説明

再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法

【課題】ポリプロピレン系樹脂成形体の物性を低下させずにポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材を再生することができ、しかも、溶剤系塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材と水性塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材とが混在している場合でも、これらを分別することなく再生することが可能な方法を提供すること。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂成形体と樹脂塗膜とを備える自動車用外装部材の破砕物と、d−リモネンおよびベンジルアルコールのうちの少なくとも1種、ブチルセロソルブならびにギ酸を含有する塗膜剥離剤とを接触させて、前記破砕物から樹脂塗膜を除去する工程と、塗膜除去後の破砕物を回収してポリプロピレン系樹脂ペレットを作製する工程と、前記ポリプロピレン系樹脂ペレットを用いてポリプロピレン系樹脂成形体を作製する工程とを含む再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法に関し、より詳しくは、樹脂塗膜を備えるポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材からポリプロピレン系樹脂を再生し、これを用いてポリプロピレン系樹脂成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、汎用性が高く、安価で、各種物性に優れており、自動車用バンパーなどの自動車用外装部材に使用されている。このようなポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材の再生利用については、従来から様々な方法が検討されているが、自動車用外装部材の表面には、通常、塗装が施されており、この樹脂塗膜が、再生したポリプロピレン系樹脂成形品の物性を低下させるため、ポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材の再生利用において大きな問題となっていた。
【0003】
そこで、再生したポリプロピレン系樹脂成形品の物性の低下を抑制するため、塗膜剥離剤を用いて樹脂塗膜を剥離する方法が検討されていた。しかしながら、従来の塗膜剥離剤には、ハロゲン系溶剤やアミン系溶剤、強酸または強アルカリが含まれており、このような塗膜剥離剤は、樹脂塗膜だけでなく、ポリプロピレン系樹脂成形品も分解するため、剥離処理によりポリプロピレン系樹脂成形品が劣化し、再生したポリプロピレン系樹脂成形品の物性の低下を十分に抑制することは困難であった。
【0004】
このため、ポリプロピレン系樹脂の劣化を抑制しながら樹脂塗膜を剥離する方法として、特開2003−48210号公報(特許文献1)には、実質的にシクロヘキサノンからなる塗膜剥離剤に、樹脂塗膜を備えるポリプロピレン系樹脂成形品を浸漬して樹脂塗膜を剥離した後、ポリプロピレン系樹脂を回収してペレット化し、このポリプロピレン系樹脂ペレットを用いて射出成形するポリプロピレン系樹脂成形品の再利用方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−48210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シクロヘキサノンからなる塗膜剥離剤は、溶剤系塗料により形成された樹脂塗膜の剥離性は高いものであったが、水性塗料により形成された樹脂塗膜を剥離することは困難であった。このため、シクロヘキサノンからなる塗膜剥離剤を用いてポリプロピレン系樹脂成形体を再生する場合には、樹脂塗膜を備えるポリプロピレン系樹脂成形体を、予め、樹脂塗膜の種類に応じて分別する必要があった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、得られるポリプロピレン系樹脂成形体の物性を低下させずにポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材を再生することができ、しかも、溶剤系塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材と水性塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材とが混在している場合でも、これらを分別することなく再生することