説明

再生医療製品の製造スケジュール管理システム

【解決手段】 第1細胞(表皮細胞)を培養する再生医療製品の製造工程と、再生医療製品の製造工程に必要な第2細胞(フィーダー細胞)を培養する第2細胞の培養工程とからなる製造スケジュールを管理する再生医療製品の製造スケジュール管理システムに関する。
入力手段に第1細胞の納期情報(必要時期)および数量情報(必要数量)を入力すると、第1細胞培養工程設定部が再生医療製品の製造工程を設定し、第2細胞必要数量算出部が上記再生医療製品の製造工程に必要となる第2細胞の必要数量を算出する。
第2細胞培養工程設定部が新たな第2細胞の培養工程を設定すると、判定部が当該新たな第2細胞の培養工程によって実際に第2細胞を培養できるか否かを判定する。
【効果】 新たな再生医療製品の製造工程が設定されると、自動的に第2細胞の培養工程を再設定し、かつその成否を判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再生医療製品の製造スケジュール管理システムに関し、詳しくは生体から採取された第1細胞を培養して製造される再生医療製品の製造工程と、該製造工程に必要な第2細胞を培養するための培養工程とを関連づけた製造スケジュールを管理する再生医療製品の製造スケジュール管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、患者から採取された細胞を培養してこれを患者に移植する自家移植が行われており、この自家移植を行うため、細胞の培養を専門的に行う製造施設において採取した細胞を培養すると共に、該培養した細胞を移植に適する形状にして再生医療製品として出荷することが行われている。
ここで、例えば第1細胞としての表皮細胞を培養する場合、第2細胞としてのフィーダー細胞(支持細胞)と呼ばれる別の細胞を用いることが知られている(特許文献1)。
一方、細胞を培養する際には、細胞を収容容器内の培地に播種する作業、上記培地を交換する作業、培養した細胞をさらに増殖させるために複数の収容容器へと継代する作業などが必要となる。
そして、上記再生医療製品は上記製造施設において複数並行して行われるため、上記培養工程に従事する作業者のスケジュール等を管理する再生医療製品の製造スケジュール管理システムが用いられている(引用文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3043727号公報
【特許文献2】特開2011−13752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記製造施設において新たに患者から採取した第1細胞を受け入れて、新たな再生医療製品の製造工程を設定しようとすると、作業者はこの新たな再生医療製品の製造工程で使用する第2細胞の必要数量を計算して、第2細胞の培養工程を設定し直さなければならず、しかも設定した第2細胞の培養工程が実際に成立するか否かについても検討しなければならない。
しかしながら、上記引用文献2に記載された再生医療製品の製造スケジュール管理システムでは、各細胞の培養工程を個別に管理しているため、再生医療製品の製造工程と第2細胞の培養工程とを関連させて管理するようにはなっていない。
このような問題に鑑み、本発明は新たな再生医療製品の製造工程が設定されると、第2細胞の培養工程を再設定し、さらに再設定した第2細胞の培養工程に基づいて製造スケジュール全体が実際に成立するか否かを判定する再生医療製品の製造スケジュール管理システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1にかかる再生医療製品の製造スケジュール管理システムは、生体から採取された第1細胞を培養して製造される再生医療製品の製造工程と、該製造工程に必要な第2細胞を培養するための培養工程とを関連づけた製造スケジュールを管理する、再生医療製品の製造スケジュール管理システムであって、
上記再生医療製品の納期情報および数量情報を入力する入力手段と、
該入力手段に入力された納期情報および数量情報から逆算して、当該再生医療製品の製造工程を設定する製造工程設定部と、
該製造工程設定部によって設定された再生医療製品の製造工程に必要な第2細胞の必要数量を算出する第2細胞必要数量算出部と、
