他の特徴及び利点は、詳細な説明及び請求項から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明は、再構成ヒト乳房腫瘍モデルを提供する。前記モデルにおいて、腫瘍は、マウスで成長しているヒト乳房組織から自然発生する。ヒト癌生物学の基礎研究、並びに医薬品の発見及び開発において、このモデルは三つの主要な利点を提供する。第一に、前記モデルは、自然発生する原発性腫瘍を提供し、それによって天然に生じるヒト乳癌を模倣するという点である。第二に、腫瘍は、宿主マウスに移植したヒト乳房上皮細胞から発生したヒト乳腺から生じるため、遺伝子的にヒトであるという点である。第三に、腫瘍は限定した遺伝子要素により形成されるため、ヒト原発性腫瘍の経路関連腫瘍形成性を研究する機会をもたらすという点である。
【0019】
乳房間質線維芽細胞が乳房上皮細胞の成長及び分化を支持する証拠が発表されている。例えば、Parmar et al, 2002, Endocrinology 143:4886−48986;及びParmar et al., 2004, Endocrine−Related Cancer 11: 437−458を参照のこと。したがって、ヒト線維芽細胞、例えばヒト乳房線維芽細胞は、本発明を実施する際に本目的に使用することができる。ヒト線維芽細胞及びヒト乳房上皮細胞は、互いに隣接して、例えば単一の乳房脂肪パッド、生殖腺脂肪パッド、腎臓莢膜、又は皮下の注入部位内に移植される。ヒト線維芽細胞及びヒト乳房上皮細胞は、混合して、マウスにおける移植の選択された部位に共注入することができる。場合により、線維芽細胞は、上皮細胞の注入の前、例えば1〜4週間前に注入して、ヒト乳房上皮細胞の導入の前に、線維芽細胞が繁殖し、マウスの組織に進入する時間を持たせることができる。
【0020】
マウス乳房上皮は、出産後、乳首領域から広がることにより発達する。3週齢では、乳房上皮細胞からなる乳管は、リンパ節に達していない。したがって、乳腺のマウス上皮成分は、乳首とリンパ節の間の部分を除去することによって排除でき、それにより「除去済みの」脂肪パッドが残る。例えば、De Ome et al, 1959, Cancer Res. 19: 515−520; Edwards et al, 1996, J. Mammary Gland Biol. Neoplasia 1: 75−89を参照のこと。本発明の一部の実施形態において、ヒト線維芽細胞及びヒト乳房上皮細胞は、宿主マウスの除去済み乳房脂肪パッドに移植される。しかし、脂肪パッドを除去する必要はない。
【0021】
本発明の一部の実施形態において、線維芽細胞及び上皮細胞は、マウスの生殖腺脂肪パッドに移植される。別の実施形態において、線維芽細胞及び上皮細胞は、マウスの腎臓莢膜に移植される。例えば、Parmar et al., 2002, supraを参照のこと。別の代替案には、線維芽細胞及び上皮細胞をマウスの皮下、例えばマウスの側腹部の皮下に移植することがある。
【0022】
線維芽細胞及び上皮細胞をマウスへ移植するための関連する多様な外科手技が開発されており、当該技術分野において知られている。例えば、Outzen et al., 1975, J. Natl. Cancer Inst. 55: 1461−1466; Jensen et al., 1976, Cancer Res. 36: 2605−2610; McManus et al., 1981, Cancer Res. 41: 3300−3305; MacManus et al., 1984, Cancer 54: 1920−1927; Edwards, et al., supraを参照のこと。一般的に移植は、ハミルトンシリンジを使用する注入によるが、ヒト細胞をマウスへ導入するあらゆる適切な技法を用いることができる。
【0023】
非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞は、ヌードマウスに腫瘍を形成しない及び軟寒天アッセイでコロニーを形成しない、ヒト線維芽細胞である。移植される非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞の種類は、一般的に重要ではない。便宜上、不死化線維芽細胞を使用することができる。不死化ヒト線維芽細胞は、老化することなくインビトロで永久的に分割することができるヒト線維芽細胞である。一次ヒト間質線維芽細胞は、任意の適切な方法により不死化することができる。当該技術分野では多様な方法が知られている。例えば、線維芽細胞は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)をコードする発現ベクターによる適切な形質転換により、不死化することができる。例えば、米国特許第6,261,836号(Cech et al.)を参照のこと。又、Nakamura et al., 2002, J. Radiat. Res. 43: 167−174を参照のこと。或いは、通常細胞培養において幾つかの経路を生存させることができる一次線維芽細胞は、本発明を実施する際に、移植に使用することができる。別の代替案には、癌腫関連線維芽細胞(CAF)を使用することがある。CAF細胞は、ヒト乳房腫瘍、例えば乳房切除切片から単離することができる。
【0024】
培養(並びにその後の線維芽細胞不死化プロトコールにおける使用、又は一次線維芽細胞としての使用)のためのヒト乳房線維芽細胞の単離に適切な供給源は、還元乳房形成組織である。ヒト組織は、基本的にParmar et al., 2002, Endocrinology 143: 4886−4896に記載されるように、培養中に入れることができる。ヒト線維芽細胞材料は、必要に応じて従来の細胞培養技法により広げることができる。
【0025】
好ましくは、本発明の実施に使用されるマウスは、免疫無防備状態である。損傷した免疫系は、マウスが移植ヒト細胞を拒絶することを防止する上で望ましい。免疫不全マウスの例には、SCIDマウス、ヌードマウス、胸腺を外科的に除去したマウス、及び医薬品又は遺伝子操作により免疫系を抑制したマウスが挙げられる。遺伝子的免疫不全マウスは市販されており、本発明の目的に適切な免疫不全マウスの選択は、当該技術分野における通常の技能範囲内に含まれる。
【0026】
本発明の実施において、核酸は、安定した形質転換をもたらす任意の方法によって、非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞及びヒト乳房上皮細胞に導入することができる。当該技術分野で既知の有用な形質転換方法の例には、スフェロプラスト融合、リポソーム融合、リン酸カルシウム沈殿、電気穿孔法、微量注入法、並びにレトロウイルス、アデノウイルス及びレンチウイルスのようなウイルスベクターによる感染が挙げられる。適切な真核発生ベクターは、当該技術分野で既知であり、市販されている。一般的に当該ベクターは、所望の組み換え配列の挿入のために好都合な制限部位を含む。該ベクターは、選択マーカー、例えば薬剤耐性遺伝子を含んでもよい。代表的な薬剤耐性遺伝子は、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(ネオ)遺伝子であり(Southern et al., 1982, J. Mol. Anal. Genet. 1: 327−341)、ネオマイシン耐性を付与する。或いは、蛍光マーカー、例えば、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、若しくは青色蛍光タンパク質をコードする遺伝子、又は生物発光タンパク質、例えば、ルシフェラーゼをコードする遺伝子を、選択マーカーとして使用することができる。
