説明

再生希土類および希土類の再生方法

【課題】 放電プラズマ焼結法により、簡易かつ安価に再生希土類を得ることができる再生希土類および希土類の再生方法を提供する。
【解決手段】本発明の再生希土類は、希土類を含有する廃棄物を、放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結することにより生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生希土類および希土類の再生方法に関し、特に、放電プラズマ焼結(SPS)を用いた再生希土類および希土類の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気特性が高い高性能磁石には、ネオジム(Nd)やコバルト(Co)など、多くの希土類が使用されている。これらの希土類はレアアースと呼ばれ、希少性が高いことから、再利用が求められている。したがって、高性能磁石の製造過程において発生する廃棄物(工程屑など)を処理して、高性能磁石に用いられる希土類を再生し、高性能磁石に再利用されている。
【0003】
例えば、従来の高性能磁石の再利用手法は、廃棄物を雰囲気高周波溶解し、高性能磁石として再利用する構成となっていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−051418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、廃棄物の表面は酸化しているため、雰囲気高周波溶解をする場合に融点が高くしなければならず、廃棄物は簡単には溶解しないという問題点があった。したがって、廃棄物を溶解するために高温で加熱する必要があり、高温加熱の際に、高還元性の磁石溶湯によって坩堝を溶損したり、スラグが大量に発生したりすることにより、希土類の低歩留を招いていた。また、大量に発生したスラグを坩堝から分離することは困難であり、有毒性の高いボロンを含有するスラグを処理することも困難であった。また、表面酸化が著しい工程屑を溶解するためには、硝酸や過酸化水素などを用いて溶解する場合もあるが、コストが高くなっていた。
【0006】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、簡易かつ安価に希土類を再生することによる再生希土類および希土類の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の再生希土類は、希土類を含有する廃棄物を、放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結することにより生成される。
この構成によれば、放電プラズマ焼結法により、簡易かつ安価に再生希土類を得ることができる。
【0008】
本発明の再生希土類では、前記放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結することにより、前記希土類が還元される。
この構成によれば、放電プラズマ焼結装置のグラファイト部において還元作用が生じ、この還元作用によって簡易かつ安価に再生希土類を得ることができる。
【0009】
本発明の再生希土類では、前記廃棄物は、希土類磁石の工程屑である。
この構成によれば、希土類磁石の工程屑に豊富に含まれる希土類を再生することにより、再生希土類を希土類磁石に再利用することができる。
【0010】
本発明の再生希土類では、前記希土類は、ネオジム、サマリウム、プラセオジム、テルビウム、およびジスプロシウムのうち少なくとも1つを含む。
この構成によれば、希土類磁石の工程屑に豊富に含まれる希土類を再生することにより、再生希土類を希土類磁石に再利用することができる。
【0011】
本発明の再生希土類では、前記放電プラズマ焼結法による焼結処理の前段階で、前記廃棄物を焼成処理する。
この構成によれば、焼結処理の前段階で廃棄物を焼成処理することにより、廃棄物から水成分を蒸発させることで、水素の発生および廃棄物の発熱を抑制することができる。
【0012】
本発明の再生希土類では、前記焼成処理は、焼成温度600〜900℃および焼成時間300〜3600秒の条件下で行われ、次に焼成温度250〜500℃および焼成時間300〜3600秒の条件下で行われ、次に焼成温度100〜200℃および所定の焼成時間の条件下で行われる。
この構成によれば、廃棄物の含水率を適切に低下させることができる。
【0013】
本発明の再生希土類では、前記焼成処理は、焼成温度600〜900℃および焼成時間30〜45分の条件下で行われる。