該第2細胞必要数量算出部によって算出された第2細胞の必要数量に応じて、既に設定されている第2細胞の培養工程を再設定する第2細胞培養工程設定部と、
該第2細胞培養工程設定部で再設定した第2細胞の培養工程によって、実際に第2細胞を培養できるか否かを判定し、これにより上記製造スケジュールが成立するか否かを判定する判定部とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、入力手段に第1細胞の納期情報および必要数量を入力すれば、その納期情報および必要数量から逆算して再生医療製品の製造工程が設定され、この設定された再生医療製品の製造工程に応じて必要となる第2細胞の必要数量ならびに当該第2細胞の培養工程が自動的に再設定される。
そして再設定された第2細胞の培養工程については、判定部が実際に第2細胞を培養できるか否かを判定するため、培養スケジュール全体が成立するか否かについて判断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施例にかかる製造施設の構成図
【図2】再生医療製品の製造工程およびフィーダー細胞の培養工程を示したフローチャート
【図3】設備情報管理部に記憶される作業室の使用状況の表
【図4】設備情報管理部に記憶されるインキュベータの使用状況の表
【図5】作業者情報管理部に記憶される作業者の勤務状況の表
【図6】再生医療製品の製造スケジュール管理システムの動作を説明するフローチャート
【図7】表皮細胞培養工程設定部の動作を説明するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、図1は自家移植に用いる再生医療製品としての自家培養表皮を製造するための製造施設1の構成を示しており、このような製造施設1では多数の患者の自家培養表皮を製造するため、以下に説明する製造スケジュール管理システム2により製造スケジュールの管理を行っている。
上記自家培養表皮は、患者などの生体から採取された第1細胞としての表皮細胞を培養して製造され、上記表皮細胞を培養する際は、該表皮細胞を第2細胞としてのフィーダー細胞(3T3細胞等)を使用することで効率的に培養を行うことが可能であり、上記表皮細胞をフィーダー細胞の収容された収容容器に播種することで、表皮細胞を移植に必要な数量まで増殖することができる。
そして培養した表皮細胞は、その後移植に適した形状に形成されるとともに所要の容器内に梱包されて、再生医療製品として上記製造施設1から病院へと出荷されるようになっている。
そして上記製造施設1では、多数の患者の表皮細胞の培養を行うとともに、いつでも表皮細胞の受け入れ可能な状態を維持するため、フィーダー細胞の培養を継続して行うようになっている。
【0009】
以下、図2を用いて製造施設1において行われる表皮細胞を培養して製造される再生医療製品の製造工程と、フィーダー細胞の培養工程とを関連づけた製造スケジュールについて説明する。
まずフィーダー細胞の培養工程から説明すると、作業者は所要の培地が収容されたフラスコ等の収容容器に、予め冷凍保存されていたフィーダー細胞を解凍し、これを播種する播種作業(A1)を行う。
上記播種作業(A1)によってフィーダー細胞の培養が行われ、該フィーダー細胞が増殖する間、作業者は所要の間隔で上記収容容器内の培地を交換する培地交換作業(A2)を行う。
そして収容容器の内部でフィーダー細胞が培養されると、作業者は当該収容容器内のフィーダー細胞の一部を取り出し、これを他の収容容器に播種する継代作業(A3)を行う。
上記継代作業を行う際、増殖したフィーダー細胞を複数の収容容器に対して播種することで、フィーダー細胞の収容容器を複数得ることが可能となり、これら複数のフィーダー細胞の収容容器は、その後フィーダー細胞の培養を継続する場合と、上記表皮細胞の培養に供する場合とにそれぞれ使用される。
そして上記継代作業は、繰り返し行うことで上記フィーダー細胞をさらに増殖させることができ((A4)〜(An))、また各継代作業と継代作業との間には図示しないが上記培地交換作業が行われる。
なお、フィーダー細胞に継代限界(所定の回数しか継代ができない)がある場合、製造施設1では上記継代作業を行いつつ、並行して新たなフィーダー細胞の解凍ならびに播種を行う必要があるが、図2では簡略的に説明するため、上記継代作業の繰り返しによりフィーダー細胞を増殖させる記載となっている。
