説明

再生セルロースゲル及び低分子ケイ酸ナトリウム由来の複合材料の製造方法

【課題】比較的安価な無機ケイ酸塩をシリカの前駆体として用いて、セルロースとシリカ系材料の特性を併せ持つナノ複合材料の製造方法の提供。
【解決手段】 (i)含水率80%以上の再生セルロースゲル;及び(ii)低分子ケイ酸ナトリウム;由来の複合材料の製造方法であって、(A−1)前記再生セルロースゲルを準備する工程;(A−2)前記低分子ケイ酸ナトリウムの水溶液に、前記再生セルロースゲルを浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムが含浸された再生セルロースゲルを得る工程;(A−3)上記(A−2)で得られたゲルを無機酸水溶液に浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムを脱水縮合することによりシリカとする工程;及び(A−4)上記(A−3)で得られたゲルを水洗後、乾燥する工程;を有する、上記方法により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ状、特にその直径がナノメートルオーダーである、微細化した再生セルロースの繊維で形成される網目の空隙に、低分子ケイ酸塩由来のシリカが充填された複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豊富な天然有機資源であるセルロースは、天然の結晶構造と微細構造を保ったままで繊維や紙として利用されるほか、溶剤に溶かし成型後に凝固させた再生セルロースとしても有用である。セルロース溶剤としてはビスコース法や銅安法が古くから利用されてきたが、これら以外の溶剤の開発も不断に行われている。その中にはビスコース法や銅安法にはない特徴を持つプロセスが見つかっている。
【0003】
近年発見されたアルカリ−尿素−水系溶剤(非特許文献1)、及び塩化リチウム−ジメチルスルホキシド系溶剤(非特許文献2)は、従来の溶剤と異なり、非溶剤接触による凝固に際してほとんど収縮せず、高度に膨潤したセルロースゲルを与える。これらのゲルは水洗後乾燥するとセロハンとほぼ同等の透明フィルムを与える。セロハンは制電性包装材料や透析膜として有用であるが、合成高分子フィルムと比べると耐水性に欠けるという弱点がある。
【0004】
この弱点を補う手法として異種材料との複合化、とくに無機物との複合化が考えられる。無機物として有力なものに、大量に存在し安価な材料であるケイ酸化合物がある。代表としてシリカ(石英)やガラスが挙げられる(以下「シリカ系材料」と記す)。シリカ系材料は一般に強度と剛性が高いが、反面脆く、柔軟性に欠ける。そこで、シリカ系材料と有機高分子を複合化した材料は、両者の特性が組合わされた有用な材料となり得る。
【0005】
しかし、シリカと有機高分子では溶解性や熱溶融性が非常に異なるため、両者の複合化には特別の工夫が必要である。従来多数試みられてきた手法として、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS、別名テトラエトキシシラン)などの有機ケイ酸エステルの加水分解−縮合によるシリカ合成、すなわち「有機ゾルゲル法」において、反応系に分子分散した有機高分子を共存させる手法がある。例として非特許文献3、4、特許文献1が挙げられる。
【0006】
しかし、これらの手法は、有機ケイ酸エステルという比較的高価な原料を用い、非水溶剤中で脱水、次いで縮合を行わせるものであり、反応に精密かつ長時間の条件制御を必要とすることから、大量汎用材料の調製に適していなかった。
なお、水ガラスを用いてセルロース−シリカ複合材料を調製する技術として特許文献2がある。これは銅アンモニア液をセルロース溶剤として用い、そのセルロース溶液に水ガラスを混和してから凝固させるというものである。特許文献2の発明者らは、この目的には銅アンモニア液のみが適するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−012146号公報。
【特許文献2】特開2006−316128号公報。
