説明

冬虫夏草菌セミタケを含む外用剤

【課題】メラニン生成に関連した疾患若しくは状態、又は肌荒れを処置するために有用な外用剤を提供する。
【解決手段】コルディセプス(Cordyceps)属に属する菌類を含む外用剤。コルディセプス属に属する菌類としては、冬虫夏草、サナギタケ、又はセミタケを用いることができる。セミタケは特に好適な例である。コルディセプス属に属する菌類は、子実体の熱水抽出物として用いることが特に好ましい。熱水抽出物は、外用剤に、10ppm〜1000ppm、好ましくは25ppm〜500ppm、より好ましくは50ppm〜250ppmで含有させるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルディセプス(Cordyceps)属に属する菌類の用途に関する。より詳細には、セミタケ(Cordyceps sobolifera(Hill.) Berk. et Br.)を、美白又は肌荒れ改善等を処置するために、外用剤として用いることに関する。本発明の外用剤は、医薬品又は化粧品として有用である。
【背景技術】
【0002】
冬虫夏草属は子のう菌類麦角菌科に属し、昆虫などに寄生してその体内に内生菌核を形成し、有柄で棒状の子座(子実体)を生じる菌類である。古来より薬用として珍重され、種々の機能性が知られている(非特許文献1)。薬効として、解熱や鎮静及び乳児の夜泣き、けいれんやひきつけ、痛風、婦人科病の治癒などが記載されている。性は寒、甘味、無毒とされ、タンパク質、アミノ酸、多糖及び生理活性物質が含有されている(非特許文献2)。代表種は、コウモリガの幼虫に寄生する冬虫夏草(Cordyceps sinensis)である。冬虫夏草は希少種で、未だに人工栽培が難しく、野生種のみが高値で流通しているのが現状である。冬虫夏草属は栽培種として、サナギタケ(Cordyceps militaris (Vuill.) Fr.)が中国や韓国で普及し、健康食品などが調製されている。
【0003】
セミタケ(Cordyceps sobolifera (Hill.) Berk. et Br.)は、ニイニイゼミの幼虫に寄生して子実体を形成する。本草綱目(1578年)に「四川で生え、セミから一角が出て花の冠りのようで、蝉花と謂われる」と記載されている(非特許文献3)。セミタケについては、昆虫に依存しない人工栽培法が明らかにされている(非特許文献4)。
【非特許文献1】卯 暁嵐; 中国経済真菌; pp. 629, 科学技術出版社, 東京 (1998)
【非特許文献2】傅 嵐; 陳 作紅; 虫草属真菌化学成分及薬理作用研究進展; 生命科学研究, 8、1-7 (2004)
【非特許文献3】清水大典; 原色冬虫夏草図鑑; pp. 24, 誠文堂新光社, 東京 (1994)
【非特許文献4】楊 柏松、大賀祥治; セミタケの栽培特性; Food Function, 3, (2008)
【発明の開示】
【0004】
本発明者らは、セミタケの野生及び人工栽培での子実体について、各種の成分分析を行った。また、子実体熱水抽出物に、美白作用及び肌荒れ改善作用があることを見いだし、本発明を完成した。
【0005】
本発明は、以下を提供する:
1)コルディセプス(Cordyceps)属に属する菌類を含む、外用剤;
2)メラニン生成に関連した疾患若しくは状態、又は肌荒れを処置するための、1)に記載の外用剤+
3)コルディセプス属に属する菌類が、冬虫夏草(Cordyceps sinensis)、サナギタケ(Cordyceps militaris (Vuill.) Fr.)、又はセミタケ(Cordyceps sobolifera(Hill.) Berk. et Br.)である、1)又は2)に記載の外用剤;
4)コルディセプス属に属する菌類の子実体の抽出物を含む、1)〜3)のいずれか1に記載の外用剤;
5)コルディセプス属に属する菌類の子実体の熱水抽出物を、10ppm〜1000ppm(好ましくは25ppm〜500ppm、より好ましくは50ppm〜250ppm)で含む、4)に記載の外用剤;
6)コルディセプス属に属する菌類を含む、メラニン生成抑制剤;
7)コルディセプス属に属する菌類、及びコルディセプス属に属する菌類を外用剤として用いる指針を含む、製品;
