説明

再生硫黄回収装置

【課題】 硫黄回収設備に備えられる再生硫黄回収装置において、硫黄洗浄器の内壁面に付着した固体状の硫黄が再融解されてなる融解硫黄を貯留する融解硫黄貯留器内で、融解硫黄が加熱されて融解硫黄に含まれる不純物を排気ガスとして排気するときに、融解硫黄貯留器内が、硫化水素、水蒸気および空気が含まれた雰囲気になるのを防止し、融解硫黄貯留器の内壁面が腐食するのを防止することができる再生硫黄回収装置を提供する。
【解決手段】 融解硫黄貯留器20が貯留器加熱手段21によって加熱されることにより、融解硫黄に含まれる水分、硫化水素などが気体となって排気配管41を介して外部に排気される。このとき、気体供給手段51は、融解硫黄貯留器20内に供給した不活性気体が、排気配管41を介して外部に流れるように不活性気体を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体状の硫黄を液体状態で回収する硫黄回収設備に備えられる再生硫黄回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化脱硫装置や合成ガス製造装置において副生物として生成される硫化水素ガスから気体状の硫黄を生成し、この気体状の硫黄を冷却して凝縮させて液体状の硫黄にするとともに不純物を除去する硫黄洗浄器を有する硫黄回収設備が実用化されている。このような硫黄回収設備は、硫黄洗浄器の内壁面に付着した固体状の硫黄を融解して、再利用可能な再生硫黄として回収する再生硫黄回収装置を備えている。図3は、従来技術における再生硫黄回収装置200の構成を示す図である。
【0003】
硫黄回収設備201は、再生硫黄回収装置200と、硫黄ガス生成装置(不図示)と、硫黄洗浄器210と、硫黄回収タンク(不図示)とを有する。硫黄ガス生成装置は、原料である硫化水素(HS)ガスを燃焼して二酸化硫黄(SO)を生成し、HSとSOとを反応させて気体状の硫黄(硫黄ガス)を生成する装置である。
【0004】
硫黄洗浄器210および硫黄回収タンクは、硫黄ガス生成装置で生成した硫黄ガスを液体状態で回収するものである。硫黄洗浄器210内は、洗浄器加熱手段211によって硫黄の固化温度よりわずかに高い温度(たとえば、130〜150℃)に調整されており、硫黄ガス供給配管バルブ212が開放されて硫黄ガス供給配管213から硫黄洗浄器210内に流入した硫黄ガスは、液滴となる。このとき、硫黄洗浄器210において硫黄の液滴を吸着剤に接触させて液滴中に含まれる不純物(塩素、アンモニアなど)を吸着除去し、凝縮されて液体となった液体状の硫黄(液状硫黄)が、排出配管バルブ214が開放されて液状硫黄排出配管215を流過して排出される。このようにして硫黄洗浄器210から排出された液状硫黄は、硫黄回収タンクに回収するようになっている。
【0005】
再生硫黄回収装置200は、硫黄洗浄器210の内壁面に付着した固体状の硫黄を融解して、再利用可能な再生硫黄として回収する装置である。再生硫黄回収装置200は、スチーム供給手段218と、融解硫黄貯留器220と、再生硫黄回収タンク230とを含んで構成される。
【0006】
スチーム供給手段218は、スチーム供給配管バルブ216が開放されることによってスチーム供給配管217を介して、150℃程度のスチームを硫黄洗浄器210内に供給し、硫黄洗浄器210の内壁面に付着した固体状の硫黄を融解させる。このようにして融解された硫黄(融解硫黄)は、流過配管バルブ222が開放されることによって融解硫黄流過配管223内を流過し、融解硫黄貯留器220によって回収されて貯留される。融解硫黄貯留器220に貯留された融解硫黄には、スチーム供給手段218によってスチームが供給されたことに由来する水分が多く含まれるが、貯留器加熱手段221が融解硫黄貯留器220を加熱すると、融解硫黄に含まれる水分が水蒸気となり、硫化水素などの排気ガスとともに、排気配管241を介して外部に排気され、排気除害装置240で除害処理される。このようにして水分が除去された硫黄は、再生硫黄として、回収配管バルブ231が開放されることによって再生硫黄回収配管232を流過し、再生硫黄回収タンク230に回収される。このとき、排気配管バルブ242は開放された状態であり、融解硫黄貯留器220は、排気配管241を介して外部と連通状態である。
【0007】
