説明

写真測量装置及び写真測量方法

【課題】曲面状の基準面をより正確に推定することができる写真測量装置及び写真測量システムを提供する。
【解決手段】写真測量装置10は、異なる2点の撮影位置から、測定対象物の表面上に設けた複数の基準点と測定対象物の計測範囲とを含む画像を撮影する写真撮影部3と、複数の基準点を含む複数の測定点の3次元座標を得る写真計測部4と、測定点をつなぐ三角網で構成される測量表面を生成する測量平面生成部5と、測量表面について測定対象物の表面の摩耗が生じる摩耗発生方向に平行な断面との交点を結ぶ折れ線からなる断面線を生成する断面線生成部6と、交点の座標に基づく近似多項式からなる曲線状の基準線を得る多項式近似部7と、測量表面について、異なる複数の断面線について得られた近似多項式からなる複数の曲線状の基準線に基づいて、曲線状の基準線上の交点に対応する対応点を結ぶ三角網で構成される基準面を生成する基準面生成部8と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象の形状を描くための写真測量装置及び写真測量方法に関する。特に、発電所等で用いられる水車の羽根の金属劣化に伴う表面摩耗状況を計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所等で用いられる水車の羽根は、厳しい条件下で長期間にわたって稼働されるため金属劣化で摩耗してしまう。そのため、損傷防止及び発電効率等の点で、水車の羽根の修理の必要性を見極めることは重要なことである。
【0003】
非接触による計測方法として、写真計測が考えられる。写真計測とは、2箇所以上の場所から測定対象物を撮影した複数枚の画像を用いて、それぞれの画像中における測定対象物上の同一個所の対応付けを行って、三角測量の原理に基づいて三次元計測する手法である。この手法は従来、航空写真を用いて地形図作成のために利用されていた。近年デジタルカメラの発達により、写真計測は対象物を選ぶことなく計測されるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−233198号公報
【特許文献2】特開2004−233139号公報
【特許文献3】特開2004−233138号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「写真による三次元測定 応用写真測量」日本写真測量学会編、共立出版株式会社、初版1983年6月5日発行
【非特許文献2】徐剛著:「3次元ビジョン」、近代科学社、1998年4月20日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来、水車の羽根の摩耗の測定では測定点が非常に多くなり、また、摩耗状況に応じて測定方法を変える必要があり、多くの労力を費やしていた。また、摩耗状況を把握するために摩耗前の基準面を求める場合、従来は単純な平面でしか捉えられておらず、水車の羽根のように曲面については適切な基準面が得られていなかった。
【0007】
本発明の目的は、写真測量を用いた測定対象物の三次元形状の測定において、曲面状の基準面をより正確に推定することができる写真測量装置及び写真測量方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る写真測量装置は、測定対象物の表面を写真測量に基づいて計測し、前記測定対象物の基準面を推定する写真測量装置であって、
異なる2点の撮影位置から、前記測定対象物の表面上に設けられた複数の基準点と、前記測定対象物の計測範囲とを含む画像をそれぞれ撮影する写真撮影部と、
異なる2点の撮影位置からの写真測量によって、前記測定対象物の表面上の前記複数の基準点を含む複数の測定点のそれぞれの3次元座標を得る写真計測部と、
3次元空間上において、前記測定点をつなぐ三角網で構成される測量表面を生成する測量平面生成部と、
前記三角網で構成される前記測量表面について、前記測定対象物の表面の摩耗が生じる摩耗発生方向に平行な断面との交点を結ぶ折れ線からなる断面線を生成する断面線生成部と、
前記交点を結ぶ折れ線からなる断面線について、前記交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の基準線を得る多項式近似部と、
前記三角網で構成される測量表面について、異なる複数の断面線について得られた近似多項式からなる複数の曲線状の基準線に基づいて、前記交点に対応する前記曲線状の基準線の3次元点を結ぶ三角網で構成される基準面を生成する基準面生成部と、
を含む。
【0009】
また、前記基準点は、前記測定対象物の表面上に、複数の基準点を表すマークを投影することによって設けてもよい。さらに、前記測定対象物の表面上に、各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影するパターン投影部をさらに含むと共に、前記固有パターンと前記マークとが重なる部分は、前記固有パターンを抜いて投影することによって設けてもよい。
