説明

再生信号評価方法及び記録調整方法

【課題】大容量BDを実現するため、良好な媒体互換性を実現するための再生信号評価方法と記録調整方法を提供すること。
【解決手段】着目するエッジに対して左右にエッジシフトした目標信号のユークリッド距離差に従って、符号付きで加算することによって、評価指標L−SEATを算出し、再生信号の品質を評価する。これを用いて記録調整を実施することで、SNRに依存しない、かつ良好な調整精度をもつを記録調整が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体上に物理的性質が他の部分とは異なる記録マークを形成し、情報を記憶する光ディスク媒体の再生信号評価方法及び情報を記録する条件を調整する記録調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクの高速化と高密度化に伴い適応等化方式とPRML(Partial Response Maximum Likelihood)方式による再生信号の2値化技術が必須となってきている。高密度化によって、光スポットの大きさに比較して記録マークの大きさが小さくなり、得られる再生信号の振幅も小さくなる。光スポットの分解能は波長λと対物レンズの開口数NAによって定まり、最短ラン長の記録マークの長さがλ/4NA以下になると、その繰り返し信号の振幅がゼロになる。これは一般に光学カットオフとして知られている現象であり、BDにおいてはλ/4NA≒119nmである。Blu-ray Disc(以下BD)においてトラックピッチを一定とした場合、容量約31GB以上を実現しようすると最短ラン長である2Tの繰り返し信号の振幅がゼロになる。こうした高密度条件において良好な再生性能を得るためには適応等化方式とPRML方式の利用が必須である。
【0003】
一方、記録型光ディスクでは、パルス状に強度変調されたレーザ光(以下、記録パルス)を用いて、記録膜の結晶状態等を変化させることで所望の情報を記録する。記録膜としては相変化材料や有機色素、ある種の合金や酸化物等が用いられており、広く一般に知られている。BDにおいて用いられるマークエッジ符号方式では、前後のエッジ位置によってコード情報が定まる。記録パルスにおいては、記録マークの前エッジの形成条件を主として定めるファースト・パルスと、記録マークの後エッジの形成条件を主として定めるラスト・パルス及びクーリング・パルスの位置と幅が、記録した情報の品質を良好に保つために重要である。このため、記録型光ディスクにおいては、記録マークの長さ、及び先行又は後続するスペースの長さに応じて、ファースト・パルスとラスト・パルス及びクーリング位置もしくは幅を適応的に変化させる適応型記録パルスを用いることが一般的である。
【0004】
前述のような高密度条件においては、形成する記録マークが微細化するため、従来よりも高精度に記録パルスの照射条件(以下、記録条件)を定める必要がある。一方、光ディスク装置の光スポットの形状は、光源の波長、波面収差、フォーカス条件、ディスクのチルト等によって変動する。また、環境温度や経時変化によって、半導体レーザのインピーダンスや量子効率が変化するため、記録パルスの形状も変動する。このように、個体ごと、環境ごとに変動する光スポットの形状と記録パルスの形状に対応して、常に最良の記録条件を得るための調整技術は一般的に試し書きと呼ばれる。記録密度の向上に従って、記録調整技術は重要度を増していく。
【0005】
PRML方式に対応し、記録したデータの品質を統計的に評価する方法としては、非特許文献1「Jpn. J. Appl. Phys., Vol.43, pp.4850 (2004)」、特許文献1「特開2003−141823号公報」、特許文献2「特開2005−346897号公報」、特許文献3「特開2003−151219号公報」に記載されている方法がある。また、PR(1,2,2,2,1)MLに対応した再生信号品質の評価指標として特許文献4「特開2005−196964号公報」に記載されている技術がある。
【0006】
非特許文献1「Jpn. J. Appl. Phys., Vol.43, pp.4850 (2004)」では、再生信号から得られた2値化ビット列(最も確からしい状態遷移列に対応)の目標信号と再生信号とのユークリッド距離(Paに対応)と、注目するエッジが1ビットシフトした2値化ビット列(2番目に確からしい状態遷移列に対応)の目標信号と再生信号とのユークリッド距離の差(Pbに対応)の絶対値から、2つの目標信号の間のユークリッド距離を減算した値をMLSE(Maxmum Likelihood Sequence Error)と定義し、記録パターンごとにMLSEの分布の平均値がゼロになるように、記録条件を調整する。
【0007】
