説明

再生および修復細胞を誘引および保持するための生物基質

本発明は、フィブリン塊およびサイトカインを含む医薬組成物、ならびに該組成物をインビボで疾患または傷害の部位へ送達して、再生または修復幹細胞または骨髄細胞およびそれらの分化した子孫を誘引および保持する方法に関する。特定の態様において、サイトカインは、SDF−1である。さらなる別の態様において、サイトカインは、幹細胞因子(SCF)である。更なる態様において、該塊は、SDF−1とSCFとの組み合わせを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、フィブリン生物基質(バイオマトリックス)またはフィブリン塊およびサイトカインを含む医薬組成物、ならびに該組成物をインビボで疾患または傷害の部位へ送達して、再生および/または修復幹細胞および骨髄細胞とそれらの分化した子孫を誘引および保持する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
幹細胞または再生能力を有する細胞は、インビボで組織を再生または修復することによりヒト疾患を処置する途方もない可能性を有する。成体幹細胞は、放射線照射または化学療法後の骨髄機能不全、および複数の先天的造血細胞状態を処置するのに長年用いられてきた。典型的には骨髄移植片は、自己(患者自身の幹細胞を用いる)または同種異系(兄弟または近親者の幹細胞を用いる)のいずれかである。特定の生理学的または実験的条件下で、幹細胞は、血液細胞または心筋の律動的拍動細胞など専門的な機能を有する細胞、つまりヒトの心臓疾患の処置に有用性を有する細胞になるよう誘導させることができる。
【0003】
現在、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)動員末梢血から採取され単離されたCD34+幹細胞(CD34は細胞表面の糖タンパク質である)を用いて、虚血性心疾患を処置するための臨床試験が実施されている(非特許文献1)。抗体選別法(Isolex 300i, Baxter Healthcare Corp.,イリノイ州ディアフィールド)は、患者の血液からCD34+発現細胞を回収するのに用いられている。その後、CD34+細胞を一定期間貯蔵して、カテーテル装置を用いて虚血性心筋の部分へ注射する。虚血を有する異なる動物モデルでの前臨床実験から、これらの細胞が虚血性疾患、特に冠動脈性心疾患および末梢血管疾患により誘発された虚血の処置において臨床的有用性を有することが示された(非特許文献2)。
【0004】
疾患を処置する細胞治療は、技術的および商業的に難題がある。第一に、処置が臨床上効果的となるためには、細胞をエクスビボで十分量採取しなければならない。典型的にはこれは、レシピエント患者に再注入される前の自己細胞の採取を含む。細胞は、この工程の間に、生存形態で一定期間維持されて、その再生可能性を留めていなければならず、そして貯蔵時に変化を受けて患者の有害反応を誘発することがあってはならない。加えて細胞は、カテーテルまたは他の送達装置を用いて、インビボで疾患または傷害の部位へ物理的に送達しなければならない。更に、各部位での細胞採取には、このアプローチの商業的な実行可能性に負の影響を及ぼす部位特異的な調節手順が必要となる。
【0005】
CD34+細胞は、優勢である未熟な骨髄細胞と、若干の未熟なB細胞とで構成された異成分からなる集団である。CD34+細胞が、虚血性疾患の処置において幹細胞として作用しえないことを示す証拠が、集まりつつある。例えば現在では、CD34+細胞が損傷を受けた筋肉細胞に置き換わらないこと、そしてそれらが発生期の血管に直接組み込まれないことは、明らかである。どちらかといえばCD34+細胞は、可溶性血管新生促進因子を放出することにより、パラ分泌的手法で血管新生を刺激する、または血管形成を増大する作用がある(非特許文献3)。
【0006】
精製されたCD34+細胞は、主として芽球表現型を示す(90%)。CD34+細胞のおよそ33%は、マーカーであるCD45およびCD11bを共発現する。これらのCD34+細胞は、インビトロで培養すると、CD34+マーカーの発現を失い、CD45およびCD11bの両者の発現を時間関数で増加させる。細胞表面でのマーカー発現におけるこの変化と同時に起こるのが、より未熟な芽球表現型からより分化した骨髄細胞型、例えば骨髄球および前骨髄球への変化である。これらの細胞の、内皮管腔形成、つまり血管生成の前段階を支援する能力を検証するインビトロアッセイを利用して、両方の骨髄球集団で血管新生促進活性が実証されている。これらの実験から、CD34+インテグリンの発現が、細胞が血管新生促進性であるための絶対要件ではないことが示される。
【0007】
血管のデノボ生成が、マウスでの遺伝子アプローチを利用して注意深く検証された。具体的には、新血管形成の重要な一成分が、CD45およびCD11bマーカーを共発現する、循環内の骨髄由来単核細胞の動員であることが、実験で示された。これらの実験から、新血管形成の部位でのストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)の局在発現が、発生期の血管の付近にこれらの修復細胞を保持すること、および新血管形成を支援すること、の両方にとって肝要であることも示された。それらの細胞は、成長する血管の部位から回収することができ、血管新生促進性のある可溶化因子の分泌により、インビトロで血管新生を刺激することが示された(非特許文献4)。
【0008】
新血管形成を刺激する新規な組成物および方法が、当該技術分野で求められている。ここに我々は、フィブリン塊およびSDF−1を含む組成物、ならびにインビボで該組成物を使用して内在性修復骨髄細胞およびそれらの分化した子孫を特異的部位へ動員する修復細胞療法の方法を記載する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Losordo et al., Circulation 115:3165−72, 2007
【非特許文献2】Taylor et al., Diabetes Obes. Metab. 10 (Suppl. 4): 5−15, 2008; and Li et al., Thromb. Haemost. 95: 301−11, 2006
【非特許文献3】Hofmann et al., Circulation 111: 2198−2202, 2005
【非特許文献4】Grunwald et al., Cell 124: 175−89, 2006
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明は、フィブリン塊およびサイトカインまたはサイトカインの組み合わせを含む医薬組成物、該組成物を調製する方法、ならびに該組成物をインビボで疾患または傷害の部位へ送達して、修復骨髄細胞およびその分化した子孫を誘引および保持する方法に関係する1つ以上の必要性に取り組む。特定の態様において、サイトカインは、SDF−1である。別の態様において、サイトカインは、幹細胞因子(SCF)である。更なる態様において、該塊は、SDF−1とSCFとの組み合わせを含む。
【0011】
一実施形態において、本発明は、フィブリン塊およびサイトカインまたはサイトカインの組み合わせを含む組成物を包含する。幾つかの態様において、サイトカインは、ストローマ由来因子−1(SDF−1)および幹細胞因子(SCF)からなる群より選択される。一態様において、サイトカインは、SDF−1である。別の態様において、サイトカインは、SCFである。更なる態様において、サイトカインの組み合わせは、ストローマ由来因子−1(SDF−1)および幹細胞因子(SCF)を含む。幾つかの態様において、フィブリン塊は、任意のフィブリン系(fibrin−based)止血剤またはシーラントを含む。特定の態様において、フィブリン塊は、Tisseel(登録商標)またはTisseel(登録商標)VHSDまたはFloseal(登録商標)である。幾つかの態様において、フィブリン塊は、最終濃度約1mg/ml〜約100mg/mlのフィブリノーゲンおよび最終濃度約0.5IU/ml〜約250IU/mlのトロンビンを含む。別の態様において、フィブリン塊は、最終濃度約10mg/mlのフィブリノーゲンおよび最終濃度約2IU/mlのトロンビンを含む。更なる態様において、本発明の組成物は、リン酸緩衝液またはリン酸緩衝生理食塩水溶液を更に含む。幾つかの態様において、該組成物は、最終濃度約1.0ng/ml〜約50,000ng/mlのSDF−1を含む。別の態様において、該組成物は、最終濃度約10ng/ml〜約5,000ng/mlのSDF−1を含む。幾つかの態様において、該組成物は、最終濃度約1.0ng/ml〜約50,000ng/mlのSCFを含む。別の態様において、該組成物は、最終濃度約10ng/ml〜約5,000ng/mlのSCFを含む。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、フィブリン塊およびサイトカインまたはサイトカインの組み合わせを含む組成物を調製する方法を包含する。特定の態様において、そのような方法は、サイトカインまたはサイトカインの組み合わせをトロンビンと混合するステップ、ならびにサイトカインまたはサイトカインの組み合わせおよびトロンビンをフィブリノーゲンに添加してフィブリン塊組成物を形成させるステップを含む。幾つかの態様において、サイトカインは、ストローマ由来因子−1(SDF−1)および幹細胞因子(SCF)からなる群より選択される。
【0013】
別の実施形態において、本発明は、修復細胞を、それを必要とする対象の傷害または疾患の局在部位へ動員および保持する方法を包含する。そのような方法は、本明細書に記載された組成物のいずれかを傷害または疾患の部位へ、修復細胞を該傷害部位へ動員および保持するのに効果的となる量、送達するステップを含む。幾つかの態様において、修復細胞は、幹細胞である。別の態様において、修復細胞は、骨髄細胞およびその分化した子孫である。特定の態様において、修復細胞は、CD34(CD34+)、CD45(CD45+)、またはCD11b(CD11b+)に陽性である。特定の態様において、修復細胞は、CD34(CD34+)、CD45(CD45+)、およびCD11b(CD11b+)のうちの1種以上に陽性である。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象の傷害または疾患の局在部位を処置する方法を包含する。そのような方法は、本明細書に記載された組成物のいずれかを傷害または疾患の部位へ、該傷害または疾患を処置するのに効果的となる量、送達するステップを含む。