8)コルディセプス属に属する菌類を投与することを含む、メラニン生成に関連した疾患若しくは状態、又は肌荒れの処置方法。
9)コルディセプス属に属する菌類が、セミタケ KS-80(受領番号 FERM APー21569)である、2)に記載の外用剤。
10)受領番号 FERM APー21569として寄託された、セミタケ。
【0006】
本明細書で「コルディセプス属に属する菌類」というときは、一般に冬虫夏草菌類として知られている昆虫等に寄生する菌類を指す。子嚢(しのう)菌類(門また亜門)バッカク菌目バッカク菌科の一属(冬虫夏草属、又はノムシタケ属ということもある。)に位置づけられる。冬虫夏草菌類は、世界で約400種類が知られている。天然に産出する野生の冬虫夏草(コルディセプス・シネンシス(Cordyceps sinensis))は栽培化が困難で、野生品の採取に限られている一方で、人工栽培に成功して実用化規模で栽培されているもの2〜3種ある。中国や韓国で栽培例が多く、代表的な品種はハナサナギタケである。
【0007】
本発明には、「コルディセプス属に属する菌類」として、冬虫夏草(Cordyceps sinensis)、サナギタケ(Cordyceps militaris (Vuill.) Fr.)、又はセミタケ(Cordyceps sobolifera(Hill.) Berk. et Br.)を用いることができる。本発明には、このうち、セミタケ、特に九州大学農学部宮崎演習林で採取された子実体から単離された株(KS-80;受領番号 FERM APー21569として、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。)を好適に用いることができる。
【0008】
本発明の外用剤に、セミタケを用いる場合、栽培法、形態学上・生理学上の特徴に関しては、当業者は、上述の非特許文献4等を参照することができる。なお、本明細書では、「コルディセプス属に属する菌類」の具体例として、セミタケについて説明することがあるが、その説明は、特別な場合を除き、他のコルディセプス属に属する菌類にもあてはまる。
【0009】
本明細書で「コルディセプス属に属する菌類」というとき、又はその具体例に言及するときは、特別な場合除き、その全部又は一部を指す。本発明には、コルディセプス属の菌類の子実体全部を用いてもよく、傘(菌傘)の部分を用いてもよく、足(菌柄)の部分を用いてもよい。
【0010】
本発明の外用剤に用いるには、子実体が適している。子実体は、乾燥物として用いることもでき、必要に応じ、切断、破砕、粉砕してもよい。
本明細書で「コルディセプス属に属する菌類」というとき、又はその具体例に言及するときは、特別な場合を除き、加工の有無、程度を問わず、それを原料とした抽出物、抽出物残滓、分画物、単離物、濃縮物、加工物、乾燥物を含む。
【0011】
乾燥物には、凍結乾燥物の粉末が含まれる。抽出物には、水又は水系溶媒による抽出物、メタノール、エタノール、ヘキサン、アセトン等の有機溶媒による抽出物が含まれる。溶媒は、必要に応じ、加温して用いることができる。本発明には、熱水抽出物を好適に用いることができる。熱水抽出物には、酵素法で測定して、約15%の多糖類が含有されている。水以外の溶媒(例えばメタノール)による抽出物にも、熱水抽出物とほぼ同程度の効果があることが分かっている。
【0012】
セミタケから抽出物を得るには、例えば、次のようにすることができる:セミタケ子実体を乾燥し、好ましくは凍結乾燥し、粉砕後、2〜100倍量、好ましくは5〜50倍量、より好ましくは5〜25倍量(例えば10倍量)の、水系溶媒(例えば水)を用い、4〜100℃、好ましくは40〜98℃、より好ましくは60〜95℃(例えば80℃)で、5分〜24時間、好ましくは10分〜12時間、より好ましくは30分〜6時間(例えば1時間)抽出することができる。
【0013】
本発明の外用剤は、メラニンの生成に関連した疾患若しくは状態、又は肌荒れを処置するために有用である。メラニンの生成に関連した疾患又は状態とは、メラニンの生成を抑制することにより改善が見込まれる疾患又は状態を指し、これには、日焼け、シミ、そばかす、色素沈着等が含まれる。
【0014】