【0027】
本発明の一部の実施形態において、組み換え癌遺伝子は、誘導性プロモーターの制御下に置かれる。前記の目的に有用な誘導性プロモーターの例には、テトラサイクリン誘導性プロモーター、メタロチオネインプロモーター、IPTG/lacIプロモーター系、及びエクジソンプロモーターが挙げられる。加えて、「lox−stop−lox」系を、翻訳又は転写のために阻害配列を非可逆的に削除するために使用することができる。誘導性癌遺伝子構成体は、本発明に従って遺伝子改変ヒト乳房上皮細胞を作製する際に使用することができ、これを本発明に従って宿主マウスに移植する。移植したヒト乳房上皮細胞は、インデューサーの存在下で、例えば、インデューサーを宿主マウスの飲み水に投与することにより、腫瘍が形成されるまで維持される。その後、腫瘍細胞は、インデューサーの非存在下で外植、培養される。この時点で、外植腫瘍細胞は、腫瘍形成性とは離れた、単なる「1ヒット」、即ち、一つの突然変異となる。
【0028】
前記細胞のゲノムに組み込む核酸分子、例えば、レトロウイルスベクターは、腫瘍形成の引き金を引く上で必要な突然変異をもたらすことができる。ベクターが、組み込まれる部位を標識するように設計される場合、ベクターは、活性化(又は不活性化)が腫瘍形成をもたらす遺伝子を同定するために使用することができる。外植腫瘍細胞は、インデューサーの非存在下で、例えば、ヌードマウスのような動物への再移植、及び腫瘍形成のモニタリングにより、腫瘍形成を分析することができる。移植細胞が腫瘍を生じる場合、ベクター挿入部位をクローン化し、配列決定して、周囲の遺伝子をマッピングし、同定する。前記方法により、組み換え癌遺伝子を機能的に補完する遺伝子が同定される。当該遺伝的相補性は、癌治療において標的を同定するために有用である。癌関連遺伝子を同定する前記手法は、詳細に記載されており、「MaSS」スクリーニングとして知られている。MaSSスクリーニング技法は、ヒト再構成乳房腫瘍モデルを利用する本発明の方法に、容易に組み込むことができる。MaSSスクリーニングの詳細な説明については、PCT国際公開公報第02/079419号を参照のこと。
【0029】
前述の通り、本発明は、腫瘍生物学を研究し、抗癌剤をスクリーニングするために有用な誘導性ヒト乳癌モデルを提供する。一部の実施形態において、再構成乳房腫瘍モデルはヒト乳房組織を提供するが、そのゲノムは、(a)誘導性プロモーターに作動可能に連結される癌遺伝子、例えばErbB2遺伝子又はKRAS遺伝子、及び(b)SV40erを含むように改変されており、これらが一緒になることで、ヒト乳房組織は、前記遺伝子修飾を含まない再構成ヒト乳房組織よりも癌への感受性が大きくなる。腫瘍は、癌遺伝子の発現が止まると退行する。再構成ヒト乳房組織を癌に対して更により敏感にする任意の突然変異には、DNA修復遺伝子(例えば、MSH2)における不能突然変異、及び癌遺伝子(例えば、myc及びras)における活性化突然変異が挙げられる。
【0030】
一つの実施形態において、再構成ヒト乳房組織は、(i)適切なプロモーターに作動可能に連結される逆テトラサイクリントランス活性化因子をコードする遺伝子を含有する第1発現構成体、及び(ii)逆テトラサイクリントランス活性化因子及びテトラサイクリン(又はテトラサイクリン類似体、例えばドキシサイクリン)により調節されるプロモーターに作動可能に連結される癌遺伝子を含有する第2発現構成体からなる、注入されたヒト乳房上皮細胞から発生する。宿主マウスでは、テトラサイクリン依存性である腫瘍の発生、維持又は進行を、テトラサイクリン(又はその類似体)の投与の有無にかかわらず観察する。前述のようなその他の誘導性系も使用することができる。ドキシサイクリンを逆テトラサイクリントランス活性化因子制御誘導性プロモーター系のためにインデューサーとして使用する場合、ドキシサイクリンを投与する好ましい方法は、動物の飲み水を介した投与である。
【0031】
試験化合物の効果と、遺伝子スイッチをオフにした誘導性癌遺伝子とを比較するこの系の能力は、化合物に対する臨床反応を予測する代理マーカーの同定を可能にする。誘導性モデルは、化合物が最小限の残存腫瘍を根絶することができるかを判定するために使用することができる。通常、誘導性モデルでは、癌遺伝子が誘導性プロモーターを使用してスイッチを「オン」から「オフ」にした時に、腫瘍が退行する。しかし、試験化合物が最小限の残存腫瘍を根絶できる場合には、試験化合物の投与後に遺伝子のスイッチを戻しても、腫瘍は戻ってこない。
【0032】
本発明に基づく再構成乳房腫瘍モデルは、癌を予防又は治療する試験化合物の効能を判定する方法に有用である。当該方法は、宿主マウスに試験化合物を投与すること、及びマウスにおける腫瘍発生、腫瘍維持、腫瘍進行又は血管新生に対する化合物の効果があればその効果を観察することを伴う。適切な対照と比較した、化合物の存在下における腫瘍の大きさの退行及び/又は低減は、化合物の抗腫瘍効果を示す。この種の薬剤効能試験は、癌遺伝子が誘導性又は非誘導性であるモデルを使用して実施することができる。
【0033】
該モデルは又、その他の癌関連遺伝子を同定するために使用することもできる。これを行うため、癌遺伝子の不活性化又は活性化によって退行又は再生している腫瘍における遺伝子発現の詳細な発現プロフィールを確立する。プロフィールを確立するために使用される技法には、(細胞培養中における)抑制減法、ディファレンシャルディスプレイ、プロテオミクス分析、遺伝子発現の連続分析(SAGE)、並びにcDNA及び/又はオリゴヌクレオチドマイクロアレイを使用する発現/転写プロフィールの使用が挙げられる。次に、癌発達の異なる段階における発現プロフィールの比較を実施することで、発現パターンが変化している遺伝子を同定することができる。
【0034】
本明細書で使用される「試験化合物」とは、巨大分子、例えば、ポリペプチド、核酸、多糖類、及び脂質、並びに小型分子を意味する。試験化合物は、本発明の再構成ヒト乳房腫瘍モデルからなる宿主マウスに、経口、直腸内、膣内、局所、経鼻、経眼又は非経口投与によって投与することができる。非経口投与には、皮下、静脈内、筋肉内及び胸骨内注入、並びに輸液技法が挙げられる。マウス実験における代表的な投与経路は、尾静脈への注入である。
【0035】