特許文献1「特開2003−141823号公報」では、最も確からしい状態遷移列に対応する確からしさPaと、2番目に確からしい状態遷移列に対応する確からしさPbを用い、|Pa-Pb|の分布によって再生信号の品質を評価する技術が開示されている。
【0008】
特許文献2「特開2005−346897号公報」では、エッジシフトに注目し、再生信号のエッジ部が左右にシフトする誤りパターンに仮想的な1Tラン長を含むパターンを用いるとともに、エッジシフトの方向に基づいて、符号付きシーケンス誤差の差を求めることによってエッジシフト量を求め、これをゼロに近づけるように記録条件を調整する技術が開示されている。この評価指標はV−SEAT(Virtual state based Sequence Error for Adaptive Target)と呼ばれる。
【0009】
特許文献3「特開2003−151219号公報」には、再生信号と正パターン及び誤パターンのユークリッド距離の差に基づいて、注目するエッジが左側にシフトした場合の誤り確率と右側にシフトした場合の誤り確率をそれぞれ求め、それらが等しくなるように記録条件を調整する技術が開示されている。このため、所定の再生信号、この再生信号の信号波形パターンに対応した第1のパターン、及びこの第1のパターン以外であって再生信号の信号波形パターンに対応した任意のパターン(第2又は第3のパターン)が用いられる。まず、再生信号と第1のパターンとの間の距離Eoと、再生信号と任意のパターンとの間の距離Eeとの間の距離差D=Ee−Eoが求められる。次に、複数の再生信号のサンプルについて距離差Dの分布が求められる。次に、求めた距離差Dの平均Mと求めた距離差Dの分布の標準偏差σとの比に基づいて、再生信号の品質評価パラメータ(M/σ)が定められる。そして、品質評価パラメータで表される評価指標値(Mgn)から、再生信号の品質が判断される。
【0010】
特許文献4「特開2005−196964号公報」には予め正パターンと対応する誤パターンの組み合わせを収納したテーブルを利用することによって、再生信号と正パターン及び誤パターンのユークリッド距離の差を計算し、その平均値と標準偏差から求めた推定ビットエラー率SbER(Simulated bit Error Rate)を求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−141823号公報
【特許文献2】特開2005−346897号公報
【特許文献3】特開2003−151219号公報
【特許文献4】特開2005−196964号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys., Vol.43, pp.4850 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載されている最も確からしい状態遷移列と2番目に確からしい状態遷移列、及び特許文献3に記載されている正パターンと誤パターンはそれぞれ再生信号との距離を測定するべき目標ビット列という意味で同じものである。特許文献2及び特許文献3では目標ビット列が3つあるが、同じ意味のものである。以下、これらを総称して評価ビット列と呼ぶことにする。また、本発明ではBDシステムを基本として、30GB以上の大容量化を図ることを目指しているため、以下、変調符号の最短ラン長2Tを前提として説明を進める。
【0014】
非特許文献1に記載されているように、高密度記録を実現するためには、拘束長が5以上のPRML方式が適する。前述のように、BDの光学系条件(波長405nm、対物レンズ開口数0.85)では線方向に記録密度を高めた場合、容量が約31GB以上で2T繰り返し信号の振幅がゼロになる。このとき、PRML方式としては2T繰り返し信号の目標振幅がゼロのPR(1,2,2,2,1)ML方式等が適することは周知のことである。PR(1,2,2,2,1)ML方式に対応した再生信号評価方法としては、特許文献4に開示されたSbERがある。SbERは2値化ビット列(正パターン)の他に2番目に確からしい評価ビット列(誤パターン)として、正パターンとのハミング距離が1(エッジシフト)、ハミング距離が2(2Tデータのシフト)、ハミング距離が3(2T-2Tデータのシフト)を用いて、それぞれの分布をガウス分布と見なして、その平均値と標準偏差から誤差関数を用いてビットエラー率を推定するものである。
【0015】
BD規格を基本として記録容量が30GB以上の光ディスクシステムを実現するために必要な高精度の記録条件の調整技術に求められる性能について以下に示す。これには、少なくとも調整結果に基づいて記録したデータの品質について、
(1)SbER等やビットエラー率等が十分に小さいこと、
(2)1台のドライブ装置で記録したデータの品質は他のドライブ装置においても、SbER等やビットエラー率等が十分に小さいこと、