そして本実施例の製造施設1では、上記継代作業や新たなフィーダー細胞の解凍ならびに播種作業を、所定の日数ごとに決められた間隔で行うようになっている。
【0010】
次に上記表皮細胞の培養を行うとともにこれを梱包する再生医療製品の製造工程について説明する。まず、病院において患者から表皮が採取されると、この表皮は製造施設1に搬送され、作業者によって所要の検査が行われる(B1)。
続いて、作業者は表皮を表皮細胞の状態まで分離する分離作業を行い(B2)、この分離した表皮細胞を上記フィーダー細胞の培養工程で得られたフィーダー細胞の収容容器に播種する播種作業を行う(B3)。
この表皮細胞をフィーダー細胞に播種することで表皮細胞の初代培養が行われ、その際には播種する表皮細胞の数に応じて複数のフィーダー細胞の収容容器を使用する。
次に、作業者は所要の間隔で表皮細胞の検査を行い、同時に上記収容容器内の培地を交換する培地交換作業を行う(B4)。
そして収容容器の内部で表皮細胞が増殖されると、作業者は当該収容容器内の表皮細胞の一部を取り出し、これを上記フィーダー細胞の培養工程で得られたフィーダー細胞の収容容器に播種する継代作業を行う(B5)。
上記継代作業は、複数のフィーダー細胞の収容容器に対して行われ、これにより表皮細胞を収容した収容容器が複数得られ、移植に必要な数の表皮細胞を増殖させることが可能となる。
そして上記継代作業の後、作業者は所定の間隔で再度表皮細胞の検査や、培地の交換を行う培地交換作業を行う(B6)。なお上記表皮細胞の増殖にともない、上記フィーダー細胞は徐々に収容容器から駆逐される。
なお、上記継代作業については、表皮細胞の必要数量、すなわち移植に必要な表皮細胞の数量に応じて複数回繰り返すことが可能であり、その際には上述したようにそのつど上記フィーダー細胞の収容容器が使用される。
【0011】
次に、上記表皮細胞の受け入れから培養した表皮細胞の出荷日までの間に相当の日数がある場合には、必要に応じて培養した表皮細胞を凍結する凍結作業を行い(B7)、その場合にはその後解凍作業を行う(B8)。
上記解凍作業を行う場合には、解凍した表皮細胞をこのフィーダー細胞の収容容器に播種する必要があり、この際にも複数のフィーダー細胞の収容容器が使用される。
【0012】
続いて、凍結作業を行った場合も行わなかった場合も、培養した表皮細胞を移植手術に好適なシート状へと培養するシート化培養作業を行う(B9)。
このシート化培養作業から所定の日数が経過すると、収容容器の内部には表皮細胞がシート状に配列した自家培養表皮が形成され、続いて培養した自家培養表皮が出荷可能か否かを検査する出荷検査作業と(B10)、自家培養表皮を所定の容器に梱包し、再生医療製品として出荷する梱包・出荷作業を行う(B11)。
そして、このようにして製造施設1から出荷された再生医療製品としての自家培養表皮は、病院において患者に移植されることとなる。
【0013】
そして図2に示すように、製造施設1においては、複数の患者の表皮細胞を並行して培養しており、その場合上記フィーダー細胞の培養工程からは、上記複数の表皮細胞の培養工程に対してそれぞれ必要な時に必要な数量のフィーダー細胞を提供しなければならない。
具体的に例示すると、図2において、製造工程Aの解凍作業(B8)と、製造工程Bの継代作業(B5)とを同時期に行う必要がある場合、フィーダー細胞はこれらの各作業に対してそれぞれ所定個数必要となる。
そのため、これらの作業が行われる時に必要数量のフィーダー細胞が得られるよう、予めフィーダー細胞の培養工程を再設定しなければならず、ここでは継代作業(A6)において上記必要数量のフィーダー細胞を収容した複数のフィーダー細胞の収容容器を準備する必要がある。
【0014】
上記製造施設1について説明すると、該製造施設1には、上記製造工程の各作業を行うための複数の作業室3と、表皮細胞やフィーダー細胞を培養するための複数のインキュベータ4とを備え、これらの利用や上述した製造工程やフィーダー細胞の培養工程を管理するため、上記製造スケジュール管理システム2が設けられている。
上記作業室3の内部はクリーンな状態に維持され、安全キャビネットなど培養工程に必要な機材、器具が一式準備されている。
また作業室3を利用する際には、交差汚染を防止するために一人の患者の表皮細胞を扱うようになっており、上記作業室3を使用した後は該作業室3の内部は清掃されるようになっている。