【0015】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象の傷害または疾患の局在部位で血管形成を増大する、または血管新生を誘導する方法を包含する。そのような方法は、本明細書に記載された組成物のいずれかを傷害または疾患の部位へ、血管形成を増大する、または血管新生を誘導するのに効果的となる量、送達するステップを含む。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、対象における虚血を処置する方法を包含する。そのような方法は、本明細書に記載された組成物のいずれかを対象における虚血の部位へ、虚血を処置するのに効果的となる量、送達するステップを含む。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に記載された組成物のいずれかを調製するためのキットを包含する。そのようなキットは、フィブリノーゲンを含む第一のバイアルまたは第一の貯蔵容器と;トロンビンを含む第二のバイアルまたは第二の貯蔵容器と;サイトカインまたはサイトカインの組み合わせを含む第三のバイアルまたは第三の貯蔵容器と、を含み、前記キットは、リン酸緩衝液および使用説明書を任意に含む。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、医薬の製造における本明細書に記載された組成物の使用を包含する。幾つかの態様において、本発明は、修復細胞を傷害または疾患の局在部位へ動員および保持する医薬の製造における、本明細書に記載された組成物の使用を包含する。別の態様において、本発明は、傷害または疾患の局在部位を処置する医薬の製造における、本明細書に記載された組成物の使用を包含する。幾つかの態様において、本発明は、傷害または疾患の局在部位での血管形成を増大する、または血管新生を誘導する医薬の製造における、本明細書に記載された組成物の使用を包含する。幾つかの態様において、本発明は、虚血を処置するための医薬の製造における、本明細書に記載された組成物の使用を包含する。
【0019】
フィブリン系生物基質が、本発明の様々な実施形態において具体的に記載されるが、他の生物学的基質、例えばコラーゲン、ゼラチン、合成ハイドロゲルなどは、本発明に包含される。
【0020】
本発明の他の特徴および利点が、以下の詳細な説明から明白となろう。しかし、本発明の主旨および範囲内の様々な変更および修正が、この詳細な説明から当業者に明白となるため、その詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の具体的な実施形態を示しており例示に過ぎないことが、理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、SDF−1の両方のアイソフォーム[SDF−1α(図1a)およびSDF−1β(図1b)]の、Tisseel(登録商標)VHSDのフィブリノーゲンシーラントへの結合センサグラムを示す。
【図2】図2は、7日間にわたる、Tisseel(登録商標)VHSDフィブリン塊からのSDF−1αの累積放出量を示す。
【図3】図3aは、Matrigel(登録商標)(BD Biosciences)中の新たに単離されたCD34+骨髄細胞を示す。Matrigel(登録商標)のアッセイから、7日目の時点で、CD34+細胞が存在する場合の内皮細胞脈管が、内皮細胞単独に比較して、退縮していないことが示された。図3bは、CD45およびCD11bを共発現する骨髄細胞が、インビトロで血管新生促進性であることを示す。
【図4a】図4aは、インビボで移植されたTisseel(登録商標)−SDF−1塊へのCD45+/CD11b+骨髄細胞の動員を示す。CD45+およびCD11bを共発現する細胞は、SDF−1を含まないTisseel(登録商標)塊よりもTisseel(登録商標)−SDF−1塊へ多数動員された。
【図4b】図4bは、SDF−1が、対照(PBS)に比較して、筋肉注射されたTisseel(登録商標)−SDF−1塊へのEGFP+およびCD45+/CD11b+骨髄由来細胞のインビボ動員を増加させたことを示す。
【図4c】図4cは、インビボでの幹細胞抗原−1(Sca−1)+細胞の動員を示す。インビボで移植されたTisseel(登録商標)−SDF−1塊は、CD34のマウス由来均等物であるSca−1を発現する細胞をより多く動員した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、非限定的にSDF−1および/またはSCFをはじめとする様々なサイトカインを送達するのに用いられる、生分解性で生体適合性のフィブリン生物基質またはフィブリン塊を提供する。特定の態様において、本発明は、サイトカインを送達して修復細胞を疾患または傷害の部位へ動員し、その部位での該細胞の保持時間を増加させる様々なフィブリン配合剤を提供する。フィブリン塊は、サイトカインを送達し、修復細胞を動員して、組織または臓器内のインビボ環境を模倣する、三次元基質を提供する。本発明は、そのようなフィブリン塊配合剤およびその使用方法を提供する。
【0023】
本発明の任意の実施形態を詳細に説明する前に、本発明が、以下の説明に示された、または図および実施例に例示された構成の詳細および成分配列への適用に限定されないことが、理解されなければならない。本明細書で用いられた見出しは、組織化の目的のために存在し、記載された表題物質を限定するものと解釈すべきではない。本願に引用された参考文献は全て、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【0024】
本発明は、他の実施形態を包含しており、様々な方法で実践または実行される。同じく、本明細書で用いられた表現法および用語法が、説明を目的とするものであり、限定と見なされるべきでないことを、理解しなければならない。用語「包含する」、「含む」または「有する」およびその変形例は、その後に列挙される事項およびその均等物、ならびに追加事項を包含することを意味する。
【0025】
定義
【0026】
他に定義されていなければ、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。以下の参考文献は、本発明で用いられる用語の多くのより一般的な定義を熟練者に提供するものである。Singleton, et al., DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY (2d ed. 1994); THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY (Walker 編, 1988); THE GLOSSARY OF GENETICS, 5TH ED., R. Rieger, et al. (編), Springer Verlag (1991);およびHale and Marham, THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY (1991)。
【0027】
以下の略語が、全体として用いられる。
EGFP 強化緑色蛍光タンパク質
FACS 蛍光活性化細胞選別
GM−CSF 顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子
SDF−1 ストローマ由来因子−1
SDF−1α ストローマ由来因子−1α
SDF−1β ストローマ由来因子−1β
HUVEC ヒト臍帯静脈内皮細胞
IU 国際単位
kDa キロダルトン
μlまたはμL マイクロリットル
mlまたはmL ミリリットル
ng ナノグラム。
【0028】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数形「a」、「an」および「the」は、他に明確な断りがなければ、複数の参照を含むものとする。
【0029】
用語「フィブリン」、「フィブリン基質」、「フィブリン生物基質」、「フィブリン塊」、「フィブリン系スカフォールド」、「フィブリンスカフォールド」、「フィブリン糊」、「フィブリンゲル」、「フィブリン接着剤」、および「フィブリンシーラント」は、本明細書では多くの場合、互換可能に用いられており、少なくとも1種のフィブリノーゲン成分およびトロンビン成分を含む三次元網目構造を指す。本発明は、本明細書に記載された任意のフィブリン系止血剤またはシーラントを含むフィブリン塊を包含する。
【0030】
用語「サイトカイン」は、組織再生、ならびに免疫、炎症、および造血の媒介および調節において重大な役割を果たす、種々の群の小型分泌タンパク質を指す。用語「サイトカインの組み合わせ」は、非限定的にストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)および幹細胞因子(SCF)をはじめとする、当該技術分野で公知である任意の2種以上のサイトカインを指す。
【0031】
用語「SDF−1」または「SDF−1α」または「SDF−1β」は、サイトカインファミリーに属する小型サイトカインであるストローマ細胞由来因子−1ポリペプチドを指す。様々な態様において、用語「SDF−1」および「SDF−1α」は、互換的に用いられる。別の態様において、用語「SDF−1」および「SDF−1β」は、互換的に用いられる。
【0032】
用語「SCF」は、ケモカインファミリーに属するサイトカインである幹細胞因子ポリペプチドを指す。
【0033】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書では互換的に用いられ、ペプチド結合を介して結合したアミノ酸残基のポリマーを指す。その用語は、1個以上のアミノ酸残基が対応する天然由来アミノ酸、ならびに天然由来アミノ酸ポリマーおよび非天然由来アミノ酸ポリマーの人工の化学的模倣体である、アミノ酸ポリマーに適用される。用語「タンパク質」は、典型的には大型のポリペプチドを指す。用語「ペプチド」は、典型的には短いポリペプチドを指す。合成ポリペプチドは、例えば自動ポリペプチド合成装置を用いて、調製することができる。
【0034】
具体的には、本明細書に開示された任意の数値範囲が、低値から高値までの全ての値、即ち列挙された最低値から最高値までの数値の全ての可能な組み合わせが、本願で明示的に述べられていると見なさなければならないことは、理解されよう。例えば、濃度範囲が約1%〜50%と述べられている場合、2%〜40%、10%〜30%、または1%〜3%などの値が、本願において明示的に列挙されているものとする。先に列挙された値は、具体的に意図された値の例にすぎない。
【0035】
様々な態様において範囲は、本明細書において、「約」もしく「およそ」の付いた1つの特定の値から、そして/または「約」もしく「およそ」の付いた別の特定の値まで、として表現されている。値が先行する「約」の使用により近似値として表現されている場合、その範囲に若干量の変動が含まれることは、理解されよう。
【0036】
本明細書で用いられる、ポリペプチドの「断片」は、完全長ポリペプチドまたはタンパク質発現生成物よりも短いポリペプチドの任意の部分を指す。断片は、典型的には1個以上のアミノ酸残基が完全長ポリペプチドのアミノ末端および/またはカルボキシ末端から除去されている、完全長ポリペプチドの欠失類似体である。したがって「断片」は、以下に記載された欠失類似体の部分集合である。本発明は、生物活性を保持するポリペプチドの断片を包含する。例えば本発明は、本明細書に開示されたサイトカインの生物活性断片を包含する。
【0037】
本明細書で用いられる「類似体」は、特定の例では度合いが異なるものの、天然由来分子と構造が実質的に類似していて、同一または本質的に同一の生物活性を有するポリペプチドを指す。類似体は、(i)ポリペプチド(先に記載された断片を含む)の1つ以上の末端および/もしくは天然由来ポリペプチド配列の1つ以上の内部領域にある1つ以上のアミノ酸残基の欠失、(ii)ポリペプチドの1つ以上の末端(典型的には「付加」類似体)および/もしくは天然由来ポリペプチド配列の1つ以上の内部領域(典型的には「挿入」類似体)にある1つ以上のアミノ酸残基の挿入もしくは付加、または(iii)天然由来ポリペプチド配列における1つ以上のアミノ酸と他のアミノ酸との置換、を含む1つ以上の突然変異に基づき、類似体が得られる天然由来ポリペプチドと比較してアミノ酸配列の構成が異なる。置換は、置換されているアミノ酸と置換しているアミノ酸の物理化学的または機能的関連性に基づけば、保存的または非保存的である。本発明は、本明細書に開示されたサイトカインポリペプチドの類似体を包含する。