の少なくとも2点が求められる。以上の2つの要求性能の観点から、従来技術とそれらの組み合わせから類推される技術の課題について説明する。
【0016】
先ず、高密度化に伴うユークリッド距離差の分布について説明する。ここで扱うユークリッド距離差とは、再生信号と誤目標信号とのユークリッド距離から再生信号と正目標信号とのユークリッド距離を減算した値であって、特許文献1では|Pa−Pb|、特許文献3及び4ではD値として定義されたものである。
【0017】
理想的な記録状態を考察するために、シミュレーションを用いた。SNRを24dBとし、記録密度を25から36GB/面相当の範囲(T=74.5nm〜51.7nm)で変化させて、2Tの連続数が2(ハミング距離3以下)までのユークリッド距離差の分布を求めた。再生信号処理系の構成は前述の通りである。結果を図2に示す。この分布はSAM分布と呼ばれることもある。前述のように、PR(1,2,2,2,1)ML方式においては、エッジシフト(ハミング距離1)の理想ユークリッド距離=14、2Tシフト(ハミング距離2)及び2個連続2Tシフト(ハミング距離3)の理想ユークリッド距離=12、と異なるので、これらをまとめて表示するために、各ユークリッド距離差は理想ユークリッド距離で割って規格化して表示してある。同図において、距離差がゼロ(左側の端)又は負になる場合の統計的な確率がビットエラー率に相当するものである。図に見られるように、記録密度の向上によって同じSNRであっても分布の広がりが大きくなることが判る。これは、記録密度の向上に対応して、エラー率が増加することを示すものである。一方、各分布の平均値(ピーク値と概略等しい)について注目すると、エッジシフトの場合には1(=理想ユークリッド距離)の近傍で一定となっている。しかしながら、連続する2Tがシフトする場合においては、2Tの連続数が1個、2個と増加するのに従って、かつ記録密度が向上するのに従って、ピーク値が、ゼロに近づく方向へと移動していくことが判る。この現象の理由は、適応等化器の処理能力に依存したものと考えることができる。上に示した公知文献の中にはこの現象に関する記載はないことを付記しておく。
【0018】
前述の2つの要求性能の観点から、従来技術とそれらの組み合わせから類推される技術の課題についてまとめる。
非特許文献1、特許文献1、特許文献2に記載の方法は、共に理想ユークリッド距離=14のエッジシフトだけに着目する方法である。このため、図2に示したように、高密度条件下では、エッジシフトに比較して、2Tシフト(ハミング距離2以上)方が分布の広がりが大きく、記録調整において無視することができない。したがって、これらの従来技術では高密度条件での記録調整方法として、前述の要求性能(1)に鑑みて十分とは言えないことが判る。
【0019】
特許文献3に記載の方法は、誤ビット列についてもラン長制限を満たすように選択しているため、エッジシフトだけでなく2Tが連続してシフトするケースについても、指標とSbER(又はビットエラー率)との相関に優れた方法である。しかしながら、着目するエッジの左右シフトに対して統計的なエラー確率が等しくなるようにして記録調整を実施するため、左右シフトの評価ビット列のハミング距離が異なる場合には、それぞれSNRに対する影響が異なり、記録調整の結果がドライブ装置ごとに異なるため、前述の要求性能(2)に鑑みて十分とは言えないことが判る。
【0020】
以上のように、BDシステムに基づいて容量が30GB/面以上となるような高密度記録条件に対応する記録条件の調整に関して、従来の技術では調整性能と互換性の保証の両立という点に関して十分とは言えないという課題があった。本発明で解決しようとする課題は、これらの課題を解決する新規な再生信号評価方法を提供すること、及びこれに基づく記録調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明ではBDシステムを基本として、30GB以上の大容量化を図ることを目指しているため、以下、変調符号の最短ラン長は2Tを前提として説明を進める。また、前述のように、実験結果から2Tの連続数が2までを扱うSbERは良好にビットエラー率と一致するため、再生信号品質の評価の指標としてSbERを前提として、本発明による記録調整用の評価指標について説明する。
【0022】
本発明の概念は、2つの目標信号と再生信号とのユークリッド距離の差に従う評価指標において、着目するエッジのシフトに対応する成分とSNRに依存する成分を分離して評価を行うことにある。初めにこれらの課題を満足する評価指標の定義を示し、その後、課題を満足していることを示すことにする。
【0023】