さらに上記表皮細胞の製造工程において、上記出荷検査作業および梱包・出荷作業は同時に行う必要がある場合、これらの作業を行うために2つの作業室3が同時に使用されるようになっている。
上記インキュベータ4は、フィーダー細胞の培養のためと、表皮細胞の培養のためにそれぞれ備えられており、表皮細胞の培養では交差汚染を防止するため一つのインキュベータ4に一人の患者の表皮細胞を収容するようになっている。
【0015】
上記製造スケジュール管理システム2は、従来公知のサーバー11および製造施設1の各部屋に設置されたクライアント12とから構成され、これらサーバー11およびクライアント12はLAN等の通信手段13によって通信可能に接続されている。
上記サーバー11およびクライアント12はそれぞれマウスやキーボードなどの入力手段14ならびにモニターなどの表示手段15を備え、上記通信手段13を介して上記クライアント12の入力手段14によってサーバー11の操作を行うことが可能であり、またクライアント12の表示手段15にはサーバー11内のデータを表示させることも可能となっている。
上記サーバー11は、以下に説明するデータが格納されたハードディスク等の記憶手段16と、上記記憶手段16に記憶されたデータをもとに演算を行うCPU等の演算手段17とを備えている。
なおこのようなサーバー11およびクライアント12の構成については従来公知であるため詳細な説明は省略する。
【0016】
そして上記サーバー11の記憶手段16には、上記再生医療製品に関する製造スケジュールが登録されたスケジュール管理部21と、再生医療製品の製造工程のパターンが登録された製造パターン管理部22と、上記作業室3やインキュベータ4の利用状況が登録された設備情報管理部23と、上記作業者に関する情報が登録された作業者情報管理部24と、過去の培養実績が登録された培養実績記憶部25とが設定されている。
上記スケジュール管理部21には、図2に示すようなフィーダー細胞の培養工程および複数の再生医療製品の製造工程とが関連づけられた製造スケジュールが登録されており、後述するように新たな再生医療製品の製造工程が追加されたり、予定の変更や培養の不良が入力されると、その内容が更新されるようになっている。
上記パターン管理部22には、予めフィーダー細胞の培養工程および再生医療製品の製造工程がそれぞれ複数パターン登録されており、例えば再生医療製品の製造工程の所要日数に応じて継代作業の回数を増減させたものや、上記凍結作業の有無などのパターンが登録されている。また、登録されている内容も自由に変更することが可能である。
【0017】
上記設備情報管理部23には、上記作業室3およびインキュベータ4の利用状況が管理されており、図3、図4に示すような所定の作業室3における表皮細胞の継代作業等の実施状況や、所定のインキュベータ4で培養される表皮細胞の識別記号等が登録されている。
上述したように、上記作業室3およびインキュベータ4は、交差汚染を防止するためにそれぞれ1人の患者の細胞しか持ち込むことができないため、例えば図3に示す5つの作業室3のすべてで同時に各種の作業が行われているとすると、これ以上同じ時間に新たな作業を設定することはできない。
また、再生医療製品の製造工程における出荷検査作業と梱包・出荷作業には同時に2つの作業室3を使用するため、これらの作業を行う場合には残りの3つの作業室3しか使用できないこととなる。
さらに、例えば図4に示す5つのインキュベータ4のすべてで表皮細胞およびフィーダー細胞の培養を行っている場合には、新たな再生医療製品の製造工程を行うことができないこととなる。
【0018】
上記作業者情報管理部24には、製造施設1で再生医療製品の製造工程やフィーダー細胞の培養工程に従事する作業者に関するデータが管理されており、各作業者の氏名、各作業者が有するスキル、各作業者の勤務状況等が管理されている。
上記作業者のスキルとは、例えば上記再生医療製品の製造工程における播種作業や継代作業等の各作業に必要な能力をいい、各作業者毎に、例えば継代作業はできるものの、上記出荷検査作業や梱包・出荷作業はできない等の情報が登録されている。
図5は作業者の勤務状況の表を示し、各作業者がどの日時にどの作業を行うかを示したものである。ここには図示しないが当該作業者が担当する作業をどの作業室3で行うか、またどのインキュベータ4の細胞を扱うかについても参照することが可能となっている。
