説明

再溶解後の改善された安定性を有する凍結乾燥ピペラシリンナトリウムの調製方法

凍結乾燥に先立って、溶液を制御された二酸化炭素含量まで脱ガスすることにより、向上したpH調整を有する凍結乾燥ピペラシリン(単独でまたはタゾバクタムと混合して)の製造のための改善された方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥ピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムと混合して)を製造する方法に関する。
【0002】
ピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムと混合して)は、重篤な感染の入院患者に対する抗生物質として、静脈内投与に有用である。
【0003】
具体的に、本発明は、凍結乾燥に先立って、二酸化炭素の制御を更に含む方法に関する。このような方法で得られた製品は、増強されたpH安定性を有し、従って、非経口投与される溶液中における微粒子の形成に対する増強された抵抗性を有し、緩衝剤またはキレート剤のような追加の成分を添加する必要がない。
【背景技術】
【0004】
ピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムと混合して)は、黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス/Staphylococcu saureus)による院内感染肺炎;大腸菌(エシェリヒア・コリ/Escerichia coli)による腹部内感染、具体的には虫垂炎および腹膜炎、黄色ブドウ球菌による蜂巣炎、皮膚濃瘍形成および虚血性/糖尿病性足感染を含む皮膚および皮膚組織の感染;および婦人科感染、具体的には大腸菌による、産後の子宮内膜炎または骨盤炎症疾患のような状態における微生物の菌株によって引き起こされる中等度から重度の感染の治療に用いられる抗生物質である。これらの感染の重篤性は、容易に利用できる、信頼できる治療の必要性を強調している。
【0005】
多微生物感染は、しばしばβ―ラクタマーゼ酵素を産生する病原菌を含んでいる。これらの酵素は、通常ペニシリンおよびセファロスポリンに対する抵抗性を引き起こす。治療しないと、これらの微生物は、妨げられないで増殖および繁殖し、患者に重篤または重大な結果をもたらす。基本的に、タゾバクタムは、β―ラクタマーゼを不可逆的に不活性化し、ピペラシリンが感受性細菌を破壊することを可能にする。
【0006】
薬剤は、乳剤のみならず、懸濁剤または溶液に製剤化されるが、使用前に再溶解される凍結乾燥製剤としても製剤化される。
【0007】
有利なことに、凍結乾燥製剤は、安定であり、貯蔵され得、容易に再溶解され得る。更に、凍結乾燥製剤は、滅菌して保存され得、不溶性物質を本質的に含まない。
【0008】
ピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムと混合して)は、静脈内投与前に、相溶性の再溶解希釈剤を加えることによって再溶解される粉末(凍結乾燥粉末)として、利用可能である。
【0009】
しかし、凍結乾燥ピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムと混合して)が、再溶解される時、微粒子状物質の形成が始まる。
【0010】
微粒子は、再溶解された凍結乾燥製剤が調製され、患者への投与に先立って貯蔵されるにしたがって形成される。再溶解および患者への受け渡しから時間が経過するに従って、微粒子の形成が増加する。特に静脈内注射の場合、溶液中の微粒子の存在は、有害であり得ることが認識されている。具体的には、注入静脈炎の発症は、静脈注射液中の微粒子状物質の存在に関係し得ることが示されている(RemmingtonのPharmaceutical Science, 18版,Mack Publishing,1990,1567ページ)。
【0011】
凍結乾燥ピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムと混合して)が、再溶解される時、その溶液のpHは時間とともに減少する。
【0012】
そのpHの減少は、主として、溶液中のピペラシリンの分解によって生じる。ピペラシリンはβ―ラクタム製品であり、水溶液中で不安定であることが知られている。
【0013】
pH値が減少するに従い、ピペラシリン(カルボン酸)の酸−塩基平衡は酸形に移動し、非常に水に溶解し難い酸ピペラシリンの結晶化の危険をもたらす。
【0014】
pHの減少、および結果としての微粒子形成の危険は、該溶液が、凍結乾燥前に緩衝化されるかまたは分解が最小化されるかのいずれかの場合に減少され得る。
【0015】
