説明

再生録音装置

【課題】再生ファイルのスタートとずれてスタートした録音ファイル再生ファイルと異なるクロックで録音された録音ファイルが再生ファイルと同期するように補正できる再生録音装置を提供することを目的とする。
【解決手段】再生・録音動作中にD/Aコンバータにデコードしたサンプリングデータ数を定期的に問い合わせて記録するとともに、A/Dコンバータにエンコードしたサンプリングデータ数を定期的に問い合わせて記録する。再生・録音動作が終了したのち、前記A/DコンバータとD/Aコンバータのクロック周波数のずれおよび前記再生手段による再生動作と前記録音手段による録音動作のスタートタイミングのずれを算出し、前記クロック周波数のずれおよび前記スタートタイミングのずれを解消すべく前記録音手段が録音した録音データを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、デジタルオーディオデータの再生に同期してデジタル録音した場合の再生データと録音データとの同期をとる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットを介して、利用者自身が演奏した演奏データのファイルを交換し、互いに合奏するシステムが提案されている(たとえば非特許文献1)。
【0003】
このようなシステムは、以下のように利用される。インターネット上のサーバに、ある演奏者が演奏した演奏データファイルがアップロードされている。他の演奏者がこのファイルをダウンロードして再生する。そして、この再生に合わせて自分も演奏し、この自分の演奏を録音した演奏データファイルを、改めてサーバにアップロードする。
【非特許文献1】“MP3 レコーダー ヤマハ SoundSketcher”、[online]、ヤマハ株式会社、[平成18年3月22日検索]、インターネット<URL:http://www.yamaha.co.jp/sskt/> http://www.yamaha.co.jp/sskt/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような形態のインターネットを介した合奏を行う場合、演奏者は、ダウンロードした他の演奏者の演奏ファイルの再生をスタートするのに同期して録音をスタートさせ、再生される他人の演奏に合わせて、自分が演奏することにより、自分自身の演奏による演奏データファイルを作成する。
【0005】
しかし、このシステムでは、以下の問題点があった。
【0006】
(1)パソコンがデジタルオーディデータの再生と演奏した楽音信号の録音を同期してスタートさせたとしても、再生プログラムのスタートと録音プログラムの実際のスタートタイミングは、微妙に異なる。このため、既存のデータと新たに録音したデータとの先頭部分のマージンが異なり、同じ曲(の異なるパート)を演奏したものとして、これを同時に再生したとしても(またはこれら2つのオーディオデータをマージしたとしても)、演奏がずれてしまうという問題点があった。
【0007】
(2)デジタルオーディオデータを再生するD/Aコンバータのクロックと音声信号をデジタル化するA/Dコンバータのクロックは、同じサンプリング周波数(たとえば44.1kHzや48kHz)に設定されていても、微妙に異なる場合が多い(たとえば、0.1%程度)。同じオーディオボードのD/AとA/Dでも異なる場合が多いうえに、D/Aは内蔵のオーディオボード、A/DはUSB接続のオーディオ機器を用いた場合などはよりこの差異が顕著に発生してしまう。このため、演奏を聴きながらテンポを合わせて演奏して録音したとしても、再生クロックと録音クロックの周波数が微妙に異なっているため、データ長が異なり、一緒に再生した場合(またはマージした場合)に、(最初はよいが)徐々に音ずれが生じ、最後は大きく2つのファイル(パート)の音がずれてしまうという問題点があった。
【0008】
また、再生クロックの周波数と録音クロックの周波数が異なるため、再生される演奏音に正確に音程(周波数)を合わせて演奏しても、微妙にその音程がずれてしまい、同時に再生した場合にはうなりを生じてしまうという問題点があった。
【0009】
この発明は、上記のように再生ファイルのスタートとずれてスタートした録音ファイル再生ファイルと異なるクロックで録音された録音ファイルが再生ファイルと同期するように補正できる再生録音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、デジタルオーディオデータをアナログオーディオ信号に変換するD/Aコンバータと、アナログオーディオ信号をデジタルオーディオデータに変換するA/Dコンバータと、前記D/Aコンバータを用いてデジタルオーディオデータを再生する再生手段と、前記A/Dコンバータを用いてアナログオーディオ信号をデジタルオーディオ変換して録音する録音手段と、を備え、