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、d−リモネンおよびベンジルアルコールのうちの少なくとも1種、ブチルセロソルブならびにギ酸を含有する塗膜剥離剤を使用することによって、溶剤系塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材および水性塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材のいずれにおいても、容易に樹脂塗膜を除去することができ、しかも、再生されたポリプロピレン系樹脂成形体の物性が十分に高いものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法は、ポリプロピレン系樹脂成形体と樹脂塗膜とを備える自動車用外装部材の破砕物と、d−リモネンおよびベンジルアルコールのうちの少なくとも1種、ブチルセロソルブならびにギ酸を含有する塗膜剥離剤とを接触させて、前記破砕物から前記樹脂塗膜を除去する工程と、塗膜除去後の破砕物を回収してポリプロピレン系樹脂ペレットを作製する工程と、前記ポリプロピレン系樹脂ペレットを用いてポリプロピレン系樹脂成形体を作製する工程とを含むことを特徴とするものである。前記塗膜剥離剤としては、非イオン界面活性剤をさらに含有するものが好ましい。
【0010】
本発明の再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法においては、前記破砕物と前記塗膜剥離剤とを接触させる際あるいは接触させた後に、前記樹脂塗膜を前記破砕物から物理的に除去することが好ましい。また、前記自動車用外装部材が、前記樹脂塗膜と前記ポリプロピレン系樹脂成形体との間にプライマー層をさらに備えるものである場合、該プライマー層を前記樹脂塗膜とともに前記破砕物から除去することが可能である。
【0011】
このようにして再生されたポリプロピレン系樹脂成形体は自動車用外装部材として使用することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、得られるポリプロピレン系樹脂成形体の物性を低下させずにポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材を再生することができ、しかも、溶剤系塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材と水性塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材とが混在している場合でも、これらを分別することなく再生することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
本発明の再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法は、ポリプロピレン系樹脂成形体と樹脂塗膜とを備える自動車用外装部材の破砕物と、d−リモネンおよびベンジルアルコールのうちの少なくとも1種、ブチルセロソルブならびにギ酸を含有する塗膜剥離剤とを接触させて、前記破砕物から前記樹脂塗膜を除去する工程(塗膜除去工程)と、塗膜除去後の破砕物を回収してポリプロピレン系樹脂ペレットを作製する工程(造粒工程)と、前記ポリプロピレン系樹脂ペレットを用いてポリプロピレン系樹脂成形体を作製する工程(成形工程)とを含む方法である。
【0015】
<塗膜除去工程>
先ず、本発明によって再生することが可能な自動車用外装部材およびその破砕物について説明する。本発明に用いられる自動車用外装部材は、ポリプロピレン系樹脂成形体と、その表面の少なくとも一部に形成された樹脂塗膜とを備えるものである。また、このような自動車用外装部材においては、前記樹脂塗膜と前記ポリプロピレン系樹脂成形体との間に、プライマー層がさらに形成されていてもよい。このような自動車用外装部材としては、自動車用バンパーなどが挙げられる。また、このような自動車用外装部材は、自動車の製造工程で不良とされたものであってもよいし、廃棄された自動車から外されたものであってもよい。
【0016】
前記ポリプロピレン系樹脂成形体(以下、「PP樹脂成形体」と略す)は、自動車用バンパーなどの自動車用外装部材に使用されるものであれば特に制限はなく、ポリプロピレン系樹脂(以下、「PP樹脂」と略す)の押出成形体や射出成形体、発泡成形体などが挙げられる。また、このようなPP樹脂成形体には、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムなどのゴム成分が配合されていてもよい。さらに、フィラー、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などの各種添加剤が配合されていてもよい。