この構成によれば、適切に焼成処理を行うことで、水素の発生および廃棄物の発熱を確実に抑制することができる。
【0014】
本発明の再生希土類では、前記焼成処理の前段階および前記焼結処理の後段階で、前記廃棄物を撹拌処理する。
この構成によれば、撹拌処理により廃棄物の自燃を促進させることで、効果的に廃棄物から水成分を蒸発させることができる。
【0015】
本発明の再生希土類では、前記撹拌処理は、ロータリードライヤーにより行われる。
この構成によれば、ロータリードライヤーにより撹拌処理することで、廃棄物の自燃を促進させるとともに、廃棄物を冷却することができる。
【0016】
本発明の再生希土類では、前記焼成処理は非酸化性雰囲気内で行われる。ここで、非酸化性雰囲気とは、不活性ガスの他、真空も含む。
この構成によれば、非酸化性雰囲気内で焼成処理を行うことで、焼成処理において廃棄物が酸化するのを防止し、廃棄物が酸化する際に生じる発熱を防止することができる。
【0017】
本発明の希土類再生方法は、希土類を含有する廃棄物を、放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結する。
この構成によれば放電プラズマ焼結法により、簡易かつ安価に再生希土類を得ることができる。
【0018】
本発明の希土類再生方法では、前記放電プラズマ焼結法による焼結処理の前段階で、前記廃棄物を焼成処理する。
この構成によれば、焼結処理の前段階で廃棄物を焼成処理することにより、廃棄物から水成分を蒸発させることで、水素の発生および廃棄物の発熱を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、希土類を含有する廃棄物を、放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結することにより、簡易かつ安価に再生希土類を得ることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態で用いた焼成処理における熱処理工程を示した図である。
【図2】本実施の形態で用いた熱処理工程を経た廃棄物の含水率をそれぞれ示した図である。
【図3】本実施の形態で用いた放電プラズマ焼結装置の基本構成図を示したものである。
【図4】本実施の形態で用いた放電プラズマ焼結装置による焼結過程を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態の再生希土類および希土類再生方法について説明する。本実施の形態では、希土類磁石であるネオジム鉄ボロン磁石の廃棄物(Nd−Fe−B)から再生される希土類および希土類再生方法について説明する。
【0022】
ネオジム鉄ボロン磁石はそれ自体が焼結合金である。ネオジム鉄ボロン磁石の仕上げ工程で表面を、SiCを含む砥石で研磨する。この時に、ネオジム鉄ボロンのスラッジ(研削屑)が発生する。この他、ネオジム鉄ボロン磁石の製造工程で、大量のスラッジが廃棄物として発生する。ただし、スラッジは酸化されているため、そのままでは再利用することができない。
【0023】
本実施の形態では、ネオジム鉄ボロン磁石の廃棄物から希土類を再生することで、ネオジム鉄ボロン磁石と同様の組成物が再生される。具体的には、ネオジム鉄ボロン磁石の廃棄物を、放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結することにより、再生希土類が生成される。
【0024】
なお、放電プラズマ焼結法による焼結処理の前段階で、廃棄物は焼成処理される。図1は、焼成処理における熱処理工程を示した図である。図1に示す熱処理工程では、3段階の工程が行われる。高温熱処理、中温熱処理、および低温熱処理が行われる。高温熱処理では、焼成温度600〜900℃および焼成時間300〜3600秒で廃棄物を焼成する。中温熱処理では、焼成温度250〜500℃および焼成時間300〜3600秒で廃棄物を焼成する。低温熱処理では、焼成温度100〜200℃および所定の焼成時間で廃棄物を焼成する。
【0025】
図2は、図1の熱処理工程を経た廃棄物の含水率をそれぞれ示した図である。図2に示すように、3段階の熱処理工程を経るにつれて、廃棄物の含水率が低下する。
【0026】
焼成処理の後、廃棄物は、放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結される。放電プラズマ焼結装置のグラファイト部において還元作用が生じ、この還元作用によって簡易かつ安価に再生希土類を得ることができる。
