説明

再生樹脂の製造方法、用再生樹脂、リサイクル方法およびリサイクルプラスチック

【課題】 廃棄物中に大量に含まれる熱硬化性樹脂を含むプラスチックの処理方法において、再生樹脂成分のベンゼン環に結合する、水酸基とメチレン基とのオルト/パラ比の調整が可能な再生樹脂の製造方法、再生樹脂、リサイクル方法およびリサイクルプラスチックを提供する。
【解決手段】 水とフェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、熱硬化性樹脂を含むプラスチックを分解および/または可溶化処理した後に、得られた処理回収物を、温度150℃以上でpHを上昇または下降させる再配列処理工程により、フェノール核に結合したメチレン基を切断および/または再結合せしめることを特徴とする成形材料用再生樹脂の製造方法、さらに、前記製造方法により得られた再生樹脂を成形材料の原料として再利用する、プラスチックのリサイクル方法、ならびに再生樹脂を原料として再利用してなるリサイクルプラスチック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生樹脂の製造方法、再生樹脂、リサイクル方法およびリサイクルプラスチックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの中でも熱硬化性樹脂は、優れた電気絶縁性・耐熱性・機械的強度を示すため、電気・電子部品、自動車部品等の材料として広く用いられている。熱硬化性樹脂は、一旦、硬化すると、熱により軟化・融解せず、溶剤にも溶解しないため、その硬化物から有価な化学原料を再生することは、技術的に困難であった。しかし、環境保全と資源循環型社会構築の必要性が検討されている昨今、熱硬化性樹脂のリサイクルに関しても様々な研究が行われている。
【0003】
これらの課題を克服するため、超臨界流体を用いて熱硬化性樹脂を可溶化処理して、化学原料を回収する方法に関する検討がなされている。例えば、超臨界又は亜臨界状態の、単核フェノール化合物又は水/単核フェノール化合物の溶液中で熱硬化性樹脂を可溶化処理して、樹脂成分のオリゴマーを回収する方法が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法では、酸触媒やアルカリ触媒などを加えることなく、10分間程度の短い反応時間で熱硬化性樹脂が可溶化して、分子量200〜10,000のオリゴマー成分を回収でき、そのオリゴマーは化学原料として再利用可能であるとしている。
【0004】
上記の方法によるプラスチックのリサイクルにおいて、高温・高圧下で処理を行うため、再生する樹脂成分の、ベンゼン環に結合する水酸基とメチレン基とが配位する部位のオルト選択性が高くなり、その結果、通常の合成樹脂と比較するとハイオルトな構造を有する場合があった。また、ハイオルトな再生樹脂成分を用いたリサイクル成形材料は、硬化速度が大きくなるため速硬化性の材料以外には適合しない可能性がある。さらに、速硬化以外の用途に再生樹脂成分を用いた場合には、十分に混練する前に硬化してしまうという問題があった。これに対し、再生樹脂成分のオルト/パラ比を低減するためには、プラスチックの分解および/または可溶化処理温度を低く設定すれば良いが、処理速度が著しく低下し長い処理時間を要するといった問題があるため、再生樹脂成分のオルト/パラ比を調整することは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−151933号公報(第3−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、再生する樹脂成分の、ベンゼン環に結合する水酸基とメチレン基とのオルト/パラ比を容易に短時間で調整することが可能な、再生樹脂の製造方法、再生樹脂、リサイクル方法およびリサイクルプラスチックを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、
(1) 水とフェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、フェノール樹脂を含むプラスチックを分解および/または可溶化処理した処理生成物に含まれる再生樹脂成分を構成する、ヒドロキシフェニレン基とメチレン基で構成される基において、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に結合されたメチレン基の結合位置を、再配列処理することにより再生樹脂を製造する方法であって、前記再配列処理は、温度150℃以上で反応溶媒のpHを調整することにより、前記メチレン基の結合を切断しこれを前記ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に再結合させて行うことを特徴とする再生樹脂の製造方法、
(2) 前記再配列処理は、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基の結合位置を示すオルト/パラ比を調整するものである、第(1)項に記載の再生樹脂の製造方法、
(3) 前記再配列処理において、前記pHを7以上に上昇させることにより、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基とのオルト/パラ比を増加させる、第(1)項または第(2)項に記載の再生樹脂の製造方法、