前記再生手段による再生動作と前記録音手段による録音動作が行われているとき、前記D/Aコンバータにデコードしたサンプリングデータ数を定期的に問い合わせて記録するとともに、前記A/Dコンバータにエンコードしたサンプリングデータ数を定期的に問い合わせて記録する再生録音管理手段と、前記再生手段による再生動作と前記録音手段による録音動作が終了したのち、前記D/AコンバータとA/Dコンバータのクロック周波数のずれおよび前記再生手段による再生動作と前記録音手段による録音動作のスタートタイミングのずれを算出し、前記クロック周波数のずれおよび前記スタートタイミングのずれを解消すべく前記録音手段が録音したデータを補正する補正手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この発明は、前記再生手段が再生するデジタルオーディオデータは、インターネットを介してサーバからダウンロードされた演奏データファイルであることを特徴とする。
【0012】
この発明は、前記補正された録音データは、インターネットを介して前記サーバにアップロードされることを特徴とする。
【0013】
この発明は、前記録音データは、前記演奏データファイルにマージされたのち、このマージされたデータが前記サーバにアップロードされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、D/AコンバータとA/Dコンバータのクロック周波数のずれおよび録音手段による録音動作と再生手段による再生動作のスタートタイミングのずれを録音手段が録音したデータを補正することによって解消できるため、再生したデジタルオーディオデータと録音した録音データを正確に同期したものにすることができる。
【0015】
また、録音データ側を修正することにより、再生と録音が繰り返されても最初に存在したオーディオデータ(演奏データファイル)が基準になるため、何世代も再生録音が繰り返されても、全ての録音データで最初のオーディオデータのクロック周波数とタイミングで同期をとることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1はこの発明が適用された再生・録音システムの構成を示す図である。
ユーザが使用するパーソナルコンピュータ3がインターネット2に接続されている。インターネット2には、サーバ1が接続されている。サーバ1には、他のパーソナルコンピュータ(不図示)の利用者が演奏した演奏データファイル100が登録されている。パーソナルコンピュータ3は、デジタルオーディオデータをアナログ信号に変換して出力するオーディオ出力部4、アナログの音声信号をデジタルデータに変換して入力するオーディオ入力部5を有している。この図では、オーディオ出力部4は、内蔵のオーディオボードであり、オーディオ入力部5は、USB接続のオーディオ機器である。オーディオ出力部4はD/Aコンバータを内蔵しており、オーディオ入力部5はA/Dコンバータを内蔵している。
【0017】
オーディオ出力部4には、スピーカ7が接続されている。オーディオ入力部5にはマイク8が接続されている。また、パーソナルコンピュータ3にはキーボードやマウス等の操作部6が接続されている。
【0018】
パーソナルコンピュータ3は、CPU,メモリ等の各種ハードウェアおよびCPUが実行する各種ソフトウェアによって機能的に実現される以下の動作部を備えている。
すなわち、パーソナルコンピュータ3は、インターネット2を介してサーバ1と通信するためのインターネット通信部30、インターネットからダウンロードしたファイルや後述の録音部33が録音したファイル等を記憶する記憶部31、インターネットからダウンロードしたオーディオデータファイルを読み出してオーディオ出力部4に入力して再生する再生部32、オーディオ入力部5から入力されたオーディオデータを録音する録音部33、および、録音部33が録音したオーディオデータファイルである生録音ファイルと再生部が再生したオーディオデータファイルである再生ファイルとの同期をとる同期編集部34を備えている。同期編集部34は、再生部32および録音部33の同時スタートおよび処理サンプリングデータ数を管理する再生録音管理部34Aと再生・録音の終了後に録音済のファイルを補正する補正部34Bからなっている。
【0019】
利用者は、上記構成のパーソナルコンピュータ3を利用して、楽曲の再生や録音を行う。まず、利用者は、インターネット2を介してサーバ1から他者が録音したオーディオデータファイルである演奏データファイル100をダウンロードする。そして、この演奏データファイル100を再生ファイルとしてパーソナルコンピュータ3で再生しながら、これに合わせて自分自身も楽器を演奏し、この演奏を録音する。
【0020】
たとえば、このパーソナルコンピュータ3の利用者はギターの演奏者であり、サーバ1に記憶されている演奏データファイルは、ある楽曲のドラムパートの演奏を録音した演奏データファイルである。利用者は、パーソナルコンピュータ3で演奏データファイルを再生して、そのドラム演奏を聴きながら、これに合わせてギターを演奏し、この演奏をパーソナルコンピュータ3に録音させる。