【0027】
本実施の形態においては、放電プラズマ焼結装置(SPSシンテックス(株)製SPS−520)を用いて焼結した。図3は、本実施の形態で用いた放電プラズマ焼結装置10の基本構成図を示したものである。放電プラズマ焼結装置10は、焼結ダイス9にセットされた試料を、上部パンチ7および下部パンチ8で加圧しながら、低電圧でパルス状大電流を投入し、火花放電現象により生じる放電プラズマを利用して焼結を行う。本実施の形態では、図4に示すように、焼結ダイスとして、グラファイト製の内径約20mm、高さ40mmのものを使用し、焼結ダイスと試料の剥離に厚さ0.2mmのカーボンシートを用いる。
【0028】
本実施の形態では、希土類磁石の生産過程から回収された廃棄物を焼結ダイスに収容し、ダイスのパンチを通じて35MPaで加圧した状態で、さらにパルス電流を通電して700℃〜950℃(好ましくは、850℃〜950℃、さらに好ましくは、850℃〜900℃)まで昇温して行い、ここで5〜15分間(好ましくは、10分間)保持したのち電流を切って冷却した。焼結の際の焼結室の真空度は約3Paであった。
【0029】
以上の方法により生成された焼結体は着磁性を示した。したがって、希土類磁石の生産過程から回収された廃棄物をSPS法によって高密度に焼結することで、酸化物を還元し、簡易かつ安価に再生希土類を得ることができることがわかった。焼結体の酸素含有量は、2重量%以下(好ましくは0.2重量%以下)であることが好ましい。上記方法では、真空中で焼結を行ったが、窒素ガス、アルゴンガス、水素ガスあるいはこれらに混合ガスなどの不活性ガス中で行うことができる。
【0030】
また、ネオジム鉄ボロン磁石の仕上げ工程の際に、砥石の成分であるSiCが希土類磁石の廃棄物に混入する場合であっても、放電プラズマ焼結法による焼結処理の過程で、炭素が酸素と結び付いて気化し、廃棄物から炭素が取り除かれる。
【0031】
以上、本発明にかかる実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、必要に応じて変更・変形することが可能である。
【0032】
例えば、Nd−Fe−Bなどのスラッジに焼成処理を施して水分を蒸発させるとともに、スラッジを酸化させてスラッジを安全な状態にし、希土類を含む成分をスラッジから磁選して砥石成分を除去する。そして、SPS法によりスラッジを固形化および脱酸して、研削工程を加える前の希土類磁石の組成に回帰させてもよい。これにより、製品となる希土類磁石と同等の組成を持った固形物の製造を行う。
【0033】
また、Nd−Fe−Bなどのスラッジを真空で乾燥させて水分を蒸発させ、希土類を含む成分をスラッジから磁選して砥石成分を除去してもよい。この場合、乾燥されたNd−Fe−Bのスラッジは約60℃で発火するため、磁選およびSPS処理は約60℃以下(好ましくは、約30℃)の条件下で行われてもよい。この構成によれば、焼成処理を行わずにスラッジを真空で乾燥させることができるので、酸素の消費や炭酸ガスの発生を低減させることができる。
【0034】
また、焼成処理は、真空中またはアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気中で行われてもよい。この構成によれば、非酸化性雰囲気内で焼成処理を行うことで、焼成処理において廃棄物が酸化するのを防止し、廃棄物が酸化する際に生じる発熱を防止することができる。この場合、非酸化性雰囲気で焼成処理した後、焼成処理が行われたのと同一の非酸化性雰囲気で、SPS処理が行われてもよい。
【0035】
また、本実施の形態の焼成処理の他にも、バッチ炉を用いて、焼成温度600〜900℃および焼成時間30〜45分で廃棄物を焼成し、撹拌することで自燃を促進させてよい。そして、焼成処理された廃棄物を1日放置して冷却してもよい。焼結処理の前段階で廃棄物を焼成処理することにより、廃棄物から水成分を蒸発させることで、水素の発生および廃棄物の発熱を抑制することができる。
【0036】
また、バッチ炉の焼成処理後に1日放置された廃棄物を、ロータリードライヤーを用いて撹拌処理および冷却処理してもよい。
【0037】
また、焼成処理を行わずに、希土類磁石の廃棄物に、そのまま放電プラズマ焼結法による焼結処理を施してもよい。
【0038】
また、希土類磁石の廃棄物に、真空焼鈍炉で焼鈍処理を施して、放電プラズマ焼結法による焼結処理を施してもよい。
【0039】
また、上述の廃棄物は、ネオジム鉄ボロン磁石の他に、サマリウムコバルト磁石