(4) 前記再配列処理において、前記pHを7未満に下降させることにより、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基とのオルト/パラ比を低減させる、第(1)項または第(2)項に記載の再生樹脂の製造方法、
(5) 前記pHの調整は、酸添加処理および/またはアルカリ添加処理により行うものである、第(1)項〜第(4)項のいずれかに記載の再生樹脂の製造方法、
(6) 前記再配列処理の温度が、150℃〜300℃の範囲である第(1)項〜第(5)項のいずれかに記載の再生樹脂の製造方法、
(7) 前記第(1)項〜第(6)項のいずれかに記載の再生樹脂の製造方法により得られる再生樹脂、
(8) 前記再生樹脂は、200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とする化合物である第(7)項に記載の再生樹脂、
(9) 前記第(1)項〜第(6)項のいずれかに記載の再生樹脂の製造方法により得られる再生樹脂または第(7)項ないし第(8)項に記載の再生樹脂を、プラスチックの原料として再利用することを特徴とする、リサイクル方法、
(10) 第(7)項または第(8)項に記載の再生樹脂を含んでなるリサイクルプラスチック、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フェノール樹脂を含むプラスチックの処理において、再生する樹脂成分の、ベンゼン環に結合する水酸基とメチレン基とのオルト/パラ比を容易に短時間で調整することが可能な、再生樹脂の製造方法を提供することができる。さらに得られた再生樹脂をリサイクルプラスチックに利用でき、特に成形材料の原料としてリサイクルに好適である。また、リサイクル成形材料の硬化速度および流動性の制御が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、水とフェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、フェノール樹脂を含むプラスチックを分解および/または可溶化処理して得られた処理回収物に含まれる再生樹脂成分を構成する、ヒドロキシフェニレン基とメチレン基で構成される基において、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に結合されたメチレン基の結合位置を、再配列処理することにより再生樹脂を製造する方法であって、前記再配列処理は、温度150℃以上で反応溶媒のpHを調整することにより、前記メチレン基の結合を切断しこれを前記ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に再結合させて行うことを特徴とする再生樹脂の製造方法である。また、再生樹脂の製造方法により得られた再生樹脂をプラスチックの原料として再利用するリサイクル方法であり、且つ再生樹脂を原料として再利用してなるリサイクルプラスチックである。なお、本発明におけるプラスチックの処理とは、化学的な分解による処理、および/または、物理的な可溶化による処理を含むものである。
【0010】
本発明において、再配列とは、再生樹脂において、再生樹脂成分を構成する、ヒドロキシフェニレン基とメチレン基で構成される基において、前記メチレン基の結合を切断しこれを前記ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に再結合させて行うことにより、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に結合されたメチレン基の結合位置を、再配列するものであり、前記ヒドロキシフェニレン基におけるヒドロキシル基とメチレン基とがオルト位とパラ位に結合する比率であるオルト/パラ比を調整できるものである。
【0011】
本発明で処理されるフェノール樹脂を含むプラスチックは、硬化した樹脂、未硬化もしくは半硬化の樹脂、これらの樹脂を含有するワニスなどを含むものとする。また、単独の熱硬化性樹脂の他に、シリカ微粒子、ガラス繊維等の無機質充填材や、木粉等の有機質充填材を含む成形材料または成形品、ガラス織布およびガラス不織布のような無機質基材や、紙および布等の有機質基材を用いた積層板、これに銅箔等の金属箔を張り合わせた金属張り積層板、さらには銅張り積層板などを加工して得られるプリント回路板のような熱硬化性樹脂製品も含むものとする。
【0012】
本発明に適用されるプラスチックとしては、フェノール樹脂が含まれていれば、特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂など、フェノール樹脂を併用した樹脂を含むものであっても、特に効果的に適応できる。更には、フェノール樹脂を単独またはより多く含むものが、より好ましい。また、処理に供するプラスチックの形状や大きさには、特に制限はなく、粉砕に要するコスト、分解速度を考慮して、適当な大きさに粉砕すればよいが、通常は、粒子径1000μm以下であり、好ましくは500μm以下、さらに好ましくは250μm以下である。
【0013】
1.再生樹脂の製造方法
1.1プラスチックの分解・可溶化