例えば、米国特許第6,207,661は、クエン酸緩衝ピペラシリン(単独でまたはタゾバクタムと混合して)を開示し、より優れた安定性を特許請求している。
【0016】
米国特許第6,900,184は、EDTAが、亜鉛イオンは、非経口投与において用いられるプラスチック材料に由来し、ピペラシリンの分解を促進する亜鉛のキレート剤として作用している、EDTA含有ピペラシリン(単独でまたはタゾバクタムと混合して)を開示している。
【0017】
非経口薬物製品は、可能な限り、投与に先立って粒子状物質を肉眼で検査されるべきである。その結果、再溶解に際し、医薬組成物中に生じる粒子の形成を最小化することが望ましい。
【0018】
引用した発明は、粒子の形成の問題を克服し得るかも知れないが、開示された解決法は、治療活性のない他の成分、即ち、緩衝剤またはキレート剤の添加を含んでいる。従って、 粒子の形成のこの問題に対して、治療製品、即ち、ピペラシリンおよびタゾバクタム以外のすべての成分を含まない解決法を見つけることが望ましい。
(発明の概要)
驚くべきことに、凍結乾燥に先立って、ピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムナトリウムと混合して)の溶液から二酸化炭素を低濃度まで十分に除去することにより、所望のpH値にpHを調整する整合性のある方法が得られ、従って、再溶解溶液の放置後の粒子形成の問題が克服されることが見出された。
【0019】
二酸化炭素は、酸ピペラシリン(および、場合により酸タゾバクタム)を加えた重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩に由来し、ナトリウム塩の形成(即ち、溶解手順)に関与する反応後、溶液に残っている。
【0020】
二酸化炭素の除去は、脱ガスによってなされる;この脱ガスは、真空化またはガス吹き込み脱離、または両方法の組み合わせで行われる。二酸化炭素の除去後、pHは、再溶解された溶液の沈澱の危険が克服される値まで調整され得る。
【0021】
更に、酸ピペラシリンおよび、場合により酸タゾバクタムを重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩によって溶解する手順は、先行技術によって知られているのと異なり、最小の分解をもたらし、従って、よりよい純度の製品を提供し、加えて該再溶解された溶液の放置後の粒子形成の問題を最小化することも助ける。
【0022】
(詳細な開示)
凍結乾燥に先立つピペラシリンおよびタゾバクタム溶液のpH値の調整は、凍結乾燥された製品の再溶解後の沈澱 および粒子形成を避けるために最も重要である。
【0023】
ピペラシリンナトリウム(米国薬局方第28版)またはピペラシリンナトリウムおよびタゾバクタムナトリウムの混合(Pharmaceutical forum,Pharmaceutical Previews, Vol.28(6),Nov.−Dec.2002)に対する薬局方の要求事項は、両方とも5.0から7.0の範囲のpH値を許容するが、低い区分に於けるpHの値、即ち、5.0から5.5は、数時間後に再溶解された製品の沈澱の危険に不可避的に導くことが発見されている。
【0024】
これは、水に非常に溶け難いピペラシリンの酸形の方向への酸−塩基平衡の移動のためである。
【0025】
従って、pHは高い区分、即ち、5.6から7.0であることが推奨される。
【0026】
単独でまたはタゾバクタムナトリウムと混合して、その対応する酸から、ピペラシリンナトリウムの溶液を得るために、重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩を使用しなければならない。何故ならば、水酸化ナトリウムのような他の塩基は、副反応による激しい分解を不可避的に導くからである。
【0027】
ガス状二酸化炭素は、ピペラシリンナトリウムの溶液(単独でまたはタゾバクタムナトリウムと混合して)から発生する(このような溶液は、その対応する酸の重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩との反応により調製される。)。このような発生は、例えば、添加速度、攪拌速度、反応容器の幾何学的形状、温度、圧力等の複数の因子により影響される。これらの因子の変化は、明らかに溶解二酸化炭素濃度の変化をもたらす。厳格に制御された実験においてさえ、二酸化炭素濃度の比較的大きな差が生じる。
【0028】
溶解二酸化炭素の未知の量が、2つの仕方で凍結乾燥製品のpH値に干渉する:
a)反応が異なった程度で停止される。
【0029】
b)pHの読みが干渉される。
【0030】
反応の平衡を考慮するとa)の点は容易に理解できる。
【0031】
【化1】