例えば、Aという作業者だけが出荷検査作業を行える場合、このAという作業者がある時間に出荷検査作業を行っている場合、これと同じ時間には出荷検査作業を行うことができないこととなる。
【0019】
上記培養実績記憶部25には、過去に行った培養工程に関する培養実績が登録されており、行われた培養工程の各作業の日時やその際に処理した収容容器の個数、また各作業を行った作業者や使用した設備についてのデータが登録され、再生医療製品を出荷した後のトレーサビリティーに利用することが可能となっている。
特に培養実績記憶部25は、過去のフィーダー細胞の培養可能数量が登録された培養可能数量記憶部として機能するようになっており、フィーダー細胞の培養工程で実際に培養を行うことで得られたフィーダー細胞の培養数量が、記憶されている培養可能数量を超えた場合、この培養数量が新たな培養可能数量として更新されるようになっている。
なお上記培養可能数量とは、過去の培養実績に限らず、様々な条件に基づいて設定し、記憶させておくことができる。
【0020】
上記演算手段17は、新たに追加する再生医療製品の製造工程を設定する製造工程設定部31と、新たな再生医療製品の製造工程に使用するフィーダー細胞の必要数量を算出する第2細胞必要数量算出部32と、上記フィーダー細胞の必要数量に応じてフィーダー細胞の培養工程を再設定する第2細胞培養工程設定部33と、上記再生医療製品の製造工程およびフィーダー細胞の培養工程のそれぞれに必要な設備を割り当てる設備割当部34と、上記再生医療製品の製造工程およびフィーダー細胞の培養工程のそれぞれに所要の作業者を割り当てる作業者割当部35と、製造スケジュールが実際に成立するか否かを判定する判定部36とが備えられている。
以下図6を用いて、上記演算手段17を構成する各部の機能を、上記製造スケジュール管理システム2によって再生医療製品の製造工程およびフィーダー細胞の培養工程とを関連づけた製造スケジュールを管理する手順とともに説明する。
最初に、病院から製造施設1に対して再生医療製品の製造依頼について問い合わせがあると、作業者は上記製造スケジュール管理システム2の入力装置を用いて、表皮の受け入れ情報、治療に必要な再生医療製品の納期情報および数量情報を入力する(C1)。
すると、上記演算手段17を構成する製造工程設定部31が、上記入力手段14に入力された納期情報および数量情報から逆算して、当該再生医療製品の製造工程を設定する(C2)。
【0021】
ここで、上記製造工程設定部31による再生医療製品の製造工程の設定手順を図7を用いて詳細に説明する。
上記入力手段14に製造すべき再生医療製品についての該納期情報および数量情報が入力されると(D1)、製造工程設定部31は上記記憶手段16における上記製造パターン管理部22を参照する(D2)。
パターン管理部22には様々なパターンの再生医療製品の製造工程が登録されているため、製造工程設定部31は、現在の日付から上記納期までの日数や、上記再生医療製品の数量情報に応じて、利用可能な製造工程のパターンを表示手段15に表示させる(D3)。
作業者は、表示された複数の再生医療製品の製造工程(場合によっては1つの製造工程)の中から、適当な製造工程を選択する(D4)。
例えば、現在の日時から上記までの日数が長い場合、表皮の採取時期および処理開始日を遅くした製造工程や、採取する表皮を少なくする代わりに培養(製造)期間を長くした製造工程や、上記凍結作業により表皮細胞を凍結保存する製造工程等を選択することが可能となる。
このようにして作業者が適当な製造工程を選択すると、製造工程設定部31は選択された再生医療製品の製造工程を上記スケジュール管理部21に新たに追加登録する(D5)。
【0022】
このように新たな再生医療製品の製造工程を設定すると、製造工程設定部31はさらに、上記入力手段14に入力された該納期情報および数量情報と、新たな再生医療製品の製造工程とから、播種作業に必要な表皮細胞の採取量、換言すると患者から採取すべき表皮の面積を算出する(C3)。
この表皮細胞の採取量の算出には、予め登録された表皮細胞の増殖に関する予測式を用いることができ、上記新たな再生医療製品の製造工程から逆算して、採取すべき表皮細胞の採取量を算出するものとなっている。
【0023】