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Polymer Journal, Vol. 32 (10) 866-870 (2000)。
【非特許文献2】Journal of Wood Chemistry and Technology, Vol. 30 (3) 219-229 (2010)。
【非特許文献3】安藤慎治 「ポリイミド・ナノハイブリッド系光学材料の開発と応用」。http://www.op.titech.ac.jp/polymer/lab/sando/Syllabus/Materials_Science_Ando.pdf。
【非特許文献4】中條善樹 「有機─無機ナノハイブリッド材料の創製」。http://www.hosokawalab.jp/micromeritics/no_50/pdf/No50_03.pdf。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、比較的安価な無機ケイ酸塩をシリカの前駆体として用いて、大量汎用材料の調製に適する、セルロースとシリカ系材料の特性を併せ持つナノ複合材料の製造方法を提供することにある。特に、本発明の目的は、従来にはない製法を提供するか、又は安価・安全・環境適合性の点で実用的意義がある、セルロースとシリカ系材料の特性を併せ持つナノ複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、複合材料のセルロース成分として、特定のセルロース溶剤から凝固再生して得られるセルロースゲルがとくに有用であることを見出した。すなわち、セルロース溶液から溶媒組成の変化によって不溶化した再生セルロースを水系ゲル(ヒドロゲル)として用意し、そのナノオーダー空隙にシリカ前駆体の水溶液を導入してから化学処理を施して、前記シリカ前駆体をシリカに転換し、次いで全体を乾燥して密実固体とすることによって、セルロースゲルの空隙にシリカが充填されたナノ複合材料を提供する。見方を変えれば、この材料は密実シリカ相の中にセルロース微細繊維が埋め込まれた複合材料である。
【0011】
なお、セルロースゲルの形成と水溶性シリカ前駆体のナノオーダーでの混合と相互配置は、上述のようにセルロースゲルへのシリカ前駆体の含浸によるほか、ゲル前駆体であるセルロース溶液とシリカ前駆体溶液とを混合しておき、非溶剤との接触によってセルロース及びシリカ前駆体を同時に不溶化することによっても達成できる。
具体的には、本発明者らは、以下の発明を見出した。
【0012】
<1> (i) 含水率60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の再生セルロースゲル;及び
(ii) 低分子ケイ酸ナトリウム;
由来の複合材料の製造方法であって、
(A−1) 前記再生セルロースゲルを準備する工程;
(A−2) 前記低分子ケイ酸ナトリウムの水溶液に、前記再生セルロースゲルを浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムが含浸された再生セルロースゲルを得る工程;
(A−3) 上記(A−2)で得られたゲルを無機酸水溶液に浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムを脱水縮合することによりシリカとする工程;及び
(A−4) 上記(A−3)で得られたゲルを水洗後、乾燥する工程;
を有する、上記方法。
【0013】
<2> 上記<1>において、(A−3)工程前に、(A−5)ゲルを低級アルコールに浸漬する工程;を有するのがよい。なお、低級アルコールとして、メタノール、エタノール、又はプロパノールを挙げることができる。
<3> 上記<1>の(A−3)工程において、無機酸水溶液に低級アルコールを混合させた混合液に、ゲルを浸漬する工程;を有するのがよい。なお、低級アルコールは、上述したものと同じである。
【0014】
<4> (i’) 水系のセルロース溶液;及び
(ii) 低分子ケイ酸ナトリウム;
由来の複合材料の製造方法であって、
(B−1) セルロース溶媒として、苛性アルカリと尿素との水溶液を用いるセルロース溶液を準備する工程;
(B−2) 前記セルロース溶液に低分子ケイ酸ナトリウムを混和する工程;