本発明者らの検討によると、コルディセプス属に属する菌類は、チロシナーゼ活性は阻害せずにメラニンの生成を抑制できることが分かった。メラニン生成にはチロシナーゼが関与するが、チロシナーゼ酵素は,皮膚の表皮と真皮の間の基底層に存在するメラノサイトの中のメラノソームと呼ばれる小器官の中に存在する。そこで、チロシナーゼ阻害剤が美白効果を発現するためには、皮膚に塗布した場合、メラノソームの中のチロシナーゼまで到達する必要がある。しかしながらこれは、ドラッグデリバリーの観点からも非常に困難であると考えられている。したがって,皮膚のチロシナーゼに直接作用するメカニズムではない、別の作用機構に基づいた美白剤が有用であると考えられる。本発明の素材は、チロシナーゼに作用せずに、B16メラノーマ細胞を用いた実験系においてメラニン生成を抑制したので、まさに、それに該当するものである。本発明の素材の作用としては、メカ例えば、B16メラノーマ細胞が放出する、メラニン合成に関わる様々なサイトカイン(例えば、α-MSH)の生成を抑制したり、あるいはサイトカインの受容体をブロックしているのではないかと考えられる。
【0015】
本発明の外用剤は、美白のために特に有用である。美白効果の確認は、当業者に知られた種々の方法により行うことができる。本明細書で「肌荒れ」というときは、特別な場合を除き、皮溝、皮丘が鮮明でなく、整っていない状態を指し、これには、皮溝、皮丘の消失、広範囲の角層のめくれが認められる状態、皮溝、皮丘が不鮮明、角層のめくれが認められる状態、皮溝、皮丘は認められるが平坦な状態が含まれる。肌荒れの改善効果の確認は、当業者に知られた種々の方法により行うことができ、通常、皮膚の表面状態の観察(皮溝、皮丘、角層のめくれの有無)、水分量の測定等により、評価することができる。
【0016】
本明細書において、疾患又は状態を「処置(する)」というときは、特別な場合を除き、対象となる疾患もしくは状態を、予防もしくは治療すること、軽度に抑えること、又は進行を抑えることを意味する。「処置」には、根本的な治療が含まれ、また長期的な予防及び/又は治療とが含まれる。
【0017】
本発明で「外用剤」というときは、特別な場合を除き、皮膚又は粘膜に投与するための剤を指す。使用時に調製して外用剤として用いるための形態のものもまた、本明細書でいう「外用剤」に含まれる。本発明の外用剤は、医薬組成物、化粧用組成物の形態であるものも含む。本発明の外用剤は、液剤、エアゾール剤、エキス剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、硬膏剤、軟膏剤、浸剤、煎剤、チンキ剤、パップ剤、リニメント剤、流エキス剤、ローション剤、クリーム剤、パック剤等の形態とすることができる。
【0018】
本発明の外用剤には、医薬品又は化粧品食品として許容可能な種々の添加物、例えば着色料、保存料、酸化防止剤、香料、防かび剤(防ばい剤)、pH調整剤、乳化剤、懸濁化剤、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊剤、発色剤を含んでもよい。外用剤は、除放型、放出制御型とすることもできる。製剤化は、従来の方法にしたがって行うことができる。
【0019】
本発明の外用剤に含まれる、有効成分であるコルディセプス(Cordyceps)属に属する菌類の量、投与期間、及び投与間隔は、投与の目的、症状、対象者の年齢、体重等に応じて適宜とすることができる。治療の目的では、例えば、臨床上有効量を、数週間〜数ヶ月の間、継続して投与することができる。より具体的には、成人に対して、一日当たり、子実体の熱水抽出物(実施例参照)を含む液剤を、子実体乾燥物として0.001g〜10g、好ましくは0.01g〜5g、より好ましくは0.05g〜1gに相当する量を、単回又は複数回(例えば朝、晩の2回)に分割して投与することができる。このような量の1/10〜1/1(例えば1/2)を一回使用量あたり(例えば、0.5〜30ml)に含むように設計された外用剤は、本発明の好ましい態様の一つである。
【0020】