【0010】
またさらに、前記測定対象物の表面上に、各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影するパターン投影部をさらに含んでもよい。
【0011】
また、前記測定対象物の表面上に投影する前記固有パターンは、ランダムパターン又は大理石模様を含んでもよい。
【0012】
さらに、前記計測範囲に含まれる前記測定点は、前記測定対象物の表面において摩耗のない基準面に含まれる正常点と、摩耗が生じている摩耗点の両方を含むように選択してもよい。
【0013】
またさらに、前記多項式近似部は、前記正常点に基づく交点について、前記摩耗点に基づく交点よりも重み付けを増して多項式近似を行ってもよい。
【0014】
また、前記計測範囲に含まれる前記測定点は、前記摩耗発生方向に対して垂直な平面上で前記摩耗点を含む範囲を前記正常点が囲むように選択してもよい。
【0015】
さらに、前記多項式近似部は、前記交点に対応する前記曲線状の基準線の前記3次元点における前記摩耗発生方向についての摩耗量が設定された閾値を超えた場合、前記交点を前記多項式近似の計算から除外して、再度、多項式近似を行ってもよい。
【0016】
本発明に係る写真測量方法は、測定対象物の表面を写真測量に基づいて計測し、前記測定対象物の基準面を推定する写真測量方法であって、
異なる2点の撮影位置から、前記測定対象物の表面上に設けた複数の基準点と、前記測定対象物の計測範囲とを含む画像をそれぞれ撮影するステップと、
異なる2点の撮影位置からの写真測量によって、前記測定対象物の表面上の前記複数の基準点を含む各測定点のそれぞれの3次元座標を得るステップと、
3次元空間上において、前記測定点をつなぐ三角網で構成される測量表面を生成するステップと、
前記三角網で構成される測量表面について、前記測定対象物の表面の摩耗が生じる摩耗発生方向に平行な断面との交点を結ぶ折れ線からなる断面線を生成するステップと、
前記交点を結ぶ折れ線からなる断面線について、前記交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の基準線を得るステップと、
前記三角網で構成される測量表面について、異なる複数の断面線について得られた近似多項式からなる複数の曲線状の基準線に基づいて、前記交点に対応する前記曲線状の基準線の3次元点を結ぶ三角網で構成される基準面を生成するステップと、
を含む。
【0017】
また、前記複数の基準点は、前記測定対象物の表面上に、複数の基準点を表すマークを投影して設けてもよい。さらに、前記測定対象物の表面上に、各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影すると共に、前記固有パターンと前記マークとが重なる部分は、前記固有パターンを抜いて投影してもよい。
【0018】
またさらに、前記測定対象物の表面上に、各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影するステップをさらに含んでもよい。
【0019】
また、前記測定対象物の表面上に投影する前記固有パターンは、ランダムパターン又は大理石模様を含んでもよい。
【0020】
さらに、前記計測範囲に含まれる前記測定点には、前記測定対象物の表面において摩耗のない基準面に含まれる正常点と、摩耗が生じている摩耗点の両方を含むように選択してもよい。
【0021】
またさらに、前記交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の断面線を得るステップでは、前記正常点に基づく交点について、前記摩耗点に基づく交点よりも重み付けを増して多項式近似を行ってもよい。
【0022】
また、前記測定点は、前記摩耗発生方向に対して垂直な平面上で前記摩耗点を前記正常点が囲むように選択してもよい。
【0023】
さらに、前記交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の断面線を得るステップでは、前記交点に対応する前記曲線状の断面線の前記3次元点における前記摩耗発生方向についての摩耗量が設定された閾値を超えて負となる場合、前記交点を前記多項式近似の計算から除外して、再度、多項式近似を行ってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、測定対象の形状を写真測量によって測定することができるとともに、曲面状の基準面を容易に、且つ、精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態1に係る写真測量装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の写真測量装置の構成にコンピュータを用いた場合の構成を示すブロック図である。
