説明

再活性化を予防する結核TBワクチン

本発明は結核菌群の微生物種(マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・ボビス(M.bovis)、マイコバクテリウム・アフリカヌム(M.africanum))によって引き起こされる潜伏結核感染症個体の再活性を予防するために投与することができるワクチン又は免疫原性組成物を開示する。本発明は、感染症の様々な段階で恒常的に発現されるマイコバクテリウム・ツベルクローシス由来の、いくつかのタンパク質及びタンパク質断片に基づいている。本発明はこれらのペプチドの使用、その免疫学的に活性な断片、及びワクチンなどの免疫学的組成物に対してコードする遺伝子に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結核菌群の細菌種(マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・ボビス(M.bovis)、マイコバクテリウム・アフリカヌム(M.africanum))によって引き起こされる潜伏結核感染症の再活性を予防するために、ESAT6、CFP10、及びESX−1分泌系からのその他の抗原など、恒常的に発現される抗原を標的することによって、潜伏感染した個体に投与することができるワクチンを開示する。
【背景技術】
【0002】
WHOによると、マイコバクテリウム・ツベルクローシスによって引き起こされるヒトの結核は、年間約3百万人の死者の原因となる重大な国際的健康問題である。新型結核(TB)の症例の世界的な発生数は1960年代及び1970年代の間は低下していたが、最近の数十年はひとつにはエイズの出現とマイコバクテリウム・ツベルクローシスの多剤耐性株の出現とによって、この傾向が一部で著しく変化した。
【0003】
結核の細菌は様々な疾病を引き起こしうるが、最も一般的な侵入経路は細菌の吸入である。これにより、肺内での感染が開始し、最終的には体の他の部分に広がりうる。通常、この感染は免疫系によって増殖が制限され、感染した個体の大部分は咳や熱を除き殆ど徴候を示さず、最終的には緩和する。約30%の個体は感染を抑えることができず一次疾患に発展し、多くの場合最終的には致命的となる。しかし、見かけ上感染を制御している個体でも、おそらく残りの人生感染したままである。確実に、何年、更に何十年も健康であった個体も突然結核に罹患することがあり、何年も前に感染した同じ細菌によって引き起こされることが分かっている。マイコバクテリウム・ツベルクローシス及びその他の結核菌群の細菌は、マイコバクテリアが免疫応答から回避することができ、難治性の非増殖段階又は増殖が緩徐な段階で長期間生残できる点で特有である。これは潜伏結核(潜伏性TB)と称され、現在では、世界人口の約1/3に影響すると推測される非常に重要な国際的健康問題である(Anon.2001)。
【0004】
現在、臨床用途で利用可能な唯一のワクチンは、効果について論争事項があるワクチンであるBCGである。BCGは一次感染の動物モデルには一貫して都合よく作用するが、TBの蔓延を制御できないのは明らかである。それと共に、BCGワクチンの接種は小児TBに備えた防御にはなる(一次感染であるため)が、成人の疾病(多くの場合、子供時代に罹った潜伏感染の再活性化である)に備えた防御とはほとんど又は全然ならない。更に、マイコバクテリアに現在感作しているか、あるいは潜伏感染している個体のワクチン接種は効果がないことが示されている。
【0005】
マイコバクテリウム・ツベルクローシスの感染経過は図1で例示するように、実質的に3段階を経る。急性期には、感染を制御できる段階まで免疫応答が増加するまでは、細菌が器官内で増殖し、この段階で細菌負荷がピークとなり、下降し始める。この後、潜伏期が構成され、細菌負荷は低い状態で安定する、この時期においては、マイコバクテリウム・ツベルクローシスは能動的な増殖状態から休眠状態となり、実質的に非増殖になり肉芽腫の内部に維持されるというのが現在の見解である。
【0006】
しかし近年、一定した少ない細菌数によって特徴づけられる感染段階においても、細菌集団の少なくとも一部は代謝が活性化している状態で維持されていることが明らかになった(Talaat AMら、2007)。従って、これらの細菌は強い免疫応答に直面しても生残し、能動的な代謝を維持し、増殖している。従って、感染した個体においては、非増殖性の細菌(細胞内に定住するため免疫系が探知することが極めて困難である)と、免疫宿主で生じた不適な環境に順応するために、発現プロファイルが能動的であるが変化している、増殖が緩徐な細菌との間に均衡がある。古典的な予防ワクチンを潜伏感染した実験動物に与えた場合の活性の欠如で例示されたように、この段階の細菌は一般的には、TB分野で現在開発下にある殆どの予防ワクチンで標的となっていない(Turner 2000)。
【0007】
一部の場合においては、均衡は病原体に有利なように傾き、感染は再活性期に移行し、細菌が急速に増殖を開始し、感染した個体における細菌数が増加する。非常に強い免疫性の圧力下で潜伏感染した個体において増殖する細菌は、本発明におけるワクチン接種戦略での標的である。予防ワクチンを潜伏感染した実験動物に与えた場合の活性の欠如によって例証されたように、この潜伏感染ステージにおける細菌は一般的には、TBの分野で現在開発下にある殆どの予防ワクチンで標的となっていない(Turnerら、2000)。宿主の強い免疫応答によって、主要な予防ワクチンの抗原であるAg85やPstSといった多数の抗原が発現低下することは現在既知であるため、そのことは驚くべきことではない(Rogerson,BJら、2006)。Ag85Bについては、感染後にAg85Bの発現が初期に一過性で増加するが、感染から2週間後にはピーク期間中のコロニー形成単位(1CFU)につき0.3のマイコバクテリウム・ツベルクローシスの転写物から1CFUにつき0.02のマイコバクテリウム・ツベルクローシスの転写物に、細菌Ag85Bの発現レベルが低下し、この低いレベルは感染後少なくとも最大100日維持される。従って、感染後2週間後の時点では、2%未満の細菌がAg85Bを能動的に発現している(同書)。Ag85Bの発現が低いことによって、感染後から3週間、又はそれ以降に、肺においてAg85Bに応答してIFN−gを生成できるT細胞の数が急速に低下することが支持される。
【0008】
対照的にいくつかの抗原は、感染症の様々な段階を通して、更に安定して(恒常的に)発現し、この一例がESAT6である。初期感染後、ESAT−6の発現レベルは1CFUにつき0.8のマイコバクテリウム・ツベルクローシスの転写物で安定する。この転写レベルはAg85Bよりも相応に高く、少なくとも感染後最大100日、このレベルが安定に維持される(Rogerson,BJら、2006)。更にこの転写データは、感染部位で感染の後半段階の強いT細胞のESAT−6の認識を示す免疫データにより支持されている(同書)。この恒常的な発現パターンは、これらの分子が病原体に非常に重大で重要な本質的な機能、病原体が免疫宿主において生残するために恒常的に発現することを要する遺伝子に依存する機能を満たすことを示す重要な特徴である。これらの分子は細菌のライフスタイルの全段階を標的とし、ひいては、その主成分が活性に対し最も広範であると推定されるため、これらの分子は本発明の主成分となり、潜伏感染した個体に投与するワクチンで特に重要な抗原となる。これは、非増殖の存続中にマイコバクテリアによって発現増加した抗原を同定することに焦点をあてている近年の見解とは異なる(Andersen,P.2007、国際公開公報第02048391号、国際公開公報第04006952号、Lin MY及びOttenhoff TH 2008;Leyten EMら、2006)。そのような抗原は非増殖の存続中に発現増加されるが、非増殖細菌で利用可能な量が、防御的免疫エフェクタ機能の検出に対し、あるいは始動に対し、閾値未満であるため、常に免疫認識に利用可能とは限らない。
【0009】
対照的に、ESX−1分泌系由来のタンパク質のいくつかは、免疫原性が高く、かつ発現レベルが高いことが示されている。ESX−1は、いくつかの病原性マイコバクテリアにおいて維持され、結核菌の病原性に関与している。ESAT−6、CFP10及びEspAの分泌における個々のESX−1タンパク質の寄与は十分に立証されており(Pym ASら、2003;Guinn KIら、2004;Stanley,SAら、2003;Brodin,P.ら、2006;MacGurn JAら、2005;Raghavan、S.ら、2008)、そのエフェクター分子の機能は膜の溶解と、食胞からの回避と、細菌の拡散とであることが示されている(Gao LYら、2004;Smith J.ら、2008)。
【0010】
潜伏感染を制御する免疫応答、及び再活性を引き起こす因子の全体的な性質はほとんど知られていない。しかし、原因となる優性な細胞型の変動に対する証拠はいくつかある。CD4T細胞は急性期中の感染の制御に必要十分あるが、研究によれば潜伏期間ではCD8T細胞の反応が、より重要であることを示唆している。(van Pinxteren LAら、2000)。