【0017】
前記樹脂塗膜としては、自動車用バンパーなどの自動車用外装部材の塗装に用いられる塗料により形成されるものであれば特に制限はなく、例えば、アクリルウレタン樹脂塗膜、ウレタン樹脂塗膜、アクリル樹脂塗膜、ポリエステル樹脂塗膜、メラミン樹脂塗膜、フェノール樹脂塗膜などの有機樹脂からなる塗膜が挙げられる。これらの樹脂塗膜は、水性樹脂により形成された水性樹脂塗膜であっても、溶剤系樹脂によって形成された溶剤系樹脂塗膜であってもよい。本発明においては、水性および溶剤系のいずれの樹脂塗膜を備える自動車用外装部材であっても、容易に樹脂塗膜を除去することができ、所定の物性を有する再生PP樹脂成形体を得ることができる。また、前記樹脂塗膜は、単層であっても2層以上の多層であってもよい。特に、本発明においては、水性樹脂塗膜と溶剤系樹脂塗膜とが混在する多層の樹脂塗膜を除去することが可能である。このような樹脂塗膜の膜厚としては特に制限はないが、通常、5〜50μmである。樹脂塗膜の膜厚が前記上限を超えると、樹脂塗膜を完全に除去することができない場合がある。
【0018】
また、前記プライマー層としては、自動車用バンパーなどの自動車用外装部材の下塗り塗料により形成されたものが挙げられる。このような下塗り塗料としては、水性および溶剤系の塩素化ポリオレフィン樹脂塗料が挙げられる。本発明においては、プライマー層が水性のものであっても溶剤系のものであっても、前記樹脂塗膜ともに容易に除去することができ、所定の物性を有する再生PP樹脂成形体を得ることができる。このようなプライマー層の厚さとしては特に制限はないが、通常、5〜20μmである。プライマー層の厚さが前記上限を超えると、プライマー層を完全に除去することができない場合がある。
【0019】
本発明においては、このような自動車用外装部材を破砕機などで破砕した後、塗膜剥離剤と接触させる。破砕物の大きさとして特に制限はないが、通常、10mm角〜100mm角に破砕する。破砕物の大きさが前記下限未満になると、塗膜剥離後の破砕物と塗膜剥離剤とを容易に分離できない場合があり、他方、前記上限を超えると、破砕物と塗膜剥離剤との接触面積が低下して、樹脂塗膜を十分に除去できない場合がある。
【0020】
次に、樹脂塗膜を除去する際に使用する塗膜剥離剤について説明する。本発明に用いられる塗膜剥離剤は、d−リモネンおよびベンジルアルコールのうちの少なくとも1種と、ブチルセロソルブと、ギ酸とを含有するものである。このような塗膜剥離剤を使用することによって、PP樹脂を劣化させずに、水性および溶剤系のいずれの樹脂塗膜およびプライマー層も容易に前記破砕物から除去することが可能となる。その結果、水性樹脂塗膜と溶剤系樹脂塗膜が混在している場合でも、これらを分別することなく、前記破砕物から除去することが可能となる。
【0021】
前記塗膜剥離剤中のd−リモネンおよびベンジルアルコールの含有量としては、5〜50質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。d−リモネンおよびベンジルアルコールの含有量が前記下限未満になると、樹脂塗膜の剥離性が十分に得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、d−リモネンがPP樹脂成形体に過剰に浸透し、あるいは、ベンジルアルコールがPP樹脂成形体表面に付着し、いずれの場合もPP樹脂に塗膜剥離剤が残留しやすくなる傾向にある。
【0022】
また、ブチルセロソルブの含有量としては、20〜85質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。ブチルセロソルブの含有量が前記下限未満になると、樹脂塗膜を膨潤させる作用が著しく低下し、樹脂塗膜の剥離性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂塗膜をPP樹脂成形体から引きはがす作用が低下し、樹脂塗膜の剥離性が不十分となる傾向にある。
【0023】
さらに、ギ酸の含有量としては、5〜25質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。ギ酸の含有量が前記下限未満になると、樹脂塗膜へのクラッキング作用が低下することから、樹脂塗膜の剥離性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、塗膜剥離剤が経時的に分離するなど、塗膜剥離剤の安定性が低下する傾向にある。
【0024】