このように、回収配管バルブ231が開放されて、再生硫黄が再生硫黄回収タンク230に回収されているとき、外部気体である空気が排気配管241を介して融解硫黄貯留器220内に進入する場合がある。空気が融解硫黄貯留器220内に進入すると、融解硫黄貯留器220内は、硫化水素、水蒸気および空気が含まれた雰囲気となり、これによって、ステンレス鋼などの金属からなる融解硫黄貯留器220の内壁面が腐食する場合がある。
【0008】
特許文献1〜3には、硫化水素などの硫化物を含む雰囲気下において、優れた耐食性を示すマルテンサイト系ステンレス鋼に関する技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平8−100236号公報
【特許文献2】特開2000−178697号公報
【特許文献3】特表WO2004/057050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3に開示されるマルテンサイト系ステンレス鋼を、融解硫黄貯留器220を構成する材料として適用することによって、硫化水素、水蒸気および空気が含まれた雰囲気となる融解硫黄貯留器220の内壁面が腐食されるのを抑制することができるが、その効果は十分であるとは言えず、根本的な解決には至らない。
【0011】
融解硫黄貯留器220の内壁面が腐食される原因について鋭意検討した結果、排気配管241を介して融解硫黄貯留器220内に進入してくる空気が腐食の原因であることがわかった。つまり、硫化水素および水蒸気を含む雰囲気である融解硫黄貯留器220内に、空気が混入することによって融解硫黄貯留器220の内壁面が腐食することが明らかとなった。
【0012】
したがって本発明の目的は、硫黄回収設備に備えられる再生硫黄回収装置において、硫黄洗浄器の内壁面に付着した固体状の硫黄が再融解され、さらに加熱されてなる再生硫黄が、融解硫黄貯留器から排出されるときに、融解硫黄貯留器内が、硫化水素、水蒸気および空気が含まれた雰囲気になるのを防止し、融解硫黄貯留器の内壁面が腐食するのを防止することができる再生硫黄回収装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、気体状の硫黄を冷却して凝縮させて液体状の硫黄にするとともに不純物を除去する硫黄洗浄器を有する硫黄回収設備に備えられる再生硫黄回収装置であって、
前記硫黄洗浄器内にスチームを供給して、硫黄洗浄器の内壁面に付着した固体状の硫黄を融解させるスチーム供給手段と、
前記スチーム供給手段によって融解された硫黄を回収して貯留する融解硫黄貯留器と、
前記融解硫黄貯留器を加熱する貯留器加熱手段と、
前記貯留器加熱手段によって加熱されたときに融解硫黄貯留器内に発生する排気気体を外部に導く排気配管と、
前記融解硫黄貯留器内に不活性気体を供給する気体供給手段とを含んで構成され、
前記気体供給手段は、前記融解硫黄貯留器に貯留された融解硫黄が融解硫黄貯留器から排出されるときに、前記融解硫黄貯留器内に供給した不活性気体が、前記排気配管を介して外部に流れるように不活性気体を供給することを特徴とする再生硫黄回収装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スチーム供給手段は、硫黄洗浄器内にスチームを供給して、硫黄洗浄器の内壁面に付着した固体状の硫黄を融解させる。このようにして融解された硫黄は、融解硫黄貯留器によって回収されて貯留される。そして、融解硫黄貯留器が貯留器加熱手段によって加熱されることにより、融解硫黄に含まれる水分、硫化水素などが気体となって排気配管を介して外部に排気される。このとき、気体供給手段は、融解硫黄貯留器内に供給した不活性気体が、排気配管を介して外部に流れるように不活性気体を供給する。
【0015】
そのため、融解硫黄貯留器内から外部に向かって排気配管内を流れる不活性気体の流れによって、外部気体である空気が、排気配管を介して融解硫黄貯留器内に進入するのを防止することができる。したがって、融解硫黄貯留器内が、硫化水素、水蒸気および空気が含まれた雰囲気になるのを防止することができ、融解硫黄貯留器の内壁面が腐食するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の一形態である再生硫黄回収装置100の構成を示す図である。再生硫黄回収装置100は、硫黄回収設備1に備えられる装置である。硫黄回収設備1は、硫化水素(HS)ガスから気体状の硫黄(硫黄ガス)を生成し、この硫黄ガスを液体状の硫黄(液状硫黄)にして回収する設備である。