【0011】
当業者が容易に認識するように、遺伝子の発現は、良好なワクチン候補とするには不十分である。マイコバクテリウム・ツベルクローシスで潜伏感染中に、タンパク質が免疫系によって認識されるかどうかを判定する唯一の方法は、所定のタンパク質を産生し、本明細書中に記載の好適なアッセイで試験することである。この点に関して、我々のグループは、ESAT−6(Early Secretory Antigen Target−6といったマイコバクテリアによって強く発現した抗原が総ての感染ステージにおける個体において、実際には特に、潜伏感染した個体において、認識されていることを実証した(Boesen,Ravn,Doherty、2002)。しかし、自然感染中に抗原刺激したESAT−6に特異的なT細胞は多数存在しうるが、殆どが、非常に寿命が限られた末端が分化したT細胞である、いわゆるエフェクタータイプの表現型のみであり、感染疾患に対する防御的なT細胞としての活性が低い(Seder Rら、2008)。これは、TBの再活性に備えて防御するための本研究で実証したワクチンにより奨励される、高品質な、いわゆる多機能T細胞とは著しく異なる。
【0012】
曝露後ワクチンとして有用なものは、その多くが過敏性反応を引き起こし、それによってむしろ状況を悪化させるため、発現率が高く高免疫原性であるタンパク質とは決してならない。これはコッホの独自のツベルクリンワクチンの臨床試験において明確に立証された。ワクチンは皮膚や肺のTBを含む様々な形態の疾患に罹患した患者に曝露後ワクチンとして与えた。その臨床試験は完全に失敗し、登録患者たちの数名は深刻な過敏反応のために死亡した(Guttstadt A.1891)。一次感染中に発現したことが知られ、かつワクチンとして試験された数百の抗原のうち、6未満が顕著な潜在性を実証した。従来、1つの抗原のみが曝露後ワクチンとして何らかの潜在性を有していることが示されてきた(Lowrie,1999)。しかし、このワクチンはDNAワクチンとして投与された場合にのみ作用するが、実験技術は現行ではヒトへの使用が承認されていない。更には、その技術は論争中であり、他のグループはこのプロトコルを用いたワクチン接種が非特異的な防御か、更には疾患の悪化を誘発すると主張している(Turner,2000)。
【0013】
従って、疾病の再活性に備えて感染した個体を防御する有効な曝露後ワクチン接種の戦略が非常に所望される。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、ESAT6、CFP10、及びEspAといった恒常的に発現する抗原を標的にすることによって、結核菌の細菌種(マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・ボビス、マイコバクテリウム・アフリカヌム)によって生じる潜伏結核の感染の再活性を予防するために、潜伏結核感染症患者に投与できるワクチンによる、結核菌の種(マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・ボビス、マイコバクテリウム・アフリカヌム)によって引き起こされる感染の治療に関する。ESAT6、CFP10及びEspAは、総てが相互依存的に分泌に必要であり、かつ総てが病原性に必須であることが知られているESX−1分泌系に属している。これらの分泌した抗原は細菌の内転移や細胞膜の溶解に極めて重要である。ESAT6、CFP10及びEspAの抗原は更に、疾病の様々な段階において恒常的に発現し、一方で、例えばAg85の発現は感染後すぐに発現減少する。驚くべきことに、免疫原性の恒常的に発現する抗原は曝露後ワクチンとして投与した場合、潜伏結核の感染の再活性化を予防し、それにより感染を潜伏させて維持する。
【0015】
本発明は潜伏感染した個体に曝露後に投与し、結核の再活性化を予防し、マイコバクテリウム・ツベルクローシスの感染中に恒常的に発現する抗原、又は前記抗原をコードしている核酸を含むワクチン又は免疫原性組成物を開示する。
【0016】
好ましくは、組成物は、ESX−1分泌系に属する恒常的に発現する抗原、ESAT6(配列番号1)、CFP10(配列番号2)、EspA(配列番号3)、Rv3614c(配列番号4)、Rv3615c(配列番号5)、EspR(配列番号6)、Rv3868(配列番号7)、Rv3869(配列番号8)、Rv3870(配列番号9)、Rv3871(配列番号10)、Rv3872(配列番号11)、Rv3873(配列番号12)、Rv3876(配列番号13)、Rv3877(配列番号14)、Rv3878(配列番号15)、Rv3879c(配列番号16)、Rv3880c(配列番号17)、Rv3881c(配列番号18)、Rv3882c(配列番号32)、Rv3883c(配列番号33)、Rv3865c(配列番号34)、又はこれらの配列のいずれか1つの免疫原性部分、例えばT細胞のエピトープ、又はその配列のいずれか1つに少なくとも70%以上の配列相同性を有すると同時に、免疫原性であるアミノ酸配列類似体を含む。
【0017】
代替的に、組成物は、好ましくは、配列番号19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30及び31からなる群から選択される免疫原性部分の混合物を含む。
【0018】
本発明の別の実施態様は、前記ポリペプチドがマイコバクテリア系の細菌によって発現した抗原と融合し、好適には融合パートナーが恒常的に発現された抗原である組成物を含む。好適な融合タンパク質はCFP10に融合したESAT6を含む。
【0019】
本発明による組成物は好適には:マイコバクテリアの遺伝子を発現する細菌又はウイルスといった遺伝子改変細菌である組換え生ワクチン;あるいは上述のタンパク質に対する遺伝子及び遺伝子断片を発現するプラスミドであるDNAワクチン、又はタンパク質自体若しくはアジュバントといった送達系で送達されるタンパク質自体に由来する合成ペプチドであるタンパク質ワクチンといった免疫原性送達系;から選択される更なる送達系を含む。アジュバントは好適には、ジメチルオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)、Quil A、ポリIC(ポリイノシン・ポリシチジン:poly I:C)、水酸化アルミニウム、フロイントの不完全型アジュバント、IFN−γ、IL−2、IL−12、モノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコラート(TDM)、トレハロースジベヘナート、ムラミルジペプチド(MDP)、最も好適にはDDA/TDB及びIC31などの多機能性T細胞の応答を促進するアジュバントから成る群から選択される。最も好適なアジュバントは、DDA/TDB、及び/又はポリICを含む。代替的にはアミノ酸配列はポリペプチドの自己アジュバント効果を可能にするように脂質化されている。
【0020】
本発明は更に、潜伏結核の治療及び感染の再活性化の予防用の、上述の抗原を開示している。
【0021】
マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・アフリカヌム、又はマイコバクテリウム・ボビスといった病原性マイコバクテリアによって引き起こされる結核感染の再活性に備えて、ヒトを含む動物を治療する方法が、動物に上述に記載のワクチン又は免疫原性組成物を投与するステップを具え、前記ワクチン又は免疫原性組成物は急性感染期中若しくは後、及び/又は、潜伏感染期中といった感染後に投与される。
【0022】
本方法は、病原性マイコバクテリウムに潜伏感染した対象を、例えば、マントーツベルクリン反応試験(TST)、クォンティフェロン試験、HBHAの反応の生体外での検出、又は恒常的に発現している抗原での刺激後のIP10の検出といった診断手順によって同定するステップを具えうる。
【0023】
本発明は更に、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・ボビス、及びマイコバクテリウム・アフリカヌム等の結核菌群の種によって引き起こされる潜伏感染の再活性に備えた曝露後ワクチン又は免疫原性組成物の製造のための上述の抗原の使用を開示しており、前記ワクチン又は免疫原組成物は感染症の急性期感染ステージ中又はその後、及び/又は潜伏ステージ中など、感染後に投与するものであり、上述の1又はそれ以上の免疫原性部分を含む。
【0024】
病原体としてのマイコバクテリアの幸運は、その宿主との相互作用の複雑かつ微細な方法、すなわち特異化されたESX−1細菌タンパク質分泌系によって部分的に制御したプロセスによるものである。ESX−1系は細菌タンパク質(例えば、ESAT−6、CFP10及びEspA)を宿主細胞に送達し、それは病原性に対して重要となる。細菌から分泌後、ESAT−6タンパク質は食胞膜に孔を形成して、食胞における封入部分から細胞基質へ細菌を回避可能にし、それにより細胞間の拡散を促進する。
【0025】