(反応式中、Aは酸ピペラシリンまたは酸タゾバクタムを表わす。)
【0032】
【化2】

【0033】
二酸化炭素が、異なる未知の程度で発生するか、または除去されると、反応は、未知の程度に応じて右に進み、従って、pHは反復して調整され得ず、従って、最終のPH点が所望の値に調整されるのを危うくする。
【0034】
溶解後の異常な、未知の二酸化炭素含量の関連した問題は、観察される相当な慣性であり、この慣性は、凍結乾燥された製品の異常なpH値も引き起こす。この慣性は、pHを調整する時に観察され、加えられる反応物質の比較的少い量に大きな変化を引き起こす。
【0035】
b)の点は、溶解した二酸化炭素によって溶解系に与えられる酸性度に関係している。従って、測定されたpHは、真の値(即ち、二酸化炭素濃度がゼロに近い値)からの未知の偏差を有する。その結果、凍結乾燥製品の最終のpH値は、二酸化炭素の含量が未知である限り予測され得ない。何故ならば、二酸化炭素は、凍結乾燥後ほぼ完全に除去されているからである。
【0036】
本発明により、これらの問題は解決される。
【0037】
本発明の1つの好ましい実施形態において、酸ピペラシリンおよび場合により酸タゾバクタムは、溶媒としての水の中で、重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩と反応される;このように得られたピペラシリンナトリウム、および場合によりタゾバクタムナトリウムは、200mg/L未満の二酸化炭素の含量まで脱ガスされ、pHは5.6から7.9の値に調整される。
【0038】
本発明のもう1つの好ましい実施形態において、酸ピペラシリンおよび酸タゾバクタムは、溶媒としての水の中で、重炭酸ナトリウムと反応される;このように得られたピペラシリンナトリウムおよびタゾバクタムナトリウムは、75mg/L未満の二酸化炭素の含量まで脱ガスされ、pHは6.3から7.5の値に調整される。
【0039】
本発明は、酸の形の1つの製品と、既にナトリウム塩の形の他の製品から調製されるピペラシリンナトリウムおよびタゾバクタムナトリウムの溶液に明らかに適用され得る。例えば、溶液は、ピペラシリンナトリウムを水に溶解し、ついで酸タゾバクタムを重炭酸ナトリウムと反応させて調製してよく、または逆もよい。
【0040】
注目すべきことに、本発明は、ピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムナトリウムと混合して)の緩衝溶液に適用され得る。例えば、ピペラシリン(単独でまたはタゾバクタムナトリウムと混合して)の重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウムとの反応中または反応後に、クエン酸ナトリウムを加えてよい。微粒子形成阻害剤のような他の物質または添加剤も同様に加えてよい。
【0041】
脱ガスは、真空により、および/または溶液中にガスを吹き込んで実施してよい。
【0042】
例えば、窒素の吹き込みは、添加の段階を通して適用してよく、従って溶液からの二酸化炭素の逸散を助ける。
【0043】
好適には、真空は、添加の段階後に適用され、より好適には、真空は、溶液のろ過が開始されるまでのすべての添加後の反応時間の間維持される。
【0044】
真空は、300mBar未満、好適には100mBar未満、より好適には30mBar未満の絶対圧まで適用し得る。
【0045】
二酸化炭素濃度の測定は、いずれかの適した分析法によってなされてよく、好適には選択電極による。
【0046】
酸ピペラシリン、および場合により酸タゾバクタムを重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩と反応させる時、これらの成分の添加の順序に関して複数の可能な組み合わせがある。添加は同時であってよいが、形成される泡がその方法を実用的でなくすであろう。
【0047】
【化3】