【図3】写真撮影部に2台のカメラを用いた場合の測定対象物と2台のカメラとの光学的関係を示す概略図である。
【図4】基準点の設定及び固有パターンの投影のフローチャートである。
【図5】図4のフローチャートに代えて、被写体にマーカと固有パターンとを含む複合パターンを投影するステップを行う場合のフローチャートである。
【図6】ペルトン水車の表面に基準点となるマーカ部分と、固有パターンとを含む複合パターンを投影した一例を示す図である。
【図7】三次元形状計測のフローチャートである。
【図8】(a)は、測定対象物の摩耗が生じている部分の断面図であり、(b)は、測定対象物の表面において摩耗のない基準面に含まれる正常点(+)と、摩耗が生じている摩耗部分(網線部分)とを示す平面図である。
【図9】被写体の摩耗前の基準面の作成のフローチャートである。
【図10】各測定点を結ぶ三角網で構成される測定表面を示す概略図である。
【図11】互いに平行な複数の断面についての三角網との交点を結ぶ複数の断面線を示す概略図である。
【図12】断面についての三角網との交点を結ぶ折れ線状の断面線を示す概略図である。
【図13】交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の基準線を示す概略図である。
【図14】各断面線についての近似多項式で表される曲線状の各基準線の三次元化を示す概略図である。
【図15】各基準線上の三次元点を結んで生成された三角網からなる基準面を示す概略図である。
【図16】複雑な形状に対して一つの平面状の基準面を推定する場合の概略図である。
【図17】(a)は、複雑な形状に対して曲面状の基準面を推定する場合の模式図であり、(b)は、曲面状の基準面と平面状の基準面との対比を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態に係る写真測量装置及び写真測量方法について添付図面を用いて説明する。なお、図面において実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る測定対象物(被写体)の表面を写真測量に基づいて計測し、前記測定対象物の基準面を推定する写真測量装置10の構成を示すブロック図である。この写真測量装置10は、基準点投影部1と、パターン投影部2と、写真撮影部3と、写真計測部4と、測量表面生成部5と、断面線生成部6と、多項式近似部7と、基準面生成部8と、を含む。基準点投影部1は、測定対象物の表面上に、複数の基準点を表すマークを投影する。パターン投影部2は、各部分が特徴部分を有する固有パターンを測定対象物の表面上に投影する。写真撮影部3は、異なる2点の撮影位置から、測定対象物の表面上に設けられた複数の基準点と、測定対象物の計測範囲とを含む画像をそれぞれ撮影する(図3、図8(b))。写真計測部4は、異なる2点から撮影した上記画像に基づいて、測定対象物の表面上に設けられた複数の基準点および複数の測定点の3次元座標を得る。測量表面生成部5は、3次元空間上において、測定点をつなぐ三角網で構成される測量表面を生成する。断面線生成部6は、三角網で構成される測量表面について、前記測定対象物の表面の摩耗が生じる摩耗発生方向に平行な断面との交点を結ぶ折れ線からなる断面線を生成する。多項式近似部7は、交点を結ぶ折れ線からなる断面線について、交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の基準線を得る。基準面生成部8は、平行に並ぶ複数の基準線上の三次元点を結んで三角網からなる基準面を生成する。
【0028】
図2は、上記写真測量装置10の各構成部材のうち、写真計測部4と、測量表面生成部5と、断面線生成部6と、多項式近似部7と、基準面生成部8とを、コンピュータ9上で動作するコンピュータプログラムによって機能させる場合のブロック図である。コンピュータ9は、例えば、記憶部11、制御部12、表示部13、インタフェース部14、入力部15を含む。また、コンピュータ9は、基準点投影部1と、パターン投影部2と、写真撮影部3と、インタフェース部14を介して接続されている。なお、制御部12は、キーボードやマウス等の入力部15、ディスプレイ等の表示部13、インタフェース部14と接続されている。また、写真計測部4と、測量表面生成部5と、断面線生成部6と、多項式近似部7と、基準面生成部8とはコンピュータプログラムによって動作する機能ブロックと考えることができる。
【0029】
図3は、実施の形態1に係る写真測量装置10によって、測定対象物(被写体)20を撮影する光学的配置を示す概略図である。写真撮影部3は、少なくとも2台のカメラ3a、3bを有する。写真測量の原理によれば、カメラは最低2台があれば計測できる。なお、精度を上げるために3台以上のカメラを配置してもよい。
【0030】
本実施の形態に係る写真測量装置10の写真撮影部3に用いられるカメラ3a、3bは、予め内部標定が行われたものを用いることで測定精度を向上させることができる。内部標定とはカメラ特有のパラメータであり、焦点距離、主点位置、歪み補正値を表す。内部標定の方法は公知の方法により行うことができる。なお、内部標定は、複数のカメラ2のそれぞれについて行われる。