、プラセオジム磁石 、およびサマリウム鉄窒素磁石の何れかの廃棄物であってよい。また、廃棄物には、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)、およびジスプロシウム(Dy)のうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0040】
なお、本実施の形態では、ネオジム鉄ボロン磁石について説明したが、本発明は、その他の希土類磁石(例えば、サマリウムコバルト磁石、プラセオジム磁石、およびサマリウム鉄窒素磁石)にも適用可能である。さらに、希土類磁石の他、希土類を含む廃棄物の再生にも、本発明は適用可能である。例えば、本発明によれば、ガラス研磨剤、紫外線吸収ガラス添加剤、水素吸蔵合金(ニッケル水素二次電池向け)、自動車排ガス浄化触媒、石油精製用接触分解触媒(FCC触媒)、蛍光体、携帯電話用コンデンサー、パソコン用コンデンサー、フィルター・センサー等のセラミック製品等の廃棄物から、再生希土類を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明にかかる再生希土類および希土類の再生方法は、放電プラズマ焼結法により、簡易かつ安価に再生希土類を得ることができるという効果を有し、希土類磁石の再生として有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 特殊焼結電源(パルス電源)
2 制御装置
3 特殊加圧機構
4 水冷真空チャンバー
5 上部パンチ電極
6 下部パンチ電極
7 上部パンチ
8 下部パンチ
9 焼結ダイス
10 放電プラズマ焼結装置
P 荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類を含有する廃棄物を、放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結することにより生成されることを特徴とする再生希土類。
【請求項2】
前記放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結することにより、前記希土類が還元されることを特徴とする請求項1に記載の再生希土類。
【請求項3】
前記廃棄物は、希土類磁石の工程屑であることを特徴とする請求項1または2に記載の再生希土類。
【請求項4】
前記希土類は、ネオジム、サマリウム、プラセオジム、テルビウム、およびジスプロシウムのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の再生希土類。
【請求項5】
前記放電プラズマ焼結法による焼結処理の前段階で、前記廃棄物を焼成処理することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の再生希土類。
【請求項6】
前記焼成処理は、焼成温度600〜900℃および焼成時間300〜3600秒の条件下で行われ、次に焼成温度250〜500℃および焼成時間300〜3600秒の条件下で行われ、次に焼成温度100〜200℃および所定の焼成時間の条件下で行われることを特徴とする請求項5に記載の再生希土類。
【請求項7】
前記焼成処理は、焼成温度600〜900℃および焼成時間30〜45分の条件下で行われることを特徴とする請求項5に記載の再生希土類。
【請求項8】
前記焼成処理の前段階および前記焼結処理の後段階で、前記廃棄物を撹拌処理することを特徴とする請求項5乃至7の何れかに記載の再生希土類。
【請求項9】
前記撹拌処理は、ロータリードライヤーにより行われることを特徴とする請求項8に記載の再生希土類。
【請求項10】
前記焼成処理は非酸化性雰囲気内で行われることを特徴とする請求項5乃至9のいずれかに記載の再生希土類。
【請求項11】
希土類を含有する廃棄物を、放電プラズマ焼結法によって非酸化性雰囲気において焼結することにより生成することを特徴とする希土類再生方法。
【請求項12】
前記放電プラズマ焼結法による焼結処理の前段階で、前記廃棄物を焼成処理することを特徴とする請求項11に記載の希土類再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−92359(P2012−92359A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237913(P2010−237913)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(505282880)株式会社林商会 (3)
【Fターム(参考)】