【0021】
パーソナルコンピュータ3は、マイク8から入力され、オーディオ入力部5でデジタル信号に変換された楽音を再生ファイル(演奏データファイル100)の再生と同期して録音する。再生・録音の動作が終了すると、この録音したオーディオデータを生録音ファイルとして保存する。
【0022】
再生ファイルの再生動作は再生部32が実行し、生録音ファイルの録音動作は録音部33が実行する。この再生動作と録音動作の同期スタートは同期編集部34によって制御される。
【0023】
こののち、同期編集部34が、今回録音された生録音ファイルを、インターネット2を経由してサーバ1からダウンロードされた演奏データファイル100(再生ファイル)に完全に同期させるための同期補正処理を実行する。
【0024】
以下、生録音ファイルと再生ファイルとのずれ、および、これを補正する同期補正処理について説明する。
図2は、パーソナルコンピュータ3の同期再生録音機能を説明する図である。再生動作と録音動作を同期して行う場合、パーソナルコンピュータ3は、再生部32の再生ファイル50を再生する再生動作52と、録音部33のマイク8から入力された楽音信号を録音する録音動作54を同時にスタートさせる(51)が、スタートのトリガが同時に発生しても、このトリガから再生動作52が実際に起動するまでの再生タイムラグと録音動作54が実際に起動するまでの録音タイムラグが異なる。この再生タイムラグと録音タイムラグの時間差であるオフセットが、再生ファイル50と生録音ファイル55のオーディオデータのずれ(録音動作のスタートタイミングのずれ)となって残る。
【0025】
また、再生動作でD/A変換を実行するオーディオ出力部4のクロック周波数と、録音動作でA/D変換を実行するオーディオ入力部5のクロック周波数は、(同じサンプリング周波数に設定されていても)若干のずれがあり、このクロックずれにより同じ時間再生・録音してもそのファイル長(サンプリングデータ数)が徐々に差がついてゆく。たとえば、クロック周波数に0.1パーセントのずれがあった場合、10分で0.6秒のずれが生じ、人間の聴覚でもはっきりずれていることが分かる状態になる。
【0026】
このずれをグラフで表すと、図3のようになる。この図ではトリガが発生してからTpのタイムラグで再生動作がスタートし、トリガが発生してからTr(>Tp)のタイムラグで録音動作がスタートしている。また、時間tに対するサンプル数(アドレス)sの進度もA/D変換とD/A変換のサンプリングクロックの誤差のために僅かに異なる。再生アドレス進度をAp,録音アドレス進度をArで表わすと、時間Tの時間で処理されるサンプリングデータ数の差Dは、D=(Ap−Ar)Tとなる。
【0027】
そこで、録音時および録音後に以下のような処理をして上記ずれ(クロック周波数のずれおよび録音スタートタイミングのずれ)を解消する。図4は、このずれを解消する処理を説明する図である。
【0028】
再生ファイル50を再生する再生動作52と生録音ファイル55を生成する録音動作54が同時に実行される。この再生・録音動作中に定期的に処理したサンプリングデータ数を再生録音管理部34Aが再生動作52(オーディオ出力部4)および録音動作54(オーディオ入力部5)に問い合わせる。一般的なパーソナルコンピュータのオーディオボードには、処理したサンプリングデータ数を問い合わせる関数が設定されている。この関数を用いて、オーディオ出力部4とオーディオ入力部5に対して定期的に再生したサンプリングデータ数と録音したサンプリングデータ数とを問い合わせ、このサンプリングデータ数s(i) を問い合わせた時刻t(i) とともに記憶しておく(60)。ここで、iは問い合わせ順序を示す引数である。
【0029】
再生動作・録音動作の終了後、補正部34Bは、修正値推定処理(61)で、サンプリングデータ数s(i) と時刻t(i) との組み合わせを一次関数で近似する。これは、たとえば、サンプリングデータ数s(i) と時刻t(i) との組み合わせを座標平面上にプロットして、図3のグラフを求めるような処理である。
【0030】
図3のグラフにおいて、再生ファイル50のアドレスSpは、Sp=Ap(t−Tp)で表され、生録音ファイル55のアドレスSrは、Sr=Ar(t−Tr)で表される。
【0031】
ここで、補正部34Bは、アドレス進度を補正するために、生録音ファイル55をAp/Ar倍にリサンプリング処理する(62)。このリサンプリング処理は、サンプリングデータの補間によって行う。このリサンプリング処理により、生録音ファイル55のアドレス進度を再生ファイル50と同じArとすることができ、再生ファイルと録音ファイルが同じ進度で進行するようになる。
【0032】