好ましくは、試験化合物は、投与量、化合物の溶解性、及び投与経路のような要因を考慮して配合される。経口投与用の固体製剤は、トウモロコシデンプン、ゼラチン、ラクトース、アカシア、スクロース、微結晶性セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、又はアルギン酸のような適切な担体又は賦形剤を含有することができる。使用できる崩壊剤には、例えば、微結晶性セルロース、トウモロコシデンプン、ナトリウムデンプングリコレート、及びアルギン酸が挙げられる。錠剤結合剤には、アカシア、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(PovidoneTM)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、デンプン、及びエチルセルロースが挙げられる。潤滑剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリコーン油、タルク、ロウ、油、及びコロイドシリカが挙げられる。水又はその他の水性ビヒクルで調製される経口投与用の液体製剤は、メチルセルロース、アルギネート、トラガカント、ペクチン、ケルギン、カラギーナン、アカシア、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールのような懸濁剤を含有してもよい。該液体製剤には又、活性成分と共に、湿潤剤、甘味料及び風味剤を含有する、液剤、乳剤、シロップ剤及びエリキシル剤が含まれてもよい。注射用製剤は、植物油、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、炭酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)のような担体を含有してもよい。生理学的に許容される賦形剤には、例えば、5%デキストロース、0.9%生理食塩水、リンゲル溶液、又はその他の適切な賦形剤が挙げられる。筋肉内調合剤、例えば化合物の適切な可溶性塩形態の滅菌製剤は、注射用水、0.9%生理食塩水、又は5%グルコース溶液のような医薬賦形剤に溶解し、投与することができる。化合物の適切な不溶性形態は、長鎖脂肪酸(例えば、オレイン酸エチル)のエステルのような、水性基剤又は薬学的に許容される油基剤中の懸濁剤として調製し、投与することができる。局所半固体軟膏製剤は一般的に、医薬クリーム基剤のような担体中に約1〜20%、例えば5〜10%の濃度で活性成分を含有する。局所使用のための多様な製剤には、滴薬、チンキ剤、ローション剤、クリーム剤、液剤、及び活性成分を含有する軟膏、並びに多様な支持体及びビヒクルが挙げられる。各医薬製剤中の治療薬の最適な比率は、製剤自体、及び特定の病理において望まれる治療効果、並びに相関する治療レジームによって変動する。医薬製剤は、十分に確立された技術分野であり、Gennaro (ed.), Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th ed., Lippincott, Williams & Wilkins (2000) (ISBN: 0683306472); Ansel et al., Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 7th ed., Lippincott Williams & Wilkins Publishers (1999) (ISBN: 0683305727);及びKibbe (ed.), Handbook of Pharmaceutical Excipients American Pharmaceutical Association, 3rd ed. (2000) (ISBN: 091733096X)に更に記載される。
【0036】
多様なパラメータを使用することで、試験化合物が「抗腫瘍効果」を示すかどうかを判定することができる。当該パラメータの例には、腫瘍組織中のアポトーシスの量、腫瘍組織中の血管新生のレベル、導管過形成のような過形成性成長の数、腫瘍組織の分化若しくは形態形成の効果、又は単に大きさ、例えば腫瘍の直径若しくは容量が挙げられる。測定されるパラメータの選択及びそれらの解釈は、特定の実験における目的により左右される。当該選択及び解釈は、当該技術分野における通常の技能の範囲内に含まれる。
【0037】
実験設計には相当な許容範囲がある。例えば、任意の種類の実験設計では、試験動物と対照動物が個別に分かれ、実質的に同一である場合もあれば、別の種類の実験設計では、試験化合物とビヒクルが、同じ動物における別々の腫瘍、例えば、左側と右側に局所的に投与される場合もある。当然のことながら、動物の一団は、用量反応試験において広範な投与を受けることができる。
【実施例】
【0038】
本発明を以下の実施例により更に説明する。実施例は、説明の目的のためにのみ提供されるものであり、本発明の範囲又は内容を如何様にも制限するものとして解釈するべきではない。
【0039】
(実施例1:乳房腫瘍モデルの作成)
ヒト組織及び細胞株
還元乳房形成術からの新鮮ヒト乳房組織は、施設の指針及びIRB認可に従って、Brigham and Women’s Hospital(米国マサチューセッツ州ボストン)のDr. Andrea Richardsonにより提供された。新鮮組織を、2.8mg/mlのコラゲナーゼ及び0.6mg/mlのヒアルロニダーゼを使用して、37℃で一晩消化した。翌朝、消化されたヒト上皮オルガノイド(上皮細胞のクラスター)及び一次線維芽細胞を遠心分離により収集した。上皮オルガノイド及び一次線維芽細胞の混合物を、標準寒剤で凍結し、液体窒素中に保存した。不死化ヒト乳房線維芽細胞株は、Whitehead InstitutedのCharlotte Kuperwasserから提供された。
【0040】
ベクター構成体
レンチウイルスベクターを、ヒト乳房上皮細胞の形質導入に使用した。以下の全てのレンチウイルスベクターを構成する際に使用したレンチウイルスバックボーンは、pLenti6/V5−D−TOPOであり、これは、Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド;カタログ番号K4955−10)から市販されている。
【0041】
ベクターpLenti−CMV−SV40erは、以下のように構成した。2.7kbのSV40er DNAフラグメント(LT及びstを含む)は、pSV3−dhfrベクター(ATCC番号37147)をSfi I及びBamH Iで消化することにより得た。次に、2.7kbのフラグメントを、ベクターpLenti6/V5−D−TOPOにおけるCMVプロモーターの後にクローン化した。続いて、SV40−ブラストシジンDNAフラグメントを、得られた構成体から除去して、pLenti−CMV−SV40erレンチウイルス構成体を形成した。
【0042】
ベクターpLenti−CMV−KRAS+SV40−GFPは、以下のように構成した。pLenti−CMV−SV40er構成体と同様に、558bpのKRAS cDNAフラグメントを、ベクターpLenti6/V5−D−TOPOにおけるCMVプロモーターの後にクローン化し、GFP(緑色蛍光タンパク質)cDNAをStrategene(カタログ番号240143)から購入し、SV40プロモーターの下流にクローン化した。この構成体を作製する際に使用したKRASは、KRASG12Vであった。野生型KRAS cDNAのGenbank受入番号は、NM033360である。本発明者等は、アミノ酸残基12がグリシンからバリンに変わった突然変異形である、KRASG12V(Havard University Medical SchoolのLynda Chinからの贈呈品)を使用した。
【0043】