【0017】
硫黄回収設備1は、再生硫黄回収装置100と、硫黄ガス生成装置(不図示)と、硫黄洗浄器10と、硫黄回収タンク(不図示)とを有する。硫黄ガス生成装置は、原料であるHSガスを燃焼して二酸化硫黄(SO)を生成し、HSとSOとを反応させて硫黄ガスを生成する装置である。
【0018】
硫黄洗浄器10および硫黄回収タンクは、硫黄ガス生成装置で生成した硫黄ガスを液体状態で回収するものである。硫黄洗浄器10内は、洗浄器加熱手段11によって硫黄の固化温度よりわずかに高い温度(たとえば、130〜150℃)に調整されており、硫黄ガス供給配管バルブ12が開放されて硫黄ガス供給配管13から硫黄洗浄器10内に流入した硫黄ガスは、液滴となる。このとき、硫黄洗浄器10において硫黄の液滴を吸着剤に接触させて、液滴中に含まれる不純物(塩素、アンモニアなど)を吸着除去し、凝縮されて液体となった液状硫黄が、排出配管バルブ14が開放されて液状硫黄排出配管15を流過して排出される。このようにして硫黄洗浄器10から排出された液状硫黄は、硫黄回収タンクに回収するようになっている。
【0019】
再生硫黄回収装置100は、硫黄洗浄器10の内壁面に付着した固体状の硫黄を融解して、再利用可能な再生硫黄として回収する装置である。再生硫黄回収装置100は、スチーム供給手段18と、融解硫黄貯留器20と、再生硫黄回収タンク30と、排気除害装置40と、外気混入防止装置50とを含んで構成される。
【0020】
スチーム供給手段18は、スチーム供給配管バルブ16が開放されることによってスチーム供給配管17を介して、150℃程度のスチームを硫黄洗浄器10内に供給し、硫黄洗浄器10の内壁面に付着した固体状の硫黄を融解させる手段である。
【0021】
融解硫黄貯留器20は、スチーム供給手段18によって硫黄洗浄器10内で融解された硫黄(融解硫黄)を回収して貯留するものであり、ステンレス鋼などの金属からなる。硫黄洗浄器10と融解硫黄貯留器20とは、融解硫黄流過配管23によって接続されており、流過配管バルブ22の開閉によって、連通状態と非連通状態とを切替え可能になっている。また、融解硫黄貯留器20には、貯留器加熱手段21と、排気除害装置40と、外気混入防止装置50とが付設されている。融解硫黄貯留器20内に貯留される融解硫黄には、スチーム供給手段18によってスチームが供給されたことに由来する水分が多く含まれるが、貯留器加熱手段21が融解硫黄貯留器20を加熱すると、融解硫黄に含まれる水分が水蒸気となり、HSガスなどの排気ガスとともに、排気配管41を介して外部に排気され、排気除害装置40で除害処理される。
【0022】
外気混入防止装置50は、気体供給手段51と、気体供給配管バルブ52と、流量計53と、気体供給配管54とを含んで構成される。気体供給手段51は、気体供給配管バルブ52が開放されたときに、窒素(N)やアルゴン(Ar)などの不活性ガスを、気体供給配管54を介して融解硫黄貯留器20内に供給する手段である。そして、気体供給手段51は、融解硫黄貯留器20内に供給した不活性ガスが、排気配管41を介して外部に流れるように不活性ガスを供給するように構成されている。
【0023】
これによって、後述する回収配管バルブ31が開放されて、再生硫黄が再生硫黄回収タンク30に回収されているとき、融解硫黄貯留器20内から外部に向かって排気配管41内を流れる不活性ガスの流れによって、外部気体である空気が、排気配管41を介して融解硫黄貯留器20内に進入するのを防止することができる。また、流量計53は、気体供給手段51が供給する不活性ガスの供給流量を調整する。
【0024】
再生硫黄回収タンク30は、融解硫黄貯留器20内に貯留される融解硫黄が貯留器加熱手段21によって加熱されて水分が除去された硫黄を、再生硫黄として回収して貯留するタンクである。融解硫黄貯留器20と再生硫黄回収タンク30とは、再生硫黄回収配管32によって接続されており、回収配管バルブ31の開閉によって、連通状態と非連通状態とを切替え可能になっている。なお、回収配管バルブ31が開放されて、再生硫黄が再生硫黄回収配管32を流過して再生硫黄回収タンク30に回収されているとき、排気配管バルブ42は開放された状態であり、融解硫黄貯留器20は、排気配管41を介して外部と連通状態である。
【0025】