この恒常的な発現パターンは、これらの分子が病原体に非常に重大で重要な本質的な機能、病原体が免疫宿主において生残するために恒常的に発現することを要する遺伝子に依存する機能を満たすことを示す重要な特徴である。これらの分子は細菌のライフスタイルの全段階を標的とし、ひいては、その主成分が活性に対し最も広範であると推定されるため、これらの分子は本発明の主成分となり、潜伏感染した個体に投与するワクチンで特に重要な抗原となる。
【0026】
ESAT6、CFP10及びEspAは、総てが相互依存的に分泌に必要であり、かつ総てが病原性に必須であることが知られているESX−1分泌系に属している。これらの分泌した抗原は細菌の内転移や細胞膜の溶解に極めて重要である。ESAT6、CFP10及びEspAの抗原は更に、疾病の様々な段階において恒常的に発現し、一方で、例えばAg85の発現は感染後すぐに発現減少する。免疫原性の恒常的に発現する抗原は治療用ワクチンとして投与した場合、潜伏結核の感染の再活性化を予防し、それにより感染を潜伏させて維持する。
【0027】
[定義]
《多機能T細胞》
多機能T細胞という用語によって、IFN−γ、IL−2及びTNF−αの総てのサイトカイン、あるいはIL−2及び別の2つのサイトカインIFN−γ及びTNF−αのうちの少なくとも1つを同時に発現するT細胞と解釈される。
【0028】
《ポリペプチド》
本発明における用語「ポリペプチド」の意味は通常のものである。それは、完全長のタンパク質、オリゴペプチド、短いペプチド及びその断片を含む任意の長さのアミノ酸鎖であり、アミノ酸残基は共有結合性のペプチド結合により結合している。
【0029】
ポリペプチドは、グリコシル化により、脂質化により(例えば、Mowatら、1991により記載のような、パルミトイルオキシスクシンイミドでの、あるいは、Lustigら、1976により記載のようなドデカノイルクロリドでの化学的な脂質化により)、補欠分子団を含むことにより、あるいは、例えばHisタグ又はシグナルペプチドといった更なるアミノ酸を含むことによって化学修飾してもよい。
【0030】
従って、各ポリペプチドは特異的なアミノ酸によって特徴付けられ、特異的な核酸配列によってコードできる。このような配列は組換え法や合成法により産生された類似体や変異体を含み、このようなポリペプチド配列は、組換えポリペプチドにおける1又はそれ以上のアミノ酸残基の置換、挿入、付加、又は削除により修飾され、本明細書に記載した生物学的アッセイのいずれかにおいて更に免疫原性であると解釈すべきである。置換は好適には「保存的」である。これらは下記の表によって規定される。第2列目の同区画に、あるいは好適には第3列目の同一行にあるアミノ酸は相互に置換することができる。第3列目にあるアミノ酸は1文字コードで示されている。

【0031】
本発明の好適なポリペプチドは、生物が潜伏感染に関連したストレスに供されたときに産生されるマイコバクテリウム・ツベルクローシス由来の免疫原性抗原である。このような抗原は更に、例えばマイコバクテリウム・ツベルクローシスの細胞及び/又はマイコバクテリウム・ツベルクローシスの培養濾液からも得ることができる。従って、上述の抗原のうちの1つの免疫原性部分を含むポリペプチドは全体的に免疫原性部分からなっていてもよく、更なる配列を含んでいてもよい。更なる配列は天然マイコバクテリウム・ツベルクローシスの抗原由来であっても、あるいは異種であってもよく、このような配列は必要ではないが、免疫原性であってもよい。
【0032】
各ポリペプチドは、特異的な核酸配列によってコードされる。このような配列はその類似体や変異体を含み、このような核酸配列は1又はそれ以上の核酸の置換、挿入、付加又は欠失により修飾されている。置換は、アミノ酸配列が変わらないコドン使用頻度におけるサイレント置換であることが好ましく、タンパク質の発現量を増加するために導入されうる。
【0033】
本文脈においては、用語「実質的に純粋なポリペプチド断片」は、最大5重量%の天然に結合する他のポリペプチド材料を含むポリペプチド試料のことである(低割合のポリペプチド材料、例えば最大4%、最大3%、最大2%、最大1%、最大1/2%が更に好ましい)実質的に純粋なポリペプチドは、少なくとも96%の純度であること、すなわち、ポリペプチドが試料においてポリペプチド材料全体の少なくも96重量%を構成し、高い割合、例えば少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.25%、少なくとも99.5%、少なくとも99.75%であることが好適である。ポリペプチド断片は「実質的に純粋な形態」であること、すなわちポリペプチド断片は、天然に結合するその他の抗原が基本的にない、すなわち、結核菌群、又は病原性マイコバクテリウムに属する細菌由来のその他の抗原がないことが特に好ましい。これは、下記に詳細に記載したような非マイコバクテリウムの宿主細胞において組換え方法によってポリペプチド断片を調製することによって、あるいは液相又は固相ペプチド合成の既知の方法、例えばMerrifieldにより記載の方法又はその変形によりポリペプチド断片を合成することによって実現できる。本発明の目的のために、上述の「実質的に純粋なポリペプチド又はポリペプチド断片」の定義は、マイコバクテリア又は非マイコバクテリア起源の他の精製抗原又は合成抗原との組み合わせで存在する場合に、このようなポリペプチド又はポリペプチド断片を除外しないと解釈すべきである。
【0034】
用語「病原性マイコバクテリア」によって、動物において、あるいはヒトにおいて結核を引き起こすことができる細菌として解釈すべきである。病原性マイコバクテリアの例は限定しないが、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・アフリカヌム、マイコバクテリウム・ボビスを含む。関連する動物の例はウシ、フクロネズミ、アナグマ及びカンガルーである。
【0035】
「感染した個体」によって、病原性マイコバクテリアの感染が培養又は顕微鏡法で判明した個体、及び/又はTBと臨床上診断され、かつ抗TB化学療法に応答する個体と解釈すべきである。TBの培養、顕微鏡法及び臨床上の診断は当業者には周知である。
【0036】
用語「PPD陽性の個体」によって、マントウ試験が陽性の個体、又はPPD(精製タンパク質派生物)がIFN−γの放出により判定される生体外での陽性のリコール反応を誘発する個体と解釈すべきである。
【0037】
「潜伏感染した個体」によって、例えば病原性マイコバクテリア、例えばマイコバクテリウム・ツベルクローシスに感染したが能動的な結核の症候を示さない個体と解釈すべきである。BCGワクチン等によりワクチン接種されたか、あるいはTBに対し治療された個体は、その体内にマイコバクテリアを保持している思われるが、このような個体は、PPDの反応性について試験した場合に陽性を示すことが予測されるため、証明することが現行では不可能である。それにも拘わらず、最も正確な意味においては、「潜伏感染した」は、マイコバクテリウム・ツベルクローシスは組織において残留しているが、臨床的疾患でない任意の個体について記載するのに用いることができる。潜伏感染した個体はマントウのツベルクリン皮膚試験(TST)、クァンティフェロン試験といった現在の臨床用途の数多くの方法で同定でき、将来的には、近年提案されているHBHAに対する反応の生体外での検出(Hougardy、2007)、又はESAT6での生体外での刺激後のIP10の検出(Ruhwald、2008)といったこの特定の感染段階を診断する、更に感度の高い手段になりうる。
【0038】
用語「再活性」によって、非増殖性の細菌(細胞内に定住するため免疫系が探知することが極めて困難である)と、免疫宿主で生じた不適な環境に順応するために、発現プロファイルが能動的であるが変化している、増殖が緩徐な細菌との間の均衡が、病原体に有利なように傾き、感染はその段階に移行し、細菌が再度急速に増殖を開始し、感染した個体における細菌数が増加する状況であると解釈すべきである。非常に強い免疫性の圧力下で潜伏感染した個体において増殖したこれらの細菌が、本発明におけるワクチン接種戦略での標的である。
【0039】
用語「IFN−γ」によって、インターフェロンγであると解釈される。IFN−γの測定は免疫反応の指標として用いられる。
【0040】
用語「核酸断片」及び「核酸配列」によって、DNA、RNA、LNA(ロックド核酸)、PNA、RNA、dsRNA及びRNAとDNAとの複合型を含む任意の核酸分子と解釈すべきである。更に含まれているのが、非天然に生じたヌクレオシドを含む核酸分子である。用語は用途に応じて、例えば10乃至10000ヌクレオチドといった、任意の長さの核酸分子も含む。核酸分子が医薬品として、例えばDNA治療に用いる、あるいは本発明によるポリペプチドの産生方法に用いる場合、少なくとも1のエピトープをコードする分子が好適には用いられ、長さは約18乃至約1000ヌクレオチドであり、この分子は選択的にベクターに挿入される。
【0041】