ベクターpLenti−CMV−erbB2は、以下のように構成した。3992bpのerbB2 cDNAフラグメントを、ベクターpLenti6/V5−D−TOPO(Invitrogen; カタログ番号K4955−10)におけるCMVプロモーターの後にクローン化した。この構成体を作製する際に使用したerbB2は、erbB2V659Eであった。野生型erbB2 cDNAの受入番号は、M11730である。特定部位の突然変異誘発を用いて、アミノ酸残基659をVからEに変えた。
【0044】
ベクターpLenti−U6−p53shRNA+CMV−erbB2は、以下のように構成した。p53shRNA配列は、Brummelkamp et al., 2002, Science 296: 550−553に記載される通りであった。U6−p53shRNAカセットを、pLenti−CMV−erbB2におけるCMVプロモーターの前に置いて、このベクターを形成した。
【0045】
ベクターpLenti−U6−p53shRNA+CMV−KRAS+SV40−GFPは、以下のように構成した。p53shRNA配列は、Brummelkamp et al., 2002, Science 296: 550−553に記載される通りであった。U6−p53shRNAカセットを、pLenti−CMV−KRAS+SV40−GFPにおけるCMVプロモーターの前に置いて、最終構成体Plenti−U6−p53shRNA+CMV−KRAS+SV40−GFPを形成した。
【0046】
ベクターpLenti−CMV−PIK3CA+CMV−CCND1は、以下のように構成した。PI3Kのp110α触媒サブユニットのcDNAクローンは、Open Biosystems(カタログ番号EHS1001−1259687)から購入した。ミリストイル化配列を、p110αの5′末端にクローン化して、ミリストイル化p110α cDNAクローンのPIK3CA−myrを形成した。PIK3CA−myr cDNAを、ベクターpLenti6/V5−D−TOPOにおけるCMVプロモーターの後にクローン化して、pLenti−CMV−PIK3CAを形成した。
【0047】
CCND1 cDNAクローンは、American Type Culture Collection (ATCC カタログ番号MGC−2316)から得た。CMVプロモーターを、CCND1 cDNAの5′末端に置いた。次にCMV−CCND1フラグメントを、pLenti−CMV−PIK3CAにおけるPIK3CAの3′末端にクローン化して、最終構成体pLenti−CMV−PIK3CA+CMV−CCND1を形成した。
【0048】
ベクターpLenti−CMV−p53R175Hは、以下のように構成した。野生型ヒトp53クローンは、ATCC(カタログ番号MGC−646)から購入した。特定部位の突然変異誘発を用いて、アミノ酸残基175をRからHに変えた。次に、突然変異p53 cDNA(p53R175H)を、ベクターpLenti6/V5−D−TOPOにおけるCMVプロモーターの後にクローン化した。ベクターpLenti−U6−PP2AshRNA+CMV−CCND1は、以下のように作成した。PP2A B56γ shRNAの配列は、gcagagtaactggaaataatggcttcctgtcaccaatatttccagtaactctgcである。PP2A shRNAを、U6プロモーターの下流に置き、U6−PP2AshRNAフラグメントを、pLenti6/V5−D−TOPOにクローン化して、pLenti−U6−PP2AshRNAを生成した。構成体pLenti−CMV−PIK3A(110α−myr)+CMV−CCND1における前述のCMV−CCND1フラグメントを、−U6−PP2AshRNAの3′末端にクローン化して、最終構成体pLenti−U6−PP2AshRNA+CMV−CCND1を生成した。
【0049】
ベクターpLenti−CMV−Bmi1+CMV−CCND1は、以下のように作成した。ヒトBmi1及びCCND1 cDNAの両クローンは、ATCC(それぞれ、カタログ番号MGC−12685及びMGC−2316)から得た。CCND1 cDNAを、ベクターpLenti6/V5−D−TOPOにおけるCMVプロモーターの後にクローン化した。CMV−Bmi1フラグメントを、CMV−CCND1の5′末端の直前にクローン化して、最終構成体pLenti−CMV−Bmi1+CMV−CCND1を生成した。
【0050】
レンチウイルスを、前述のレンチウイルス構成体及び最適化したパッケージングプラスミドミックス(Invitrogen; カタログ番号K4975−00)による293T細胞の同時トランスフェクションにより産生した。トランスフェクションは、製造元の説明書(Invitrogen;カタログ番号11668−019)に従ってLipofectamineTM 2000トランスフェクション試薬を使用して実施した。
【0051】
脂肪パッドの除去及び線維芽細胞の感染
乳腺の上皮成分を、乳首とリンパ節の間の部分を除去することよって排除し、それにより除去済み脂肪パッドを残した。前記除去技法は、基本的にDe Ome et al., 1959 (supra)により記載される通りであった。次に、不死化ヒト線維芽細胞(RMF−HGF)を、脂肪パッドが除去済みになった直後又は脂肪パッドが除去済みになったおよそ2週間後の何れかで、除去済み脂肪パッドに注入した。
【0052】
不死化ヒト線維芽細胞は、10%FBS、50U/mlのペニシリン、及び50ug/mlのストレプトマイシンを含有するDMEM培地で培養した。線維芽細胞の半分を、注入の前日に、2mU/mlのブレオマイシンで30分間処理した。注入日に、ブレオマイシン処理線維芽細胞と未処理線維芽細胞の1:1ミックスを、除去済み脂肪パッドに注入した。注入部位当たり、およそ0.5×10の細胞を注入した。
【0053】
ヒト乳房上皮細胞の形質導入
ヒト上皮細胞オルガノイドと一次線維芽細胞の混合物を、10%FBSを含有するDMEM培地で4時間培養し、その間に線維芽細胞は培養皿に付着した。付着していないオルガノイドを上澄みから収集し、2回のスピン感染に付した。1回目のスピン感染の際に、約50μlのオルガノイドペレットを、形質導入される遺伝子を発現する10〜10cfuのレンチウイルスを含有するHMEC培地1mlに再懸濁した。オルガノイド/ウイルス混合物を、6ウエル培養平板の一つのウエルで平板培養し、400×gで90分間回転させた。感染の終了時に、1mlの新鮮なHMEC培地をウエルに加え、該培養平板を37℃のインキュベーターに最低2時間戻した。次にオルガノイドを、形質導入される別のセットの遺伝子を発現する10〜10cfuのレンチウイルスを含有するHMEC培地1mlを加えて、2回目のスピン感染に付した。2回目のスピン感染の終了時に、1mlの新鮮なHMEC培地をオルガノイド懸濁液に加え、インキュベーターに戻した。感染したオルガノイドは、2回目の感染の2〜18時間後に脂肪パッドへの注入の準備が整った。
【0054】
感染オルガノイドの注入
約1〜100の感染オルガノイドを、(a)2週間前にヒト線維芽細胞を注入した脂肪パッドに単独で注入するか、又は(b)0.25×10の癌腫関連線維芽細胞(CAF)と混合した後に注入するか、又は(c)0.25×10のブレオマイシン処理不死化ヒト線維芽細胞及び0.25×10の未処理不死化ヒト線維芽細胞の混合物と混合した後に注入した。該細胞調製物を、コラーゲン対マトリゲルミック比1:1のミックスに再懸濁し、注入部位当たり約30〜50μlの容量で注入した。
【0055】
(実施例2:レンチウイルス感染及びp58 shRNAノックダウンの効果)