また、再生硫黄回収装置100は、CPU(Central Processing Unit)などによって実現される制御手段(不図示)を有している。制御手段は、硫黄ガス供給配管バルブ12、排出配管バルブ14、スチーム供給配管バルブ16、流過配管バルブ22、回収配管バルブ31、排気配管バルブ42などの開閉動作を制御するとともに、スチーム供給手段18、貯留器加熱手段21、気体供給手段51などの各手段の動作を制御する。
【0026】
図2は、再生硫黄回収装置100における再生硫黄回収方法の流れを示すフローチャートである。硫黄洗浄器10内で硫黄ガスが液状硫黄に凝縮され、その液状硫黄が硫黄回収タンクに回収された状態であり、硫黄洗浄器10内に液状硫黄がない状態で再生硫黄の回収が開始される。このとき、制御手段は、気体供給配管バルブ52を開放させるとともに、気体供給手段51を制御して不活性ガスを融解硫黄貯留器20内に供給させる。それと同時に、制御手段は、排気配管バルブ42を開放させて、融解硫黄貯留器20と外部とが排気配管41を介して連通状態になるようにする。制御手段は、気体供給手段51を制御して、融解硫黄貯留器20内に供給した不活性ガスが、排気配管41を介して外部に流れるように不活性ガスを供給させる。再生硫黄回収装置100に付設されるその他の開閉バルブは、閉鎖状態である。
【0027】
まず、ステップs1では、制御手段は、流過配管バルブ22を開放させて、硫黄洗浄器10と融解硫黄貯留器20とが融解硫黄流過配管23を介して連通状態になるようにする。次に、ステップs2では、制御手段は、スチーム供給配管バルブ16を開放させるとともに、スチーム供給手段18を制御して150℃程度のスチームを硫黄洗浄器10内に供給させる。これによって、硫黄洗浄器10の内壁面に付着した固体状の硫黄が融解されて融解硫黄となり、この融解硫黄が融解硫黄流過配管23内を流過し、融解硫黄貯留器20によって回収されて貯留される。
【0028】
次に、ステップs3では、制御手段は、融解硫黄貯留器20内への融解硫黄の流入が完了したか否かを判断する。この判断には、たとえば、硫黄洗浄器10内の液面高さを液面計などによって測定し、その測定結果に基づいて判断するように構成すればよい。融解硫黄貯留器20内への融解硫黄の流入が完了したと判断した場合には、ステップs4に進む。ステップs4では、制御手段は、流過配管バルブ22を閉鎖させて、硫黄洗浄器10と融解硫黄貯留器20とが非連通状態になるようにする。
【0029】
次に、ステップs5では、制御手段は、貯留器加熱手段21を制御して、融解硫黄貯留器20を130〜150℃程度に加熱させる。これによって、融解硫黄貯留器20に貯留された融解硫黄に含まれる水分が水蒸気となり、HSガスなどの排気ガスとともに、排気配管41を介して外部に排気される。
【0030】
次に、ステップs6では、制御手段は、融解硫黄に含まれる水分が所定の量以下になったか否かを判断する。この判断には、たとえば、融解硫黄貯留器20内の水分量を水分測定装置などによって測定し、その測定結果に基づいて判断するように構成することや、貯留器加熱手段21による加熱開始から所定の時間経過したかを判断するように構成すればよい。融解硫黄に含まれる水分が所定の量以下になったと判断した場合にはステップs7に進み、所定の量以下になっていないと判断した場合にはステップs5に戻る。
【0031】
ステップs7では、制御手段は、回収配管バルブ31を開放させて、融解硫黄貯留器20と再生硫黄回収タンク30とが再生硫黄回収配管32を介して連通状態になるようにする。これによって、水分が除去された融解硫黄である再生硫黄が、再生硫黄回収タンク30内に回収されて貯留される。このとき、気体供給手段51によって融解硫黄貯留器20内に供給している不活性ガスが、排気配管41を介して外部に流れているので、外部気体である空気が、排気配管41を介して融解硫黄貯留器20内に進入するのが防止される。
【0032】
次に、ステップs8では、制御手段は、再生硫黄回収タンク30内への再生硫黄の流入が完了したか否かを判断する。この判断には、たとえば、融解硫黄貯留器20内の液面高さを液面計などによって測定し、その測定結果に基づいて判断するように構成すればよい。再生硫黄回収タンク30内への再生硫黄の流入が完了したと判断した場合には、ステップs9に進む。
【0033】