また、維持及び/又は予防等の目的では、より少ない量での投与が効果的である場合がある。より具体的には、成人に対して、一日当たり、子実体の熱水抽出物(実施例参照)を含む液剤を、子実体乾燥物として0.0001g〜1g、好ましくは0.001g〜0.5g、より好ましくは0.005g〜01gに相当する量を、単回又は複数回に分割して投与することができる。このような量の1/10〜1/(例えば1/2)1を一単位剤形中に含むように設計された製剤もまた、本発明の好ましい態様の一つである。
【0021】
本発明の外用剤は、特に好ましい態様においては、セミタケの熱水抽出物を、10ppm〜1000ppm、好ましくは25ppm〜500ppm、より好ましくは50ppm〜250ppmの濃度で含む。
子実体の乾燥物に相当する量は、当業者であれば、本明細書の実施例等を参考にして、抽出物、抽出物残滓、分画物、単離物、濃縮物若しくは加工物、又は子実体の一部(例えば、菌糸)、その乾燥物、抽出物、抽出物残滓、分画物、単離物、濃縮物若しくは加工物等について、それぞれ求めることができる。
【0022】
本発明の外用剤は、メラニンの生成抑制、又は肌荒れ改善のための他の療法(紫外線からの防御、食事療法)、他の有効成分(ビタミンC、コウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス等)と併用して用いることができる。
【0023】
本発明の組成物には、その具体的な用途(例えば、メラニン生成抑制のため、美白のため、色素沈着予防のため、肌荒れ改善のため、肌を健やかに保つため等。)、及び/又はその具体的な用い方(例えば、量、回数、継続的に使用すべき旨、期間、等。)を表示することができる。
【0024】
本発明はまた、コルディセプス(Cordyceps)属に属する菌類と、コルディセプス(Cordyceps)属に属する菌類を外用することにより、メラニン生成に関連した疾患若しくは状態、又は肌荒れの処置のために用いるための指針(例えば、具体的な用途、及び/又はその具体的な用い方に関する情報、そのような情報を記載した書面)を含む、製品も提供する。
【実施例】
【0025】
[実験方法]
1. 培地調製及び子実体形成
1.1. 供試菌
セミタケ(Cordyceps sobolifera (Hill.) Berk. et Br.)の菌株は、九州大学農学部宮崎演習林で採取された子実体から単離された(九州大学保有菌株 KS-80)(図1)。種菌調製として、菌糸がポテトデキストロース寒天(PDA)培地上で、25℃、暗黒下の条件で14日間平面培養された。
【0026】
1.2. 培地調製
培養基質として、玄米40g、卵黄20g、ペプトン2gと栄養液70ml(コーンスティープリカー:CSL 0.2%、MgSO4、0.05%、KH2PO4 0.2%)を混合し、三角フラスコ(300ml)に充填した。シリコ栓を施し、玄米に栄養液を吸収させるため冷蔵庫(5℃)に一晩放置した後、120℃、1.2kg/cm2で30分間蒸気滅菌した。
【0027】
1.3. 接種
放冷された培地に、あらかじめPDA培地で培養しておいた種菌を直径5mmのコルクボーラーでディスクを抜き取り、3個を培地表面の中央部に接種した(後掲の文献5〜8参照)。
【0028】
1.4. 菌糸蔓延及び子実体発生
菌床は25℃、暗黒下で菌糸蔓延を行い、完熟後に17℃で一週間低温処理した。続いて、20℃、RH 90%の発生室においで蛍光灯を照射し(8時間/日)、図1に示すような子実体を得た(文献9〜13参照)。
【0029】
2. 試料調製
セミタケ子実体を凍結乾燥し、ワーリングブレンダーで粉砕後、16メッシュパスの粉末を調製した。そして、10倍量の熱水で抽出処理(80℃、1時間)を行った。また対照として、シイタケ子実体(Lentinula edodes (Berk.) Sing.)の熱水抽出物を取り上げた。
【0030】
3. 成分分析
子実体粉末試料について、タンパク質、ビタミン類、糖類、無機成分、アミノ酸などを測定した。分析方法は、食品分析法(文献14)に準じ、表1に示す方法で行った。
【0031】
4. 薬理効果
4.1. 美白作用
4.1.1. メラニン生成抑制