【0038】
「保存的に修飾された類似体」は、アミノ酸の、化学的に類似したアミノ酸での保存的置換を含むポリペプチドである。機能的に類似したアミノ酸を示す保存的置換の表は、当該技術分野で周知である。以下の8群はそれぞれ、互いが保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T)、および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984)参照)。
【0039】
そのような保存的に修飾された類似体は、多型変異体、種間相同体、および対立遺伝子変異体に加えて存在するもので、それらを除外しない。
【0040】
「対立遺伝子変異体」は、典型的には同一の遺伝子座を占める遺伝子の2つ以上の多型のいずれかを指す。対立遺伝子変異体が、突然変異により自然に生じ、集団の中に表現型多型をもたらしてもよい。特定の態様において、遺伝子突然変異は、サイレント(コードされたポリペプチドに変化がない)であり、または変化したアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードしていてもよい。「対立遺伝子変異体」は、遺伝的対立遺伝子変異体(genetic alleic variants)およびそれらによりコードされたタンパク質のmRNA転写産物から得られるcDNAを指す。
【0041】
本明細書で用いられる「変異体」は、通常は分子の一部ではない付加の化学的部分を含むように修飾されたポリペプチド、タンパク質またはそれらの類似体を指す。そのような部分は、様々な態様において、分子の溶解度、吸収、および/または生物学的半減期を調整する。あるいはその部分は、他の様々な態様において、分子の毒性を低減し、分子の任意の不適当な副作用を排除または低下させる。そのような効果を媒介することが可能な部分が、Remington’s Pharmaceutical Sciences (1980)に開示されている。そのような部分を分子にカップリングさせる手順は、当該技術分野で周知である。例えば変異体は、幾つかの態様において、サイトカインポリペプチドにインビボでより長い半減期を付与する化学修飾を有するサイトカインポリペプチド分子である。一実施形態において、そのポリペプチドは、当該技術分野で公知の水溶性ポリマーの付加により修飾される。関連の実施形態において、ポリペプチドは、グリコシル化、ペグ化、および/またはポリシアル酸化により修飾される。本発明は、本明細書に開示されたサイトカインポリペプチドの変異体を包含する。
【0042】
本明細書で用いられる「選択マーカー」は、マーカーの発現または活性が有利に選択されるか(例えば非限定的に、neo遺伝子などの陽性マーカー)、または不利に選択される(例えば非限定的に、ジフテリア遺伝子などの陰性マーカー)ように、同定可能な表現型変化、例えば薬物、抗生物質または他の薬剤への耐性が発現される細胞または生物体に付与される酵素または他のタンパク質をコードする遺伝子を指す。「非相同性選択マーカー」は、通常は見出されない動物のゲノムに挿入された選択マーカー遺伝子を指す。
【0043】
選択マーカーの例としては、非限定的に、抗生物質耐性遺伝子、例えばネオマイシン(neo)、ピューロマイシン(Puro)、ジフテリア毒素、ホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ、アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼおよびヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼが挙げられる。本発明の一態様において、選択マーカーは、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)である。EGFPは、発現試験の対照試薬として適しており、実施例に記載される通り本明細書で用いられる。当業者は、本明細書に記載された方法において有用となる当該技術分野で公知の任意の選択マーカーを、理解するであろう。
【0044】
用語「薬剤」または「化合物」は、本発明の生物学的パラメータに影響を及ぼす能力を有する任意の分子、例えばタンパク質または医薬品を言い表す。
【0045】
本明細書で用いられる「対照」は、活性対照、陽性対照、陰性対照またはビヒクル対照を指すことができる。当業者には理解されるであろうが、対照は、実験結果の関連性を確定し、検査される条件での比較を提供するために用いられる。
【0046】
本明細書で用いられる用語「薬学的に許容しうる担体」または「生理学的に許容しうる担体」は、本発明の組成物の送達を完遂または増大するのに適した1種以上の配合材料を指す。
【0047】
用語「効果的量」、「効果的となる量」、および「治療上効果的な量」はそれぞれ、フィブリン塊およびサイトカインを含み、本明細書に示された通り対象において観察可能な変化を実現する組成物の量を指す。例えば本発明の特定の態様において、効果的量は、インビボで幹細胞または血管新生促進性骨髄細胞およびその分化した子孫を誘引および保持するのに必要となる量であろう。治療的に用いられる組成物の「効果的量」、「効果的となる量」、および「治療上効果的な量」は、例えば治療の環境および目的に依存する。
【0048】
用語「組み合わせ」は、本発明の1種以上のポリペプチドまたは組成物を指す。幾つかの態様において、本発明の分子の組み合わせは、傷害または疾患の部位で血管新生の増加、または血管形成の増大を提供するために投与される。
【0049】
「対象」は、非植物非原生生物の従来の意味を示す。ほとんどの態様において、対象は、動物である。特定の態様において、動物は、ホ乳類である。より特定の態様において、ホ乳類は、ヒトである。他の態様において、ホ乳類は、ペットもしくは愛玩動物、家畜、または動物園の動物である。特定の態様において、ホ乳類は、ネコ、イヌ、ウマ、またはウシである。
【0050】
フィブリン塊
【0051】
幾つかの態様において、本発明は、フィブリノーゲン成分をトロンビン成分と混合することにより形成されるフィブリン塊を包含する。フィブリンは因子Iaとしても公知であり、凝血に関与する線維性非球状タンパク質である。より具体的にはフィブリンは、肝臓により合成され血漿中に見出される可溶性血漿中糖タンパク質であるフィブリノーゲンを切断することにより生成される。凝固カスケードの工程では、チモーゲンプロトロンビンがセリンプロテアーゼトロンビンへ活性化され、それがフィブリノーゲンからフィブリンへの変換を担う。その後、フィブリン分子は、一緒になって、血小板をからませる長いフィブリン糸を形成して、海綿状の塊を作り上げ、複合ポリマーを徐々に形成し、緊縮して血塊を形成する。この硬化工程は、フィブリン安定化因子または第XIII因子として公知の物質により安定化される。
【0052】
フィブリン塊またはフィブリン基質は、特に傷害への応答では、まとまって様々な生存組織を支える網目構造のタンパク質である。このフィブリン塊は、フィブリノーゲン分子がトロンビンにより切断される凝固カスケードの最終段階を活用して、フィブリンモノマーに変換して原線維を生成し、最終的に三次元網目構造の線維を形成する。同時に、溶液中に存在する第XIII因子(FXIII)は、カルシウムイオンの存在下でトロンビンにより第XIIIa因子へと活性化される。凝集したフィブリンモノマーと、おそらく存在するであろう残留する任意フィブロネクチンとが架橋して、新しいペプチド結合を形成することにより高分子を形成する。この架橋反応により、形成された塊の強度は、実質的に上昇する。一般に塊は、創傷および組織表面に十分に接着して、接着作用および止血作用をもたらす(米国特許第7,241,603を参照)。それゆえフィブリン接着剤は多くの場合、トロンビン成分と一緒になったフィブリノーゲン複合体成分を含み、追加的にカルシウムイオンを含む、二成分接着剤として用いられる。
【0053】
本発明において、フィブリン塊は、少なくとも1種のフィブリノーゲン成分およびトロンビン成分を含み、経時的にサイトカインまたはサイトカインの組み合わせを送達するスカフォールドとして作用しうる三次元網目構造である。幾つかの態様において、サイトカインは、造血および幹細胞増殖に関与する任意のサイトカインである。幾つかの態様において、サイトカインは、SDF−1である。他の態様において、サイトカインは、SCFである。より特定の態様において、フィブリン塊は、サイトカインの組み合わせを含む。特定の態様において、本発明は、SDF−1とSCFとの組み合わせを包含する。
【0054】
そのようなフィブリン基質またはフィブリン塊は、傷害後に体により自然にもたらされるが、本明細書に記載された組織代替物として作製して、治癒を速めることもできる。フィブリン塊は、架橋されたフィブリン網目構造で構成された天然由来の生体材料からなり、生物医学の適用例で広範の用途を有する。例えばそれは、手術時の出血を抑制し、創傷治癒を速め、中空の臓器を密閉する、または標準の縫合糸により生成される穴を覆い、そして抗体のような薬品の、暴露された組織への徐放性送達を提供するのに用いられる。そのようなフィブリン塊は、体の傷害を修復するのに有用であり、そして虚血の部位において有用である。生物医学の研究において、フィブリン塊は、骨の空洞を充填し、ニューロン、心臓弁および目の表面を修復するのに用いられてきた。フィブリン塊は、尿管、肝臓、肺、脾臓、腎臓、および心臓においても用いられてきた。本発明において、フィブリン塊は、体の任意の部位で用いられる。
【0055】
フィブリンシーラントは、ヒトおよび動物の血液製剤から得られる手術用組織接着剤の一種である。フィブリンシーラントの成分が、適用時に相互作用して、フィブリンで構成された安定した塊を形成する。フィブリンシーラントは、手術時の出血を抑制し、創傷治癒を速め、中空の臓器を密閉する、または標準の縫合糸により生成される穴を覆い、そして抗体のような薬品の、暴露された組織への徐放性送達を提供するのに用いられる。2003年現在で、米国で用いられたフィブリンシーラントは全て、注意深くスクリーニングされたドナーから採取され、厳密に検査して肝炎ウイルス、HIV−1、およびパルボウイルスを排除した血漿から作製される。2003年現在で用いられるフィブリンシーラントは全て、2種の主成分、つまりヒトまたはウシ(畜牛)の血液から得られた精製フィブリノーゲンタンパク質および精製トロンビン酵素を有する。多くのシーラントは、2種の追加的成分、つまりヒト血液の第XIII因子、およびウシの肺から得られるアプロチニンを有する。第XIII因子は、フィブリン糸の間に架橋を形成することにより血塊を強化する。アプロチニンは、血塊を破壊する酵素を阻害する。フィブリンシーラントの例は、米国特許第5,716,645、同第5,962,405、および同第6,579,537に記載されており、凍結保存形態、凍結形態、または非凍結液体形態として入手できる。アプロチニン成分が欠如したフィブリンシーラントも、設計された(ニュージャージー州、EVICEL,Ethicon, Inc.,)。本発明は、全タイプのフィブリンシーラントの使用を包含する。