文脈により別段の定めがある場合を除いて、本明細書にわたって、語句「含む」、又は「含んでいる」といったその変化形は、規定の要素若しくは整数、又は要素若しくは整数の群を含むことを意味するが、その他の要素若しくは整数、又は他の要素若しくは整数の群を排除することを意味しないと解釈すべきである。
【0042】
恒常的に発現する遺伝子は、集団レベルでのmRNAの詳細な分析後、感染後3週間以降の時点で、肺における生体内でのマイコバクテリウム・ツベルクローシスのCFU数と関連づけた、肺において同様で良好に発現した遺伝子と定義される。この定義から、恒常的な遺伝子は単一の細菌レベルでは特異的に発現するということになる。遺伝子発現を定量する方法は、定量的PCR法である。「同様で良好に」は、前回の測定から+/−5倍のレベル内であると定義する。比較は常に、現在の直前の時点に対してである。測定間の時間は、感染と直前の測定との間の時間より長くできない。例を挙げると、遺伝子発現を感染後3週間で1回目の測定をした場合、2回目の測定は、感染後6週間以降に、3回目を感染後12週間以降等にすることはできない。恒常的に発現する抗原は、恒常的に発現する遺伝子の産物であるポリペプチド、又はこれらのポリペプチドの一部である。
【0043】
《配列相同性》
用語「配列相同性」は同一の長さの2のアミノ酸配列の間、又は同一の長さの2つのヌクレオチド配列間の相同性の度合の定量的な測定を意味する。比較すべき2の配列は、ギャップの挿入、あるいはタンパク質配列の末端の切断を可能にする推定される最良の適合度まで整列しなければならない。配列相同性は:

として算出することができる。ここでNdifとは整列した場合の2の配列における非同一性の残基の総数であり、Nrefは配列のうちの1つの残基の数である。従って、DNA配列AGTCAGTCは、配列AATCAATCと75%の配列相同性がある(Ndif=2及びNref=8)。ギャップは非同一な1以上の特異的な残基として計数される。即ち、DNA配列AGTGTCはDNA配列AGTCAGTCと75%の配列相同性がある(Ndif=2及びNref=8)。配列相同性は代替的に、BLASTプログラム、例えばBLASTPプログラムによって計算することができる(Pearson,1988、又は「www.ncbi.nlm.nih.gov/cgi−bin/BLAST」)。発明の一態様においては、アラインメントは、Thompson J.ら、1994に記載のような初期設定のパラメータが「http://www2.ebi.ac.uk/clustalw/」で入手可能な配列アラインメント法Clustal Wで実行することができる。
【0044】
配列相同性の好適な最小の割合は少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%である。
【0045】
《免疫原性部分》
本発明の好適な実施態様においては、ポリペプチドはB細胞又はT細胞に対するエピトープといったポリペプチドの免疫原性部分を含む。ポリペプチドの免疫原性部分はポリペプチドの一部であり、動物又はヒトにおいて、及び/又は本明細書中に記載の生物学的アッセイのいずれかよって定量した生物学的試料において免疫反応を誘発する。ポリペプチドの免疫原性部分はT細胞エピトープ、又はB細胞エピトープであってもよい。免疫原性部分はポリペプチドの1又は少数の比較的少さい部分に関連づけでき、ポリペプチド配列にわたって分散するか、又はポリペプチドの特異的な部分に位置しうる。いくつかのポリペプチドについては、エピトープが完全配列をカバーするポリペプチドにわたって散在することが示されている(Ravnら、1999)。免疫反応中に認識される関連するT細胞エピトープを同定するために、MHCクラスIIエピトープの検出用の、好適には合成性であり、長さが例えば、ポリペプチド由来の20のアミノ酸残基の重複するオリゴペプチドを用いることが可能である。これらのペプチドは生物学的アッセイ(例えば、本明細書中に記載のIFN−γアッセイ)で試験することができ、これらの一部は、ペプチドにおけるT細胞エピトープの存在の証拠として陽性反応を与える(及びこれによって、免疫原性となる)。ESAT−6及びCFP10については、このような研究によって、抗原の総ての部分がT細胞エピトープを含むことを示した(Mustafaら、2000;Arend SMら、2000)。MHCクラスIエピトープの検出については、結合するペプチドを予測することが可能であり(Stryhnら、1996)、その後にこれらのペプチドの合成物を産生し、関連する生物学的アッセイ、例えば本明細書に記載のようなIFN−γアッセイで試験することが可能である。ペプチドの長さは好適には、ポリペプチド由来の8乃至11のアミノ酸残基となる。B細胞エピトープは、例えばHarboeら、1998に記載のように対象のポリペプチドをカバーする重複するペプチドに対するB細胞の認識を分析することによって定量できる。この定義と一致して、本明細書中に記載のポリペプチドの免疫原性部分は、免疫応答を誘発する部分として同定できる。以下の「免疫応答」の定義を参照。
【0046】
最小長のT細胞エピトープは少なくとも6アミノ酸残基であることを示してきたが、このようなエピトープは更に長いアミノ酸の伸展から構成されることが一般的である。従って、本発明のポリペプチド断片の長さは、少なくとも7以上のアミノ酸残基、例えば、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、少なくとも16、少なくとも18、少なくとも20、少なくとも22、少なくとも24、及び少なくとも30のアミノ酸残基であることが好適である。従って、本発明の方法の重要な実施態様では、ポリペプチド断片の長さは最大50のアミノ酸残基、例えば最大40、35、30、25、及び20のアミノ酸残基であることが好適である。長さが10乃至20のアミノ酸残基であるペプチドは、MHCクラスIIエピトープとして最も有効であることが判明し、ひいては本発明の方法で用いた特に好適なポリペプチド断片の長さは18、例えば15、14、13、12更には11のアミノ酸残基であると予測される。長さが7乃至12のアミノ酸残基のペプチドは、MHCクラスIエピトープとして最も有効であることが判明し、ひいては本発明の方法で用いたポリペプチド断片の特に好適な長さは11、例えば10、9、8更に7のアミノ酸残基であると予測される。
【0047】
ポリペプチドの免疫原性部分は、遺伝的に異種のヒト集団の広範な部分(高頻度)で、あるいは小さな部分(低頻度)で認識されうる。更に、いくつかの免疫原性部分は高い免疫学的応答(優性)を誘発する一方、他の部分は低いが、なお有意な免疫学的応答(準優性)を誘発する。高頻度、低頻度は、広く分布しているMHC分子(HLA型)に、あるいは更に複数のMHC分子によって結合する免疫原性部分に関連付けることができる(Sinigaglia、1988;Kilgus、1991)。
【0048】
結核に備えた新規のワクチンの候補分子を提供する文脈においては、しかしながら、準優性のエピトープは、強く、あるいは広範に認識されていないという事実にも拘らず防御を引き起こすことが示されている(Olsen、2000)ため、優性のエピトープと同程度に関連づけられる。
【0049】
《変異体》
本発明のポリペプチドの共通の特徴は、実施例に示すように免疫学的応答を誘発する能力である。置換、挿入、付加又は削除により産生される本発明のポリペプチド変異体は更に、本明細書中に記載のアッセイのいずれかによって定量される免疫原性となりうることは理解すべきである。
【0050】
《免疫個体》
免疫個体はヒト又は動物として定義され、病原性マイコバクテリアでの感染を排除又は制御しているか、あるいはマイコバクテリウム・ボビスのBCGワクチンでのワクチン接種といった、予防的なワクチン接種を受けている。
【0051】
[免疫応答]
免疫応答は下記の方法のうちの1つでモニタリングできる。
【0052】