プラスチックを分解・可溶化する方法としては、前記フェノール樹脂を含むプラスチックを、フェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、分解および/または可溶化することにより、処理生成物が得られ、これには、前記プラスチックに含まれるフェノール樹脂成分より得られる再生樹脂成分が含まれる。
(a)溶媒
本発明に用いるフェノール化合物は、芳香環の炭素に結合する水素の少なくとも一つが水酸基に置換しており、単独又は水との混合物として、プラスチックを分解および/または可溶化処理し得るフェノール化合物であれば、特に限定されない。前記フェノール化合物としては、通常、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、及びアルキル置換フェノールなどの単核フェノール化合物、または、1−ナフトール、2−ナフトールなどの2核フェノール化合物などが好適に挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。これらの内、コスト面及び分解および/または可溶化反応に与える効果から、フェノールが好ましい。また、前記フェノール化合物が、本発明の再生樹脂の製造方法の工程において、プラスチックを分解および/または可溶化した後、分離・精製して得られるフェノール化合物を含むものを用いることができる。
【0014】
尚、本発明における、処理生成物に含まれる再生樹脂成分を構成する、ヒドロキシフェニレン基とメチレン基で構成される基において、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に結合されたメチレン基の結合位置を再配列する処理によって、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に結合されたヒドロキシル基とメチレン基とのオルト/パラ比を調整する処理工程においては、反応系内の、処理するプラスチックが分解して生成するフェノキシメチレンカルボニウムイオンの存在量によって調整される。これは、ランダムな配位性を有するフェノキシメチレンカルボニウムイオンが存在することによって、高温・高圧下における樹脂成分の再配列反応のオルト選択性が低下するためである。前記フェノキシメチレンカルボニウムイオンは水が無い状態では生成し難く、その存在量は溶媒中の水分の存在比に比例するため、溶媒中の水分が多いほどオルト/パラ比は低下し、溶媒中の水分が少ないほどオルトパラ比は増大する傾向がある。また、本発明における溶媒中の水分量としては、前記オルト/パラ比率の調整を効率的にする上で、処理するプラスチックに対して1〜100重量部の割合で用いることが好ましく、さらに好ましくは10〜80重量部である。
【0015】
前記溶媒として、水とフェノール化合物以外の、他の溶媒との混合物を用いる場合、他の溶媒としては、メタノールおよびエタノール等のモノマーアルコール類、エチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、有機酸類、酸無水物類など、通常の化学反応において溶媒として用いられるものは、いずれを用いても良く、また、複数の溶媒を使用しても良い。また、フェノール化合物に対する他の溶媒の混合割合としては、フェノール化合物100重量部に対して他の溶媒1〜500重量部の割合で混合して用いることが好ましく、さらに好ましくは、フェノール化合物100重量部に対して他の溶媒1〜100重量部の割合である。
【0016】
また、本発明における、フェノール化合物を必須成分とする溶媒の使用割合は、プラスチック100重量部に対して、50〜1000重量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは100〜400重量部の範囲である。反応溶媒が前記下限値よりも少なくなると、プラスチックの分解および/または可溶化反応を円滑に進行させるのが困難になることがある。一方、前記上限値よりも多くなると、反応溶媒を加熱するために多大な熱量を必要とし熱エネルギーの消費が多くなる反面、格別な効果が得られない場合がある。
【0017】
プラスチックの分解・可溶化においては、処理速度を促進する触媒を用いた方がより効果的である。その場合の触媒としては、特に限定はないが、例えば、ブレンステッド塩基・ルイス塩基、あるいは、天然無機・有機化合物、さらには金属酸化物で水和反応等によって同等の効果を示す化合物などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
(b)処理条件
プラスチックの分解および/または可溶化処理条件としては、前記フェノール化合物を必須成分とする溶媒を温度及び圧力により調整することができる。前記温度としては、通常、100〜500℃の範囲が好ましく、より好ましくは200〜450℃の範囲である。温度が前記下限値よりも低くなると、プラスチックの分解および/または可溶化速度が低下し、短時間での処理が困難になる場合がある。一方、温度が前記上限値よりも高くなると、熱分解や脱水反応などの副反応が併発して、回収したプラスチックの樹脂成分の化学構造が変化するため、化学原料としての再利用が困難になる場合がある。また、前記圧力としては、通常、1〜60MPaが好ましく、より好ましくは2〜40MPaの範囲である。圧力が前記下限値よりも低くなると、分解および/または可溶化速度が低下してしまい、プラスチックの処理自体が困難になる場合がある。圧力が前記上限値より高くなると、より過酷な条件で運転可能な設備が必要となり、高圧を維持するために必要なエネルギーが増加する反面、分解および/または可溶化速度はほとんど向上せず、格段な効果が得られない場合がある。分解・可溶化工程の時間は、1〜60分の範囲で調節できるが、通常は3〜30分程度で処理が完了する。