p53の発現をノックダウンするp53 shRNAの効果を判定するため、及びレンチウイルス系による遺伝子移入の効果を判定するため、293T細胞及びHMECオルガノイドを、pLenti−U6−p53shRNA+CMV−KRAS+SV40−GFPを発現するレンチウイルスで感染させた。試料の処理、並びにレンチウイルスの調製及び感染は、実施例1に記載される通りであった。感染の3日後、細胞は、感染率の推定をUV光線下で観察し、実時間RT−PCRによりp53及びKRAS発現を分析するために収集した。ほぼ全ての293T細胞が、レンチウイルスに感染していた。感染した293T細胞におけるp53の発現レベルが、模擬感染細胞の約3.6%であったため、本発明者等は、p53転写の約97.4%のノックダウンがレンチウイルス感染により293T細胞において達成されたと結論付けた。HMECオルガノイドでは、細胞の約50%がレンチウイルスに感染していた。又、感染及び非感染のヒト乳房上皮細胞の混合物におけるp53の発現レベルが、模擬感染ヒト乳房上皮細胞の約50%であるため、本発明等は、p53転写のほぼ100%のノックダウンもレンチウイルス感染によりHMECにおいて達成されたと結論付けた。同様に、KRAS発現は、293T細胞及びHMECの両方においてレンチウイルス感染により約70倍増加した。
【0056】
(実施例3:p53 shRNA及びerbB2又はKRASにより形質導入されたHMECから発生するヒト乳房前癌性病巣及びCIS)
レンチウイルス系を使用して、本発明者等は、限られたセットの遺伝因子で形質導入された正常な一次HMECからヒト乳癌を生成できるかを判定することにした。試料処理、細胞培養、レンチウイルス構成体の生成、ウイルス産生、及びマウス外科手術の手順は、実施例1に記載される通りであった。マウスにヒト乳房腫瘍モデルを生成する第一段階として、本発明者等は、レンチウイルス構成体pLenti−CMV−KRAS+SV40−GFP又はpLenti−CMV−erBb2を使用して、p53 shRNAとerbB2V659E又はKRASG12Vとにより、ヒト乳房上皮細胞を形質導入した。感染させたHMECオルガノイドを、注入の前にヒト乳房線維芽細胞と混合するか、又は2週間前に不死化ヒト線維芽細胞を注入した脂肪パッドに単独で注入した。全ての組み合わせにおいて、正常な、例えば末端管小葉単位、及び過形成ヒト乳房構造は、移植後1〜12ヶ月の間に移植部位で発生した(図1及び図2)。しかし、形質導入されたHMECから腫瘍は発生しなかった。
【0057】
(実施例4:SV40初期領域及びerbB2又はKRASにより形質導入されたHMECから発生した癌腫)
実施例3に例示される通り、erbB2又はRASは単独でマウス乳房上皮細胞を形質転換することができるが、HMECは形質転換しない。本発明等は、SV40erとerbB2又はKRASが本発明の組織再構成系によりインビボでHMECを形質転換できるかを判定することにした。試料処理、細胞培養、レンチウイルス構成体の生成、ウイルス産生、及びマウス外科手術の手順は、実施例1に記載される通りであった。レンチウイルス構成体pLenti−CMV−SV40er及びpLenti−CMV−erbB2又はpLenti−CMV−KRAS+SV40−GFPを使用して、HMECをSV40erとerbB2又はKRASにより形質導入した。感染させたHMECを、注入の前に不死化ヒト線維芽細胞と混合するか、又は不死化ヒト線維芽細胞を予め注入した脂肪パッドに単独で注入した。全ての組み合わせにおいて、腫瘍は感染させたHMECから発生し、腫瘍潜伏は1〜3ヶ月の範囲であった。
【0058】
2人の独立した病理学者である、Brigham & Women’s HospicalのDr. Anreas Richardson及びVermont UniversityのDr. Marcus Bosengburgが、腫瘍切片のH&E染色を調べ、発生した腫瘍は低分化浸潤癌であったと結論付けた(図3及び図4)。発生した腫瘍は、ヒトの腫瘍との著しい相違を示していない。該腫瘍は、マウスの乳房に発生する大多数の腫瘍よりも更にヒトの乳癌に似ていた。これは、多い間質成分、腫瘍細胞の侵入巣及び島の構築、並びに高レベルの細胞多形性のためであった。
【0059】
(実施例5:MaSSスクリーニング)
この実施例では、ヒト細胞における癌関連遺伝子を同定する工程を記載する。
【0060】
腫瘍細胞のレトロウイルス感染
Mo−MuLV産生細胞株TMJ(NIH3T3系細胞株)を、必要な数のプレート(100mm)で平板培養する。前記細胞を培養し、10%FBSを有するRPMI培地で維持する。ウイルス産生では、TMJ細胞を4〜5mlの新鮮な培養基に供給し、培養上澄みを8〜12時間後に採取する。該上澄みを0.45μMフィルターで濾過する。
【0061】
ヒトの細胞はエコトロピック受容体を発現しないため、Mo−MuLVにより感染させることはできない。そこで、最初にヒト乳癌細胞をMCAT1とブラストシジン選択マーカーを発現するレンチウイルスの感染を介して、エコトロピック受容体遺伝子であるMCAT1により形質導入する。次にブラストシジン耐性偽型ヒト乳癌細胞を、ドキシサイクリン(2μg/ml)の存在下で、10%ウシ胎児血清を有するDMEM培地中に維持する。平板培養のおよそ18〜24時間後、又はプレートが70〜80%のコンフルエントになった段階で、乳癌細胞を、ポリブレン(6〜8μg/ml)の存在下で、濾過ウイルス上澄みにより感染させる。この時点から、乳癌細胞を、ドキシサイクリンの非存在下で維持する。
【0062】
感染のおよそ18時間後、感染乳癌細胞をトリプシン処理して、すすぎ洗いし、ハンクス平衡塩類溶液に懸濁する。細胞懸濁液を氷上に保持し、トリプシン処理後の取り扱い時間を最小限に保つ。約1×10の細胞を、ドキシサイクリンを含まない水を与えたSCIDマウスの側腹部に注入する。動物では腫瘍発生を観察する。対照動物にも1×10の非感染細胞を同様に注入する。一般的に腫瘍はおよそ21日後に発生する。腫瘍を採取し、腫瘍組織を直ぐに液体窒素中で素早く凍結する。
【0063】
逆ポリメラーゼ連鎖反応
DNAをPUREGENE DNA単離キットを使用して腫瘍組織から単離した。10μgのゲノムDNAを、BamHI又はSacIIで完全に消化し、65℃で20分間インキュベートすることにより反応を終了させる。消化試料を、4000Uの高濃度T4 Ligase(NEB、カタログ番号M0202M)を使用して、稀釈600μlの反応容量中で自己結合させる。結合は16℃で一晩から24時間実施する。結合したDNAをエタノールで沈殿させ、40μlの滅菌水に溶解する。次に、結合したDNAを1:10及び1:100の比率に連続して稀釈し、逆ポリメラーゼ連鎖反応(IPCR)に付す。
【0064】
候補遺伝子の同定
ヒトゲノムへのレトロウイルスの組み込み部位を、全てのIPCR配列で以下のようにマッピングする。レトロウイルスリーダー配列をIPCR産物の生配列から切り取り、切り取った配列のホモロジー検索を、BLASTソフトウェアプログラムを使用して、NCBI MGSCV3データベースで実施する。BLASTヒットを分析し、マウスの多発性腫瘍における反復組み込み部位を同定する。反復は10kbの領域内における2回以上の組み込みとして定義される。発現がレトロウイルスの組み込みによる影響を受ける遺伝子を同定するため、NCBI Map Viewを使用して、マウスゲノムに対するそれぞれのレトロウイルス反復組み込み部位を確認した。当該部位のすぐ近くに隣接する遺伝子を、MGSCV3 Geneマップを使用して同定する。前記遺伝子は癌関連候補遺伝子として定義されるが、それは、圧倒的多数の場合において、MuLV組み込みが最も近位の遺伝子に影響を与えるためである。組み込みが遺伝子内で起こると、当該遺伝子は、レトロウイルス組み込みの効果の標的として最良の候補と考えられる。