【0056】
フィブリンシーラントの特有の利点は、接着剤/ゲルが適用部位に外来物質として残留せず、自然な創傷治癒のように完全に再吸収されて、新たに形成された組織に置き換わることである。様々な細胞、例えばマクロファージ、続いて線維芽細胞がゲル内に遊走して、ゲル材料を溶解して再吸収し、新しい組織を形成する。フィブリンシーラントは、フィブリン塊またはフィブリンゲルをインサイチュで形成するのに用いられ、これらのフィブリンゲルは、細胞および増殖因子の送達に用いられてきた(Cox et al., Tissue Eng. 10:942−954, 2004;およびWong et al., Thromb. Haemost. 89:573−582, 2003)。
【0057】
本発明の幾つかの態様において、Tisseel(登録商標)(Baxter International Inc.,)および次世代のフィブリンシーラントであるTisseel(登録商標)Vapor Heat Solvent Detergent(Tisseel(登録商標)VHSD)(Baxter International Inc.,)などのフィブリンシーラントが、用いられる。Tisseel(登録商標)VHSDは、追加のウイルス不活性化ステップ(溶媒/洗浄剤[S/D]処理)を含み、現在認可されているTisseel(登録商標)製品に追加的な安全性および利便性を提供するために開発された。Tisseel(登録商標)VHSDは、心肺バイパスを含む手術および脾臓傷害の処置において止血の補助剤としての使用が適応される。本発明の特定の態様において、フィブリン塊は、Tisseel(登録商標)およびTisseel(登録商標)VHSDから調製される。別の態様において、Floseal(登録商標)(Baxter International Inc.,)などのフィブリンシーラントが、用いられる。Floseal(登録商標)は、2分以内(止血までの時間の中央値)で止血する効果的な止血性基質である。
【0058】
本明細書の先に議論された通り、フィブリン塊は、一態様において、トロンビンおよびフィブリノーゲンの別個の溶液から調製される。トロンビンおよびフィブリノーゲンの溶液を二重バリアのシリンジに添加して、それらを混合してひとまとめにする。トロンビンおよびフィブリノーゲンの溶液はひとまとめになると、凝固カスケードとして公知の一連の化学反応による正常な凝血時で形成されるのと同じ方法で、塊が生成される。カスケードの終了時点で、トロンビンはフィブリノーゲン分子をフィブリン分子に分解して糸状に配列させ、その後、第XIII因子により架橋させて、格子状または網目状のパターンを形成して塊を安定化させる。
【0059】
組織接着剤として用いられうるフィブリノーゲン含有調製物を製造する更なる方法としては、それぞれ、任意にエタノール、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、グリシンまたはβ−アラニンを用いた更なる洗浄および沈殿ステップを有する、クリオプレシピテートからの製造、ならびに公知の血漿分画法の範囲内での血漿からの製造が挙げられる(例えば、“Methods of plasma protein fractionation”, 1980, Curling(編), Academic Press, pp. 3−15, 33−36および57−74、またはBlomb ck B. and M., “Purification of human and bovine fibrinogen”, Arkiv. Kemi. 10, 1959, p. 415 f.参照)。幾つかの態様において、フィブリン塊またはフィブリンシーラントは、患者自身の血漿を用いて作製される。例えばCRYOSEAL(Thermogenesis Corp.,カリフォルニア州ランチョコルドバ) またはVIVOSTAT(Vivolution A/S、デンマーク)フィブリンシーラントシステムは、ヒト血漿からの自己フィブリンシーラント成分の製造を可能にする。フィブリンシーラントの成分は、凍結乾燥、急速凍結液体、または液体形態で入手できる。
【0060】
先に議論された通り、様々な態様において、フィブリン塊は、フィブリノーゲンおよびトロンビンを含む。フィブリノーゲンとトロンビンとの重合時間は、フィブリノーゲンおよびトロンビンの両方の濃度、ならびに温度による影響を受ける。走査電子顕微鏡によるフィブリン塊の特徴づけから、厚い線維では低いフィブリノーゲン濃度で高密構造が生成され、フィブリノーゲン濃度が上昇すると、より薄い線維およびより強固なゲルが得られることが明らかである。特定の態様において、フィブリン塊構造は、フィブリン塊を調製する際に用いられる希釈緩衝液により修飾される。トロンビン濃度は、フィブリノーゲン程大きく重合に影響を及ぼすと思われないが、定義されたフィブリノーゲン濃度下では、トロンビン濃度の上昇に伴い線維状の塊が着実に薄くなる。更なる態様において、フィブリン塊は、コラーゲン、フィブロネクチン、および他の基質タンパク質も含む。更なる態様において、フィブリン塊は、生体吸収性および生体適合性である。
【0061】
他の生物学的生物基質
【0062】
フィブリン系生物基質を本発明の様々な実施形態において具体的に記載しているが、他の生物学的基質、例えばコラーゲン、ゼラチン、合成ハイドロゲルなどは、本発明に包含される。様々な態様において、これらの他の生物学的基質は、本明細書に記載されたフィブリン系生物基質と同様に、サイトカインまたはサイトカインの組み合わせを含む。特定の態様において、これらの生物基質は、SDF−1、SCF、またはSDF−1とSCFとの組み合わせを含む。
【0063】
サイトカイン
【0064】
本発明は、1種以上のサイトカインを含む組成物および方法を包含する。用語「サイトカイン」は、組織再生、ならびに免疫、炎症、および造血の媒介および調節において重大な役割を果たす、種々の群の小型分泌タンパク質の総称である。「サイトカイン」は、これらの小型分泌タンパク質に用いられる一般名であるが、他の名称としては、リンフォカイン(リンパ球で生成されたサイトカイン)、モノカイン(単球で生成されたサイトカイン)、ケモカイン(走化活性を有するサイトカイン)、およびインターロイキン(1種の白血球で生成され、他の白血球上で作用するサイトカイン)が挙げられ、全て本発明での使用に包含される。特定の態様であり非限定的に、サイトカインとしては、アクチビン、骨形成タンパク質(BMP)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、Flt−2/Flk−2リガンド、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インスリン様成長因子−1および−2(IGF−1およびIGF−2)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、インターロイキン−1〜−15、(IL−1〜IL−15)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、ニューロトロフィン、血小板由来増殖因子−AB(PDGF−AB)、幹細胞因子(SCF)、ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、ならびに血管上皮成長因子(VEGF)が挙げられる。
【0065】
ストローマ由来因子−1(SDF−1)
【0066】
幾つかの態様において、本発明は、ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)ポリペプチド分子、その断片および類似体、ならびにこれらの分子を含む組成物を包含する。SDF−1は、ケモカインファミリーに属する小型サイトカインで、公式な名称がケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド12(CXCL12)である。SDF−1は、同じ遺伝子を交互にスプライシングすることにより、2種の形態、SDF−1α/CXCL12a(SDF−1α)およびSDF−1β/CXCL12b(SDF−1β)が生成される。様々な態様において、両方の形態SDF−1αおよびSDF−1βが用いられ、用語「SDF−1」は、本明細書では互換的に用いられ、一方または両方の形態を指す。
【0067】
ケモカインは、2つのジスルフィド結合を形成する4種の保存されたシステインの存在を特徴とする。CXCL12タンパク質は、CXCケモカインの群に属し、その最初のシステイン対は、1つの介入するアミノ酸により分離されている。CXCL12は、CXCR4依存性メカニズムを介して、内皮前駆細胞(EPC)を骨髄から動員することにより、血管新生において重要な役割を果たす。
【0068】
本発明の特定の態様において、SDF−1は、トロンビン成分と混合する前、または塊が形成された後に、フィブリノーゲン成分に添加される。SDF−1を含有するフィブリン塊は、次に塊のSDF−1を環境へ放出する。放出されたSDF−1は逐次、塊が付着した部位へ細胞を誘引する。フィブリン塊内でSDF−1局所濃度が相対的に高いことが、塊の付近での細胞保持を支援する。Tisseel(登録商標)VHSDは、非常に多数の異なる手術適用において既に用いられており、広範囲の組織接着性および適合性を示すため、様々な態様において、この調製物は患者の多くの異なる部位で適用される。
【0069】
幹細胞因子(SCF)
【0070】
幾つかの態様において、本発明は、Kitリガンド、KL、またはスチール因子としても公知の幹細胞因子(SCF)、そのポリペプチド分子、断片および類似体、ならびにこれらの分子を含む組成物を包含する。SCFは、c−Kit受容体(CD117)に結合するサイトカインである。SCFは、可溶性タンパク質および膜貫通タンパク質の両方として存在することができ、両方の形態が、通常の造血機能に必要となる。様々な態様において、SCFの両方の形態が、用いられる。
【0071】
SCFは、造血(血液細胞の形成)、精子形成、およびメラニン形成において重要な役割を果たす。特定の態様において、SCFは、胚発生時に造血において重要な役割を果たす。造血が起こる部位、例えば胎児の肝臓および骨髄は、全てSCFを発現する。理論に束縛されるものではないが、SCFは、造血幹細胞(HSC)を幹細胞ニッチ(幹細胞が存在する微細環境)へ送るよう働く可能性があり、それはHSCの維持において重要な役割を果たす。
【0072】
本発明の特定の態様において、SCFは、トロンビン成分と混合する前、または塊が形成された後に、フィブリノーゲン成分に添加される。SCFを含有するフィブリン塊は、次にゲルからのSCFを環境へ放出する。放出されたSCFは逐次、ゲルが付着した部位へ細胞を誘引する。フィブリン塊内でSCF局所濃度が相対的に高いことが、塊の付近での細胞保持を支援する。Tisseel(登録商標)VHSDは、非常に多数の異なる手術適用において既に用いられており、広範囲の組織接着性および適合性を示すため、様々な態様において、この調製物は患者の多くの異なる部位で適用される。
【0073】
細胞
【0074】