【0048】
【化4】

【0049】
3つの可能な組み合わせが調査された:
A)重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩を水に懸濁した酸ピペラシリン、場合により、酸タゾバクタム上に添加する、
B)酸ピペラシリンを水に溶解した重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩上に、ついで場合によりタゾバクタムを全体の上に添加する、
C)重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩、酸ピペラシリンおよび酸タゾバクタムを水の上に添加する、のいずれかを選択する。
それぞれの選択肢に対して、複数の温度、攪拌速度および時間条件が調査されてきた。
【0050】
先行技術(米国特許第6,900,184)において知られている酸ピペラシリンおよび酸タゾバクタムを重炭酸ナトリウムと反応させる手順は、水に懸濁された酸ピペラシリンおよび酸タゾバクタム上に重炭酸ナトリウムを添加することによって行われる。従って、これは方法A)に対応する。
【0051】
遊離の重炭酸ナトリウムによる高pHはありえないので(高pHは高分解速度を生じる。)、これは理論上、添加の最も明白な方法である。
【0052】
それにもかかわらず、慎重な試験の結果、いくつかの欠点が明らかにされている:
・溶解が完全でない
・低温で行えない
・強い泡の形成が避けられない
第一の問題点は、それが、pH調整における慣性の潜在的な問題の根源であるので重要である。酸ピペラシリンが、重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩の限られた量と反応する時、当該反応の最後の部分におけると同様、反応は非常に遅い。
【0053】
この反応が、15℃以下の温度で行われる場合、当該反応は遅いので、多くの製品が、攪拌の長期間後でさえ、溶解せずに残っていることが見出されている。
【0054】
更に、予期されるように、既に溶解した製品、即ち、ピペラシリンおよびタゾバクタム、の分解が、低温におけるよりも、室温近くの温度において相当速いことが見出されている。安全性試験の結果、約15℃の屈曲点が測定された。
【0055】
添加の段階を通して、多くの不溶性の物質、即ち、酸ピペラシリンおよびタゾバクタムが存在するので、この方法では、硬い泡の形成は避けられない(酸ピペラシリンは非常に疎水性の製品であり、従って泡の形成と安定化に寄与している)。
【0056】
生成される泡の容積は、懸濁液の最初の容積の4倍も高い可能性がある。これは工業的観点から明らかな欠点である。何故ならば、大きな反応容器が必要であり、更に該容器から物質が溢れて流れ出る危険があるからである。
【0057】
慎重な調査の後、方法B)が最良の、代替法として決定された。方法B)は、以下の利点を有する。
・低温を含め、種々の温度で行い得る。
・溶解が完全である。
・泡の形成が円滑である。
【0058】
従って、先行技術に固有の欠点が克服される。
【0059】
該方法は、低温で実施され得、従って分解を最小化し得る。
【0060】
溶解が完全であり、従ってpH調整における慣性に関する問題点を克服し、加えて、凍結乾燥段階に先立って溶液を滅菌するために必要なろ過の段階を容易にする。
【0061】
本発明の対象のような非経口製品、即ち、ピペラシリンおよびタゾバクタムは、云うまでもなく滅菌されなければならす、滅菌は当該製品が溶液である間に滅菌ろ過によって行われる。
【0062】
それでもなお、本発明は、経口の、非滅菌製品の製造に実際に適切である。
【0063】
大量の不溶性製品がいずれの時にも存在しないので、泡の形成は、この場合、殆ど問題でない。観察される泡の最大の高さは、最初の容積の2倍であり、従って先行技術により知られている方法で観察される容積が半減する。その上、泡の粘り強さ、即ち、固体部分の添加の間の無駄な時間がかなり低減される。
【0064】
方法C)は、B)に類似しているが、操作の容易さに関して、僅かな欠点がある。
【0065】
従って、
i.酸ピペラシリン(単独でまたはタゾバクタムと混合して)を重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウムとの反応により、水に溶解する段階、
ii.200mg/L未満の二酸化炭素含量まで脱ガスする段階、
iii.5.6と7.9の間の値にpHを調整する段階、
iv.凍結乾燥の段階、
を含む、再溶解溶液の改善された安定性を有する凍結乾燥ピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムと混合して)の製造方法が提供される。
【0066】
本発明の好ましい実施形態において、重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩を水に溶解し、酸ピペラシリンを固体部分として塩基上に加え、ついで酸タゾバクタムを固体部分として加える。
【0067】