このようにして新たな再生医療製品の製造工程が設定されると、上記第2細胞必要数量算出部32が当該新たな再生医療製品の製造工程に使用するフィーダー細胞の必要数量を算出する(C4)。
具体的に説明すると、最初に上記新たな再生医療製品の製造工程と、患者から採取される表皮細胞の採取量とから、上記再生医療製品の製造工程の播種作業や継代作業において、それぞれどれだけの表皮細胞が培養されているかについて、予め登録された予測式を用いて予測する。
このとき、この再生医療製品の製造工程の各作業で培養される表皮細胞の培養数量から、予め登録された予測式を用いて、当該各作業で使用するフィーダー細胞の必要数量、換言すると必要なフィーダー細胞の収容容器の個数を算出する。
そして第2細胞必要数量算出部32は、上記再生医療製品の製造工程の中から、上記フィーダー細胞を使用する各作業の納期情報(必要時期)についても認識する。
【0024】
このようにしてフィーダー細胞の必要数量が算出されると、第2細胞培養工程設定部33は、当該フィーダー細胞の必要数量に応じて、既に上記スケジュール管理部21に設定されている既存のフィーダー細胞の培養工程を、新たなフィーダー細胞の培養工程へと再設定する(C5)。
具体的に説明すると、上記新たな再生医療製品の製造工程を設定することにより、既存のフィーダー細胞の培養工程によって培養されるフィーダー細胞の培養数に追加して、新たな再生医療製品の製造工程のために使用するフィーダー細胞が増加することとなり、しかもこの増加したフィーダー細胞は、上記新たな再生医療製品の製造工程における各作業までに準備されていなければならない。
このため第2細胞培養工程設定部33は、上記新たな再生医療製品の製造工程における各作業までに上記必要数量のフィーダー細胞が得られるよう、上記再生医療製品の製造工程における各作業までに行われるフィーダー細胞の培養工程における継代作業において、該継代作業で使用する収容容器の数を増加させる変更を行う。
例えば図2において再生医療製品の製造工程Aの解凍作業(B8)と、再生医療製品の製造工程Bの継代作業(B5)とが同時期に行われる場合には、フィーダー細胞の培養工程の継代作業(A6)において、上記作業に必要なフィーダー細胞が得られるよう、該継代作業(A6)の内容を変更する。
このようにして、第2細胞培養工程設定部33は、新たに必要となるフィーダー細胞の必要数量とその納期情報(必要時期)とから、新たなフィーダー細胞の培養工程を再設定し、この新たなフィーダー細胞の培養工程を上記スケジュール管理部21へと登録する。
【0025】
新たなフィーダー細胞の培養工程が再設定されると、上記判定部36は当該新たなフィーダー細胞の培養工程によって、実際にフィーダー細胞を培養できるか否かを判定し、結果として上記製造スケジュールが成立するか否かを判定する(C6)。
具体的には、上記第2細胞培養工程設定部33では、所定の継代作業で使用する収容容器の数を増加させる変更を行っているが、その増加した収容容器の個数が上記継代作業ができないほどの個数、換言すると当該継代作業に用いるフィーダー細胞が足りない場合に、上記算出した必要数量のフィーダー細胞が得られないこととなる。
判定部36は、上記継代作業ができるか否かを判定するため、上記培養実績記憶部25に記憶されたフィーダー細胞の培養実績を参照し、上記新たなフィーダー細胞の培養工程における継代作業で培養されるフィーダー細胞の培養数が、上記過去の培養実績を超えている場合には、そのフィーダー細胞の培養工程が成立しないものと判定する。
そして、フィーダー細胞の培養工程が成立しない場合、当然上記新たな再生医療製品の製造工程も成立しなくなることから、上記スケジュール管理部21に登録した製造スケジュール全体が成立しないこととなる。
上記判定部36により上記新たなフィーダー細胞の培養工程が成立するものと判定された場合には、以下に説明する設備割り当ての手順へと進み、フィーダー細胞の培養工程が成立しないものと判定された場合、判定部36は上記表示手段15に製造スケジュールが成立せず、上記再生医療製品の出荷ができないことを表示する。
このとき、上記再生医療製品の製造工程を見直すことができ、上記製造工程設定部31は先に提示した再生医療製品の製造工程の案とは異なるパターンの培養工程を提示し、その後上述した手順をやり直すことで、フィーダー細胞の培養工程を成立させることができる。
【0026】