ステップs9では、制御手段は、回収配管バルブ31を閉鎖させて、融解硫黄貯留器20と再生硫黄回収タンク30との間を非連通状態にさせる。次に、ステップs10では、制御手段は、貯留器加熱手段21を制御して、融解硫黄貯留器20に対する加熱を停止させて、再生硫黄回収動作を終了させる。
【0034】
以上のように、再生硫黄回収装置100においては、回収配管バルブ31が開放されて、再生硫黄が再生硫黄回収タンク30に回収されているとき、気体供給手段51が不活性ガスを融解硫黄貯留器20内に供給する。これによって、融解硫黄貯留器20内から外部に向かって排気配管41内を流れる不活性ガスの流れによって、外部気体である空気が排気配管41を介して融解硫黄貯留器20内に進入するのを防止し、融解硫黄貯留器20内が、硫化水素(HS)ガス、水蒸気および空気が含まれた雰囲気となるのが防止される。
【0035】
次に、気体供給手段51が不活性ガスを融解硫黄貯留器20内に供給することによる、ステンレス鋼からなる融解硫黄貯留器20の腐食に対する影響を確認する実験を行った。
【0036】
(実験1)
JIS G0576「ステンレス鋼の応力腐食割れ試験方法」に準じて応力を負荷した状態の5種類のUベンド形状の金属片M1〜M5を、内容積1.5Lの容器内に静置し、その容器内に純水を700ml入れた。そして、常温(25℃)にて、NガスおよびHSガスをバブリングさせて純水中にHSを飽和させ、1週間放置した。その後、容器から取り出して乾燥させた金属片M1〜M5について、腐食速度および外観変化を評価した。
【0037】
(実験2)
ガスを空気に変更した以外は実験1と同様にして、金属片M1〜M5について、腐食速度および外観変化を評価した。
【0038】
[評価項目]
<腐食速度>
各金属片M1〜M5の腐食減量[(実験前の質量)−(実験後の質量)]を測定し、その測定結果から腐食速度(mm/年)を算出した。
【0039】
<外観およびミクロ組織検査>
各金属片M1〜M5の表面における外観腐食状態を拡大鏡(倍率10倍)で、一方、ミクロ組織的な割れ状態を光学顕微鏡で観察し、評価した。以上の評価により腐食形態としては、応力腐食割れ(SCC)、孔食、すき間腐食が発生しているか否かを観察し、腐食が発生していない場合を「○」とし、腐食が発生している場合を「×」とした。
【0040】
なお、孔食とは、腐食が金属表面の局部だけに集中して起こり、腐食孔となったもののことである。そして、すき間腐食とは、Uベンド形状の金属片とUベンド保持用のボルトナットとのすき間に発生する腐食のことである。
【0041】
表1に、実験に使用した金属片M1〜M5の材質を示すとともに、評価結果を示す。NガスおよびHSガスをバブリングさせた純水中に金属片M1〜M5を浸漬させた実験1では、金属片M1〜M5のいずれにおいても腐食の発生はなかった。これに対して、空気およびHSガスをバブリングさせた純水中に金属片M1〜M5を浸漬させた実験2では、金属片M1表面にはSCCおよび孔食が発生し、金属片M2,M4表面には孔食およびすき間腐食が発生した。
【0042】
この実験結果より、HS、水および空気が含まれた環境下では、金属表面が腐食することがわかる。そして、空気が含まれていないHS、水およびNが含まれた環境下では、金属表面が腐食するのが防止されることがわかり、空気が混入するのを防止することにより融解硫黄貯留器を構成する材料の選択幅を広げることができる。
【0043】
【表1】

【0044】
次に、前述した実験1,2で評価した金属片のうち、金属片M1,M3,M5を、硫黄回収設備の融解硫黄貯留器内の気相部に配置し、以下に示す実験を行った。なお、金属片M3,M5は、実験1,2のいずれにおいても腐食しなかった金属片である。
【0045】
(実験3)
本発明の再生硫黄回収設装置100を備える硫黄回収設備1を稼動させ、融解硫黄貯留器20を貯留器加熱手段21によって加熱している間は、気体供給手段51によってNガスを融解硫黄貯留器20内に供給した。なお、硫黄回収設備1の稼動状況は、11日間液状硫黄を回収し3日間再生硫黄を回収するのを1サイクルとし、4サイクル(56日間)稼動させた。つまり、融解硫黄貯留器20を貯留器加熱手段21によって加熱したのは、合計12日間ということである。
【0046】
硫黄回収設備1の稼動を終了させた後、融解硫黄貯留器20内に配置した金属片M1,M3,M5を取り出し、各金属片の腐食度および腐食状態を評価した。なお、腐食度は、各金属片の腐食減量[(実験前の質量)−(実験後の質量)]を測定し、その測定結果から腐食度(g/m・hr)を算出し、外観腐食状態やミクロ組織的な腐食状態を観察した。