【0019】
1.2pHおよび温度調整による再配列処理工程(再生樹脂成分の再配列反応工程)
上記フェノール樹脂を含むプラスチックを分解および/または可溶化処理した後に、連続して、あるいは処理生成物を一旦取り出してから以下に説明する工程を行う。pHおよび温度調整による再配列処理工程においては、pHを調整し、温度を一定の雰囲気下で保持し、再生樹脂成分を構成する、ヒドロキシフェニレン基とメチレン基で構成される基において、前記メチレン基の結合を切断しこれを前記ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に再結合させて行うことにより、再生樹脂成分の再配列反応を行い、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上におけるヒドロキシル基とメチレン基とのオルト/パラ比を調整することができる。
(a)pH調整
本発明における再配列処理工程におけるpHを調整する手段としては、酸添加処理、アルカリ添加処理により行うことができる。ここで、酸添加処理に使用する酸としては、塩酸および硫酸などの鉱酸や、シュウ酸および酢酸などの有機酸などが好適に挙げられ、pHを酸性側に調整して再配列反応を行うことによって、再生樹脂成分のオルト/パラ比を低減することが可能となる。一方、アルカリ添加処理に使用するアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムなどの天然および/または合成した金属水酸化物、酸化カリウム、酸化カルシウムおよび酸化マグネシウムなどの水との水和反応によりアルカリ性を発現する金属酸化物などが好適に挙げられ、それらの金属種カチオンのキレート力によって、その効果は異なるが、再生樹脂成分のオルトパラ比を増大させることが可能となる。
【0020】
(b)温度調整範囲
本発明の再配列処理工程における温度範囲としては、通常、150℃であればよく、150℃以上300℃以下であることが好ましい。前記温度範囲の上限を超えると、プラスチック中の樹脂成分の分解反応が進行して、樹脂成分の低分子量化が促進されてしまう場合がある。また、前記温度範囲の下限を下回ると、短時間で樹脂成分のオルト/パラ比の調整ができない場合がある。さらに、再配列処理工程の雰囲気としては、空気雰囲気下、窒素などの不活性ガス雰囲気下のどちらを選択してもよく、処理容器は開放系でも密封系でもどちらの系でも行うことができ、特に限定されることはないが、一例としてはオートクレーブをはじめとする加熱加圧処理容器などが挙げられる。再配列処理工程の時間は、1〜60分の範囲で調整できるが、通常は3〜30分程度で設定することが好ましい。
【0021】
2.再生樹脂
上記再生樹脂の製造方法で得られた再生樹脂は、通常、200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とする化合物を含むものである。ここで、本発明における分子量とは、重量平均分子量を意味するものとする。200〜100,000の分子量は、通常のフェノール樹脂など熱硬化性樹脂から構成されるプラスチック、中でも、成形材料を製造する際に用いられる化学原料(プレポリマー)と同程度であるため、必要に応じて精製を行うことによりプレポリマーとして再利用することができる。前記樹脂成分の代表的な例としては、プラスチックがフェノール樹脂で構成される場合、フェノール骨格の核間がメチレン結合で結合した、フェノール樹脂またはオリゴマーが挙げられる。その他の例としては、フェノール樹脂以外にメラミン樹脂で構成される場合、メラミン骨格の核間がメチレン結合で結合したメラミン樹脂構造を含むフェノール樹脂またはオリゴマー、フェノール樹脂以外にユリア樹脂で構成される場合、ユリア骨格の核間がメチレン結合で結合したユリア樹脂構造を含むフェノール樹脂またはオリゴマー、あるいは、これらそれぞれを含む場合、上記それぞれの樹脂またはオリゴマーや、フェノール骨格、メラミン骨格、ユリア骨格のそれぞれがメチレン結合で共重合した構造を含むフェノール樹脂などが挙げられるが、これらの成分は一例であり、前記樹脂成分は何ら限定されるものではない。ここで、200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とするとは、ここで示した分子量の樹脂成分が50%以上含まれることを言うが、主体とする分子量の他に、分子量100,000以上の樹脂成分も含まれる。また、200〜100,000の分子量を有する樹脂成分としては、通常のフェノール樹脂の場合は、原料モノマーの2〜1,000核体程度である。また、前記200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とする化合物は、プラスチック中のフェノール樹脂など樹脂成分から得られる成分だけでなく、プラスチック中に含まれる有機質系充填材や基材から得られる成分を含む場合がある。なお、前記再配列処理によって得られる樹脂成分のヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基の結合位置を示すオルト/パラ比は0.1〜10の範囲で調整されたものであり、pHを酸性側に調整することによってヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基の結合位置を示すオルト/パラ比を減少させることができ、アルカリ側に調整することによってヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基の結合位置を示すオルト/パラ比を増大させることができる。これらの中でも、成形材料に用いる場合、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基の結合位置を示すオルト/パラ比は1〜3程度が好ましい。