以下、再生信号をW、再生信号から得られた2値化ビット列(最尤ビット列)の目標信号をT、2値化ビット列の注目するエッジを1ビット左にシフトさせ、かつラン長制限を満たす左シフトビット列の目標信号をL、2値化ビット列の注目するエッジを1ビット右にシフトさせ、かつラン長制限を満たす右シフトビット列の目標信号をRとする。W,T,R,L間のユークリッド距離をED(W,T)、ED(W,R)のように表すことにする。注目するエッジが左方向にシフトする誤りについての評価値をxL、右方向にシフトする誤りについての評価値をxRとして、これら等価エッジシフトと呼び以下で定義する。
【0024】
【数1】

【0025】
シフトビット列が共に存在する場合に以下で定義する。
【0026】
【数2】

【0027】
また、左シフトビット列のみが存在する場合には以下で定義する。
【0028】
【数3】

さらに、右シフトビット列のみが存在する場合には以下で定義する。
【0029】
【数4】

【0030】
注目するエッジとマーク長と先行(もしくは後続)するスペース長が同じ、すなわち同一の記録パルス条件にて記録されるエッジの集団について、記録調整に用いるエッジシフト量をDの統計平均値Δとして、以下で定義する。
【0031】
【数5】

【0032】
ただし、Nは測定したエッジの総数、Dはn番目のエッジの拡張エッジシフトである。
【0033】
式(D1)から式(D4)によって定義される本発明の評価指標を以下、L−SEAT(run-length-Limited Sequence Error for Adaptive Target)と呼び、式(D4)に定義したΔをL−SEATシフトと呼ぶ。本発明の再生信号評価方法は、L−SEATによって再生信号の品質を評価するものであり、本発明の記録調整方法は、記録パルスの条件を変化させながら記録再生を行い、対応するエッジに関してL−SEATシフトの絶対値が最小となるように記録パルスの条件を調整するものである。
【0034】
以上の定義において、図2の結果に基づいて、最尤ビット列と左シフトビット列、及び最尤ビット列と右シフトビット列のハミング距離を等しくすることによって、SNRによるエッジシフト評価結果の変動を抑圧することが可能である。また、図2の結果に基づいて、エッジシフト(ハミング距離=1)の場合には分布の平均値が理想ユークリッド距離差(=1)からのずれが十分に小さいため、左右のシフトビット列と最尤ビット列のハミング距離が異なる場合には、ハミング距離=1のビット列のみを用い、式(D3−2)又は式(D3−3)を用いて拡張エッジシフトDを算出する。
【0035】
図3に具体的な評価ビット列の関係をまとめる。左シフトビット列及び右シフトビット列は、2値化ビット列(=最尤ビット列)に所定の判定ビット列が含まれる場合に、2値化ビット列と対応するマスクビット列との排他的論理和演算によって生成することができる。マスクビット列は判定ビット列と同じ長さのビット列であって、ビット反転に対応する位置に「1」の値をもつ。マスクビット列に含まれる「1」の総数はハミング距離を示している。図に示すように、判定ビット列は全部で8個あり、それぞれ左シフトビット列と右シフトビット列の生成方法及び拡張エッジシフトの算出方法は以下のようになる。
(1)2値化ビット列に判定ビット列「000111」もしくは「111000」が含まれる場合
マスクビット列「001000」を用いて左シフトビット列を、マスクビット列「000100」を用いて右シフトビット列をそれぞれ生成し、式(D3-1)に従って拡張エッジシフトを算出する。
(2)2値化ビット列に判定ビット列「000110」もしくは「111001」が含まれる場合
マスクビット列「001000」を用いて左シフトビット列を生成し、式(D3-2)に従って拡張エッジシフトを算出する。
(3)2値化ビット列に判定ビット列「100111」もしくは「011000」が含まれる場合
マスクビット列「000100」を用いて右シフトビット列を生成し、式(D3-3)に従って拡張エッジシフトを算出する。
(4)2値化ビット列に判定ビット列「1110011000」もしくは「0001100111」が含まれる場合
マスクビット列「0010100000」を用いて前記左シフトビット列を、マスクビット列「0000010100」を用いて右シフトビット列をそれぞれ生成し、式(D3-1)に従って拡張エッジシフトを算出する。
【0036】