幾つかの態様において、本発明は、サイトカインを含むフィブリン塊を使用して、インビボで修復または再生細胞を傷害または疾患の部位へ動員する方法を包含する。本発明の特定の態様において、修復細胞は、幹細胞である。幹細胞は、生存期間にわたり組織を再生する可能性を有する細胞である。例えば、骨髄(BM)または造血幹細胞(HSC)の示適基準は、1つの細胞を移植してHSCを有さない個体を生存させる能力である。本発明の幾つかの態様において、修復細胞は、骨髄細胞である。骨髄細胞系は、BMにおいて産生された骨髄幹細胞として始動する。様々な態様において、骨髄細胞は、巨核球、赤血球、マクロファージ、好酸球、好中球、および好塩基球をはじめとする複数のタイプの血液細胞に成熟する。更なる態様において、本発明は、骨髄細胞の分化した子孫を包含する。
【0075】
骨髄細胞が誘導する血管新生
【0076】
特定の態様において、本発明は、フィブリン塊およびサイトカインを含む組成物を用いて、インビボで骨髄細胞およびその分化した子孫を動員し、血管新生を誘導する、または血管形成を増大する方法を包含する。成体における血管新生は、創傷の修復および炎症に、そして高度に専門化された機能、例えば子宮内膜の再生に肝要である。過去数年間の重要な知見の1つが、血管新生における異なる細胞型の役割の同定であった。
【0077】
内皮細胞(EC)およびそのBM前駆体と同様に、骨髄球系列のBM由来細胞の異成分からなる集団が、血管新生の工程に寄与する。共通のBM由来前駆体から発生するこれらの細胞集団は、特異的な化学誘引物質により組織へ動員されるまで、末梢血中を循環する。
【0078】
様々な態様において、幹細胞は、サイトカインを含むフィブリン塊へ動員される。特定の態様において、CD34を発現する細胞(CD34+細胞)が、動員される。CD34+細胞は、優勢である未熟な骨髄細胞と、若干の未熟なB細胞とで構成された異成分からなる集団である。CD34+細胞が、虚血性疾患の処置において幹細胞として作用しえないことを示す証拠が、集まりつつある。精製されたCD34+細胞は、主として芽球表現型を示す(90%)。CD34+細胞のおよそ33%は、マーカーであるCD45およびCD11bを共発現する。つまり様々な態様において、CD45を発現する細胞(CD45+細胞)およびCD11bを発現する細胞(CD11b+細胞)が、動員される。CD11b+細胞は、骨髄から発生する骨髄球の前駆細胞であり、血管新生およびリンパ管新生の促進に関与する。本発明の更なる態様において、CD34、CD45、およびCD11bのうちの1つ以上、または組み合わせを発現する細胞が、フィブリン塊へ動員される。
【0079】
用語「血管形成の増大」または「血管新生の誘導」は、本明細書において、血管の網目構造を形成する手段を言い表すために用いられる。血管発生および血管新生は、新しい血管が形成される基本的な工程である。当該技術分野において、血管発生は、前駆細胞(アンギオブラスト)の内皮細胞への分化および原始的な血管網目構造のデノボ形成と定義されるが、血管新生は、既存の血管からの新しい毛細血管の成長と定義される。毛細管形成または内皮管腔形成は、専門的な内皮細胞機能を代表するものであり、連続した管腔を設置するための必要条件である。本発明は、血管形成を増大し、血管新生を誘導または増大する組成物および方法を包含する。
【0080】
血管のデノボ生成が、マウスでの遺伝子アプローチを利用して注意深く検証された。具体的には、新血管形成の重要な一成分が、CD45およびCD11bマーカーを共発現する循環内の骨髄由来単核細胞の動員であることが、実験で示された。
【0081】
別の態様において、CD34のマウス由来均等物である幹細胞抗原−1(Sca−1)を発現する細胞が、動員される。Sca−1は、未熟な造血前駆細胞上で発現されるマウス細胞表面抗原であり、他のマーカーと共に、造血幹細胞を定義する。CD34タンパク質は、早期造血組織および血管関連組織上で発現を示す一回膜貫通型シアロムチンタンパク質のファミリーの一種である。
【0082】
組成物および方法
【0083】
本発明の態様は、再生薬のための組成物および方法を提供する。一態様において、本発明は、生体適合性基質またはフィブリン塊材料およびサイトカインを含む組成物を提供する。特定の態様において、サイトカインは、SDF−1である。別の態様において、サイトカインは、SCFである。
【0084】
フィブリン塊の成分は、所望の制御放出タイプを提供するよう、適切な濃度で添加される。フィブリノーゲンは、非限定的に、約1mg/ml、約2mg/ml、約3mg/ml、約4mg/ml、約5mg/ml、約6mg/ml、約7mg/ml、約8mg/ml、約9mg/ml、約10mg/ml、約11mg/ml、約12mg/ml、約13mg/ml、約14mg/ml、約15mg/ml、約16mg/ml、約17mg/ml、約18mg/ml、約19mg/ml、約20mg/ml、約21mg/ml、約22mg/ml、約23mg/ml、約24mg/ml、約25mg/ml、約26mg/ml、約27mg/ml、約28mg/ml、約29mg/ml、約30mg/ml、約31mg/ml、約32mg/ml、約33mg/ml、約34mg/ml、約35mg/ml、約36mg/ml、約37mg/ml、約38mg/ml、約39mg/ml、約40mg/ml、約41mg/ml、約42mg/ml、約43mg/ml、約44mg/ml、約45mg/ml、約46mg/ml、約47mg/ml、約48mg/ml、約49mg/ml、約50mg/ml、約60mg/ml、約70mg/ml、約80mg/ml、約90mg/ml、約100mg/ml、約150mg/ml、および最大約200mg/ml(ゲル中での最終濃度)をはじめとする様々な濃度、または必要に応じて中間体濃度で提供される。特定の態様において、フィブリノーゲンは、約10mg/mlおよび約20mg/mlの濃度で添加される。
【0085】
更に、フィブリノーゲンは、任意の適切な濃度のトロンビンとひとまとめにされてもよい。トロンビンは、非限定的に、約0.1IU/ml、約0.2IU/ml、約0.3IU/ml、約0.4IU/ml、約0.5IU/ml、約0.6IU/ml、約0.7IU/ml、約0.8IU/ml、約0.9IU/ml、約1.0IU/ml、約1.1IU/ml、約1.2IU/ml、約1.3IU/ml、約1.4IU/ml、約1.5IU/ml、約2IU/ml、約3IU/ml、約4IU/ml、約5IU/ml、約6IU/ml、約7IU/ml、約8IU/ml、約9IU/ml、約10IU/ml、約11IU/ml、約12IU/ml、約13IU/ml、約14IU/ml、約15IU/ml、約16IU/ml、約17IU/ml、約18IU/ml、約19IU/ml、約20IU/ml、約21IU/ml、約22IU/ml、約23IU/ml、約24IU/ml、約25IU/ml、約30IU/ml、約35IU/ml、約40IU/ml、約45IU/ml、約50IU/ml、約60IU/ml、約70IU/ml、約80IU/ml、約90IU/ml、約100IU/ml、約110IU/ml、約120IU/ml、約130IU/ml、約140IU/ml、約150IU/ml、約160IU/ml、約170IU/ml、約180IU/ml、約190IU/ml、約200IU/ml、約225IU/ml、約250IU/ml、約275IU/ml、約300IU/mlをはじめとする様々な濃度、または必要に応じて中間体濃度で添加される。特定の態様において、トロンビンは約2IU/ml、および約4IU/mlの濃度で添加される。
【0086】
幾つかの態様において、本発明の組成物は、約0.001〜約100.0の範囲内の比(トロンビン対フィブリノーゲン比)でフィブリン塊配合剤を含む。別の態様において、トロンビン対フィブリノーゲン比は、約0.01〜約10.0の範囲内である。様々な態様において、比は、約0.04、または約0.05、または約0.11である。本発明は、非限定的に以下のフィブリノーゲン対トロンビン比:約0.001、約0.005、約0.01、約0.02、約0.03、約0.04、約0.05、約0.06、約0.07、約0.08、約0.09、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1.0、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2.0、約2.1、約2.2、約2.3、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、約2.9、約3.0、約3.1、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4.0、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、約5.5、約5.6、約5.7、約5.8、約5.9、約6.0、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、約8.0、約8.1、約8.2、約8.3、約8.4、約8.5、約8.6、約8.7、約8.8、約8.9、約9.0、約9.1、約9.2、約9.3、約9.4、約9.5、約9.6、約9.7、約9.8、約9.9、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約55、約60、約65、約70、約75、約80、約85、約90、約95、および約100、または必要に応じて中間体比を包含する。
【0087】
本発明の特定の態様において、フィブリン塊は、最終濃度約1mg/ml〜約100mg/mlのフィブリノーゲン、および最終濃度約0.5IU/ml〜約250IU/mlのトロンビンを含む。本発明のより特定の態様において、トロンビン(国際単位(IU)または単位(U)/ml)に対するフィブリン塊配合剤(フィブリノーゲンの最終濃度(mg/ml))は、約10mg/2Uおよび約20mg/4Uである。
【0088】
本発明の様々な態様において、合成ポリマーが、フィブリンと混合されて、生分解性ハイブリッド塊または基質を形成することができる。そのような合成ポリマーとしては、非限定的にポリ(ラクチド)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ラクチド・グリコリド共重合体(PLGA)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカルボナート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリラートおよび分解性ポリウレタンなどのポリマー、ならびにポリアクリラート、エチレン・酢酸ビニルポリマーおよび他のアクリル置換された酢酸セルロースなどの非侵食性ポリマー、ならびにそれらの誘導体が挙げられる。
【0089】
一態様において、本発明の組成物は、フィブリン塊およびサイトカインを含む。特定の態様において、本発明の組成物は、フィブリン塊およびSDF−1を含む。別の態様において、本発明の組成物は、フィブリン塊およびSCFを含む。様々な態様において、本発明の組成物は、フィブリン塊、SDF−1およびSCFを含む。
【0090】