上記判定部36がフィーダー細胞の培養工程が成立すると判定すると、上記設備割当部34が再生医療製品の製造工程およびフィーダー細胞の培養工程のそれぞれに必要な設備を割り当てる(C7)。
具体的には、過去にスケジュール管理部21に設定されていた既存の製造スケジュールにおいてすでに所要の作業室3およびインキュベータ4が割り当てられていることから、設備割当部34は設備情報管理部23を参照して、作業室3およびインキュベータ4の空き状況を認識しながら、新たな再生医療製品の製造工程に必要な設備を割り当てる。
このとき、上記再生医療製品の製造工程における検査作業と梱包・出荷作業とは同時に行う必要があることから、これらの作業を行う際にはは2つの作業室3を同時に使用する必要がある。
そして判定部36は、上記設備割当部34が上記作業室3およびインキュベータ4の両方を新たな再生医療製品の製造工程に割り当てることができるか否かを判定する(C8)。
判定部36が各設備の割り当てが可能であることを判定した場合、次に説明する作業者の割り当て手順へとすすみ、割り当てができないことを判定した場合には、表示手段15に製造スケジュールが成立せずに出荷できないことを表示する。
【0027】
上記判定部36が各設備の割り当てが可能であると判定すると、上記作業者割当部35が再生医療製品の製造工程およびフィーダー細胞の培養工程のそれぞれに適する作業者を割り当てる(C9)。
具体的には、過去にスケジュール管理部21に設定されていた既存の製造スケジュールにおいてすでに所要の作業者が割り当てられていることから、作業者割当部35は上記作業者情報管理部24を参照して、作業者の勤務時間およびスキルを認識しながら、新たな再生医療製品の製造工程の各作業を担当する作業者を割り当てる。
このとき、例えば並行する2つの再生医療製品の製造工程において、上記検査作業を同時に行う必要があり、かつ上記作業者のうち一人の作業者だけが上記検査作業のスキルを有している場合には、一方の再生医療製品の製造工程における検査作業を行えないので、その場合には作業者を割り当てることができないこととなる。
そして判定部36は、上記作業者割当部35が上記作業者を新たな再生医療製品の製造工程に割り当てることができるか否かを判定する(C10)。
上記判定部36が作業者の割り当てができないことを判定した場合、表示手段15に製造スケジュールが成立しないことを表示し、上記再生医療製品の製造依頼を拒否すべき旨の表示を行う。
一方、判定部36が製造スケジュールの成立する旨の判定を行うと、表示手段15に表皮細胞の出荷が可能である旨表示を行い、作業者はその旨の連絡を病院に対して行うことができる(C11)。
【0028】
以上のように、本実施例にかかる製造スケジュール管理システム2によれば、上記表皮細胞を培養するためにフィーダー細胞を並行して培養するような場合であっても、新たな再生医療製品の製造工程を自動的に設定して、かつ当該再生医療製品の製造工程で使用されるフィーダー細胞の培養工程を自動的に再設定することが可能となっている。
また再設定したフィーダー細胞の細胞工程によって、実際にフィーダー細胞を培養できるか否かを、上記判定部36が判定するため、作業者がフィーダー細胞の培養工程の再検討を行う必要がなく、特に複数の再生医療製品を並行して製造する場合、適切な量のフィーダー細胞を必要な納期に併せて準備できるため、効率よくフィーダー細胞の培養工程を設定することができる。
さらに製造スケジュール管理システム2によれば、設定した再生医療製品の製造工程やフィーダー細胞の培養工程に関する製造指図書や各作業の指示書、使用する薬剤等の準備書、作業記録書、製造報告書等、各種帳票類の作成や出力も可能となっている。
【0029】
なお、上記実施例では第1細胞として表皮細胞を、第2細胞としてフィーダー細胞を培養する場合について説明しているが、この組合せに限定されることなく、第1細胞と第2細胞とを共培養する培養過程を含む製造工程の場合には、上記培養管理システムを用いることができる。
たとえば、メラノ細胞と表皮細胞とを特定の比率で共培養する場合には、上記表皮細胞と並行してメラノ細胞を培養する必要があり、またこのメラノ細胞は上記表皮細胞の培養数量と関連して培養する必要があることから、表皮細胞を第1細胞としメラノ細胞を第2細胞として本発明に係る上記再生医療製品の製造スケジュール管理システムを用いることで、効率的にこれらの培養を行うことができる。