・生体外での細胞応答は、現在若しくは以前に病原性マイコバクテリアに感染しているか、あるいは関連するポリペプチドで免疫化した動物又はヒト由来のIFN−γなどの関連するサイトカインの放出の誘発、又は回収されたリンパ球における増殖の誘発によって定量される。誘発は1ウェルあたり2×10の細胞数乃至4×10の細胞数を含む懸濁液へのポリペプチド又はポリペプチドの免疫原性部分を添加によって行われる。細胞は血液、脾臓、肝臓、又は肺から単離し、ポリペプチド又は免疫原性部分の添加によって、懸濁液1mlあたり20μg以下の濃度を得て、刺激は2乃至5日間行われる。細胞増殖をモニタリングするために、細胞は放射活性物質で標識したチミジンで脈動して、16乃至22時間のインキュベーション後に液体シンチレーション測定によって増殖を検出する。陽性反応は2の標準偏差を加えたバックグラウンドより大きな反応と定義される。IFN−γの放出はELISA法により定量され、それは当該技術分野の当業者に公知である。陽性反応は2の標準偏差を加えたバックグラウンドによりも大きな反応である。IL−12、TNF−α、IL−4、IL−5、IL−10、IL−6、TGF−βといった、IFN−γ以外の他のサイトカインは、ポリペプチドに対する免疫学的応答をモニタリングする場合に関連付けられうる。免疫応答を検出するための別の更に感度の高い方法はELISpot法であり、細胞を産生するIFN−γの頻度が定量される。抗マウスIFN−γ抗体(PharMingen社)で事前コーティングしたELIspotプレート(MAHA、Millipore社)において、血液、脾臓、又は肝臓から単離した、計量した数の細胞(一般的には、1ウェルあたり1乃至4×10の細胞数)は、1mlあたり20μg以下の濃度で得られたポリペプチド又は免疫原性部分の存在下で24乃至32時間インキュベートされる。次に、プレートはビオチン化抗IFN−γ抗体でインキュベートされ、ストレプトアビジン−アルカリホスファターゼのインキュベーションが続く。IFN−γ産生細胞は、BCIP/NBT(Sigma社)を添加することによって同定され、関連する基質はスポットを生じる。これらのスポットは解剖顕微鏡を用いて計数できる。更に、PCR技術の使用によって、関連するサイトカインをコードするmRNAの存在を判定することが可能である。通常、1又はそれ以上のサイトカインは、例えばPCR、ELISPOT又はELISAを用いて測定される。特異的なポリペプチドにより誘導されるこれらのサイトカインのうちのいずれかの量における有意な増加又は減少は、ポリペプチドの免疫学的活性の評価に用いることができることは、当業者によって理解されるであろう。
【0053】
・生体外での細胞応答は更に、生存しているマイコバクテリア、前記細菌細胞からの抽出物、又はIL−2を添加した10乃至20日間の培養濾液のいずれかでT細胞株を活性化した、免疫個体又はマイコバクテリウム・ツベルクローシスを誘発したヒト由来のT細胞株の使用によって定量される。誘発は、1ウェルあたり1×10乃至3×10の細胞数を含むT細胞株に、1mlの懸濁液あたり20μg以下のポリペプチド溶液を添加することによって行い、インキュベーションは2乃至6日間行う。IFN−γの誘導又は他の関連するサイトカインの放出はELISAにより検出される。T細胞の刺激は上述のように放射活性物質で標識したチミジンを用いて細胞増殖を検出することによりモニタリングできる。双方のアッセイについて、陽性反応は2の標準偏差を加えたバックグラウンドよりも大きな反応である。
【0054】
・生体内の細胞応答は臨床的又は準臨床的に病原マイコバクテリウムに感染している個体に対する、最大100μgのポリペプチド又はポリペプチド免疫原性部分の皮内注射又は局所適用後のDTH反応により定量でき、陽性反応の直径は、注射又は適用後72乃至96時間で少なくとも5mmである。
【0055】
・生体外での体液性反応は、免疫個体又は感染した個体における特異的な抗体反応により定量される。抗体の存在はELISA法、あるいはニトロセルロース膜又はポリスチレンの表面にポリペプチド又は免疫原性部分を吸収させたウェスタンブロットによって定量される。血清は好適には、PBSで1:10乃至1:100に希釈し、吸収したポリペプチドに添加され、インキュベーションは1乃至12時間行われる。標識した二次抗体の使用によって、特異的な抗体の存在はODを測定することによって、例えば陽性反応が2の標準偏差を加えたバックグラウンドによりも大きな反応であるか、あるいは代替的にウェスタンブロットにおける視覚的反応であるELISAによって定量できる。
【0056】
・別の関連するパラメータはアジュバントにおけるポリペプチドでのワクチン接種後、又はDNAワクチン接種後に誘発した動物モデルにおける防御の測定である。好適な動物モデルは霊長類、モルモット又はマウスを含み、病原性マイコバクテリアの感染で曝露される。誘発した防御の読取り値は、非ワクチン接種動物と比較した標的器官における細菌負荷の減少、非ワクチン接種動物と比較した長い生存期間、及び非ワクチン接種動物と比較した体重減少の低減である。
【0057】
[調製方法]
一般的には、マイコバクテリウム・ツベルクローシスの抗原、及びこのような抗原をコードするDNA配列は様々な手順のうちのいずれか1つを用いて調製する。それらは、上述したような手順によってマイコバクテリウム・ツベルクローシスの細胞又は培養濾液から天然タンパク質として精製できる。免疫原性抗原は更に、発現ベクターに挿入し、好適な宿主に発現した、抗原をコードしたDNA配列を用いて組換え技術によって産生できる。宿主細胞の例は大腸菌である。そのポリペプチド又は免疫原性部分は更に、約100未満のアミノ酸で、一般的には50未満のアミノ酸で合成的に産生でき、アミノ酸が増殖中のアミノ酸鎖に順次添加される商業上利用可能な固相技術といった、当該技術分野における当業者に公知の技術を用いて産生できる。
【0058】
DNAワクチン接種で規定されるように、ポリペプチドをコードするプラスミドDNAの構築及び調整においては、大腸菌などの宿主菌株を用いることができる。プラスミドDNAは次いで、対象のプラスミドを保有する宿主菌株の培養物から調製でき、例えばエンドトキシンの除去ステップを具えるQiagen Giga−Plasmidカラムキット(米国カリフォルニア州サンタクラリタのQiagen社)を用いて、プラスミドDNAの精製できる。DNAワクチン接種に用いたプラスミドDNAは、エンドトキシンがないことが好適である。
【0059】
[融合タンパク質]
免疫原性ポリペプチド更には融合タンパクとして産生でき、それの方法によって、本発明のポリペプチドの優れた特性が得られる。例えば、組換えで産生した場合にポリペプチドの輸送を促進する融合パートナー、ポリペプチドの精製を促進する融合パートナー、及び本発明のポリペプチド断片の免疫原性を強化する融合パートナーは、総て可能性のある対象である。従って本発明は更に、上に規定した少なくとも1のポリペプチド又は免疫原性部分と、少なくとも1の融合パートナーとを含む融合ポリペプチドに関する。免疫原性を強化するために、融合パートナーはマイコバクテリウム・ツベルクローシス由来の他のポリペプチド、例えば、ESAT−6、CFP10、EspA、TB10.4、RD1−ORF5、RD1−ORF2、Rv1036、MPB64、MPT64、Ag85A(MPT59)、MPB59、Ag85C、19kDaリポプロテイン、MPT32及びαクリスタリン(alpha−crystallin)、又は上述の抗原のいずれかのT細胞エピトープといった結核菌群に属する細菌に由来するポリペプチド断片にできる(Skjotら、2000;国際公開公報第0179274号;国際公開公報第0104151号;米国特許出願第09/0505,739号;Rosenkrandsら、1998;Nagaiら、1991)。本発明は更に、本発明のポリペプチド(又はその免疫原性部分)のうちの2又はそれ以上の相互融合を含む融合ポリペプチドに関する。他の融合パートナーは、本製品の免疫原性を強化でき、IFN−γ、IL−2及びIL−12といったリンホカインである。発現及び/又は精製を促進するために、融合パートナーは例えば:線毛成分のピリン(pilin)とpapA;タンパク質A;ZZ−ペプチド(ZZ−融合剤はスウェーデンのPharmacia社によって市販されている);マルトース結合タンパク質;グルタチオンS−トランスフェラーゼ;β−ガラクトシダーゼ;又はポリヒスチジン;といった細菌の線毛タンパク質にできる。融合タンパク質は宿主細胞における組換えで産生でき、大腸菌にでき、それは様々な融合パートナーとの間のリンカー領域を誘発する可能性がある。
【0060】
他の対象の融合パートナーはポリペプチドであり、免疫原性ポリペプチドが免疫系において好適な方法で提示されるように脂質化される。この効果は、例えば国際公開第96/40718A号に記載のようなボレリア・ブルグドルフェリのOspAポリペプチドに基づいたワクチン又は緑膿菌Oprlリポタンパク質(Cote−Sierra J、1998)に基づいたワクチンで既知である。別の可能性は、既知のシグナル配列と免疫原性ポリペプチドのN末端システインのN末端融合である。適切な産生宿主で産生した場合、このような融合によってN末端システインで免疫原性ポリペプチドの脂質化が得られる。
【0061】
[使用]
《ワクチン》
ワクチンは特定の疾病に対する免疫を確立又は改善する生物学的製剤である。ワクチンは、予防的(例えば、任意の天然型又は「野生型」の病原体によって将来の感染の作用を予防又は改善するために)、事後曝露的(例えば、臨床的な兆候がない潜伏感染した個体の再活性化を予防するために)、又は治療的(例えば、治療を短縮するために、単独で、あるいは抗生物質治療との組み合わせのいずれかで能動的な疾患を治療するために用いられるワクチン)にできる。
【0062】
《潜伏性TB用の動物モデル》
マイコバクテリウム・ツベルクローシスで低度の潜伏感染を誘発するために、動物は最初に通常の用量のマイコバクテリウム・ツベルクローシス(肺において約150の細菌)を用いてエアロゾル感染を与える。感染の6週間後、動物は次いで、総てではないが殆どの細菌が根絶する6週間の準最適な化学療法的治療を与える。残余の細菌は潜伏感染を確立する。この化学療法的治療に続いて、一部の動物にワクチン接種して、ワクチンが化学療法的治療後5乃至15週間に自然発生する、潜伏感染の再活性化を予防する能力を試験する。図2参照。