以下、式(D1)と式(D2)を算出する上の留意点について示す。ここに述べる内容は、PRML方式に対応して再生信号の品質評価を行うことが可能な一般の技術者にとって、常識的な事柄であるので、詳細な記述は控える。PR(1,2,2,2,1)ML方式を前提とすると、図に示した判定ビット列の左右に2ビットずつ「00」, 「01」, 「10」, もしくは「11」を付加したものが、目標信号をT、L、Rを生成するために必要である。これらはラン長制限によって、1つの判定ビット列に対して9個存在し、例えば判定ビット列「000111」に対して「0000011100」、「0000011110」、「0000011111」、「10011100」、「1000011110」、「1000011111」、「1100011100」、「1100011110」、「1100011111」である。また、式(D1)、式(D2)における、ユークリッド距離の算出区間は、目標信号TとL、もしくはTとRの値が異なる区間に限ることが効率的である。例えば、2値化ビット列中に判定ビット列「000111」が検出された場合、式(D1)の算出区間は判定ビット列の左端から5ビット(5T、もしくは5クロックを示す)、式(D2)の算出区間は判定ビット列の右端から5ビットである。このように、ユークリッド距離算出に必要なビット列を列挙した場合、図3に示した評価ビット列は、特許文献4に記載されたSbERをPR(1,2,2,2,1)ML方式に適用する場合に必要な54組(108個)の評価ビット列と等価となる。
【0037】
以下、本発明の効果を示すために、33GB容量におけるシミュレーション結果を示す。
図4は、図2の結果において、先行スペースが2Tである2Tマークの分布とSAM分布を示す。図4(a)に見られるように、エッジシフトがゼロの場合、L,Rの分布の平均値は理想ユークリッド距離差(=1)とは異なるが、両者は誤差範囲で同じ平均値を持つ。一方、図4(b)に見られるように、エッジシフトがゼロでない場合には、L,Rの分布の平均値は逆方向に分離する。したがって、L,Rシフトの分布の平均値が一致するように記録パルスのパラメータを調整することによって、良好な記録条件を得ることができることが判った。L,Rシフトに対して符号つきでエッジシフトを評価するため、L−SEATシフト=0の条件は、それぞれの分布の平均値が等しいことを意味する。したがって、両者の平均値が理想値(=1)と異なっている場合に対応することが可能となる。
【0038】
図5は、図4のシミュレーションにおいてL−SEATの拡張エッジシフトの分布を示したものである。シミュレーションにおける記録マークのエッジシフトに応じて、着目するエッジの分布が移動しており、正しい評価が実現できることが判る。
【0039】
図6は、SNRを変化させた場合の着目するエッジのシフトの評価結果の変化を示すシミュレーション結果である。ここでは特許文献3に記載されたEcを検出窓幅Tの単位に規格化したものEc’と本発明によるL−SEATシフトΔを比較した。記録容量の条件は33GBとした。図にみられるように本発明の方法によって、従来の技術に比較して、SNRによるエッジシフト評価値の変化が大幅に低減されることが判る。
【発明の効果】
【0040】
以上のように、本発明の記録調整方法によって、BDにおいて30GB相当以上の高密度記録を実現する光ディスクにおいて、調整精度と互換性を両立することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】再生信号評価回路の構成例を示すブロック図。
【図2】記録容量とユークリッド距離差の分布の関係を示す図。
【図3】評価ビット列を表す図。
【図4】エッジシフトによるSAM分布(L,R)の変化を表すシミュレーション結果の図。
【図5】エッジシフトによるL−SEAT分布の変化を表すシミュレーション結果の図。
【図6】SNRとEc’及びL−SEATシフトの関係を表すシミュレーション結果の図。
【図7】対称型自動等化器の構成例を示す図。
【図8】記録パルスの調整方法を示すフローチャート。
【図9】L−SEATによる記録調整の実験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して本発明による再生信号評価方法及び記録調整方法について実施形態を説明する。
【0043】
ここで、記録調整に用いるのに好適な適応等化器について説明する。
図7はタップ数が13の対称型適応等化器の構成例を示すブロック図である。実際のドライブ装置又は評価装置では、適応等化器のタップ係数の非対称性に基づく再生信号の時間軸方向の非対称が発生する。これらの時間軸方向の再生信号のひずみは、エッジシフトとして検出されるため、再生互換に優れた記録調整の障害となりうる。ここに示した対称型適応等化器はその解決手段を提供する。図において、図示しない光ディスク媒体から再生された再生信号51は図示しないA/D変換器によってディジタルデータに変換され、適応等化器22によって等化された後PRMLデコーダ23によって2値化され、2値化ビット列52が出力される。適応等化器の各タップ係数C0,C1,C2,…は2値化ビット列52に基づく目標信号と適応等化器22の出力信号のRMS誤差が最小になるように、自動的な学習処理が実施される。このアルゴリズムは一般的にLMS(Least Mean Square)法と呼ばれ、LMS回路62により実施される。本構成において、LMS回路によって更新されたタップ係数a0,a1,a2,…は一旦バッファ64に蓄えられ、FIRフィルタの実際の動作に用いるワークレジスタ65には、図示するように、時間軸方向に対称な位置のタップ係数(a0とa12等)の間で平均化された値を設定するようにする。このような構成によって、FIRフィルタによって構成された適応等化器はタップ係数が対称化され、記録マークのエッジシフトを歪めて再生することを防ぐことができるようになる。