【0022】
再生樹脂は、処理を行った加熱加圧処理容器の内容物から、溶媒(フェノール化合物、水)及び残渣などを分離した後、成形材料の原料として再利用することができる。前記分離方法としては、特に限定されるものではなく、通常の固液分離で用いられる、サイクロン・ろ過・重力沈降などの方法が挙げられる。また、処理で得られた前記200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とする化合物と残渣とを含む混合物を、有機溶媒で希釈した後に、サイクロン・ろ過・重力沈降などの固液分離操作をしても良い。
【0023】
また、本発明においては、未反応の反応溶媒を分離し、これを溶媒として、フェノール樹脂を含むプラスチックの処理に再利用することができる。さらには、前記200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とする化合物に、蒸留や抽出などの方法を施し、フェノール化合物を分離・回収して、反応溶媒として再利用することができる。これらの再利用においては、必要に応じて、新たにフェノール化合物や水を加えても良い。ここで、未反応の反応溶媒を分離する方法には、特に限定はなく、フラッシュ蒸留、減圧蒸留、溶媒抽出など、いずれの方法を用いても良い。また、得られる再生樹脂には、上記の前記200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とする化合物以外に、フェノール化合物、水などの、未反応の反応溶媒が少量含まれていても良い。
【0024】
3.プラスチックのリサイクル
本発明のリサイクル方法においては、上記の再生樹脂の製造方法により得られた再生樹脂を、プラスチックの原料として再利用するものである。
【0025】
前記フェノール樹脂を含むプラスチックより得られる再生樹脂を、プラスチックの原料として再利用する方法としては、前記再生樹脂を他の原材料と混合して公知の製造方法により再利用できるが、その際、新たな樹脂成分を用いることなく前記再生樹脂だけを原材料として用いても良いし、他の化学原料および/または充填材と併用して用いても良い。前記再生樹脂の含有量としては、特に限定されないが、プラスチック全体に対して、好ましくは2〜80重量%であり、より好ましくは5〜60重量%である。
【0026】
前記プラスチックの化学原料として、前記再生樹脂を他の化学原料と併用する場合、併用する化学原料としては、特に限定されないが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂およびエポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。
例えば、プラスチックとして成形材料において、前記再生樹脂と前記樹脂の中でノボラック型フェノール樹脂を併用する場合、通常、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを使用するが、ヘキサメチレンテトラミンの含有量としては、通常のフェノール樹脂と同様に、前記再生樹脂とノボラック型フェノール樹脂の合計100重量部に対して、10〜25重量部が好ましい。前記樹脂成分とノボラック型フェノール樹脂の合計の含有量は、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを使用する場合はそれも含めて、プラスチック全体に対して20〜80重量%とすることが好ましく、さらに好ましくは30〜60重量%である。また、プラスチックの硬化速度を調整するために、必要に応じて酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどを硬化助剤として用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これによって何ら限定されるものではない。
【0028】
[実施例1]
(1)フェノール樹脂成形材料硬化物の処理
プラスチックとして、フェノール樹脂成形材料(住友ベークライト(株)製 PM−8200)の硬化物を粉砕後、篩わけして、粒子径を250μm以下に調整したものを用いた。