なお、「カメラ」とは、測定対象物を被写体として光学撮影可能であり、かつ当該撮影された画像を電子情報として作成可能な装置であればよい。例えば、デジタルカメラなどを例示できるが、銀塩カメラと銀塩カメラにより撮影された写真を画像情報として変換可能なスキャナとを備えるユニットで構成されていてもよい。
【0031】
図3では、説明の便宜のために、測定対象物20の表面上の1つの基準点22のみを表示している。図3においては、撮影位置にそれぞれ位置するカメラA(3a),カメラB(3b)は、上述のように各基準点22がそれぞれ撮影される写真画像24,26に写るように配置される。ここで、基準点22の任意のポイントを基準点22として認定すると、当該基準点22は、カメラAの写真画像24には、ポイントaに写り、カメラBの写真画像26には、ポイントbとして写る。当該ポイントa,bの写真画像上の位置をそれぞれ写真画像上の基準点座標とし、XY座標を用いて特定する。
【0032】
写真画像上のX軸及びY軸は、それぞれ、カメラA(3a)、カメラB(3b)の光軸中心に対し、それぞれ直交する方向すなわち写真画像24、26上に存在し、カメラの画角の横軸をX軸、カメラの画角の縦軸側をY軸とする。したがって、各写真画像上のXY座標は、それぞれ被写体に対して水平方向、鉛直方向と一致するとは限らず、また、カメラA(3a)及びカメラB(3b)において被写体20からみて互いに異なる方向となる。なお、画像上のどの点を原点とするかについては特に限定されない。
【0033】
次に、本実施の形態1に係る写真測量方法について、[1]基準点の設定及び固有パターンの投影、[2]三次元形状計測の方法、[3]基準面の作成、の各段階に分けて説明する。
[1]基準点の設定及び固有パターンの投影
図4は、基準点の設定及び固有パターンの投影のフローチャートである。
(a)被写体を表面処理する(S01)。
被測定物である被写体が金属光沢を有する物体の場合には鏡面反射を生じるので、表面処理を行って表面を拡散面にしておくことが好ましい。表面処理としては、例えば、現像液等を表面に薄く塗布する方法がある。これによって、表面を拡散面とすることができる。
(b)計測部分にマーカを貼る(S02)。
被写体の表面の計測部分に基準点となる複数の箇所にマーカを貼る。マーカとしては、例えば、白丸(下地として黒地)又は黒丸(下地として白地)を用いることができるが、これに限られず、他の形状であってもよい。また、マーカは紙又は樹脂等からなるものを用いることができる。さらに、インク等を塗布してマーカを形成してもよい。例えば、インクジェット法によって、測定対象物の表面にインクを吹き付けてマーカを形成してもよい。
【0034】
(c)被写体に固有パターンを投影する(S03)。
プロジェクタを用いて、被写体の表面に対して各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影する。このような各部分に特徴部分を有する固有パターンとしては、例えば、大理石模様又はランダムパターンを用いることがきる。なお、上記パターンに限られず、投影箇所のうち同一箇所を対応付けることができるような固有パターンであればよい。このパターンによって、後述する写真計測の後、マッチング処理において2枚以上の画像間で固有パターンの共通する特徴部分によって同一箇所を対応付けることができる。
(d)投影された固有パターンとマーカとの重複部分から、投影される固有パターンを抜く(S04)。
投影されたパターンとマーカが重なる部分は、マーカの部分に固有パターンが投影されないように固有パターンを抜く。固有パターンを抜くには、例えば、パソコン上でマーカの形状に合わせて固有パターンを白く塗りつぶす。この場合、予め白い丸を画面上に用意しておき、投影された固有パターンを見ながらマーカに重ならないように白い丸を移動して調節すればよい。白い丸の形状はマーカより少し大きめにする必要がある。このようにパターンとマーカとの重複部分から固有パターンを抜くことによって、マーカの中心の認識におけるノイズを減らすことができる。
【0035】
なお、上記[1]基準点の設定及び固有パターンの投影では、基準点となるマーカを貼付する場合について説明したが、基準点の設定はこれに限られない。上記S01〜S04に代えて、図5に示すように、被写体にマーカと固有パターンとを含む複合パターンを投影するステップS11を行うことで、基準点の設定と固有パターンの投影とを同時に行うことができる。
(a)被写体にマーカと固有パターンとを含む複合パターンを投影する(S11)。
この複合パターンは、基準点となるマーカ部分と、固有パターンとを含む。この場合、あらかじめマーカ部分から固有パターンを抜いた複合パターンを用意しておくことができる。例えば、図6は、ペルトン水車の表面に基準点となるマーカ部分と、固有パターンとを含む複合パターンを投影した一例を示す図である。マーカを貼付せずに固有パターンと同様に投影することによってマーカ部分の厚みの増加を避けることができ、より精度の高い測定ができる。