【0044】
図1は本発明の記録調整方法を実施するのに好適な再生信号評価回路のブロック図である。図において、光ディスク媒体から得られた再生信号は、ローパスフィルター(LPF)、ハイパスフィルター(HPF)を介してA/D変換器でディジタルデータ化され、DC補正(DC Comp.)、自動ゲイン制御器(AGC)を介してPLL(Phase Locked Loop)ブロックでクロックごとのデータに変換され、前段等化器(pre-EQ)を介して適応等化器(LMS)で等化処理され、PR(1,2,2,2,1)ML復号器で2値化され2値化ビット列に変換される。L−SEAT算出ブロックは拡張エッジシフトの算出ユニットとパターン仕分けユニットから構成される。拡張エッジシフトの算出ユニットでは、前述のように2値化ビット列(=最尤ビット列)に所定のビット列が含まれる場合、少なくとも左シフトビット列と右シフトビット列の何れかを生成し、当該エッジの拡張エッジシフト量を算出する。パターン仕分けユニットでは2値化ビット列をパターン分析して拡張エッジシフトの値を記録パルス条件に対応したテーブル要素に振り分けて統計的な平均化処理を行う。こうした構成によって、種々の記録ストラテジに柔軟に対応して記録調整のための評価指標を算出することができる。
【0045】
図4及び図5を用いて説明したように、L−SEATシフトはSAM分布において、対応するエッジの左右シフトに対応する分布の平均値の差と等価である。したがって、評価するパターン数等に配慮することによって、SAM分布の平均値から求めることもでき、回路実装の都合に応じてどちらの算出方法でも選ぶことができる。また、L−SEATシフトはエッジのシフトの評価指標であるが、着目する記録マークの前後のエッジシフトの評価結果から、それらの差と平均値から、それぞれ容易に記録マークの長さのずれと位置のずれを得ることができる。記録ストラテジの構成や媒体の記録特性に応じて、前後のエッジシフト、もしくは長さと位置を指標として記録調整をすることは任意である。
【0046】
図8は記録パルスの調整方法の全体の流れを示すフローチャートである。ここでは前後のスペースに応じた4×4型の記録ストラテジの調整方法を示す。L−SEATによるエッジシフトの測定結果は前述の図1に示した再生システムによって4×4テーブルに仕分られる。このとき、記録ストラテジとL−SEATシフト評価指標は1:1の関係となる。記録パルスの条件を変更して光ディスク媒体に記録行い、当該個所を再生して対応するL−SEATのシフト値を評価し、これを最小にするように、記録パルスのパラメータを決定することによって、良好な記録パルスの条件を得ることができる。
【0047】
図9はL−SEATをい用いた記録パルスの条件調整の結果を示す実験データである。ここでは記録層を3層もつ媒体を試作して実験に用いた。記録容量は1層当たり33.3GBとした。ディスクのL0において、Tsfp(2s,2m)(先行スペースが2Tの場合の2Tマークの前エッジの制御パラメータ)を変化させながら、L−SEATシフト、SbERを測定した結果である。SbERについては通常の再生と同様に適応等化器のタップ係数の対称型制限をしない状態で測定を行った。記録パルスのエッジの調整単位はT/64とし、記録再生の線速度はデータ転送レートがBDの2倍速相当となる条件とした。図に見られるように、L−SEATシフトのゼロ点と及びSbERのボトム条件はT/64のパルス幅以下の精度で一致することが判る。一般に、記録パルス幅の調整単位はT/16程度であるので、これらの結果からL−SEATシフト及びL−SEATジッタを用いて、非常に良好な記録条件調整を実施することができることが確認できた。こうした調整を全ての記録パルスパラメータについて実施した結果、SbER値は3×10-3から1×10-7に改善した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、大容量光ディスクの記録調整方法に関するものである。
【符号の説明】
【0049】
21 A/D変換器
22 適応等化器
23 PRMLデコーダ
30 再生信号の評価回路
31 主ビット列判別回路
32 評価ビット列生成回路
33 ユークリッド距離計算回路
34 記録パルス対応パターン仕分け器
35 評価値集計回路
51 再生信号
52 2値化信号