上記のフェノール樹脂成形材料硬化物:58.3gと、フェノール:85.6gと水:21.3gの混合物からなる反応溶媒とを混合する際に、塩基性触媒として、粉末状の水酸化カルシウム(関東化学社製)3.0gを加えた。上記の混合物を、オートクレーブ(日東高圧(株)製 内容積200cm3)に仕込んだのち、300rpmで攪拌しながら、内温を260℃とすることで、反応器内圧を2.5MPaまで上昇させ、20分保持して分解・可溶化処理を行った。続いて、内温を180℃に低下させることによって、反応器内圧を1MPaとした状態で、硫酸(関東化学社製)を1.0g注入して、pHを1.0に調整し、20分保持する再配列反応処理を行った後、空冷して、常温・常圧に戻した。前記処理による生成物と未反応溶媒の混合物から、常圧及び減圧条件下で、加熱することで、溶媒(フェノール、水)を分離して、樹脂成分88gを得た。この生成物を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させたのち、孔径1.0μmのフィルターでろ過して、ろ液をTHF可溶分とした。ろ過した後のフィルターに残存するTHF不溶残渣は、100℃で12時間乾燥させたのち、秤量した。
【0029】
その結果、THF不溶残渣のほとんどは、フェノール樹脂成形材料中の無機フィラーと塩基性触媒として添加した水酸化カルシウムであり、処理生成物は、ゲル化することなくほぼ100%がTHF可溶分であることを確認した。このTHF可溶分で得られた反応生成物をガスクロマトグラフィー(検出器FID:flame ionization detector:水素炎イオン化検出器)(GC−FID)により分析を行ったところ、溶媒として加えたフェノールが未反応で残存する以外には、キシレノール、トリメチルフェノール及びキサンテン類などの副生成物はほとんど存在しなかった。
【0030】
上記で得られた樹脂分を、再生材料として用いるために、回収オリゴマーの分子量、オルトパラ比及び硬化性を評価した。
【0031】
THF可溶分で得られた反応生成物の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)について、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。このときの分離カラムは東ソーTSKgel GMHXL2本、TSKgel G2000HXL2本を使用し、溶離液としてはテトラヒドロフラン、検量線はポリスチレン換算、検出器は示差屈折計を使用し、流量は1ml/分、温度40℃とした。その結果、THF可溶分で得られた物は、Mn:650、Mw:3,000の樹脂成分であることを確認した。
【0032】
また、得られた樹脂成分をジメチルスルホキシドに溶解させ、樹脂成分のオルトパラ比をC13−NMRによって分析したところ、オルト/パラ比は0.5であることを確認した。
【0033】
さらに、硬化性の目安として、得られた処理生成物を粉砕し、ヘキサメチレンテトラミン15重量部を配合して、150℃の熱盤上でゲル化するまでの時間(ゲルタイム)を測定し、130秒を得た。
【0034】
(2)フェノール樹脂成形材料硬化物のリサイクル
上記の処理方法によって得られた生成物を用いて、リサイクルフェノール樹脂成形材料を作製し、成形材料の流動性は、成形材料のスパイラルフローを測定することによって評価した。
【0035】
上記の処理方法によって得られた生成物:43重量部に対して、ヘキサメチレンテトラミン(和光純薬製、特級):7重量部、木粉:40重量部、炭酸カルシウム(和光純薬製):10重量部を、クッキングミル(松下電器製、ファイバーミキサー)で乾式混合してフェノール樹脂成形材料を得た。これを、上底:5mm、下底:4mm、高さ4mmの断面形状を有する、渦巻状の溝のある金型を用いて、金型温度:150℃、注入圧力:15MPa、硬化時間:60秒の測定条件で評価した。その結果、スパイラルフロー:38cmを得た。
【0036】
[実施例2]フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、pH調整剤を硫酸1.0gから塩酸(関東化学社製)1.0gに代えpHを1.5に調整した以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0037】
[実施例3]フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、pH調整剤を硫酸1.0gから水酸化マグネシウム(関東化学社製)1.0gに代え、pHを10.0に調整した以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0038】
[実施例4]フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、pH調整剤を硫酸1.0gから酢酸亜鉛(関東化学社製)1.0gに代え、pHを8.0に調整した以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0039】
[実施例5]フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、pH調整剤を硫酸1.0gから水酸化カリウム(関東化学社製)1.0gに代えpHを14.0に調整した以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0040】
[比較例1]フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、分解・可溶化処理後に、再配列処理工程を設けない以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0041】