反応物の相対的な量は、好適には、酸ピペラシリンおよび酸タゾバクタム両方の合計に関して重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩のモル関係の範囲を用いて、重炭酸ナトリウムの5%過剰から5%過少、より好適には2%過剰から2%過少、更により好適には1%過剰から1%過少のほぼ等モルである。
【0068】
重炭酸ナトリウム溶液は炭酸塩溶液に比べてpH値がより低く、従って分解がより少ないので、重炭酸ナトリウムは炭酸ナトリウムよりも好ましい。
【0069】
それでもなお、炭酸ナトリウムは、溶解プロセスの速度を上げる目的で、混合してまたは単独で使用され得る。
【0070】
例えば、ピペラシリンの添加が開始され、従ってpHがいくらか緩衝された後、塩基の合計モル比が先述の範囲内であれば、炭酸ナトリウムの有効量が加えられ得る。
【0071】
両製品の混合が求められている時はいつでも、ピペラシリンのタゾバクタムに対する比は、凍結乾燥製品中の無水の酸の効力として表して、20:1から1:1、好ましくは8:1および4:1である。
【0072】
注目すべきことに、本発明は両製品に対して個別(即ち、単一のピペラシリンナトリウムおよび単一のタゾバクタムナトリウム)に適用され得る。
【0073】
溶解段階の温度は40℃から−5℃、好適には15℃から5℃およびより好適には9℃から5℃である。
【0074】
例えば、重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩は、40℃で溶解し、酸ピペラシリンの添加に先立って、その溶液は、15℃未満、好適には10℃未満に冷却され得る。
【0075】
酸ピペラシリンの添加は、泡の形成に関して、可能な限り速くし得る。
【0076】
有利には、酸ピペラシリンの最初の添加部分は、よく緩衝された系を直ぐに得るために、添加されるべき合計量の5%より多く、好適には10%より多い。
【0077】
すべての酸ピペラシリンの添加後、全体を一定期間、例えば15または30分間攪拌し得るが、両製品の混合が求められる場合はいつでも、酸タゾバクタムの添加は、直ちに開始されるのが好ましい。
【0078】
固体、即ち、酸ピペラシリンおよび場合により酸タゾバクタムの添加中、いずれかの適したガス、好適には窒素を脱ガスのために吹き込み得る。替わりに、その同じ段階内で同じ目的で、連続的にまたは間欠的に真空を適用し得る。
【0079】
すべての固体の添加後、その反応は完了のために、一定の期間、少なくとも10分間、好ましくは少なくとも20分間および更に好ましくは30から60分の期間に亘って行われる。
【0080】
この添加後の時間の間、窒素の吹き込みおよび/または真空のいずれかが脱ガスの範囲で適用される。
【0081】
この添加後の時間の後、二酸化炭素含量を、200mg/L未満、好適には100mg/L未満、およびより好適には75mg/L未満であるようにチェックする。
【0082】
二酸化炭素含量が、望まれるより高い場合は、脱ガスを、例えば15から30分間、余分に続け、二酸化炭素含量を再度チェックし、二酸化炭素含量が求められる値以下になるまで、脱ガスを繰り返す。
【0083】
一旦、二酸化炭素含量が所望の値以下になると、そのpH値が5.6から7.7、好適には6.0から7.3およびより好適には6.3から7.1の範囲であるように、二酸化炭素含量をチェックする。
【0084】
そのpH値が、望まれるより低い場合は、重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸塩の追加の少量を加える。逆に、そのpH値が望まれるより高い場合は、替わりに酸ピペラシリンおよび/または酸タゾバクタムの追加の少量を加える;全体を、一定の時間(例えば15から30分間)反応させ、その間、脱ガスを行ってよく、pH値を再度チェックし、pH値が求められる範囲になるまでpH調整を繰り返す。
【0085】
この様にして調整されたpHは、凍結乾燥後の5.6から7.0のpH値に対応し、従って、再溶解された溶液の沈澱または微粒子形成の危険を回避または最小化する。
【0086】
このように得られた溶液を、例えば0.2または0.1ミクロンの滅菌カートリッジを通して滅菌ろ過してよく、次いで先行技術で知られている方法により凍結乾燥してよい。
【0087】
いずれかの適した凍結乾燥レシピを使用してよい。例えば、その溶液を−30℃未満に冷凍し、1mBar未満まで真空を適用し、次いでその凍結ケーキを乾燥するまで60℃まで加熱する。
【0088】
凍結乾燥は、バイアル中で、またはトレイ中で原薬として実施され得る。
【0089】
本発明に従って得られる製品は、再溶解溶液の向上した安定性を有する。例えば、該製品は、水に溶解され、室温で24時間放置される:沈澱または乳白色は観察されない。再溶解溶液の濃度は、通常15と25%の間であり、より頻繁には20%前後である。
【0090】
分解に由来する不純物の分析が、溶液中の安定性を実証している。
【0091】
次の表は、本発明によって得られる製品の分解を先行技術によって得られた製品との関連で要約している。
【0092】
【表1】

