説明

冠水表示装置

【課題】簡易な構成により通行者に道路冠水時の水位を示すことを可能とした冠水表示装置を提案する。
【解決手段】道路R1の側部に立設された表示部材2を備える冠水表示装置1であって、表示部材2は、水よりも比重が小さい部材またはフロート部材が設置された部材により構成されていて、表示部材2の上端部は支持部材4を介して回動可能に軸支されており、表示部材2の下端部は冠水時に水の浮力により浮上して道路R1の中心側にせり出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冠水表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道や道路等をアンダーパスにより通過する道路では、洪水や集中豪雨等の際に水が流れ込み、冠水する場合ある。
【0003】
冠水した道路に車が進入すると、車が故障して立ち往生してしまうおそれがある。そのため、冠水するおそれがある道路では、冠水時の水位を通行者に知らせる冠水表示装置が設置されているのが望ましい。
【0004】
従来の冠水表示装置として、例えば、特許文献1には、超音波水位計を利用して、路面の上方から水位を検出して、測定データに基づき道路脇等に設置された表示灯により通行者に冠水状況を知らせるものが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、複数の検出器が設置されたセンサを道路脇に設置しておくことで、水に接触した検出器の位置により冠水時の水位を検出し、検出結果に基づき表示灯により通行者に冠水状況を知らせるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−156460号公報
【特許文献2】特開2011−153842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の冠水表示装置は、冠水を測定するための検出手段(超音波水位計やセンサ等)、検出手段により測定されたデータを処理する処理手段、処理手段のデータ処理結果に基づいて冠水状況を表示する表示手段(信号や回転灯等)などを必要とするため、コストが高かった。
【0008】
また、精密機器を利用しているため、メンテナンスにも手間と費用がかかる。
さらに、電気的なシステムにより構成されているため、停電時には機能が停止してしまうおそれもある。
【0009】
本発明は、前記の問題点を解決するものであり、簡易な構成により通行者に道路の水位を示すことを可能とした冠水表示装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の冠水表示装置は、道路の側部に設置されて、冠水時に受ける浮力によって道路の中心側にせり出す表示部材を具備することを特徴としている。
【0011】
このような冠水表示装置の前記表示部材としては、例えば、上端部が回動可能に軸支された状態で立設されており、下端部が冠水時に受ける浮力により浮上することで、道路の中心側にせり出すものであればよい。
【0012】
かかる冠水表示装置によれば、簡易かつ安価に、通行者に冠水状況を示すとともに注意を促すことが可能となる。
また、簡易な構成のためメンテナンスに要する費用を省略あるいは大幅に削減することができる。また、電気を使用ないため、停電により機能が停止することもない。
【0013】
前記表示部材にフロート部材が設置されていれば、表示部材を構成する材料の材質に関わらず、冠水時にフロート部材の浮力により浮き上がる。なお、表示部材自体が水に浮く材質であってもよい。
【0014】
なお、前記表示部材を複数備えており、隣り合う前記表示部材の間にフロート部材が介設されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の冠水表示装置によれば、簡易な構成により通行者に道路の水位を示すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一の実施形態に係る冠水表示装置が使用される道路の概要を示す模式図である。
【図2】図1の冠水表示装置の概要を示す斜視図である。
【図3】(a)は、冠水表示装置の詳細を示す斜視図、(b)は表示部材の他の形態を示す斜視図である。
【図4】冠水表示装置の使用状況を示す図であって、(a)は通常時、(b)は冠水時である。
【図5】第二の実施形態に係る冠水表示装置の概要を示す斜視図である。
【図6】第三の実施形態に係る冠水表示装置を示す図であって(a)は通常時、(b)は冠水時である。
【図7】図6の冠水表示装置の概要を示す分解斜視図である。
【図8】冠水表示装置の他の形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第一の実施形態>
第一の実施形態では、図1に示すように、一方の道路R1を掘り下げたいわゆるアンダーパスにより、他方の道路R2の下側を通過させる立体交差において、本発明に係る冠水表示装置を使用する場合について説明する。
【0018】
冠水表示装置1は、図2に示すように、道路R1(アンダーパス)の側部に立設された複数の表示部材2,2,…を備えて構成されている。
【0019】
表示部材2は、板状部材により形成されており、上端部が回動可能に軸支されている。
表示部材2を構成する材料は限定されるものではないが、木材や合成樹脂等の水よりも比重の小さい板材により構成する。なお、表示部材2は、フロート部材を固定することや、内部を空洞にすること等により水に浮くように構成してもよい。
【0020】
表示部材2の上端部は、図3に示すように、道路の側部に形成された側壁3に回動可能に軸支されている。