また、本発明に用いられる塗膜剥離剤には、非イオン界面活性剤が含まれていることが好ましい。これにより、樹脂塗膜の剥離性が向上する傾向にある。このような非イオン界面活性剤としては、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられ、中でも、樹脂塗膜の剥離性が向上するという観点から、炭素数10〜22の飽和または不飽和の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド(炭素数2〜4)付加物が好ましく、前記脂肪族アルコールのエチレンオキサイド付加物がより好ましい。また、アルキレンオキサイドの付加モル数としては、4モル以上が好ましく、6〜20モルがより好ましい。
【0025】
塗膜剥離剤中の非イオン界面活性剤の含有量としては、0〜5質量%が好ましい。前記上限を超える量の非イオン界面活性剤を含有させても、それ以上の浸透効果がみられず、樹脂塗膜の剥離性も向上しにくい傾向にある。また、非イオン界面活性剤の添加効果を十分に得るためには、非イオン界面活性剤の含有量は1質量%以上であることが好ましい。
【0026】
また、前記塗膜剥離剤には、ジエチレングリコールなどのグリコール系溶剤が含まれていてもよい。このようなグリコール系溶剤は、樹脂塗膜を剥離する際の剥離助剤として作用する。塗膜剥離剤中のグリコール系溶剤の含有量としては特に制限はないが、0〜20質量%が好ましい。
【0027】
本発明にかかる塗膜除去工程は、PP樹脂成形体と樹脂塗膜とを備える自動車用外装部材の破砕物と前記塗膜剥離剤とを接触させることによって、前記破砕物から樹脂塗膜を除去する工程である。このとき、PP樹脂成形体と樹脂塗膜との間にプライマー層が形成されている場合には、このプライマー層も樹脂塗膜とともに除去される。
【0028】
このような剥離処理の温度としては特に制限はないが、20〜130℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。本発明においては、上述した成分を含有する塗膜剥離剤を用いているため、このような比較的低い温度で樹脂塗膜およびプライマー層をPP樹脂成形体から剥離することが可能となる。すなわち、本発明においては、前記上限を超える温度で剥離処理を行う必要がなく、環境への配慮、作業性の改善、低コスト化を図ることが可能となる。一方、従来の塗膜剥離剤を使用した場合には、より高温で剥離処理を行う必要があった。なお、本発明において、剥離処理温度が前記下限未満になると、樹脂塗膜およびプライマー層を完全に剥離するのに要する時間が長くなる傾向にある。
【0029】
また、前記剥離処理の時間としては特に制限はないが、10〜60分間が好ましく、15〜30分間がより好ましい。本発明においては、上述した成分を含有する塗膜剥離剤を用いているため、このような比較的短い時間で樹脂塗膜およびプライマー層をPP樹脂成形体から剥離することが可能となる。すなわち、本発明においては、前記上限を超える時間をかけて剥離処理を行う必要がなく、作業性の改善、低コスト化を図ることが可能となる。一方、従来の塗膜剥離剤を使用した場合には、より長い時間をかけて剥離処理を行う必要があった。なお、本発明において、剥離処理時間が前記下限未満になると、樹脂塗膜およびプライマー層を完全に剥離するのに要する温度が高くなる傾向にある。
【0030】
本発明にかかる塗膜除去工程は、前記自動車用外装部材の破砕物と前記塗膜剥離剤とを接触させること(化学的な手段)により、前記破砕物から樹脂塗膜を除去する工程であるが、この化学的な手段を用いて樹脂塗膜を除去する際あるいは除去した後に、物理的な手段を用いて樹脂塗膜を除去することが好ましく、前記化学的な手段と物理的な手段とを同時に実施することがより好ましい。これにより、樹脂塗膜の剥離性が飛躍的に向上する傾向にある。前記破砕物から樹脂塗膜を物理的に除去する手段としては、超音波処理、ブラスト処理、剪断摩擦処理などが挙げられ、これらの処理は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
<造粒工程>
本発明にかかる造粒工程は、前記塗膜除去工程において樹脂塗膜およびプライマー層が除去された破砕物(すなわち、破砕された状態のPP樹脂成形体)を回収し、必要に応じて水洗および乾燥処理を施した後、PP樹脂ペレットを作製する工程である。
【0032】
この造粒工程においては、通常、破砕された状態のPP樹脂成形体を粉砕し、このPP樹脂粉砕物を溶融してPP樹脂ペレットを作製する。前記PP樹脂粉砕物の大きさとしては特に制限はないが、平均粒子径が15mm以下となるように粉砕することが好ましい。前記PP樹脂粉砕物の平均粒子径が前記上限を超えると、ペレット化する際にPP樹脂が均一に溶融しない場合がある。なお、前記PP樹脂粉砕物の平均粒子径の下限値としては特に制限はないが、通常、5mm以上である。