【0065】
(実施例6:マウスにおけるヒト乳房腫瘍の増殖)
ヒト原発性乳房腫瘍をマウスで増殖させることは困難であり、実用的ではなかった(Sebesteny et al., 1979, J, Natl. Cancer Inst. 63: 1331−7; Rae−Venter et al., 1980, Cancer Res., 40: 95−100; Sakakibara et al., 1996, Cancer J. Sci. Am. 2: 291)。大部分の腫瘍は、マウスでは非常にゆっくりと成長して、6ヶ月から12ヶ月の潜伏期間があり、或いは全く成長しないこともあった。したがって、本発明等は、erbB22及びSV40erでトランスフェクトしたヒト乳房上皮細胞(HMEC)の腫瘍形成性に対する、周囲の始原ヒト線維芽細胞における表現型の差の効果を試験することにした。
【0066】
HMEC及びヒト線維芽細胞は、実施例1(上記)に記載されるようにして得た上、培養した。本発明等は、HMECを単独で、又は培養線維芽細胞(RME;還元乳房線維芽細胞)と混合して、組み換え肝細胞成長因子(HGF)を発現する不死化ヒト線維芽細胞を予め注入したマウス乳房脂肪パッドに移植した。結果を表1にまとめる。
【0067】
5人の患者(HMEC5〜HMEC9)から得たHMECは、移植時にerbB2/SV40erにより形質導入され、RMF−HGF(還元乳房形成線維芽細胞−肝細胞成長因子)と混合されると、一貫して腫瘍を生じた(頻度83%〜100%)。対照的に、同じHMECを同じ遺伝子(erbB2及びSV40er)により形質導入するものの、不死化されていない始原ヒト線維芽細胞(一次RMF11及び一次RMF13)と混合されると、腫瘍は稀にしか発生しなかった(0%〜17%(1/6))。何れの線維芽細胞とも混合しないで移植した場合、erbB22/SV40er HMECは、移植部位の11%(1/9)で腫瘍を生じた。腫瘍潜伏期間は1〜3ヶ月の範囲であった。これらの結果は、不死化ヒト線維芽細胞がerbB2/SV40er HMECの腫瘍形成性を促進する一方で、非不死化ヒト一次乳房線維芽細胞が腫瘍形成性を促進せず、おそらくは阻害したことを示した。
【0068】
erbB2/SV40er HMECからの腫瘍発生率に対するヒト間質線維芽細胞の効果を実証するこれらのデータは、不死化ヒト線維芽細胞と混合する適切な微環境を前提とすると、ヒトの患者の原発性乳房腫瘍はマウスで成長し、従ってマウスで有効に増殖できることを示している。
【0069】
【表1】

1.HGFを発現する不死化RMF
2.GFPレポーター遺伝子を発現するが、組み換えHGFを発現しないRMF
3.遺伝子操作していないRMF。
【0070】
(実施例7:p53R175H+CCND1+PIK3CA+KRASにより形質導入されたHMECからインビボで発生したヒト乳腺癌)
SV40erを含有する再構成ヒト乳癌モデルを開発した後、本発明等は、ヒトの遺伝子のみを使用して、或いはSV40erの非存在下で遺伝子突然変異、又はノックダウン若しくはノックアウトを使用して、マウスでヒト乳房腫瘍を発生させようとした。本発明等は、(a)ヒトKRAS、(b)ヒトp53における点突然変異、即ち、p53R175H、(c)Rb機能を不活性化するCCND1を過剰発現する遺伝子構成体、及び(d)PI3Kのヒトp110α触媒サブユニット(PIK3CA)を過剰発現する遺伝子構成体を、HMECに導入した。
【0071】
試料処理、細胞培養、レンチウイルス構成体の生成、ウイルス産生、及びマウス外科手術の手順は、実施例1に記載される通りであった。レンチウイルス構成体pLenti−CMV−p53R175H、pLenti−CMV−PIK3CA+CMV−CCND1、及びpLenti−CMV−KRAS+SV40−GFPを使用して、HMECをp53R175H、CCND1、PIK3CA及びKRASにより形質導入した。感染させたHMECをRMF−HGFと混合し、RMF−HGFを注入した除去済みマウス脂肪パッドに移植した。移植の2ヶ月後に、注入部位のおよそ50%で触診可能な腫瘍が発生した。腫瘍を移植の3ヶ月後に収集し、組織病理学的分析にかけた。Vermont Universityの病理学者であるDr. Marcus Bosenburgが、H&E染色移植切片を調べ、腫瘍は低悪性度浸潤性腺管癌として発生したと結論付けた(図5)。
【0072】
新たに収集した腫瘍は、UV光線下で緑色蛍光を示した。このことは、CMV−KRAS及びSV40−GFPが同じレンチウイルス構成体、即ちpLenti−CMV−KRAS+SV40−GFPに存在するため、KRAS癌遺伝子を発現したことを示している。p58抗体を使用して、腫瘍切片でIHCを実施した。これにより、腫瘍におけるp53R175Hの発現を確認した。ゲノムDNAをKRAS/p58R175H/CCND1/PI3K腫瘍から抽出し、PCRにより遺伝子型分析にかけた。前記分析によって、腫瘍ゲノムが、腫瘍の生成に使用したレンチウイルスDNA構成体の全て、即ち、pLenti−CMV−PIK3CA+CMV−CCND1、pLenti−CMV−p53R175H、及びpLenti−CMV−KRAS+SV40−GFPを担持したことが明らかになった。
【0073】
(実施例8:p53R175H+CCND1+KRAS+PP2A shRNAにより形質導入されたHMECからインビボで発生した腺癌)
一次HMECの形質転換に必要な遺伝因子を解明するため、三つのレンチウイルス、即ち、pLenti−CMV−p53R175H、pLenti−CMV−KRAS+SV40−GFP、及びpLenti−U6−PP2AshRNA+CMV−CCND1それぞれを介して、p53R175H+CCND1+KRAS+PP2AshRNAによりHMECを形質導入した。試料処理、細胞培養、レンチウイルス構成体の生成、ウイルス産生、及びマウス外科手術の手順は、実施例1に記載される通りであった。形質導入されたHMECをRMF−HGFと混合し、予めRMF−HGFを注入した20個の腺に注入した。移植の2ヶ月後に、腺の25%(5/20)で触診可能な腫瘍が発生した。
【0074】
2個の腺を同時に収集したが、これらはUV光線下で緑色蛍光を示した。このことは、腫瘍がpLenti−CMV−KRAS+SV40−GFPにより形質導入されたHMECから誘導されたことを示している。腫瘍のH&E染色により、これらが高分化から中程度の分化の腺癌であったことが明らかになった(図6)。
【0075】
(実施例9:p53R175H+CCND1+KRAS+Bmi1により形質導入されたHMECからインビボで発生した腺癌)