(B−3) 前記(B−2)で得られた液をフィルム状に成型した後、無機酸水溶液に浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムを脱水縮合することによりシリカとする工程;及び
(B−4) 上記(B−3)で得られたゲルを水洗後、乾燥する工程;
を有する、上記方法。
【0015】
<5> 上記<4>の(B−3)工程において、無機酸水溶液に代えて、無機酸水溶液に低級アルコールを混合させた混合液に浸漬する工程;を有するのがよい。なお、低級アルコールは、上述したものと同じである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、比較的安価な無機ケイ酸塩をシリカの前駆体として用いて、大量汎用材料の調製に適する、セルロースとシリカ系材料の特性を併せ持つナノ複合材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】比較例であるC−0(セルロース単独ゲルフィルムB−0を風乾したもの)の破断面についてのSEM像を示す。
【図2】実施例であるC−4(セルロース−シリカ複合フィルム)の破断面についてのSEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本願は、出発材料の違いにより、2種の製法、<A.再生セルロースゲルを用いる方法>及び<B.セルロース溶液を用いる方法>、を提供する。いずれも、複合材料の出発原料の1つとして、(ii)低分子ケイ酸ナトリウム;を用いる製造方法である。
【0019】
<A.再生セルロースゲルを用いる方法>
本発明の第1の面として、再生セルロースゲルを出発原料として用いる製造方法を提供する。
該方法は、
(A−1)含水率60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の再生セルロースゲルを準備する工程;
(A−2)低分子ケイ酸ナトリウムの水溶液に、再生セルロースゲルを浸漬し、低分子ケイ酸ナトリウムが含浸された再生セルロースゲルを得る工程;
(A−3)上記(A−2)で得られたゲルを無機酸水溶液に浸漬し、低分子ケイ酸ナトリウムを脱水縮合することによりシリカとする工程;及び
(A−4)上記(A−3)で得られたゲルを水洗後、乾燥する工程;
を有する。
【0020】
(A−1)工程は、再生セルロースゲルを準備する工程である。再生セルロースゲルは、従来公知の手法により得ることができる。
例えば、セルロースを、1.0〜12重量%、好ましくは2〜8重量%となるように、溶媒に溶解し、得られた溶液を、例えばガラスなどの基板上に一定厚さに流延成型し、その後、凝固浴に浸漬し、水洗することにより含水率60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の再生セルロースゲルを得ることができる。
【0021】
セルロースを溶解する溶媒として、a)ビスコース液、b)銅アンモニア液、または銅エチレンジアミン液、及びc)N-メチルモルホリンオキシド(NMMO)一水和物がある。また、特殊用途、あるいは実用化を目指して開発中のものに、d)チオシアン酸カルシウム濃厚水溶液、e)塩化リチウム-ジメチルアセトアミド(DMAc)溶液、f)苛性アルカリ−尿素水溶液、及びg)塩化リチウム−ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液がある。
本願の<A.再生セルロースゲルを用いる方法>では、これらのいずれをも利用できるが、取扱いの容易さ、及び溶液からのセルロースの凝固再生時に収縮が少なく、膨潤度の高いゲルを与える点で上記d〜gが好適である。さらにセルロースの溶解が迅速であり、使用薬品の環境負荷が低い点でf及びgが特に好適である。
【0022】
このようにして得られた、含水率60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上のセルロースヒドロゲルは、高空隙率(含水率)でありながら強度が高く、以降の物理的、化学的処理に適する。
【0023】