【0093】
更に、本発明の方法によって調製される製品は、再溶解時の挙動に関し、商業的に利用できる製品に対して、明らかな利点を提供する。両製品は同様な溶解時間を示すが、商業的に利用できる製品は、溶解中に強い泡の形成を生じる。本発明の製品は、溶解して、すぐに使用できる透明な溶液を形成するのに対して、商業的に利用できる製品は、泡が消失するまでに更に数分必要であり、従って適用までの合計時間は2倍以上である。
【0094】
商業的に利用できる製品の再溶解時の泡の形成は、すべての製品が溶解しているか、またはいくつかの粒子が泡の中になお存在するかの明確な評価を可能にしない。従って、安全確保の理由から、適用までの時間は、泡の消失時間だけ延長された、透明な溶液までの溶解時間である合計溶解時間でなければならない。更に、本発明により得られる製品は、再溶解時に強い泡の形成に煩わされる製品よりも、より迅速で、より正確な用量を可能にする。
【0095】
【表2】

【0096】
ピペラシリンナトリウムおよびタゾバクタムナトリウムの凍結乾燥混合物を含む本発明により得られる製品は、乾燥手段によって1.0%(重量/重量)より低い水分含量に調整され、篩分けにより微粒子(<50μm)の量が50%程度であることを保障する。この製品を含む医薬組成物は、再溶解中にバイアルの底に付着する傾向が低く、速い溶解時間を有し、泡の形成を示さない。
【0097】
肉眼では見えない粒子
肉眼では見えない粒子含量
【化5】

は、静脈内適用のために設計される医薬組成物において重要な態様である。米国特許第6900184は、従来のピペラシリンナトリウム/タゾバクタムナトリウム製剤は、特にアミノグリコシド抗生物質と一緒に使用される場合、アミノカルボン酸のキレート剤が配合されないと、微粒子物質の形成に関し、不満足な結果を有することを断言している。驚くべきことに、本発明により得られる製品および市販されたサンプルは、再溶解され、ろ過され、またはろ過されずに注入袋に移される時、肉眼では見えない粒子の危機的な量を全く示さない。アミノカルボン酸キレート剤(EDTA)またはアミノグリコシド抗生物質(アミカシン)の存在の影響は観察されない。粒子は最初(0時)と24時間後に測定される。
【0098】
【表3】

【0099】
本発明により得られる製品を含む医薬組成物は、追加の助剤が配合される必要がない。異なる希釈剤を用いる再溶解溶液は、優れた安定性を示し、および再溶解溶液をバイアルから注入袋に移し、7日の期間貯蔵した後においてさえ、肉眼では見えない粒子について満足な結果を示す。
【0100】
2−8℃で7日貯蔵した注入袋(合計160mL溶液)
【0101】
【表4】

【0102】
肉眼では見えない粒子のすべての測定は米国薬局方に従って実施した。
実験方法
溶液の安定性試験(SST)
ピペラシリンナトリウム2.35gまたはピペラシリンナトリウム/タゾバクタムナトリウム(8:1)の混合物2.35gを30mLのバイアルに入れる。水10.0mLを加え、バイアルに栓をし、全体が溶液になるまで振とうする。
【0103】
バイアルを室温で24時間放置する;この期間の後、すべての不溶性物質に関しバイアルを観察する。
【0104】
結果のキーワード:
T:透明
O:乳白色
P:沈澱
【0105】
溶解時間、泡形成試験
異なる含量(2.25g、3.375g、4.5g)のピペラシリンナトリウム/タゾバクタムナトリウム(8:1)の凍結乾燥粉末をバイアルに入れる。その粉末を振とうし、水の等量(10,15,20mL)を注射器でバイアルに加える。透明な溶液が観察されるまでの時間を測定する。
【0106】
市販サンプルのバイアルを振とうし、水の等量(10,15,20mL)を注射器でバイアルに加える。透明な溶液が観察されるまでの時間を測定する。溶解中に形成される泡が消失するまでの時間を測定する。
【0107】
粒子径に関する溶解時間:ピペラシリンナトリウム/タゾバクタムナトリウム(8:1)の凍結乾燥粉末を3画分に篩分けする:<50μm、50−100μm、>100μm.これらの画分の3.375gをバイアルに入れ、15mlの水で溶解する。
【0108】
二酸化炭素の測定
pH測定器/イオン測定器の組み合わせを用いる。
【0109】
(MultiSeven, Metter−Toledo;referenceCO電極:51341200)
イオン測定器は1−1000mgCO/Lの範囲で目盛がつけられている。
(参考例)
脱ガスなし
1Lの攪拌された反応器中に、水109mL、ピペラシリン(11.2cMol)1水和物60.00gおよびタゾバクタム7.24g(2.4cMol)を装填する。よく攪拌して、重炭酸ナトリウム11.43(13.6cMol)を1時間かけて一部ずつ装填する。攪拌を30分続け、必要に応じて、ピペラシリン1水和物(PIP)または重炭酸ナトリウム(BIC)の添加により、pHを5.5と7.0の間の値に調整する。ついで、その溶液を凍結乾燥する。
【0110】
【表5】