別の態様において、本発明は、修復細胞を、手術もしくは傷害の部位または組織修復を必要とする体の部位へ動員することを目的とする、フィブリン塊のインビボでの送達を提供する。一態様において、フィブリン塊およびサイトカインを含む組成物が投与され、サイトカインは約1ng〜約50,000ng/フィブリン塊容積(1mL)の範囲内の濃度である。別の態様において、フィブリン塊およびサイトカインを含む組成物が投与され、サイトカインは約10ng〜約5,000ng/mlフィブリン塊、の範囲内の濃度である。様々な態様において、サイトカインは、フィブリン塊中で、約1ng/ml、約2ng/ml、約3ng/ml、約4ng/ml、約5ng/ml、約6ng/ml、約7ng/ml、約8ng/ml、約9ng/ml、約10ng/ml、約20ng/ml、約30ng/ml、約40ng/ml、約50ng/ml、約60ng/ml、約70ng/ml、約80ng/ml、約90ng/ml、約100ng/ml、約120ng/ml、約140ng/ml、約160ng/ml、約180ng/ml、約200ng/ml、約300g/ml、約400ng/ml、約500ng/ml、約600ng/ml、約700ng/ml、約800ng/ml、約900ng/ml、約1000ng/ml、約1100ng/ml、約1200ng/ml、約1300ng/ml、約1400ng/ml、約1500ng/ml、約1600ng/ml、約1700ng/ml、約1800ng/ml、約1900ng/ml、約2000ng/ml、約2500ng/ml、約3000ng/ml、約3500ng/ml、約4000ng/ml、約4500ng/ml、約5000ng/ml、約5500ng/ml、約6000ng/ml、約6500ng/ml、約7000ng/ml、約7500ng/ml、約8000ng/ml、約8500ng/ml、約9000ng/ml、約9500ng/ml、約10,000ng/ml、約20,000ng/ml、約30,000ng/ml、約40,000ng/ml、および約50,000ng/mlの濃度で投与される。特定の態様において、サイトカインは、最大約100μg/mlおよび約1mg/mlの濃度で投与される。処置されるサイトカインの適切な濃度が、このように一部がフィブリン塊の容積、フィブリン塊が送達される組織部位、フィブリン塊が用いられる適応症、投与経路、ならびに患者のサイズ(体重、体表面積または臓器サイズ)および条件(年齢および一般的健康状態)に応じて変動することは、当業者には理解されよう。したがって医師は、投与量を力価測定して送達される濃度を改良し、最適な治療効果を得てもよい。
【0091】
送達
【0092】
本発明の態様において、該組成物は、複数の手段により患者へ送達される。幾つかの態様において、該組成物は、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、破砕または骨折した骨または軟骨などの組織成分の間へ送達される。別の態様において、該組成物は、静脈内注射により、脳内(実質内)、脳室内、脳脊髄内、眼内、動脈内、関節内、門脈内、直腸内、鼻内、または病巣内経路で、非経口送達される。加えて該組成物は、他の様式、例えば非限定的に腫瘍内、局所、結膜下、膀胱内、膣内、硬膜外、肋骨内、皮内、吸入、経皮、漿膜内、口腔内、口または他の体腔内での融解、気道への点滴注入、気道を通した吹送法、脈管、腫瘍または臓器などへの注射、およびホ乳類の体腔への注射または付着、によるホ乳類への処置に導入することができる。特定の態様において、該組成物は、手術で送達される。
【0093】
別の態様において、組成物の送達は、体内の任意の部位を標的とする。特定の態様において、標的となる体内部位は、神経、肝臓、腎臓、心臓、肺、目、胃腸管の臓器、皮膚、および/または脳の内部にある。一態様において、標的となる体内部位は、虚血の部位である。
【0094】
本発明は、該組成物を対象へ送達するための多くの様々なビヒクルを包含する。一態様において、針およびシリンジによる直接の注射が、利用される。特定の態様において、直接の注射は、対象への注射の直前に、フィブリン塊とサイトカインとをシリンジ中で混合することを包含する。他の態様において、本発明は、混合チャンバー(シリンジと針の間)を使用して混合を増進することを包含する。様々な態様において、本発明は、注入カテーテル(より深部組織への送達用)、表面送達のためのスプレー、または予め生成されたフィブリン塊を移植することによる(組織床内への皮下または深部)、フィブリン塊中のサイトカインの送達を包含する。特定の例において、移植は、注射または手術により実施することができる。
【0095】
所望なら、該組成物は、ボーラス注射により、または輸注により連続して、または移植デバイスにより投与される。あるいは、または追加として、該組成物は、該塊が吸収または包埋された膜、海面、または別の適切な材料の移植により、局所投与される。移植デバイスが用いられる場合、様々な態様において、該デバイスは、任意の適切な組織または臓器へ移植され、該組成物の送達は、拡散、持効性ボーラス、または連続投与によるものであってもよい。
【0096】
特定の態様において、エクスビボの手法で組成物を使用または投与することが所望であってもよい。そのような例において、患者から取り出された細胞、組織、または臓器が組成物に暴露された後、続いてその細胞、組織および/または臓器が患者に再度移植される。
【0097】
本発明の別の態様において、フィブリン塊を持続送達性または制御送達性配合剤中に含む配合剤をはじめとする、該組成物を対象へ送達する更なる方法は、当業者に明白であろう。様々な他の持続送達性または制御送達性手段を配合させる技術は、当業者に公知である。
【0098】
一態様において、対象における送達は、シリンジおよび針を用いた注射により実施される。特定の態様において、送達は、シリンジおよび25ゲージ針を用いて実施される。しかし様々なサイズのシリンジおよび針も、送達に用いられる。様々な態様において、シリンジは、0.5〜100ccのサイズの範囲内であってもよい。しかし、シリンジのサイズは、本発明に関しては限定されない。他のサイズを用いることもできる。更なる態様において、針のサイズは、16〜30ゲージ針の範囲内であってもよい。シリンジと同様に、針のサイズは、本発明に関しては限定されない。
【0099】
特定の態様において、単回ボーラス注射が、シリンジを用いて、静脈輸注または直接注射により与えられる。この投与様式は、適宜、心臓手術、例えば冠動脈バイパス移植手術および/または弁交換手術などを有する患者などの手術患者において所望となる可能性がある。これらの患者において、フィブリン塊の単回ボーラス輸注を、投与することができる。(投与される薬物の量が患者の体重および条件に基づいていて、熟練の実践者により決定されることに留意されたい。)別の態様において、単回注射が、筋肉内に与えられる。当業者により適切であると決定されれば、より短期間または長期間の投与を用いることができる。
【0100】
組成物のより長期間の送達が望ましい場合には、間欠的投与を実行することができる。これらの方法では、当業者により適切であると決定されれば、負荷用量が投与され、続いて(i)第二の負荷用量および維持用量(またはそれを複数回)、または(ii)第二の負荷用量を用いず1回または複数回の維持用量、のいずれかで投与される。
【0101】
様々な態様において、患者における該組成物の更なる送達を実現するために、維持用量(またはそれを複数回)のフィブリン塊が、投与される。維持用量は、負荷用量よりも少ないレベル、例えば負荷用量の約1/6のレベルで投与することができる。維持用量において投与される具体的量は、医療の専門家が決定することができ、フィブリン塊およびサイトカインを含む組成物が少なくとも標的部位で一定期間保持されることが目的である。もちろん、維持用量は、当業者により適切であると決定されれば、この時間枠内の任意の時点で停止することができる。
【0102】
本発明の別の態様において、送達は、カテーテルで実施される。カテーテルによる送達は、当該技術分野で広く入手できる製品(例えば、輸注ポンプおよび管類)を用いることにより実施することができる。これらの方法において使用するカテーテルおよび/または管類の選択を検討するのに重要となる一基準は、フィブリン塊およびサイトカインを含む組成物に対するこれらの製品(またはこれらの製品のコーティング)の材料の影響である。本発明の方法において用いられうる追加のカテーテル関係製品は、製品の材料を薬物投与に用いるのと一致した条件下で、フィブリン塊およびサイトカインを含む組成物を変化させるかどうかを決定することにより、同定することができる。
【0103】
投与量
【0104】
本発明は、様々な投与パラメータの使用を包含する。一態様において、サイトカインは、フィブリン塊mlあたり、または必要とする対象の体重kgあたりで投与される。様々な態様において、対象は、反復投与または複数の処置例を受ける。特定の態様において、高い効果または長期の効果(今後数週間、数ヶ月間、または数年間)のために対象に再投与することができる。投与において、フィブリン塊は、筋肉および/または周辺領域で設定された容積に置き換わる。それゆえ、注射されうるサイトカイン/塊の量をモニタリングすることが、重要となる。一態様において、フィブリン塊あたりの送達される最大サイトカイン量は、用いられるフィブリン塊成分の容積(サイズ)に加え、処置面積および対象のサイズにより規定される。幾つかの態様において、体の大きな対象ほど大きな容積のフィブリン塊に耐容し、望ましいサイトカインの投与量または容量が増加する。
【0105】
処置の適切な投与レベルが、このように一部がフィブリン塊およびサイトカインを含む組成物が送達される組織部位、組成物が用いられる適応症、投与経路、ならびに患者のサイズ(体重、体表面積または臓器サイズ)および条件(年齢および一般的健康状態)に応じて変動することは、当業者には理解されよう。したがって医師は、投与量を力価測定して投与経路を改良し、最適な治療効果を得ることができる。
【0106】
特定の態様において、複数の塊が送達される。本発明の別の態様において、サイトカインを含むフィブリン塊は、複数の時点で投与される。塊の投与の頻度は、複数のパラメータに依存する。典型的には医師は、所望の効果を実現する投与量に到達するまで、組成物を投与する。それゆえ該組成物は、経時的に単回投与または2回以上の投与(同量のサイトカインを含んでいても、または含んでいなくてもよい)により投与してもよい。適切な投与量の更なる精密化は、当業者により日常的に実施されており、医師または当業者により日常的に実施される任務の範囲内である。適切な投与量を、適切な用量反応データの使用により確認してもよい。
【0107】
処置および使用の方法
【0108】
本発明の態様において、サイトカインを含むフィブリン塊は、手術の傷害をはじめとする疾患または傷害から組織損傷または欠損が生じた後に、組織再生または修復のために、インビボで再生または修復細胞を部位へ動員することに用いられる。特定の態様において、サイトカインを含むフィブリン塊は、血管発生を増大する、または血管新生を誘導するのに用いられる。本発明は、サイトカインを含むフィブリン塊の投与によりインビボでの特異的部位で血管形成を増加させることで利益を得られる任意の疾患または状態に、本明細書に記載された組成物を用いることを包含する。例えば血流不足、裂傷、極値の温度、外傷、または代謝もしくは遺伝子疾患による虚血での組織損傷は、フィブリン塊中のサイトカインでの処置から利益を得られる多くの様々な状態または疾患の1つである。他の疾患としては、心臓血管疾患、糖尿病、自己免疫疾患、卒中、脳および/または脊髄損傷、熱傷、骨欠損、腎臓虚血、および黄斑変性が挙げられる。別の態様において、本発明の組成物は、虚血または肝硬変を処置するのに用いられる。様々な態様において、本発明は、傷害もしくは疾患の局在部位を処置する医薬、局在部位での血管形成を増大する医薬、または虚血を処置する医薬を製造するための、フィブリン塊およびサイトカインを含む組成物の使用を包含する。特定の態様において、本発明の組成物は、移植された臓器または組織の血管形成を増大するのに用いられる。移植される臓器としては、非限定的に、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、腸、および皮膚が挙げられる。組織としては、非限定的に、骨、腱、角膜、心臓弁、静脈、および腕が挙げられる。