(A−2)工程は、低分子ケイ酸ナトリウムの水溶液に、上記(A−1)工程で得られた再生セルロースゲルを浸漬し、低分子ケイ酸ナトリウムが含浸された再生セルロースゲルを得る工程である。
低分子ケイ酸ナトリウムとは、ケイ素原子に3個ないし4個の酸素原子が結合した陰イオンにナトリウムイオンが対イオンとして結合した化合物、及びそれらが部分的に縮合した化合物のことをいい、具体的には、ケイ酸ナトリウム(水溶液が「水ガラス」として供給される)、及びメタケイ酸ナトリウム(NaSiO・9HO粉末として供給され、水に易溶)を挙げることができる。
上記(A−1)工程で得られた再生セルロースゲルは通常、50nm以上の空隙を持つ連通孔構造を有するので、ゲルを低分子ケイ酸ナトリウムの水溶液に浸漬すれば、低分子溶質である低分子ケイ酸ナトリウム、即ちシリカ前駆体は容易にゲル内に拡散浸透し、低分子ケイ酸ナトリウムが含浸された再生セルロースゲルを得ることができる。
【0024】
(A−3)工程は、上記(A−2)工程で得られたゲルを無機酸水溶液に浸漬し、低分子ケイ酸ナトリウムを脱水縮合することによりシリカとする工程である。
無機酸水溶液とは、塩酸、硫酸、硝酸、またはリン酸水溶液のことをいい、具体的には、20%硫酸を挙げることができる。
なお、後述の(A−5)工程の「低級アルコール」に浸漬する工程を、(A−3)工程と同時に行ってもよい。この場合、低級アルコールを無機酸水溶液に混合するのがよい。なお、低級アルコールは、後述する。低級アルコールと無機酸水溶液との混合比は、用いる低分子ケイ酸ナトリウム、用いる再生セルロースゲルに依存するが、アルコール含量が20から80重量%であるのがよい。また、無機酸水溶液は5から30重量%の硫酸、または3から15重量%の塩酸であるのがよい。
(A−3)工程において、ミクロ状、特にその直径がナノメートルオーダーである、微細化した再生セルロースの繊維で形成される網目の空隙に、低分子ケイ酸塩由来のシリカが充填された状態を形成することができる。
【0025】
(A−3)工程前に、(A−5)ゲルを低級アルコールに浸漬する工程;を有するのがよい。なお、低級アルコールとして、メタノール、エタノール、又はプロパノールを挙げることができる。
低分子ケイ酸ナトリウムが含浸された再生セルロースゲルを、上述の無機酸水溶液に直接浸漬すると、急速な中和反応によってシリカ前駆体がゲル外に溶出して失われやすい。この挙動を防止するには、まず前述のゲルを低級アルコールに浸漬して、シリカ前駆体をゲル内で微小な粒子として析出させる手法が有効である。その後に、ゲルを上記(A−3)工程で酸処理するならば、シリカ前駆体をセルロースゲル内にとどめたままシリカとすることができる点でよい。なお、上述のように、無機酸水溶液に低級アルコールを添加したものに、低分子ケイ酸ナトリウムが含浸された再生セルロースゲルを浸漬する手法も好適に用いることができる。
【0026】
(A−4)工程は、上記(A−3)工程で得られたゲルを水洗後、乾燥する工程である。この工程により、(i)再生セルロースゲル;及び(ii)低分子ケイ酸ナトリウム;由来の複合材料を得ることができる。
【0027】
<B.セルロース溶液を用いる方法>
本発明の第2の面として、(i’)水系のセルロース溶液を出発原料として用いる製造方法を提供する。
該方法は、
(B−1) 溶媒として、苛性アルカリと尿素との水溶液を用いるセルロース溶液を準備する工程;
(B−2) 前記セルロース溶液に低分子ケイ酸ナトリウムを混和する工程;
(B−3) 前記(B−2)で得られた液をフィルム状に成型した後、無機酸水溶液に浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムを脱水縮合することによりシリカとする工程;及び
(B−4) 上記(B−3)で得られたゲルを水洗後、乾燥する工程;
を有する。
この方法は、上述の特許文献2に開示も示唆もなされていない方法である。この方法、特に、(a)苛性アルカリと尿素との水溶液を溶媒として用いる手法は、安価・安全・環境適合性の点で実用的意義が大きい。
【0028】
(B−1)工程は、セルロース溶液を準備する工程である。上述のf)苛性アルカリ−尿素水溶液を溶媒として用いて、セルロースが、1.0〜12重量%、好ましくは2〜8重量%となるように、溶解し、セルロース溶液を得る。