【0036】
[2]三次元形状計測の方法
図7は、三次元形状計測のフローチャートである。
(a)複数の基準点が設けられ、固有パターンが投影されている被写体の表面を異なる2箇所以上の位置から撮影する(S05)。
撮影では、被写体の表面の計測箇所とマーカ(基準点)とが一つの画像内に含まれるようにそれぞれの撮影位置で撮影する必要がある。なお、2箇所からの撮影は同時に行う必要はなく、別々に撮影してもよい。例えば、一組の撮影装置を用いて撮影位置を最初の撮影位置から別の撮影位置に移動させて2箇所から撮影を行ってもよい。
また、計測範囲に含まれる測定点は、例えば、図8(a)及び(b)に示すように、測定対象物の表面において摩耗のない基準面に含まれる正常点(+)と、摩耗が生じている摩耗部分(網線部分)の摩耗点の両方を含むように選択される。さらに、測定点は、摩耗点を正常点が囲むように選択されることが好ましい。このように計測範囲を設定することで、摩耗前の正常点に基づく基準面を推定しやすくなる。
【0037】
(b)撮影された2枚以上の画像を用いて、それぞれの画像中の測定点について同一箇所を対応付ける(S06)。
異なる2箇所の撮影位置からの画像に基づいて、各マーカを対応付ける。
次いで、マーカ以外の測定点について、固有パターンの共通する特徴部分に基づいて同一箇所を対応付ける。
従来、形状や表面に特徴部分が少ないシンプルな形状や表面の場合には、2枚以上の画像において、同一箇所を対応付けることは非常に困難であった。
この実施の形態1に係る方法では、上述のように各部分に特徴部分を有する固有パターンを測定対象物の表面に投影する(図6)。固有パターンとしては、例えば、大理石模様又はランダムパターンである。これによって、形状や表面に特徴部分が少ないシンプルな形状や表面の場合であっても、固有パターンの共通する特徴部分に基づいて測定対象物の表面における同一箇所を対応付けることができる。
【0038】
(c)2枚以上の画像に基づく写真計測によって各測定点の三次元座標を求める(S07)。
2枚以上の画像に基づく写真計測によって、同一箇所の対応付けが行われた各測定点の三次元座標を求める。
なお、同一箇所を対応付けた後、2枚以上の画像に基づいて各測定点の三次元座標を求める方法は、例えば、特許第4153322号、特許第4153323号、特許第4159373号等に記載されている。
【0039】
[3]基準面の作成
図9は、測定対象物(被写体)の摩耗前の基準面の作成のフローチャートである。
(a)写真測量によって基準点及び測定点を計測し、三角網で構成される測定表面を生成する(S08)。
上記三次元形状計測によって得られた基準点及び測定点の3次元座標に基づいて、各測定点を結ぶ三角網で構成される測定表面を生成する(図10)。
(b)三角網で構成される測量表面について、測定対象物の表面の摩耗が生じる摩耗発生方向に平行な断面との交点を結ぶ折れ線からなる断面線を生成する(S09)。
上記測定対象物の表面の摩耗が生じる摩耗発生方向は、例えば、z軸方向である。そこで、図11に示すように、互いに平行な複数の断面についての三角網との交点を結ぶ複数の断面線を生成する。それぞれの断面線は、例えば、図12に示すような折れ線となる。
なお、被写体の面が曲面をなしている場合には、摩耗発生方向がz方向から別の方向に変化する場合がある。その場合には、変化した摩耗発生方向に垂直な断面による断面線を生成すればよい。
【0040】
(c)各断面線を多項式近似して得られた近似多項式による滑らかな曲線形状の基準線を得る(S10)。
交点を結ぶ折れ線からなる断面線(図12)について、交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の基準線を得る(図13)。この場合、近似多項式としては、例えば、下記のn次の線形多項式(1)を用いてもよい。
Z=aY+bYn−1+cYn−2+・・・+z (1)
なお、次数nの決定は、得られた近似多項式による曲線状の基準線と交点との対比によって決定してもよい。
【0041】
また、摩耗前の基準面を構成する基準線をより適切に得るためには、上記多項式近似において、計測範囲のうち摩耗点よりも正常点の重み付けを増すことが好ましい。そこで、上記多項式近似では、上記交点のうち、正常点に基づく交点について、摩耗点に基づく交点よりも重み付けを増して計算することが好ましい。正常点の重み付けを増すことによって摩耗前の基準面により近い近似多項式による基準面が得られる。
【0042】