【0033】
本発明において、PP樹脂ペレットの作製方法および作製条件としては、PP樹脂バージン材からペレットを製造する方法およびその条件を、大幅に変更することなく(好ましくは、そのまま)適用することができる。例えば、上記のようにして作製したPP樹脂粉砕物を押出機などの溶融混練機を用いて180〜200℃に加熱して溶融し、このPP樹脂溶融物をダイから押出してストランドを作製し、これをペレタイザーなどを用いて切断することによってPP樹脂ペレットを得ることができる。このとき、必要に応じて、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムなどのゴム成分、フィラー、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などの各種添加剤を配合することができる。
【0034】
<成形工程>
本発明にかかる成形工程は、前記造粒工程において作製したPP樹脂ペレットからPP樹脂成形体を作製する工程である。本発明において、PP樹脂成形体の作製方法および作製条件としては、公知のPP樹脂成形体の製造方法および製造条件を大幅に変更することなく(好ましくは、そのまま)適用することができる。例えば、前記造粒工程で得られたPP樹脂ペレットを、必要に応じて乾燥した後、200〜220℃に加熱して各種成形方法(例えば、押出成形、射出成形、発泡成形)により成形することにより、再生PP樹脂成形体を得ることができる。
【0035】
このようにして得られた再生PP樹脂成形体は、PP樹脂の物性の低下が十分に抑制されたものであり、特に、PP樹脂バージン材から作製した成形体と同等のシャルピー衝撃強さを有するものであり、自動車用バンパーなどの自動車用外装部材として使用できるものである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例において使用したPP樹脂製自動車用外装部材の樹脂塗膜およびプライマー層の種類(塗装した樹脂塗料およびプライマーの種類)を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
(実施例1)
表1に示した樹脂塗膜およびプライマー層を備える自動車用外装部材1〜5をそれぞれ割断して、破砕物A−1〜A−5(縦10mm×横10mm×厚さ2mm)を作製した。また、ブチルセロソルブ40質量部、d−リモネン40質量部、ギ酸15質量部およびデカノールのエチレンオキサイド6モル付加物5質量部と混合して塗膜剥離剤を調製した。
【0039】
この塗膜剥離剤30gを容量100mlの共栓付き三角フラスコに計量し、前記破砕物A−1〜A−5を各一片ずつ投入した後、90℃で10分間静置して剥離処理を行なった。その後、フラスコを室温まで冷却して、各破砕物を取り出し、回収した。
【0040】
(実施例2)
ブチルセロソルブの量を45質量部に変更し、デカノールのエチレンオキサイド6モル付加物を混合しなかった以外は実施例1と同様にして塗膜剥離剤を調製し、剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0041】
(実施例3)
d−リモネンの代わりにベンジルアルコール40質量部、デカノールのエチレンオキサイド6モル付加物の代わりにドデカノールのエチレンオキサイド7モル付加物5質量部を用いた以外は実施例1と同様にして塗膜剥離剤を調製した。この塗膜剥離剤を用い、処理温度を60℃、処理時間を60分間に変更した以外は実施例1と同様にして剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0042】
(実施例4)
処理温度を90℃、処理時間を30分間に変更した以外は実施例3と同様にして剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0043】
(実施例5)
ブチルセロソルブの量を45質量部に変更し、ドデカノールのエチレンオキサイド7モル付加物を混合しなかった以外は実施例4と同様にして塗膜剥離剤を調製し、剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0044】
(比較例1〜5)
塗膜剥離剤としてブチルセロソルブ(比較例1)、d−リモネン(比較例2)、ベンジルアルコール(比較例3)、ギ酸(比較例4)またはN−メチルピロリドン(比較例5)のみを用いた以外は実施例1と同様にして塗膜剥離剤を調製し、剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0045】
(比較例6)