次に、補正部34Bは、再生ファイル50と生録音ファイル55の先頭部分のオフセットを解消するために、生録音ファイル55の先頭のTr−Tp分のサンプリングデータを削除する(63)。もし、TpがTrよりも大きい場合には、Tp−Tr分の無音区間を録音ファイルの先頭に付加する。これで、再生ファイルと録音ファイルを同時にスタートさせた場合に、再生ファイルの演奏と録音ファイルの演奏が同時にスタートする。
【0033】
このように補正した録音ファイルを補正済録音ファイル64として記憶部31に保存する。
以上の処理は、パーソナルコンピュータ3の同期編集部34が実行する。これにより、今回新たに録音した録音ファイルが再生ファイルと完全に同期したものになり、一緒に再生した場合にずれることなく同期して再生されるようになる。
【0034】
上記処理で作成された補正後録音ファイルを、サーバ1からダウンロードした再生ファイルにマージしたデジタルオーディオファイルを作成し、これを演奏データファイル100として、改めてサーバ1にアップロードするようにしてもよい。
【0035】
また、この実施形態では、サーバ1から演奏データファイルをダウンロードしてパーソナルコンピュータ3で再生するようにしているが、サーバ1が演奏データファイルのデジタルオーディオデータをパーソナルコンピュータ3に対してストリーミングで送信するようにしてもよい。
【0036】
また、この実施形態では、利用者の演奏をパーソナルコンピュータ3で録音およびタイミング補正するようにしているが、生録音ファイルおよび経過時間と処理サンプリングデータ数の情報ををそのままサーバ1にアップロードし、サーバ1がタイミング補正をするようにしてもよい。また、パーソナルコンピュータ3からサーバ1に対して演奏のデジタルオーディオデータをリアルタイムにストリーミングでアップロードし、サーバ1が録音およびタイミング補正をするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施形態であるパーソナルコンピュータを含む再生・録音システムの構成を示す図
【図2】前記パーソナルコンピュータの同期再生録音機能を説明する図
【図3】再生動作と録音動作のずれをグラフ化した図
【図4】前記パーソナルコンピュータの前記ずれの補正処理を説明する図
【符号の説明】
【0038】
1…サーバ
2…インターネット
3…パーソナルコンピュータ
4…オーディオ出力部
5…オーディオ入力部
6…操作部
7…スピーカ
8…マイク
30…インターネット通信部
31…記憶部
32…再生部
33…録音部
34…同期編集部
34A…再生録音管理部
34B…補正部
60…再生録音管理処理
61…補正値推定処理
62…リサンプリング処理
63…オフセット解消処理
64…補正済録音ファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルオーディオデータをアナログオーディオ信号に変換するD/Aコンバータと、
アナログオーディオ信号をデジタルオーディオデータに変換するA/Dコンバータと、
前記D/Aコンバータを用いてデジタルオーディオデータを再生する再生手段と、
前記A/Dコンバータを用いてアナログオーディオ信号をデジタルオーディオ変換して録音する録音手段と、
を備え、
前記再生手段による再生動作と前記録音手段による録音動作が行われているとき、前記D/Aコンバータにデコードしたサンプリングデータ数を定期的に問い合わせて記録するとともに、前記A/Dコンバータにエンコードしたサンプリングデータ数を定期的に問い合わせて記録する再生録音管理手段と、
前記再生手段による再生動作と前記録音手段による録音動作が終了したのち、前記D/AコンバータとA/Dコンバータのクロック周波数のずれおよび前記再生手段による再生動作と前記録音手段による録音動作のスタートタイミングのずれを算出し、前記クロック周波数のずれおよび前記スタートタイミングのずれを解消すべく前記録音手段が録音した録音データを補正する補正手段と、
を備えた再生録音装置。
【請求項2】
前記再生手段が再生するデジタルオーディオデータは、インターネットを介してサーバからダウンロードされた演奏データファイルである請求項1に記載の再生録音装置。
【請求項3】
前記補正された録音データは、インターネットを介して前記サーバにアップロードされる請求項2に記載の再生録音装置。
【請求項4】
前記録音データは、前記演奏データファイルにマージされたのち、このマージされたデータが前記サーバにアップロードされる請求項3に記載の再生録音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−265522(P2007−265522A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88833(P2006−88833)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】