また、近似多項式による曲線は、摩耗前の基準線を表すものとすれば、理論的には摩耗後の測定表面の点線よりもz軸方向で上方にあることが妥当である。例えば、図13では、近似多項式による実線は、測定表面の点線に対してz軸方向で上方にある。一方、近似多項式による実線が測定表面の点線よりもz軸方向で下方となる場合、対応する交点の摩耗量が負であることを意味する。このような負の摩耗量、すなわち金属の増加は実際にはあり得ないものであるので、負の摩耗量が予め定められた閾値よりも大きい場合には、対応する交点を多項式近似から除外して、再度、多項式近似を行うことが好ましい。これによって摩耗前の基準面を適切に推定することができる。
【0043】
なお、ここでは摩耗による表面減少のみを考慮しており、表面増大を示す負の摩耗量のうち、所定の閾値を超える負の摩耗量となる交点を多項式近似から除外している。これに限られず、金属の酸化による表面増大を考慮してもよい。金属表面の摩耗による表面減少だけでなく、酸化等による表面増大を考慮する場合には、摩耗の正負によって交点の除外を行わなくてもよい。
【0044】
(d)各近似多項式で表される曲線状の基準線を3次元化する(S11、図14)。
各断面線についての近似多項式で表される曲線状の各基準線を3次元化する(図14)。
(e)平行に並ぶ基準線上の三次元点を結んで三角網からなる基準面を生成する(S12、図15)。
以上によって、曲面状の基準面に対応する基準面を得ることができる。これによって、従来、図16に示すように複雑な形状に対して一つの平面状の基準面しか得られなかったのに対して、図17の(a)及び(b)に示すように、曲線状の基準面が得られる。
【符号の説明】
【0045】
3 写真撮影部
3a、3b カメラA、カメラB
4 写真計測部
5 測量表面生成部
6 断面線生成部
7 多項式近似部
8 基準面生成部
9 コンピュータ
10 写真測量装置
11 記憶部
12 制御部
13 表示部
14 インタフェース部
15 入力部
20 測定対象物(被写体)
21a、21b カメラA及びカメラBから被写体への光軸
22 基準点
24 カメラAによる画像
26 カメラBによる画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面を写真測量に基づいて計測し、前記測定対象物の基準面を推定する写真測量装置であって、
異なる2点の撮影位置から、前記測定対象物の表面上に設けられた複数の基準点と、前記測定対象物の計測範囲とを含む画像をそれぞれ撮影する写真撮影部と、
異なる2点の撮影位置から撮影した前記画像に基づいて、前記測定対象物の表面上の前記複数の基準点を含む複数の測定点のそれぞれの3次元座標を得る写真計測部と、
3次元空間上において、前記測定点をつなぐ三角網で構成される測量表面を生成する測量表面生成部と、
前記三角網で構成される前記測量表面について、前記測定対象物の表面の摩耗が生じる摩耗発生方向に平行な断面との交点を結ぶ折れ線からなる断面線を生成する断面線生成部と、
前記交点を結ぶ折れ線からなる断面線について、前記交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の断面線を得る多項式近似部と、
前記三角網で構成される測量表面について、異なる複数の断面線について得られた近似多項式からなる複数の曲線状の基準線に基づいて、前記曲線状の基準線上の前記交点に対応する対応点を結ぶ三角網で構成される基準面を生成する基準面生成部と、
を含む、測定対象物の表面を写真測量に基づいて計測し、前記測定対象物の基準面を推定する写真測量装置。
【請求項2】
前記測定対象物の表面上に、複数の基準点を表すマークを投影する基準点投影部をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記測定対象物の表面上に、各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影するパターン投影部をさらに含む、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記測定対象物の表面上に、各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影するパターン投影部をさらに含むと共に、前記固有パターンと前記マークとが重なる部分は、前記固有パターンを抜いて投影する、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記測定対象物の表面上に投影する前記固有パターンは、ランダムパターン又は大理石模様を含む、請求項3又は4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記計測範囲に含まれる前記測定点は、前記測定対象物の表面において摩耗のない基準面に含まれる正常点と、摩耗が生じている摩耗点の両方を含むように選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記多項式近似部は、前記正常点に基づく交点について、前記摩耗点に基づく交点よりも重み付けを増して多項式近似を行う、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記計測範囲に含まれる前記測定点は、前記摩耗発生方向に対して垂直な平面上で前記摩耗点を含む範囲を前記正常点が囲むように選択される、請求項6又は7に記載の装置。