塗膜剥離剤としてシクロヘキサノンのみを用いた以外は実施例1と同様にして塗膜剥離剤を調製した。この塗膜剥離剤を用い、処理温度を60℃、処理時間を600分間に変更した以外は実施例1と同様にして剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0046】
(比較例7〜12)
ヘプタフルオロシクロペンタン(比較例7)、塩化メチレン(比較例8、11)、クロロホルム(比較例9、12)または1−ブロモプロパン(比較例10)80質量部と、ギ酸15質量部と、デカノールのエチレンオキサイド6モル付加物(比較例7、9、10、12)またはドデカノールのエチレンオキサイド7モル付加物(比較例8、11)5質量部とを混合して塗膜剥離剤を調製した。この塗膜剥離剤を用い、処理温度を25℃(比較例7〜10)または60℃(比較例11〜12)に、処理時間を60分間に変更した以外は実施例1と同様にして剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0047】
(実施例6)
表1に示した樹脂塗膜およびプライマー層を備える外装部材1〜5をそれぞれ割断して、一片が縦30mm×横30mm×厚さ2mmの破砕物B−1〜B−5を作製した。また、ブチルセロソルブ40質量部、ベンジルアルコール40質量部、ギ酸15質量部およびドデカノールのエチレンオキサイド7モル付加物5質量部と混合して塗膜剥離剤を調製した。
【0048】
この塗膜剥離剤90gを容量400mlの円柱状の金属容器に計量し、前記破砕物B−1〜B−5を各一片ずつ投入し、さらに、アルミナ製ボール(直径2mm)を見かけ容量で200ml投入して金属製の蓋を装着した。
【0049】
この金属容器を60℃の温浴中、30rpmの回転速度で30分間、円周方向に回転させて剥離処理を行なった。その後、金属容器を室温まで冷却し、内容物を取り出し、各破砕物を回収した。
【0050】
(実施例7)
アルミナ製ボール(直径2mm)の投入量を見かけ容量で120mlに変更した以外は実施例6と同様にして剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0051】
(実施例8)
ベンジルアルコールの代わりにd−リモネン40質量部、ドデカノールのエチレンオキサイド7モル付加物の代わりにデカノールのエチレンオキサイド6モル付加物5質量部を用いた以外は、実施例6と同様にして塗膜剥離剤を調製し、剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0052】
(実施例9)
アルミナ製ボール(直径2mm)の投入量を見かけ容量で120mlに変更した以外は実施例8と同様にして剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0053】
(実施例10)
ブチルセロソルブの量を45質量部に変更し、デカノールのエチレンオキサイド6モル付加物を混合しなかった以外は実施例8と同様にして塗膜剥離剤を調製し、剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0054】
(実施例11)
処理温度を90℃に変更した以外は実施例6と同様にして剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0055】
(実施例12)
アルミナ製ボール(直径2mm)の投入量を見かけ容量で280mlに変更した以外は実施例11と同様にして剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0056】
(実施例13)
ブチルセロソルブの量を45質量部に変更し、ドデカノールのエチレンオキサイド7モル付加物を混合しなかった以外は実施例11と同様にして塗膜剥離剤を調製し、剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0057】
(実施例14〜15)
処理温度を90℃に変更した以外は実施例8〜9と同様にして剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0058】
(比較例13〜16)
塗膜剥離剤としてブチルセロソルブ(比較例13)、d−リモネン(比較例14)、ベンジルアルコール(比較例15)またはギ酸(比較例16)のみを用いた以外は実施例11と同様にして塗膜剥離剤を調製し、剥離処理を行い、冷却後、各破砕物を回収した。
【0059】
<剥離度>
実施例および比較例で回収した各破砕物の塗装面を目視により観察して下記基準で樹脂塗膜とプライマー層の剥離度を判定した。その結果を表2〜5に示す。
A:塗装面には樹脂塗膜およびプライマー層は残存しておらず、残存率は0%であった。
B:塗装面には樹脂塗膜およびプライマー層が極僅かに残存していたが、残存率は5%未満であった。
