説明

再灌流障害を処置するための可溶性グアニル酸シクラーゼ活性化剤の使用

本発明は、再灌流障害の予防および/または処置用の医薬品/薬剤を製造するための化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再灌流障害の予防および/または処置用の医薬品/薬剤を製造するための化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
再灌流障害は、一般的に、長い虚血期間の終了後に、例えば、血流の回復後に侵入および蓄積する毒性代謝物、および/または、興奮性細胞におけるカルシウムイオンの大量放出の結果として起こる。この障害は、血管閉塞、特に急性動脈閉塞後、代償する側副血行路が欠如している場合(いわゆる梗塞)に、頻発する。最も良く知られている形態は、心筋梗塞および脳梗塞(卒中)である。一過性虚血後の血栓溶解による血流の早期回復は、細胞の損傷を防止できるか、またはその程度(梗塞サイズ)を低減できるが、再灌流は、例えば心臓のある程度の機能不全、または、細胞死を引き起こし得る。従って、例えば再灌流および様々なタイプの心臓手術の間に心臓の正常な機能を維持する薬剤を見出すことには、多大な臨床的価値がある。
【0003】
虚血性再灌流障害およびそれに伴う細胞の損傷は、例えば、心筋梗塞、冠動脈血管の置換術、特に開胸心臓手術、狭心症、末梢血管閉塞性疾患、卒中、組織および器官移植(例えば、心臓、肝臓、腎臓、肺)、一般的外科手術、急性腎不全および器官の低灌流(例えば、肺、心臓、肝臓、腸、膵臓、腎臓、四肢または脳)に伴って起こると知られている。
【0004】
細胞内メッセンジャーcGMPの増加を導くメカニズム(例えばNO放出物質)は、これらの物質による処置が虚血期間の前に、いくつかの場合ではその間に開始されれば、再灌流障害の低減も導き得ることが知られている。虚血期間前の使用は、一般的に、予防/保護および/またはプレコンディショニングとして知られており、細胞の保護、特に興奮性細胞(例えば神経および筋肉細胞)の保護を含む。虚血期間後の処置は、対応して、ポストコンディショニングと呼ばれる。
【発明の開示】
【0005】
cGMPレベルの上昇は、細胞、組織および器官の再灌流障害からの保護を導き得る。可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化(アゴニスト)は、細胞内メッセンジャーcGMPの増加を導く。驚くべきことに、この度、本発明の化合物の可溶性グアニル酸シクラーゼ活性化剤(式IないしIVの化合物)は、哺乳動物、特にヒトの再灌流障害を予防および/または処置および限定するための医薬物質/薬剤の製造に特に適することが見出された。
【0006】
化合物(I)は、以下の式に相当する:
【化1】

化合物(I)、医薬としてのその製造および使用は、WO01/19780で開示された。
【0007】
化合物(II)は、以下の式に相当する:
【化2】

化合物(II)、医薬としてのその製造および使用は、WO00/06569で開示された。
【0008】
化合物(III)は、以下の式に相当する:
【化3】

化合物(III)、医薬としてのその製造および使用は、WO00/06569およびWO02/42301で開示された。
【0009】
化合物(IV)は、以下の式に相当する:
【化4】

化合物(IV)、医薬としてのその製造および使用は、WO00/06569およびWO03/095451で開示された。
【0010】
化合物(IVa)は、以下の式に相当する:
【化5】

化合物(IVa)、医薬としてのその製造および使用は、WO00/06569およびWO03/095451で開示された。
【0011】
化合物(V)は、以下の式に相当する:
【化6】