【0029】
(B−2)工程は、セルロース溶液に、低分子ケイ酸ナトリウムを混和する工程である。低分子ケイ酸ナトリウムは、上述した通りである。低分子ケイ酸ナトリウムは、水溶液として混和してもよい。この場合、その濃度は、用いるセルロース溶液にも依存するが、1重量%〜30重量%であるのがよい。
【0030】
(B−3)工程は、前記(B−2)で得られた液をフィルム状に成型した後、無機酸水溶液に浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムを脱水縮合することによりシリカとする工程である。
(B−3)工程では、液中でセルロースと低分子ケイ酸ナトリウムとが混和することにより、上述の(A−3)工程と同様に、セルロースの繊維で形成される網目の空隙に、低分子ケイ酸塩由来のシリカが充填された状態を形成することができる。
なお、(B−3)工程において、無機酸水溶液に代えて、無機酸水溶液に低級アルコールを混合させた混合液に浸漬する工程;を有するのがよい。なお、低級アルコールは、上述したものと同じである。このように、無機酸水溶液に低級アルコールを添加することにより、(A−5)工程で同様な効果を得ることができる。
【0031】
(B−4)工程は、上記(B−3)工程で得られたゲルを水洗後、乾燥する工程である。この工程により、(i’)水系のセルロース溶液;及び(ii)低分子ケイ酸ナトリウム;由来の複合材料を得ることができる。
【0032】
本発明の製造方法で得られた複合材料は、ガラスと同様に透明で、かつ一定の靭性と柔軟性を持つ構造材料として、例えば熱膨張率の低い透明電子基板などに応用することができる。
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
<A.セルロースゲルA−1の調製>
塩化リチウム4.6重量%、尿素15.0重量%の水溶液95gを調製し、冷凍庫で−15℃に冷却した。該水溶液にアドバンテック(株)製「ろ紙パルプ」絶乾5gを投入して撹拌し、セルロースを溶解させて5%セルロース溶液を得た。該セルロース溶液をガラス板上に1mm厚に流延し直ちに純エタノールに浸漬してセルロースを凝固させ、十分に水洗して、含水率85重量%のセルロースゲルシートA−1を得た。
【0034】
<B.セルロースゲルとシリカの複合化>
水ガラス(和光純薬製 ケイ酸ナトリウム水溶液、固形分55−57%)を水で希釈して固形分1%、2%、3%、5%の水溶液を用意し、各々にA−1を1時間浸漬して、水ガラス含浸セルロースゲルシートを得た。これを2モル硫酸に1時間浸漬し、水洗してセルロース−シリカ複合ゲルフィルムB−1〜B−4を得た。比較用のセルロース単独ゲルフィルムをB−0(セルロースゲルシートA−1と同じ)とした。
【0035】
<C.セルロース−シリカ複合ゲルの乾燥による密実フィルムの調製>
B−0〜B−4を金属製の枠に挟んで収縮を防ぎつつ風乾し、透明フィルムC−0〜C−4を得た。これらは表1に示す特性を与えた。
表1より、シリカとの複合化によりセルロースフィルムの透明度と耐水性が顕著に改善されることがわかる。
【0036】
【表1】

【0037】
また、上記C−0(セルロース単独ゲルフィルムB−0を風乾したもの)及びC−4(セルロース−シリカ複合フィルム)について、SEM像を観察した。その結果を図1及び図2に示す。図1はC−0の破断面についてのSEM像を、図2はC−4の破断面についてのSEM像を示す。図1及び2、特に図2から、シリカ微粒子がセルロースと均一に混和していることがわかる。
【実施例2】
【0038】
実施例1<B>において、ケイ酸ナトリウムの代りにメタケイ酸ナトリウム九水和物(和光純薬製)水溶液(無水メタケイ酸ナトリウムとしての重量濃度:2.15%、5%、10%、15%)を用い、凝固浴として2モル硫酸の代りに体積比1:2のエタノール:2モル硫酸混合液を用いてケイ酸アニオンを析出と同時に縮合させてシリカに転換し、水洗、乾燥してセルロース−シリカ複合ゲルフィルムD−1〜D‐4を得た。これらは表2に示す特性を与えた。
表2より、シリカとの複合化によりセルロースフィルムの透明度が改善されたことが分かる。