一次HMECの形質転換に必要な遺伝因子に関する追加のデータを得るため、三つのレンチウイルス、即ち、pLenti−CMV−Bmi1+CMV−CCND1、pLenti−CMV−p53R175H、及びpLenti−CMV−KRAS+SV40−GFPを介して、p53R175H+CCND1+KRAS+Bmi1によりHMECを形質導入した。形質導入されたHMECをRMF−HGFと混合し、RMF−HGFでヒト化した20個の腺に注入した。移植の2ヶ月後に、腺の25%(5/20)で触診可能な腫瘍が発生した。
【0076】
2個の腺を同時に収集したが、これらはUV光線下で緑色蛍光を示しており、このことは、腫瘍がpLenti−CMV−KRAS+SV40−GFPにより形質導入されたHMECから誘導されたことを示している。腫瘍のH&E染色により、これらが中程度の分化の腺癌であったことが明らかになった(図7)。
【0077】
その他の実施形態は、請求項の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】p53 shRNA、KRAS及び緑色蛍光タンパク質(GFP)により形質導入されたヒト乳房上皮細胞から成長したヒト乳房組織の全載標本の蛍光写真である。ヒト乳房上皮細胞オルガノイドは、p53 shRNA、KRAS及びGFPを発現するレンチウイルスに感染させた。感染及び非感染のヒト乳房上皮細胞の混合物は、不死化ヒト乳房線維芽細胞を予め注入した、除去済み脂肪パッドに注入した。乳腺を移植の6ヶ月後に収集し、UV顕微鏡検査にかけた。TDLU=末端管小葉単位。括弧は図2に示される領域を示す。
【図2】図1の乳腺画像の蛍光の強い領域のヘマトキシリン及びエオシン染色切片である(倍率:40倍)。p53 shRNA、KRAS及びGFPにより形質導入されたヒト乳房上皮細胞から過形成が発生している。
【図3】実施例4に記載される、SV40er及びKRASにより形質導入されたヒト乳房上皮細胞から発生する原発性ヒト乳房腫瘍の写真である。ヒト乳房上皮細胞オルガノイドは、SV40er及びKRASを発現するレンチウイルスに感染させた。感染及び非感染のヒト乳房上皮細胞の混合物は、不死化ヒト乳房線維芽細胞を予め注入した、除去済み脂肪パッドに注入した。乳腺を移植の1ヶ月後に収集した。腫瘍は十分に血管新生化していたことがこの画像から見て取ることができる。
【図4】実施例4の図3に示されるヒト乳房腫瘍のヘマトキシリン及びエオシン染色切片である。発生した腫瘍は、低分化浸潤性腺癌である。多い間質成分、腫瘍細胞の侵入巣及び島、並びに高レベルの細胞多形性が、ヒト乳癌の特徴である。
【図5】実施例7に記載される3ヶ月の腫瘍のヘマトキシリン及びエオシン染色切片である。前記切片は、中程度の分化から低分化の腺癌であることが明らかである。いくらかの腺性分化が認めれれるが、より多くの細胞学的異型性及びより多くの混乱した構築の領域(中央から右上)が存在する。
【図6】実施例8に記載される2ヶ月の腫瘍のヘマトキシリン及びエオシン染色切片である。前記切片は、高分化から中程度の分化の腺癌であることが明らかである。
【図7】実施例9に記載される2ヶ月の腫瘍のヘマトキシリン及びエオシン染色切片である。前記切片は、中程度の分化の腺癌であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再構成ヒト乳房腫瘍モデルを含むマウスであって、該モデルが自然発生腫瘍を含み、該腫瘍が、組み換えヒト癌遺伝子及び組み換えSV40erを含む複数のヒト乳房上皮細胞を含む、マウス。
【請求項2】
再構成ヒト乳房腫瘍モデルを含むマウスであって、該モデルが自然発生腫瘍を含み、該腫瘍が、(a)組み換えヒト癌遺伝子、(b)p53経路を阻害する導入遺伝子又はshRNA、及び(c)Rb経路を阻害する導入遺伝子又はshRNAを含む複数のヒト乳房上皮細胞を含む、マウス。
【請求項3】
前記組み換え癌遺伝子が、K−RAS、H−RAS、N−RAS、EGFR、MDM2、RhoC、AKT1、AKT2、MEK(MAPKKとも呼ばれる)、c−myc、n−myc、β−カテニン、PDGF、C−MET、PIK3CA、CDK4、サイクリンB1、サイクリンD1、エストロゲン受容体遺伝子、プロゲステロン受容体遺伝子、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4、TGFα、TGF−β、ras−GAP、Shc、Nck、Src、Yes、Fyn、Wnt、Bcl、及びBmi1からなる群より選択される、請求項1又は2に記載のマウス。
【請求項4】
前記組み換えヒト癌遺伝子が、KRAS、erbB2、PIK3CA、サイクリンD1及びBmi1からなる群より選択される、請求項3に記載のマウス。
【請求項5】
前記組み換えヒト癌遺伝子がerbB2である、請求項4に記載のマウス。
【請求項6】
前記組み換えヒト癌遺伝子がKRASである、請求項4に記載のマウス。
【請求項7】
前記KRASがKRASG12Vである、請求項6に記載のマウス。
【請求項8】
前記組み換えヒト癌遺伝子がPIK3CAである、請求項4に記載のマウス。
【請求項9】
前記組み換えヒト癌遺伝子がBmi1である、請求項4に記載のマウス。
【請求項10】
前記ヒト乳房上皮細胞が二つの組み換えヒト癌遺伝子を含む、請求項2に記載のマウス。
【請求項11】
前記二つの組み換えヒト癌遺伝子がKRAS及びPIK3CAである、請求項10に記載のマウス。
【請求項12】
前記二つの組み換えヒト癌遺伝子がKRAS及びBmi1である、請求項10に記載のマウス。
【請求項13】
前記p53経路を阻害する導入遺伝子又はshRNAが、p53R175Hをコードする導入遺伝子である、請求項2に記載のマウス。
【請求項14】
前記ヒトRb経路を阻害する導入遺伝子又は突然変異が、CCND1をコードする組み換え遺伝子である、請求項2に記載のマウス。
【請求項15】
前記ヒト乳房上皮細胞が更に、前記p53経路を阻害する導入遺伝子又はshRNA、及び前記Rb経路を阻害する導入遺伝子又はshRNAに加えて、腫瘍抑制経路を阻害する追加の導入遺伝子又はshRNAを含む、請求項2に記載のマウス。
【請求項16】
前記追加の導入遺伝子又はshRNAが、PP2A B56γサブユニット、PTEN、BRCA1又はBRCA2の発現に対して標的化されるshRNAである、請求項15に記載のマウス。
【請求項17】
前記腫瘍成長部位が、前記マウスの乳房脂肪パッド、該マウスの生殖腺脂肪パッド、該マウスの腎臓莢膜、及び該マウスの側腹部の皮下部位からなる群より選択される部位である、請求項1又は2に記載のマウス。
【請求項18】
前記モデルが更に複数のヒト線維芽細胞を含む、請求項1又は2に記載のマウス。
【請求項19】
前記ヒト線維芽細胞がヒト乳房線維芽細胞である、請求項18に記載のマウス。
【請求項20】
前記ヒト線維芽細胞の少なくとも一部が前記腫瘍の中に位置する、請求項18に記載のマウス。
【請求項21】
前記ヒト線維芽細胞が、不死化線維芽細胞、癌腫関連線維芽細胞、及び始原ヒト線維芽細胞からなる群より選択される、請求項1又は2に記載のマウス。
【請求項22】
前記組み換えヒト癌遺伝子が誘導性プロモーターに作動可能に連結される、請求項1又は2に記載のマウス。
【請求項23】
前記誘導性プロモーターが、テトラサイクリン誘導性プロモーター、メタロチオネインプロモーター、IPTG/lacIプロモーター系、エクジソンプロモーター、及びミフェプリストン誘導性プロモーターからなる群より選択される、請求項22に記載のマウス。
【請求項24】
前記誘導性プロモーターがテトラサイクリン誘導性プロモーターである、請求項23に記載のマウス。