【0063】
《タンパク質のワクチン》
本発明の別の部分は、ポリペプチド(又はその少なくとも1の免疫原性部分)あるいは本発明による融合ポリペプチドを含むワクチン組成物に関連する。このようなワクチン組成物の最適な効能を保証するために、免疫学的及び薬学的に許容される担体、賦形剤、又はアジュバントを含むことが好適である。
【0064】
本発明のポリペプチドが動物によって認識される効果的なワクチンは、動物モデルにおいて非ワクチン接種動物と比べて、標的器官において細菌負荷を減少させ、生存期間を延長し、かつ/あるいは病原性マイコバクテリアによる曝露後の体重減少を低減できる。
【0065】
好適な担体は例えばポリスチレン等のプラスチックといった疎水性で非共有結合性の相互作用によってポリペプチドが結合したポリマー、あるいはポリサッカライド又はウシ血清アルブミン、オボアルブミン若しくはキーホールリンペットヘモシアニン等のポリペプチドといった1又はそれ以上のポリペプチドが共有結合しているポリマーから成る群から選択される。好適な賦形剤は希釈剤及び懸濁剤からなる群から選択される。アジュバンドは好適にはジメチルオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)、Quil A、ポリIC、水酸化アルミニウム、フロイントの不完全アジュバント、IFN−γ、IL−2、IL−12、モノホスホリルリピドA(MPL)トレハロースジミコラート(TDM)、トレハロースジベヘナート及びムラミルジペプチド(MDP)からなる群から選択される。活性成分としてペプチド配列を含むワクチンの調製は一般的には米国特許第4,608,251号、米国特許第4,601,903号、米国特許第4,599,231号、及び米国特許第4,599,230号に例示されているように当該技術分野の当業者に公知であり、総ては引用によって本明細書中に組み込まれている。
【0066】
ワクチン用アジュバント効果を得る他の方法は、水酸化アルミニウム又はリン酸塩(ミョウバン)、糖の合成ポリマー(カーボポール)などの薬剤の使用を含み、熱処理によるワクチンにおけるタンパク質の凝集、アルブミンに対してペプシン処理した(Fab)抗体で再活性化することによる凝集、クリプトスポリジウム・パルバムのような細菌細胞又はグラム陰性細菌のエンドトキシン若しくはリポ多糖成分との混合物、マンニドモノオレアート(Aracel A)といった生理学的に許容可能な油の賦形剤におけるエマルジョン、あるいはブロック置換体として用いた20%のパーフルオロカーボン(Fluosol−DA)溶液とのエマルジョンを用いてもよい。他の可能性は、サイトカインといった免疫調節物質、又は上述のアジュバントと組合わせたポリICといった合成IFN−γ誘導剤の使用を含む。
【0067】
アジュバント効果を得るための別の推定される対象は、Gosselinら、1992に記載された技術を用いることである(引用により本明細書中に組み込まれている)。簡潔に言えば、本発明の抗原のような関連する抗原は、単球/マクロファージ上のFcγ受容体に対する抗体(又は抗原結合抗体断片)に接合できる。
【0068】
ワクチンは投与形態に互換性のある方法で、かつ再活性化の予防において免疫原性及び有効となるような量で投与される。投与すべき量は治療すべき対象に依存し、例えば、免疫応答を開始できる個体の免疫系の能力、所望の防御の度合を含む。適切な用量範囲はワクチン接種あたり数100μg程度の有効成分であり、好適な範囲は約0.1μg乃至1000μg、例えば約1μg乃至300μgの範囲であり、特に10μg乃至50μgの範囲である。初期投与及び追加投与に好適な投与計画は更に可変であるが、初期投与と、それに続く更なる接種又は他の投与とによって類型化されている。
【0069】
適用の方法は広範に変化させることができる。ワクチン投与のための従来の方法のいずれかは適用可能である。これらは生理学的に許容可能な固形基剤若しくは生理学的に許容可能な分散剤の経口適用、非経口投与、又は注射等を含む。ワクチンの投与量は投与経路に依存し、ワクチン接種すべきヒトの年齢、わずかな度合では投与すべきヒトの大きさに応じて変わる。
【0070】
ワクチンは従来、エアロゾル又は吸入等により肺内へ、非経口で、あるいは皮下又は筋内等のいずれかでの注射によって投与される。他の投与様式に好適な更なる製剤は、坐剤と、場合によっては経口製剤とを含む。坐剤については、従来の結合剤及び担体は、例えばポリアルキレングリコール又はトリグリセリドを含むことができ、このような坐剤は0.5%乃至10%、好適には1%乃至2%の範囲で活性成分を含む混合物で形成できる。経口製剤は、例えば医薬グレードのマンニトール、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、及び炭酸マグネシウム等として通常用いられる賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤又は粉末の形態をとり、10乃至95%、好適には25乃至70%の活性成分を含む。
【0071】
多くの例では、ワクチンは複数の投与が必要となる。個体がすでに感染している又は感染したと疑われる例では、前回のワクチン接種が、原疾患を予防するのに十分な免疫を提供しうるが、前述したように、この免疫応答を追加免役することは潜伏感染に対して役に立たない。このような状況においては、ワクチンは必要に応じて潜伏期の感染及び再出現した能動的な結核感染に対し有効に設計された曝露後ワクチンにしなければならない。
【0072】
遺伝的多様性により、様々な個体が同一のポリペプチドに対して強度を変えた免疫応答で反応させることができる。従って、本発明によるワクチンは免疫応答を増加させるためにいくつかの異なるポリペプチドを含むことができる。ワクチンは、2又はそれ以上のポリペプチド又は免疫原性部分を含むことができ、総てのポリペプチドが上に規定した通りであるか、あるいは、総てではなく、一部のポリペプチドは病原性マイコバクテリア由来にできる。後者の例では、上述のポリペプチドの基準を必ずしも満たす必要はないポリペプチドは、自己免疫原性に起因する作用をするもの、単なるアジュバントとしてのみ作用するものであってもよい。
【0073】
ワクチンは1乃至20、例えば2乃至20、又は更に3乃至20の異なるポリペプチド、又は融合ポリペプチド、例えば、3乃至10の異なるポリペプチド又は融合ポリペプチドを含むことができる。
【0074】
《DNAワクチン》
本発明の核酸断片は、抗原の生体内発現に影響を与えるために用いることができる。すなわち、核酸断片は、Ulmerら、1993により概説されるようにいわゆるDNAワクチンに用いることができ、引用によって含まれている。従って、本発明は更に、本発明の核酸断片を含む曝露後ワクチンにも関連しており、そのワクチンは、ワクチンを投与したヒトを含む動物によって抗原の生体内発現に影響を与え、発現した抗原の量は、ヒトを含む動物において病原性マイコバクテリアによって引き起こされる感染を治療するのに有効である。このようなDNAワクチンの有効性は、DNA断片が免疫応答を調節する能力のあるポリペプチドをコードするのと一緒に、発現産物をコードする遺伝子を投与することによって場合によっては高めることができる。
【0075】
《組換え生ワクチン》
曝露後ワクチンの細胞性免疫応答を効果的に活性化するための1の可能性は、非病原性の細菌又はウィルスに、ワクチン中の関連する抗原を発現させることによって得ることができる。このような細菌の公知例としては、マイコバクテリウム・ボビスBCG、サルモネラ及びシュードモナスであり、ウイルスの例としては、ワクシニアウイルス、及びアデノウイルスである。従って、本発明の別の重要な態様は、現在利用可能なBCG生ワクチンの改良であり、上に規定のような1又はそれ以上のポリペプチドをコードするDNA配列の1又はそれ以上のコピーは、細菌がポリペプチドを発現及び分泌できる方法で細菌のゲノムに組み込んでいる。本発明のヌクレオチド配列の2以上のコピーの組込みは、免疫反応の強化を予期するものである。別の可能性は、ワクシニアウイルス又はアデノウイルスなどの弱毒ウイルス内に本発明のポリペプチドをコードするDNAを組み込むことである(Rolphら、1997)。組換えワクシニアウイルスは、感染した宿主細胞の細胞質内で増殖でき、ひいては対象のポリペプチドは免疫応答を誘発でき、TBに備えて防御を誘発することが想定される。本出願で引用した総ての特許文献及び非特許文献はその全体が引用によってここに組み込まれている。本発明を、以下の非限定的な実施例で更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、実質的に3段階を経る結核菌の感染経過である。
【図2】図2は、再活性化を予防するための曝露後ワクチン接種のモデルである。
【図3】図3は、TBのワクチン接種モデルである。モデルの概要図は、曝露後のワクチンのテストのためにSSIで用いている。マウスは、エアロゾル経路によって病原性のマイコバクテリウム・ツベルクローシスに感染させる。感染後6週乃至12週のマウスは抗生物質で治療して、潜伏性TBの状態を確立する。マウスは曝露後ワクチン候補で3週間隔で2又は3回接種し、感染10週後に開始される。マウスは疾病を再活性する時間を与えられ、約20週間後に肺は細菌数が評価されて、ワクチンの防御効果を評価する。