表示部材2の上端部には、道路R1の縦断方向に沿った貫通孔2aが形成されており、後記する支持部材4を挿通可能に構成されている。なお、表示部材2の構成は限定されるものではなく、例えば、図3の(b)に示すように、表示部材2の上面に取付部2bを形成するなど、適宜設定すればよい。また、表示部材2は、必ずしも板状に形成されている必要はなく、例えば筒状であってもよい。
ここで、側壁3は、地中構造物(例えば、ボックスカルバートや掘削構造物等)の一部である。
【0021】
支持部材4は、表示部材2の上端部の高さ位置に対応するように、側壁3の表面に固定されている。
本実施形態の支持部材4は、道路R1の縦断方向に沿って配設された軸部4aと、軸部4aの両端部を保持する一対の固定部4b,4bとを備えて構成されている。
【0022】
軸部4aは、表示部材2の貫通孔2aに挿通されており、軸部4aの両端は、固定部4b,4bに固定されている。なお、軸部4aは、必ずしも貫通孔2aを貫通している必要はなく、例えば、貫通孔2aの両端から挿入された2つの突起であってもよい。
【0023】
一対の固定部4b,4bは、表示部材2の上端部を前後から挟むように配設された状態で、側壁3の表面に固定されている。なお、固定部4b,4bの固定方法は限定されるものではない。
【0024】
支持部材4の構成は、前記のものに限定されるものではなく、例えば、いわゆる蝶番により構成し,一片を側壁に固定するとともに、他片を表示部材2の上端部に固定することで、表示部材2を回動可能に軸支してもよい。
また、支持部材4は、表示部材2毎に配設されている必要はなく、1本の軸部4aにより複数の表示部材2,2,…を軸支していてもよい。
【0025】
本実施形態の冠水表示装置1によれば、通常時は、図4の(a)に示すように、表示部材2が側壁3に沿って立設していて、通行の妨げとなることがない。
【0026】
一方、洪水や集中豪雨等の際に水が流れ込むことで道路R1が冠水すると、図4の(b)に示すように、表示部材2の下端部が水の浮力により浮上することで表示部材2が軸部4aを中心に回動し、表示部材の下端部が道路R1の中心側にせり出す。
そのため、通行者は、道路R1の中心側にせり出した表示部材2により、道路が冠水していることを把握することができる。
【0027】
図示は省略するが、表示部材2の側面(通行者から見て正面)に、反射材や標識等が設置しておけば、通行者は、せり出した表示部材2をより確認しやすくする。
なお、反射材等の設置は必要に応じて設置すればよく、省略してもよい。また、表示部材2の表面(道路R1側面)に反射材等を設置しておくことで、通常時における側壁の位置(道路幅)や、せり出し時の冠水状況等をより確認しやすい構成としてもよい。
【0028】
冠水表示装置1は、精密機器等を使用していないため、簡易かつ安価に構成することができる。また、メンテナンスも容易である。そのため、設置する箇所が、例えば幹線道路のような特別な道路等に限定されることがない。
電気を使用しないため、停電時であっても機能が停止することがない。
【0029】
<第二の実施形態>
第二の実施形態の冠水表示装置1は、図5に示すように、隣り合う表示部材2,2の間に、フロート部材5が介設されている点で、第一の実施形態の冠水表示装置1と異なっている。
【0030】
隣り合う表示部材2,2は、下端部に横架された棒状部材6により連結されている。
本実施形態では、3つの表示部材2,2,2が連結されている場合について説明するが、連結される表示部材2の数は限定されるものではない。
【0031】
フロート部材5は、合成樹脂により構成された筒状の部材であって、隣り合う表示部材2,2の間において棒状部材6に周設されている。
なお、フロート部材5の材質、形状や取付方法は限定されるものではない。
【0032】
この他の第二の実施形態の冠水表示装置1の構成は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0033】
本実施形態の冠水表示装置1によれば、通常時は、表示部材2が側壁3に沿って立設していて、通行の妨げとなることがない(図4の(a)参照)。
一方、洪水や集中豪雨等の際に水が流れ込むことで道路R1が冠水すると、表示部材2およびフロート部材5の浮力により表示部材2の下端部が浮上することで、表示部材の下端部が道路R1の中心側にせり出す(図4の(b)参照)。このとき、低い位置に配置された表示部材2の浮上に伴い、これに連結された他の表示部材2も浮上するため、通行者は、冠水箇所の手前側において、道路の冠水を把握することが可能となる。
【0034】
<第三の実施形態>
第三の実施形態の冠水表示装置1は、図6の(a)に示すように、道路R1の側壁3に沿って配設された表示部材2を備えて構成されている。
【0035】
表示部材2は、図7に示すように、板状部材により形成されている。表示部材2の一方の側端部には、後記する支持手段7に固定するための取付棒(図示せず)が突設されている。
なお、表示部材2を構成する材料は限定されるものではないが、木材や合成樹脂等の水よりも比重の小さい板材により構成する。表示部材2は、フロート部材を固定することや、内部を空洞にすること等により水に浮くように構成してもよい。
【0036】
表示部材2の一方の側端部は、側壁3に固定された支持手段7を介して側壁3に取り付けられている。
【0037】
本実施形態では、図6の(a)および(b)に示すように、側壁3に表面に沿って、上下に二段に分割された支持手段7により表示部材2を取り付けている。
支持手段7は、表示部材2の高さ位置に対応するように、側壁3の表面に固定されている。
【0038】
本実施形態の支持手段7は、図7に示すように、本体部70,70と、回転体71,71と、取付部72,72とを備えている。
【0039】