B16メラノーマ細胞を1.0×105cells/mlに調節し、24wellプレートに1mlずつ播種した。細胞を播種し、24時間、CO2インキュベーターで放置後、990μlのEMEM培地で培地交換し、2μlの試料DMSO溶液(抽出液を2%ジメチルスルフォキシド(DMSO)溶液2μlに添加したもの)を添加した。48時間後、同様の培地交換を行った。さらに24時間後、培地を除去し、1NのNaOH溶液1mlを添加し、細胞を溶解した。可溶化したメラニンの405nmの吸光度をプレートリーダーで測定することにより、メラニン生成を評価した。ポジティブコントロールとして、市販の美白化粧品に配合されているアルブチン及びコウジ酸を用いた。
【0032】
4.1.2. 細胞毒性
細胞を播種し、24時間、CO2インキュベーターで放置後、990μlのEMEM培地で培地交換し、10μlのコウジ酸DMSO溶液を添加した。[3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide](MTT)溶液(酸性イソプロパノール)を各wellにつき、50μlずつ添加して、CO2インキュベーター内で4時間培養した。培地を除去し、MTT溶解液を1mlずつ加え、遮光し一晩放置した。ウルトラソニックで超音波処理し、生成物を完全に溶解後、マイクロプレートリーダーで630nmを対照波長とし、570nmの吸光度を測定して細胞数の指標とした。
【0033】
4.2. 肌荒れ改善
女性健常人顔面の皮膚表面形態について、レプリカ法を用いて肌のレプリカを採り、光学顕微鏡(20倍)にて観察した。皮紋の状態及び角層の剥離状態から肌荒れの状態を評価し、皮溝、皮丘の消失、広範囲の角層のめくれが認められるもの(評点1)、及び、皮溝、皮丘が不鮮明(評点2)と判断されたパネル(肌荒れパネル)各10名を選抜した。
【0034】
顔面の決められた位置に、上記抽出物をそれぞれ10倍量のイオン交換水で希釈した水溶液を10mm×10mmのガーゼに染み込ませて、1日2回、2週間塗布した。対照群としてイオン交換水(Cont)を同様に塗布した。2週間後、再び上述のレプリカ法に従って肌の状態を観察し、改善率を評価した。
【0035】
評点については、皮溝、皮丘の消失、広範囲の角層のめくれが認められるものに1点、皮溝、皮丘が不鮮明、角層のめくれが認められるものに2点、皮溝、皮丘は認められるが平坦なものに3点、皮溝、皮丘が鮮明なものに4点、皮溝、皮丘が鮮明で整っているものに5点を与え改善率を算出した。
【0036】
5. 統計解析
得られた成績は、平均値±標準偏差(mean±S.D.)で表示し、群間比較をWilcoxon U-testで解析して危険率5%以下を有意差ありと判定した(p<0.05)。
【0037】
[結果及び考察]
1. 含有成分
セミタケには、下表に示すとおり、タンパク質と無機物が豊富に含有されていることが明らかになった。
【0038】
【表1】

【0039】
さらに、サナギタケと同じ18種類アミノ酸が含まれており、セミタケの方が高含有量であることが明らかになった(文献15)。人工栽培された子実体の方が野生よりも各成分の含有量が多く、β-グルカンが約13%で、多種に比べ多いことが分かった。β-グルカンは免疫調節機能、抗腫瘍作用、降血糖作用があることが報告されている。さらに、セミタケの抽出液で中枢神経制御、呼吸制御、腎臓機能、肝臓機能の調節作用、抗酸化作用、消炎作用が知られている(前掲非特許文献3、文献16〜19)。従って、健康食品と医療薬品として重要な価値が期待できると考えられる。
【0040】
2. 美白効果
肌の日焼け、シミの原因となるメラニン色素沈着は、紫外線照射により肌の基底層に存在するメラノサイトからメラニン色素が放出され沈着することで生じる。100ppmでは、アルブチンやコウジ酸よりもメラニン抑制作用が高いことが分かった(図2)。
【0041】
次に、メラニン生合成の律速段階の酵素であるチロシナーゼの活性を試験した。現在市販されている美白剤の多くは、チロシナーゼ活性を阻害することによりメラニンの生成を抑制している。セミタケ熱水抽出液では、チロシナーゼ活性の阻害は認められなかった。
【0042】
一方、B16メラノーマ細胞の形態変化を位相差顕微鏡により観察したところ、セミタケ熱水抽出物を添加したものは、細胞の樹状突起の伸長阻害が観察された(図3)。
3. 肌荒れ改善
レプリカ法による実使用試験をおこなった。結果を図4に示すが、セミタケ子実体抽出物は改善率89%となり、対照のイオン交換水塗布及びシイタケ抽出物塗布に対して有意に高い改善率を示した.