C:塗装面には樹脂塗膜およびプライマー層が残存しており、残存率は5%以上35%未満であった。
D:塗装面には樹脂塗膜およびプライマー層が残存しており、残存率は35%以上50%未満であった。
E:塗装面には樹脂塗膜およびプライマー層が残存しており、残存率は50%以上100%未満であった。
F:塗装面全体に樹脂塗膜およびプライマー層が残存しており、残存率は100%であった。
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
表2に示した結果から明らかなように、ブチルセロソルブと、d−リモネンまたはベンジルアルコールと、ギ酸とを含有する塗膜剥離剤(実施例1〜5)は、いずれの破砕物に対しても優れた塗膜剥離性を示すことが確認された。また、非イオン界面活性剤を含有する塗膜剥離剤を用いた場合(実施例1、3〜4)には、非イオン界面活性剤を含まない場合に比べて、塗膜剥離性が向上することがわかった。一方、塗膜剥離剤として、ブチルセロソルブ、d−リモネン、ベンジルアルコール、ギ酸のいずれか1種を用いた場合(比較例1〜4)またはN−メチルピロリドンを用いた場合(比較例5)には、塗膜の剥離に選択性があり、特に、水性樹脂塗膜の剥離性が劣ることがわかった。すなわち、本発明にかかる塗膜剥離剤は、異なる種類の樹脂塗膜が混在する場合でも、塗膜を剥離することができるのに対して、比較例1〜5で使用した塗膜剥離剤を使用する場合には、予め、樹脂塗膜の種類ごとに自動車用外装部材を分別する必要があることがわかった。
【0065】
また、表3に示した結果から明らかなように、塗膜剥離剤としてハロゲン系溶剤を用いて25℃で剥離処理を行なった場合(比較例7〜10)には、塗膜の剥離に選択性があり、特に、水性樹脂塗膜の剥離性が劣ることがわかった。また、ハロゲン系溶剤を用いて剥離処理を行なった場合には、排液中のハロゲンを処理する設備が必要であった。一方、塩化メチレンまたはクロロホルムを含有する塗膜剥離剤を用いて60℃で剥離処理を行なった場合(比較例11〜12)には、いずれの破砕物に対しても優れた塗膜剥離性が得られることがわかった。しかしながら、比較例11〜12のように、ハロゲン系溶剤を用いて60℃で剥離処理を行なった場合には、排液中のハロゲンを処理する設備だけでなく、ハロゲン系溶剤が大気中に放散されるため、それを回収する設備も必要であった。
【0066】
表4に示した結果から明らかなように、本発明にかかる塗膜剥離剤を用いた剥離処理と物理的な剥離処理(アルミナ製ボールによる処理)とを併用した場合(実施例6〜15)においても、いずれの破砕物に対しても優れた塗膜剥離性が得られることが確認された。特に、表2に示した結果(実施例1〜5)と比較すると、物理的な剥離処理を併用することによって塗膜剥離性が向上することが確認された。
【0067】
一方、表5に示した結果から明らかなように、ブチルセロソルブ、d−リモネン、ベンジルアルコール、ギ酸のいずれか1種を用いた剥離処理と物理的な剥離処理(アルミナ製ボールによる処理)とを併用した場合(比較例13〜16)には、塗膜の剥離に選択性があり、特に、水性樹脂塗膜の剥離性が劣ることがわかった。また、物理的な剥離処理を併用した効果も殆ど見られなかった。すなわち、本発明にかかる塗膜剥離剤については、物理的な剥離処理と併用することにより、異なる種類の樹脂塗膜が混在する場合でも、塗膜を容易に剥離することができるのに対して、比較例13〜16で使用した塗膜剥離剤については、物理的な剥離処理を使用する場合でも、予め、樹脂塗膜の種類ごとに自動車用外装部材を分別する必要があることがわかった。
【0068】
<再生PP樹脂成形体の物性評価>
実施例で塗膜を除去した破砕物を水洗し、平均粒子径φ15mmの大きさに粉砕した後、造粒してPP樹脂ペレットを作製した。このPP樹脂ペレットを100℃で3時間乾燥した。乾燥後のPP樹脂ペレットのメルトフローレートを以下の方法により測定した。また、乾燥後のPP樹脂ペレットを用いて、溶融樹脂温度200℃、金型温度40℃で射出成形を行い、ISO 3167に準拠してタイプAの多目的試験片を作製した。この多目的試験片の平行部を切り出してバータイプ試験片(長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)を作製し、このバータイプ試験片を用いて再生PP樹脂成形体の物性を以下の方法により測定した。
【0069】
(メルトフローレート)
ISO 1133に記載の方法に準拠して、荷重:21.18N、試験温度:230℃の条件で再生PP樹脂のメルトフローレートを測定した。
【0070】
(引張弾性率)