本体部70は、筒状の部材からなり、側壁3に固定されている。本体部70の上端と下端は開口しており、本体部70の側面には、貫通溝70aが形成されている。
貫通溝70aは、取付部72を貫通可能な幅を有しているとともに、本体部70の周方向に対して1/4程度の長さを有し、本体部70の下側から上側に向って、斜めに形成されている。
【0040】
回転体71は、合成樹脂等により構成された柱状の部材であって、本体部70の内空70bに配置されている。なお、回転体71の材質は、水よりも比重の小さい材料であれば限定されない。
回転体71の側面には、取付部72を固定するため、差込穴71aが形成されている。
【0041】
取付部72は、表示部材2と回転体71との間に横架された棒状の部材である。取付部72は、一端に差込穴71aに差し込むための差込棒72aが形成されているとともに、他端に表示部材2の取付棒を差し込むための差込穴72bが形成されている。
【0042】
取付部72の一端側は、貫通溝70aを貫通した状態で、差込棒72aを回転体71の差込穴71aに差し込むことで、回転体71に固定されている。また、取付部72の他端側は、差込穴72bに表示部材2の取付棒を差し込むことで、表示部材2に固定されている。なお、取付部72と回転体71との間には、ワッシャー73が介設されている。
【0043】
本実施形態の冠水表示装置1によれば、通常時は、図6の(a)に示すように、表示部材2が側壁3の表面に添設されていて、通行の妨げとなることがない。このとき、表示部材2は、支持手段7の上流側(道路R1の路面の標高が高い方)に配置されている。
【0044】
一方、洪水や集中豪雨等の際に水が流れ込むことで道路R1が冠水すると、図6の(b)に示すように、回転体71が水の浮力により浮上することで、取付部72が貫通溝70aに沿って摺動するとともに表示部材2が回転体71の軸心を中心に回動し、表示部材2が道路R1の中心側にせり出す。
そのため、通行者は、道路R1の中心側にせり出した表示部材2により、道路が冠水していることを把握することができる。
【0045】
図示は省略するが、表示部材2の表面(通行者から見て正面)に、反射材や標識等が設置しておけば、通行者は、せり出した表示部材2をより確認しやすくする。
なお、反射材等の設置は必要に応じて設置すればよく、省略してもよい。また、表示部材2の表面(道路R1側面)に反射材等を設置しておくことで、通常時における側壁の位置(道路幅)や、せり出し時の冠水状況等をより確認しやすい構成としてもよい。
【0046】
冠水表示装置1の表示部材2は、通常時は支持手段7の上流側に配置されていて、冠水時は水の流れに沿って回転することで道路R1の中心側にせり出すため、道路R1に流れ込んできた水の勢いにより折りたたまれることがない。
【0047】
この他の本実施形態の冠水表示装置1の作用効果は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0048】
なお、本実施形態では、支持手段7を上下2段に配置する場合について説明したが、支持手段7の数は限定されるものではない。例えば、1本の本体部70に複数の貫通溝70a,70aが形成されていてもよい。
【0049】
表示部材2の取付棒および差込棒72aに対して雄ネジ加工が施すとともに、差込穴71aおよび差込穴72bに雌ネジ加工が施しておき、取付部72を回転体71および表示部材2に螺着する構成としてもよい。
【0050】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0051】
例えば、前記各実施形態では、冠水表示装置1を側壁3に取り付ける場合について説明したが、例えば支持部材を介して路肩等に立設させるなど、冠水表示装置1は必ずしも側壁3に取り付ける必要はない。
【0052】
また、冠水表示装置1を設置する道路は、アンダーパスに限定されるものではなく、冠水するおそれがあるあらゆる道路に採用可能である。
【0053】
前記実施形態では、複数の表示部材2,2,…を道路縦断方向に沿って1段並設する場合について説明したが、表示部材2,2,…は、図8に示すように複数段配置してもよく、その段数は限定されるものではない。
なお、表示部材2,2,…を複数段配置する場合において、段毎に表示部材2の色を変化させたり、段毎に異なる標識等を表示部材2の表面に付したりすることで、道路利用者に冠水の深さを把握しやすくするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 冠水表示装置
2 表示部材
3 側壁
4 支持部材
5 フロート部材
R1 道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路の側部に設置されて、冠水時に受ける浮力によって道路の中心側にせり出す表示部材を具備することを特徴とする、冠水表示装置。
【請求項2】
前記表示部材は、上端部が回動可能に軸支された状態で立設されており、下端部が冠水時に受ける浮力により浮上することで、道路の中心側にせり出すことを特徴とする、請求項1に記載の冠水表示装置。
【請求項3】
前記表示部材にフロート部材が設置されていることを特徴とする、請求項2に記載の冠水表示装置。
【請求項4】
前記表示部材を複数備えており、隣り合う前記表示部材の間にフロート部材が介設されていることを特徴とする、請求項2に記載の冠水表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−100671(P2013−100671A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244616(P2011−244616)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】