【符号の説明】
【0030】
1 製造施設
2 再生医療製品の製造スケジュール管理システム
3 作業室 4 インキュベータ
11 サーバー 12 クライアント
14 入力手段 15 表示手段
16 記憶手段 17 演算手段
31 製造工程設定部
32 第2細胞必要数量算出部
33 第2細胞培養工程設定部
34 設備割当部 35 作業者割当部
36 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から採取された第1細胞を培養して製造される再生医療製品の製造工程と、該製造工程に必要な第2細胞を培養するための培養工程とを関連づけた製造スケジュールを管理する、再生医療製品の製造スケジュール管理システムであって、
上記再生医療製品の納期情報および数量情報を入力する入力手段と、
該入力手段に入力された納期情報および数量情報から逆算して、当該再生医療製品の製造工程を設定する製造工程設定部と、
該製造工程設定部によって設定された再生医療製品の製造工程に必要な第2細胞の必要数量を算出する第2細胞必要数量算出部と、
該第2細胞必要数量算出部によって算出された第2細胞の必要数量に応じて、既に設定されている第2細胞の培養工程を再設定する第2細胞培養工程設定部と、
該第2細胞培養工程設定部で再設定した第2細胞の培養工程によって、実際に第2細胞を培養できるか否かを判定し、これにより上記製造スケジュールが成立するか否かを判定する判定部とを備えることを特徴とする再生医療製品の製造スケジュール管理システム。
【請求項2】
上記再生医療製品の製造工程および第2細胞の培養工程のそれぞれに必要な設備の利用状況を記憶する設備情報管理部と、
該設備情報管理部に記憶された設備の利用状況に応じて、上記製造工程設定部で設定した再生医療製品の製造工程と、上記第2細胞培養工程設定部で再設定した第2細胞の培養工程とにそれぞれ必要な設備を割り当てる設備割当部とを備え、
上記判定部は、上記設備割当部が上記設備を再生医療製品の製造工程および第2細胞の培養工程に割り当てることができない場合に、上記製造スケジュールが成立しないものと判定することを特徴とする請求項1に記載の再生医療製品の製造スケジュール管理システム。
【請求項3】
上記再生医療製品の製造工程および第2細胞の培養工程を行う作業者と、該作業者の有するスキルに関する情報を記憶する作業者情報管理部と、
該作業者情報管理部に記憶された作業者および該作業者の有するスキルに応じて、上記製造工程設定部で設定した再生医療製品の製造工程と、上記第2細胞培養工程設定部で再設定した第2細胞の培養工程とにそれぞれ適する作業者を割り当てる作業者割当部とを備え、
上記判定部は、上記作業者割当部が上記作業者を再生医療製品の製造工程および第2細胞の培養工程に割り当てることができない場合に、上記製造スケジュールが成立しないものと判定することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の再生医療製品の製造スケジュール管理システム。
【請求項4】
上記第2細胞の培養可能数量を記憶する培養可能数量記憶部を備え、
上記判定部は、上記第2細胞培養工程設定部で再設定した第2細胞の培養工程によって培養される第2細胞の培養数量が、上記培養可能数量記憶部に記憶された第2細胞の培養可能数量を超える場合に、当該培養工程によっては第2細胞を培養できないものと判定することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の再生医療製品の製造スケジュール管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−231811(P2012−231811A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100359(P2011−100359)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(399051858)株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング (21)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】