【請求項9】
前記多項式近似部は、前記交点に対応する前記曲線状の基準線の前記3次元点における前記摩耗発生方向についての摩耗量が設定された閾値を超えた場合、前記3次元点を前記多項式近似の計算から除外して、再度、多項式近似を行う、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
測定対象物の表面を写真測量に基づいて計測し、前記測定対象物の基準面を推定する写真測量方法であって、
異なる2点の撮影位置から、前記測定対象物の表面上に設けた複数の基準点と、前記測定対象物の計測範囲とを含む画像をそれぞれ撮影するステップと、
異なる2点の撮影位置からの写真測量によって、前記測定対象物の表面上の前記複数の基準点を含む各測定点のそれぞれの3次元座標を得るステップと、
3次元空間上において、前記測定点をつなぐ三角網で構成される測量表面を生成するステップと、
前記三角網で構成される測量表面について、前記測定対象物の表面の摩耗が生じる摩耗発生方向に平行な断面との交点を結ぶ折れ線からなる断面線を生成するステップと、
前記交点を結ぶ折れ線からなる断面線について、前記交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の断面線を得るステップと、
前記三角網で構成される測量表面について、異なる複数の断面線について得られた近似多項式からなる複数の曲線状の基準線に基づいて、前記曲線状の基準線上の三次元点を結ぶ三角網で構成される基準面を生成するステップと、
を含む、測定対象物の表面を写真測量に基づいて計測し、前記測定対象物の基準面を推定する方法。
【請求項11】
前記複数の基準点は、前記測定対象物の表面上に、複数の基準点を表すマークを投影して設ける、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記測定対象物の表面上に、各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影するステップをさらに含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記測定対象物の表面上に、各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影するステップをさらに含み、前記固有パターンと前記マークとが重なる部分は、前記固有パターンを抜いて投影する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記測定対象物の表面上に、各部分に特徴部分を有する固有パターンを投影するステップをさらに含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項15】
前記測定対象物の表面上に投影する前記固有パターンは、ランダムパターン又は大理石模様を含む、請求項12又は13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記計測範囲に含まれる前記測定点には、前記測定対象物の表面において摩耗のない基準面に含まれる正常点と、摩耗が生じている摩耗点の両方を含むように選択される、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の基準線を得るステップでは、前記正常点に基づく交点について、前記摩耗点に基づく交点よりも重み付けを増して多項式近似を行う、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記測定点は、前記摩耗発生方向に対して垂直な平面上で前記摩耗点を前記正常点が囲むように選択される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項19】
前記交点の座標に基づく多項式近似を行って得られた近似多項式からなる曲線状の断面線を得るステップでは、前記交点に対応する前記曲線状の基準線の前記3次元点における前記摩耗発生方向についての摩耗量が設定された閾値を超えて負となる場合、前記交点を前記多項式近似の計算から除外して、再度、多項式近似を行う、請求項10から17のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−191131(P2011−191131A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56289(P2010−56289)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(000212739)株式会社シーテック (21)