【0012】
化合物(VI)は、以下の式に相当する:
【化7】

化合物(V)および(VI)、医薬としてのそれらの製造および使用は、WO00/02851で開示された。
【0013】
本発明は、式(I−VI)の化合物およびそれらの塩、水和物、塩の水和物の、再灌流障害の処置用の薬剤を製造するための使用に関する。
【0014】
さらなる本発明の例示的実施態様には、式(I−VI)の化合物の少なくとも1種を使用することによる、再灌流障害の予防および/または処置方法が含まれる。
【0015】
本発明は、さらに、少なくとも1種の本発明の化合物および少なくとも1種またはそれ以上のさらなる有効成分を含む、特に上述の障害の処置および/または予防用の医薬に関する。
【0016】
本発明の化合物は、全身的および/または局所的効果を有し得る。それらは、この目的で、例えば、経口で、非経腸で、肺に、鼻腔に、舌下に、舌に、頬側に、直腸に、皮膚に、経皮で、結膜もしくは耳経路で、または、インプラントもしくはステントとしてなど、適する方法で投与できる。
本発明の化合物は、これらの投与経路のために、適する投与形で投与できる。
【0017】
経口投与に適する投与形は、当分野の現状に準じて機能し、本発明の化合物を迅速かつ/または改変された方法で送達し、本発明の化合物を結晶形および/または無定形および/または溶解形で含有するもの、例えば、錠剤(非被覆または被覆錠剤、例えば、胃液耐性であるか、または、ゆっくりと溶解するか、または、不溶であり、本発明の化合物の放出を制御する被覆を有するもの)、口中で迅速に崩壊する錠剤、または、フィルム/オブラート、フィルム/凍結乾燥剤、カプセル剤(例えばハードまたはソフトゼラチンカプセル剤)、糖衣錠、顆粒剤、ペレット剤、散剤、乳剤、懸濁剤、エアゾール剤または液剤である。
【0018】
非経腸投与は、吸収段階を回避して(例えば、静脈内、動脈内、心臓内、脊髄内または腰椎内)、または、吸収を含めて(例えば、筋肉内、皮下、皮内、経皮または腹腔内)、行うことができる。非経腸投与に適する投与形は、とりわけ、液剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤または滅菌散剤の形態の注射および点滴用製剤である。
【0019】
他の投与経路に適する例は、吸入用医薬形(とりわけ、散剤吸入器、噴霧器)、点鼻薬、液、スプレー;舌、舌下または頬側投与用の錠剤、フィルム/オブラートまたはカプセル剤、坐剤、耳または眼用製剤、膣用カプセル剤、水性懸濁液(ローション、振盪混合物)、親油性懸濁液剤、軟膏、クリーム、経皮治療システム(例えば、パッチなど)、ミルク、ペースト、フォーム、散布剤(dusting powder)、インプラントまたはステントである。
【0020】
本発明の化合物は、上述の投与形に変換できる。これは、不活性、非毒性、医薬的に適する補助剤と混合することにより、それ自体知られている方法で行うことができる。これらの補助剤には、とりわけ、担体(例えば、結晶セルロース、ラクトース、マンニトール)、溶媒(例えば、液体ポリエチレングリコール)、乳化剤および分散剤または湿潤剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシソルビタンオレエート)、結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン)、合成および天然ポリマー(例えば、アルブミン)、安定化剤(例えば、アスコルビン酸などの抗酸化剤)、着色剤(例えば、酸化鉄などの無機色素)および味および/または匂いのマスキング剤が含まれる。
【0021】
本発明は、さらに、少なくとも1種の本発明の化合物を、通常は1種またはそれ以上の不活性、非毒性の医薬的に適する補助剤と共に含む医薬および上述の目的でのそれらの使用に関する。
【0022】
一般的に、1日に約0.01ないし5000mg/体重kg、好ましくは約0.5ないし1000mg/体重kgの量を投与するのが、有効な結果を達成するのに有利であると明らかになった。
【0023】
それにも拘わらず、特に、体重、投与経路、有効成分に対する個体の挙動、製剤のタイプおよび投与を行う時間または間隔に応じて、上述の量から逸脱することが必要であり得る。従って、上述の最小量より少なくても十分な場合があり得、一方、上述の上限を超えなければならない場合もある。より大量に投与する場合、それを1日にわたる複数の単回用量に分割するのが望ましいことがある。
【0024】
その製剤は、さらに、介在させるのに適するならば、活性物質を0.1ないし99%の有効成分で、適切には、錠剤およびカプセル剤の場合25−95%で、および、液体製剤の場合1−50%で含み得る。即ち、活性成分は、上述の用量範囲を達成するのに十分な量で存在すべきである。