肌荒れと診断され対照群としてイオン交換水のみを塗布されたパネル(Cont)は、39%の改善率であった。これは保湿にともなう自然治癒によるものと推察される。シイタケ子実体でも41%と対照よりやや改善率が高かった。
【0043】
実施例で参照した文献:
5) 楊 柏松、成 漢功、大賀祥治; ツクツクボウシタケの生態と栽培特性; 日本きのこ学会誌, 14, 191-196 (2006)
6) 苑 貴華、呉 国山, サナギタケ生物学特性初探: 食用菌, 10, 10-11(1988)
7) 松本 繁: セミタケ菌の培養: 新昆虫, 12, 19-21 (1959)
8) 原田幸夫、秋山直司、城田安幸、ヨトウガ蛹を用いたサナギタケ(Cordyceps militaris) 子実体の人工培養: 日菌報, 36, 67-72 (1995)
9) 矢萩信夫、矢萩禮美子、高野文英: サナギタケ(Cordyceps militaris (L.: Fr.))とマルミノアリタケ(Cordyceps formicarum Kobayasi)の寒天培養における子嚢殻性子座形成について: 日菌報, 45, 15-19 (2004)
10) 李 晃、虫草人工栽培技術: pp. 31-62, 金盾出版社, 北京 (2001)
11) 陳 順志、呉 佩傑、蛹草瓶栽技術紹介: 食用菌, 12, 31-32 (1990)
12)聞 有権、蛹草高産栽培技術要点: 食用菌: 25, 37-38 (2003)
13) 苑 貴華、呉 国山: 蛹虫草生物学特性初探: 食用菌, 10, 8-10 (1988)
14) 堤 忠一: 一般成分及び関連物質, 「新食品分析法」(日本食品工業学会編集委員会編): pp. 1-118, 光琳, 東京 (1997)
15) 張 顕科、劉 文霞: 蛹虫草化学成分測定. 菌物系統: 16, 78-80 (1997)
16) 肖 建輝、梁 宗埼、劉 愛英: 虫草無性型及其相関真菌多糖的研究開発現状: 薬学報、37, 589-592 (2002)
17) 車 振明: 虫草多糖生物活性研究進展及其応用前景: 食用菌、26, 3-5 (2004)
18) 羅 玉秀: 冬虫夏草薬理作用研究現状: 中国食用菌: 22, 39-42 (2003)
19) 原 彰、冬虫夏草を正しく学ぼう: pp. 120, 碧天舎, 東京 (2004)
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、セミタケ(Cordyceps sobolifera (Hill.) Berk. et Br.)の子実体の写真である。上は野生、下は人工栽培のもの。スケールバーは3cmである。
【図2】図2は、セミタケ子実体熱水抽出物の、メラノーマ細胞に対する効果及び細胞毒性試験の結果を示したグラフである。W: 野生子実体、C: 人工栽培子実体、Cont: イオン交換水添加。各々の値はn=5の平均値±S.D.で表されている。
【図3】図3は、C. soboliferaの子実体の熱水抽出物を添加した際のメラノーマ細胞の形態の位相差顕微鏡写真である。左: 対照、右:処置
【図4】図4は、レプリカ法による、肌荒れの改善率を表したグラフである。W: 野生子実体、C: 人工栽培子実体、Le: シイタケ(Lentinula edodes (Berk.) Sing.)子実体、Cont: イオン交換水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コルディセプス(Cordyceps)属に属する菌類を含む、外用剤。
【請求項2】
メラニン生成に関連した疾患若しくは状態、又は肌荒れを処置するための、請求項1に記載の外用剤。
【請求項3】
コルディセプス属に属する菌類が、冬虫夏草(Cordyceps sinensis)、サナギタケ(Cordyceps militaris (Vuill.) Fr.)、又はセミタケ(Cordyceps sobolifera(Hill.) Berk. et Br.)である、請求項1又は2に記載の外用剤。
【請求項4】
コルディセプス属に属する菌類の子実体の抽出物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の外用剤。
【請求項5】
コルディセプス属に属する菌類の子実体の熱水抽出物を、10ppm〜1000ppm(好ましくは25ppm〜500ppm、より好ましくは50ppm〜250ppm)で含む、請求項4に記載の外用剤。
【請求項6】
コルディセプス属に属する菌類を含む、メラニン生成抑制剤。
【請求項7】
コルディセプス属に属する菌類、及びコルディセプス属に属する菌類を外用剤として用いる指針を含む、製品。
【請求項8】
コルディセプス属に属する菌類を投与することを含む、メラニン生成に関連した疾患若しくは状態、又は肌荒れの処置方法。
【請求項9】
コルディセプス属に属する菌類が、セミタケ KS-80(受領番号 FERM APー21569)である、請求項2に記載の外用剤。
【請求項10】
受領番号 FERM APー21569として寄託された、セミタケ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−286746(P2009−286746A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142519(P2008−142519)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(599145384)株式会社 阿蘇ファームランド (1)
【Fターム(参考)】