初期pH値:pH調整前
最終pH:凍結乾燥後、(米国薬局方28版による)
【実施例1】
【0111】
1Lの攪拌反応器に、水109mL、ピペラシリン1水和物60.00g(無水酸の58.00gに相当;11.2cMol)およびタゾバクタム7.25g(2.4cMol)(ピペラシリン/タゾバクタム比8:1))を装填する。よく攪拌して、重炭酸ナトリウム11.43(13.6cMol)を1時間かけて一部ずつ装填する。攪拌を30分続け、その間20−30mBarの絶対圧で真空を適用する。COが、75mg/L未満であると測定され、(高い場合は、真空下で攪拌を更に30分間続ける。)ピペラシリン1水和物(PIP)または重炭酸ナトリウム(BIC)の必要量の添加により、pHを5.5と7.0の間の値に調整する。ついで、溶液を凍結乾燥する。
【表6】

【実施例2】
【0112】
1Lの攪拌反応器に、水109mLおよび重炭酸ナトリウム11.43g(13.6cMol)を装填する。温度を6と9℃の間の値に下げる。よく攪拌して、ピペラシリン1水和物60.00g(無水酸の58.00gに相当;11.2cMol)およびタゾバクタム(ピペラシリン/タゾバクタム比8:1))7.25gを1時間かけて一部ずつ装填する。攪拌を30分続け、その間20−30mBarの絶対圧まで真空を適用する。COが、75mg/L未満であると測定され(高い場合は、真空下で攪拌を更に30分間続ける。)、ピペラシリン1水和物(PIP)または重炭酸ナトリウム(BIC)の必要量の添加により、pHを5.5と7.0の間の値に調整する。ついで、溶液を凍結乾燥する。
【0113】
【表7】

【実施例3】
【0114】
1Lの攪拌反応器に、水109mLおよび重炭酸ナトリウム11.43g(13.6cMol)を装填する。温度を6と9℃の間の値に下げる。よく攪拌して、ピペラシリン1水和物72.90g(13.6cMol)を1時間かけて一部ずつ装填する。攪拌を30分続け、その間20−30mBarの絶対圧まで真空を適用する。COが、75mg/L未満であると測定され(高い場合は、真空下で攪拌を更に30分間続ける。)、ピペラシリン1水和物(PIP)または重炭酸ナトリウム(BIC)の必要量の添加により、pHを5.5と7.0の間の値に調整する。ついで、溶液を凍結乾燥する。
【0115】
【表8】

【実施例4】
【0116】
1Lの攪拌反応器に、水109mLおよび重炭酸ナトリウム10.33g(13.0cMol)および炭酸ナトリウム0.69g(0.3cMol)を装填する。温度を6と9℃の間の値に下げる。よく攪拌して、ピペラシリン1水和物72.90g(13.6cMol)を1時間かけて一部ずつ装填する。攪拌を30分続け、その間20−30mBarの絶対圧まで真空を適用する。COが、75mg/L未満であると測定され(高い場合は、真空下で攪拌を更に30分間続ける。)、ピペラシリン1水和物(PIP)または重炭酸ナトリウム(BIC)の必要量の添加により、pHを5.5と7.0の間の値に調整する。ついで、溶液を凍結乾燥する。
【0117】
【表9】

【実施例5】
【0118】
1Lの攪拌反応器に、水120mL、重炭酸ナトリウム11.43g(13.6cMol)およびクエン酸ナトリウム2.54g(0.1cMol)を装填する。温度を6と9℃の間の値に下げる。よく攪拌して、ピペラシリン1水和物60.00g(無水酸の58.00gに相当;11.2cMol)およびタゾバクタム(ピペラシリン/タゾバクタム比8:1))7.25g(2.4cMol)を1時間かけて一部ずつ装填する。攪拌を30分続け、その間20−30mBarの絶対圧まで真空を適用する。COが、75mg/L未満であると測定され(高い場合は、真空下で攪拌を更に30分間続ける。)、ピペラシリン1水和物(PIP)または重炭酸ナトリウム(BIC)の必要量の添加により、pHを5.5と7.0の間の値に調整する。ついで、溶液を凍結乾燥する。
【0119】
【表10】