【0039】
【表2】

【実施例3】
【0040】
実施例1のAで用いたのと同じ5%セルロース溶液100gに対し、1、3、5、7gの10%水ガラス溶液を混合し、各溶液をガラス板上に1mm厚に流延し、純エタノールに浸漬してセルロースとケイ酸成分を同時に凝固させ、そのまま2モル硫酸に浸漬してケイ酸アニオンを縮合させてシリカに転換し、水洗、乾燥してセルロース−シリカ複合フィルムE−1〜E−4を得た。これらは表3に示す特性を与えた。
表3より、シリカとの複合化によりセルロースフィルムの透明度と耐水性が改善されたことが分かる。
【0041】
【表3】

【実施例4】
【0042】
8%塩化リチウム/ジメチルアセトアミドに、3%のワットマンCF11セルロースを溶解させ、ガラス板上に1mm厚に流延し、エタノールに浸漬凝固させて、含水率92重量%の再生セルロースゲルシートを得た。これを水洗後、10%水ガラス液を含浸し、実施例1と同じ処理によって透明なセルロース−シリカ複合フィルムを得た。
【実施例5】
【0043】
4gのアドバンテック製ろ紙パルプをエチレンジアミンに2時間浸漬し、ろ別回収してから室温で真空乾燥し、セルロース-エチレンジアミン錯体を得た(溶解のための前処理)。前記錯体を8%塩化リチウム/DMSO溶液にセルロース濃度が4%となるように加え、室温で24時間撹拌して溶解させた。この溶液をガラス板上に1mm厚に流延し、エタノールに浸漬凝固させて、含水率88重量%の再生セルロースゲルシートを得た。これを水洗後、10%水ガラス液を含浸し、実施例1と同じ処理によって透明なセルロース−シリカ複合フィルムを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 含水率60%以上の再生セルロースゲル;及び
(ii) 低分子ケイ酸ナトリウム;
由来の複合材料の製造方法であって、
(A−1) 含水率80%以上の再生セルロースゲルを準備する工程;
(A−2) 前記低分子ケイ酸ナトリウムの水溶液に、前記再生セルロースゲルを浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムが含浸された再生セルロースゲルを得る工程;
(A−3) 上記(A−2)で得られたゲルを無機酸水溶液に浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムを脱水縮合することによりシリカとする工程;及び
(A−4) 上記(A−3)で得られたゲルを水洗後、乾燥する工程;
を有する、上記方法。
【請求項2】
前記(A−3)工程前に、(A−5)ゲルを低級アルコールに浸漬する工程;を有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記(A−3)工程において、前記無機酸水溶液に低級アルコールを混合させた混合液に、前記ゲルを浸漬する工程;を有する請求項1記載の方法。
【請求項4】
(i’) 水系のセルロース溶液;及び
(ii) 低分子ケイ酸ナトリウム;
由来の複合材料の製造方法であって、
(B−1) セルロース溶媒として、苛性アルカリと尿素との水溶液を用いるセルロース溶液を準備する工程;
(B−2) 前記セルロース溶液に低分子ケイ酸ナトリウムを混和する工程;
(B−3) 前記(B−2)で得られた液をフィルム状に成型した後、無機酸水溶液に浸漬し、前記低分子ケイ酸ナトリウムを脱水縮合することによりシリカとする工程;及び
(B−4) 上記(B−3)で得られたゲルを水洗後、乾燥する工程;
を有する、上記方法。
【請求項5】
前記(B−3)工程において、前記無機酸水溶液に代えて、前記無機酸水溶液に低級アルコールを混合させた混合液に浸漬する工程;を有する請求項4記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−144383(P2012−144383A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1983(P2011−1983)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】