【図4】図4は、ESAT6によって防御を誘発するがAg85では誘発しない曝露後ワクチンである。マウスは実施例1の概略図に従って、感染、治療、及びワクチン接種した。マウスは感染後30乃至40週に処分し、この時点で肺は細菌負荷(図A、C乃至E)について評価し、あるいは、図4Bに示すようにESAT6について感染の複数の時点において細菌負荷を定量した。(図A及びB)ワクチン接種したESAT6の細菌数は対照動物と比較した。(C)ワクチン接種したAg85Bの細菌数を対照動物と比較した。(D)ワクチン接種したESAT−6のペプチド混合物(ESAT6配列全体をカバーする重複するペプチドを統合)の細菌をAg85Bワクチンを接種した動物と対照動物の両方と比較した。(E)Ag85B−ESAT−6(H1)ワクチンを接種した曝露後ワクチン接種後の再活性化に対する防御を非接種対照マウスと比較した。図4A、C乃至Eの総てのデータは、平均値で示すと共に個々の動物を示すドットプロットとして表示されており、一方で図4Bの各時点は、6個体の動物を表しており平均値を平均値±標準誤差(SEM)で表示している(B)。総ての統計分析は、独立t検定(図A乃至C及びE)、又はTukeyの多重比較検定(図D)を用いて行い、p<0.05を考慮すべき有意差とした。
【図5】図5は、多機能性T細胞を誘発するESAT6曝露後ワクチン接種である。ワクチン非接種の、あるいはESAT−6でワクチン接種した動物の感染した肺の細胞は、抗CD4、抗CD8、抗IFN−γ、抗TNF−α及び抗IL−2で染色する前に、ESAT−6で生体外刺激した。(図A及びB):サイトカインプロファイルはCD4T細胞を、IFN−γ陽性(+)又はIFN−γ陰性(−)に分けることにより定量した。IFN−γ+とIFN−γ−との双方の細胞をTNF−α及びIL−2の産生によって分析した。円グラフは(図A及びB)はサイトカイン産生プロファイルによって色分けされており、所定のサイトカイン産生プロファイルについて陽性であるCD4T細胞応答の分画をまとめている(ESAT−6に特異的なCD4T細胞以外)。(C)サイトカインの総ての可能な組み合わせは棒グラフのX軸に示されており、非ワクチン接種マウス(灰色のバー)及びサイトカインの任意の組み合わせを発現しているESAT−6ワクチンを接種したマウス(黒バー)におけるESAT−6に特異的なCD4T細胞の割合を各免疫群について示す。(D)潜伏感染したマウスはESAT−6を2回ワクチン接種して、最後のワクチン接種後20週で肺の細菌数を評価して、防御効力を定量した。(**P<0.01、一方向分散分析(ANOVA)式のTukeyの多重比較検定)。
【図6】図6は、総ての曝露後実験の統合分析である。ESAT6、Rv3871、Ag85B、Rv3905、Rv3445、Rv0569又はRv2031c(図A)、Ag85B−ESAT6(H1)あるいはAg85B−ESAT6−Rv2660(H56)(図B)のいずれかを曝露後のワクチン接種に用いた各実験について、アジュバント対照群の細菌負荷の中央値を、上述の抗原のいずれか1つでワクチン接種したワクチン接種群の各々の個々のマウスの細菌負荷と比較した。図AとBでは、各ドットは防御レベル、すなわちアジュバント対照群と比較していたワクチン接種によって与えられたΔLog10CFUの値に対応しており、いくつかの独立した実験からなる。ESAT6単独の場合と比較した、単独抗原であるESAT6、Rv3871、Ag85B、Rv3905、Rv3445、Rv0569又はRv2031について(A)、あるいはハイブリッド抗原であるH1とH56についてのLog10防御である。統計分析を適用して、Kruskall−Wallis多重比較検定を用いて異なるグループ間の中央値を比較した。p<0.05を有意と見なした。
【図7】図7は、ESAT6及び対照動物と比較した、Rv3871での曝露後ワクチン接種の効果である。マウスは感染、治療し、感染後10、13及び18週にワクチン接種した。感染後36週でマウスを処分して、ワクチン接種マウス及び非接種生理食塩水対照マウスの肺のリンパ球を生体外でRv3871(図7A)又はESAT6(図7B)を用いて再刺激した。ELISA及び試料により評価したIFN−γの放出は3回行われた。データは平均値±SEMで示されている。ワクチンにより与えられた防御効力を全肺ホモジネートから培養したバクテリアの計数により評価した(n=16乃至18)。データはドットプロットにより表示され各ドットは個々の動物を表しており中央値で描かれている(赤線)。
【発明を実施するための形態】
【0077】
[実施例1]
《ワクチン接種用のマウス結核モデル》
コーネルモデルは潜伏性TBの研究用マウスモデルとして広く用いられている。このモデルは、再活性化を予防するワクチン候補の能力の試験用に我々の研究室で適用した。マウスは最初にエアロゾルにより病原性のマイコバクテリウム・ツベルクローシスに感染させ、そして感染後6週間で抗生物質治療を始めて細菌負荷を減らす。これは、マウスに自発発生しないヒト感染の潜伏期を模倣するためである。この潜伏期(細菌数が連続して低いステージ)の間、マウスを2回免疫し、ワクチンによる再活性化を予防する能力は、最後の免疫から20週後に脾臓と肺の生きたマイコバクテリウム・ツベルクローシスを培養することにより定量する。実験の長いスパンは、ワクチン効果の読み出しの必要条件である疾患の再活性化に十分な時間を与えるために必要である(図3)。
【0078】
[実施例2]
《ESAT6により防御を誘発するが、Ag85により防御を誘発しない曝露後ワクチン》
ESAT−6及びAg85Bは単一成分として、更にAg85B−ESAT6(H1)の融合タンパクとしての双方で、防御的であることが証明されている。しかし、これらの抗原は曝露後モデル(実施例1で上述したように)で試験すると、ESAT6のみが防御効果があり、再活性期中の細菌増殖を制御する(図4)。更に、図4Bに示すように感染後18週間程度の早さで、再活性の防御自体が顕在化し、この防御は実験期間中(感染後40週まで)維持された。これは対照と比較して細菌負荷の有意な減少がなかったAg85Bを曝露後ワクチンとして用いた場合に観察されるものとは対照的である(図4C及びD)。更に、我々はTB抗原Ag85B及び予防的設定で有望な有効性を示したESAT−6で構成されるH1融合タンパク質を評価した。この分子は、SSI曝露後モデルにおいて曝露後ワクチンとして用いられた場合、有意に細菌数を減少させることができた(図4E)。
【0079】
[実施例3]
[ESAT6ペプチド混合物の曝露後ワクチンにより誘発される防御]
上述の実施例で示したように、ESAT−6分子は曝露後に投与された場合、非常に活性があり、対照群と比較して、かつ更にAg85Bと比較して細菌負荷が減少する。更に、我々は組換えタンパク質の代わりに、重複するペプチドの統合物として与えたESAT−6が更に、対照群やESAT6の強い活性及び曝露後ワクチンとして機能する能力を示すAg85Bの両方と比較して、再活性に対して更に良好な防御となることを示した。

防御実験に使用した重複するESAT−6のペプチド(P1乃至P13):
P1 MTEQQWNFAGIEAAA (配列番号19)
P2 NFAGIEAAASAIQGN (配列番号20)
P3 ASAIQGNVTSIHSLL (配列番号21)
P4 NVTSIHSLLDEGKQS (配列番号22)
P5 SLLDEGKQSLTKLAA (配列番号23)
P6 KQSLTKLAAAWGGSG (配列番号24)
P7 AAWGGSGSEAYQGVQ (配列番号25)
P8 GSEAYQGVQQKWDAT (配列番号26)
P9 QQKWDATATELNNAL (配列番号27)
P10 TATELNNALQNLART (配列番号28)
P11 ALQNLARTISEAGQA (配列番号29)
P12 TISEAGQAMASTEGN (配列番号30)
P13 QAMASTEGNVTGMFA (配列番号31)

【0080】
[実施例5]
《多機能性T細胞を誘発するESAT−6での曝露後ワクチン接種》
ESAT−6に特異的な細胞のサイトカイン発現プロファイルでのESAT−6による曝露後ワクチンの効果を実験するため、マウスは最初にエアロゾル病原性のマイコバクテリウム・ツベルクローシスに感染させ、感染後6週間での抗生物質治療を開始して細菌負荷を減少させ潜伏感染を確立させた。潜伏期中に3週間の間隔で3回ワクチンを接種し(図3に示すように)、ESAT−6ワクチンが多機能性T細胞の数に影響し、マイコバクテリウム・ツベルクローシスの再活性を予防する能力は最後のワクチン接種から20週間後に定量した。結果は、非接種群では相応のESAT−6に対する反応があるが、サイトカインの発現プロファイルはESAT−6ワクチン接種群と比較して特に多機能性T細胞の点で著しく異なる(IFN−γ+/TNF−α+/IL−2+CD4細胞)ことを示していた(図5)。従って、非接種群と比較して、IFN−γ/TNF−αのCD4T細胞数の減少と、IFN−γ/TNF−α/IL−2を共に発現している3重に陽性の多機能性CD4T細胞数の増加を観察した。ESAT−6ワクチンを接種した動物の肺で、増加した多機能T細胞の存在が減少した細菌数と相関していた(図5D)。