【請求項25】
請求項1に記載のマウスの作製方法であって、
非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞を提供する工程;
ヒト乳房上皮細胞を提供する工程;
該ヒト乳房上皮細胞に組み換えヒト癌遺伝子及び組み換えSV40erを導入し、それによって形質導入乳房上皮細胞を形成する工程;ならびに
該非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞及び該形質導入ヒト乳房上皮細胞を近接してマウスに移植する工程を包含する、方法。
【請求項26】
前記線維芽細胞及び上皮細胞を細胞混合物として移植する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記線維芽細胞及び上皮細胞を、前記マウスの乳房脂肪パッド、該マウスの生殖腺脂肪パッド、該マウスの腎臓莢膜、及び該マウスの皮下部位からなる群より選択される部位に移植する、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記皮下部位が前記マウスの側腹部の皮下部位である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項2に記載のマウスの作製方法であって、
非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞を提供する工程;
ヒト乳房上皮細胞を提供する工程;
該ヒト乳房上皮細胞に、組み換えヒト癌遺伝子、p53経路を阻害する導入遺伝子又はshRNA、及びRb経路を阻害する導入遺伝子又はshRNAを導入し、それによって形質導入乳房上皮細胞を形成する工程;ならびに
該非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞及び該形質導入ヒト乳房上皮細胞を近接してマウスに移植する工程を包含する、方法。
【請求項30】
前記線維芽細胞及び上皮細胞を細胞混合物として移植する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記線維芽細胞及び上皮細胞を、前記マウスの乳房脂肪パッド、該マウスの生殖腺脂肪パッド、該マウスの腎臓莢膜、及び該マウスの皮下部位からなる群より選択される部位に移植する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記皮下部位が前記マウスの側腹部の皮下部位である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
癌関連遺伝子を同定する方法であって、
(a)請求項22に記載のマウスの腫瘍から細胞を提供する工程;
(b)該細胞のゲノムに組み込まれる核酸を該細胞に導入し、それによって該核酸が組み込まれる遺伝子座を標識する工程;
(c)誘導性プロモーターのインデューサーが存在しない条件下で該細胞を培養する工程;
(d)腫瘍形成性が該核酸分子の組み込みにより誘導された細胞を同定する工程;ならびに
(e)該組み込んだ核酸分子により工程(c)の細胞中で標識された遺伝子を、癌関連遺伝子として同定する工程を包含する、方法。
【請求項34】
前記核酸分子がレトロウイルス配列を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記核酸分子がモロニーマウス白血病ウイルスである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
化合物の抗腫瘍効果を試験する方法であって、
(a)請求項1又は2のマウスを提供する工程;
(b)該マウスに該化合物を投与する工程;
(c)適切な対照と比較して、該腫瘍に対する該化合物の抗腫瘍効果があればその効果を検出する工程を包含する、方法。
【請求項37】
癌関連間質遺伝子を同定する方法であって、
一つ以上の組み換え試験遺伝子を発現する非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞を提供する工程;
組み換えヒト癌遺伝子及び組み換えSV40erを含むヒト乳房上皮細胞を提供する工程;
該非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞及び該ヒト乳房上皮細胞を近接して試験マウスに移植する工程;ならびに
適切な対照と比較して、形成された腫瘍の数又は腫瘍形成の潜伏の増加又は減少を、試験マウスにおいて検出する工程を包含する、方法。
【請求項38】
癌関連間質遺伝子を同定する方法であって、
一つ以上の組み換え試験遺伝子を発現する非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞を提供する工程;
組み換えヒト癌遺伝子、p53経路を阻害する導入遺伝子又はshRNA、及びRb経路を阻害する導入遺伝子又はshRNAを含むヒト乳房上皮細胞を提供する工程;
該非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞及び該ヒト乳房上皮細胞を近接して試験マウスに移植する工程;ならびに
適切な対照と比較して、形成された腫瘍の数又は腫瘍形成の潜伏の増加又は減少を、試験マウスにおいて検出する工程を包含する、方法。
【請求項39】
マウスにヒト乳房原発性腫瘍を増殖させる方法であって、
(a)該腫瘍からヒト乳房上皮細胞を提供する工程;
(b)不死化非腫瘍形成性ヒト乳房線維芽細胞を提供する工程;
(c)該上皮細胞及び該線維芽細胞を互いに近接してマウスに移植する工程;ならびに
(d)該腫瘍を増殖させる上で十分な時間にわたり該マウスを維持する工程を包含する、方法。
【請求項40】
前記上皮細胞及び線維芽細胞を、乳房脂肪パッド、生殖腺脂肪パッド、腎臓莢膜、及び側腹部の皮下部位からなる群より選択される部位で前記マウスに移植する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記部位が乳房脂肪パッドである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記乳房脂肪パッドに不死化非腫瘍形成性ヒト乳房線維芽細胞を予め注入する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記上皮細胞及び線維芽細胞を移植の前に混合し、細胞混合物として移植する、請求項40に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2008−522626(P2008−522626A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545644(P2007−545644)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/044508
【国際公開番号】WO2006/063182
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(506070224)アベオ ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (14)
【Fターム(参考)】