【0025】
本発明のさらなる例示的実施態様は、1種またはそれ以上の本発明の化合物と、1種またはそれ以上の他の物質の組合せの使用である。適する物質の組合せは、例えば、梗塞および再灌流障害の予防および/または処置に使用される物質である。これに関して、例えば、そして好ましくは、NO放出物質などのcGMP上昇物質、ホスホジエステラーゼの阻害剤、血栓溶解剤およびアデノシンアゴニストの阻害剤である。
【実施例】
【0026】
実験の部:
NO非依存性可溶性グアニル酸シクラーゼ活性化剤の投与による、単離された心臓における梗塞サイズおよびさらなる再灌流障害の低減
梗塞サイズの測定および実験方法は、Zhang et al. in J. Cardiovasc. Pharmacol., 42, 764-771, 2003 に記載の方法に従う。
【0027】
ニュージーランド・ホワイト種の両性のウサギ(体重2−3kg)を、ペントバルビタールナトリウムで麻酔し(30mg/kgi.v.)、人工呼吸させた。外科手術手技に続き、単離された心臓を迅速にランゲンドルフ装置に移した。単離された心臓を、この場合、大動脈根で固定し、NaCl 118.5;KCl 4.7;MgSO 1.2;KHPO 1.2;NaHCO 24.8;CaCl 2.5およびグルコース10(mM表記)からなるクレブスバッファーで逆行性灌流に付した。95%Oおよび5%COの混合物により、7.35−7.45のpHおよび38℃の温度で、バッファーに通気した。全ての心臓を、試験プロトコール開始の少なくとも30分前に平衡化できた。
【0028】
単離した心臓をランゲンドルフ装置から迅速に取り出すことにより、実験終了時に梗塞サイズを測定した。生理塩水中での洗浄段階の後、再度冠動脈を閉じ、リスク域または虚血領域を非蛍光組織として表示するために蛍光ミクロスフェアを心臓に注入した。心臓を秤量し、急速冷凍した後、それを2mm厚の切片に切ることができた。これらの切片を、1%トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)を含むリン酸ナトリウムバッファー中、37℃で20分間インキュベートした。この間に、生存可能な組織は暗赤色に染色され、一方壊死組織は染色されず、茶色がかって見える。
【0029】
全ての心臓(各場合でn=6/群)を、冠動脈結紮により30分間の虚血および120分間の再灌流期においた。対照の心臓は、虚血および再灌流のみに付した。処置群では、心臓をNO非依存性可溶性グアニル酸シクラーゼ活性化剤で灌流した。結論は、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化剤は梗塞サイズの減少および再灌流障害の低減に適すると要約することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I−VI)
【化1】

【化2】

の化合物およびそれらの塩、水和物、塩の水和物の、再灌流障害の予防および/または処置用の薬剤を製造するための使用。
【請求項2】
薬剤が経口投与形のために使用される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
薬剤が静脈内に与えられるものである、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
薬剤が予防用である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
再灌流障害の予防および/または処置に使用されるものである、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
請求項1に記載の少なくとも1種の物質を含む、再灌流障害の処置用の医薬組成物。
【請求項7】
ホスホジエステラーゼの阻害剤、血栓溶解剤およびアデノシンアゴニストの群から選択される薬剤をさらに含む、請求項6に記載の医薬組成物。

【公表番号】特表2009−500365(P2009−500365A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519861(P2008−519861)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006600
【国際公開番号】WO2007/025595
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(503412148)バイエル・ヘルスケア・アクチェンゲゼルシャフト (206)
【氏名又は名称原語表記】Bayer HealthCare AG
【Fターム(参考)】