53 等化再生信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最短ラン長が2Tの符号を用いて情報の記録を行い、適応等化方式とPR(1,2,2,2,1)ML方式を用いて前記情報の再生を行う光ディスクにおける再生信号評価方法であって、
前記適応等化方式として、FIRフィルタのタップ係数が中心対称となるような制限を設けたものを用いる工程と、
前記光ディスクから得た再生信号を前記PR(1,2,2,2,1)ML方式によって2値化して、最尤ビット列を得る工程と、
前記最尤ビット列の中から、着目する記録マークのエッジを左に1Tシフトさせ、最短ラン長が2T以上の制限を満たす左シフトビット列と、
前記最尤ビット列の中から、着目する記録マークのエッジを右に1Tシフトさせ、最短ラン長が2T以上の制限を満たす右シフトビット列と、
のうち、少なくとも1つを生成する工程と、
前記最尤ビット列と、前記左シフトビット列と前記右シフトビット列の少なくとも何れかに対応する目標信号を生成する工程と、
前記目標信号と前記再生信号のユークリッド距離差に基づいて、前記着目する記録マークの評価指標としてエッジシフト、長さ、もしくは位置を算出し、これらに基づいて前記再生信号の品質を評価する工程とを有し、
前記左シフトビット列及び前記右シフトビット列は、最尤ビット列とマスクビット列との排他的論理和演算によって得られるものであって、
前記最尤ビット列に「000111」もしくは「111000」が含まれる場合には、マスクビット列「001000」を用いて前記左シフトビット列を、マスクビット列「000100」を用いて前記右シフトビット列をそれぞれ生成する工程、
前記最尤ビット列に「000110」もしくは「111001」が含まれる場合には、マスクビット列「001000」を用いて前記左シフトビット列を生成する工程、
前記最尤ビット列に「100111」もしくは「011000」が含まれる場合には、マスクビット列「000100」を用いて前記右シフトビット列を生成する工程、
前記最尤ビット列に「1110011000」もしくは「0001100111」が含まれる場合には、マスクビット列「0010100000」を用いて前記左シフトビット列を、マスクビット列「0000010100」を用いて前記右シフトビット列をそれぞれ生成する工程、
を含むことを特徴とする再生信号評価方法。
【請求項2】
最短ラン長が2Tの符号を用いて情報の記録を行い、適応等化方式とPR(1,2,2,2,1)ML方式を用いて前記情報の再生を行う光ディスクにおける再生信号評価方法であって、
前記適応等化方式として、FIRフィルタのタップ係数が中心対称となるような制限を設けたものを用いる工程と、
前記光ディスクから得た再生信号を前記PR(1,2,2,2,1)ML方式によって2値化し、第1の2値化ビット列を得る工程と、
前記第1の2値化ビット列の中から、着目する記録マークのエッジを左又は右に1Tシフトさせたビット列として最短ラン長が2T以上の第2もしくは第3の2値化ビット列を生成する工程と、
前記第1から第3の2値化ビット列に対応する第1及び、第2と第3の少なくともいずれかの目標信号を生成する工程と、
前記第2の目標信号と前記再生信号のユークリッド距離と前記第1の目標信号と前記再生信号のユークリッド距離の差である第1のユークリッド距離差、及び前記第3の目標信号と前記再生信号のユークリッド距離と前記第1の目標信号と前記再生信号のユークリッド距離の差である第2のユークリッド距離差の少なくとも何れかを算出する工程と、
少なくとも、前記第1のユークリッド距離差と前記第2のユークリッド距離差のいずれかを用いて、前記着目する記録マークの評価指標としてエッジシフト、長さ、もしくは位置を算出し、これらに基づいて前記再生信号の品質を評価する工程とを有し、
前記着目する記録マークが2Tであり、かつそれに先行もしくは後続するスペースが2Tの場合には、前記第2及び第3の2値化ビット列と前記第1の2値化ビット列とのハミング距離が共に2であり、前記第1及び第2のユークリッド距離差に基づいて前記評価指標を算出し、
前記着目する記録マークが3T以上であり、かつそれに先行もしくは後続するスペースが3T以上の場合には、前記第2及び第3の2値化ビット列と前記第1の2値化ビット列とのハミング距離が共に1であり、前記第1及び第2のユークリッド距離差に基づいて前記評価指標を算出し、
前記着目する記録マークが2Tであり、かつそれに先行もしくは後続するスペースが3T以上の場合には、前記第2の2値化ビット列と前記第1の2値化ビット列とのハミング距離が1であり、前記第1のユークリッド距離差に基づいて前記評価指標を算出することを特徴とする再生信号評価方法。
【請求項3】
最短ラン長が2Tの符号を用いて情報の記録を行い、適応等化方式とPR(1,2,2,2,1)ML方式を用いて前記情報の再生を行う光ディスクにおける記録調整方法であって、