【実施例6】
【0120】
1Lの攪拌反応器に、水121mLおよび重炭酸ナトリウム12.60g(15.0cMol)を装填する。温度を6と9℃の間の値に下げる。よく攪拌して、ピペラシリン1水和物60.00g(無水酸の58.00gに相当;11.2cMol)およびタゾバクタム(ピペラシリン/タゾバクタム比4:1))14.50g(4.8cMol)を1時間かけて一部ずつ装填する。攪拌を30分続け、その間20−30mBarの絶対圧まで真空を適用する。COが、75mg/L未満であると測定され(高い場合は、真空下で攪拌を更に30分間続ける。)、ピペラシリン1水和物(PIP)または重炭酸ナトリウム(BIC)の必要量の添加により、pHを5.5と7.0の間の値に調整する。ついで、溶液を凍結乾燥する。
【0121】
【表11】

【実施例7】
【0122】
1Lの攪拌反応器に、水121mL、重炭酸ナトリウム10.08g(12.0cMol)および炭酸ナトリウム1.59g(1.5cMol;30cEq)を装填する。温度を6と9℃の間の値に下げる。よく攪拌して、ピペラシリン1水和物60.00g(無水酸の58.00gに相当;11.2cMol)およびタゾバクタム(ピペラシリン/タゾバクタム比4:1))14.50g(4.8cMol)を1時間かけて一部ずつ装填する。攪拌を30分続け、その間20−30mBarの絶対圧まで真空を適用する。COが、75mg/L未満であると測定され(高い場合は、真空下で攪拌を更に30分間続ける。)、ピペラシリン1水和物(PIP)または重炭酸ナトリウム(BIC)の必要量の添加により、pHを5.5と7.0の間の値に調整する。ついで、溶液を凍結乾燥する。
【0123】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
i.酸ピペラシリン(単独でまたはタゾバクタムと混合して)を、重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウムとの反応により、水に溶解する段階、
ii.200mg/L未満の二酸化炭素含量まで脱ガスする段階、
iii.5.6および7.9の間の値へのpH調整段階、
iv.凍結乾燥の段階、
を含む、再溶解溶液の向上した安定性を有する凍結乾燥されたピペラシリンナトリウム(単独でまたはタゾバクタムと混合して)の製造方法。
【請求項2】
凍結乾燥に先立って、滅菌ろ過を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸、即ち、酸ピペラシリン(単独でまたはタゾバクタムと混合して)に関して、塩基(即ち、重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウム)のほぼ同等のモル量が用いられる、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
酸ピペラシリンおよび酸タゾバクタムに関して、重炭酸ナトリウムのほぼ同等のモル量が用いられる、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
酸、即ち、酸ピペラシリン(単独でまたはタゾバクタムと混合して)が、15℃を超えない温度で水に溶解した塩基(即ち、重炭酸ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウム)上に加えられる、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
酸ピペラシリンおよび酸タゾバクタムが、5および9℃の間の温度で、水に溶解した重炭酸ナトリウム上に加えられる、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
脱ガスが、75mg/L未満の二酸化炭素含量まで適用される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
脱ガスが、100mBarより低い絶対圧における真空により達成される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
脱ガスが、30mBarより低い絶対圧における真空により達成される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
pHが、6.3および7.1の間の値に調整される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ピペラシリンのタゾバクタムに対する割合が、20:1から1:1の範囲内である、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ピペラシリンのタゾバクタムに対する割合が、8:1である、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
ピペラシリンのタゾバクタムに対する割合が、4:1である、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
1.0%(重量/重量)より低い水分含量および多くとも50%の微粒子(50μm未満)の量を有する、請求項1に記載の方法により得られるピペラシリンナトリウムおよびタゾバクタムナトリウムの凍結乾燥混合物を含む医薬組成物。

【公表番号】特表2009−518355(P2009−518355A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543801(P2008−543801)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069232
【国際公開番号】WO2007/065862
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(305008042)サンド・アクチエンゲゼルシヤフト (54)
【Fターム(参考)】