【0109】
キット
【0110】
更なる態様において、本発明は、フィブリン塊およびサイトカインを含む組成物を調製し、それを、それを必要とする対象に投与するためのキットを包含する。フィブリン塊およびサイトカインを含む組成物は、有利には別個に包装された量のフィブリンシーラントおよぼトロンビンを含むキット形態で提供されてもよい。別の態様において、キットは、別の供給源からのサイトカインを更に含んでいてもよい。あるいはキットは、フィブリン塊中で、またはフィブリン塊およびサイトカインの投与と併せて、送達されうる追加の生物学的薬剤を含むことができる。キットの例示的実施形態において、キットの各成分は、滅菌包装に、または滅菌が許容される包装に、別個に包装されている。フィブリン成分をはじめとする生物学的薬剤、トロンビン成分、またはサイトカインは、容器、例えばガラスまたはプラスチックバイアル中で提供されてもよく、更に、サイトカインまたは他の生物学的化合物を保持するのに適した液体貯蔵媒体中で運搬または懸濁されてもよい。キットは、任意に、フィブリン塊を対象に導入するための1つ以上のシリンジ、カテーテル、または他の送達装置を更に含んでいてもよい。キットは任意に、それぞれがフィブリン塊に添加されうる医薬剤を貯蔵する、1つ以上の追加の容器を更に含んでいてもよい。キットは、例えばフィブリン塊を製造および使用するための印刷された使用説明書を更に含む。キットの要素は全て、箱または他の適切な包装中で適切な量で一緒に提供される。
【0111】
本明細書に引用された各発行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、本発明の開示と矛盾しない程度に、全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0112】
本明細書に記載された実施形態が例示目的に過ぎないこと、ならびにそれを考慮した様々な改良または変更が当業者に示唆され、本願の主旨および権限、ならびに添付の特許請求の範囲に含まれることは、理解されよう。
【実施例】
【0113】
本発明を、以下の非限定的実施例を参照しながらより詳細に記載するが、それらは本発明をより完全に例示するために提示されており、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。これらの実施例に記載された技術が、本発明の実践において十分に機能するように本発明人により記載された技術を表わしており、それ自体が実践するための好ましい様式を構成していることは、当業者には理解されよう。しかし、本発明の開示を考慮して、本発明の主旨および範囲を逸脱することなく、開示される具体的方法に多くの変更を施すことができ、類似または同様の結果を得ることができるのを、当業者は理解しなければならない。
【0114】
実施例1:
SDF−1はTisseel(登録商標)VHSDへのアフィニティーを有する
この実験の目的は、Tisseel(登録商標)VHSDに対するSDF−1のアフィニティーを測定することであった。フィブリンシーラント/塊成分であるTisseel(登録商標)VHSDと、組換えヒトSDF−1α(rhSDF−1α)との複雑な相互作用を、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて実時間で検査した。このアッセイにおいて、Tisseel(登録商標)のフィブリンシーラントタンパク質成分(FC)のリシン残基と金センサーチップの間の共有結合を介して、チップをTisseel(登録商標)のFCでコーティングした(Tisseel(登録商標)のFCは、フィブリノーゲンフィブロネクチンとアルブミンと他のタンパク質との混合物を含む)。センサーチップ上にpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を流すことによりセンサーチップをPBSで平衡化し、ベースラインを作成した。PBSを0.1ml/分で5種の濃度のrhSDF−1α(約10nM〜約250nMの範囲内)の注入液と交換して、会合、および結合の平衡相を試験した。組換えhSDF−1αを7分間かけてセンサーチップ上を通過させた後、注入を停止して、pH7.4のPBSの流れと交換した。相互作用の解離相を、更なる7分間に観察した。rhSDF−1αがFCから自己解離したため、注射間に再生は必要とならなかった。1つの濃度のrhSDF−1αが結合してFCから放出された後、別の濃度を検査した。一連のセンサグラムデータを、GraphpadによるPrism 4.0を用いた結合相互作用モデルにあてはめることにより、データを解析した。
【0115】
得られたセンサグラム(図1a)は、SDF−1α結合FCの結果としての経時的な屈折率の変動を示しており、SDF−1αがTisseel(登録商標)VHSDのFCに対して有意なアフィニティーを有することが示される。SPRを用いて同様の実験を実施して、組換えヒトSDF−1β(rhSDF−1β)とFCとの相互作用を検査した。新しい金センサーチップをFCでコーティングして、接近し易いFCリシン残基を介してチップに共有結合させた。先に示された実験と同様に、PBSをセンサーチップの上に流してそれを平衡化し、安定したベースラインを作成した。PBSを0.1ml/分で5種の濃度のrhSDF−1β(約25nM〜約500nMの範囲内)の注入液と交換して、会合、および結合の平衡相を試験した。組換えhSDF−1βを7分間かけてセンサーチップ上を通過させた後、注入を停止して、pH7.4のPBSの流れと交換した。相互作用の解離相を、更なる7分間に観察した。rhSDF−1βがFCから自己解離したため、rhSDF−1βの注射間に再生は必要とならなかった。一連のセンサグラムデータを、GraphpadによるPrism 4.0を用いた結合相互作用モデルにあてはめることにより、データを解析した。
【0116】
得られたセンサグラム(図1b)は、SDF−1β結合FCの結果としての経時的な屈折率の変動を示しており、SDF−1βがTisseel(登録商標)VHSDのFCに対して有意なアフィニティーを有することが実証される。
【0117】
実施例2:インビトロでのSDF−1放出の反応速度を決定するためのフィブリン塊の調製
この試験の目的は、インビトロでのSDF−1放出の反応速度を決定することであった。フィブリン塊を、フィブリン希釈緩衝液(FDB)で20mg/mlフィブリノーゲンに希釈されたFC125μl、およびSDF−1α 4000ngで調製した。FDBは、3000KIU/mlアプロチニン、25mMクエン酸ナトリウム、48mM塩化ナトリウム、333mMグリシン、および15g/Lヒト血清アルブミンを含有する。SDF−1αおよびトロンビン(4Uを125μl)をFCに添加して、塊を形成させた。塊の最終濃度は、10mg/mlフィブリノーゲン、2000ng SDF−1αおよび2U トロンビンであった。フィブリン塊(ゲル)を25℃で重合させた後、PBS中の0.1%ヒト血清アルブミン 250μlで洗浄した。ゲルをPBS中の0.1%ヒト血清アルブミン 250μlで覆い、25℃で1〜7日間インキュベートした。1日目に、上清を3つのフィブリン塊から取り出した。上清を−20℃で貯蔵して、塊を廃棄した。2日目に、上清を3つの更に別のゲルから採取した。7日目に最後のゲルから上清が採取されるまで、この工程を新しい3つのゲルで繰り返し行った。図2は、7日間にわたるTisseel(登録商標)VHSDゲルでのフィブリン塊からのSDF−1αの累積放出量を示す。SDF−1α濃度は、製造元(R&D Systems、ミネソタ州ミネアポリス)からの使用説明書に従ってELISAを用いて決定した。SDF−1αの平均放出量は、6ng(1日目)〜累積放出量100ng(7日目)の範囲内であり、フィブリン塊に添加されたSDF−1αの初期量(100ng/2000ng×100%)のわずか5%を占めていた。これらの結果から、SDF−1を含有するフィブリン塊が両者とも、SDF−1を放出および保持することが実証される。インビボでのこれらの放出反応速度は、7〜8日間にわたり実施するTisseel(登録商標)VHSDの分解により影響を受ける可能性がある。
【0118】
実施例3:
CD45およびCD11b:分化および内皮管腔形成
この試験の目的は、内皮細胞の存在下でCD34+骨髄細胞の血管新生および分化能を試験することであった。この試験から、CD34+細胞およびその分化した子孫が両者とも、この血管新生アッセイにおいて血管新生促進性であることが示された。つまり特定の環境において、Tisseel−SDF−1は、より成熟した細胞(より分化した細胞)およびより成熟していない細胞(より分化していない細胞)の両方を動員する能力が明瞭に実証される。
【0119】
CD34+細胞を臍帯血から単離して、インビトロ管腔形成アッセイにおいてサイトスピン、フローサイトメトリー分析、およびMatrigelを用いて評価した。新たに単離されたCD34+細胞は、サイトスピンおよびフローサイトメトリー分析により、それぞれ芽球を約91%およびCD34+細胞を約85%含んでいた。加えて、その細胞をCD34/CD11b/CD45マーカーについて染色すると、およそ33%が+++を表わした。その後、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)でのMatrigel管腔形成共培養アッセイを用いて、細胞の血管新生能力を評価した。
【0120】
アッセイでは、HUVECをMatrigel上に播種して、7日間、培地を交換せずに成長させた。CD34+細胞の存在下および非存在下での内皮管腔形成を、位相差顕微鏡撮影の下で検査して、画像を24時間目および7日目に撮影した(図3a)。HUVEC単独では脈管の構造を維持できなかったが、CD34+細胞と共培養されたHUVECは少なくとも1週間は脈管構造を維持した(図3aの右下図を参照)。
【0121】
先に記載された血管新生(共溶媒)アッセイに加えて、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を含むMyelocult分化培地中のCD34+細胞を、17日間成長させた。17日の終了時に、CD34+細胞は、より分化して、サイトスピンおよびフローサイトメトリー分析によれば、芽球を約5〜7%、CD34+を約3〜12%含み、そして約75%がCD11b/CD45分化マーカーで++となった。このより分化した細胞集団を血管新生促進活性について評価したところ、この集団も分化の進んでいないCD34+細胞と同様の手法で、少なくとも1週間の培養で、内皮管腔形成を維持することができた。両方の例で、骨髄細胞の集団は両者とも、血管新生促進性であった(図3b参照)。理論に束縛されるものではないが、SDF−1を用いたより分化した骨髄球集団を動員するTisseel−SDF−1の能力が、インサイチュでの新血管形成を増大する可能性があると思われる。
【0122】
実施例4:
Tisseel SDF−1αおよびTisseel−SCF−1を用いたインビボでの修復細胞の動員および保持