【0047】
(実験4)
従来技術の再生硫黄回収装置200を備える硫黄回収設備201を稼動させ、融解硫黄貯留器220を貯留器加熱手段221によって加熱している間は、融解硫黄貯留器220と外部とが排気配管241を介して連通状態となっている。そのため、外部気体である空気が、排気配管241を介して融解硫黄貯留器220内に進入する場合がある。なお、硫黄回収設備201の稼動状況は、11日間液状硫黄を回収し3日間再生硫黄を回収するのを1サイクルとし、6サイクル(84日間)稼動させた。つまり、融解硫黄貯留器220を貯留器加熱手段221によって加熱したのは、合計18日間ということである。
【0048】
硫黄回収設備201の稼動を終了させた後、融解硫黄貯留器220内に配置した金属片M1,M3,M5を取り出し、各金属片の表面における腐食度および腐食状態を、実験3と同様にして評価した。
【0049】
表2に、実験に使用した金属片M1,M3,M5の材質を示すとともに、評価結果を示す。再生硫黄回収装置100の融解硫黄貯留器20内に配置した金属片M1,M3,M5に比べて、再生硫黄回収装置200の融解硫黄貯留器220内に配置した金属片M1,M3,M5は、その腐食度合いが大きかった。
【0050】
この実験結果より、再生硫黄回収装置100においては、融解硫黄貯留器20を貯留器加熱手段21によって加熱しているときに、気体供給手段51によってNガスを融解硫黄貯留器20内に供給することによって、融解硫黄貯留器20内がHS、水蒸気および空気が含まれた雰囲気になるのを防止することができ、金属片M1,M3,M5が腐食するのを抑制することができることがわかる。
【0051】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の一形態である再生硫黄回収装置100の構成を示す図である。
【図2】再生硫黄回収装置100における再生硫黄回収方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】従来技術における再生硫黄回収装置200の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1,201 硫黄回収設備
10,210 硫黄洗浄器
16,216 スチーム供給配管バルブ
17,217 スチーム供給配管
18,218 スチーム供給手段
20,220 融解硫黄貯留器
21,221 貯留器加熱手段
22,222 流過配管バルブ
23,223 融解硫黄流過配管
30,230 再生硫黄回収タンク
31,231 回収配管バルブ
32,232 再生硫黄回収配管
40,240 排気除害装置
41,241 排気配管
42,242 排気配管バルブ
50 外気混入防止装置
51 気体供給手段
52 気体供給配管バルブ
53 流量計
54 気体供給配管
100,200 再生硫黄回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状の硫黄を冷却して凝縮させて液体状の硫黄にするとともに不純物を除去する硫黄洗浄器を有する硫黄回収設備に備えられる再生硫黄回収装置であって、
前記硫黄洗浄器内にスチームを供給して、硫黄洗浄器の内壁面に付着した固体状の硫黄を融解させるスチーム供給手段と、
前記スチーム供給手段によって融解された硫黄を回収して貯留する融解硫黄貯留器と、
前記融解硫黄貯留器を加熱する貯留器加熱手段と、
前記貯留器加熱手段によって加熱されたときに融解硫黄貯留器内に発生する排気気体を外部に導く排気配管と、
前記融解硫黄貯留器内に不活性気体を供給する気体供給手段とを含んで構成され、
前記気体供給手段は、前記融解硫黄貯留器に貯留された融解硫黄が融解硫黄貯留器から排出されるときに、前記融解硫黄貯留器内に供給した不活性気体が、前記排気配管を介して外部に流れるように不活性気体を供給することを特徴とする再生硫黄回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−234806(P2009−234806A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79345(P2008−79345)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)