【0081】
[実施例6]
《初期及び後期段階の感染に関連する他の抗原に比較して、更に一貫して再活性化を予防するESAT6での曝露後ワクチンの接種》
どの抗原が一貫して再活性化を防御するかを決定するため、実施した総ての曝露後の実験に基づいて規格化したデータの統合解析を行った。個々の実験のデータセットは、1のグループ内の個々のマウスの細菌数を対照群の細菌数の中央値と比較することで標準化した。すなわち各データポイントは、対照群の中央値CFUと個々の動物のCFUの差(Log10CFU対照の中央値−Log10CFUワクチン群)を表している(図6)。図6Aにおいては、潜伏期に関連する抗原Rv0569、Rv2031cとAg85B、ESAT6、Rv3871、Rv3905及びRv3445であり、後者の2つはESAT6ファミリーである初期抗原とについての統合したデータの比較によって、他の抗原の評価と比較してESAT6ワクチン接種動物が、顕著に良好に防御されていることを示している。更に、防御レベルはRv3871での曝露後ワクチン接種後に到達し、ESX−1タンパクは更に他の抗原と比較して上昇しているように見える(図6A)。更に、特にESAT6の活性を示すために、我々はESAT6により与えられる防御を、どちらもESAT6を含んでいる2つの融合構造物であるH1(Ag85B−ESAT6)とH56(Ag85B−ESAT6−Rv2660)と比較した(図6B)。分析によって、上述の2つの融合構造物が含まれている場合に再活性化に対する防御におけるESAT6の活性が得られることを示した。
【0082】
[実施例7]
《再活性化のプロセスの阻害効果があると思われるESX−1ファミリーの他のメンバーであるRv3871での曝露後ワクチン接種》
我々はESAT6と並行してESX−1ファミリーの他のメンバーを評価し、ESAT6で誘発される免疫応答ほどではないものの(図7A)、Rv3871での曝露後ワクチン接種はRv3871に特異的な免疫応答(図7B)を誘発をすることを見出した。それにもかかわらずESAT6とRv3871で誘発された免疫応答は両方共、生理食塩水対照動物に比べて大きかった。ワクチンに特異的な免疫応答の誘発は、生理食塩水群と比較して、両方のワクチン群における細菌負荷の低下(中央値)と関連していた。このことは、Rv3871がESAT6と比較した再活性化に対して同様の防御効果が、細菌数が対照群においてレベルがある程度上昇したのと比較して、これら2つの群で同程度の細菌数レベルによって示されたことを意味する(図7C)。
【0083】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
結核の再活性を予防する、潜伏感染した個体に投与されるワクチン又は免疫原性組成物であって、マイコバクテリウム・ツベルクローシスの感染中に恒常的に発現している抗原、又は当該抗原をコードする核酸を含むことを特徴とするワクチン又は免疫原性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、ESX−1分泌系に属する前記恒常的に発現している抗原が:
i) 配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、32、33及び34;
ii)T細胞エピトープといった、(i)における配列のいずれか1つの免疫原性部分と;
iii)(i)及び(ii)における配列のいずれか1つと70%の配列相同性を有し、かつ同時に免疫原性であるアミノ酸配列の類似体と;
からなる群から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の組成物が、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13の免疫原性部分の混合物といった、免疫原性部分の混合物を含むことを特徴とする組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の組成物において、配列番号19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30及び31からなる群から選択される抗原を特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の組成物において、前記ポリペプチドがマイコバクテリア科の細菌によって発現した抗原と融合することを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物において、該融合パートナーが恒常的に発現している抗原であることを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物が、CFP10に融合したESAT6を含むことを特徴とする組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物であって:マイコバクテリアの遺伝子を発現する細菌又はウイルスといった遺伝子改変細菌である組換え生ワクチン;あるいは上述のタンパク質に対する遺伝子及び遺伝子断片を発現するプラスミドであるDNAワクチン、又はタンパク質自体若しくはアジュバントといった送達系で送達される前記タンパク質自体に由来する合成ペプチドであるタンパク質ワクチンといった免疫原性送達系;から選択される更なる送達系を含むことを特徴とする組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物において、前記アジュバントがDDA/TDB及び/又はポリICを含むことを特徴とする組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の組成物において、前記アミノ酸配列が前記ポリペプチドの自己アジュバント効果を可能にするよう脂質化されることを特徴とする組成物。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか1項に規定の群から選択される、潜伏結核の治療用の抗原。
【請求項12】
マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・アフリカヌム、又はマイコバクテリウム・ボビスといった病原性マイコバクテリアによって引き起こされる結核感染の再活性に備えて、ヒトを含む動物を治療する方法であって、前記動物に請求項1乃至10のいずれかに記載のワクチン又は免疫原性組成物を投与するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記ワクチン又は免疫原性組成物が急性感染期後に、及び/又は、潜伏感染期中に投与されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、前記方法が病原性マイコバクテリアに潜伏感染している対象を同定するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、病原性マイコバクテリアに潜伏感染している前記対象がマントーツベルクリン皮膚試験(TST)、クァンティフェロン試験、HBHAに対する反応の生体外での検出、又は抗原が恒常的に発現する刺激後のIP10の検出といった診断方法で同定されることを特徴とする方法。
【請求項16】
マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・ボビス、及びマイコバクテリウム・アフリカヌムといった結核菌群の種によって引き起こされる潜伏感染の再活性化に備えるワクチンの製造用の、請求項1乃至7のいずれかで規定の群から選択される抗原の使用。
【請求項17】
請求項16に記載の使用において、前記ワクチンが急性感染期後、及び/又は潜伏感染期中の投与用であること特徴とする使用。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の使用において、前記ワクチンが請求項1乃至7に規定の1又はそれ以上の免疫原性部分を含むことを特徴とする使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−524733(P2012−524733A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506340(P2012−506340)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/DK2010/000054
【国際公開番号】WO2010/121618
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(507006422)
【Fターム(参考)】