この試験の目的は、Tisseelを用い、SDF−1αを有し、または有さずにインビボでの修復細胞の動員および保持を検査することであった。SDF−1α(300ng)を有するTisseel塊(Tisseel−SDF−1α)および有さないTisseel塊(Tisseel)(300ng)を、マウスの後肢に皮下移植した。各マウスは、一方の肢にTisseelの移植片を受け、他方の肢にTisseel−SDF−1αの移植片を受けることで、両肢にTisseel塊移植片を受けた。移植後1日目、2日目、3日目、および4日目に、Tisseel塊をマウスから回収した。塊に遊走したCD34+細胞を、トリプシンEDTA消化処理を利用して除去した。CD45、CD11b、およびSca−1を発現したTisseel移植片から回収された細胞の数を、蛍光活性化細胞選別(FACS)を利用して定量した。
【0123】
この実験の結果(図4a)から、CD45およびCD11b(CD45/11b+)を共発現する細胞が、SDF−1を有さない塊よりもより多くのTisseel−SDF−1塊へ動員されたことが示される。同様にTisseel−SDF−1は、CD34のマウス由来均等物であるSca−1を発現する細胞をより多く動員した(図4c参照)。4つの時点全てで、統計解析(ANOVA)により、細胞数の増加がCD45/11b+集団で統計学的に有意であったことが示される。具体的にはP値は、Sca−1+集団で0.002であり、CD45およびCD11bを共発現した細胞(CD45/11b+)で0.003であった。
【0124】
移植片の代わりに筋肉(i.m.)注射により投与されたTisseel(登録商標)+SDF−1αでも、マウス後肢試験を実施した。これらの試験では、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)+細胞を、ドナーマウス(EGFP+C57BL/6トランスジェニックマウス(Jackson Labs))の大腿骨および脛骨の骨髄(BM)から単離した。これらのトランスジェニックマウスは、毛髪および赤血球を除く全ての細胞においてEGFPを構成的に発現する。EGFP+BM細胞(500万個)を、尾静脈注射によりレシピエントである非EGFP+マウスに注射した。レシピエントマウスを2日目および4日目に殺処分し、i.m.注射部位を取り出し、消化させて、EGFP+、CD45+、およびCD11b+細胞の存在に関して評価した。図4bの結果から、2日目および4日目に、SDF−1αを含有するi.m.注射部位では、SDF−1αを含有しないi.m.注射部位(Tisseel(登録商標)対照:PBS/0.1%BSA)よりも高い割合のEGFP+、CD45+、およびCD11b+細胞が検出されたことが示される。
【0125】
移植片の代わりに筋肉(i.m.)注射を介して投与されたTisseel(登録商標)+SCFについても、マウスの後肢試験を実施した。これらの試験で、マウスは、一方の後肢にi.m.注射を受けた(SCF(300ng)含有Tisseel(登録商標)50μl)。対照マウスは、一方の後肢に、SCFを含有しないTisseel(登録商標)(50μl)のi.m.注射を受けた。後肢注射に続いて、マウスは、SDF−1α実験に関して本明細書の先に記載された通り、EGFP骨髄細胞(500万個)を受けた。レシピエントマウスを2日目および4日目に殺処分し、i.m.注射部位を取り出し、消化させて、EGFP+およびSca−1+細胞の存在に関して評価した。この実験の結果から、処置動物では、対照よりも高い割合のEGFP+Sca−1+細胞を検出する可能性があることが示され、Tisseel(登録商標)中のSCFがインビボでより多い再生および/または修復細胞の動員および保持を支援することが示される。
【0126】
本発明を、本発明を実践するための具体的様式を含むことが見出された、または提案された特定の実施形態に関して記載した。本発明の範囲および主旨を逸脱せずに、記載された発明の様々な修正および変更が、当業者に明白となろう。本発明を具体的実施形態に関連して記載したが、請求された発明がそのような具体的実施形態に不当に限定されるべきでないことは理解されるはずである。事実、関連分野の当業者に自明である、本発明を実施するために記載された様式の様々な修正は、以下の特許請求の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリン塊およびサイトカインまたはサイトカインの組み合わせを含む組成物。
【請求項2】
サイトカインがストローマ由来因子−1(SDF−1)および幹細胞因子(SCF)からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
サイトカインがSDF−1である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
サイトカインがSCFである、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
サイトカインの組み合わせがストローマ由来因子−1(SDF−1)および幹細胞因子(SCF)を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
フィブリン塊が任意のフィブリン系止血剤またはシーラントを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
フィブリン塊がTisseel(登録商標)またはTisseel(登録商標)VHSDである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
フィブリン塊が最終濃度約1mg/ml〜約100mg/mlのフィブリノーゲンおよび最終濃度約0.5IU/ml〜約250IU/mlのトロンビンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
フィブリン塊が最終濃度約10mg/mlのフィブリノーゲンおよび最終濃度約2IU/mlのトロンビンを含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
リン酸緩衝液またはリン酸緩衝生理食塩水溶液を更に含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
最終濃度約1.0ng/ml〜約50,000ng/mlのSDF−1を含む、請求項2記載の組成物。
【請求項12】
最終濃度約10ng/ml〜約5,000ng/mlのSDF−1を含む、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
最終濃度約1.0ng/ml〜約50,000ng/mlのSCFを含む、請求項2記載の組成物。
【請求項14】
最終濃度約10ng/ml〜約5,000ng/mlのSCFを含む、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
フィブリン塊およびサイトカインまたはサイトカインの組み合わせを含む組成物を調製する方法であって、サイトカインまたはサイトカインの組み合わせをトロンビンと混合するステップ、および前記サイトカインおよびトロンビンをフィブリノーゲンに添加してフィブリン塊組成物を形成させるステップを含む、方法。
【請求項16】
サイトカインがストローマ由来因子−1(SDF−1)および幹細胞因子(SCF)からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
修復細胞を、それを必要とする対象の傷害または疾患の局在部位へ動員および保持する方法であって、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物を前記傷害または疾患の部位へ、修復細胞を傷害部位へ動員および保持するのに効果的となる量、送達するステップを含む、方法。
【請求項18】
修復細胞が幹細胞である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
修復細胞が骨髄細胞およびその分化した子孫である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
修復細胞がCD34(CD34+)、CD45(CD45+)、またはCD11b(CD11b+)に陽性である、請求項17記載の方法。
【請求項21】
修復細胞がCD34(CD34+)、CD45(CD45+)、およびCD11b(CD11b+)のうちの1種以上に陽性である、請求項17記載の方法。
【請求項22】
それを必要とする対象の傷害または疾患の局在部位を処置する方法であって、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物を前記傷害または疾患の部位へ、前記傷害または疾患を処置するのに効果的となる量、送達するステップを含む、方法。
【請求項23】
それを必要とする対象の傷害または疾患の局在部位で血管形成を増大する、または血管新生を誘導する方法であって、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物を前記傷害または疾患の部位へ、血管形成を増大する、または血管新生を誘導するのに効果的となる量、送達するステップを含む、方法。
【請求項24】
対象における虚血を処置する方法であって、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物を虚血の部位へ、虚血を処置するのに効果的となる量、送達するステップを含む、方法。
【請求項25】
(a)フィブリノーゲンを含む第一のバイアルまたは第一の貯蔵容器と;
(b)トロンビンを含む第二のバイアルまたは第二の貯蔵容器と;
(c)サイトカインまたはサイトカインの組み合わせを含む第三のバイアルまたは第三の貯蔵容器と、を含み、
リン酸緩衝液および使用説明書を任意に含む、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物を調製するためのキット。
【請求項26】
医薬の製造における、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項27】
修復細胞を傷害または疾患の局在部位へ動員および保持するための医薬の製造における、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項28】
傷害または疾患の局在部位を処置する医薬の製造における、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項29】
傷害または疾患の局在部位で血管形成を増大する、または血管新生を誘導する医薬の製造における、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項30】
虚血を処置するための医薬の製造における、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公表番号】特表2013−516295(P2013−516295A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548203(P2012−548203)
【出願日】平成23年1月10日(2011.1.10)
【国際出願番号】PCT/US2011/020660
【国際公開番号】WO2011/085301
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】