ISO 527−1、2に記載の方法に準拠して、引張速度:50mm/分、チャック間距離:115mm、試験環境:23±2℃の条件で引張試験を行い、再生PP樹脂成形体の引張弾性率を求めた。
【0071】
(シャルピー衝撃強さ)
バータイプ試験片に、半径0.25mmのタイプAのノッチを残り幅が8.0mmとなるように加工してノッチ付き試験片を作製した。このノッチ付き試験片を用い、ISO 179−1、2に準拠して、エッジワイズ試験法により、試験温度:−30℃または23℃で再生PP樹脂成形体のシャルピー衝撃強さを測定した。
【0072】
(脆化温度)
ASTM D746−98に準拠して再生PP樹脂成形体の脆化温度を測定した。
【0073】
(荷重たわみ温度)
ISO 75−1〜3に準拠して、フラットワイズ法により、曲げ応力:1.8MPaまたは0.45MPaにおける再生PP樹脂成形体のたわみ温度を測定した。
【0074】
(ロックウェル硬さ)
ISO 2039−2に記載の方法に準拠して、再生PP樹脂成形体のロックウェル硬さを測定した。
【0075】
表6には、実施例1または6において、破砕物A−5またはB−5から塗膜を除去して回収した再生PP樹脂およびその成形体の各種物性値を示す。また、表6には、PP樹脂バージン材または樹脂塗膜を除去していない破砕物A−5から作製した再生PP樹脂成形体(未剥離再生品)の各種物性値も併せて示す。
【0076】
【表6】

【0077】
表6に示した結果から明らかなように、塗膜を除去した破砕物から得た再生PP樹脂およびその成形体の物性は、PP樹脂バージン材およびその成形体に匹敵するものであり、未剥離再生品に比べて優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明によれば、得られるポリプロピレン系樹脂成形体の物性を低下させずにポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材を再生することができ、しかも、溶剤系塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材と水性塗料により塗装されたポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材とが混在している場合でも、これらを分別することなく再生することが可能となる。
【0079】
したがって、本発明の再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法は、得られるポリプロピレン系樹脂成形体の物性が自動車用バンパーなどの自動車用外装部材に要求される物性を満たすものであるため、塗装が施された自動車用バンパーなどのポリプロピレン系樹脂製自動車用外装部材の再利用方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂成形体と樹脂塗膜とを備える自動車用外装部材の破砕物と、d−リモネンおよびベンジルアルコールのうちの少なくとも1種、ブチルセロソルブならびにギ酸を含有する塗膜剥離剤とを接触させて、前記破砕物から前記樹脂塗膜を除去する工程と、
塗膜除去後の破砕物を回収してポリプロピレン系樹脂ペレットを作製する工程と、
前記ポリプロピレン系樹脂ペレットを用いてポリプロピレン系樹脂成形体を作製する工程と、
を含むことを特徴とする再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記破砕物と前記塗膜剥離剤とを接触させる際あるいは接触させた後に、前記樹脂塗膜を前記破砕物から物理的に除去することを特徴とする請求項1に記載の再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記自動車用外装部材が、前記樹脂塗膜と前記ポリプロピレン系樹脂成形体との間にプライマー層をさらに備えるものであり、
該プライマー層を前記樹脂塗膜とともに前記破砕物から除去することを特徴とする請求項1または2に記載の再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記塗膜剥離剤が非イオン界面活性剤をさらに含有するものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
再生されたポリプロピレン系樹脂成形体が自動車用外装部材であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2013−35205(P2013−35205A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172984(P2011−172984)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】