前記適応等化方式として、FIRフィルタのタップ係数が中心対称となるような制限を設けたものを用いる工程と、
前記光ディスクから得た再生信号を前記PR(1,2,2,2,1)ML方式によって2値化して、最尤ビット列を得る工程と、
前記最尤ビット列の中から、着目する記録マークのエッジを左に1Tシフトさせ、最短ラン長が2T以上の制限を満たす左シフトビット列と、
前記最尤ビット列の中から、着目する記録マークのエッジを右に1Tシフトさせ、最短ラン長が2T以上の制限を満たす右シフトビット列と、
のうち、少なくとも1つを生成する工程と、
前記最尤ビット列と、前記左シフトビット列と前記右シフトビット列の少なくとも何れかに対応する目標信号を生成する工程と、
該目標信号と前記再生信号のユークリッド距離差に基づいて、前記着目する記録マークの評価指標としてエッジシフト、長さ、もしくは位置を算出し、これらに基づいて前記情報を記録するための条件を調整する工程とを有し、
前記左シフトビット列及び前記右シフトビット列は、最尤ビット列とマスクビット列との排他的論理和演算によって得られるものであって、
前記最尤ビット列に「000111」もしくは「111000」が含まれる場合には、マスクビット列「001000」を用いて前記左シフトビット列を、マスクビット列「000100」を用いて前記右シフトビット列をそれぞれ生成する工程、
前記最尤ビット列に「000110」もしくは「111001」が含まれる場合には、マスクビット列「001000」を用いて前記左シフトビット列を生成する工程、
前記最尤ビット列に「100111」もしくは「011000」が含まれる場合には、マスクビット列「000100」を用いて前記右シフトビット列を生成する工程、
前記最尤ビット列に「1110011000」もしくは「0001100111」が含まれる場合には、マスクビット列「0010100000」を用いて前記左シフトビット列を、マスクビット列「0000010100」を用いて前記右シフトビット列をそれぞれ生成する工程、
を含むことを特徴とする記録調整方法。
【請求項4】
最短ラン長が2Tの符号を用いて情報の記録を行い、適応等化方式とPR(1,2,2,2,1)ML方式を用いて前記情報の再生を行う光ディスクにおける記録調整方法であって、
前記適応等化方式として、FIRフィルタのタップ係数が中心対称となるような制限を設けたものを用いる工程と、
前記光ディスクから得た再生信号を前記PR(1,2,2,2,1)ML方式によって2値化し、第1の2値化ビット列を得る工程と、
前記第1の2値化ビット列の中から、着目する記録マークのエッジを左又は右に1Tシフトさせたビット列として最短ラン長が2T以上の第2もしくは第3の2値化ビット列を生成する工程と、
前記第1から第3の2値化ビット列に対応する第1及び、第2と第3の少なくともいずれかの目標信号を生成する工程と、
前記第2の目標信号と前記再生信号のユークリッド距離と前記第1の目標信号と前記再生信号のユークリッド距離の差である第1のユークリッド距離差、及び前記第3の目標信号と前記再生信号のユークリッド距離と前記第1の目標信号と前記再生信号のユークリッド距離の差である第2のユークリッド距離差少なくとも何れかをを算出する工程と、
少なくとも、前記第1のユークリッド距離差と前記第2のユークリッド距離差のいずれかを用いて、前記着目する記録マークの評価指標としてエッジシフト、長さ、もしくは位置を算出し、これらに基づいて前記情報を記録するための条件を調整する工程とを有し、
前記着目する記録マークが2Tであり、かつそれに先行もしくは後続するスペースが2Tの場合には、前記第2及び第3の2値化ビット列と前記第1の2値化ビット列とのハミング距離が共に2であり、前記第1及び第2のユークリッド距離差に基づいて前記評価指標を算出し、
前記着目する記録マークが3T以上であり、かつそれに先行もしくは後続するスペースが3T以上の場合には、前記第2及び第3の2値化ビット列と前記第1の2値化ビット列とのハミング距離が共に1であり、前記第1及び第2のユークリッド距離差に基づいて前記評価指標を算出し、
前記着目する記録マークが2Tであり、かつそれに先行もしくは後続するスペースが3T以上の場合には、前記第2の2値化ビット列と前記第1の2値化ビット列とのハミング距離が1であり、前記第1のユークリッド距離差に基づいて前記評価指標を算出することを特徴とする記録調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−23069(P2011−23069A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167198(P2009−167198)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】