[比較例2]フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、フェノール:85.6gと水:21.3gの混合物からなる反応溶媒に代えて、フェノール:106.9gを反応溶媒とした以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0042】
[比較例3]フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、再配列反応処理温度を180℃から80℃に代えた以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0043】
【表1】

1)熱硬化性樹脂に含有される有機フィラー成分、及び溶媒のフェノール化合物が結合するため、樹脂分回収量は仕込み熱硬化性樹脂量より増量する。
【0044】
表1に示した結果からわかるように、分解・可溶化処理後に再配列処理を設けた場合には、添加する酸やアルカリ種によって、再生樹脂成分のオルト/パラ比を制御することが可能となる。実施例1および2に示したように、酸を添加してpHを下降させた場合には、再生樹脂成分のオルト/パラ比は低下し、その結果、リサイクル成形材料の流動性(スパイラルフロー)が向上している。一方、実施例3〜5に示したように、アルカリを用いてpHを上昇させた場合には、再生樹脂成分のオルト/パラ比は増大し、硬化速度(ゲルタイム)が向上している。また、反応系内に水を含まない場合(比較例2)では、再配列処理を設けてもオルト/パラ比の制御に対して十分な効果が得られないことがわかる。さらに、再配列処理工程における温度が前記温度範囲未満(比較例3)ではほとんど効果が得られず、また前記温度範囲よりも高い場合(比較例4)には、再生樹脂成分の低分子量化が進むことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、熱硬化性樹脂を含むプラスチックより得られる再生樹脂成分において、それを構成する、ヒドロキシフェニレン基とメチレン基で構成される基の炭素環上に結合されたメチレン基の結合位置を調整することができるので、再生樹脂により、成形材料の硬化速度や流動性の調整が可能となり、さらには成形材料用樹脂のみならず他の用途の樹脂としても用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とフェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、フェノール樹脂を含むプラスチックを分解および/または可溶化処理した処理生成物に含まれる再生樹脂成分を構成する、ヒドロキシフェニレン基とメチレン基で構成される基において、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に結合されたメチレン基の結合位置を、再配列処理することにより再生樹脂を製造する方法であって、前記再配列処理は、温度150℃以上で反応溶媒のpHを調整することにより、前記メチレン基の結合を切断しこれを前記ヒドロキシフェニレン基の炭素環上に再結合させて行うことを特徴とする再生樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記再配列処理は、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基の結合位置を示すオルト/パラ比を調整するものである、請求項1記載の再生樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記再配列処理において、前記pHを7以上に上昇させることにより、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基とのオルト/パラ比を増加させる、請求項1または2に記載の再生樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記再配列処理において、前記pHを7未満に下降させることにより、ヒドロキシフェニレン基の炭素環上のヒドロキシル基とメチレン基とのオルト/パラ比を低減させる、請求項1または2に記載の再生樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記pHの調整は、酸添加処理および/またはアルカリ添加処理により行うものである、請求項1〜4のいずれかに記載の再生樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記再配列処理の温度が、150℃〜300℃の範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の再生樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかに記載の再生樹脂の製造方法により得られる再生樹脂。
【請求項8】
前記再生樹脂は、200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とする化合物である請求項7に記載の再生樹脂。
【請求項9】
前記請求項1〜6のいずれかに記載の再生樹脂の製造方法により得られる再生樹脂または請求項7ないし8に記載の再生樹脂を、プラスチックの原料として再利用することを特徴とする、リサイクル方法。
【請求項10】
請求項7または8に記載の再生樹脂を含んでなるリサイクルプラスチック。